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文化・芸術

2014/07/03

ブリヂストン美術館「描かれたチャイナドレス」展

日本人の描いた油絵の中での、中国服を着た女性像ばかりをあつめたユニークな企画展「描かれたチャイナドレス展」のブロガーナイトに呼んでいただいたので、参加してきました。

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibitions/

展示会場の画像は特別に主催者の許可を得て撮影したものです。

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昨年8月から8か月という異例の短さの準備期間でしたが、それでも約30点を集めることができました。1910年代から40年代にかけての作品群です。実は、6~70年前の日本では、意外と日本人がチャイナドレスを着ているというのが一般的であり、村松梢風(村松友視の祖父でもある作家)の文章にも登場します。1933年ごろは、日本人の半数が和服を着用していた時代でしたが、その頃が中国服ブームの頂点でした。

藤島武二の「匂い」について解説するブリヂストン美術館学芸部長の貝塚さん

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「匂い」は帝展に出展された作品。藤島武二はパリ、ローマに留学して帰国しました。そのため、イタリア、フランスから見た東洋という視点を持っており、日本から見た朝鮮半島や中国を観るまなざしも、その視点を適用しています。藤島は、60点もの中国服を収集しており、これらを日本人モデルに着せて作品を描いたとのことです。

また、彼はイタリア・ルネッサンスの絵画に憧れ、真横からの肖像画を描きました。古代のメダルやコインなどは横顔を描いたものが多く、その人の個性を最も表すことができるのは横顔だと彼は感じました。「東洋振り」や「女の横顔」などがその代表的な作品です。彼はイタリア・ルネッサンスに憧れを抱いており、ルーブル美術館にあるピサネルロの作品の模写なども残されています。

「女の横顔」のモデルは、竹久夢二の恋人であった佐々木カ子ヨ(お葉)。「日本人には横顔の美しいモデルは少ない」と藤島は嘆いていましたが、お葉の横顔は美しく、彼はもう一枚、彼女をモデルにした「芳惠」(本展には未出展)も描いています。

関東大震災に罹災し、30歳と若くして亡くなった久米民十郎。早世したために、あまり知られてなかったが、留学時代にアーネスト・ヘミングウェイと交流していており、関東大震災の時には彼の安否を気遣っていたそうです。弟の権九郎は建築家として成功し、久米建築事務所(現在の久米設計)を設立した。この「支那の踊り」は摩訶不思議な曲線で描かれた鮮烈な作品。87年ぶりに永青文庫の倉庫から発見されたとのことです。

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(「支那の踊り」は左から二番目の作品)

矢田清四郎の「支那服の少女」(撮影禁止作品)は東京芸術大学の卒業制作で、少女がとても愛らしい。彼は小林萬吾に師事したそうで、やはり中国服の作品を制作した小林の影響を受けたようである。(小林萬吾の「銀屏の前」という作品も今回出展されている)

三岸好太郎の「支那の少女」は、どこか幻想的な雰囲気のある作品。彼の唯一の海外旅行が上海旅行だったそうで、大きな転機だったそうです。当時の上海はヨーロッパを思わせる街で、特に外灘や租界は異国情緒がありました。上海はヨーロッパに船で行く際の最初の寄港地であり、ヨーロッパに行けない人にとって、ヨーロッパの香りを感じさせる場所だったようです。

小出楢重の「周秋蘭立像」は、現在も大阪のリーガロイヤルホテルのメインラウンジに飾られている作品で、彼が亡くなった後、未亡人はこのホテルでこの作品を見るためにお茶を飲みに行っていたそうです。彼は口ぐせのように「支那服を描きたい」と言っており、中国人のダンサーをモデルに描いたとのことです。

(右端が「周秋蘭立像」)
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児島虎次郎の「中国の少女」は京劇の女優が普段着をしている姿を描いたものです。そして「西湖の画舫」は、南京の情景を描いたもの。「画舫」とは屋形船のことで、音曲を楽しむ催しが開かれていました。児島虎次郎はパリで作品を多く出品し、極めて東洋的なモチーフをパリに送り込みました。

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梅原龍三郎は、4年間に6回も北京を訪れています。数か月滞在し、北京飯店の508号室で作品を描きました。ここで描かれた中国人の姉妹の作品は非常に印象的で、今回出展されたもののの他3点、彼女たちを描いた作品があったということです。

そして、この展覧会のインスピレーションのもととなったのが、安井曽太郎の「金蓉」。細川護立が発注した作品で、普段から中国服を着ていた小田切峯子という女性がモデルとなっています。「金蓉」とは彼女のニックネームでした。直線と曲線のバランスが絶妙で、1930年代日本美術の代表作ともいえる傑作です。

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最後に、藤田嗣治の「力士と病児」という、これまた大変インパクトのある作品がありました。力士と言っても実際には大道芸人なのだそうです。藤田は30年代に北京に滞在しましたが、その後作風が変わりました。日本人から見た中国、ヨーロッパから見た日本という二つの視線を使って描かれた作品です。秋田県立美術館にも同系統の作品があります。

会場には、アンティークの華やかなチャイナドレスも6点飾られ、それぞれ年代別の流行の違いを見せてくれました。真っ赤に塗られた壁も美しい会場です。
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中国文化への憧れ、ヨーロッパで学び取ったものをどうやって日本に持ち込んだのか、エキゾチックなまなざしを感じることができて、とても素敵な展覧会でした。


休館日 月曜日
開館時間 10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)

※7/7(月)、7/14(月)、祝日の月曜日は開館します。
※入館は閉館の30分前まで。
※上記の開館時間も不測の事態の際は変更する場合があります。
※最新情報は公式Pおよびハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。
住所ブリヂストン美術館 〒104-0031 東京都中央区京橋1丁目10番1号

2014/05/25

クロアチア、ボスニア他旅行記(その2)スロヴェニア、ブレット湖とポストイナ鍾乳洞

朝、起きたらリブノのホテルの部屋からは素晴らしいアルプスの眺め。空気が澄み切っていて、良く晴れている。ロッジ風のホテルはシャワールームは狭いけど、バルコニーがあり、テニスコートも敷設している。森に面したテラスで朝食を頂くこともできました。出発前に散歩したらとっても爽快でした。

すぐ近くの、アルプスに囲まれて非常に美しいブレット湖へ。ここは、スロベニア最大の湖で、エメラルドグリーンの湖の中に島があり、島にはバロック様式の聖母被昇天教会がある。非常に古い教会で5世紀に遡るとのこと。手漕ぎボートでこの島に渡ります。船を降りたところから教会までは99段の階段。この圧倒的に美しいロケーションの教会は、結婚式の名所でもあり、日本人のカップルでもここで挙式をする人がかなりいるとか。ところが、ここで結婚式を挙げるには、花婿は花嫁をお姫様抱っこしてこの100段の階段を登らなければならないという決まりがあるそう。そのため花嫁はダイエットをし、花婿は体を鍛えるのだそうです。あと、3回鳴らすと願いが叶うという教会の鐘があり、それを鳴らさせてもらいました。また、とても高い塔もあります。

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ブレット湖の聖母被昇天教会には、こんな言い伝えがあります。強盗に夫を殺されてしまった若い妻が鐘を鋳造して教会に寄贈しようとしました。船が鐘を運んでいた時に嵐にあい、鐘は船もろとも湖に沈んでしまいました。妻はその後、修道女となって一生を終えました。法王は彼女の死を悼み、鐘を鳴らす人が、その音で願いが叶えられるようにと願って、鐘を作って教会に贈ったそうです。

湖畔には、チトー大統領の別荘もあったそうで、湖畔を散歩するのもとても気持ち良くて、天国のようです。

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その後、湖畔を散歩したのち、断崖の上に立つブレット城へ。ここからは、また澄み切ったブレット湖と、湖にぽっかり浮かんだ教会の景色を望むことができます。城の中には古い鍛冶屋があり、そこで売っている製品がなかなか素敵だったのだけど、現金しか使えないので残念ながら買えませんでした。

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そこから移動して、今度はポストイナへ。ここは、ヨーロッパで1番目に、そして世界でも2番目に大きな鍾乳洞で、世界遺産となっている。1時間に1回、案内ツアーがあります。まずは2キロほどの区間をトロッコ列車に乗るのだけど、これが結構スピードが出て大変な迫力。まるでディズニーランドのアトラクションのよう。日本語の音声ガイドもついていて、解説が聞けます。ハプスブルグ家がとても気に入った場所だそうで、鍾乳洞内を照らす電気が灯されたのはかなり早く、ロンドンで家庭に電灯が入るよりも早かったそうだ。とにかく広い、でかい。歩く区間は1.7kmだそうだけど、アップダウンもかなりあります。気が遠くなるような年月をかけて、自然が作り出す神秘的な造形と変化する色彩に目を奪われました。キリストの誕生を再現する劇も行われていたなど、ドラマティックな場面が似合いそうなところもたくさんあります。コースの一番最後にある大きな空間はコンサートホールのように広がっており、実際、ミラノ・スカラ座の合唱団がコンサートを開いたこともあったそうです。日本の皇室の人たちも何人も訪れているとか。鍾乳洞の中は気温8度とかでかなりひんやりとするので、薄手のダウンジャケットを持参することを推奨します。

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そしてバスでいよいよクロアチア入り。クロアチアはEUに加盟していないので、一応国境がありパスポートを見せることになっていますが、日本人ツアーだとほぼパスポートも見ないでフリーパスです。まずはイストラ半島のロブランへ向かいます。クロアチアに入ると、入り組んだ海岸線にオレンジ色の屋根の家々が点在し、車窓からの眺めもいかにも海沿いのヨーロッパの村という感じになってきます。ホテルの窓の外も、アドリア海です。 コート・ダジュールのように美しく洗練された風景が広がっていました。


2014/03/08

「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」

1月にアンスティチュ・フランセで監修者である美術史家エメ・ブラウン・プライス氏の講演会を聴きに行ったにも関わらず、ちょっと忙しくてようやく会期末に行けた「シャヴァンヌ展」。

Chavanne

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/14_chavannes/index.html

2月にパリに行った際には、オルセー美術館で、本展にも出展されている「気球」「伝書鳩」の大きい方の作品などを観ることができて、早くこちらの展覧会も観に行きたい!と思っていたのでした。

19世紀フランスを代表する壁画家として知られるピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは、フランスでは大変有名な画家で、多くの画家、セザンヌ、ゴーギャン、スーラ、はては黒田清輝にまで影響を与えた大家。しかし、壁画が中心であるため、日本ではあまり知名度がなくて、彼の展覧会が日本で開かれるのは初めてだそうです。壁画が中心であるけれども、持ち運べないという壁画の特性があるため、同じ作品の縮小版を彼は描いていて、それが今回の展覧会に出展されています。

こちらの展覧会では、35分にもわたる映像を観ることができますが、そこでは、彼がパリのパンテオンや市庁舎、ソルボンヌ大学、そしてリヨン美術館のために制作した壁画が紹介されています。思わず、パリに行きたくなってしまいますが、どれだけ彼がフランスでは著名な画家だったかということがよくわかります。エメ・ブラウン・プライス氏によれば、壁画の場合には、作品の中に登場する岩を、建築物の漆喰の色に合わせて彩色していたり、環境に合わせて色を使っていたりするのが、美術史的に興味深いのだそうです。

特に、リヨン美術館の壁画である「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」(チラシに使用されている作品)は、展示されている様子も会場で再現されているのですが、いつか行ってみたいと思わせるものでした。この作品の縮小版は、シカゴ美術館に収蔵されていて、今回実物を観ることができます。水辺のアルカディアに、さまざまな芸術の美神たちが集ってポーズをとっているのですが、バランシンの「アポロ」に登場するテレプシコーラ、カリオペ、ポリュヒュムニアも登場するので、バレエファンにとってはますます興味深いです。この作品の構図の絶妙なこと。スーラ、マティスにも大きな影響を与えているのが感じられます。また、同時に象徴主義にも影響を与えていることも。

シャヴァンヌは美術学校には通わず、独学で絵画を学んだそうですが、短期間ドラクロワに師事したりしており、展示されている習作やデッサンを観ると画力があったことが感じられます。

数少ない国内で所蔵されているシャヴァンヌの作品として出展されている「幻想」(大原美術館蔵)。これは、高名な評論家・作家であるマダム・ヴィニョンによって依頼された作品で、鮮やかな青の使い方がとても印象的だし、「マヨルカ陶器のよう」と形容されています。ペガサスのかもし出す幻想的なムードにはうっとりします。この作品は、ピカソの「青の時代」に影響を与えたのが良くわかります。

普仏戦争、パリ・コミューンもシャヴァンヌの作品に影響を与えています。前述の「気球」「伝書鳩」は、普仏戦争の時の通信手段として使われたものですが、大変モダン、スタイリッシュでまるでポスターのようです。黒い縁は訃報をあらわし、黒い服の女性はパリそのものの象徴です。印象が似ている「警戒」は、古典的な服装をしている女性が、アトリビュートであるかがり火を掲げている作品。自由の女神のような印象を与える姿で寓話性が感じられます。

「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」も、島根県立美術館に所蔵されている作品。この壁画は、パンテオンにあります。聖ジュヌヴィエーヴは、パリの守護聖人であり、パンテオンは彼女に献堂するために建てられた建物であるからして、シャヴァンヌがどれほど当時高名な画家であったかというのが伺えます。この作品は、幼く愛らしい少女でありながら、ジュヌヴィエーヴの聖人らしい神々しさが感じられておごそかな気持ちになる逸品。パンテオンには、老年となった彼女がパリを見守る壁画もあります。

オルセー美術館から今回貸し出された「海辺の乙女たち」は、3人の乙女たちがそれぞれ違った方向に顔を向けており、一人の乙女は上半身だけのみで切り取られている独特の構図がとても斬新です。この手法は、ドガがバレエをモチーフに描いた作品にも使われているものです。

http://youtu.be/qrQgqiYPuzs

普仏戦争、そしてパリ・コミューンの悲劇に心を痛めたシャヴァンヌが、戦争のない理想郷を描き続け、また一方でより直接的に戦争のモチーフを描いた「気球」「伝書鳩」のような作品を描いたのも興味深いです。

最後に、日本近代洋画を確立することとなる画家・黒田清輝が、助言を求めて1893年にシャヴァンヌに会っていたということで、東京国立博物館蔵の黒田清輝の作品も展示されていたり、また他の日本の画家が彼の作品を模写したものも観られるというのは、日本の美術に彼が影響を与えたということもわかって面白かったです。

あと2日間の開催ですが、お時間がある方はぜひ。


開催期間:2014年1月2日(木)~3月9日(日)
会期中無休
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
http://www.bunkamura.co.jp/museum/

主催:Bunkamura、日本経済新聞社
協賛・協力等:
[後援]
在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
[協力]
エールフランス航空、日本航空
[企画協力]
島根県立美術館
[特別協力]
東京国立博物館

この後、島根県立美術館へ巡回します。(2014年3月20日~6月16日)

2013/09/23

ロシア旅行の記録 その3(トレチャコフ美術館)

2日目は、一番行きたかったトレチャコフ美術館へ。

地下鉄のトレチャコフスカヤ駅を降りる。行き方の表示はロシア語しかなかったけど、人の波について行ったら到着した。

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ここは、入場料の他に追加料金を払うと、写真撮影も可能だ。追加料金を払うと、カメラの絵が描かれたシールをもらうので、これを胸に貼って目印にする。午前中に行ったのでそれほど混雑していなかったけど、観終わった頃にはかなり混んできた。地下のカッサ(切符売り場)でチケットを買ったあと、英語の地図をもらい、2階まで上がって、2階から1階の順で見学する。絵の個別の説明はロシア語のみだけど、日本語のガイドブックは地下の売店で売っている。

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ここは18世紀から20世紀のロシア絵画の殿堂。以前、トレチャコフ美術館展、そしてレーピン展が日本で開かれたのでお馴染みの作品も多い。何しろ、キリル文字による絵の説明が読めないので、誰の作品なのか、知っているえじゃないとわからないのが辛いんだけど、でも壁を埋め尽くす作品の数々には思わず見入ってしまう。

有名な作品の第一弾は、オレスト・キプレンスキー作の「詩人アレクサンドル・プーシキンの肖像」。もちろん、「エフゲニー・オネーギン」「スペードの女王」でお馴染みの作家。画家の名前は知らなくても、プーシキンの肖像画ではいちばん有名な絵です。

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そして、ウラジーミル・ボロヴィコスキーの「ロブヒナの肖像」。このあたりは、肖像画が多い。

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うまく撮れなかったけど、ドラマティックな「公爵令嬢タラカノワ」コンスタンティン・フラヴィツキー

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この美術館でもっとも人気があるコーナー、移動派、特にクラムスコイの作品が一堂に集まっている。観光客の人だかりも多い。特に中国人の観光客が目立つ。

「忘れえぬ女」(見知らぬ女)イワン・クラムスコイ。この女性のまなざしに惹きつけられない人はいないだろう。

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クラムスコイの作品はほかにも傑作が。
「荒野のキリスト」クラムスコイ
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「月光」クラムスコイ
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あまりにも美しいので、思わず立ち尽くしてしまった。

ロシアの移動派後期、19世紀のミハイル・ヴルーベリの部屋も圧倒的だった。怪奇と幻想が織り成す象徴主義的な世界。

幅14メートルもある大作「幻の王女」ヴルーベリ
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「座るデーモン」ブルーベリ
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2階最後は、去年日本でも素晴らしい展覧会が行われたイリヤ・レーピン。
「皇女ソフィア」Bunkamuraで観たときにはとても大きな絵に感じたのだけど、広いトレチャコフではそこまでのサイズは感じず、でもやっぱり圧倒的な迫力。
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「眠るヴェーラ・レーピナ」。レーピンの妻に寄せる愛情が伝わってくる。
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2階は19世紀末から20世紀絵画が集まっていて、それほど有名な作品はないのだけど、それでも素晴らしい作品が多い。

「桃を持った少女」ヴァレンチン・セローフ
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「セルフ・ポートレート」ジナイーダ・セレブリャコーワ

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この他にイコン画のコレクションも素晴らしい。

シャガールやゴンチャロワ、マレーヴィチ、カンディンスキーなどの20世紀作品は、新館の方にあるということで、今回は観ることができなくて残念だった。しかし、圧倒的なクオリティのロシア美術を一身に浴びることができて、本当に幸せだった。

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地下には売店があるのだけど、日本の美術館と違うところは、ミュージアムグッズが少ないこと。特にポストカードはまったく売っていない。マグネットなどはあるのだけど。なので、ポストカードは日本で展覧会が開催される時に購入するのが良いと思う。日本語、英語のガイドブックなどは売っていた。

美術館正面にある、パーヴェル・トレチャコフの銅像。モスクワの豪商だった彼は、弟のセルゲイとともにロシア美術を専門に収集したコレクターだった。レーピンの描いた彼の肖像画も、この美術館に飾られている。
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大好きなレーピンやクラムスコイの作品を、本場トレチャコフ美術館で観ることのできた喜びは大きく、感動で震えっぱなしだった。

2013/07/09

プーシキン美術館展 フランス絵画300年

7月6日より横浜美術館にて開催されている、「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」の夜間特別観覧会にお招きいただきました。

http://pushkin2013.com/

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本展は2011年4月に開催される予定だったのが、東日本大震災のために中止となった。その後、やっと今回開催できる運びとなったのだった。初日には、オープン前に230人もの人が行列を作ったということで、たいへん待ち望まれていた展覧会。

モスクワにあるプーシキン美術館は、65万点もの収蔵品があり、中でも17世紀から19世紀までのフランス絵画は世界屈指のコレクションを誇る。ロシア革命で国に接収された個人コレクションを、エルミタージュ美術館とともに分け合い、国民的な詩人・作家のプーシキン(「オネーギン」の作者)の没後100年を記念して、1937年に現在の名称に改められた。

その中から、選りすぐりの66点が出展。ロシア人が憧れたフランス文化の遺産、そして印象派最高の肖像画の一つである「ジャンヌ・サマリーの肖像」がこの展覧会の目玉である。

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18世紀の女帝エカテリーナ2世は、フランス人の啓蒙思想家と交流するなどのフランス通で、皇帝となって間もなく、莫大な資金を投じて美術品の収集を開始したのが、ロシアが充実したフランス絵画コレクションを有する理由の一つだ。

そして、19世紀から20世紀初頭にかけて、素晴らしいコレクションを築き上げたのが、イワン・モロゾフとセルゲイ・シチューキンという二人の実業家。繊維業で富豪となった彼らは、1918年のロシア革命で資産を国に接収されるまで、企業家兼大コレクターとして活躍した。シチューキンは無名時代のマティスやピカソを発掘し、マティスに大作《ダンス》と《音楽》を注文して、「マティスルーム」を自宅に作って飾り、本人を招いた。モロゾフは、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャン、ボナール、ドニを中心に、美術史の流れに沿った体系的なコレクションを作り上げた。革命で接収された彼らの自宅は、そのまま第一西洋近代美術館、第二西洋近代美術館となり、23年に国立西洋近代美術館となって、48年にこのコレクションがエルミタージュとプイーシキンに分割されることになったのだ。

(ところで、モロゾフは気の毒に、自分のコレクションが接収されたあと、自宅だった第二西洋近代美術館で学芸員と働いていたとのこと)

印象的な作品をいくつか紹介する。(写真は、夜間特別観覧会のため、特別に主催者の許可を得て撮影しています)

フランソワ・ブーシェ
≪ユピテルとカリスト≫
18世紀ロココ芸術を代表するブーシェの本領が発揮された美しい作品。ニコライ・ユスーポフ公爵が購入してロシアに持ち込んだ。

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ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
≪聖杯の前の聖母≫
ニコライ皇帝1世の息子、アレクサンドル皇太子(のちのアレクサンドル2世)が、アングルに直接発注した作品。聖母マリアの後ろに、ニコライ1世とアレクサンドルの守護神を描いている。マリアの首を長く、手を大きく描くなど、実際の人体に変形を加えて、優美さを表現した作品。マリアの静謐で気品あふれる表情がとても印象的。

クロード・モネ
≪陽だまりのライラック≫
印象派特有の、きらめく光の効果を追求し色彩のハーモニーを表現した作品。シチューキンの印象派コレクションの中でも最初のほうに購入された。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫
コメディ・フランセーズの人気女優だった当時20歳のジャンヌ・サマリーを描いた。肖像画に印象派の手法を応用している。暖色系の色彩に、モデルの愛らしさが表現されていて幸福感を与えてくれる作品。モロゾフがパリの画商から購入した。

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エドガー・ドガ
≪バレエの稽古≫
右側に張り出した螺旋階段が独特の効果をもたらしている。床を多めに描き、アラベスク・パンシェをする二人のバレリーナのシルエットが連なっている様子と窓から差し込む光の効果が素敵。

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フィンセント・ファン・ゴッホ
≪医師レーの肖像≫
耳を切って神経症を患い入院したゴッホを治療した医師、フェリックス・レー。彼への感謝の気持ちをこめて、ゴッホは肖像画を描き贈るが、レーはこの絵を気に入らず、鶏小屋の穴を塞ぐのに使っていた。売り払われた絵を、シチューキンが購入。力強い線とバックの地模様が印象的。


ポール・ゴーギャン
≪エイアハ・オヒパ(働くなかれ)≫
左側の人物は男性だと思うのだけど、ちょっと両性具有的な雰囲気があって妖しく魅力的。これもシチューキン所有の作品。

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第4部、20世紀絵画は撮影できなかったのだけど、シチューキンが発掘したマティス、ピカソ、そしてシャガールやレジェなどの素晴らしい作品が並んでいた。


ところで、今回は音声ガイドも貸していただいた。ナビゲーターは水谷豊さん。落ち着いた口調でとても聞きやすい。

http://pushkin2013.com/goods/

そして、物販コーナーも充実していた。なんといっても、このロシア製マトリョーシカが可愛い~。

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これまた可愛いチェブラーシュカも売っている。

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Tシャツ、ピンズなどもとてもキュートなオリジナルグッズが製作されていたけど、時間がなくてゆっくりできず買えなかったのが残念!ポストカードとマグネット、一筆箋は買ったけど。

さて、この展覧会のオフィシャルサイト、スペシャルコンテンツ「プーシキン 秘められた物語」がとても充実している。
http://www.i-museumtalk.com/special/pushkin2011.html

中でも、鹿島茂さんの「女優の肖像」では、ジャンヌ・サマリーと当時の女優たちの生活や彼女たちを取り巻く社会について書かれていて興味深いし、池田理代子さん書き下ろしの「三都物語」では、サンクトペテルブルク、モスクワ、パリ。この3都市を舞台に、コレクターや画家、モデルが織りなす物語「三都物語」を書き下ろしている。現在公開中なのは、コレクター、シチューキンの実生活上の悲劇についての「モスクワの悲劇」で、ロシア革命前の激動の時代に彼の私生活を襲った数々の悲劇についてドラマティックに描かれている。彼がなぜこれほどまでの情熱を持ってコレクションに打ち込んだのかがよくわかる。

こちらの公式ガイドブックでは、この「三都物語」も読める。

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<開催概要>
プーシキン美術館展 フランス絵画300年
Masterpieces of French Paintings from the State Pushkin Museum of Fine Arts, Moscow

会期
2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)

会場
横浜美術館
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1 アクセス

開館時間
10:00~18:00
(8月、9月の金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)

休館日
木曜日(ただし8月1日、15日は開館)

お問い合わせ
ハローダイヤル03-5777-8600
(8:00~22:00 無休)

主催
横浜美術館、朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日、プーシキン美術館、ロシア連邦文化省

(2013年9月28日(土)~12月8日(日)には神戸市立博物館へ巡回)


※追記
そういうわけで、7月、モスクワに旅行して、本場のプーシキン美術館ヨーロッパ館(本館は長蛇の列で入れなかった)と、トレチャコフ美術館にも行ってきた。両方共本当に素晴らしいコレクションで、美術好きの方なら、一生に一度は行くべきところだと思う。プーシキン美術館、あれだけの名品60数点を横浜美術館に貸出しているのに、それを全く感じさせないくらいの圧倒的にすごいコレクションはなんなんでしょう。シチューキンおよびモロゾフの目利きは尋常ではなかったということなのか。トレチャコフ美術館のロシア絵画コレクションも鮮烈だった

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2013/02/14

第16回文化庁メディア芸術祭受賞作品展(まだ途中)

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル、メディア芸術祭。国立新美術館での内覧会にご招待いただいたので行ってきました。

http://j-mediaarts.jp/

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会期:2013年2月13日(水)~2月24日(日)
入場無料(全イベント参加無料)
メイン会場:国立新美術館
サテライト会場・シネマート六本木
 ・東京ミッドタウン
 ・スーパー・デラックス

主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会


メディア芸術祭に行くのは初めてだったので、大変面白く見ることができました。メディア芸術というものの括り、アートというのは本当に幅広いものだなと感じました。いくつか興味深いと感じた作品を取り上げてみます。


アート部門大賞「Pendulum Choir」
Cod.Act (Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD)(スイス)
http://j-mediaarts.jp/awards/gland_prize?locale=ja§ion_id=1

9人のアカペラと18の油圧ジャッキからなるオリジナル合唱作品。アカペラ歌手たちが、角度可変の台座の上に立ち、生きた音響要素となっている。歌手たちは様々な角度で上下左右斜めに動き、お互いぶつからないように気をつけながら、様々な音、抽象的な音や詩的な音まで発声する。それが重なり合う響きは荘厳で、まるで秘密めいた儀式のようで、とても美しい。でも、彼らは直立不動の状態で機械に縛り付けられているのだ。

ちなみに、この実演を目にすることができる。映像に出演した9人の声楽家と、装置付きで!もちろん無料。映像で見てもとても面白かったけど、生で観られるのはすごい。

2月14日(木)13:30~14:20/19:00~19:50
会場:東京ミッドタウン[ガレリア 地下1階 アトリウム]


アート部門 優秀賞 「Bye Buy」
Neil BRYANT(イギリス)

『Bye Buy』は、絶頂期にあった1950年代の消費主義、および消費者の表象をミックスし、現代のイメージや記号、コードと合成した映像作品。50年代のCM映像の登場人物の目を異常に大きくしたり、バーコードを挿入することによって、欲望の大きさを強調している。目を大きくするのは、最近のプリクラでも使われている技術だけど、実際目にすると結構怖いです。

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アート部門 推薦作品 『skinslides』
大脇 理智

ダンスに興味がある人にとっては面白いと感じられるだろう作品。床に並べられた3枚のスクリーンは「ダンサーを永久保存するためのインターフェイス」として考案された新しいダンス映像インスタレーション。ダンサー/振付家のアレッシオ・シルヴェストリンのパフォーマンスが映像化されている。、部屋内の観客をセンサーが感知し、次のシーンへと移行します。映像は55のショット用意されており、展開時に毎回異なる映像と音が選択され、自動的にダンスの振付けを生成するというもの。映像撮影はt15mmx1.8mx0.9m(畳サイズ)の透明アクリル下からダンサーの影をハイビジョンで撮影され、いわゆる劇場の舞台では観る事ができないダンサーの細かい筋肉の動きや息づかいを観ることができる。

http://newclear.jp/?p=90

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エンターテインメント部門 優秀賞 「勝手に入るゴミ箱」
倉田 稔(日本)
http://j-mediaarts.jp/awards/excellence_award?locale=ja§ion_id=2#item2

ゴミを投げるとゴミ箱自ら動いてキャッチしてくれる『勝手に入るゴミ箱』。壁に備え付けられたセンサーが投げられたゴミを検知して落下位置を予測。ゴミ箱はその情報を無線で受け取り、本体の底に設けられた車輪を回転させ、自ら移動してゴミをキャッチする。ゴミの検知にはゲームのモーションキャプチャなどに用いられるセンサーを応用し、ゴミの位置情報から運動軌跡を計算することによって落下位置を予測している。

本当に見た感じはただのゴミ箱なのに、ちゃんとゴミの軌跡を把握して移動するのは面白い!

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まだまだ面白いものがあったので、また明日追加します。

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2013/01/12

フランシス・ベーコン展でフォーサイス映像、オーディオガイドに熊川哲也

東京国立近代美術館で14日まで開催されている「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」を観に行ってきました。日本の近代美術の歴史を振り返る展覧会で、東京国立近代美術館が所蔵するすべての重要文化財13点を含む名品を一挙に公開したものです。日本画から現代美術まで質、量とも圧倒的な展覧会で、特に戦争画は凄惨なまでの迫力があり、中でも藤田嗣治の「アッツ島玉砕」「サイパン島同胞臣節を全うす」はあまりにも鮮烈でした。第二セクションの「1950's実験場」でも、土門拳の「ヒロシマ」は大変衝撃的で、日本の歩いてきた20世紀についていろいろと思いを馳せながら、日本の現状についても深く考えさせられました。

さて、この東京国立近代美術館の次回の特別展は、フランシス・ベーコン展です。(3月8日より)
http://bacon.exhn.jp/index.html

フランシス・ベーコンの展覧会は、2008年にテート・ブリテンで開催されたもの(その時の感想)、そして同じ内容が2009年のNY、メトロポリタン美術館で開催された回顧展を観て、暴力的なまでの表現の強さに、頭を殴られたような衝撃を感じて、その世界の虜になりました。デレク・ジャコビ、ダニエル・クレイグが出演した映画「愛の悪魔 フランシス・ベーコンの歪んだ肖像」も観ています。今回の展覧会は、企画内容は完全に日本オリジナルなのだそうです。ベーコンにとって最も重要だった「身体」に着目し、その表現方法の変遷を3章構成でたどろうとするテーマ展となっているとのこと。

というわけで、「身体」の観点から、ドイツのアーティストのペーター・ヴェルツが、同じくドイツを代表する振付家であるウィリアム・フォーサイスとともにつくった作品「Corps étrangers」が映像インスタレーションとして展示されるとのことです。アトリエに残されていたベーコンの絶筆をベースにして、フォーサイス自ら振付けて踊った映像をもとに、ヴェルツが制作した映像インスタレーションだそうで、ルーブル美術館で展示されたこともあるそうです。ベーコンとほぼ同時代に、そのエッセンスを鋭く捉えて吸収していた日本のダンス、土方巽の「舞踏(Butoh)」も映像で紹介されるとのこと。

ルーブル美術館での上演の解説(フランス語)
http://www.louvre.fr/expositions/corps-etrangers-toni-morrison-william-forsythe-peter-welzdanse-dessin-film

ピーター・ヴェルツ自身がアップした動画などもあります。

peter welz | william forsythe | retranslation | louvre from peter welz on Vimeo.

そういえば、今回の展覧会とは関係ありませんが、パリ・オペラ座バレエで上演されたウェイン・マクレガーの作品「Anatomy of Sensation」(世界バレエフェスティバルで「感覚の解剖学」として上演)も、フランシス・ベーコンの絵画に触発されて創られたものでした。

そして、チラシを見てちょっとびっくりしたのですが、音声ガイドではスペシャルナビゲーターとして熊川哲也さんが登場し、表現者ならではの視点でフランシス・ベーコン展を紹介しているんだそうです。
http://bacon.exhn.jp/ticket/index.html
(お得な音声ガイド付き前売り券も発売中)

熊川哲也さんのトークを聞きながらフランシス・ベーコンの作品を見るのも、大変面白い経験になるんじゃないかと思います。

展覧会名 フランシス・ベーコン展
会 期 2013年3月8日(金)‒ 5月26日(日)
会 場 東京国立近代美術館
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
東京メトロ東西線「竹橋駅」 1b出口 徒歩3分
開催時間 午前10時 ‒ 午後5時(金曜日は午後8時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし3/25、4/1、4/8、4/29、5/6は開館)、5/7

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若い頃のダニエル・クレイグが、ベーコンの恋人ジョージ・ダイアー役で出演しています。今回の展覧会でも、この映画の上映が予定されています。

2012/11/14

国立東京博物館 中国王朝の至宝展

東京国立博物館で開催されている、「中国王朝の至宝展」のブロガー特別招待会があったので、行ってきました。アッと驚くような秘宝が展示されていて、実に面白い展覧会でした。昔高校で勉強した中国史の記憶を紐解きながらの1時間は、大変充実したものでした。中国史の勉強、楽しかったなあ。

http://china-ocho.jp/

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最古の王朝である夏(紀元前2000年)から南宋(1200年)までのあいだの、中国歴代の王朝の都・中心地域に焦点を当て、それぞれの地域の特質が凝縮された代表的な文物を対比しながら展示するという手法によって、中国文化の核心に迫るという展覧会。国宝級の「一級文物」が60%を占めるという大変ゴージャスな企画です。近年になって出土したばかりの文物もあるというから凄い。(写真は主催者の許可を得て撮影しています)

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第一章 王朝の曙 蜀、夏・殷
夏・殷の時代といえば、日本ではまだ縄文時代だというのに、すでに高度な文明が発達していたことに驚く。中原にあった殷はバラエティに富んだ文化があり、酒器が大変多くて地下に宝物がザクザク埋まっていたとのこと。残念ながら文字は残っていない。一方、同じ時期四川にあった蜀時代の、黄金の仮面。実際にはごく小さいのだけど、金を薄く巧みに加工したもの。人の顔があるものは作らないというこの時代の原則に反する、大変珍しいものであるとのこと。蜀では、人の姿をした神や各種の動物を崇める文化があったとのこと。蜀やそのあとの楚の文明については、教科書には載っていないため知らない人が多い(当然私も知らなかった)

第二章 群雄の輝き 楚、斉・魯

春秋戦国時代。楚は謎に包まれている国で近年存在が確認された南方の強国、この時代の「羽人」は、ガマガエルのような台座の上に乗った鳳凰のさらに上に、一本足でおかっぱ頭、嘴と尾羽のあるの謎の人物が立っている摩訶不思議な像。一体何のために作られたのかも謎のアイテムである。

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一方、斉、魯は孔子の故郷であり、当時の文化の最先端であった。

第三章 初めての統一王朝 秦、漢

ようやくおなじみの秦、漢が登場。秦の始皇帝は絶対権力を持っていたが故に、反乱が起きて秦の時代は15年しか続かなかった。一方、漢は400年も続く大帝国で安定した時代が続き、東アジアに渡って大きな影響力を持った。始皇帝陵には、6000体もの兵士や馬の人形が埋められていた兵馬俑坑があり、一つ一つが顔の表情も違っている。ここに展示されている跪射俑(1999年出土)も、身長180センチと等身大で髪の毛の一本一本まで細かく描かれていて、表情も生き生きとしている。

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(この写真ではわかりにくいけど、実物はすごく大きいです)

一方、漢では身長60センチと小柄だが優雅な女性の姿をしている女性俑が副葬品として葬られていた。

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第四章 南北の拮抗 南朝、北朝

北朝は中国の原型であるのに対して、南朝は漢の貴族文化を継承している。北は石なのに対して、南は陶磁器のものが残されている。仏教が入り込んできたのもこの時期。また、東アジア最古のカットダイヤモンドなどの宝飾品も残されている。

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第五章 世界帝国の出現 長安と洛陽

唐王朝は、遣唐使などの往来があり、日本と最も結び付きが深い王朝だった。色鮮やかな三彩が出現したり、螺鈿が登場したり、今までの色彩感覚とは違ったものが登場した。立体表現が実にリアルで、美人観も変化している。女性像がとても豊満である。西洋にも通じる世界的な文化が唐文化である。また、渋い青磁が出現した。これは伝統文化への回帰を示している。

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第六章 近世の胎動 遼、宋

契丹族という北方民族の遼は、神を祀る行為自体をクローズアップしている北方文化の国。銀製の仮面は、よく見ると眉毛やまつげまで描き込まれている。金、銀が大好きでお経も銀で作ってしまうほど。また、唐三彩も遼が作ると、狩りの時の水袋に唐三彩の色を施すなど、独特のものへと進化させている。

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特別出品

阿育王塔 (北宋時代)

南京市で2008年に出土した新発見の黄金の仏塔で、世紀の大発見と呼ばれている。この種の遺品の中では最大のもの。これだけの装飾をかけたものはないという華麗な一品で、精緻な彫刻が施され文字も刻まれている。中国でも南京市博物館から外には出したことがないという、大変貴重な文物。このゴージャスさには思わず圧倒された。

駆け足ではあったが、東京国立博物館 学芸企画部長 松本伸之氏によるギャラリートークのおかげで、文化を対比する楽しみを味わいながら観ることができた。古代の人々の暮らしに思いを馳せ、彼らの精神史や感性を知ることができたのはとても貴重な経験だった。今回の展覧会は、ひとつの博物館から借りてきたわけではなく、中国全土各都市の博物館へ出向いて交渉して借りてきたという。日中関係の微妙な時期に、これだけの国宝級の逸品を一同に観ることができるのは大変な幸せでした。実は先週末に上海に行ってきたのだけど、時間がなくて全然博物館に行くことができなかったのが残念。でも日本でこんなお宝を目にすることができるとは!

会期:2012年10月10日(水)~12月24日(月・休)
会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
http://www.tnm.jp/
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜日は20:00まで開館。10月20日(土)は21:00まで開館)
休館日:月曜日 ※ただし12月24日(月・休)は開館
主催:東京国立博物館、中国文物交流中心、NHK、NHKプロモーション、毎日新聞社、朝日新聞社
後援:外務省、中国国家文物局、中国大使館
協賛:信越化学工業、大日本印刷、三井住友海上
協力:全日本空輸、東京中国文化センター

《巡回先》
神戸市立博物館 2013年2月2日(土)~4月7日(日)
名古屋市博物館 2013年4月24日(水)~6月23日(日)
九州国立博物館 2013年7月9日(火)~9月16日(月・祝)

2012/08/27

Bunkamuraザ・ミュージアム青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』

いつものバレエネタはしばらくお休み中なので、たまにはアートの記事を。

現在 Bunkamuraザ・ミュージアムにて、「国立トレチャコフ美術館所蔵・レーピン展」が開催されている(~10月8日まで)。
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_repin/index.html

2009年に同じくBunkamuraザ・ミュージアムにて、「忘れえぬロシア」展が開催されたが、ここで観たイリヤ・レーピンの作品がとても素晴らしく、レーピンの作品をまとまった形で観たいと思っていたところ、レーピン展が開催されることになった上、トークショーつきのスペシャル企画にも参加させていただいた。

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19世紀後半から20世紀初頭まで、ロシア絵画界を代表する巨匠として活躍したレーピン。文豪トルストイや作曲家ムソルグスキーの肖像画(死の10日前に描かれたという)を描いたことでも知られているため、ジャパンアーツのブログでも紹介記事が掲載されている。
http://ja-ballet.seesaa.net/article/282874796.html

今回の青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』では、人気アートブログ「青い日記帳」のTakさんがナビゲーターとなり、山下祐二氏(明治学院大学教授)と籾山昌夫氏(神奈川県立近代美術館 主任学芸員・本展構成者の一人)の対談を実施。籾山昌夫氏は、ロシア美術を研究されている数少ない研究者(実際両手の数に収まるしかいないそう)の一人ということもあり、たいへん興味深い話を聞くことができた。

籾山氏によれば、そもそも19世紀ロシア絵画を日本で観る機会自体が大変少なく、レーピンの作品そのものも、横浜美術館に1点所蔵されているのが確認されているのみだという。ほかに1点、とある社長の所有物があったのだが、その作品は盗難にあってしまったそう。レーピンの展覧会も70年代(日光荘主催で三越にて)と90年代に小樽にあったロシア美術館にて1度ずつ行われたのみで、今回ほどの本格的な展覧会は初めてとのことだ。

1844年~1930年というレーピンが生きた時代は、日本で言えば天保から昭和という長い時代に渡るのだが、ロシア革命後のレーピンの消息があまり伝わってこなかったこともあり、実は革命後の混乱期に餓死したのではないかというデマが日本で流れたそうだ。なぜレーピンをめぐるそんなデマが日本で流れたかというと、トルストイの肖像画を彼が描いていたということで彼の名は日本では知られており、「荒城の月」を作詞した土井晩翠が、そのデマを聞いてレーピンの死を悼む詩を詠んだりしていたとのこと。

だが、トルストイなどのロシア文学が日本でブームを呼んでいたにもかかわらず、今ひとつ彼の作品が日本に紹介されてこなかったのは、理由があった。文学や音楽は複製して簡単に輸入することができたが、絵画作品は1点限りであり、まだ写真技術も進んでいなかったのだ。さらに、レーピンの作品は上流階級の人々が購入したため、海外に出ることが極めて稀であった。

さらに、戦後美術の中心地がヨーロッパからアメリカへと移った。レーピンの代表作の中に「ヴォルガの船曵き」(今回の展覧会でも習作「浅瀬を渡る船曳き」が出展)があるが、社会主義的リアリズムの作品であり、彼自身が人民の画家というイメージがあった。冷戦時代となった際には、彼の作品は東側を代表するものとして米国の批評家には酷評されてしまったのだった。米国の代表的な美術批評家であるクレメント・グリーンバーグは、その代表作「アヴァンギャルドとキッチュ」(1939年)において、ピカソをアヴァンギャルドの代表とし、一方でキッチュの代表としてレーピンを挙げて批判したのであった。

今回の代表的な作品についての紹介がいくつか行われた。

「皇女ソフィヤ」。山下氏曰く「マツコ・デラックス」。ものすごい憤怒の表情を浮かべた皇女ソフィア、その幽閉された部屋の外には彼女を支持していた銃兵隊の処刑された死体がぶら下がっているという凄まじい作品で、中野京子氏のベストセラー「怖い絵」でも紹介されている。

「休息―妻ヴェーラ・レーピナの肖像」。レーピンの妻ヴェーラを描いた作品で、まだ20代という若さの彼女が可憐に眠る姿を描いているが、X線で撮影すると、元の絵では目を開いていたことが判明している。

「思いがけなく」。「放蕩息子の帰還」(レンブラント)的なモチーフの作品であるが、革命家が家に帰ってきた際の家族の驚きを描いている。ピアノを弾いている人がいるという比較的裕福な家庭。皇帝アレクサンドル2世の葬儀の写真と「ゴルゴタ」の絵が飾ってあり、また革命家の背後の扉の枠が十字架を思わせるところがある。

「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」。イワン雷帝が息子を杖で殴り殺すという衝撃的なテーマを描いた作品であり、ロシア史上、初めて皇帝の命令により地方美術館での展示から外すようにとされた作品である。その命令に反して作品は展示されたが、皇帝アレクサンドル3世の寛容性をプロパガンダするために、その命令は取り消された。

レーピンはモスクワに住んでいたのは5年間のみで、人生の大部分はサンクトペテルブルクで過ごした。(革命後はフィンランドへ移る)サンクトペテルブルグは、ロシアが西欧に向けた唯一の窓というべき都市であり、また皇帝の街であった。一方でモスクワはスラブ派の街であり、人民の街であった。皇帝の肖像画を描き、美術アカデミーの校長という地位にあったレーピンは、いかにもサンクトペテルブルク的なアーティストだった。

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今回は観覧時間は30分のみということで、あまりゆっくりと観ることはできなかったのだが、80数点という彼の作品はいずれも傑作ぞろいであり、しかもテーマ的にも多岐にわたっている。まず印象的なのは、レーピンの圧倒的なテクニックの高さである。今回の対談でも、レーピンは元々画力があるタイプと山下氏が評しているのも納得。実に絵が巧いのだ。「浅瀬を渡る船曳き」のような社会主義的リアリズムの作品があったと思えば、妻や息子、娘などを愛情豊かに丁寧に描いた作品もあり、また美術アカデミーの給費留学生として訪れたパリの影響を受け、印象派的な光の表現を使った作品もある。さらに、前述のムソルグスキーやトルストイを始め、「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」や、「イタリア人演劇女優エレオノーラ・ドゥーゼの肖像」など、芸術家を描いたゴージャスな肖像画も。その一方で「皇女ソフィヤ」や「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」(習作)、「ゴーゴリの『自殺』」のような、歴史的事件を圧倒的な迫力で描いた大作もあり、リアリズムという表現手法を取りながらも幅広いテーマがあって飽きさせない。この充実ぶりに、もう一度ゆっくり観たいと思った。

また、イヤホンガイドを借りたところ、ムソルグスキー、グラズノフ、グリンカなどの音楽も使用されているので、ロシア的な気分が一層盛り上がる。「展覧会の絵」を聴きながらムソルグスキーの肖像画を観るという経験は大変面白かった。スペシャル解説で、東京外国語大学学長の亀山郁夫氏の話を聴くこともできる。


会期
2012年8月4日(土)-10月8日(月・祝)  開催期間中無休

開館時間
10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)

会場
Bunkamuraザ・ミュージアム


巡回予定
浜松市美術館 2012年10月16日~12月24日
姫路市立美術館 2013年2月16日~3月20日
神奈川県立近代美術館 葉山館 2013年4月6日~5月26日


なお、今回の対談に参加された山下祐二氏は、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催される「白隠展」(12月22日~2013年2月24日)の企画担当であり、こちらの方も大いに期待できるとのこと。白隠の作品は国宝や重要文化財が1点もないことを逆にうまく利用して、大胆な展示を見せてくれるそうである。

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中野 京子

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2010/05/02

ジャンルー・シーフ写真展 Jeanloup Sieff UNSEEN and Best Works

東京都写真美術館で開催中のジャンルー・シーフ展に行ってきました。

http://www.jeanloupsieff-gip.com/news.htm

モード写真で一世を風靡した写真家のジャンルー・シーフが、キャリアの絶頂で急逝してから10年。遺族によって見直された未発表作品と、代表作を加えての展覧会。

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モデルの身体の一部を切り取ったフェティッシュなアンダーウェアの写真が印象的なジャンルー・シーフだけど、ここでは初期の報道写真(彼はかつてマグナムフォトにも所属)、風景や静物の写真もあった。

すごく面白いと思ったのは、風景や静物の写真であっても、まるで有機物であるかのような独特の質感、生命感が感じられたこと。サド侯爵の城の廃墟は言うまでもなく、ノルマンディの海岸や、金属製の食器ですらもそうなのだ。真骨頂であるファッション写真の妖しい美しさはいうまでもなく、モデルの肌の手触りや質感、体温が伝わってきて独特の官能がある。徹底的にモノクロ写真にこだわり、写真が光と影のアートであることを改めて思わせる、陰影の使い方や広角を使ったダイナミックな構図が素敵。また、モード作品の中には、動物とモデルの絶妙な組み合わせなどもあって面白い。

また、未発表作品、代表作ともポートレート写真がたくさんあって、バレエファンにとって嬉しいのは、ニコラ・ル=リッシュとローラン・プティが並んだ素敵なポートレート(1999年)があったこと。若いニコラがとても素敵。それから、代表作の中には、モーリス・ベジャールのポートレートも。こちらは何度も見たことがあるおなじみの写真。ポートレートには、若き日の、ほっそりとしていてとても美形なイヴ・サンローランや、ジェーン・バーキン、ジェーン・フォンダ、シャーロット・ランプリングを捉えた作品もあった。約180点の作品で構成されており、圧倒される。本人のセルフ・ポートレートを見ると、すごく魅力的な人物であったことが感じられる。

■会 場
東京都写真美術館地下1階展示室
■会 期
2010年3月27日(土)〜5月16日(日)
■開館時間
10:00〜18:00(木・金は20:00まで)

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