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バレエ公演感想

2019/07/19

KARAS APPARATUS 勅使川原三郎x佐東利穂子「幻想交響曲」

KARAS APPARATUSでは、現在、勅使川原三郎振付、勅使川原と佐東利穂子が踊る「幻想交響曲」を上演中です。

昨秋、フランス・リヨンにて、リヨン国立管弦楽団の 2018 年シーズンのオープニング演目としてベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」を、勅使川原と佐東利穂子がフルオーケストラで踊りました。今年の秋にはパリのフィルハーモニー・ド・パリでの上演が決定しています。こちらの作品を、アップデイト・ダンスシリーズ No.64として上演しています。

Updatedance64

   若者の情熱と絶望と陶酔、繰り返される激しいリズムや
   強烈な起伏が終焉に向かう。
バーンシュタインが
   「史上初のサイケデリック交響曲」と言った、早逝した
   天才ジミ ヘンドリクスの音楽を思う。

   若さが発する毒こそ「生」に「次」を与える。

                                                            勅使川原三郎

この曲は、私が若い頃から長年聴きつづけてきた音楽です。一般に標題音楽と呼ばれる一楽章ごとにタイトルがついている、ストーリーではないのですが、楽章ごとに意味がある曲です。創作や恋に悩む若い芸術家の揺れ動く内面を主題にしたもので、それ自体が作曲家ベルリオーズ自身を描写しているとも言われています。

その後もこの有名な曲をことあるごとに稽古場でかけては一人で踊っていましたが、長年の思いが叶い、去年リヨンのオーケストラ演奏で踊ることができました。もちろん佐東利穂子とのデュエットです。来たる秋にはパリのフィルハーモニーでも踊ります。その前にアパラタスで上演できることはとても嬉しいことです。

公演後の実感を書きます。この曲の起伏の激しい豊かな情感表現と異常な世界観が強烈に身体に衝突し我々踊る身にとっては引き下がれません。格闘し融和し、妥協無しの音調は終わりのない日々の延長のような道のりを用意された我々が向かうのは試練か稀有な陶酔か、音楽と心中するようでもあります。毒に犯されながら生きつづける人間の矛盾に火を放った後、不死に向かう命を得るために絶望の際を全速力で走り、足を踏み外して真っ逆さまに飛翔する。 

勅使川原三郎

_________________________________________
20190715-11605
そして「幻想交響曲」、3日目の公演を見てきました。ヨーロッパでしばらく単独活動をしていた佐東さんのダンスを久しぶりに観る機会です。ベルリオーズが阿片を使用しながら作曲したという、サイケデリックで強烈な交響詩。
勅使川原さんと佐東さんが交互に踊るが、勅使川原さんの静と佐東さんの動、陰と陽、とまるで対照的なダンス。冒頭の静かな動きの勅使川原さんに対して、最初からフルスロットルで飛ばす佐東さん。二人とも音楽そのものとなり同一化しての動きが神懸かり的で、特に佐東さんの今まで観たことがない鮮烈なダンスには震えるような興奮を覚えた。第5楽章「魔女の夜宴の夢」 での、魔女や魑魅魍魎が踊り狂う様を描いた激烈な曲での、最後のからみつくようなデュオは官能的で強烈で圧巻。違った動き、違った舞踊語彙なのに一緒に踊ると不思議な化学作用が起きて調和している。
20190716-43124-2
舞台装置はほぼなくて、照明も複雑なことはしていないけれども、逆光気味に勅使川原さんの輪郭が浮かび上がる照明は、まるで魔法のようだった。ベルリオーズの音楽のうねりに身をまかせるように、一つ一つの音を拾ってダンスにして、一心不乱に音楽の化身となって踊る佐東さんは、音楽の神のように空間を支配していた。珍しくジャンプする姿まで見られた。これほどのダンスを観る機会は稀有と言えるほど圧倒的で、魂が震えるような強烈な体験、観客の大喝采も起きた。秋にフィルハーモニー・ド・パリでも上演されるけど、生のオーケストラの演奏で観たらどんなに興奮することだろうか。ぜひ、オーケストラの生演奏で踊るこの「幻想交響曲」を日本でも観たい。
1920
 
 「幻想交響曲」アップデイトダンス No.64

出演 勅使川原三郎 佐東利穂子


演出・照明 勅使川原三郎

 【公演日程】2019年

7月18日(木) 20:00
7月19日(金) 20:00 

7月20日(土) 16:00
7月21日(日) 16:00
 

【会場】カラス・アパラタス/B2ホール

 【料金】

一般/予約 3,000円・当日 3,500円 
学生/予約・当日 2,000円

 
【予約】

・予約フォーム:https://www.secure-cloud.jp/sf/1560672582UNUfbiRw

・メール:updatedance@st-karas.com
件名を「アップデイト予約No.64」として、本文にご希望の日付・一般または学生・枚数・郵便番号・住所・氏名・日中連絡のつく電話番号をご記入ください
・電話:03-6276-9136


 【問合せ】TEL. 03-6276-9136 カラス・アパラタス

2018/01/21

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』

1月19日から劇場公開が始まっている、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』、試写で見せて頂きました。

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英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエは、前回上映された『不思議の国のアリス』がとても興行成績が良く、年明けにアンコール上映も行われました。今回の『くるみ割り人形』も、TOHOシネマズ日本橋では、異例の一日2回上映となっています。

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ピーター・ライト振付のロイヤル・バレエと言えば、定番中の定番。今までも映画館でも何回も上映されており、DVDもロイヤル・バレエだけで3回発売されているほどの人気ぶり。しかし、何回観ても観飽きない名作です。

【振付】ピーター・ライト
【音楽】ピョートル・チャイコフスキー
【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】フランチェスカ・ヘイワード(クララ)
サラ・ラム(金平糖の精)
ギャリー・エイヴィス(ドロッセルマイヤー)
スティーヴン・マックレー(王子)
アレクサンダー・キャンベル(ハンス・ピーター/くるみ割り人形)
ニコル・エドモンズ(ねすみの王様)
オリヴィア・カウリー、トーマス・モック、ナタリー・ハリソン、エリコ・モンテス、ハンナ・グレンネル、ケヴィン・エマートン(スペイン)
メリッサ・ハミルトン、リース・クラーク、デヴィッド・ドネリー、テオ・ダブロイル(アラビア)
レオ・ディクソン、カルヴィン・リチャードソン(中国)
トリスタン・ダイヤー、ポール・ケイ(ロシア)
エリザベス・ハロッド、ミーガン・グレース・ヒンキス、マヤラ・マグリ、ロマニー・パジャック(葦笛)
ヤスミン・ナグディ(ローズフェアリー)

最近、2016年に収録されたロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』のDVDが発売されました。ローレン・カスバートソンが金平糖の精、フェデリコ・ボネッリが王子ですが、それ以外の主要キャスト、クララ、ハンス・ピーター、そしてドロッセルマイヤーは今回と同じです。しかし今回の映画館上映の見所は、なんといっても金平糖の精のサラ・ラム、そして王子のスティーヴン・マックレーの『くるみ割り人形』での初共演です。この二人は今までも様々なバレエで組んできましたが、なぜか『くるみ割り人形』では初めてだとのことです。

そして、当然ながらこの二人のクラン・パ・ド・ドゥは天上の美しさと幸福感に包まれる、輝かしいものでした。サラ・ラムは昨シーズン大きな怪我に見舞われてしまい、久しぶりに踊る姿を観ることができましたが、ますます輝きを増しています。存在するだけで光り輝き、一つ一つの動きが気品に満ちていて精確。難しいヴァリエーションやコーダも易々と、一つ一つの音符に真珠の粒を当てはめて行くように載せていきます。光を放っているのだけど、同時にとても温かく優しく、クララを包んでくれます。マックレーは、持ち前の超絶技巧、特に伸びやかでスピーディなマネージュ、高速シェネで魅せてくれますが、その中にもやはり気品を保っているところが素晴らしい。そして音楽性は特に見事で、サラ・ラムとのパートナーシップも完璧。天国とはこんな風に見えるんだろうな、と思える美しさと幸福感の中に、ほんの少し哀切さが漂うメロディを聴くと、涙がじわ~とあふれてきます。

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クララ役のフランチェスカ・ヘイワードは、今までも何回か映画館上映の『くるみ割り人形』でクララ役を演じてきましたが、プリンシパルに昇進したこともあり、確実に成長しているのが見えます。全編出ずっぱりの中で闊達に、軽やかに踊る技術もさることながら、クララという少女の様々な想いが手に取るようにわかる演技力も素晴らしく、感情移入しやすい存在です。そして『くるみ割り人形』というバレエ作品の中でも、クララが成長していく様子が伝わり、ラストシーンのハンス・ピーターを見つめる姿にはほんの少しの妖艶さもあります。ちょっと庶民的で親しみやすい感じのハンス・ピーター=くるみ割り人形のアレクサンダー・キャンベルとの相性も良い。

ピーター・ライト振付の『くるみ割り人形』の良さの一つに、雪のシーンや2幕のディヴェルティスマン、花のワルツにもクララとハンス・ピーターが参加することがあります。雪の中を舞い踊るクララの幸福感、お菓子の国で繰り広げられる各国の踊りでも決してお客さんにとどまっているのではなく、一緒に踊ることで物語性を高くして有機的にストーリーがつながっていきます。金平糖の精が、グラン・パ・ド・ドゥを踊る前に温かい微笑みをクララに向けるのも素敵。

そしてロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』に決して欠かせないのが、ギャリー・エイヴィスのドロッセルマイヤー。この作品の実際のところの主役は彼です。甥のハンス・ピーターをねずみの王様によってくるみ割り人形に変えられてしまったことから、この物語が始まるわけですから。一挙一動が大きくスタイリッシュで存在感抜群、まるでロックスターのようなギャリーの立ち居振る舞いには惚れ惚れします。彼の指先から舞う金色の紙吹雪が、観客にも素敵な魔法をかけてくれます。今回は日本人ダンサーはあまり出演していませんが、花のワルツでのリード4人の中に、金子扶生さんの美しい姿が確認できました。

ロイヤル・バレエのダンサーたちは皆演技が達者だし、1幕のパーティシーンでも、キャラクターアーティストたちの演技や子役たちの演技が細かくて飽きません。クリスマスツリーが巨大化するスペクタクルも、毎回ワクワクさせられて、いつかは生で、コヴェントガーデンでこの『くるみ割り人形』を観たいという気持ちにさせられます。シームレスな展開で、実によくできた演出です。

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幕間の映像では、指揮者のバリー・ワーズワース、主演のスティーヴン・マックレー、サラ・ラム、芸術監督ケヴィン・オヘアらのインタビューもあり、また初演キャストであるレスリー・コリアがサラ・ラムやスティーヴン・マックレーを指導する様子を観ることもできます。公演前には、フリッツやねずみたちを演じるロイヤル・バレエスクールの生徒である子役たち、彼らを指導するクリストファー・カーのインタビューも。フリッツ役は3人のダンサーが配役されているそうで、この日演じたキャスパー・レンチは昨年に続いてのフリッツ役だそう。

デジタルプログラム(細かい配役、リハーサル映像、写真など) プロモコードFREENUTを入力すること
http://www.roh.org.uk/publications/the-nutcracker-digital-programme

とにかく、以前にも映画館で『くるみ割り人形』を観た人にも、バレエを初めて観る人にも、とても楽しくてキラキラしていて幸福な2時間40分が味わえる劇場体験となる作品です。

北海道 ディノスシネマズ札幌 2018/2/17(土)~2018/2/23(金)
宮城 フォーラム仙台 2018/1/20(土)~2018/1/26(金)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
愛知 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
神戸 TOHOシネマズ西宮OS 2018/1/19(金)~2018/1/25(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2018/1/20(土)~2018/1/26(金)

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2017/12/09

勅使川原三郎 KARAS「イリュミナシオン-ランボーの瞬き- 」

今年のKARAS APPARATUS開館4周年記念作品 アップデイトダンスNo.48. フランスの詩人アルチュール ランボーの詩集「イルミナシオン」(1874)を基にしたダンス作品が「イリュミナシオン-ランボーの瞬き」。アップデートされてシアターXで再演されました。日曜日まで上演中です。





夏の東京芸術劇場での「月に吠える」では萩原朔太郎、秋のパリ・オペラ座での「Grand MiroIr」ではボードレール。そして今回のランボーと、ここのところ勅使川原さんは、詩をダンスで表現する方法を模索しているようだが、本作こそ、「詩は文章にはできない」と朔太郎が語った言葉を受けての、ムーブメントで詩のエッセンスを伝えることに成功しているように思えた。

シアターXに場所を移した「イリュミナシオン」、APPARATUSでの初演も凄かったけど、再演の今回、本当に何かが降りてきたようだった(勅使川原さんは、途中、本当に舞台から降りていたけど)シアターXに場を移し舞台が広くなった分、ダンスのスケールも大きくなり、舞台装置も入って、空間の切り取り方も面白くなった。ロック、ノイズそしてベートーヴェンをリミックスした音楽、構成も変化してよりダイナミックに。

黒板に憑かれたように詩を書き殴る姿、創作の苦しみ、天啓を得る様子、挫折などを通して芸術を生業とする人間の業と矜持を感じさせるものだった。言葉に、そして音楽にも翻弄される芸術家が生み出すリズムがダンスのリズムへとなっていき、そして時空が歪み移動し、パリに、さらに別の次元へも飛んでいく。魔術師のように空間も時間も操っているかのようだった。

今更ながら勅使川原さんの身体の動きのキレも音楽性もすさまじく、現実にありえないような動きまで見せている。打ちのめされる気迫。現実には60代の彼が、若者の姿に見えてくる。舞台の隅に佇む黒衣の佐東利穂子さんは、さしずめミューズか、見守る守護天使か、はたまた死の天使か。芸術家/詩人/舞踊家としての鮮烈な生きざまが投影された文字通り渾身の踊り。

今観るべきダンス、表現はこれだ、と言い切ることができる。帰り道もこの世界から抜け出すのが難しく、ふわふわとした頭のまま帰途についた。

**************

「イリュミナシオン」-ランボーの瞬き-

構成・振付・照明・美術・衣装・選曲 / 勅使川原三郎

出演 / 勅使川原三郎 佐東利穂子

【日程】
12月 6日(水) 19:30
7日(木) 19:30
9日(土) 16:00
10日(日) 16:00
*8日(金)は休演日

【劇場】
東京・両国 シアターX

【チケット料金】
一般前売り 4,000円  当日 4,500円
*学生・シニア(65歳以上) 2,500円 *学生・シニア券は各回20枚限定・先着順、取扱はKARASでの前売りのみ。入場時に学生は学生証・シニアは健康保険証等年齢が証明できるものをご提示ください。

・KARAS / メール : ticket@st-karas.com
FAX : 03-5858-8089
     *公演日時・枚数・氏名・住所・電話番号を明記してお送りください。

・シアターX / 電話 : 03-5624-1181

【問い合わせ】KARAS(カラス)
電話 : 03-6276-9136
ホームページ : http://www.st-karas.com

*******************
2018年
アップデイトダンスNo.50

「ビグマリオンー人形愛」
KARAS APPARATUS新春第一弾です。





祝2018年 年初めのアップデートダンス「ピグマリオンー人形愛」

自動筆記=両性具有のダンス 二重に歩く者たち

幻想と実象の世界が錯綜する身体奇譚

我 二重の夢に往く
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アップデイトダンスNo.50
「ピグマリオンー人形愛」

出演 佐東利穂子
出演・演出・照明 勅使川原三郎

【日時】2018年
1月5日(金)20:00
1月6日(土)20:00
1月7日(日)16:00
1月8日(月・祝)16:00
1月9日(火)20:00
1月10日(水)20:00
1月11日(木)20:00
開演30分前より受付開始、客席開場は10分前

【会場】カラス・アパラタス/B2ホール

【料金】(全席自由)
一般 予約 3000円 当日3500円 学生2000円(予約,当日共に)

【予約】メール updatedance@st-karas.com 
件名を「アップデイトNo.50」として、本文にご希望の日付・一般または学生・枚数・郵便番号・住所・氏名・日中連絡のつく電話番号をご記入ください。

予約は各回前日の24時まで受け付けています。

【問合せ】TEL. 03-6276-9136





2017/10/20

10/7 K-Ballet Company 「クレオパトラ」

熊川哲也さんが満を持して取り組んだ、初めてのオリジナルストーリーによる全幕バレエ『クレオパトラ』。

http://www.k-ballet.co.jp/performances/2017cleopatra

『クレオパトラ』のバレエ化といえば、1908年初演の、ミハイル・フォーキン振付、レオン・バクスト美術によるバレエ・リュスの作品があり、クレオパトラ役はイダ・ルビンシュタインが演じていたのだが、ストーリーなどは今回の熊川版『クレオパトラ』とは全く異なるもののようである。
https://nga.gov.au/exhibition/balletsrusses/default.cfm?MnuID=3&GalID=3

古典バレエ偏重の日本にあって、オリジナルの全幕作品を一から作り上げ、音楽も自身で探してきて、公演回数も多く設定するという大胆な賭けに出たところ、中村祥子さんが主演の日についてはチケットがソールドアウトを記録するという実績を上げた熊川さん、流石である。

クレオパトラ 浅川紫織
プトレマイオス 篠宮佑一
カエサル スチュアート・キャシディ
アントニウス 栗山廉
オクタヴィアヌス 杉野慧
ブルータス 石橋奨也
オクタヴィア 小林美奈
ポンペイウス ニコライ・ヴィユウジャーニン
案内人 佐野朋太郎
選ばれた神殿男娼 堀内將平
クレオパトラのお付き
 第一ヴァリエーション 矢内千夏
 第二ヴァリエーション 毛利実沙子
 第三ヴァリエーション 辻久美子
 第四ヴァリエーション 大井田 百

「クレオパトラ」は一言で言えば大人のバレエ。殺人、陰謀、そしてセックスと、日本のバレエではなかなか観られないものが観られる。熊川さんが「殺人が許されるのは劇場の中だけ」と語っていたとのことだけど、確かに人殺しのシーンを様々な演出で何回も登場させていた。ストーリーも、史実には基づいているものの、謎に包まれているクレオパトラの生涯とキャラクターをかなり自由な発想で作り上げている。歴史上の女性としては非常に有名なクレオパトラを主人公とすることで、日本国内にとどまらず世界のマーケットで通用する作品を作ろうとした意気込みを感じさせる作品だった。

1幕では、クレオパトラを取り巻く人物、弟のプトレマイオス、対立するカエサルとポンペイウスの争いが描かれる。クレオパトラは、才知に優れている一方でとても官能的な女性として描かれている。中でも印象的なのは、6人の神殿男娼の中からお気に入りを選び、情熱的な一夜をすごしたのちに毒殺するという衝撃的なシーン。日本のバレエでこれだけ濃厚なエロティックなシーンが観られるとは。いつもは清純な印象の強い浅川さんの悪女ぶりが際立った。絨毯に巻かれた姿でカエサルの前に現れるというドラマティックな場面も効果的に演出されていた。男性ダンサーたちの踊るシーンは、ニールセンの複雑な音楽によくぞここまで細かく振付けたという難しいパで構成されていたけれども、それを見事に踊りこなすダンサーたちの技量は素晴らしい。

一方で登場人物が非常に多いので、観る前にある程度登場人物の人間関係とあらすじを頭に入れておいた方が、舞台に集中できると感じた。クレオパトラのお付きの女性たちが一人ずつヴァリエーションを踊るシーンがあるのだけど、それぞれ技術的には素晴らしいのだけど、個々のヴァリエーションが印象に残りにくいものとなっていて、やや冗長に感じられた面もある。エジプト的なポーズというのは、バレエ的に美しく決めるのが難しいので、その辺をどうやってうまく融合させるかというのも振付家の手腕の見せ所。熊川さんはこの点は健闘していたけどさらに良くすることもできるように感じられた。

2幕は、カエサルと結ばれ幸福に暮らすクレオパトラだったが、カエサルは政敵に暗殺される。この暗殺シーンの演出は緊張感にあふれ非常にドラマティックで熊川さんの演出の手腕が光る出色のシーン。そしてカエサルの後継者オクタヴィアヌスと、カエサルの右腕だったアントニウスのライバル関係。クレオパトラと恋に落ちるアントニウス。オクタヴィアヌスの妹オクタヴィアを裏切ってクレオパトラの元に走ったアントニウスをオクタヴィアヌスが追いつめ、やがて終幕へ。非常に盛り上がって面白かった。

そして『スパルタクス』を思わせるようなローマ軍の勇壮な男性群舞がダイナミックな跳躍を繰り広げ、またアントニウスとオクタヴィアヌスがシンクロするように、競うように踊るところも見ごたえがあった。クレオパトラが果てるラストシーンのドラマティックさも圧倒的だった。アントニウスの死に慟哭し、覚悟を決めたかのように激しく踊る浅川さん、ここでは渾身のソロから堂々とした最期まで魅せてくれた。

衣装とプロダクションデザインが素晴らしい。クレオパトラは蛇の化身という設定で、衣装の下に、キラキラ光るフィッシュネットのようなものをまとい、それが蛇の鱗を思わせた。長いチュールを外すとボディスーツのようになっていて、浅川さんの長い肢体、肉体美が映える。舞台美術は、メトロポリタン・オペラやミラノ・スカラ座の舞台美術をデザインしてきたダニエル・オストリング。古代ローマやエジプトの雰囲気を巧みに取り入れながら、シンプルながら力強くドラマ性を盛り上げるもので、特に最終場面の装置は、作品の大団円を迎えるのにふさわしい象徴性のあるものとなっている。

音楽はカール・ニールセンの劇音楽「アラジン」。バレエ音楽として作られているわけではなく、この音楽に合わせて踊るのは大変そうだし、オープニングとラスト以外は耳に残るような曲は少ないけど、エキゾチックさがあって作品の世界観にはとてもよく合っているし、ラストの畳みかけるような盛り上げ方はとても効果的だった。作品の世界へと連れて行ってくれる音楽を見つけてきた熊川さんは凄い。

クレオパトラ役の浅川さんは、堂々たるヒロインぶりで、強さと美しさ、魔性の中に、政争に流されるヒロインの悲劇性、蛇の化身ならではの神秘性などを見せてくれた。このキャラクターのいろんな面を見せなければならないし、非常に多くの男性キャラクターとの踊りもあるので、深みのある感情表現を見せるのは難しい作品である。ラストシーンでの決意を込めた、力強い慟哭の踊りは鮮やかな印象を残すもので、公演を重ねるごとにどんどん表現も深くなっていくのではないかと思わせた。男性ダンサーが充実しているK-Balletだからこそ、これだけ男性キャスト中心の作品を作ることができるのではないだろうか。その中で、成熟した男性ならではの色気を感じさせたカエサル役のスチュアート・キャシディが特に魅力的だった。そして道化的な存在である案内人は、若手の佐野朋太郎さんが好演。すばしっこく軽やかでいいアクセントを作品に加えてくれた。

かなりの上演回数がある『クレオパトラ』の中で、2回目の公演、しかもこのキャストの初日ということもあり、時々スムーズにいかない部分はあったりしたが、これも上演を重ねていく中で完璧に近づいていくものと思われる。中村祥子さんの出演日がすべてソールドアウトということで観ることができないのが残念。公演の後半も観て、ダンサーたちが作品により馴染んだ後の上演も観たかった。あとは印象に残って、そこだけ取り出してもコンサートピースになるような象徴的なパ・ド・ドゥがあればもっと良かったのではないだろうか。

とにかく完全オリジナルで、これだけ娯楽性が高く、日常を離れて古代エジプトへとタイムトラベルさせてくれるような豪華な作品を作り上げた熊川哲也さんと、K-Ballet Companyには拍手を贈りたい。そしてこの作品が再演を重ねて行ってより完成度を高め、いつかは海外ツアーも行うことができれば良いと思う。世界市場に通用する、堂々たる作品の誕生を目撃できた。


演出・振付:熊川哲也
音楽 カール・ニールセン
衣装 前田文子
舞台美術 ダニエル・オストリング
照明 足立恒
指揮 井田勝大
演奏 シアターオーケストラトーキョー

2017/09/12

ブロードウェイミュージカル「ファインディングネバーランド」

ピーターパン誕生の実話に基づき、ジョニー・デップ主演で映画化した「ネバーランド」のミュージカル化「ファインディングネバーランド」のブロードウェイのプロダクションが現在、シアターオーブで来日公演を行っています。

http://findingneverland.jp/

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1904年。新作が書けなくて苦しむ劇作家バリが、公園で出会った4人の子どもたちとその母シルヴィアに出会う。父親を亡くして悲しみに心を閉ざした子どもたちの心の扉を開き、彼らと交流を深めるうちに、バリは次第に子どもの心を取り戻して触発され、彼はピーターパンの物語を書くことになる。

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(c)Jeremy Daniel

「ピーターパン」という作品の着想がどのように得られて、舞台として誕生していくかのプロセス、そして紆余曲折を経て初日を迎えるまでを目撃することができるこの作品は、劇場賛歌、演劇賛歌であり、特に舞台人にとってはぐっとくる描写、舞台への愛にあふれている。舞台の魔法がここにあるんだ、と改めて、劇場で舞台を観に行く理由を再認識することになる。

バリが書き上げた「ピーターパン」のあまりの奇抜さに驚くキャストやスタッフは、やけくそを起こしてパブに繰り出して大騒ぎをする。そこで子供の心に還って自由奔放に「PLAY」と遊びまわり歌が現れる時、「演劇」って「PLAY」なんだなと実感した。演劇って本来、楽しいことだし、出演者も楽しまなくては!

「ピーターパン」の初日が明けた後、シルヴィアの病気のために観に行けなかった子供たちのために、出演者たちは初日の後、シルヴィアの家で舞台を再現する。切ないんだけど最高にあたたかくて素敵だった。本当に演劇って、魔法なんだと実感させられる。ピーターパンとウェンディが空を飛ぶところは、共演者が扮する黒子にリフトさせることで表現。アナログなところがまたリアリティがあっていい。

そしてシルヴィア役のクリスティン・ドワイヤの豊かで美しい歌声が心を打つ。キラキラした光の渦に、歌うシルヴィアが包まれる場面は本当はとても悲しいシーンなのに、あまりの美しさで深く感動をしてしまう。シルヴィアはとても強い女性だ。

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(c)Jeremy Daniel

バリに触発されて、子供たちのひとり、父の死に一番傷つき心を閉ざしているピーターが自らも物語を書き始めるというエピソードは「フィクションの力」と希望を感じさせる。大人になりたくない「ピーターパン」の名前は、彼からとったものだった。スプーンに反射した光を見てティンカーベルという妖精を誕生させたというエピソードが素敵。その存在を疑われると妖精は弱って消えてしまうという設定は、ファンタジーの持つ力を象徴させている。バリを叱咤激励するフック船長や、ピーター・パンの世界のワクワクさせられるビジュアル化表現も秀逸。

子どもたちの無限の可能性と夢みる気持ち、何事にもとらわれない想像力でなんだってできるってこと、でも一方で人生では、一生懸命願っても叶えられないこともあるということも、様々なイマジネーションを駆使した演出や効果で描いてくれてる。想像力に翼が生えてどんどん広がっていく様子を舞台の魔力を使って魅せてくれる。

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(c)Jeremy Daniel

愛らしく芸達者な子役や犬なども登場するけれども、人生の苦さと悲しみもこの作品は描いている。妻とすれ違うバリと、4人の子どもを抱えた未亡人であるシルヴィアとの関係が噂になる。シルヴィアと母との確執、父を亡くした子どもたちの心の傷、そしてシルヴィアの病。

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(c)Jeremy Daniel

一方で、スランプに陥ったバリを温かく見守り信じて支えるプロデューサーのフローマン(彼を演じるジョン・デイビッドソンがフック船長としても登場するというキャスティングがいい)や、舞台の出演者たち、ステージマネージャーのエリオットなど、脇キャラクターもそれぞれ魅力的。

音楽は、テイク・ザットのメンバーであるゲイリー・バーロウで、楽曲も美しく親しみやすくて素晴らしいし、ブロードウェイでのオリジナルキャストによる出演者たちの歌も、それぞれ役を体現していて魅力的で聴きごたえがある。振付のミア・マイケルズは、テレビ番組「アメリカン・ダンス・アイドル」やセリーヌ・ディオン、プリンス、マドンナの舞台などで知られる。エグゼクティブ・プロデューサーは、「ネバーランド」始め数々のヒット映画を世に送り出したハーヴェイ・ワインスタイン。

トニー賞受賞式でのパフォーマンス (今回のキャストとは異なる)

シルヴィアの部屋での「ピーターパン」パフォーマンスのシーンから涙が止まらなくなり、「だから生の舞台は素晴らしいし、足を運ばなければ」と実感。大きな感動を味わった。終演後は観客が総立ちとなったのは言うまでもない。リピーターチケットを買い求めるお客さんの長い列もあった。

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(カーテンコールは撮影可)

J.Mバリ : ビリー・タイ
シルヴィア : クリスティン・ドワイヤー
チャールズ・フローマン/ジェームズ・フック船長 : ジョン・デイビッドソン
デュ・モーリエ夫人 : カレン・マーフィー

【演出】ダイアン・パウルス
【作曲・作詞】ゲイリー・バーロウ、エリオット・ケネディ
【脚本】ジェームズ・グラハム
【振付】ミア・マイケルズ


ブロードウェイミュージカル「ファインディング・ネバーランド」は9月24日(日)まで東急シアターオブにて上演。チケット発売中。強くお勧めします。

なお、石丸幹二主演にて、2019年日本版「ファインディング・ネバーランド」上演が決定しています。

2017/09/10

9/1 NBAバレエ団「HIBARI」/The River

2015年6月に初演して大好評を博した、NBAバレエ団の「HIBARI」が再演となった。日本では、バレエの新作の再演というのはなかなか難しいようで行われることがあまりないのだけに、快挙と言える。今年はひばりさんの生誕80周年という年でもある。

http://nbaballet.org/performance/2017/hibari/

初演の時にも観ており、その時の感想をかなり詳しく書いているので、こちらも併せて読んでいただければ。
http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2015/06/nbahibari-f758.html

大筋においては前回と演出は変わっていないのだけど、今回ナビゲーターは和央ようかさんに代わり、ミュージカルで活躍する綿引さやかさん。持ち前の清潔感と共に、歌唱力、華やかな存在感ともあって、しっかりと作品の世界の中に導いてくれる役割を果たしてくれた。

そして何より、NBAバレエ団によるパフォーマンスがパワーアップ。出演者の多くは前回も出演しているメンバーだけど、よりひばりさんの歌への理解が深まったような感じで、歌詞だけでなく、ひばりさんの人生における様々な想いを体現していた。技術的にも向上していて、このバレエ団が上り調子であることがうかがえる。出演パートがとても多くて、バレエ団の主力ダンサーほとんどが出演する作品であり、バレエ団の魅力も存分に味わえたし良いショーケースとなっている。

NBAバレエ団を惜しまれながら退団した岡田亜弓さんが「リンゴ追分」と「おまえに惚れた」で特別出演。桜色の着物ドレスに身を包んだ群舞を従えてキラキラした光を放つ若かりし日のひばりさんに扮した。躍動感あふれる「お祭りマンボ」では、前回も大活躍した高橋真之さんに加えて、スターダンサーズバレエ団から移籍した安西健塁さんが軽やかな跳躍、鮮やかな回転テクニックを披露。そして次々と愛する家族を失い孤独に打ちひしがれるひばりさんの苦悩を表現した「悲しい酒」の関口祐美さん。黒い布を効果的に使った独創的な振付の中で、身を引き裂かれるばかりの悲しみと孤独を、現代的に表現した。振付を行ったリン=タイラー・コーベットの舞踊語彙の豊富さ、まるでブロードウェイミュージカルのような華やかさとエンターテインメント性は、バレエファン以外にも受け入れられるものだ。

こうやって改めて観て/聴いてみると、ひばりさんの歌というのはダンサブルでモダンな感覚があること、そしてその歌声の多彩さと歌のうまさを実感する。「リンゴ追分」の東京ドームヴァージョンの現代的なアレンジは、病に倒れた後の彼女の復活のステージだけど、とても迫力があった。別れなど孤独を味わい、病に倒れて52歳という若さで亡くなった彼女だけど、この作品の幕切れはそれでもファンを愛し、愛されて幸せだったひばりさんの人生への賛歌として明るく終わっているところがいい。

リン=タイラー・コーベットは、「ガチョーク賛歌」の振付指導で来日した時に偶然ひばりさんについてのドキュメンタリー番組を観て、彼女に魅せられたという。それまであまりひばりさんを知らなかくて、ファンや関係者に遠慮しないで自由に創ったのが功を奏している。今回、海外から日本を訪れた外国人の方たちと観たのだけど、日本語のナレーションも理解できなければひばりさんのことももちろん知らなかったものの、大体の流れは理解していたし、彼女がエディット・ピアフのようなカリスマ性の高く悲劇にも見舞われた人生だったことも良く伝わってきて楽しんだとのこと。ナレーションを英語にして、海外で上演しても受け入れられる作品だと思う。

今回の再演は、初演を観て作品を気に入ったひばりファンの方々が、もう一度観たい、できればDVDも発売してほしいという願いに応えたものだそう。実際、ひばりさんのファンと見受けられる方も多数客席におり、アップテンポの曲では手拍子を送るなどして、とても作品を楽しんでいたようでこちらも嬉しくなってしまうし、そのうちの何人かはバレエの魅力を知って別のバレエ作品を観に来てくれることだろう。「HIBARI」はレパートリーとして大切に踊り継いでほしい作品だ。


同時上演は、アルヴィン・エイリー振付の「The River」日本のバレエ団による初演とのこと。デューク・エリントンが曲を書き下ろし、アメリカン・バレエ・シアターのために振付けられた作品。

人生を川になぞらえ、命が生まれてから生まれ変わるまでを描いた作品。生命が生まれる泉(spring)、ロマンティックな湖(Lake)、パワフルな滝(Falls)、激しい回転のある渦(Vortex)、喜びを表現した急流(Giggling Rapids)、といったパートで構成されている。ABTに振付けられているため、エイリーの作品にしてはクラシック・テクニックをふんだんに盛り込んでいるけど、音楽はエリントンのジャズだし、モダンダンスの感覚も取り入れられている。峰岸千晶さん、三船元維さんによる美しい”湖”、高度な技術を使った竹田仁美さん、新井悠汰さんによる”急流”も印象的だったけど、回転が多くて風を切るようなスピード感あふれるソロVortexを踊った勅使河原綾乃さんの踊りが、シャープで自信にあふれてセンセーショナルだった。このVortexは映画「愛と喝采の日々」の中で、主演したレスリー・ブラウンが踊っている。

なかなかアルヴィン・エイリーの作品は日本では上演されないし、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターも長いこと来日公演を行っていないので、貴重な上演だった。こちらもぜひカンパニーのレパートリーとして定着させてほしい。


2017/08/27

勅使川原三郎「月に吠える」

フランスの芸術文化勲章オフィシエを受章した勅使川原三郎「月に吠える」、3日目に行って来ました。

勅使川原さん、毎回なぜこんなアイディアが思いつくのかと驚かされるのが楽しみだが、今回も裏切られなかった。萩原朔太郎の詩に現れた様々な、不気味なのに美しいモチーフがダンサーたちによって体現され、勅使川原さんが病んだ心を持つ朔太郎その人なのか。

鮮やかな色彩の衣装、シンプルながら効果的な装置。奥行きのある東京芸術劇場の舞台機構を生かし、定評あるドラマティックな空間演出、舞台照明も鮮烈。光のチューブがうねうねと曲げられていて、強烈な印象を残す。

「月に吠える」の一節「天上縊死」を思わせる吊り下げられて横移動するダンサーたち。3人が虫けらのように横たわって地を這っているオープニングでの姿、そんな一瞬一瞬すべて、どこを切り取っても美しい。3人のダンサーの絡み合うカオス的な踊りも、言葉を失うほどの造形美。

勅使川原さん独特のボキャブラリーを見事に咀嚼しかつ個性もあるゲストダンサー、マリア・キアラ・メツァトリとパスカル・マーティと姿も美しい二人、作品そのものを動かし進ませる力のある鰐川枝里さん、気高く孤独な月を思わせる圧倒的な佐東さん、「青白いふしあはせの犬」を思わせる勅使川原さんの踊りも切れ味鋭い中でもしなやかで力みがなく、ダークな世界観の中でもふと心を癒す力がある。

朔太郎自身が「詩は文字では書ききれない」と言っていたが、ダンスも具体的な物語を描いていなくとも、今の時代においても新しく、人の心を捉えて離さない「月に吠える」の歪んでいて醜悪ながらもとてつもなく美しい世界を体ていた。4日間の公演期間の間にも確実に作品は進化しているんだろう、この先の進化も見届けたいと感じた。

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©︎Akihito Abe

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©︎Akihito Abe

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©︎Akihito Abe

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©︎Akihito Abe

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「月に吠える」

振付・照明・衣装・選曲・出演:勅使川原三郎

出演:佐東利穂子 鰐川枝里 マリア・キアラ・メツァトリ 
   パスカル・マーティ(イエテボリ・オペラ・ダンス・カンパニー)

【公演日時】2017年
8月27日(日)16:00

【劇場】
東京芸術劇場 プレイハウス

料金 *全席指定席
当日券は15時00分から劇場入口で販売
当日券はS席5,500円、A席3,500円のみ

http://www.st-karas.com/camp2017/

2017/04/19

YAGPガラ2017 "Stars of Today Meet the Stars of Tomorrow"

YAGPのファイナルの翌日は、恒例のガラ"Stars of Today Meet the Stars of Tomorrow"。

こちらは、第一部はYAGPの入賞者と、入賞していなくても注目を集めたダンサーが踊るというものです。

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"Stars of Today Meet the Stars of Tomorrow"

Brady Farrar プリ・コンペティティブ部門 ホープ賞 「タリスマン」
Linyue Zao 「Room」
Avery Gay(2016年プリコンペティティブ2位、グリシコ賞)、Antonio Casalinho(2016年ジュニアグランプリ賞) 「コッペリア」グラン・パ・ド・ドゥよりコーダ 
Classical Dance Academy 「Existence」
三宅琢未 ジュニア部門1位 「白鳥の湖」ヴァリエーション
Jan Spunda シニア部門3位、ダンス・ヨーロッパ誌 傑出した芸術性賞 「Swan」
Chloe Misseldine シニア部門2位 「ドン・キホーテ」より森の女王のヴァリエーション
Diogo Do Oliviera シニア部門TOP12 「Terra」
Madison Penney ジュニア部門 グランプリ 「エスメラルダ」
Luciano Perotto シニア部門TOP12 「ラクリモーサ」
倉智太朗 シニア部門1位 「ドン・キホーテ」

この時点では入賞者が発表されていなかったのですが、三宅さんと倉智さんがここでも踊ったということで、おそらくは入賞しているのだろうと思いました。特に倉智さんはトリだったし、ここでもずば抜けたパフォーマンスを見せ、一番盛大な歓声を受けたので、グランプリかなと思ったのです。ここで登場する皆さんは、すべてさすがの実力の持ち主でした。チェコ出身でENBのスクールに留学中のJan Spundaは、瀕死の白鳥の音楽で、男性版白鳥を踊りましたが、非常に美しく表現力があって、傑出した芸術性賞を受賞したのも納得です。ファイナルでは全員古典のヴァリエーションを踊りますが、こちらのガラでは、コンテンポラリーを踊った人も4人いて、やはり今のダンサーならコンテンポラリーを踊ることができないとだめだというのを実感しました。

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また、YAGPの特別功労賞が、元バレエ・ウェストおよび元ボストン・バレエの芸術監督で、ジャクソン国際コンクールの審査委員長を務めるなど活躍したブルース・マークスに贈られました。ABTとデンマークロイヤルバレエのプリンシパルとして活躍したのち、二つの重要なカンパニーの芸術監督を務め、さらにジャクソン国際コンクールだけでなくローザンヌ国際バレエコンクールなど多くの国際コンクールの審査員を務めました。80歳の今も、振付家、教師、NEA(全米芸術基金)のパネルメンバーとして活躍しています。賞のプレゼンターは、ニーナ・アナニアシヴィリでした。ニーナは、ジャクソン国際コンクールで初めて受賞した旧ソ連出身のダンサーだったのです。まだまだ若々しいマークスは、最後に、今危機に瀕しているNEAと芸術の重要性についての感動的なスピーチを行い、ともに立ち上がり戦いましょうと訴えました。

パート1の最後はグラン・デフィレ。アンサンブル部門を含むファイナリスト全員、300人もの出場者が踊ります。ニューヨークに来てからの短い期間で全員で合わせて練習するのですが、とても壮観です。最初はシニアから、次にジュニアの子たちが登場し、真ん中で数人のダンサーが踊ったり、フィナーレは1人の小さな少女ダンサーが男性たちにリフトされます。途中で倉智太朗さんが真ん中の中の真ん中を踊っていて、流石にとてもテクニックの切れ味があるので目立ちました。


パート2は、YAGPの出身者を含む世界のスターたちによるガラ公演です。


「回転木馬」Carousel(A Dance) 振付 クリストファー・ウィールドン、音楽Richard Rodgers
タイラー・ペック、Zachary Catazaro (ニューヨークシティ・バレエ)

ウィールドン振付の「回転木馬」は、とてもミュージカル的な作品だけど、リフトもたくさん登場していて、ロマンティックなムードがある。特に後ろ方向へと駆けていって持ち上げられるなど、パートナーリングが難しい作品なのだけどそのような難しさは全く感じさせなかった。全幕作品ではないのだが、全体を観てみたい作品だ。Zachary CatazaroはYAGPの2002年、2003年のジュニア部門1位。


「ベサメ・ムーチョ」
Brittany O'Connor、Paul Barris

ボールルームダンスの世界チャンピオンによるパフォーマンスで、ヴァイオリンとピアノは生演奏。タンゴの音楽でラテン的なダンスなのだけど、ブリタニー・オコナーは片足はハイヒールでもう片足はポワントを着用して踊った。パートナーを床の上に放り投げては持ち上げるなど、かなり高難度のパートナーリングを見せてくれた。


Tous Les Jours II. 振付 マルセロ・ゴメス 
ジェイムズ・ホワイトサイド(ABT) ピアノ演奏 ジョルジュ・ヴィラドムス

本来この作品はマリインスキー・バレエのザンダー・パリッシュが踊る予定だったのだが、ビザが間に合わなくて、土壇場で降板、代わりにABTのジェイムズ・ホワイトサイドが踊った。ピアノ演奏は、エルヴェ・モローの公演「月夜に煌めくエトワール」に出演したジョルジュ・ヴィラドムス。ホワイトサイドは軽やかな跳躍をたくさん見せてくれて、技術的にも素晴らしいし恵まれた体型の持ち主であることもよくわかったけど、この作品をパリッシュでも観てみたかったなと思った。高度な技術の中に、ちょっとしたユーモアも含まれていて、ドラッグクイーンとしても活動しているホワイトサイドだと、少しあくが強い印象はあった。でもとても楽しいソロだし、ゴメスらしいチャーミングさと音楽の使い方のセンスの良さを感じさせた。


「春の水」 振付:アサフ・メッセレル 音楽:ラフマニノフ
スカイラー・ブラント、ゲイブ・ストーン・シェイヤー(ABT)

ブラント、シェイヤーともYAGPの過去の出場者。ABTのダンサーだけど、ソビエト時代の作品「春の水」に挑戦した。ダイナミックなリフトが多用される作品だ。若手のホープであるこの二人は元気いっぱいで、高度なテクニックを見せてくれた。女性ダンサーが大胆に飛び込んで行ったり、男性が中途半端な高さで相手を持ち上げながらぐるぐる回ったり、ひょいっと回りながらリフトしたりと、大変難しいパートナーリングがてんこもり。フレッシュな二人がとても良かっただけに、一番最後に男性が片手で相手を高くリフトするところを失敗して、もうすぐで落としそうになったのが残念。でも持ち直して、捌けて行くところではしっかり片手でリフトしたまま走り去って行けたので良かった。

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「白鳥の湖」 振付 デヴィッド・ドーソン 音楽:チャイコフスキー
スヴェトラーナ・ルンキナ、エヴァン・マッキー(ナショナル・バレエ・オブ・カナダ)

ワールド・バレエ・デーライブでスコティッシュ・バレエがリハーサルシーンを見せた、デヴィッド・ドーソン振付のコンテンポラリー版「白鳥の湖」の、2幕パ・ド・ドゥ。現代作品ではあるものの、ルンキナはポワントを履いて、チュチュではないものの白鳥を思わせる赤い宝石を胸につけたレオタードを着用(衣装デザインは、竹島由美子さん)。男性の衣装は、まるで普段着みたいであまりかっこよくはない。面白いのは、まず登場する男性ダンサーも、腕を大きく動かし、背中を反らせてまるでオデットのように踊るところ。オデットが二人いるような振付で、二人が組み合わさって円を描くようにポジションを変えながら動いていく。古典の「白鳥の湖」も絶品であるルンキナなので、チュチュでなくてもその動きは繊細でエレガント、とても高貴な印象があるとともに、現代作品も得意な彼女らしい、モダンなセンスが光っていた。二人ともポール・ド・ブラが柔らかく大きく美しく、特にルンキナの背中の表現力には魅せられた。全幕で観てみたい作品。

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くしくもスコティッシュ・バレエもニューヨークのジョイス・シアターで公演中で、関係者お互いのパフォーマンスを観られなかったのが残念。


「コート」 振付 デヴィッド・パーソンズ 音楽:ロバート・フリップ
イアン・スプリング (デヴィッド・パーソンズ・ダンス)

デヴィッド・パーソンズの代表作である「コート」。日本でも、ウラジーミル・マラーホフがこの作品を踊るのを観た方は多いと思う。ストロボの点滅の効果を使って、ダンサーがまるで宙に浮いていたり、空中を歩いているかのように見える作品だ。照明の技術を借りているとはいえ、やはりこの作品は生で観るとインパクトは絶大だし、ストロボの点滅のタイミングを合わせて高速で跳躍しなければならないダンサーの技術も素晴らしい。YAGPに出場した若いダンサーたちは、もちろんこの名作に熱狂的な歓声と拍手を贈った。


「ライト・レイン」 振付:ジェラール・アルピノ、音楽Douglas Adamz、 Russ Gauthier
ルシア・ラカッラ、マーロン・ディノ

3年前のYAGPガラでもこのペアはこの作品を踊ったはず、だけど3年間の間に、今は40代のラカッラが全然変わっていないのはすごい。エキゾチックな打楽器中心の音楽に合わせて、ラカッラがその柔軟にしなる細長い肢体をいろんな方向に伸ばしたりポーズする、官能的な作品。一つ一つの動きやポーズは完璧にコントロールされている。これはこの二人でないと踊ることができないものなのかもしれない。


「海賊」  振付:プティパ 音楽 ミンクス
タマラ・ロホ、セザール・コラレス(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)

3年前のYAGPでグランプリを受賞し、3年間でENBを代表するスターに育ったセザール・コラレス。540を3連発したり、巧みにコントロールされたピルエット、強靭なばねのある身体から繰り出される超絶技巧、ガラ公演にはぴったりのダンサーだ。ENBの来日公演も「海賊」なので、日本でもきっと大喝さいを浴びることだろう。タマラ・ロホは、へそ出しの衣装だとウェストがかなり太くなってしまっていたのがわかったけど、踊りそのものは全盛期と変わらず、相変わらずの、トリプルを連発してのグランフェッテ、見事なバランス、コントロールの利いた動き。芸術監督を兼ねて意欲的なプログラムに取り組みながらも、これだけしっかりと技術を保っているのは奇跡的ともいえる。7月の来日公演が楽しみだ。

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全体的なレベルも高く、少し異分野のダンサーが出演したり、生演奏の演目もあったりで、とても楽しめたガラだった。翌日のフリオ・ボッカへのオマージュ・ガラも行きたかったし行く予定だったのだが、家庭の都合で行けなくなってしまったのが残念。観客席もとても華やかで、オルセン姉妹などのセレブレティもたくさん顔を見せていた。

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Dance Magazine誌のレビュー
http://www.dancemagazine.com/three-more-nycb-stars-are-headed-to-broadway-2365234725.html

2017/04/17

英国ロイヤル・オペラハウス2016/17シネマシーズン「眠れる森の美女」

英国ロイヤル・オペラハウス2016/17シネマシーズン「眠れる森の美女」を試写で拝見しました。

http://tohotowa.co.jp/roh/movie/the_sleeping_beauty.html

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【振付】マリウス・プティパ
【音楽】ピョートル・チャイコフスキー
【指揮】クン・ケセルス
【出演】マリアネラ・ヌニェス(オーロラ姫)
ワディム・ムンタギロフ(王子)
クレア・カルヴァート(リラの精)
クリステン・マクナリー(カラボス)
【上演時間】3時間25分



ロイヤル・バレエでの初演にあたる1946年の『眠れる森の美女』の上演から70年となる記念碑的作品。あの名作がプリンシパルたちの競演 によって映画館で鮮やかに蘇る!

第二次世界大戦後、ロイヤル・オペラ・ハウスが再開された1946年。オリジナルの楽曲から綿密に作り上げられ、豪華な舞台デザインでマーゴ・フォンティーンがオーロラ姫を魅惑的に演じた『眠れる森の美女』。瞬く間にロイヤル・バレエを代表する演目となり、バレエ団が国際的名声を築くのに貢献した作品となった。

今回はそのロイヤル・バレエでの初演から70年となる記念碑的な上演。邪悪な妖精の呪いによって眠り続ける王女と、彼女を救おうとする王子。チャイコフスキーによる音楽と、マリウス・プティパによる振付がすべての年代の観客に愛され魅了し続けてきた伝統あるバレエ。ロイヤル・バレエが誇るプリンシパルたちが競演するこの不朽の名作を見逃してはならない。

デジタルプログラム
http://www.roh.org.uk/publications/the-sleeping-beauty-digital-programme
プロモコード FREEBEAUTY

Choreography Marius Petipa
Additional choreography Anthony Dowell
Additional choreography Frederick Ashton
Additional choreography Christopher Wheeldon
Production Monica Mason
Production Christopher Newton
Music Pyotr Il'yich Tchaikovsky
Original designs Oliver Messel
Additional designs Peter Farmer
Lighting design Mark Jonathan
Staging Christopher Carr

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Princess Aurora Marianela Nuñez
Prince Florimund Vadim Muntagirov
King Florestan XXIV Christopher Saunders
His Queen Elizabeth McGorian
Cattalabutte, Master of Ceremonies Alastair Marriott
Carabosse Kristen McNally
Lilac Fairy Claire Calvert

Fairy of the Crystal Fountain Yuhui Choe
Her Cavalier Luca Acri
Fairy of the Enchanted Garden Akane Takada
Her Cavalier Valeri Hristov
Fairy of the Woodland Glade Yasmine Naghdi
Her Cavalier Nicol Edmonds
Fairy of the Song Bird Meaghan Grace Hinkis
Her Cavalier Solomon Golding
Fairy of the Golden Vine Anna Rose O'Sullivan
Her Cavalier Fernando Montaño
Lilac Fairy's Cavalier Ryoichi Hirano

The English Prince Gary Avis
The French Prince Johannes Stepanek
The Indian Prince Valeri Hristov
The Russian Prince Thomas Whitehead

Princess Aurora's Friends Isabella Gasparini, Tierney Heap, Meaghan Grace Hinkis, Mayara Magri, Yasmine Naghdi, Demelza Parish, Anna Rose O'Sullivan, Leticia Stock

The Countess Christina Arestis
Gallison Jonathan Howells
Florestan and his Sisters Marcelino Sambé, Yasmine Naghdi, Mayara Magri
Puss-in-Boots and The White Cat Paul Kay, Leticia Stock
Princess Florine and The Bluebird Akane Takada, Alexander Campbell
Red Riding Hood and The Wolf Gemma Pitchley-Gale, Tomas Mock

ロイヤル・バレエの「眠れる森の美女」は、1946年にニネット・ド・ヴァロワが振付け、オリヴァー・メッセルがデザインしたプロダクションをベースに、初演60周年を記念して2006年にピーター・ファーマーの手を入れて復元したもの。さらに2011年に衣装デザインをさらにオリジナルに近いものに更新した。

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この舞台映像で際立つのは、なんといってもマリアネラ・ヌニェスの光り輝く存在感。1幕で登場したときのキラキラと光を放つさま、アレグロのステップの正確さと音楽性も見事で、難しい振付をいともたやすく踊っているように見える。天性の明るさと温かさに恵まれた彼女を観ると、誰でも笑顔になることだろう。ローズ・アダージオのバランスも全く危なげなく、少しもハラハラするところがない安定感。一点の曇りもなく闊達なキャラクターはオーロラがぴったり。2幕の幻影のロマンティックな美しい幻、3幕のすべての人に祝福された幸福なプリンセス。これ以上は望めないほどの素晴らしさで、観る者をも幸せにしてくれた。

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ワディム・ムンタギロフの王子も、佇まいが貴公子なだけでなく、伸びやかで美しい脚と正確な技術、エレガンスと非の打ち所がない。目立ちすぎることなく、上手くパートナーを引き立てるところがまた王子にふさわしい。この二人のパートナーシップも良くて、ロイヤル・バレエきってのキラキラペアだと感じられた。

映画館中継ということで脇のキャストも豪華で、プロローグの妖精にはプリンシパルの高田茜さんを投入、さらに崔由姫さん、ヤスミン・ナグディ、アナ・ローズ・オサリバンなど実力派や注目の若手も起用し、リラの精のお付きにもプリンシパルの平野さん。ローズ・アダージオの締めにはギャリー・エイヴィス。ロイヤル・バレエらしく、カラボスから脇役に至るまで皆さん演技もとても達者で、舞台の上に立っている全員が細かく演技していてキャラクターになり切っている。

そして3幕のディヴェルティスマンもなかなか豪華で、まずフロレスタンとその姉妹で、フロレスタン役の、柔らかくゴムまりのように高く軽く跳ぶマルセリーノ・サンベが魅力的だった。ブルーバードにアレクサンダー・キャンベル、フロリナにはここでも高田茜さん。高田さんはプリンシパルに昇進してから、自信が増したのか堂々の存在感で、長い手脚、正確なポジション、しなやかな腕使いと優雅なフロリナ姫だった。

主演キャストも脇キャストも素晴らしく、華やかなグランドバレエの「眠れる森の美女」でクラシックバレエの神髄を楽しめたのだけど、唯一不満があるとしたら2011年に改訂されたという衣装。リラの衣装がやや古めかしく、また3幕のオーロラの衣装は地味で角のようなティアラの形が奇妙だった。フロレスタンの姉妹たちの首の回りのカラーは、ダンサーたちの首を短く見せる効果しかなくてゴテゴテしているし、花のワルツの衣装はジゼルのペザントですか、という地味さだった。初演の衣装を復元するのも善し悪しだと実感した。しかし、当代きってのトップダンサーであるヌニェスとムンタギロフ、さらに脇に至るまで踊りも演技もクオリティが高く、ロイヤル・バレエが好きな人だったら間違いなく楽しめるはず。

また、8月のルグリ・ガラにヌニェスとムンタギロフは出演するので、予習として観るのも良いと思う。

TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズららぽーと横浜など都内近郊、関西、名古屋は5月12日から、北海道、東北、九州は5月13日からの公開です。

白鳥の湖(2009)、くるみ割り人形(2009)、眠れる森の美女(2006) 英国ロイヤル・バレエ(3BD)白鳥の湖(2009)、くるみ割り人形(2009)、眠れる森の美女(2006) 英国ロイヤル・バレエ(3BD)
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2017/04/09

KARAS APPARATUS アップデイトダンスNo.44 「パフューム」

KARAS APPARATUS アップデイトダンスNo.44は、勅使川原三郎さん振付、佐東利穂子さんのソロ「パフューム」。

http://www.st-karas.com/camp0713-2/

2014年にアパラタスで初演し、同年にシアターXで再演したとのことですが、私は今回が初見。

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「パフューム」 / 2014年シアターX公演より
photo by Kotaro Nemoto (STAFF TES)

普段はパンツ姿のことが多い佐東利穂子さんが、白いノースリーブのミニドレスで現れる。旋回するような超高速ダンスを今回は封印し、腕の表現を中心にしたゆったりとした動き。音楽には水滴の音が重なって、洞窟の中でたゆたっているようなイメージも。佐東さんの表現者としての引き出しの多さ、今まであまり見せたことがないような深くて幻惑させられるような踊りが圧巻でした。

「パフューム」という題名にあるように、香水のように、時間とともに香りが変化し変容し、受け止める側によってもイメージや匂いが変わるダンス。露出した佐東さんの美しい脚、長くしなやかな腕の繊細な表現、そして赤とブルーを基調とした、圧倒的な照明効果に酔いしれてクラクラしました。終盤に流れるマーラーの「アダージェット」、佐東さんの横たわりゆっくりと四肢をうごかす様子が官能的で、匂いはしないのに立ち上る濃密な香りに満たされていくよう。舞台が終わった後の佐東さんのトークも、この独特の赤とブルーの照明の中で余韻に満たされ、そして会場を後にしても、夢の中にそのままいるような気持でした。

KARAS APPARATUSでの公演は、独特の親密な小宇宙のようなスペース、小さな黒い箱の中で完全に光をコントロールしたパフォーマンスなので、いつも完全に別世界に連れていかれて、他のすべてのことを忘れてしまうような、ある意味癒しの空間ともなっています。公演を重ねるごとに、この「パフューム」も変容していくと思われるので、その変容を見届けたい、そんな気持ちにもなります。

ぜひこの「パフューム」体験してみてください。

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写真:「パフューム」 / 2014年シアターX(カイ)公演より

アップデイトダンスNo.44

「パフューム」

出演 佐東利穂子 

演出 / 照明 勅使川原三郎

【日時】2017年
4月8日(土)20:00
4月9日(日)16:00
4月10日(月)20:00
4月11日(火)休演日
4月12日(水)20:00
4月13日(木)20:00
4月14日(金)20:00
4月15日(土)16:00
開演30分前より受付開始、客席開場は10分前

【会場】カラス・アパラタス/B2ホール
〒167-0051杉並区荻窪5-11-15 F1/B1/B2

【料金】(全席自由)
一般 予約 2500円 当日3000円 学生1500円(予約,当日共に)

【予約】メール updatedance@st-karas.com 
件名を「アップデイトNo.44」として、本文にご希望の日付・
一般または学生・枚数・郵便番号・住所・氏名・
日中連絡のつく電話番号をご記入ください。
予約は各回前日の24時まで受け付けています。

【問合せ】
TEL. 03-6276-9136
当日券は開演30分前より受付にて発売します。
お電話での当日券のお取り置きもできますのでお問い合わせください。

*********

4月26日~30日は両国のシアターXで「トリスタンとイゾルデ」公演もあります。昨年のKARAS APPARATUS アップデイトダンスでの上演が、これまた圧倒的に見事だった作品が、少し大きなシアターXのために改訂されての上演。

この「トリスタンとイゾルデ」は海外公演も予定されているとのことです。

構成 振付 照明 美術 衣装 選曲 勅使川原三郎
出演 佐東利穂子 勅使川原三郎

日時 2017年
4月26日(水)19:30
4月27日(木)19:30
4月28日(金)19:30
4月29日(土)16:00
4月30日(日)16:00


料金(全席自由・税込・入場整理券番号付) 一般/前売り 3500円 当日4000円 学生・シニア(65歳以上)2500円
※各回20枚・KARASでの予約のみ取扱,未就学児童の入場不可

予約 KARAS メール:ticket@st-karas.com
※公演日時・作品名・枚数・住所・電話番号を明記してお送りください。
チケットはシアターX/Confetti/チケットぴあでも発売中です。
詳しくは公演情報ホームページをご確認ください。

劇場 東京・両国シアターX
東京都墨田区両国2-10-14

問合せ KARAS 電話 03-6276-9136 メール ticket@st-karas.com

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