文化・芸術

2009/10/10

北京から

昨日到着して、国家大劇院でシュツットガルト・バレエ「じゃじゃ馬ならし」見てきました。

北京は警戒が半端じゃなくて、ちょうど鳩山首相も来ているらしくて地下鉄に乗るのもX線カメラを通さないといけないし、会場も厳重なX線などによるチェックがあり、カメラも持ち込めません。非常に豪華でしかも見やすい劇場なのですが、劇場の中に入るのがとにかく大変でした。

公演そのものは、フィリップ・バランキエヴィッチのペトルーチオが超はまり役で、かっこよくて素晴らしかったです。スージン・カンもイメージとはまったく違うじゃじゃ馬娘を好演していて最高。マリイン・ラドメイカーもやっと復活して麗しかったです。とても楽しい公演でした。ちゃんとジェームズ・タグル氏を指揮につれてきていたんですね。

しかし英語はまったく通じないしタクシーは捕まらないし、個人で旅行するのにはそうとうきつい国です。正直、よほどのことがなければもう中国はいいや、と思いました。

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2009/10/04

「ウィーンミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展」 日本橋高島屋

観に行ったのは一週間前だったのだけど、ここしばらくの多忙から来る体調不良で、すっかり感想を書くのが遅くなってしまった。良い展覧会だったし、10月12日(月・祝)まで開催中なので。

http://info.yomiuri.co.jp/event/01001/200907099510-1.htm

第1章 装飾美術と風景画
第2章 グスタフ・クリムト
第3章 エゴン・シーレ
第4章 分離派とウィーン工房
第5章自然主義と表現主義

観に行ったのは一週間前だったのだけど、ここしばらくの多忙から来る体調不良で、すっかり感想を書くのが遅くなってしまった。良い展覧会だったし、10月12日(月・祝)まで開催中なので。

「クリムトとシーレ」という副題がついているけど、実際にはこの二人の作品は少なめ。クリムトに関しては、素描以外は6点で、カタログを見ると大阪と福岡のみ展示の作品に良いものがあったりしたのは残念だけ。だけど、彼の代表作の一つである「パラス・アテナ」があるのが素晴らしい。兜をかぶり黄金色の鱗のような甲冑を着た戦いの女神アテナが、色の薄い瞳でこちらをきりっと見据え、右手には腕を広げた裸の女性が配置されている。アテナの強い視線が鮮やかだ。また、初期の「寓話」や、左右に金色の帯を配置して中央には抱擁に陶酔する恋人たち、それを見下ろすさまざまな年齢の人々の不吉な影がいかにもクリムト的な「愛」。また、中央に平面的な聖母子像を丸い枠の中に配置し、両脇には筋肉隆々、彫刻のような美青年二人を置いて立体感を出した「牧歌」も印象的。早世したグスタフ・クリムトの弟エルンスト・クリムトの作品も2点あって、きらびやかな装飾性がグスタフに非常に良く似ている。

エゴン・シーレの作品も、数は多くないものの傑作が揃っていた。多くの自画像を残したシーレだけど、中でも「自画像」(1911)。この作品は、顔を左側に向けていて、その右側には死神のようなもう一つの自画像が寄り添っている。「アルトゥール・レスラー」は、彼の初期の重要な後援者の一人で、こちらは右側に顔を向けていて、スタイリッシュな中にモデルへの敬意が感じられる。シーレの当時16才の妹ゲルトルーデをモデルにした「意地悪女」は、少女が本当に意地の悪い表情をしたときの一瞬の動きを鮮やかに捉えたもので、面白い作品だ。「裸の少女<ゲルトルーデ>」もタイトルの通り、妹をモデルにしたもので、未成年の妹の裸体画を描くとはシーレもやるものだ。シーレの作品ではないが、シーレを描いたアントン・ペシュカの「エゴン・シーレの肖像」は、背景やスーツの柄などの渦巻く感じが不安感をかもし出していて、かなり強烈。

他の画家による作品も面白いものが多くて、フーゴー・シャルルモントの「ハンス・マカルトのアトリエの静物」は、エキゾチックで若干成金趣味の師匠のアトリエをブルーなどを効果的に使っていて印象的。シャルル・ヴィルダの「ランナーとシュトラウス」は舞踏会の躍動感と上流社会のスノッブさ、一段と高い位置で演奏する奏者たちをうまく配置している。ヴァイオリンを弾くヨーゼフ・ランナーの横にいるのは、ヨハン・シュトラウス(父)

メラ・ケーラーやマリア・リカルツの「ウィーン工房のハガキ」シリーズは、当時のモードをお洒落にキュートに伝えていて、モダンな印象。そして同じく「ウィーン工房のハガキ」を描いていたのがかのオットー・ココシュカ。不吉で不穏な印象の作風で知られる彼が、こんなリリカルな作品も残していたとは。そしてシーレの流れを感じさせるオッペンハイマーの作品がそれぞれ強烈。自らの展覧会のポスターに、自傷行為を思わせる血に染まった裸体像を描いてしまうのだから。親友であったエゴン・シーレの、自分の絵が二束三文でしか売れなかったときの失望と鬱屈を感じさせる表情を切り取った「エゴン・シーレ」は、胸に痛い。

風景画や人物画にも美しい作品、強い印象を残す作品などいろいろあって、クリムトやシーレのみならず、19世紀末のウィーン美術はとても充実していたことが伺える。作曲家のシューンベルクが、画家としても評価が高かったと知らなかったし、彼と親しく付き合っていた若い画家リヒアルト・ゲルストルが、シューンベルクの妻に失恋したために25歳で自らの命を絶ったというエピソードが衝撃的。そのゲルストルが描いた「母と娘」は大きく目を見開いた母娘の姿がちょっと異様で怖い。

美しさ(もしくは醜さ)の中に人間の魂を時には赤裸々に描き、また時にはひそやかに匂わせた19世紀末の雰囲気に浸ることができた。

東京での展示終了後、大阪と福岡での開催が予定されている。
【大阪会場】 10月24日(土)~12月23日(水・祝) サントリーミュージアム[天保山]
【福岡会場】2010年1月2日(土)~2月28日(日) 北九州市立美術館

東京では展示されなかった作品も大阪や福岡では展示されるようなので、ちょっと羨ましい。

でも、観終わった後は同じフロアで開催されていた北海道物産展で、ソフトクリームを食べたり椎茸や蕎麦などを買い込んで現実の欲望に打ち負かされたのだった(笑)

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2009/09/14

『鴻池朋子展~インタートラベラー 神話と遊ぶ人』

友達数人が観に行ってすごく面白かったと言い、ちょうど新国立劇場で「兵士の物語」を観に行ったので、ついでに立ち寄ってみた。

東京オペラシティ アートギャラリー 『鴻池朋子展~インタートラベラー 神話と遊ぶ人』
KONOIKE Tomoko: Inter-Traveller
http://www.operacity.jp/ag/exh108

切符を買うところで、動物の毛にアレルギーがないかどうか確認されたのでちょっとだけびびる。こんな彫刻がお出迎え(これだけ撮影OKで、一緒に並んで記念撮影もできる)

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「地球の中心への旅」をコンセプトとし、人間の心を地球というひとつの惑星にたとえてその中へと探検していくという展覧会。入り口には、旅へようこそとばかりに、目がついた山の絵が描いてある大きく開いた襖《隠れマウンテン ─ 襖絵》が、門のようにお出迎え。

とぐろを巻くように展示してあるのは絵本『みみお』の原画。この「みみお」は、鉛筆で描かれた白いふわふわとした生き物で、顔がない。そのみみおが、誕生して消えていくまでを描いた、寂寥感あふれる絵には惹きつけられた。頭から耳のように両腕が垂れ下がっている1・5頭身のみみお、顔がないのにすごく可愛い。『mimio-Last day of the winter』『mimio odyssey』の2つの手描きアニメ作品が上演されていて、後者は本を模したスクリーンに投影されている。両方とも哀しく怖く美しい作品なのだけど、特に前者『mimio-Last day of the winter』は、オペラのアリア「ベルリーニ/歌劇「夢遊病の女」第1幕アリアより]音楽に合わせて、みみおがくるくる回転したり、森の中を駆けていったり、目のない顔から涙を一粒流したり。鉛筆による線の濃淡が、独特の視覚的な効果を与えていて、それが柔らかかったり、疾走感を伝えていたり、繊細さを加えていたり。雪のふんわりとした感じ、澄み渡る空気。この『mimio-Last day of the winter』を見るためだけにも、もう一回来たいと思ったほど。(ミュージアム・ショップでみみおのぬいぐるみが売っていたんだけど、さすがに12600円は高くて買えず、ポストカードとピンバッチで我慢)

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部屋から部屋を移動するのに、低い入り口を潜り抜けて行ったり、巨大な作品に圧倒されたり、天井から吊るされた狼の毛皮にぎょっとしたりと、五感を刺激する展示で、「体験型アート」と言えるもの。本の上に立体的に鉛筆画で地球に起きてきた物事が浮かび上がってくる《焚書 World of Wonder》なども、ボディブローのようなインパクトがある。人生とは何だろう、私たちはどこから現れ、どこへ消えていくのだろう、心の中に浮かび上がるさまざまな考えや感情ってなんだろう、それらの疑問に対する一つの答えを視覚化したのが、彼女の作品なのだ。

鴻池朋子の作品に繰り返し登場するモチーフ-スニーカーと靴下を履いた子供の脚、犬や狼、子供の顔、内臓、くるくると回転する手裏剣のようなナイフ、立体的な本がとても印象的で、深層意識にじわじわと働きかけてくる。中でもまず強烈なのが、幅が6mを超える巨大な絵画4点からなる「物語シリーズ」の全4章。部屋の四つの壁に一枚ずつ展示してあって、真ん中には百合の生花が活けてある。上手く言葉では表現できないけど、すごい迫力で圧倒される。理解できないんだけど、不思議な快感と興奮がある。ところどころ脚が人間の脚になっている狼と髑髏の襖絵「シラ ― 野の者谷の者」の16面の襖が作り上げる空間も、不気味ながらクラクラとさせられて快感がある。

圧巻なのが、地球の中心に配置された《Earth Baby》「赤ん坊」というインスタレーションで、ガラスのモザイクで飾られ、光が乱反射する赤ん坊の巨大な頭部が回転するというもの。夢に出てきそうなキモ怖さがあって、おもわずよろけてしまいそうになった。しかも、その後の「後の部屋」で暗闇の中に狼の毛皮がぶら下がっているのだから、ほとんど見世物小屋のようなものだ。

アートって、本で見るより、実際に体験するほうが何十倍も鮮烈なものなのだなあ、と今更ながらしみじみと感じた。

※追記
「mimio last day of winter冬の最後の日」はクリエイティブコモンズで公開されているので、ダウンロードして観ることができます!
http://commonsphere.jp/feature/content/kounoike/mimio.php

「みみお」の本が買えることがわかり、早速ポチッとしてしまった。届くのが楽しみ!

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2009/08/12

ニューヨーク、MOMAのStage Pictures展

バレエフェスが始まってしまって、すっかり7月のABT公演の感想がお留守になってしまっていてすみません。バレエフェスも、私は後はガラと「眠れる森の美女」で終わりで、そのあとは小林紀子バレエシアターの「The Invitation」を観に行く位なので、落ち着いたら書きたいと思います。(忘れていなければ)

7月のNY滞在は4泊で、その間「ロミオとジュリエット」を5公演観たし、友達もたくさん来ていたので、劇場にこもる以外の時間はあまりありませんでした。とりあえず、NY市立図書館のパフォーミングアーツ・ライブラリーでのバレエ・リュス展には2回行きましたが、その他にメトロポリタン美術館とMOMA(ニューヨーク現代美術館)にも行って来ました。

たまたまMOMAでは、「Stage Pictures: Drawing for Performance」という舞台美術の展覧会をやっていて、これがまた偶然にもバレエ・リュス関係の美術や、NYCBの設立者であるリンカーン・キルスティンゆかりの作品などを展示してありました。大きな展覧会ではなかったのですが、とても面白かったです。(9月7日まで開催中なので、NYに行かれる方はぜひ)

http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/864

この展覧会の目玉は、マルク・シャガールが、レオニード・マシーン振付のバレエ「Aleko」(1942年)の舞台デザインを手がけた一連の作品群。プーシキンの「The Gypsies」という詩を原作に、音楽はチャイコフスキーを使った作品とのことです。シャガールは故国ロシアの文豪プーシキンの作品を愛していたとのことです。舞台の背景画も、シャガール自身が描いたそうです。

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いかにもシャガール的な、シュールで幻想的なタッチが素敵ですよね。

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この動画で、MOMAのキュレーターが展覧会のコンセプトと主要な作品を紹介しています。
http://www.thirteen.org/sundayarts/moma-stage-pictures/310







それから、とても印象的なのがこの作品
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何かと思ったら、バランシンの「セレナーデ」の舞台美術なんですね。「セレナーデ」の深く青い闇の中に浮かぶ白いロマンティック・チュチュの美しさが目に浮かびます。


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バレエ・リュス関連で言えば、まずはレオン・バクスト。これは1909年のディアギレフのバレエ・リュスの旗揚げ公演で踊られたパ・ド・ドゥの衣装デザイン



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ナタリア・ゴンチャロワの「金鶏」の舞台背景デザイン(1937年、振付:ミハイル・フォーキン、音楽:リムスキー・コルサコフ)



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Florine Stettheimerの「オルフェ」衣装デザイン



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ニジンスカ振付「結婚」の衣装デザイン(ナタリア・ゴンチャロワ原案、改訂Sergei Soudokeine)




ほかにも、ディエゴ・リベラ、パブロ・ピカソ、フェルディナンド・レジェなど有名なアーティストによるデザインがたくさん観られて、本当に面白かったです。衣装デザインや舞台美術、コンセプトデザインでも、舞台の躍動感やライブ感、息遣いが伝わってくるのが優れたデザインというものなんだな、って思いました。


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MOMAは、他にジェームズ・アンソールの特別展をやっていて、偶然今年の3月にケルンのWallraf-Richartz美術館で観た彼の作品「Child with Doll」に再びここで会うことになったのがすごい縁だと思いました。人形を抱えた小さな女の子の絵なのに、ものすごく不穏で不吉な感じなのがたまらなくて、好きなのです。


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偶然といえば、メトロポリタン美術館でフランシス・ベーコンの回顧展をやっていたのです。これは去年の9月にロンドンのテート・ギャラリーで開催され私も観に行ったのが、METに巡回してきたものなんですよね。大好きなベーコンの作品にニューヨークでまた会えるとは思いませんでした。

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2009/07/10

Diaghilev's Theater of Marvels NYPLパフォーミングアーツ館のバレエ・リュス展

リンカーンセンターには、NYPL(ニューヨーク市立図書館)のパフォーミングアーツ部門分館があり、過去の舞台やバレエの映像のアーカーヴがあることで知られている。市販されていない映像もたくさんあるそうなのだけど、今まで一度も行ったことがなかった。

http://www.nypl.org/research/lpa/

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今回、Diaghilev's Theater of Marvels: The Ballets Russes and Its Aftermathと題して、ディアギレフのバレエ・リュス関連の展覧会が開催されている。9月12日までで、入場料はなんと無料。
http://www.nypl.org/research/calendar/exhib/lpa/lpaexhibdesc.cfm?id=509

展示室一室だけの小規模な展覧会ではあるが、大変なお宝ぞろいで、びっくりした。

一番のお宝は、ニジンスキー直筆の手記だろう。大変分厚いもので、びっしりと字が書き込まれていた。ガラスケースに入っているので、見開きのところしか見られないとはいえ、これはすごい。それから、ストラヴィンスキー肉筆の、「結婚」「火の鳥」「ぺトルーシュカ」「アポロ」などの楽譜。ディアギレフのメモ帳やスケジュール帖。ニジンスキーといえば、1点だけ、彼の描いた絵画もあった。

まず会場に入って圧倒されるのは、奇妙奇天烈な、ピカソがデザインした「パラード」の衣装。衣装というよりは、ロボットみたいなもの。ピカソがデザインしたものといえば、「三角帽子」の衣装もあった。衣装については、ほかにマリー・ローランサンがデザインした「牝鹿」の青いベルベットの衣装、「薔薇の精」の薔薇の精と少女の衣装、「春の祭典」の衣装(ジョフリー・バレエ提供)、ブノワがデザインした「ペトルーシュカ」の乳母の衣装などがあった。それから、アンナ・パブロワのポアント。足が小さかったというのがわかる。

当時のプログラムについては本当にたさんあって、1909年のシャトレ座の「Saison Russe」のプログラムが。これが「バレエ・リュス」の始まりだったわけである。1930年に「春の祭典」が初めて米国で上演されたときのものがあった。選ばれし乙女を踊ったのは、マーサ・グラハムだった。

1911年にジャン・コクトーが描いた、ニジンスキーの「薔薇の精」のポスターがあったのだけど、これは本当に素晴らしい。また、「アルミードの館」(1909年)のニジンスキーとパブロワの、薄く彩色したポスターも素敵。ジョルジュ・バルビエによる、有名な「シェヘラザード」の絵もあった(ニジンスキーとイダ・ルビンシュタイン)1913年の「遊び」のニジンスキーとタマラ・カルサヴィナの写真。ロバート・モンテネグロによるニジンスキーの「レ・シルフィード」(1913年)

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ナタリア・ゴンチャロワがデザインした「火の鳥」の衣装デザインなど、ゴンチャロワの舞台美術も多数あった。キリコがデザインした「ラ・ペリ」、バクストがデザインした「眠れる森の美女」のデザイン画も。(この「眠れる森の美女」の制作費がかかりすぎて、バレエ・リュスは経済的に破綻して、それが最後の作品になってしまったとのこと)

会場では、ジョフリー・バレエにルドルフ・ヌレエフが客演した「牧神の午後」「ペトルーシュカ」などの映像が流れており、映像を見ながらヘッドフォンをつかって、それぞれの作品の音を聞くこともできる。この映像は以前ビデオ化されていたのだけど、廃盤となってしまって高値で取引されているのだ。

Tribute to Nijinsky: Petrouchka / Le Spectre de la Rose / L' Apres-midi d'un Faune [VHS]Tribute to Nijinsky: Petrouchka / Le Spectre de la Rose / L' Apres-midi d'un Faune [VHS]
Rudolf Nureyev, The Joffrey Ballet

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こんなに素晴らしいものが無料で見られるから、もう一回くらい行こうかな、って思ってしまった。バレエファン垂涎の貴重なものばかり!


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2009/05/28

カルティエ・クリエイション~めぐり逢う美の記憶 「Story of …」展 Cartier Creation

日曜日にデンマーク・ロイヤル・バレエの「ロミオとジュリエット」を観た帰りに、東京国立博物館 表慶館にカルティエ・コレクション「Story of …」展を観に行きました。前の週は同じ東京国立博物館の「阿修羅展」に行ってきたのですが(もちろん、こちらも素晴らしかった!)、阿修羅展は日曜の夕方6時というのにかなり並んでいました。「Story of …」展の方は、幸い空いていて、ゆっくり観ることができました。一緒にバレエを観に行った友達と観て、すごく盛り上がって楽しかったです。

http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=A01&processId=02&event_id=6299
http://www.storyof.jp.msn.com/

この展覧会を観に行った人から、これは凄いって聞いていたのですが、実際に行ってみると想像を超えた素晴らしさと面白さでした。カルティエというのは、単なるハイ・ジュエリーや時計のブランドではなく、時代を切り拓くような斬新なデザイン力、モダンな創造力を持っていたということを実感。276点も展示されています。たっぷり2時間かかりました。

「ミステリークロック」というクリスタルでできた置時計は、一体どこに時計の仕掛けがあるのか、まったくわからない不思議さがあって、まさに謎めいているとはこのこと。ライトアップも幻想的で、時計の持つ永遠の時間の流れを感じさせてくれます。

この展覧会が「Story of ...」というタイトルになっているのは、ここで展示されているジュエリーの一つ一つに物語が隠されているということを意味しています。それらの物語が、デジタルサイネージを使って、一つ一つ詳細にスクリーンに映し出されて解説されています。それは、19世紀から20世紀にかけての西欧の歴史を代弁するものでもあります。カルティエは、プラチナのジュエリーが特徴的なのですが、戦争になるとプラチナが使えなくなって、ゴールドがデザインの中心になったこともありました。また、バレエ・リュスも登場し、バクストが「シェヘラザード」のデザインで使った青と緑を使ったネックレスもありました。

ジャン・コクトーがアカデミー会員となった際に贈られたというサーベルは、持ち手にオルフェウスの横顔が使われていたり、竪琴のモチーフがあったり、とてもユニークでアーティスティック、コクトーらしい逸品。英首相ウィンストン・チャーチルが息子に贈ったシガレットケースには、名前と住所が彫ってあって、紛失した時に届けられるようになっていました。切手が貼ってあって宛名を彫ったシガレットケースや、名刺代わりに使った金のカードなど、面白いアイテムもあります。月面着陸船モデルの精巧なレプリカや、カンヌ映画祭を記念したパルムまで金で作られているし。さらに、ビリケン像!をあしらったお茶目なミステリークロックまであるのです。ヴァニティケースなんか、一見、イマドキの携帯電話みたい、と思ってしまうような形のものもありました。

インドのマハラジャのためにカルティエの三男ジャックが用意したネックレスの、圧倒的なボリュームとまばゆい輝きは、これぞ富と権力の象徴で、後ずさりしてしまうほど。マハラジャたちは、おびただしい宝石で自分たちの身を飾り立てたわけですが、インド的なデザインは、カルティエに大きな影響を与えていたそうです。

コレクションの中でも、やはり人一倍目を惹くのは、ティアラ。英国王室御用達だったカルティエは、王族たちのためにたくさんのティアラを作りました。カルティエの特徴は、大きなダイヤモンドでも立て爪が小さくて目立たないため、宝石本来の形を楽しむことができること。植物のような有機的なモチーフを使った曲線美にはうっとりとさせられます。モナコ王室から貸し出された、王妃グレース・ケリーの愛用の品から、ロシア貴族たちのティアラ、そして王位を賭けた恋ということでシンプソン夫人にエドワード8世が贈ったたくさんのジュエリーも、逸品ぞろい。ネックレスやストマッカーも、シトリンやペリドット、アメジストといった色石を多用していた鮮やかなものもあって、目の保養になること。今まで観たことがないような、100カラット以上もあるサファイヤやルビー、エメラルドの石もあり、お値段を想像しただけで倒れそうになります。特にスターサファイヤの水色のちょっとスモーキーな輝きが、夢見心地にさせてくれました。女優グロリア・スワンソンが愛用し、アカデミー賞の授賞式につけていったブレスレットもありました。残念ながら、それをつけていった時、受賞を逃してしまったそうですが。

モチーフで特に面白いのは、トゥッティ・フルッティという果物のモチーフと、花と動物。エメラルド、ルビー、サファイアをふんだんに使ったトゥッティ・フルッティは本当にジューシーな感じでおいしそう!動物の中でも、特にパンテールというパンサーのモチーフは、カッコいい現代的な女性に似合い、女優でこれを愛用した人もたくさんいたとか。でも、パンテールの中には、猫のように可愛いのとか、ふにゃっと垂れ下がっているものもあったりして面白いです。

マリア・フェリックスというメキシコのセクシーな女優が、爬虫類モチーフが大好きで、ものすごく強烈なインパクトの、蛇やクロコダイルのゴージャスなネックレスをオーダーして愛用したそうです。うろこの一つ一つをエメラルドの石で表現していたりして。あんなに重そうでインパクトの大きいジュエリーをつけられるのは、世界広しといえども彼女しかいなかったことでしょう。イエローダイヤモンド1,023個(計60.02カラット )、エメラルド1,060個(計66.86カラット)が一つのネックレスに使われているから、驚愕としかいいようがありません。

最後には、この展覧会をプロデュースした吉岡徳仁氏による、香水瓶の展示があります。丸いクリスタルの香水瓶の中に、一つダイアモンドが浮かんでいるというもので、伝統とモダンの結合が感じられます。

普段宝石にあまり興味がない人でも、すごく楽しめること請け合いです。これだけたくさんの美しいジュエリーを目にする機会は、一生のうちでもあるかどうか、ですし。展示されている東京国立博物館の表慶館の建物そのものが、クラシックな洋館でとても美しいのです。

出品されたジュエリーの解説はPDFでダウンロードしてみることができます。現物は、ぜひ展覧会で見て欲しいのですが。(今週日曜日(5/31)まで)
http://www.tnm.go.jp/jp/exhibition/special/pdf/200903cartier_list.pdf

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2009/05/13

シュツットガルトと州立美術館 Staatsgalerie Stuttgart

シャルル・ド・ゴール空港を経由してシュツットガルトに到着したのは朝の10時。エールフランスでは、サービスの売りであるシャンパンサービスが、GWで満席のせいか品切れになってしまって非常に残念。今まで一度もそんなことはなかったのに。代わりに(?)、開演前に劇場でシャンパンを一杯ご馳走になったので、良かったけど。

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ホテルはSバーンの駅&中心街のすぐそばで、州立劇場までも歩いていける距離にあってとても便利。シュツットガルトはホテルの値段がお手ごろなのが助かるところ。3月に来た時には、半日しかいなくて、バレエをマチネとソワレで観たので、劇場とホテルしか行けなかった。今回は、街を散策する時間があった。大きな街ではないけれども、黒い森に抱かれて緑が多く、とてもヨーロッパ的できれいな街だ。ハンブルクよりも規模はだいぶ小さい感じだけど、清潔で規模の割りにブランドショップがたくさんあるところなどは似ている。観光名所はほとんどなく、この州立美術館と、メルセデス・ベンツ博物館、ポルシェ博物館、そして郊外にあるヴァイセンホフジードルンクの住宅群くらい。ここは駅舎にベンツのロゴが輝く自動車の街で、シュツットガルト・バレエの来日公演でも毎回必ずダイムラー・ベンツの貸切公演があるくらいなのだ。今回メルセデス・ベンツ博物館には行けなかったけど、車好きじゃなくても楽しいところらしい。

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シュツットガルト州立劇場のすぐ裏にあるシュツットガルト州立美術館。素晴らしいと話には聞いていたものの、実際に行ってみて、あまりの傑作ぞろいに驚嘆したほど。しかも太っ腹なことに、入場料は無料だった(6月1日まで)。その時期は特別展が開催されていなかったこと、そしてこの美術館の売り物の一つである、ドイツ随一のピカソ・コレクションとバーン=ジョーンズコレクションの部屋が改装のために閉鎖されていたことが、無料の理由かもしれない。手元にある最新の「地球の歩き方」には入場料金が記載されていたし。いずれにしても、シュツットガルトの街はこれから何度も訪れる予定なので、今後の楽しみが増えたということで。場内は撮影禁止で、手荷物もすべて預けさせられる。
http://www.staatsgalerie.de/

中世美術からイタリア・ルネッサンス、フランドル派、印象派、象徴主義、ドイツ表現主義そして現代美術まで幅広いコレクションで、気がつけば5時間くらいこの美術館で過ごしてしまった。素晴らしい収蔵品のごく一部は、デジタルカタログで観ることができる。
http://www.staatsgalerie.de/digitalerkatalog_e/

ここはバウハウスのマイスター(教授)、オスカー・シュレンマーの作品で有名で、特に「トリアディック・バレエ」と呼ばれる奇抜な舞踊衣装(立方体、円錐、球体の3つの幾何学基本形が使われた、ロボットみたいな独特の衣装)の展示は面白かった。カタログを買ったのだけど載っていなくて、ポストカードを買って帰れば良かったとちょっと後悔(でも、どうせまた行くだろうし)。

レンブラント、マネ、ゴッホ、ゴーギャン、モネ、ルノワール、ドガ、モディリアーニ、パウル・クレー、キリコ、ダリ、ポロック、シーレ、リキテンシュタイン、マン・レイ、ウォーホル、フランシス・ベーコンなどなど、様々な時代の傑作が揃っているのだけど、ドイツにある美術館だけあって、ドイツ表現主義の作品にはインパクトがあった。ナチスドイツの台頭により「退廃芸術」と烙印を押されドイツを追われたユダヤ人画家マックス・ベックマンの作品が強烈。絵についている解説は英語もあったのだけどカタログにはドイツ語表記しかなくて邦題がわからないのだけど、真っ暗なオーケストラのボックス席にいる俯いた女性と、彼女とはまったく別方角を見ているオペラグラスの男性を配置した「Die Lodge」は映画のようなスリリングさ。また、カジノでの欲望渦巻く世界を鮮烈に表現した「Dream of Monte Carlo」や、戦争の恐怖が伝わってくる大作「Auferstehung」には圧倒された。そしてもう一人ドイツ表現主義では、オットー・ディクス。そう、先日の「ESPRIT」公演で草刈民代とイーゴリ・コールプが踊ったローラン・プティ振付「切り裂きジャック~オットー・ディクスより」で出てくる画家だ。マッチを売る傷痍軍人が強烈で諧謔的な「Streichholzhändler」を見ると、なるほど、あの作品の世界だわ、と思う。彼も、ナチスによって頽廃芸術がとされた画家の一人である。

それ以外のジャンルでは、まず、ドラクロワの「An Indian Woman Killed by a Tiger」が残虐性とエキゾチズム、そしてスピード感のある作画で、小さな作品ながら鮮烈。そしてムンクの「Madchenakt auf Rotem Tuch 赤い敷物の上の少女」燃えるような赤い髪の妖艶な裸体の少女の作品で、敷物の赤が、少女のエロスとともに、彼女が犠牲者でもあると言うことを表現しているという。現代美術では、本物そっくりで一瞬びびるお掃除のおばさんの彫刻が面白かった!また、作家名は全然覚えていないのだけど、宗教画を現代的な解釈で描いている作品を集めた部屋が面白くて、「最後の晩餐」の12人の使徒が20世紀初頭の服装をしていることで、まるでテロリストの集会に見えていたり、ヨゼフとマリアをホームレスの男女として描いてたりと、なんとも心に残る作品が集まっていた。風景画に現れたロマン主義的な表現を集めた部屋もあり、さらにココシュカやシーレなどの象徴主義的な作品も大好きなので、時間が経つのを思わず忘れてしまうほどだった。

そろそろホテルに戻って夜の準備をしようと思ったら、外は突然の大雨。傘は部屋に置いてきてしまったし。30分ほど美術館で雨宿りしたけど、止む気配がなく、一度傘なしで外出したところずぶぬれになったので、ミュージアムショップで傘を買うことに。折り畳み傘がなかったので、子供用の冗談みたいに小さな傘だけど、色鮮やかな花の絵画をあしらったものでとても可愛い。旅行中に長傘はさすがに買えなかった…。(成田を出た時点ですでにスーツケースの重さが20キロもあったのだ)

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ホテルに戻ったら、もう待ち合わせぎりぎりの時間。シャワーを浴びて着替えて、州立劇場の横にある中劇場Schauspielhausへと急ぐ。雨も止んでいた。待ち合わせ人ふたりに無事に会えて、開演前にシャンパンを飲んでしばし歓談。このSchauspielhausは600席余りの劇場で、今回のようなコンテンポラリーや、演劇などが上演されている。親密な空気がダンサーにとっても心地よいそうだ。開演時には、フリーデマン・フォーゲルの姿もチラッと見かけた。ちょっと前に日本で観たばかりなのに、ドイツで姿を見かけると不思議な感じ。初日ということもあって、芸術監督リード・アンダーソン、振付家クリスチャン・シュピック、それからダンサーらしき人たくさんがいて、華やかなホワイエ。休憩時間にはシュツットガルト・バレエの2010年カレンダーを2種類買って、大きな荷物を抱え、夜景が美しいシュツットガルトの街を駆け抜け、楽しい思い出を胸にホテルへと戻った。

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2009/04/14

ファッションから名画を読む 深井晃子

人物画を観るというときに、私たちは何を観ているのだろうか。もちろん、その人が何を着ているのか、意識はするけれども、どれほど注意深く観ているのか。ときどき、ちゃんと観なくてはならないものを見落としている、と感じることがある。

裸体画でない限り、人物は何かしらの服を身に着けている。そして、それらの服装こそが、その人物がどのような社会的な地位を持った人間で、どの時代にどのように生きていて、その時代とはどんなものだったのかというのを語るものだ。

というわけで、服飾史の専門家である筆者が、ファッションを通して、ルネッサンスから19世紀初頭までの美術史について語ったのが、この本だ。ファッションと言うと軽く聞こえるけど、服装には、その時代の社会情勢や政治までもが見えてくるところがある、とこの本の前書にはある。

もっとも有名な絵画の一つであるレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」が、黒いドレスを着て、ヴェールをかぶっているのはなぜか。そして、モナリザ・スマイルを浮かべているのはなぜか。そんな永遠の疑問から始まる。

フィレンツェのウフィッツィ美術館にある、ブロンズィーノの「エレオノーラ・ディ・トレドと子息ジョヴァンニ」では、コジモ一世の美しい妻エレオノーラが、大胆で凝った唐草文様のビロード織りのドレスをまとっている。この精緻で華やかな絵画は、メディチ家の権勢を誇示すると共に、フィレンツェの優れた繊維・織物産業と芸術文化を内外にアピールするために描かれたものだという。

マリー・アントワネットが好んだという木綿の白いドレス。イギリスで綿モスリンが流行したのがフランスに入ってきたのだ。しかし、モスリン・ドレスは寒いフランスの冬には薄すぎて、スペイン風邪を引いて死ぬ婦人が続出。すると、今度は高価なカシミアのショールが流行する。カシミアのショールを流行させたのは、ナポレオンの妻ジョセフィーヌ。彼女がカシミアショールを肩にかけたり、膝にかけたりドレスのように着ている肖像画がいくつも残されている。

面白いのが、色と染料の話。ティツィアーノの「改悛するマグダラのマリア」のマリアは、なぜ縞模様の服を着ているのか。それは、彼女が娼婦であるということを示しているから。中世ヨーロッパにおいては、2色以上を使った縞柄は、社会からのはみ出し者のしるしだった。囚人服が縞模様なのも、そのような意味があったわけだ。

かつて、染料というのは高価なもので、フェルメールの「ターバンを巻いた少女(真珠の耳飾りの少女)のターバンに使われているブルーは、高価なウルトラマリンだった。アフガニスタンで採れるラピスラズリを砕いて作ったという。ブルーの染料は、大航海時代を経て、もう少し安いインディゴが入ってくる。だが、色を手に入れるためにその時代、人々は命すらも賭けた。そこまでして、色というのは魅惑的な存在だったのだ。そして、19世紀に合成染料が誕生したことで、服装史も美術史も大きく変わっていく。19世紀後半から、黒がファッショナブルな色としてもてはやされるようになるのも、合成染料の発達で、美しい黒を作り出すことができるようになったからということだ。

19世紀半ばには、パリの都市計画の発達に伴い、モードが出現する。ルノワールが描いたその名も「パリジェンヌ」という作品があるが、街を闊歩し劇場や舞踏会に現れるファッショナブルなパリジェンヌたちの姿を、ドガやマネ、モネ、モリゾらが描いた。そして、社交界とは別の、裏社交界=ドミ・モンドの女性たち=高級娼婦も登場する。美貌と才知で社交界を渡り歩いた彼女たちは、流行の先端を走っていた。まさに、「椿姫」の世界だ。印象派の時代の絵画は、女性たちの華やかな服装に目を奪われる。庶民の女性たちも、生き生きとしていて精一杯のおしゃれをしているのが感じられる。

この本の中でひときわ目を奪われたのが、ジョルジュ・クレランによる、伝説的な女優、サラ・ベルナールの肖像。ほっそりとした長身を優雅にくねらせてソファに腰掛けている彼女のなんとゴージャスなこと。細身を際立たせる白い絹のドレスがまた美しい。19世紀には、拷問器具のようなコルセットも登場し、細いウェストがもてはやされる。コルセットや下着姿の女性の絵画も見られるようになるが、これらのモデルの多くは高級娼婦であった。

20世紀初頭は、バレエ・リュスが一世を風靡する。もちろん、バレエ・リュスのことは知っているわけだし、ピカソやシャネル、ローランサン、ルオー、コクトーといった名だたる芸術家やデザイナーが関わっていることも知っている。だけど、バレエ・リュスがこれほどまでの一大センセーションをモードにもたらしたとまでは思っていなかった。レオン・バクストの独創的な舞台装置と衣装、そしてニジンスキーの超人的な踊り。

「バクストは、バレエ・リュスという舞台を絵筆だけでなく、色彩をまとわせた素晴らしい踊り手たちの躍動する身体という絵筆も使って立体的に描き出した。彼は、いわば動く絵とでもいうパフォーマンスとして、より現代的な作品を作り上げた」

バレエ・リュスが現代美術のアートでパフォーマンスと呼ばれるものの先駆けであった、それはもしかして常識なのかもしれないのだけど、個人的にはちょっと新しい視点で、面白かった。

写真が登場し、服が大量生産のものになってきて、モードを描いた美術作品は激減する。だけど、過去の美術作品に描かれた服装が、今も様々な芸術のインスピレーションの源になっているのはいうまでもない。服装は今も、時代や社会を映す鏡だ。絵画だけでなく、舞台芸術を観る際にも、もっと衣装に注目しようと思った次第である。豊富な図版はすべてカラーで、数々の名画に登場する女性たちの服装を見ているだけでも楽しい。

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2009/04/12

国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア

本当は今日は映画を観に行くつもりだったのだけど、新宿ピカデリーに行ったら、見られる時間帯の映画が全部満席だった。株主優待で新宿ピカデリーで上映される映画は、上映1週目以外は全部無料で観られるのだけど、2回に一回は満席で何も観られなくて引き返す羽目になっている。

新宿はほかに映画館が大したものがないし(そもそも新宿という街が嫌いだし)、渋谷に行って、「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」を観に行く。この展覧会の目玉である、クラムスコイ「忘れえぬ女」のポスターが、あざやかなインパクトを残していたからだ。

ロシア美術を、紡績業で富をなした創始者トレチャコフが収集。彼の没後自宅が国立トレチャコフ美術館となり、約10万点の作品を所蔵しているとのこと。今回の展覧会では、その中でもコレクションの中心となっている19世紀後半から20世紀初頭にかけての作品を75点展示。

http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/09_tretyakov/index.html

「忘れえぬ女」くらいしか知っている作品もなければ、その時代のロシア美術について何も知らないので、果たしてどうなんだろうと思っていたけど、観に行って良かった。75点の作品は、傑作ぞろいだった。

この展覧会は、以下の4つのテーマを主題として展示されている。

1:抒情的リアリズムから社会的リアリズムへ
2:日常の情景
3:リアリズムにおけるロマン主義
4:肖像画
5:外光派から印象主義へ

このテーマから浮かび上がってくるのが、リアリズムだ。庶民の生活の哀歓を描いた作品群。画家の家族や親しい人を描いた作品といった人物画、肖像画も魅力的だ。結婚式への準備を行う花嫁と親戚や友人たちの姿を描いたワシーリー・マクシモフの「嫁入り道具の仕立て」を見ると、全然雰囲気は違うのだけど、ニジンスカのバレエ「結婚」を思い起こす。

今回の展覧会で特に深く印象に残ったのは、3.のリアリズムにおけるロマン主義。23歳で夭折したフョードル・ワシーリエフの「白樺林の道」や「雨が降る前」「猟師」における繊細でドラマティックな自然描写。アルヒープ・クインジの「エルブルース山-月光」では、月光を浴びた白い山頂が、蒼く輝いて鮮烈な印象を残す。同じクインジの「ヴァラーム島にて」では、グリーンの使い方、そして冷たい光の表現が独特で、写実的なのにも関わらず、いまだかつて見たことがないような幻想的な世界を見せてくれる。イサーク・レヴィタンの「静かな修道院」は、神聖さと静けさのなかに、美しい光景を見た者の高揚感までもが伝わってくる。鏡のように修道院を映す水面にかかった古くて小さな橋が、象徴的だ。同じくレヴィタンの「たそがれ、干し草」は、夕景の中に積み藁を描いているだけなのに、神秘的で哲学性すら感じさせる。

風景画はどれも目を吸い付けて離さないようなドラマ性がある。ロシアの厳しくも美しい自然と広大な大地。特にふわりとした雪の表現や、玉虫色のような色彩さえ帯びている空の色は心に残る。今回のコレクションを構成している画家の多くは、ヨーロッパへと旅をして、同時代の印象派の影響を受けている。5.の外光派から印象主義へ、ではその印象派の影響も感じされる。しかし光の表現などに印象派の影響を受けながらも、ロシアらしいオリジナリティ、リアリズムやロマン主義、リリシズムが脈々と息づいているのが感じられた。

肖像画家として若くして名声を得たイリヤ・レーピン。文豪ツルゲーネフのもっとも有名な肖像画をはじめ、自信と才能に溢れる美しいピアニストを描いた「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」、そして堂々とした美丈夫の軍人/劇作家/俳優「コンスタンチン・コンスターノヴィチ大公の肖像」、若く輝かしい美青年「劇作家レオニード・アンドレーエフの肖像」などを描いているが、同時に、自身の娘ヴェーラ20歳当時の生き生きとした若さを刻み付けた「秋の花束」のみずみずしさ、息子ユーリーの5歳の愛らしい姿を描いた「画家レーピンの息子 ユーリーの肖像」などの身近な人々を描いた作品には、印象派の影響が感じられると共に、温かさがある。

そしてクラムスコイの「忘れえぬ女」。原題はUnknown Ladyとなっているので、正確には「見知らぬ女」とすべきか。黒い衣装に、黒髪、エキゾチックで大きな黒い瞳の若い女性。ちょっとニーナ・アナニアシヴィリに似ている感じ。高価そうな服を着ているが、無蓋の馬車に乗っているので決して高い身分ではないようだ。長い睫毛を少し伏せて憂いを含みつつも挑発的なまなざしと、きりっと結ばれた口。この作品につけられた解説によると、ある者は彼女の中にチェーホフの「アンナ・カレーニナ」を見出し、また別の者は、トルストイの「白痴」のナターシャを重ね合わせたという。社会に対して挑むように見える彼女は、ロシア版の「椿姫」だと解説は書いている。実物を見ると、絵の具がキラキラ輝いているように見える。明度の高い背景に対して、黒をベースにした彼女の姿が浮かび上がり、きらめきを放っているのだ。

もう一枚のクラムスコイの作品「髪をほどいた少女」も、光を乱反射する少女の金髪と、思い悩むようなまなざし、繊細な空気が伝わってくる。

ツルゲーネフのほか、チェーホフやトルストイの肖像画もあるが、ここに展示されている肖像画は、画家が描く対象に対して感じている思いが良く伝わってきている。ただの肖像画に終わっていなくて、その人物の持つ精神性までもが感じられていて、深い。

ロシア文学などに関心を持っている方にもぜひ観て欲しいと思う。素晴らしい展覧会だった。

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2009/03/28

エッセンからケルンへ(大聖堂とヴァルラフ・リヒャルツ美術館)

さて、ケルン中央駅Köln Hauptbahnhofに到着し、駅前に出るといきなりそそり立っているのが、世界遺産でもあるケルン大聖堂。あまりにも駅が大聖堂に近いので、Wikipediaによれば駅は「ケルン駅前礼拝堂」の異名があるとか。とにかくでかい。高さは157メートルもあるそうだ。

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塔の上まで上がるのには料金が必要だけど、旅の疲れと、スニーカーに履き替えるのを忘れてパンプスだったのでそれはあきらめて、大聖堂の中を見学。まずは、高い高い吹き抜けに圧倒される。そして華麗なステンドガラスの数々!

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細長く高い吹き抜けの空間に柔らかな陽の光が差し込むと、なんともいえない厳かで幻想的な空気が漂う。

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大聖堂の宝物、12世紀後半の東方三博士の聖遺物が納められた黄金の棺。

さて、この大聖堂はあまりにも大きいので、写真を撮るには、ライン川を隔てた対岸からだと良いとガイドブックに書いてあったため、ライン川に架かるホーエンツォレルン橋を渡った。ICEなどの列車がひっきりなしにびゅんびゅん通り抜ける横に、ちゃんと歩行者が歩くための道路が整備されている。面白いのが、線路との間の金網に、無数の南京錠が結び付けられていること。よくみると、それらの南京錠にはそれぞれカップルの名前が刻み付けられている。縁結びのおまじないにここに結び付けて置くようだ。

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この橋はけっこう長いのだけど、お天気も良いので歩いていてとても気持ちが良い。ドイツは寒いと聞いていたけど、日本とあまり変わらない気がする。

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戻って市街地を歩く。大聖堂前広場には普通に高級ブランドのお店とかがあるし、歩行者天国であるホーヘ通りにはZARAとかH&Mなどのお店、その他デパートなどもあって普通のドイツの都市という感じ。金曜日の午後なので人出も非常に多い。

ホーヘ通りから少し外れたところに、ヴァルラフ・リヒャルツ美術館 Wallraf-Richartz Museum がある。

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このヴァルラフ・リヒャルツ美術館がとにかく素晴らしい!ケルン派と呼ばれる13~16世紀の宗教画、そしてレンブラントの自画像。そしてルーベンスの名画《聖家族およびエリサベツと洗礼者ヨハネ》、クールベ、ゴッホ、ルノワール、ムンク、モネ、ルドン、ドガ、モリゾ、さらにはドイツ絵画も多数で20世紀初頭まで網羅されている。部屋ごとの解説は英語もあってわかりやすい。さらに、東洋人(ビルマ出身とのこと)のスタッフのおじさんがとても親切で、いろいろと教えてくれた。写真もフラッシュを使わなければ撮っていいですよ、と声をかけてくれたのだ。

ルドンの、小さいながらも色彩鮮やかで、とても怪しい世界観を描いた作品群に惹きつけられる。フランツ・フォン・シュトックの大蛇を体に巻きつけ横たわったヌードの絵にはびっくり。サロメを描いたデラロシュの絵も挑発的だ。それから、寒々としたケルンの風景を描いた作品にも魅せられる。ロマン派のフリードリッヒの「雪中の樫の木」など、傑作ぞろい。大きな窓があって、外の光がふんだんに取り入れられているだけでなく、窓から大聖堂を望むこともできて、至福の時であった。

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また、クロード・モネの作品とされながら、最近(2008年)になって贋作であることが判明された収蔵品があり、どのようにして贋作と見破ったかが、その贋作と並べて書いてあったり、古い作品の修復過程なども見せてくれていたりする。

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古い建築にモダンな建築をつなげて作られた美術館の建物自体も非常にスタイリッシュで美しく、いつまでも観ていたかった。それに、ケルンには他にも2つほど大きな美術館がある。ヴァルラフ=リヒャルツ美術館から現代部門を独立させたルートヴィヒ美術館など。だけど、到着初日で体力を温存する必要もあると思い、人々で賑わうライン川沿いを歩いて駅へ。世界一美しいプラットホームと言われるだけあって、ドーム型の屋根に惚れ惚れする。ケルンは、オーデコロン発祥の地であり、コロン「4711」の宣伝が大きく出ていた。

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エッセンに戻って大型ショッピングセンターで少し買い物をし、早めに寝る。大聖堂とヴァルラフ=リヒャルツ美術館が観られただけでも、もう大満足。機会があればもう一度訪れて、他の美術館なども併せて観たいと思った。

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