バレエ公演感想

2009/05/17

5/17 デンマーク・ロイヤル・バレエ団「ナポリ」 Royal Danish Ballet Napoli

デンマーク・ロイヤル・バレエ団「ナポリ」
2009年5月17日(日) 15:00開演   会場:東京文化会館
http://www.nbs.or.jp/stages/0905_danish/index.html

実は「ナポリ」生でも映像でも観るのが初めて。本家ブルノンヴィルなら観なくちゃってわけで、期待するというよりは、文化遺産を観るような、お勉強のつもりで観に行ったのだった。

1幕は「ドン・キホーテ」の1幕にちょっと似ていて、好き合っているカップルがいるけど、テプシーナの母親が結婚に大反対。ジェンナロの恋のライバル、マカロニ売りとレモネード売りが彼の悪口を言ってまわり、恋する二人は手に手を取って駆け落ちしようとしたところで嵐が起こって彼女が行方不明に。友達には、この1幕はマイムばかりで面白くないと言われたけど、このバレエ団の皆さんは脇役に至るまで演技が達者で、明るいラテンのノリがあったので、観ていて楽しかった。ジェンナロのトマス・ルンドはブルノンヴィル作品の振付指導を世界中で行っている、ブルノンヴィルといえばこの人、というダンサー。ちょっとおでこは広いけど、陽気でイケイケなあんちゃんで、この役柄には似合っていた。漁師という設定なので、1幕では素足にバレエシューズ。テプシーナ役ティナ・ホイルンドは、目が大きくて可愛い顔立ちだけど、ちょっと年上風のしっかり者というイメージ。舞台の上は所狭しとダンサーがいて、子役もデンマーク本国から連れて来ていた

1幕に踊りが全然ないわけではなくて、見所の一つとしてバラビルという、男女6組の群舞がある。初っ端から、このパラビルのみなさん、特に男性陣のブルノンヴィル風脚捌きを堪能。本当に脚が羽のように軽く、しかも単にバットゥリーを何回も空中で見せるだけではなくて、なんとも優雅でつながりのあるステップなのが素晴らしい。この中には、翌週の「ロミオとジュリエット」でロミオを踊る二人、セバスチャン・クロボーと、ウルリック・ビヤケァーがいた。二人とも背が高くて、写真で観るよりずっとハンサム。女性ダンサーたちも、北欧のバレエ団だけあって金髪率が高く、美人揃いで目の保養になった。

テプシーナの後を追って海に飛び込もうとしたジェンナロの前に、フラ・アンブロシオ(修道士)が現れて、守護聖人のお守りを渡してくれる。この修道士役のおじさんが、とても気品があって本物の修道士のようにしか見えない。

2幕は海の底。まるで「ファラオの娘」の海の底のような世界。海の精たちの衣装がとーっても美しいし、もちろん、12人の海の精たちも美しくプロポーションの良いバレリーナ揃い。群舞はそろっている方ではないけれども、上半身の動きはみなとても柔らかくて綺麗。背が高くてエキゾチックな海の王が登場。一人だけラテン系のハンサムな顔立ちなので目立つし、王様らしい威厳もたっぷり。海の王は、テプシーナに一目惚れして海の底に連れて行ってしまったのだ。早替わりでいつのまにか、テプシーナの衣装も海の精と同じものに変わっていた。いつ替わったのかわからないほどのタイミング。

ティナ・ホイルンドはプロポーションに恵まれているバレリーナではないけれども、音楽性が豊かで、抜きん出て踊りは上手い。きっとジゼルなどもお手の物だろうな、と思わせてくれる繊細なポール・ド・ブラ。衣装が替わるとともに、記憶までも消されてしまう。ジェンナロが海の底にたどり着き、彼女の姿を見つけても彼女は気がつかない。彼が守護聖人のお守りをテプシーナの首にかけると、ようやく彼女は記憶を取り戻し(ここでまた、街娘の衣装に早替わり)、二人は地上に戻ることに。テプシーナを愛している海の王は、彼女を帰すものかとジェンナロと戦おうとするけれども、お守りの力には抵抗できず、海の精たちから贈られた財宝を手にした二人を、なす術も無く哀しげな表情で見送る。海の王のほうがずっといい男なのだけど。

3幕は、無事戻ってきた二人を中心にした大団円で、大踊り合戦に。パ・ド・シスから始まり、主役二人を含めて7人のソロ、女の子たちの踊り、タランテラそしてフィナーレへと続く。一番最初にソロを踊った男性のテクニックが素晴らしかった。これぞ、まさに足技という感じで、つま先の美しさ、滞空時間の長さなど、惚れ惚れしてしまう。ここの男性ダンサーたちが素晴らしいのは、足先の美しさもさることながら、なんといってもアン・ドゥオールが完璧なこと。トマス・ルンドの踊りはちょっと特徴があって、動きと動きの間のつながりがきれいで、大技をやっているという感じがしなくて優雅な中に、個性もある。最近プリンシパルに昇格したヤオ・ウェイは、非常に華奢だけども、繊細な踊りは際立っていた。

この踊りまくり大会は、プティパの古典バレエのように、さあ、順番に踊りますよ~って感じでディヴェルティスマンが繰り広げられるというよりは、本当に村の中で結婚式があって、いつのまにかみんな踊りだしちゃって止まらなくなっているように見えた。形式的な踊りというよりは、物語の一部を形成していて、必然性のある踊りなのだ。その分、踊りのヴァリエーションが少ないので、やや飽きる部分はあるものの、次々と見せられる妙技に見入って、とても楽しめた。女の子たちの衣装が同じデザインで、みんな少しずつ色が違うのも可愛いし、街の人々も本当に楽しんでいる感じで、観る側も幸福感で満たされる。子役たちもしっかりと踊って演技して。音楽は特に印象に残るメロディはないものの、デンマーク・ロイヤルから来ている指揮者のヘンリク・ヴァウン・クリステンセンが、とてもよくダンサーを見て合わせているので、良い演奏となっていた。

そういうわけで、とっても楽しかった「ナポリ」。来週のノイマイヤー版「ロミオとジュリエット」も楽しみ♪


◆主な配役◆
【第1幕】

ジェンナロ(若い漁師):トマス・ルンド
ヴェロニカ(未亡人):エヴァ・クロボー
テレシーナ(その娘):ティナ・ホイルンド
フラ・アンブロシオ(修道士):ポール=エリック・ヘセルキル
ジャコモ(マカロニ売り):ケン・ハーゲ
ペポ(レモネード売り):フレミング・リベア
ジョヴァニーナ:ルイーズ・ミヨール
パスカリロ(大道芸人):モーエンス・ボーセン
ドラマー:アレクサンダー・サックニック
カルリーノ(人形師):トーマス・フリント・イェッペセン

バラビル:
マリア・ベルンホルト、エリザベット・ダム、キジー・ハワード、
アルバ・ナダル、ジュリー・ヴァランタン、ルイーズ・エステルゴール
チャールズ・アナセン、ウルリック・ビヤケァー、セバスティアン・クロボー、
マルチン・クピンスキー、クリストファー・リッケル、アレクサンダー・ステーゲル

ほか漁師、ナポリの人々、旅人、浮浪者


【第2幕】

海王ゴルフォ:フェルナンド・モラ
コラーラ(海の精):セシリー・ラーセン
アルゼンチーナ(海の精):スザンネ・グリンデル

16人の海の精:
アマリー・アドリアン、マリア・ベルンホルト、ジェイミー・クランダール、エリザベット・ダム、
サラ・デュプイ、エレン・グリーン、レナ=マリア・グルベール、レベッカ・ラッベ、
ブリジット・ローレンス、ジョルジア・ミネッラ、アルバ・ナダル、
アナスタシア・パスカリ、マティルデ・ソーエ、ジュリー・ヴァランタン、
エスター・リー・ウィルキンソン、ルイーズ・エステルゴール


【第3幕】

パ・ド・シス:
キジー・ハワード、ギッテ・リンストロム、クリスティーナ・ミシャネック、ヤオ・ウェイ
ニコライ・ハンセン、ネーミア・キッシュ

ソロ:
アレクサンダー・ステーゲル、キジー・ハワード、ニコライ・ハンセン、
トマス・ルンド、ティナ・ホイルンド、ジェイミー・クランダール、ヤオ・ウェイ

スリー・レディース:
アマリー・アドリアン、エスター・リー・ウィルキンソン、ルイーズ・エステルゴール
タランテラ:ジュリー・ヴァランタン、モーテン・エガト
フィナーレ:全員

指揮:ヘンリク・ヴァウン・クリステンセン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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2009/02/23

2/22 ハンブルク・バレエ「人魚姫」愛知公演に行って来ました。

行きはこだま号の「ぷらっとこだま」で、帰りはのぞみの最終便を使って、愛知県芸術劇場でのハンブルク・バレエ『人魚姫』のマチネとソワレを観てきました。さすがに帰宅したら日付が変わっており、早起きしたので眠くて感想はまた改めて書きます。最初に観たときには素晴らしいけれどもあまりにも痛ましくて、この作品を何回も観るのは辛いかもしれない、と思ったのですが、リピートしてみると、見るたびに新しい発見があって作品としての面白さも感じました。またこの作品でノイマイヤーが伝えたいことは何なのか、すごく考えてしまいました。同時多発的に舞台上で動きがあるので、1回だけでは追いきれないのですよね。目が二つだけでは足りないのです。

さらに、ダンサー、特にエレーヌ・ブシェから受ける印象も変化していったのが面白かったです。目の使い方や視線の送り方がユニークで、ちょっと不気味なんだけど綺麗なんですよね。人間離れしているという感じで。それからやっぱりシルヴィア・アッツオーニは凄すぎました。何かが降臨していた感じです。サーシャとシルヴィアという稀代の二人の天才を抱えているハンブルク・バレエって凄い。

あと音楽を繰り返し聞いてみると、すごく面白くなってきて、クセになります。CDがあったら絶対に欲しいです。ヴァイオリンのアントン・バラコフスキーがまた素晴らしくて、彼の力量で音楽的にも上質の作品になったと思います。ヴァイオリンの哀切な響きと、浮遊感のあるテルミンの音が耳を離れません。

愛知県芸術劇場に行くのは2回目。栄駅からすぐで交通の便がとても良い場所にあります。マチネは5階正面、ソワレは一階正面でした。5階席は、5階という割には舞台に近く高さもそれほど感じなくて基本的には見やすいのですが、1列目だったので手すりが非常に邪魔でした。新国立劇場の4階席と同じような感じですね。5階席にするなら2列目以降が良いと思います。1階席の前方は若干段差が少なかったのですがまずまず。ちなみに、前回来た時には2階正面1列だったのですが、2階といっても1階の延長線上というか、ガルニエのバルコン席みたいな感じで非常に見やすいです。

今回、5階という高さのあるところから一度観ることができてとてもよかったです。舞台を立体的に観ることができたので、特に1幕での人魚姫の長い袴がどのように魔法の影たちによってサポートされていたのかがわかるんですよね。海の中の様子、人魚姫の姉妹たちの動きもわかるし。オーケストラボックスの中も見えたので、テルミンを演奏しているところも見えました。

一緒に行った友達とアンジェリーナでモンブランを食べたり、帰りにひつまぶしを食べたり、食方面も充実していました。2週間空きますが(さすがに兵庫はお金がなくて行けません)、次は福岡で「椿姫」です。

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2009/01/25

12/29 パリ・オペラ座「ライモンダ」

ガルニエでのライモンダ2回目。今回は、1回のみのバルコン席。バルコンでも後方なのだけど、全体はよく見えた。

29 décembre 2008 à 19h30
RAYMONDA Emilie Cozette
JEAN DE BRIENNE Karl Paquette
ABDERAM Yann Bridard→Stéphane Bullion
HENRIETTE Myriam Ould Braham→Mélanie Hurel
CLEMENCE Mathilde Froustey
BERANGER Josua Hoffalt
BERNARD Gil Isoart
LA COMTESSE Béatrice Martel
SARRAZINS Ghyslaine Reichert, Marc Moreau
ESPAGNOLS Sarah Kora Dayanova, Julien Meyzindi→Christophe Duquenne
LE ROI Richard Wilk→Emmanuel Hoff

VARIATION
HENRIETTE (Mélanie Hurel)

PAS DE QUATRE Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion、Alexandre Labrot

TRIO
CLEMENCE (Mathilde Froustey) et Charline Giezendanner,Juliane Mathis


インフルエンザでダウンしていたと聞いていたものの、26日の「ライモンダ」で復帰し、27日にはベジャール・プロの「火の鳥」のフェニックスも踊っていたカール・パケット。オペラ座一の働き者かもしれない。30,31日はバスティーユで「火の鳥」と「ボレロ」のリズムを踊ったというし。

観る前はカールの体調不良を心配していたけど、それはまったく感じさせなかった。しかし「火の鳥」を観たときも思ったけど、ずいぶん痩せたのではないかと。カールは決して脚のラインのきれいなダンサーではないのだけど、その脚もほっそりとしていた。

キャスト表を受け取った時にちょっとびっくりしたのが、この日もアブデラムがステファン・ビュリヨンになっていたこと。ヤン・ブリダールは大丈夫なのかしら。そして、ステファンは予定では明日もアブデラムのはずなのに…彼も本当に働き者。アンリエットがミリアムからメラニーに変更。メラニーはすごく上手で、実際今回観たアンリエット役ではベストだと思ったけど、ミリアムのアンリエットも見たかった。(ヤン・ブリダールのアブデラムもだけど。ステファンのファンだから嬉しいことは嬉しいけど、最終的に観た公演全部ステファンというのもね)

そして恒例の開演前のアナウンスでは、スペインがジュリアン・メイザンディからクリストフ・デュケンヌへの変更。前日クリストフからジュリアンに変更になっていたから、きっとクリストフが快復したってことなのでしょう。(写真は、オペラ座ホワイエに飾ってある、エミリー・コゼットのポートレート)

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****
大体の内容は29日に書いたので、ここではキャスト中心に。エミリー・コゼットのライモンダは、長身でプロポーション良し、金髪美人で容姿はライモンダにはぴったり。前半の公演ではクレマンスを踊っていたし、ライモンダに関してはそれほど評判が良かったわけではないけど、期待しないで観たら、悪くはなかった。技術的に問題となるようなところはないし気品はあるし。ただ、一言で言えば硬い。脚などは高く上がるんだけど背中はあまり柔らかくなさそうだし。特にその硬さは、3幕のライモンダのヴァリエーションで顕著だったんじゃないかと思う。前の日にマリーヤ・アレクサンドロワのライモンダを観たせいもあると思うけど。ブラボーについても、マーシャのときはすごかったけど、エミリーの時はあんまり飛んでいなかった。それから、クールビューティだからというのもあるかもしれないけど、マーシャにあった、位の高い姫でありながらも漂う温かみのようなものがなかった。脚はとても強靭で3幕でややスタミナ切れのところはあったものの、パ・ドブレなども綺麗だったと思う。

カールは、1幕の登場シーンの時のキラキラ度が尋常じゃなかった。光のオーラをまとったように輝ける、まさに夢の中の王子様のようだった。ちょっと長めに伸びたサラサラの金髪にブルーアイ、そして眩しい笑顔。もともと長身の上、インフルエンザのせいで?痩せてスリムになって脚に白いタイツが似合う。さらに、カールの魅力は、人柄の良さが透けてくるような邪気のなさ。純白の存在感が、ジャン・ド・ブリエンヌにぴったり。このカールが、髪を黒く染めて顔を塗ってアブデラムも踊り、しかもこのアブデラム役がはまっていて、評判がとてもよかったというのが信じられないほどだ。
(参考:カールのアブデラムの写真が載っている記事:ダンスマガジンでもお馴染みのジェラール・マノニによる批評 http://www.altamusica.com/danse/document.php?action=MoreDocument&DocRef=3933&DossierRef=3544

ジャン・ド・ブリエンヌという役は、あまり性格描写がないというか、純白で透明感のある騎士という役柄なので、演技力に定評のあるカールのキャラクターとあっていないかも、と思ったけどそんなことは全然ない。その輝ける美しさに思わす頬が緩んでしまうほど。踊りのほうはというと、絶好調ではないものの、これだけ踊れれば問題なし、だった。少なくとも前日のヴォルチコフよりは全然良い。背の高いエミリーのリフトは大変だったと思うけどミスはなし。3幕のジャン・ド・ブリエンヌの、あの鬼のようなヴァリエーション、アンデダンのピルエットで少しだけ軸が傾いたところはあったけど、フェッテアラベスクはダイナミックだった。1幕の夢のシーンの登場のところのヴァリエーションだって、ピルエットがきれいに決まっていた。オペラ座にはカールのような、王子もキャラクテールも踊れる、容姿も綺麗で怪我の少ないダンサーは貴重な存在だし大事にして欲しいと思う。

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アンリエットがメラニー・ユレル、そしてクレマンスにマチルド・フルステー。4日間観た中では、この二人の組み合わせがベストだったと思う。メラニーの抜群の安定感、3幕のヴァリエーションでのハンガリアン・ステップの着実さと音楽性。実力派ぶりを発揮していた。一方マチルドは、他の日も毎日、幻想のワルツや3幕のグラン・パ・クラシックで活躍。以前の「私上手でしょ」という悪目立ちぶりがなくなって、とても気品があった。しかもテクニックもばっちりあり、華があってすごく良かった。
そう、逆に言えば他の日にアンリエット&クレマンスを踊ったエヴ・グランツスティン、マリー・ソレーヌ・ブレ、オーレリア・ベレの印象が薄いってことなのだけど。

ベランジェにジョシュア・オファルト、そしてベルナールはジル・イゾアール。この役はとにかく出ずっぱりで体力的にハードなのだけど、ベテランのジルはここでも抜群の安定感。彼はやっぱり上手いダンサーだ。ジョシュア・オファルトも伸び盛りなのがよくわかって気持ちよい。

スペインでは、サラ・コラ・ダヤノヴァとクリストフ・デュケンヌ。前日のジュリアンも良かったけど、クリストフのスペインもとってもカッコいい。クリストフはどちらかといえば地味なダンサーなのだけど、こういう役を踊ると大人の色気を感じさせてくれてとても素敵だ。前の年に「くるみ割り人形」の王子とドロッセルマイヤーを観たときには技術的に今ひとつなのかな、という気がしていたのだけど、「ライモンダ」ではジャン役も何回か踊ったし、プルミエに上がったことでメーンの役柄が増えて、人の目を集める何かを身につけてきたのではないかと思わせてくれた。サラ・コラ・ダヤノヴァも、やっぱり人目を惹く、少し憂い顔が美しいダンサー。「ライモンダ」という演目はキャラクターダンスも多いし、主役もハンガリー系の振付が入っているわけだけど、こういう演目の、キャラクターダンスに、カンパニーの実力や魅力が現れるものだと思う。そういう意味では、「ライモンダ」は上手く行った上演だろう。

「ライモンダ」はやっぱりライモンダ役のバレリーナのためのバレエ。そういう意味では、マーシャの圧倒的な魅力から比較するとエミリーが弱かったため、圧倒的な幸福感までは至らず。でもカールのジャンが素敵だったので、十分満足できる公演だった。

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2009/01/20

12/28 パリ・オペラ座「ライモンダ」3幕 POB Raymonda Act3

「ライモンダ」の物語のクライマックスであるジャン・ド・ブリエンヌとアブデラムの決闘が終わってしまったので、3幕は大団円。ディヴェルティスマンとして、ライモンダとジャンの婚礼を祝う、華やかな踊りが延々と繰り広げられる。ドラマの要素は何もないけれども、その分、グラズノフの東洋的できらめくメロディに乗せた、ゴージャスな歴史絵巻がとめどなく展開するのだ。

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幕が下りたままの時の冒頭の音楽の、重厚でドラマティック、華麗で広がりのある旋律の美しいこと。幕が開くと、暖色系の仄暗い舞台が幻想的。キャンドルが灯され、そのキャンドルを乗せたシャンデリアが上昇。このシーンを見ただけで、もう大感動。奥のテーブルでは晩餐が開かれていて歓談する人々。そのテーブルから、チャルダッシュのダンサーたちが奥に歩いて行く。そしてチャルダッシュの音楽が始まる。

LA COMTESSE Béatrice Martel
LE ROI Emmanuel Hoff

GRAND PAS CLASSIQUE
Marie-Solene Boulet, Sarah Kora Dayanova, Laura Hequet, Fanny Gorse
Joshua Hoffalt Florian Magnenet, Julien Meyzindi, Gregory Dominiak

Mathilde Froustey, Charline Giezendanner,Juliane Mathis, Pauline Verdusen
Gil Isoart, Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

VARIATION
HENRIETTE (Aurélia Bellet)

PAS DE QUATRE Gil Isoart Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

TRIO
CLEMENCE (Eve Grinsztajn) et Sarah Kora Dayanova, Marie-Solene Boulet


チャルダッシュは、右側にいる女性ダンサーたちがパートナーの男性の方へ首を傾けて甘い雰囲気を作っている。そして全員が大きくアクセントを取るようにバットマン。チャルダッシュのソリストは、ドリス伯爵夫人のベアトリス・マルテルとハンガリー王エマニュエル・オフ。ベアトリス・マルテルの艶やかな美しさが目を惹く。

グラン・パ・クラシックは4組のダンサーが入場し、続けてもう4組。この中にベランジェとベルナール役のジョシュア・オファルトとフロリアン・マニュネが入っているところがもうヌレエフ版の鬼、って感じ。先ほどスペインやサラセンのソロを踊っていたローラ・エケ、ジュリアン・メザンディ、シャルリーヌ・ジザンダネ、マルク・モローも加わっている。踊れるダンサーに役はたくさん回ってくるものだなって思う。

そして主役ペアの入場。アダージオの後、哀愁のハンガリアンメロディで、男性ダンサーが一斉に女性ダンサーを高くリフトする。このあたりは、他の版の「ライモンダ」とほぼ同じ。その中でも、8人の女性ダンサーが並び、男性ダンサーにサポートされながら一斉にパンシェするところは、壮観だ。
(参考:オペラ座サイトのこの写真

アンリエットのソロは、オーレリア・ベレによるもの。前日のメラニー・ユレルが良かったので、それと比較すると普通だった。男性ダンサー4人によるパ・ド・カトル。ここでもジル・イゾアールがベテランの意地を発揮していた。スーパー・バレエレッスンに出ていたファビアン・レヴィヨン、本当に大活躍のマルク・モロー、そしてちょっとだけフロリアン・マニュネに似ているアリスター・マダンと、よくもまあこれだけ見目麗しく、しかもこの鬼のような振付を毎日のようにきちんと踊っている男子を揃えたものだと思う。トリオでは、やっぱりサラ・コラ・ダヤノヴァの美しさが目に付く。

ジャン・ド・ブリエンヌのソロ。最初のピルエットで、ヴォルチコフは今までの汚名挽回、と最初の4番からのアティチュードでのピルエットの後、6回位回ったすごく速いピルエットを見せた。それからカブリオール2回、トゥールザンレールを入れたジュッテ、そしてイタリアンフェッテのようなフェッテアラベスクの跳躍を2回、ピルエット、後方へのカブリオール2回、アティチュードでのアンドゥダンのピルエットを2回、ソ・ド・バスク、トゥール・ザン・レールを入れたマネージュといった、これまたウルトラ高難度の振付。ヴォルチコフ最大の問題はパートナーリングだったので、ここは一応ちゃんと踊っていた。だって天下のボリショイの新プリンシパルだものね。でも振付をこなすので精一杯という感じ。前日のジョゼがあまりにも素晴らしすぎたし。ただ、ヴォルチコフはプロポーションは素晴らしいし脚のラインもきれいなので、観た感じは貴公子らしい。

ライモンダのヴァリエーション。ここでのマーシャはまた完璧。腕を上げて頭のところに手を置くハンガリアンのポーズの決まっていること!パ・ドブレはあくまで繊細で滑らか、床の上を滑るよう。上体の引き上げ方としなやかな上半身。ロシア流なので手は打ち鳴らさないため、腕の使いかたもオペラ座流とは全然違っていて、まろやかで柔らかだ。アラベスクでポーズを取るところのフォルムの美しさ。堂々とした気品はまさに姫。最後だけ、オペラ座方式に敬意を表したのか手を打ち鳴らした。このときのブラボーの嵐の凄まじさといったら!(某動画サイトにこの日のヴァリエーションがアップされているので、興味のある方は検索してみてください) やはりロシアン・バレリーナのポール・ド・ブラの美しさは絶品だけど、その中でもマーシャはもう格別。震えがとまらないほどだった。

コーダでは洪水のように華やかなダンスが舞台上に溢れる。特に、パ・ド・カトルの4人の男性ダンサーたちが一斉にアントルシャ・シスやバットマンシソンヌ、カブリオールをするという、舞台も終わりの終わりだというのに信じがたいほどハードな振付が詰め込まれているのには驚愕!(しかも、ばっちりと揃って決まっているのには心からブラボー)。キメのあとも、さらに終わりがないかのように続く饗宴。そして永遠の時につながっていくような、長い長い舞台がついに終わった。本当にマリーヤ・アレクサンドロワは世界最高のバレリーナであると実感した公演だった。だが、忘れがたい魅力を放ったアブデラムのステファン・ビュリヨンにも、マーシャと同じくらいの大きな拍手がカーテンコールで贈られていた。エトワールになる日もそう遠くないかもしれない。

また、果てしなくハードな振付で全編ほぼ出ずっぱりのジョシュア・オファルトとフロリアン・マニュネは素晴らしかった。若さに溢れていて、愛嬌もあり、観ていて本当に気持ちが良い。二人とも良いのだけど、特にオファルトの跳躍がふわっとしていて素晴らしかった!さらにはグラン・パ・クラシックの群舞ダンサーたちまで、全体的なレベルはきわめて高かったといえる。欲を言えば、やっぱりアンリエットとクレマンスが弱いのがこの日のキャストだった。女性ソリストのレベルの向上がオペラ座の大きな課題と思える。アンリエット&クレマンス役の二人よりも、シャルリーヌ・ジザンダネ、ローラ・エケ、サラ・コラ・ダヤノヴァ、マチルド・フルステといったダンサーたちの方がはるかに魅力的に思えてしまった。

いずれにしても、全編ダンスの洪水、豪華絢爛な華麗な歴史絵巻の魅力をたっぷりと味わった3時間半だった。グラズノフの傑作スコアを見事に奏でた、コロンヌ管弦楽団による演奏も極上のものだった。

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2009/01/18

12/28 パリ・オペラ座「ライモンダ」2幕

すっかり間が開いてしまいました。1幕の感想はこちら

RAYMONDA Maria Alexandrova
JEAN DE BRIENNE Alexander Volchkov
ABDERAM Stéphane Bullion
HENRIETTE Aurélia Bellet
CLEMENCE Eve Grinsztajn
BERANGER Josua Hoffalt
BERNARD Florian Magnenet
SARRAZINS Charline Giezendanner, Marc Moreau
ESPAGNOLS Laura Hecquet,Julien Meyzindi
LE ROI Emmanuel Hoff

2幕は、まずライモンダと友人4人、おつきの人々がステージに登場すると、そこはアブデラムのテント。アブデラムが登場し、後ろにはサラセン人たちが控えている。そして後方に金色の天幕がドレープしながら広がる。このテントがゆっくりと広がっていく視覚効果のドラマティックなこと!天幕そのものが、細密な刺繍が施されているエキゾチックな美の極致で、うっとりするほどの美しさ。

「ライモンダ」という作品は2幕がクライマックスだと思う。特にアブデラムという役柄を強調したヌレエフ版はそうだ。タタール人というヌレエフの出自も関係していると思うが、殊更にヌレエフはこの役柄に思い入れを持って演出している。アブデラムの最初のソロは約1分間の間に、高度なテクニックが凝縮されている。間にアクセントを入れたポーズのあるフェッテを2回、高さのあるパ・ド・シャ、アティチュードでのアンドゥオール、続いてアン・デダンのピルエット、シソンヌ。アティチュードでのアン・レール…その間、アブデラムはずっと一点、ライモンダだけを見ている。背中を向けて横たわるセクシーなポーズも。アブデラムはここで自分の男性的な魅力をライモンダにアピールするのだ。ステファンの動きはキレがあって、強い目力もあり大変魅惑的。ライモンダは、クレマンスとアンリエット、ベルナールとベランジェを従えて舞台を横切る。アダージオとなり、ライモンダとクレマンス+アンリエットがパ・ドブレして交錯する。ベルナールとベランジェが加わって、ライモンダをアブデラムから護ろうとするが、時にはアブデラムの放つ色香に惹きつけられそうになるライモンダ。たった一人のアブレラム対ライモンダ&4人。この6人の隊形が様々に変化をして踊るアダージオは見ごたえがたっぷりある。アブデラムと向かい合うライモンダを中央にしてクレマンスとアンリエットの3人がポアントで立ち、両端をベルナールとベランジェがそれぞれサポートしている間に、女性3人が同時にドゥヴァンからパッセを通過してアティチュード・デリエールへと脚を動かすという大変難しい振付があったけど、もちろんこのシーンで一番完璧だったのはマーシャだ。エヴは一回軸じゃないほうの脚を下にポアント状態ではあるけど下ろしてしまっていた。

ライモンダはベルナールとベランジェに高々とリフトされ、そこからダイヴするようにアブデラムの腕の中に。さらに6人の踊りは変幻自在に形を変えていくが、やがてライモンダはなすがままにアブデラムに抱きかかえられ、友人たちの抵抗もむなしく、サポートつきのピルエットからフィッシュダイヴのような形で二人がポーズをしてアダージオが終了。ライモンダがアブデラムにからめ取られていくように、どうしようもなく惹かれていくのが表現されている。その中でも、あくまでも堂々とした気品を保っているのがマーシャだ。

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アンリエットとクレマンスのヴァリエーション。この日の二人は決して悪くないのだけど、どうも印象が薄い。もちろん上手なことは上手なのだけど。その後のマーシャのライモンダが凄すぎてすっかり霞んでしまう。ライモンダのヴァリエーションもつま先をたくさん使った難しいものなのに、本当に余裕を持って軽々と。

アブデラムの2幕での2番目のヴァリエーションは、軽快な音楽に乗って、パドシャやフェッテアラベスクなどの跳躍をいれながら、ちょっとモダンダンス系の動きも入れて、さらにマチズモ的な魅力を訴える。正面を向いて見得を切り、両腕を広げてどうだ、こんなに権力を持っていていい男なのだとアピール。最後の着地での決めポーズがとてもカッコいい。ステファンは恵まれた体格、容姿でテクニックもあるのにちょっと損をしているのは、全体的に踊りが硬いこと。だけど、このヴァリエーションでは非常に軽やかで音楽とよく同化しており、十分柔軟性も発揮していた。大晦日の公演では、ここのキメでちょっとふらついてしまったのがつくづく惜しい。

アブデラムが手を叩いて合図をすると、幕の下からサラセン人たちが出てきて、まずはサラセンの群舞。それからサラセンのソロ。サラセンのソロは4日間ずっとシャルリーヌ・ジザンダネとマルク・モローという、ルグリのガラや「スーパーバレエレッスン」で日本でもお馴染みの二人。(シモン・ヴァラストロが怪我をしてしまって抜けてしまったのが残念)大きなポンポンのついた頭飾りが可愛い衣装。シャルリーヌにしてもマルクにしても、1幕から3幕までずっと何かしらの役で踊っているというのに、ここでの踊りのキレが素晴らしくて、ブラボーだった。この二人は、12月の昇進試験で二人とも昇進したのだったけど、それも納得。前方へバットマンするときのマルクの高く上がる足先、大きく反った背中、見事な柔軟性、シャルリーヌのダイナミックさ、とてもよく印象に残った。この二人は間違いなく出世するだろう。

スペインのソロ。キャスト表ではクリストフ・デュケンヌとなっていたのが、開演前のアナウンスでジュリアン・メイザンディに変更。前日もジャンをクリストフが降板していたので、心配になった。パートナーはローラ・エケ。ジュリアンももちろん注目の若手なので、出来が悪いはずがない。華やかでスタイリッシュな踊り。ローラはわりとクラシックなダンサーという印象が強いけど、こういうキャラクター性のある踊りでも、きれいなのだけどアクセントとタメがあってとっても素敵だった。その間も、ずっとライモンダから目を離そうとしないアブデラム。上手くかわそうとするライモンダ。

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3番目のアブデラムのヴァリエーション。これは、まず無音のところにアブデラムがつま先を揃えて、90度ずつ向きを変え、それから妖しいオリエンタルな音楽に乗せて重心を深く保ちつつ、アラベスクの姿勢で回り、上半身を大きく深く前にカンブレさせ、腕を蛇のようにくねらせ、後半はジュッテやアンレールの繰り返し。もっとも粘り気があって誘惑的、セクシャルな踊りだ。ここも「ダンサーズドリーム」で多く語られていた部分だけど、重心を低く保ちつつ腕は大きく自在に動かすというモダンダンス的な要素の強い踊り。腕が柔らかいダンサー向きなのでステファンにとってはやや不利なところもあった。だけど、彼はその分演技力でカバーをしていて大変魅惑的な、美しく若い王となっていた。途中一瞬滑ったけどすぐに体勢を立て直した。

音楽が変わり速くなると、アブデラムが愛をライモンダに懸命に訴える。あの深く誘惑的な魅惑的な目線で、じっと彼女を見つめる。跪いて彼女の手を取りキスをするが、軽く拒絶される。そのときの、それまではあまり感情を表に出さず寡黙だったステファンの、深く傷ついた表情が心に突き刺さる。走り去っていくライモンダを見つめる、傷を負いながらもあきらめきれない視線とある決意。アブデラムはおもむろに立ち上がってライモンダを抱きかかえ、連れ去ろうとしたその時、ジャン・ド・ブリエンヌがタイミングよくが登場してアブデラムの腕からライモンダを奪う。二人はしばしもみ合いになり、ジャンが手袋をアブデラムに投げつける。ハンガリー王が仲裁に入り、決闘へ。

この決闘が騎馬戦なのだ。盾を持った兵士たちに支えられて、大きな馬(もちろん生身の馬ではない)が2台登場し、馬上にはそれぞれジャンとアブデラム(観客からちょっと笑い)。長い棒を持った二人は馬上でそれを交えるが、しばし戦った後、二人は馬から下りて、今度は剣を交えることに。戦いの後、アブデラムは致命傷を負う。ライモンダに熱い、しかし哀しげな視線を送りながらアブデラムは息絶え、サラセン人たちに運び去られていく。一瞬ショックを受けたようなライモンダはアブデラムのあとを追いそうになるが、ジャンの元に駆け寄る。黄金色のアブデラムのテントは折り畳まれて消え、ふたリは歓喜のパ・ド・ドゥを踊る。

こうやって大筋をたどっていくだけでも、2幕は完全にアブデラムのために用意された場面であり、見せ場はジャンよりもずっと多いことがわかる。アブデラムを踊るダンサーは、ジャン以上に演技力、存在感が必要だ。ステファンは彼自身の持つ生真面目さが前面に出ているために、色香については抑え目だったと思う。だけど、その未成熟な青さと情熱がとても眩しい。非常に若くして大きな権力を持ったために戸惑いつつも、その立場に相応しい存在になろうと背伸びする様子がなんともいとおしい。戦い一筋に生きてきたであろう彼が、一瞬の愛にすべてを賭け、散っていくという役柄は、踊る側にとっても大変やりがいのある役だろう。その上、古典のテクニック、コンテンポラリーのテクニック、華やかさ、視線を奪う見せ方が必要とされていてとても難しい役だ。ステファンは、今回、4日連続してこの役を踊り、期待されていたエトワール昇格は果たせなかったものの、強い印象を観客の心に刻み付けたはずだ。そして将来の躍進に向けて、大きな糧を得ただろう。

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2009/01/12

1/11 レニングラード国立バレエ−ミハイロフスキー劇場−『白鳥の湖』

レニングラード国立バレエ −ミハイロフスキー劇場−『白鳥の湖』
東京国際フォーラム ホールA

[作曲]ピョートル・チャイコフスキー
[台本]ウラジーミル・ベギチェフ、ワシーリー・ゲルツェル
[振付]マリウス・プティパ、レフ・イワノフ
[改訂演出]ニコライ・ボヤルチコフ [美術]ヴャチェスラフ・オクネフ
[指揮]ミハイル・パブージン [管弦楽]レニングラード国立歌劇場管弦楽団

オデット/オディール:オクサーナ・シェスタコワ
ジークフリート:イーゴリ・コルプ(ゲスト・ソリスト)

ロットバルト:ウラジーミル・ツァル
王妃:ズヴェズダナ・マルチナ
家庭教師:アンドレイ・ブレクバーゼ
パ・ド・トロワ:イリーナ・コシェレワ、タチアナ・ミリツェワ、アントン・プローム

小さい白鳥:アンナ・クリギナ、ナタリア・クズメンコ、エレーナ・ニキフォロワ、ユリア・チーカ
大きい白鳥:タチアナ・ミリツェワ、ダリア・エリマコワ、ヴィクトリア・クテポワ、ヴァレリア・ジュラヴリョーワ
2羽の白鳥:ダリア・エリマコワ、ヴァレリア・ジュラヴリョーワ

スペイン:エレーナ・モストヴァーヤ、アンナ・ノヴォショーロワ、ミハイル・ヴェンシンコフ、アレクサンドル・オマール
ハンガリー:オリガ・セミョーノワ、マクシム・ポドショーノフ
ポーランド:マリーナ・フィラートワ、エレーナ・フィールソワ、ナタリア・グリゴルーツァ、ユリア・カミロワ、アルチョム・マルコフ、ロマン・ペトゥホフ、デニス・サプローン、ニキータ・セルギエンコ
イタリア:ナタリア・クズメンコ、アントン・アパシキン

映画友達の新年会に行って久しぶりにちょっとだけ飲んだら、早速帰宅して頭痛と腹痛に苦しんでいます…。明日は実家で焼肉だというのに。

できることなら避けたい東京国際フォーラムAでの公演も、シェスタコワとコールプの共演とあれば行かなくてはならない、ということでセット券で確保したチケット。昨年の1月には風邪を引いてしまって、伝説とまでなったこの二人の白鳥を観そびれてしまったもので。

ぎりぎりに駆け込んだ席、5列目って書いてあるのに着いてみたら最前列のほぼ真ん中。国際フォーラムでこの席に座るのは初めて。が、指揮者(無駄にイケメン(ちょっとオーランド・ブルーム似なバブージン)が立ち上がってしまったと思った。ほぼ中央の席というのは、指揮者の頭が思いっきりかぶるのだ。(こっちを指揮者が剥くと目が合いそうな感じ)国際フォーラムAのオーケストラピットって浅いのだろうか。ただ、某オーチャードホールと違って、最前列でもポアントの足先まで見えるのは救い。

コールプ編

去年はシェスタコワとコールプの組み合わせの「白鳥」が観られなかった代わりに、ペレンとコールプの「白鳥」を観た。そのときのコールプは、1幕1場ではずっと本を抱えて、読み入っていた。今日も、家庭教師のブレクバーゼから小さな本を渡されて、時々読んでいた。乾杯の踊りが終わって、他の人たちがいなくなった後でも、本にしばし没頭するコールプ王子。今日も、てっぺんだけが長くて他は短い不思議な髪型に、目の周り黒いメイクだったけど、「ジゼル」の時ほど目の周りが黒くなく違和感は少ない。そしてこの人、やっぱり立ち居振る舞いはとても美しくて気品があり、見た目の怪しさを打ち消すほどで、ちょっと大人っぽいけど真面目な文学青年風情だった。まるで「オネーギン」のタチヤーナの男性版のように。

踊りの方は、「ジゼル」の時はやはり調子が悪かったのだと思わせるほど、安定していて良くなっていたと思う。きれいな線を描くアラベスク、柔らかく音のしない着地、そして優雅さ、王子の気品を加える腕の使い方。ひとまずはちょっと安心。

しかしそんな彼も、1幕2場でオデットが出てくると豹変!最初のうちは恐る恐る彼女に近づいていくという感じだったのが、そのうちストレートに、濃厚に愛を語り始める。またまたここでコールプの本領発揮。サポートの方も素晴らしく、軽々とシェスタコワを持ち上げているし、彼女を支える腕や、ピルエットするときの手つき、高い位置で指先でサポートする時の指、一本一本に愛があふれている感じ。ただ、ロクロ回しピルエットのときの位置が時々ずれちゃったり、サポートつきピルエットが傾いてしまったという難点はあったけど。

さらに、コールプってある意味容貌怪異(ごめんなさい、でもファンなんです)だからこそ、にじみ出る愛情の深さとどこか哀しみが伝わってくるところがあるのだ。(いや、コールプって素顔は、青い目がとても澄んでいてきれいだし、ハンサムだと思うんだけど、あの目の周り真っ黒メイクは、あえて狙ってやっているってことなんだろうな) だからこそ、普通の二枚目な王子が演じているより伝わってくるものがあるのだと思う。

びっくりしたのが、1幕2場のコーダの後、王子がオデットに愛を誓うところ。結婚を誓うマイムをしたところ、オデットがその腕を下ろさせようとするのだけど、コールプ王子は、絶対下ろすものか、とポーズを取り続けようとしたこと。王子の秘められた強い決意を感じさせた。オデットが去っていく時も、最後までオデットの指先に触れていようとすがり付いているかのようだった。一歩間違えればストーカー王子なのだけど、腕の使い方や立ち居振る舞いはあくまでもエレガントなので危ない人には見えなくて、情熱的ではあるけど純愛そのもの。彼は顔の表情ではなく、身体の動きできちんと感情表現ができる人なのだ。オデットのシェスタコワも彼の演技に応えて、最後まで手を離さないようにして、ロットバルトの力で白鳥の姿に戻る直前までは彼に視線を送っていて、演技は見事に噛みあっていた。

2幕での王子は、未だ前の晩のことで夢見心地で、未だ夢の中をさまよう悩める王子という風情。美しい花嫁候補たちが踊っても(ホントに、ここの花嫁候補のバレリーナたちは超美人ぞろい)、まったく眼中になくて、オデットはどこにいるんだろうって浮かない顔をしている。だからオディールが登場した時もホントに嬉しそうで。ヴァリエーションの踊りも絶好調。得意の山なりジュッテ、アティチュードの決めポーズ、ピルエット、どれもお見事で、「ジゼル」のときの不調振りを帳消しにしてくれた。

ここのシーンの演出でちょっと不満なのが、オディールとロットバルトが王子を騙していたことが判明した時に、二人はささっといつの間にかいなくなってしまって、オディールの高笑いとそれに呼応する王子の演技が観られないこと。王子は、いつのまにか二人の姿が見えなくなってしまって戸惑い、彼らが去ったのとは別の方向=オデットの影が踊っていたところへと走っていって、ようやく事態を把握する。女王の膝元で嘆いた後、再び正面を向いて結婚の誓いのマイムを繰り返し、そしてその腕をもう一つの腕で下ろして自らの愚かさを悔やむという展開。この2回目のマイムでも、コールプの演技力は遺憾なく発揮されていた。

3幕ではまたコールプとシェスタコワによる濃厚なドラマが再び展開。黒鳥たちに囲まれて倒れていたオデットを探し当てた王子は、横たわったオデットをしばらく抱きあげている。オデットが全然重そうに見えないところがさすが。ボヤルチコフ版の「白鳥の湖」は3幕の演出が盛り上がらず、オデットと王子はお互いを求めていてもロットバルトに邪魔されて引き裂かれ、湖の底に沈むことによってようやく最後に結ばれるという設定。しかし、コールプとシェスタコワの熱演によって、お互いを激しいまでの求め合いその結果死を選ぶ二人の感情はしっかりと伝わってきた。コールプももちろんだけど、彼の演技に応え、か弱い白鳥の姫ではなく強く熱い感情を持った白鳥の女王としてのオデットを演じきったシェスタコワが素晴らしい。これくらいの求め合う強い演技を見せないと、このエンディングはひどくつまらないものになってしまうのだ。ここにはしっかりと二人のケミストリーが感じられて、心中という結末をドラマティックなものとして見せてくれた。

やっぱりコールプとシェスタコワの舞台には何かがある!また別の演目でもこの二人を観たいし、「ジゼル」もまた観たい。

シェスタコワとレニングラード国立バレエ編

シェスタコワのオデット/オディールは素晴らしかった。派手さはないけれども着実なテクニック。弓なりの弧をしなるように描く理想的な脚と甲の造形美。自己主張しすぎることはなく、たおやかなラインの美しさと、一見控えめながらも情感豊かな表現力。この上半身やポールドブラの美しさはロシアのバレリーナだわ~と嬉しくなってしまう。(オペラ座も全体的にはいいんだけど、やっぱりオペラ座のバレリーナの多くが上半身が硬いところが好きになれない) パートナーから色々引き出すことができる能力の持ち主だと思う。オディールについても、邪悪オーラはまったくなくて、本来持った高貴な美しさで王子を誘惑するタイプだった。グランフェッテはすべてシングルだけど、軸がずれることも移動することもなく、しっかりときれいにきめていった(最後の一回だけ端折ったかも)。押し出しの強さや強い個性がないから、ボリショイやマリインスキーのスターにはならないだろうけど、知る人ぞ知る名バレリーナという地位は確立されつつあるのではないかな。

それからロットバルトのツァルがとても良かった。ロットバルト姿も絵になる堂々とした容姿、大きな跳躍、しっかりとした技術と存在感ある華やかさ。ロットバルトはこれくらいの人に踊って欲しい。「ジゼル」では不調だったミリツェワとプロームに、コシェレワを加えたパ・ド・トロワもとても良かった。コシェレワってやっぱり可愛いし、腕が長くてとてもきれいなのよね。彼女のオデットも観てみたかった。

コール・ドもこの日は悪くなかったのではないかな。最前列だったので実際の揃い方はあまりよく見えなかったのでちゃんと判断できなかったけど。近くで見ると判るのが、すごい美人さんが多いんだけどみんな化粧が濃いこと。(「白鳥の湖」という演目は、こんな前で見るものじゃない。もう少し舞台から離れたところで観たい)大きな白鳥に踊りの乱暴な人がいたのにはちょっとびっくり。スペインに、先日の「ジゼル」のハンス役オマールを発見。この人カッコよかったのね。

指揮のバブージンが目の前にいたのでイヤでも目に入ってしまったのだけど、彼がちゃんとダンサーを見て指揮しているのはよくわかった。ただ時々この人も自己陶酔モードに入ってしまっていることがあると思った。「ジゼル」の時の指揮者ドゥルガリヤンよりはずっと良かったと思うけど。やっぱり「白鳥の湖」のほうが「ジゼル」より指揮も演奏も気合が入るものなんだろうな。

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2009/01/10

12/28 パリ・オペラ座「ライモンダ」Raymonda 1幕

28 décembre 2008 à 14h30

RAYMONDA Maria Alexandrova
JEAN DE BRIENNE Alexander Volchkov
ABDERAM Stéphane Bullion
HENRIETTE Aurélia Bellet
CLEMENCE Eve Grinsztajn
BERANGER Josua Hoffalt
BERNARD Florian Magnenet
LA COMTESSE Béatrice Martel
SARRAZINS Charline Giezendanner, Marc Moreau
ESPAGNOLS Laura Hecquet, Christophe Duquenne→Julien Meyzindi(キャスト変更のアナウンスあり)
LE ROI Emmanuel Hoff
LA DAME BLANCHE Sarah Kora Dayanova

GRAND PAS CLASSIQUE
Marie-Solene Boulet, Sarah Kora Dayanova, Laura Hequet, Fanny Gorse
Joshua Hoffalt Florian Magnenet, Julien Meyzindi, Gregory Dominiak

Mathilde Froustey, Charline Giezendanner,Juliane Mathis, Pauline Verdusen
Gil Isoart, Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

VARIATION
HENRIETTE (Aurélia Bellet)

PAS DE QUATRE Gil Isoart Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

TRIO
CLEMENCE (Eve Grinsztajn) et Sarah Kora Dayanova, Marie-Solene Boulet

今回唯一のマチネ公演。午前中にちょっとオランジュリー美術館に行っただけでのんびりと過ごしたので、身体もすごく楽で、目一杯楽しむことができた。

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自分の席から見上げた上手方面のロッジ・ドゥ・コテ(バルコニー)。友達が教えてくれたおかげで、戻り券のオーケストラ良席を入手できた。ありがとう!

1幕
幕が上がると、上手には白い長いドレスをまとったトルソーがあって、そのドレスに刺繍を施すお針子たち。アンリエットとクレマンス、ベランジェとベルナールの4人がふざけあっている。下手の上のほうには、白の貴婦人の人形?が飾ってある。ドリス伯爵夫人にたしなめられる4人だけど、長いドレスの裾の中に隠れたりしていたずらっぽい。黒いレースのヴェールに赤いドレス、ハンガリー風の華やかな衣装をまとったお供の女性たちとドリス伯爵夫人が踊る。女性たちの中には、藤井美帆さんも。キャスト表を見たら、イレールの娘のジュリエットもいるようだ。ドリス伯爵夫人は、毎日ベアトリス・マルテルが踊っていたのだけど、彼女は本当にものすごく美人。その上、この役は3幕のソリストをはじめ、かなり踊るのだ。

セットは舞台の奥行きを生かしていて、カーテンレールが何重にもあり、そこから華麗なテキスタイルのカーテンがドレープしながら何枚もぶら下がっている。舞台奥のほうには重厚で大きな甲冑が置いてあって、さながら歴史絵巻のよう、中世らしさを演出している。

ハンガリー王が登場。アンリエットとクレマンスが花を斜めのラインで床に並べると、ライモンダがジグザグにパドブレをして花の間を通り、それからアティチュードでピルエットをしながら膝をついて花を拾う(ちょっとローズ・アダージオのような感じでアティチュードのポーズを決める。マーシャ=マリーヤ・アレクサンドロワのこのラインがきれい)。マーシャのライモンダは柔らかく、そしてとにかく華やか~!どこから観ても光り輝くお姫様。ハンガリー王は、ライモンダへの巻物のような手紙を取り出し、それから、ジャン・ド・ブリエンヌの姿を描いたタペストリーが広げられる。このタペストリーのジャンの姿は、全然似ていなくてかっこ悪いのがお約束。あのタペストリーの姿から、夢の中にキラキラのジャンを登場させてしまうのだから、ライモンダの想像力(妄想力)ってすごいんだなって思う。

今度は辮髪の男性たち(戦士たち)が登場して、ハンガリー王と、女性たちのパートナーとして重々しく踊る。席がオーケストラの前のほうだったので、辮髪のカツラがちょっと浮いているのが見えて可笑しい。戦士たちの中に、タケル・コスト(今年入団したハーフの男の子)を発見。この戦士たちは、すごく若手のダンサーたちが踊っているようだ。

12組の男女で繰り広げられるワルツ。このワルツの中にも、ローラ・エケ、シャルリーヌ・ジザンダネ、ジル・イゾアールらが入っている。まーとにかくこの1幕は1時間10分と長い。これでもかというくらい踊りがたくさん詰め込まれている。ライモンダのソロ。マーシャの踊りは風格があって、だけど軽やかでどこまでも伸びやかで柔らかい。前日3幕だけ観たドロテは比較すると硬質だったと思う。マーシャは何よりも腕の運び方が綺麗でうっとりされてくれる。

そしてテーマ曲と共に、マントを翻し、長いターバンを巻いたアブデラムが登場。ステファンはかなり黒めに顔を塗っていて、目の周りもアイラインがびっしりと塗ってあるのだけど、そのエキゾチックなメイクがとてもよく似合っていて、若く美貌のサラセンの騎士。顔の色を濃い目にしてあるので、白目が目立って、目力が非常に強い。にこりともしない怖い顔で、お付の者に持たせた宝石箱から宝石をわしづかみにするようにして黙って差し出し、次に奴隷の子供たちを差し出す。子供たちが可愛い~。ライモンダは突然のことにびっくりするけど、子供たちを迎え入れる。嵐のように去っていくアブデラム一行。若くして王になったアブデラムが、ちょっと背伸びというかわざと強面を装っているのがまたちょっとたまらない。品をたたえながらも軽く拒絶し、友達たちの後ろに引っ込むライモンダ。男性のことを考えるより、友達と遊んでいるほうが楽しいのかしら?とちょっと突っ込みたくなる。

ライモンダは白いヴェールを肩にかけてリュートを手にして爪弾き、クレマンスとアンリエット、そして先ほどの子供たちと一緒に上手に座る。中央にジャンを描いたタペストリー。友達4人の踊りの次に、ヴェールを持ったライモンダのソロ。最後の方だけ、ちょっとヴェールが巻きつきそうになったけれども、ヴェールを綺麗になびかせ、エレガントで優雅、美しいハープのメロディを一緒に奏でるかのような滑らかなマーシャの踊り。次に、ベランジェとベルナールが左右対称のヴァリエーションを見せる。この踊りがブリゼ・ボレなどを織り込みながら細かい脚捌き、さらには左回り、右回りのトゥールザンレールもある恐ろしく難しい振付。さすがはヌレエフ版、と思わせる超絶技巧。フロリアン・マニュネの方が若干背が高いと思うけど、二人ともほぼ同じ高さに跳んでいて、きれいに揃っていた。素晴らしい!共に背が高く、とてもチャーミングな若いダンサーで、将来性を感じさせる。このときの音楽は、通常3幕に使われる曲のような気がする。

友人たちが去り、ライモンダ、そして子供たちがまどろむように眠りにつく、ライモンダの夢の中、白の貴婦人が定位置から降りてくる。長い長いドレスの裾を翻し、金髪で若くとても美しい白の貴婦人がライモンダを導くように駆けて行く。サラ・コラ・ダヤノヴァは夢の中の登場人物に相応しい、天使のごとき愛らしい美しさ。そしてタペストリーの中から、ジャン・ド・ブリエンヌが現れる。

ジャン・ド・ブリエンヌ役はボリショイから客演のアレクサンドル・ヴォルチコフ。本来はルスラン・スヴォルツォフの予定だったのが、変更になった(ルスランは12月28日のラトマンスキー・ガラに出演していたから、怪我ではないと思う)。ヴォルチコフは長身かつ脚が美しく、金髪の美形なのでタペストリーから出てくる姿は実に美しかったのだが…。ヌレエフ版「ライモンダ」のジャン・ド・ブリエンヌ役は、登場した後にライモンダをサポートする。それが、中途半端な腰の高さなのでかえって難しそうなのだ。身長の差があまりないペアだと、ライモンダの足先がついてしまうのでさらに難しい。ただ、このペアはヴォルチコフが長身なのでその点はそれほど問題はなさそうだった。問題は、ジャンの最初のヴァリエーションで、ここでまず、あちゃーと思ってしまった。回転の軸がぶれぶれで不安定なのだ…。うーん。これではまずいだろう。そしてこの二人のパ・ド・ドゥでもサポートが全然ダメだった。ロクロ回しピルエットでも、マーシャとタイミングが合っていなかった。マーシャは日本公演の後数日してすぐにパリに行ったはずなので、合わせる時間がなかったわけではないのだろうけど。

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さて、この後は、Valse Fantastique。この場面の群舞がとにかく美しくて素晴らしい~。照明は逆光でダンサーたちの顔は判別できないほど。ちなみにメーンキャストは以下の通り(顔があまり判別できなかったのでキャスト表によると)
Marie-Solene Boulet, Sarah Kora Dayanova, Laura Hequet, Charline Giezendanner
Julien Meyzindi, Alistar Madin, Fabien Revillion, Marc Moreau
かなりエース級を投入。他にも、マチルド・フルステー、藤井美帆、オーバーヌ・フィルベール、タケル・コストらが出演していた。中心が4ペアに加えて、女性16人、男性8人の合計32人の群舞。

白と黒の衣装、男性は白い連獅子のミニ版のような頭飾りをつけていて銀色の幻想的な世界が展開する。夢のシーンというとどうしてもパステルカラーになりがちだけど、こんなモノトーンというかいぶし銀のシックな世界観がとても新鮮。言葉で表現するのは難しいのだけど、他のシーンがきらびやかなゆえに、いかにも夢という別世界的なものを感じさせてくれる。
その中で、アンリエットとクレマンスそれぞれのソロもあり。なんだかすごい難しいテクニックが入っていたと思うけど、ヌレエフ特有の難しさゆえ、脚などのテクニックは完璧なんだけどその分上半身が硬くなってしまうのは仕方ないのかな。

次にジャン・ド・ブリエンヌのソロ。これがあまり聞いたことがないフルートかピッコロを使った曲によるもので、アン・デダンのアティチュードで回った後またアン・デダンでルティレでピルエット、それからカブリオールが入ったり、もちろんトゥール・ザン・レールも入っているしマネージュも変則的なもの、という鬼のような、恐ろしく難しいもの。これをヴォルチコフに踊らせるには相当無理があったようで、この振りで果たして合っているのかな?と思わせるところがあった。というかこれを完璧に踊れるダンサーってたぶん今回のキャストでもジョゼ・マルティネスしかいなかったのではないだろうか。やっぱり高度な技術のために美しさを犠牲にしているような振付で、私はあまり好きではないし、とにかくこのシーンでのヴォルチコフの出来は相当気の毒なものになってしまっていた。

そしてライモンダのピチカートのヴァリエーション。マーシャはもーすんばらしかった。踊りがとにかく滑らかでよどみなく、このシーンの音楽の美しさを最大限に生かしていた。

群舞によるコーダの音楽がまた素敵~。群舞もとても溌剌としていて素晴らしい。夢の前半の終わりを告げるシーン。群舞が去り、そしてジャン・ド・ブリエンヌが去ると、手下のサラセン人二人(グレゴリー・ドミニャック、ヤン・シャイヨー)を引き連れたアブデラムがテーマ曲に乗って登場。グレゴリーは素顔は金髪の美青年で3幕のグラン・パ・クラシックにもほぼ毎回登場するのに、無言無表情で迫力のあるスキンヘッド&髭のサラセン人も踊っちゃうからすごい。サラセン人二人がライモンダをリフトしたり翻弄する中、アブデラムが迫る。最初の方に登場したアブデラムはマントとターバンで着飾っていたけど、ここでは上半身はほぼ裸。ステファンは、オペラ座の男性の中では男性的でマッチョなイメージがあったほうだけど、こうやって見ると意外と華奢で、やっぱりこの人は身体が若いなと思わせた。手下であるサラセン人二人が着飾っているのに、首領のアブデラムが上半身裸だから、細く見えるのかもしれない。アブデラム+サラセン人の3人は手をつないででんぐり返ししたりけっこう不思議な振り付け。あんまりカッコよくないんだな、この振り付けは。「ダンサーズ・ドリーム」のDVDで、ヌレエフが言うにはアブデラムの振り付けはマーサ・グラハムなどモダンダンスの影響が強いとのことだけど、たしかにその影響は感じられる。

る。横たわっていたライモンダが駆け寄った友人たちに起こされ、上手の(アブデラムから贈られた)おつきの子供たちも目覚める。長い長い第一幕が終了。

※順番やテクニックの種類等思い違いがあるかもしれません。というか、かなり怪しいです。CDを聴きながら、思い出しては書いています。とにかくヌレエフ版は振り付けが複雑なので、覚える方も、ものすごく大変だと思います。

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2009/01/08

2008年に観た公演

ちゃんと記録をとっていたわけではないので、もしかしたら落ちや抜け、間違いがあるかもしれませんが、一応書いて見ました。自分でも尋常ではない数の公演に行っていると思います。というか、もはや頭がおかしいという領域に到達してしまっていますね。数も数えたくないくらいです。しかも、上半期にちょっとオペラに行ったくらいで、クラシック音楽も歌舞伎もストレートプレイも全然観に行っていないんですね。

今年は、もう少し厳選して数を絞り込みたいと思います。お金も体力も記憶力も持ちません!ゲストのみ海外とかの公演はなるべく減らしていきたいです。バレエはじめは明日のレニングラード国立バレエの「ジゼル」です。

【1月】
1月 6日 新国立劇場 オペラパレス・ニューイヤーガラ
1月 6日 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『美女と野獣』(佐久間/チー)
1月 7日 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『美女と野獣』(佐久間/マッケイ)
1月10日 レニングラード国立バレエ団『バヤデルカ』(コレゴワ/コルプ)
1月11日 レニングラード国立バレエ団『バヤデルカ』(シェスタコワ/コルプ)
1月13日 レニングラード国立バレエ団『白鳥の湖』(ペレン/コルプ)
1月15日 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『コッペリア』(吉田/マッケイ)
1月25日 レニングラード国立バレエ団『ドン・キホーテ』(コレゴワ/コルプ)
1月26日 レニングラード国立バレエ団『ドン・キホーテ』(ペレン/コルプ)
1月30日 『空白に落ちた男』(小野寺/首藤)

【2月】
2月 1日 マリインスキー・オペラ『イーゴリ公』
2月 2日 バットシェバ舞踊団『テロファーザ』
2月 3日 マリインスキー・オペラ『イーゴリ公』
2月 9日 『マラーホフの贈り物2008』Aプログラム
2月13日 バルセロナ・リセウ劇場オペラ『エレクトラ』(ポラスキ)
2月16日 ミラノ・スカラ座劇場オペラ『シラノ・ド・ベルジュラック』(ドミンゴ)
2月20日 『マラーホフの贈り物2008』Bプログラム
2月22日 『マラーホフの贈り物2008』Bプログラム
2月23日  NBAバレエ団 『ドン・キホーテ』 オブラスツォーワ/サレンコ
2月24日 『空白に落ちた男』(小野寺/首藤)
2月29日  H・アール・カオス 『中国の不思議な役人』 『ボレロ』


【3月】
3月 1日 森山開次『The Velvet Suite』
3月16日 新国立劇場オペラ『アイーダ』
3月22日 東京バレエ団『時節の色/スプリング・アンド・フォール』
3月23日 ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』
3月28日 ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団『フルムーン』
3月29日 新国立劇場バレエ団 石井潤『カルメン』 (本島、碓井)
3月30日 新国立劇場バレエ団 石井潤『カルメン』 (厚木、貝川)

【4月】
4月 3日 マリインスキー・バレエ団『プティパ・プロ』(ヴィシニョーワ/テリョーシキナ/ソーモワ/コルスンツェフ/イワンチェンコ)ニューヨーク・シティ・センター
4月 4日 マリインスキー・バレエ団『フォーキン・プロ』(ヴィシニョーワ/コールプ/コルサコフ)
4月 5日 マリインスキー・バレエ団『フォーキン・プロ』(ロパートキナ/コルスンツェフ/コルプ/イワンチェンコ)
4月 5日 マリインスキー・バレエ団『フォーキン・プロ』(ロパートキナ/コルプ/サラファーノフ/コズロフ)

【5月】
5月 4日 ラ・フォル・ジュルネ ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ラドゥロヴィチ&ボルドー・アキテーヌ管弦楽団)
5月18日 松本道子バレエ団『白鳥の湖』(コルスンツェフ) 
5月21日 新国立劇場バレエ団 『ラ・バヤデール』 寺島ひ、中村、真忠
5月23日 パリ・オペラ座バレエ団『ル・パルク』(プジョル/ルグリ)
5月24日 パリ・オペラ座バレエ団『ル・パルク』(コゼット/ル=リッシュ)
5月24日 パリ・オペラ座バレエ団『ル・パルク』(プジョル/ルグリ)
5月25日 新国立劇場バレエ団 『ラ・バヤデール』 本島、トレウバエフ、西山

【6月】
6月13日 牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』(吉岡/シヴァコフ)
6月24日 新国立劇場バレエ団 『白鳥の湖』(ザハロワ/ ウヴァーロフ)
6月28日【マチネ】パリ・オペラ座バレエ団『椿姫』(アッバニャート/ペッシュ)オペラ・ガルニエ
6月28日【ソワレ】パリ・オペラ座バレエ団『椿姫』(ルテステュ/ボッレ)
6月29日 パリ・オペラ座バレエ団『椿姫』(ムッサン/ルグリ)
6月30日 パリ・オペラ座バレエ団『椿姫』(オスタ/ガニオ)

【7月】
7月 3日 ルジマトフのすべて
7月 5日 英国ロイヤル・バレエ団『シルヴィア』(カスバートソン /マッカテリ)
7月 6日 英国ロイヤル・バレエ団『シルヴィア』(ヌニュス/ペネファーザー)
7月12日 noon dance performance 「TRIP」(松崎/中村/首藤/小尻/大嶋)
7月12日 井上バレエ団ガラ(ティボー/ルンド/クロボーグ)
7月13日【マチネ】英国ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』(ラム/サモドゥーロフ)
7月13日【ソワレ】英国ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』(ヌニェス/ソアレス)
7月14日 英国ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』(マルケス/コボー)
7月17日 アメリカン・バレエ・シアター『オールスター・ガラ』
7月18日 アメリカン・バレエ・シアター『オールスター・ガラ』
7月19日 アメリカン・バレエ・シアター『海賊』(アナニアシヴィリ/ゴメス/カレーニョ)
7月20日【マチネ】アメリカン・バレエ・シアター『海賊』(ワイルズ/スターンズ/コルネホ)
7月20日【ソワレ】アメリカン・バレエ・シアター『海賊』(ヘレーラ/ホールバーグ/スティーフェル/レイエス)
7月21日 アメリカン・バレエ・シアター『海賊』(マーフィー/サヴェリエフ/コルネホ)
7月23日 アメリカン・バレエ・シアター『白鳥の湖』(ケント/ゴメス/ホールバーグ)
7月24日 アメリカン・バレエ・シアター『白鳥の湖』(ドヴォロヴェンコ/ベルツェルコフスキー)
7月25日 アメリカン・バレエ・シアター『白鳥の湖』(マーフィ/スティーフェル)
7月26日 アメリカン・バレエ・シアター『オールスター・ガラ』びわ湖公演
7月27日 アメリカン・バレエ・シアター『海賊』(アナニアシヴィリ/ゴメス/コルネホ)大阪公演

【8月】
8月 3日 ワガノワ・バレエ・アカデミーBプロ
8月 6日 『エトワール・ガラ』Aプログラム
8月 7日 『エトワール・ガラ』Aプログラム
8月 8日 『エトワール・ガラ』Bプログラム
8月 9日 『エトワール・ガラ』Bプログラム
8月10日 『エトワール・ガラ』Aプログラム
8月12日 樋笠バレエ団国際交流公演
8月14日 JJB公演(本島/トレウバエフ)
8月15日 The Proud and Hopes of Japan Gala
8月16日 東京インターナショナルバレエカンパニー「夏休み親子芸術劇場」
8月17日 東京インターナショナルバレエカンパニー『白鳥の湖』(エカテリーナ・ボルチェンコ/ピョートル・ボルチェンコ)
8月23日 小林紀子バレエ・シアター『ラ・シルフィード/マクミラン・ダイヴァーツ』(島添/ホールバーグ)
8月24日 新潟中越沖地震チャリティバレエガラコンサート奈良公演
8月30日 新潟中越沖地震チャリティバレエガラコンサート桶川公演

【9月】
9月 1日 新潟中越沖地震チャリティバレエガラコンサート東京公演
9月 3日 レニングラード国立バレエ 華麗なるクラシックバレエ・ハイライト 草刈/シェスタコワ/コールプ
9月 4日 藤原歌劇団 『椿姫』
9月12日 ニューアドベンチャーズ『ドリアン・グレイ』サドラーズ・ウェルズ
9月13日 ニューアドベンチャーズ『ドリアン・グレイ』サドラーズ・ウェルズ
9月13日 ニューアドベンチャーズ『ドリアン・グレイ』サドラーズ・ウェルズ
9月14日 ニューアドベンチャーズ『ドリアン・グレイ』サドラーズ・ウェルズ
9月16日 東京バレエ団『ジゼル』(小出/ルグリ)

【10月】
10月18日 小林紀子バレエ・シアター『ザ・レイクス・プログレス/他』

【11月】
11月14日 日本バレエ協会公演『真夏の夜の夢』『旅芸人』ほか
11月15日 新国立劇場バレエ団『アラジン』(本島/山本)
11月16日 新国立劇場バレエ団『アラジン』(小野/八幡)
11月19日 新国立劇場バレエ団『アラジン』(湯川/芳賀)
11月22日 インペリアル・アイス・スターズ『氷の上の眠れる森の美女』
11月23日 ナチョ・ドゥアト・スペイン国立ダンスカンパニー『ロミオとジュリエット』
11月24日 シュツットガルト・バレエ団『眠れる森の美女』(オサチェンコ/ラドメイカー/バランキエヴィッチ)
11月28日 シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』(イリ/アマトリアン)
11月29日 シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』(レイリー/カン)
11月30日 シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』(バランキエヴィッチ/アイシュヴァルト)

【12月】
12月 3日 ボリショイ・バレエ団『ドン・キホーテ』(アレクサンドロワ/ベロゴロフツェフ)
12月 4日 ボリショイ・バレエ団『ドン・キホーテ』(オーシポワ/ワシーリエフ)
12月 6日【マチネ】ボリショイ・バレエ団『白鳥の湖』(アントニーチェワ/グダーノフ)
12月 6日【ソワレ】ボリショイ・バレエ団『白鳥の湖』(アレクサンドロワ/シュプレフスキー)
12月 7日【ソワレ】ボリショイ・バレエ団『白鳥の湖』(ザハロワ/ウヴァーロフ/ベロゴロフツェフ)
12月 9日 ボリショイ・バレエ団『明るい小川』(クリサノワ/メルクリエフ/アレクサンドロワ/フィーリン)
12月10日 ボリショイ・バレエ団『明るい小川』(オーシポワ/ワシーリエフ/フィーリン)
12月11日 ボリショイ・バレエ団『ドン・キホーテ』(オーシポワ/ワシーリエフ)
12月19日 東京インターナショナルバレエカンパニー『くるみ割り人形』(柴田/サレンコ)
12月20日 新国立劇場『シンデレラ』(レジュニナ→さいとう/コボー→トレウバエフ)
12月21日 ルグリ&ペッシュ クリスマスチャリティガラ
12月22日 新国立劇場『シンデレラ』(さいとう/コボー)
12月23日 新国立劇場『シンデレラ』(さいとう/トレウバエフ) 
12月23日 井上バレエ団『くるみ割り人形』(島田/パストール)
12月23日 井上バレエ団『くるみ割り人形』(宮崎/パストール)
12月27日 パリ・オペラ座バレエ団『ベジャールへのオマージュ』(ガニオ/ペッシュ/パケット/ロンベール/ベザール)オペラ・バスティーユ
12月27日 パリ・オペラ座バレエ団『ライモンダ』(ジルベール/マルティネス)オペラ・ガルニエ
12月28日 パリ・オペラ座バレエ団『ライモンダ』(アレクサンドロワ/ヴォルチコフ)
12月29日 パリ・オペラ座バレエ団『ライモンダ』(コゼット/パケット)
12月30日 パリ・オペラ座バレエ団『ライモンダ』(アレクサンドロワ/ヴォルチコフ)
12月31日 パリ・オペラ座バレエ団『ライモンダ』(ルテステュ/マルティネス)

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2009/01/04

12/27 パリ・オペラ座「ライモンダ」Raymonda 3幕のみ

バスティーユでのベジャールプロ終了が9時半、ガルニエでの「ライモンダ」終了が10時45分。バスティーユから移動すれば、「ライモンダ」の3幕に間に合うかもしれないジャン、と思いガルニエに向かうことに。というのも、日本にいるお友達に、今日のジャン役はジョゼが出ているというメールを送ってきてもらったから(パリではインターネットを見ていなかったので、日本にいる人のほうが情報が速い)。それにこの日の「ライモンダ」のチケットも持っていたし。

なんとか10時ちょうど、休憩時間の終了を告げるブザーが鳴っている間に駆け込むことができた。席は3階サイドのcote(ボックス)。しかし私の席に別の人が座っていたので、係りに頼んで空けてもらうことに。しかも2列目で、1列目の人が例によって身を乗り出して見ているので、ものすごく邪魔である。キャスト表は入場時にはもらえなくて、終演後やっと入手。キャストを知らないで見るというのもちょっと新鮮で面白いかも。

P1020926ss


RAYMONDA Dorothée Gilbert
JEAN DE BRIENNE Christophe Duquenne→José Martinez
ABDERAM Jérémie Bélingard
HENRIETTE Mélanie Hurel
CLEMENCE Muriel Zusperreguy
BERANGER Emmanuel Thibault→Julien Meyzindi
BERNARD Fabien Révillion
LA COMTESSE Béatrice Martel
SARRAZINS Charline Giezendanner, Marc Moreau
ESPAGNOLS Sarah Kora Dayanova, Gil Isoart
LE ROI Emmanuel Hoff

GRAND PAS CLASSIQUE
Aurelia Bellet, Marie-Solene Boulet, Sarah Kora Dayanova, Laura Hequet
Joshua Hoffalt Florian Magnenet, Julien Meyzindi, Gregory Dominiak

Mathilde Froustey, Charline Giezendanner,Lucie Clement, Juliane Mathis
Gil Isoart, Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

VARIATION
HENRIETTE (Mélanie Hurel)

PAS DE QUATRE Gil Isoart Alistar Madin, Marc Moreau, Fabien Revillion

TRIO
CLEMENCE (Muriel Zusperreguy) et Mathilde Froustey, Charline Giezendanner

チャルダッシュの中には、藤井美帆さんが一番前の列にいた。昇進試験で昇進はできなかったものの、ダンソマニなどのコメントを見るとかなり評価は高かったようで、自信に満ちた踊り。今年入団したばかりのタケル・コストくんもいた。ハーフだけどかなり日本人寄りの容姿なのですぐにわかる。

ヴァリエーションはアンリエットのメラニー・ユレル。このヴァリエーションはものすごく良くて、ユレルをすっかり見直してしまった。動きがとてもクリアだし、パドシャの高さも申し分なくて、きびきびと音楽によく乗っている。

パ・ド・カトルは、ヌレエフ版に限らずたいていの「ライモンダ」で挿入される振付だけど、ここのトゥール・ザン・レールの着地でそのバレエ団の男性ダンサーの実力が試されると言っていい。たとえば新国立劇場での「ライモンダ」は、トゥール・ザン・レールできちんと5番に降りられるのはマイレン・トレウバエフだけだ(中村誠さんも成功率は高い方だけど)。

で、オペラ座はというと、4人中大体2人が成功、あとの二人もうまくごまかすことに成功していた。この後も毎日サラセン役とグランパ・クラシックを踊って大活躍のマルク・モローの着地が毎回とても綺麗だった。ジル・イゾアールもさすがベテランだけあって、このあたりはきれい。しかも、このあたりの振付はかなり鬼のように跳躍が多くて大変!

クレマンスのほうはソロではなくて、グランパに出演している女性ダンサー二人を引き連れて踊る。マチルド・フルステーは以前の自己アピールがだいぶ減って、自然体で美しいラインを見せていたし、コリフェに昇格したシャルリーヌも強靭さを見せていながら可愛らしく良かった。

さて、ライモンダとジャンのペアが登場。ジョゼをガルニエで観るのは実は初めて。「椿姫」ではデ・グリューを踊る予定でキャスト表にも名前が出ていたのに一回も登板していなくて。そのジョゼのジャンはさすがのエレガンスと優雅さ。改めて脚のラインの美しさ、気品のある佇まい、的確なサポートに惚れ惚れ。これぞエトワール。ドロテはとにかく華やかで、あのキラキラのゴージャス衣装も似合ってとっーても綺麗なんだけど、ただこの華やかさの押し出しがあまりにも強くて、残念ながら私の好みとは違っていた。同じ華やかさのある姫役でも、ガムザッティだったらぴったりなんだろうけど、ライモンダはもうすこしおっとりとしているキャラクターだと思っているので。

ライモンダのヴァリエーション、オペラ座なので、手をバシっと叩く音が大きく響く。やはりロシア系の「ライモンダ」の映像ばかりを観てきたせいか、私はここは音を出さない方が好きだし、手を叩く音をさせたとしても、ここまで大きいのはちょっと、せっかくの素敵な音楽を乱すようで好みに合わない。
ドロテは、テクニック的には文句がつけようがないほどでまったく乱れがない、とにかく脚が強靭だし引き上げも強くて、上手い。ただ、あまりにも強すぎて、お姫様の優雅さに欠けている上に、私は上手いし余裕ありますわよ、と言わんとしているのがくどいというか、そういうのって自分でアピールするんじゃなくて自然と醸し出されなくてはならないと思うの。柔らかさや余裕が加わったら、これだけ華があることだし、本物のスターの輝きを身につけられるのではないかと思った。

そしてコーダ。このコーダの時の音楽がもう大好き。コール・ドの動きも好き。ライモンダが片脚ずつパッセするときの前半の音のゆっくりさ加減と、微動だにしないドロテの上半身に感心。後半に音楽のスピードが上がってもしっかりとついてきている。本当に彼女はテクニックは素晴らしい。そしてジャンがカブリオールで飛び込んでくるラスト。鮮やかな弧を描くバットゥリーのカブリオールで、踊りも最高潮に。ところが、ここで終わらないのがヌレエフ版の大変なところで、この後もしっかりパ・ド・ドゥが続く。3幕を観ただけでも心臓破りのようなダンスの饗宴というのが「ライモンダ」なのだと実感。そしてこの日一番印象に残ったのは、やはりジョゼのエレガンスだった。

***
ところで「ライモンダ」の魅力の一つには、エキゾチズムの香りを盛り込みながらも、真珠のようなきらめき、輝きのある旋律を聴かせるグラズノフによる音楽があります。バレエ音楽の中でも、最高傑作のひとつだと思います。このモスクワ交響楽団盤は、オペラ座で上演されている「ライモンダ」のほとんどの曲が収録されているので、お勧めです。指揮はアレクサンドル・アニシモフで、「ダンサーズ・ドリーム」のライモンダ編にも出演しています。

Glazunov: RaymondaGlazunov: Raymonda
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12/27 パリ・オペラ座「モーリス・ベジャールへのオマージュ」Hommage a Maurice Bejart

Hommage à Maurice Béjart
27 décembre 2008 à 19h30

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SERAIT-CE LA MORT ? 「これが死か?」

musique:Richard Strauss Quatre derniers Lieder「4つの最後の歌」
soprano Anne-Sophie Duprels

L'Homme(男): Mathieu Ganio
La Mort(死): Ludmila Pagliero
La Jeune(若い女): Fille Myriam Ould-Braham
L'Experience(経験): Nolwenn Daniel
La Sophistiquee(教養人): Eleonora Abbagnato

席は前から20列目のパルティーレ(カテゴリ1)。若干舞台から遠いけど、全体がよく見渡せる。バスティーユの広い舞台の上には、白い幕が空中に浮いているように配置。ソプラノ歌手と共に登場するマチュー。ソプラノ歌手も、ただたって歌っているだけではなく、舞台の上を歩き回ったり、横たわったり、後ろを向いていたり。
マチューは美の化身のように美しい。でもユニタードからは、胸毛が思いっきり出ているんですが(笑)。ここでのマチューは、とても繊細。身体のラインも美しい。ピルエットではちょっとぐらつくというミスがあったが、そこですら、儚さに結びつき、悲劇的なまでの美しさに酔わせてくれた。

水色のレオタードのミリアムは、クラシックラインがとても美しい。この演目の4人の女性ダンサーの中ではダントツの美しさ。若さの中にあるちょっとした残酷性を表現しているようだった。濃いピンクのレオタードは、エレオノラ・アッバニャード。目を惹き付ける存在感は人一倍ある。しなやかで小悪魔的で、彼女のキャラクターによく合っている。臙脂のレオタードのノルウェン・ダニエルはベテランらしい安定感。白いレオタードの「死」役のリュドミラは、デルフィーヌ・ムッサンイザベル・シアラヴォラが降板しての代役。このキャストの中で唯一のスジェが、一番重要な役に抜擢。アルゼンチン人の彼女はいかにもラテン系の顔立ちで、目が大きく目力がある(が頬骨が張っていてちょっと老けて見える?)。脚のラインもきれいだし、最後に男を手にかける不吉さをかもし出していて雰囲気があった。男は最後に横たわり、「死」にキスされながら息絶える。4人の女性ダンサーの粒も揃っていたし、ソプラノ歌手による音楽も美しい。テクニック的にはオフバランスが多少出てきたとはいえ、古典バレエの技術がメーン。でも、一度観ただけでは完全に理解するのは難しい演目。


L'Oiseau de Feu 「火の鳥」

L'OISEAU DE FEU: Benjamin Pech
L'OISEAU DE PHENIX: Karl Paquette

Les Partisans: Caroline Bance, Alice Renavand, Vanessa Legassy
Vincent Chaillet, Aurelien Houette, Nicolas Paul, Sebastian Bertaud, Daniel Stokes

実はこの作品、東京バレエ団で一度観たきりだった。それもまだ首藤さんが在籍していた時。火の鳥役は木村和夫さんだった。もう何年前になることだろう?というわけで初めて観るような気持ちで観た。

最初はパルチザンたちの中にまじっていたペッシュが、火の鳥の赤い衣装へと変わる。序盤はペッシュの動きがやや思いように感じられたが、途中から絶好調に。何者かに取り憑かれたような熱演。波のように寄せては返す激しい動きを、よどみなく繰り出していく。彼の素晴らしいところは、一つ一つのポジションが正確で、ぴたっと止まっているところ。プロポーションには恵まれていないけれども、アティチュードのポーズなどは実に美しい。すっかりエトワールの貫禄が身についたといえる。(翌日、たまたまガルニエのホワイエでペッシュを見かけたところ、向こうから話し掛けてくれて、前日の「火の鳥」は今まで踊ったこの演目の中でも最高の出来だったとやや興奮気味に語ってくれました)
斃れた火の鳥の後ろから、フェニックスが誕生する。カールのフェニックスがまた、光り輝く金髪(サラサラで少し長め)とブルートパーズのような澄んだ青い瞳で、神々しいほどの美しさ。動き一つとってもとてもきれいで、なるほど、これは神によって誕生させられた不死鳥だと思わせてくれた。パルチザンの中では、断然シャープな動きのアリス・ルナヴァンと、要としてしっかりと踊っていたニコラ・ポールが素晴らしかったと思う。

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LE SACRE DU PRINTEMPS 「春の祭典」

L'Elue: Stéphanie Romberg
L'Elu: Audric Bezard

Deux Jeunes Gens: Bertrand Belem, Mallory Gaudion
Deux Chefs: Yong-Geol Kim, Alexis Renaud

Vincent Chaillet, Guillaume Charlot, Aurelien Houette, Nicolas Paul, Pascal Aubin,Sebastain Bertaut Mathieu Botto, Vincent Cordier, Daniel Stokes, Adrien Couvez Julien Cozette, Yvon Demol, Alexandre Gasse, Mickael Lafon,
Samuel Murez, Francesco Vantaggio, Mike Derrua

Quatre Jeunes Filles :Laurence Laffon, Ludmila Pagliero, Alice Renavand, Vanessa Legassy

Caroline Bance, Christelle Garnier, Myriam Kamionka, Sabrina Mallem, Alexandra Cardinale, Eleonore Guerineau, Amelie Ramoureux, Charlotte Ranson, Calorine Robert, Severine Westermann, Amandine Alibisson,
Laure-Adelaide Boucuad, Leila Dihac, Noemie Djiniadhis, Natasha Gilles, Christine Pelzer, Ninon Raux, Gwenaelle Vauthier

こちらの作品は東京バレエ団でもお馴染み。さすがにパリ・オペラ座での上演ともなると、やや品が良い印象があるが、それゆえ、かえって作品の残酷性、容赦のなさが浮かび上がってくるところが面白いと思った。東京バレエ団のを観ても、あまりそういうところを感じなかったのだ。

伏せている男性ダンサーたちの中で、一番最初に手をついて上半身をあげ起き上がるのが、マロリー・ゴディオン。力強くて野性的、シャープな動きで終始非常に印象に残った。生贄を決める過程は、すごく暴力的。その中で選ばれたのは、オドリック・ベザール。際立った長身とは裏腹に、激しく怯え、見えない恐怖と戦っているようだ。動きも、その恐怖の感情を込めた、あえて乱れを出したような激しい動きで、非常に説得力があったと思う。熱演。ステファニー・ロンベールも長身でクールなダンサー。その冷静さは、オドリックとは対極にあるようだった。運命と堂々と対峙し、それを受け入れようとする姿勢が感じられる。

身体をぶつけ合う荒々しい群舞にはとてもインパクトがあり、激しさのなかにもどこか気品、清潔感が感じられるのはオペラ座ならではか。その中で、恐怖に支配されて正気を失っているかのようなオドリック、そして4人の男性ソリストの中でも、際立って力強いマロリーが強い印象を残した。

でもやっぱり「春の祭典」はオリジナルのニジンスキー版と、ピナ・バウシュ版が古さを感じさせないのに対して、やっぱり古びてしまっている作品だと改めて思ってしまったのだった。古びてしまっていることを除けば、面白い作品だと思うのだけど。パリ・オペラ座管弦楽団による演奏は非常に迫力があり、素晴らしいものだった。

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会場内ではオペラ座で過去に上演されたベジャール作品の写真展示をしていた。裏面から光を当てたスライド形式で、物販カウンターの上や天井近くに配置されたものもあり、ちょっと見づらかった。

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2009/01/02

パリから帰国しました/パリ・オペラ座ライモンダ速報

成田空港から取り急ぎご報告です。

皆様あけましておめでとうございます♪今年も不肖私をよろしくお願いいたします。

さてパリ・オペラ座でベジャールプロ一回、ライモンダ四回(+一幕)を無事観られて、どれも素晴らしい公演だったのですが、大晦日にローラン・イレールは踊りませんでした。会場で配布されたキャスト表にも名前が載っていたのですが、開幕前にアナウンスが入り、ジョゼ・マルティネス、アニエス・ルテステュ、ステファン・ビュヨンというキャストに。

敢闘賞を、四日連続アブデラムを踊ったステファンにあげたいと思います。とてもセクシーで、生真面目な彼らしいところもある情熱的な演技でした。期待されたエトワール・ノミネがなかったのが残念。ベジャールプロと掛け持ちで大活躍のカール・パケットのジャンも貴公子らしくて美しく、良かったです。

ライモンダ役はやはり、マリーヤ・アレクサンドロワの姫オーラの強烈さが印象的でした。パリ・オペラ座の女性ダンサーは上半身が硬い人が多いので、柔らかいマーシャの腕の使い方が優雅で、とても美しく感じられました。踊りにも余裕が感じられて、生まれながらのお姫様だと思わせてくれました。

アニエス・ルテステュのライモンダも、凛とした気品と揺るぎないスターの輝きで眩しかったです。ジョゼ・マルティネスとのパートナーシップも完璧でした。ジョゼもとてもエレガントで素敵な貴公子でしたね。27日の3幕と大晦日を観たのですが、3幕に関しては、27日の方が良かったと思います。31日は急遽の出演だったからか、ちょっと跳躍が重かったのと音に合っていないところがありました。それでも、オペラ座を代表するエトワールに相応しい、風格と優雅さがあって、おもわずうっとりでした。

怪我人が多いようで、脇もほぼシングルキャスト。ベルナールとベランジェはフロリアン・マニュネとジョシュア・オファルトがほぼ毎日。サラセンはシャルリーヌ・ジザンダネとマルク・モローが四日連続。27日のジャンを降板したクリストフ・デュケンヌが29日から三日連続スペイン、と皆様本当によく働いていました。特にベルナールとベランジェは出ずっぱりで踊りも多いので大変だったと思います。

また後ほどそれぞれの感想を書きますね。

追記:おまけ情報です。

ジョゼ・マルティネスは、2009年はパリ・オペラ座学校公演と、世界バレエフェスティバルで来日するそうです。また、客席で元気そうなマチアス・エイマンを見かけました。

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2008/12/26

12/23、24 井上バレエ団「くるみ割り人形」

井上バレエ団12月公演『くるみ割人形』(全2幕)

芸術監督・振付:関直人
美術・衣装:ピーター・ファーマー

クララ:鳥海奈月(23日)、鈴木姫菜(24日)
フリッツ:加藤静流
ドロッセルマイヤー:堀 登
雪の女王:小高絵美子(23日)、西川知佳子(24日)
雪の王子:小林洋壱(東京シティ・バレエ団)
花のワルツ:西川知佳子(23日)、田中りな(24日)、中尾充宏(小林紀子バレエシアター)
王子:へスス・パストール
金平糖の精:島田衣子(23日)、宮嵜万央里(24日)

音楽監督・指揮:堤俊作
演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
(2008年12月23・24日 文京シビックホール大ホール)

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去年も観た井上バレエ団の「くるみ割り人形」、今年は元ABT(そしてマシュー・ボーンの「白鳥の湖」のザ・スワン/ザ・ストレンジャー)のヘスス・パストールが出演するということでまた観に行くことに。しかし、23日はマチネに新国立劇場の「シンデレラ」を観てから春日への移動のため開演に間に合わず、20分遅れで1幕のアルルカンの踊りから、24日は6時開演なので仕事を終えてからだと間に合わないので2幕からと途中から観ることになってしまって申し訳ない感じ。

井上バレエ団の「くるみ割り人形」は、ピーター・ファーマーの美術が温かみがあって、とても独特なタッチを加えている。花のワルツの衣装をターコイズブルーにするという発想はなかなか他では思いつかないのでは?ドロッセルマイヤーの堀 登さんがものすごい存在感でひきつけられる。堀さんは、27,28日は新国立劇場の「シンデレラ」のアグリーシスターズで出演と大忙しの模様。フリッツ役、去年はマッシモ・アクリの息子さんのアクリ瑠嘉くんが踊っていたけど、今年も、とても美少年で踊りも上手い加藤静流くん。

このバレエ団のダンサーはみんなとてもおっとりとした雰囲気で、群舞はものすごく揃っているわけではないけど、足音をまったくさせないのが素晴らしい。全体的に小柄なダンサーが多いけど、とても品があって、かもし出す雰囲気がとても良い。ゲストダンサーの小林洋壱さんは長身で端正だし、中尾充宏さんは小林紀子バレエシアターでは王子は踊らないのに、ここでは気品があって丁寧な踊りが王子様的だった。それから、葦笛の踊りがすごく美しくて心地良い踊りで、中でも真ん中を踊っていた田中りなさんが素敵だった。

久しぶりに観るへススは、以前よりもちょっとむっちりしてしまっていて、小林洋壱さんの日本人離れしたすらりとしたプロポーションと比較するとちょっと太くて残念な感じ。もともと白タイツ王子系のダンサーではなく、ABTではアブレラクマンやヒラリオン、レスコーなどキャラクテールがメーンだったので、くるみの王子を踊ると聞いてびっくりしたほどだった。踊りの方は、パートナーに対する気遣いが感じられていて、(本来あまり得意ではないはずの)サポートも丁寧だった。彼の魅力であるものすごい柔らかさ、しなやかさは健在。プリエがすごく効いている踊りで、上半身もとても柔らかいしつま先もきれい(でも、最近古典踊っていないでしょう、ってわかっちゃうけど)。とにかく笑顔全開で、楽しそうに踊っているのを観ると幸せな気分が伝わってくる。

23日の金平糖の精を踊った島田衣子さんが、もう~なんと言っていいのかわからないほど素晴らしかった。小柄でほっそりとしているし、顔立ちだって派手な方ではないのに、プリマオーラがすごくて、キラキラしていた。たとえば今の新国立劇場には、こういうタイプのバレリーナが不足しているのだと思う。宮内真理子さんが引退してしまったものだから。バレエ団の持ち味である鷹揚さと気品があるとともに、音楽性も素晴らしい。さらに、コーダのフェッテの正確ですばやい回転(トリプルも入っていたと思う)には驚かされた。24日の宮嵜万央里さんは去年も金平糖の精で観たのだけど、やはりおっとりとして上品なタイプ。ただ、ヴァリエーションでの細かい足捌きが苦手そうなのと、コーダの後半では疲れが見えてしまったのがちょっと残念なところ。でも、伸び代を感じさせるダンサーではある。

そして恒例の嬉しいサービスとして、終演後、オーケストラがクリスマスキャロルのメドレーを奏で、出演ダンサーたちほぼ全員が蝋燭を手に踊ってくれる上、王子がソロを見せてくれるという趣向がある。クリスマスだ、という幸せな気分をもらって帰ることができる心温まる公演だった。

それと、パンフレットの裏表紙に来年の公演の案内が。

2009年7月19日、20日文京シビックホール ピーター・ファーマー美術、関直人振付の「シンデレラ」(プロコフィエフ)
ゲストとして、パリ・オペラ座のエマニュエル・ティボーが出演するとあります。
今年の7月公演でもティボーくんはゲスト出演しているし、昨年ティアゴ・ソアレスの代役で「眠れる森の美女」に出演して以来、すっかり彼は井上バレエ団に気に入られたようですね。

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2008/12/24

12/23マチネ 新国立劇場「シンデレラ」Frederick Ashton's Cinderella

そういうわけで、何だかんだ言って「シンデレラ」3回目に行って来ました。というか、マイレン・トレウバエフのファンの私にとってはこれが最重要公演だったわけなのですが。マイレンが主演の公演は、今シーズンこれしかないわけですし。(初日もアクシデントにより2幕後半からは主役を踊りましたけどね)

「シンデレラ」ってやっぱりとてもいい作品だと思うし、新国立劇場のカラーにもとても合っているし、全体的に言ってもとても良い公演だと思いました。日ごろからよく新国立劇場について苦言を言っていたり書いている私ですが、やはり、期待しているからこその苦言となるわけです。本当にもういや、と思ったらチケットを持っていたとしても売ってしまうなりして観に行かなくなるわけだし。

さいとうさんは、昨日に引き続いての主演。さすがに後半の方ではちょっと疲れが見えて、やや踊りが小さくなってしまった印象はあったけれども、ミスもほとんどなくて、とても安定していました。ソワレを観た友達の話でも、好調だったということなので、本当に良かったです。こういう大変な経験が、大きな糧になりそうですね。可愛らしくて健気なシンデレラ。ポアントの軌跡もきれいだったし、アシュトンのパをうまく軽やかにこなしていました。難しそうなことを、そんなに難しくないように踊れているところがたいしたものです。

そしてマイレン!なんて素敵な王子様なのでしょう。といっても、随所にマイレンらしいちょっと皮肉さが出てくるところがまたたまらないわけなのですが。包容力があって、紳士的で、とても頼りがいがある大人の高貴なプリンスです。踊りの方は絶好調!柔らかい跳躍、足音はしないし、着地はきれいな五番だし、指先に至るまで動きが美しい。(でも、王子役を踊るときには結婚指環は外しましょう)よく観るとけっこうユーモラスなところがあって、3幕でアグリーシスターズにガラスの靴を履かせるよう靴屋に命令するところや、姉の方への態度など、ちょっとエラそうでした。サポートも非常に安定感がありました。マイレンは初主役の「くるみ割り人形」の時から、新国立での主演はほとんど観ているのですが、前からこんなに安定していたっけ?と思うほど。もう惚れ惚れです。今回は急な代役でもいい踊りを見せたし、ぜひ来シーズンはもっと主役にキャスティングして欲しいです。唯一の男性ファーストソリストですし。

この回は、ほとんどセカンドキャストだったので、それを観るのも楽しかったです。四季の精はファーストキャストの方が良いと思いましたが、冬の精の厚木さん、夏の精の湯川さんはとてもよかったと思います。特に夏の精は、夏の気だるい感じがドラマティックに表現できていました。仙女の本島さんはペケでした。パについていくのがやっとで、たとえばヴァリエーションでも、音に遅れてしまうので全然パンシェできていないし、猫背になるし、何しろ複雑なパが踊れていないので顔にも"必死”って書いてあるように表情が硬く、仙女が持つべき暖かさ、優しさ、包容力が感じられなかったです。川村さんの美しさ、音楽性やキラキラ感が懐かしく思われました。

アグリーシスターズの保坂アントン慶さんは、マッシモ・アクリさんほどのアクはありませんが、アクリさんより美人な姉だけに、ちょっと色っぽくてカマっぽくて(女の役ですが)違った面白さがありました。高木さんも、たぶん初役だと思いますが、ちょっともじもじして内気な妹をかわいく演じていたと思います。ファーストキャストの井口さん含め、新国立のアグリーシスターズは演技が上手くていいですね。カーテンコールでのアントンさんも、とっても面白かった!

道化のバリノフくんも、やわらかくて滞空時間の長い跳躍が好調だったし、キャラクターが道化にとても向いている感じです。前より体重も絞り込んだ感じで少し細くなったと思います。

コール・ドの星の精たちがとても揃っていて綺麗でした。多分このシーンでのコール・ドのリーダーは大和雅美さんだと思うのですが、彼女が一番バッターで勢いよく入っていくところから、統率がとてもよく取れています。また、星のキラキラをイメージした振付が可愛いんですよね。

新国立劇場バレエ団の美点がとてもよく出ている作品なので、版権の問題もあるかと思いますが、大事なレパートリーとして大切にしてほしいと思いました。

2幕では、シンデレラに惹かれた王子が、人気のない舞踏会場でシンデレラの姿を追い求めます。そこへ、パ・ドブレをしながらシンデレラが姿を現します。嬉しさを隠せない王子と、表情を輝かせるシンデレラ。このふたりきりのアダージオというシチュエーションと少し寂寥感がありながらもドラマティックな音楽が、深い感動を呼びます。やっと求めていた人に出会えたね、という。それが、ラストでの後姿の二人に昇華していて、きらきら光る星屑とともに感動が頂点に達します。御伽噺と馬鹿にできない、素晴らしい作品だと思います、アシュトンの「シンデレラ」は。また近いうちに観たいです。

【シンデレラ】
 さいとう美帆

【王子】
 マイレン・トレウバエフ

【義理の姉たち】
 保坂アントン慶 高木裕次

【仙女】
 本島美和

【父親】
 澤田展生

【春の精】
 丸尾孝子

【夏の精】
 湯川麻美子

【秋の精】
 高橋有里

【冬の精】
 厚木三杏

【道化】
 グリゴリー・バリノフ

【ナポレオン】
 八幡顕光

【ウェリントン】
 市川 透

【王子の友人】
 陳 秀介 冨川祐樹 江本 拓 中村 誠

【振 付】フレデリック・アシュトン
【作 曲】セルゲイ・プロコフィエフ
【監修・演出】ウエンディ・エリス・サムス
【指 揮】デヴィッド・ガルフォース

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2008/12/23

12/22 新国立劇場「シンデレラ」

今日は本当は行く予定ではなかった「シンデレラ」の2回目を観に行きました。急にいけなくなった友達のピンチヒッターで。でもひどく疲れているようで、観ている間は楽しかったのですが、休憩時間は死んだように寝ていました。バレエを観に行くとたいてい誰が知り合いに会うんですが、今日のように、誰にもこの公演を観に行くって言わないで、誰にも会わないで観られるのはいいな、って思いました。その方が感動を自分の中にとっておける気がするんです。こんな風に思うのって、やっぱり自分が疲れているんだと思います。人に会いたくない、しゃべりたくないという心境なんです。もうあと数日で今年も終わりなのに、旅行の準備すらまったくできていないし。

ヨハン・コボーとさいとう美帆さんという、レジュニナの降板に伴う急ごしらえの主役ペアだったのですが、パートナーシップがとてもよく合っていたと思います。身長のバランスもちょうど良かったです。コボーって改めて、サポートが上手な上、ジェントルマンでパートナーを立てるのがうまいと思いました。プロポーションはどちらかといえば難ありの部類なのですが、さいとうさんが小柄ということもあり、ノーブルな王子様に見えました。脚捌きは例によってとてもきれいだし、気品もあるし、テクニックがとても正確で着地が毎回確実にきれいな5番に入ります。初日、今日とコボー株が私の中でぐっと上がりました。さいとうさんは、今日も愛らしく、楚々として気立ての優しいシンデレラを好演してました。シンデレラ役は本当に彼女の持ち味に合っていると思います。

川村真樹さんの仙女がダイアモンドのようにキラキラとしていて美しかったのは言うまでもありません。また、四季の精の小野絢子さんがよかったです。アシュトンの難しいパを軽々とこなし、音楽性がとても豊かでした。四季の精のほかの3人はベテランの上手な人をそろえているのですが、その中で新人の部類に入る小野さんが際立って良く見えて、この人は才能がある、と思わせてくれました。小野さんも小柄で愛らしいので、シンデレラ役が似合いそうです。

王子の4人の友人の中では、やっぱり中村誠さんが断然しなやかで踊りがきれいです。あとは着地が5番にきれいに決まるようになれば、文句なしですね。

アシュトンの「シンデレラ」は、ラストシーンがとても好きです。妖精たちが掲げる灯りが闇を照らし、そして星空に佇むシンデレラと王子の後姿に、キラキラ光るダイアモンドダストのような紙吹雪が降っているところが、余韻があってとても素敵。二人の物語はここで終わるのではなくて、これから始まるということを感じさせてくれます。それから、アグリーシスターズが実際のところ、あまり意地悪ではなくて、本当はシンデレラのことを愛しているというのがわかるのが良いです。ガラスの靴がシンデレラの足に合って、シンデレラが王子と結ばれることになった時に、姉妹はシンデレラの幸せを喜んで、彼女と抱き合って祝福するところが、ジーンとします。誰も不幸にならない、ただ一番気立ての良いシンデレラが幸せになるというところが、素敵です。クライマックスの、広がりがあって雄大なプロコフィエフの音楽も本当に素晴らしいです。とてもいいプロダクションなので、新国立劇場で上演し続けて欲しいです。

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明日もまたさいとうさん&マイレン・トレウバエフのペアを観ます。さいとうさん、連投ですごく大変だと思いますが、この調子で乗り切って欲しいです。

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2008/12/20

新国立劇場「シンデレラ」12/20レジュニナ途中降板

今日の新国立劇場「シンデレラ」初日で、二幕のシンデレラと王子の最初のパドドゥの後に、ヴァリエーションを踊ろうとしたヨハン・コボーと指揮者とのやり取りがあって少し間が開き、コボーのヴァリエーション、アグリーシスターズのオレンジを持った踊りの後に急に幕が下りて上演が中断し、舞台監督による「主役が怪我をしましたので中断の後代役によって続けます」というアナウンスがありました。

ラリーサ・レジュニナが怪我をしたようで、再び幕が開く前に、代役のアナウンス。代役としてはさいとう美帆さんとマイレン・トレバエフが2幕のパドドゥから踊りました。(シンデレラのヴァリエーションが一つ省略されました)

レジュニナの怪我がどの程度かは不明なので、後2回の出演もどうなるか、これを書いている時点ではまだわかりません。コボーについても。

久しぶりに観るレジュニナは、昔のかわいらしさそのままで、可憐さがシンデレラにぴったりでした。足の甲も美しく、優雅な上半身で丁寧に踊っていました。姫に変身した時も愛らしかったので、本当に残念です。二幕の登場シーンでとても緊張していたのと、パドドゥの時にサポートピルエットで一回ポワントが落ちて一瞬真顔になってはいたのですが、舞台をはけるまではちゃんと踊っていました。

コボーも調子が良さそうで、カブリオールの脚捌きが華麗で、すごくノーブルで素敵でした。マエストロとのやり取りのときの声もクールでカッコよかったので、途中までしか観られなかったのは残念です。(シンデレラのヴァリエーションを飛ばして王子のヴァリエーションに飛んだので、指揮者が楽譜をめくるのが追いつかなかったようです)

とにかくレジュニナの怪我が大きなものではないことを祈ります。観ている時に怪我をしたと聞くと、ちょっとショックで、未だ動揺しています。久々の日本での出演が怪我ということになって、本人の胸中を思うとこちらもつらいです。

代役の二人は、いきなり二幕のパドドゥからという登場で大変だったと思いますが、立派に役割を果たしました。マイレンの持ち前の包容力と安定感は、こういうアクシデントの時には大きなプラスです。アクシデントのショックで動揺しながらも、マイレンに関しては安心して見ていられました。大好きなマイレンが、ますます大好きになりました。さいとうさんも、笑顔全開でかわいらしく、また技術も表現も落ち着いていて、健気さが感じられ、とても良かったです。シンデレラ役は清らかなイメージのさいとうさんには、当たり役というかはまり役ですよね。

ダンサーに怪我はつきものですが、できるだけ怪我をする人が出ませんよう、祈るしかないですね。

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舞台の話に戻ると、仙女役の川村真樹さんがもう美しくて気品にあふれていて、素晴らしかったです。23日マチネでもう一度「シンデレラ」を観るのですが、このときの仙女が川村さんでなくて、とても残念。四季の精では、やはり春の精の小野絢子さんが、愛らしくて素敵でしたね。冬の精の寺島ひろみさんは緊張はしていたようですが、四肢の動きがとても美しく柔らかで、冬の厳かさがよく出ていました。道化の八幡さんもいうまでもなく、軽やかに跳んでいて演技も細かくて良かったです。

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「シンデレラ」を観ると、プロコフィエフの音楽の素晴らしさを毎回実感します。今回の演奏も本当に素敵で、涙が出てきそうになりました。特にこのようなことがあったので、ますます、乗り切れて良かったねと泣けてきました。カーテンコールでも、代役として舞台を救った二人を中心に、暖かい拍手があって胸が熱くなりました。新国立劇場の観客は、バレエ団自体を愛しているという気持ちが伝わってきました。カーテンコールで控えめに立っていたヨハン・コボーも、とても素敵でした。

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【シンデレラ】
 ラリーサ・レジニナ→さいとう美帆

【王子】
 ヨハン・コボー→マイレン・トレウバエフ

【義理の姉たち】
 マシモ・アクリ
 井口裕之

【仙女】
 川村真樹

【父親】
 石井四郎

【春の精】
 小野絢子
【夏の精】
 西川貴子

【秋の精】
 遠藤睦子

【冬の精】
 寺島ひろみ

【道化】
 八幡顕光

【ナポレオン】
 伊藤隆仁

【ウェリントン】
 貝川鐵夫

【王子の友人】
 陳 秀介 冨川祐樹 江本 拓 中村 誠

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2008/12/14

シュツットガルト・バレエ「オネーギン」Stuttgart Ballet's Onegin覚書その2 -イノセンスの死

11月28日の初日の感想も全然語り足りないのですが、どんどん忘れていってしまうので、また備忘録代わりに書いていこうと思います。


11/29
Onegin (Gastspiel Tokyo, Japan)
オネーギン:ジェイソン・レイリー
レンスキー:マリイン・ラドメイカー
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:スー・ジン・カン
オリガ:アンナ・オサチェンコ
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ダミアーノ・ペテネッラ

Onegin Jason Reilly
Lenski Marijn Rademaker
Tatjana Sue Jin Kang
Olga Anna Osadcenko
Gremin Damiano Pettenella

前日(28日)のフリーデマン・フォーゲルが演じたレンスキーについて、まだ何も書いていませんでした。印象としては、フリーデマンの踊りが非常に安定していて、とてもしっかりしたものになっていること。踊りから受ける印象もあり、フリーデマンによるレンスキーは、地方都市に暮らす詩人ではあっても、朴訥ではなく、どこか世慣れています。都会生活を経験したことがあるのかもしれません。そして非常にプライドが高い。だからオネーギンがオリガにちょっかいを出すのも許せないし、彼女が一瞬でもぐらっとオネーギンに傾いたことも許せない。決闘を申し込むシーンで、一番あからさまに怒りを爆発させ、手袋でオネーギンを激しくぶっていたのが彼のレンスキーでした。と同時に、とても自己愛が強いレンスキーなのです。同じく自己愛が強いオネーギンと激しくぶつかってしまうのも、避けられないことだったのです。決闘を前にしてのソロは、とても美しく技術的にも高度だったのですが、同時にナルシズムを感じさせました。成り行きで自分の婚約者にちょっかいを出した男と決闘をしなくてはならなくなった自分はかわいそうという自己憐憫があふれており、同時に、このように死地に赴いていなければならない自分は、なんてロマンティックな存在なのかという詩人としてのナルシズムです。これくらいの、一歩間違えたら鼻持ちならないまでのプライドを持ったレンスキーというのも、青臭くてそれらしい感じです。

一方、29日のマリイン・ラドメーカーは、理想主義に生きる若い詩人としてのレンスキーです。非常に潔癖で、ピュアで頑固、気高い魂の持ち主です。彼の死は、理想主義の敗北であると共に、イノセンスの死です。レンスキーを殺すことによって、オネーギンは自分の中にも存在していた純真さをも殺すことになってしまい、その後の人生は坂道を転げ落ちるかのように薄汚れてしまったものに成り果てるのです。ジェイソン・ライリーのオネーギンの3幕での老け方は、彼のその後の人生が苦しみに満たされたものであったことを体現していました。

マリイン・ラドメーカーは、1幕では穏やかな微笑を浮かべて、一点の曇りもないような幸福な恋人として登場します。金髪を輝かせた彼は、どこまでも真っ白で、暖かく、陽の光を浴びて輝いているかのようです。だからこそ、オリガの裏切り(というほどのものではないのですが)が許せなかったし、オリガの姉である理知的なタチヤーナが傷つけられたことも許せなかった。こんなことは彼の人生の中にあってはならないのです。そしてその瞬間から死に至るまで、急速に彼の人生は苦悩に満ちたものになります。オネーギン、そしてオリガに向けた怒りが、青い炎となって立ち上っていることを見ることができました。穏やかに見えたレンスキーの中には、彼自身も気がつかなかった激しさが存在していたのです。彼は自分の理想を貫くために、オネーギンと戦うことを選びます。

鼻持ちならない世間ずれした都会の男と、汚れを一切知らなかった詩人との決闘。その前にマリインが見せるソロは、急に今までの完璧な人生が崩れ、自分の中の世界が崩壊していく様を感じ取って心乱れていく様子が現れています。青い炎はますます燃え上がります。そして心の乱れを落ち着かせ、一切の迷いを捨て去って、強い意志を持って彼は決闘に臨みます。その理想主義に彼は殉じるのです。すがり寄るオリガを冷たいほどまでに彼は強く振りほどく一方、タチヤーナには今まで世話になった恩義と、敬意を込めて優しく手にキスをします。タチヤーナのような、やはり純真で夢見がちな少女というのは、彼にとって理想的な存在だったのかもしれません。だからこそ、オネーギンへの激しい怒りを感じたのです。彼は、自分の死をもって、オネーギンに自身の愚かさを思い知らしめるという思いがあったように見えました。

レンスキーを倒したオネーギンを演じたジェイソン・レイリーは、取り返しのつかないことをしてしまった、すなわち自分の中の純真さをあやめてしまうと共に、タチヤーナとオリガの姉妹を深く傷つけてしまったことに気がつき、激しくうろたえます。ジェイソン・レイリーは3人のオネーギンの中で、オネーギンという人物を一番生身の人間らしく、共感できる人物として演じていました。

(続く、かもしれません)

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2008/12/12

12/11「ドン・キホーテ」でボリショイ祭り終了

そういうわけで、先週の火曜日から始まったボリショイ祭りも今日で終了です。数えたら8回も観に行っていました。今週は火・水・木と平日3日間連続だったのでさすがに観る方も疲れました。でも踊っている方は、ずっと大変だったことでしょう。特にザハロワの怪我による降板で急に出演することになったオシポワとワシリエフ、彼らは昨日の「明るい小川」でも踊っているから、すごい。

私もさすがに疲れたので、感想はちゃんとは書けません。さすがにオーシポワ・ワシーリエフのコンビは、先週水曜日ほどアクセル全開ではなかったと思います。まだ彼らは大阪でも「ドン・キホーテ」を踊るんですよね。ワシーリエフはリフトなどでちょっと不安定でした。(でも、例の片手でキトリをリフト→ルルベ→アラベスクはちゃんとやっていました)

グラン・パ・ド・ドゥは、安堵したのか、オーシポワはまた前半ダブル、曲調が変わるところでトリプルを一回入れて後半はシングル2回にダブルを入れていくパターンで回っていました。また、ワシーリエフも、水曜日には息切れしていたように見えたヴァリエーションでの超絶技巧、斜めに身体を傾けての空中回転、後方カブリオールからさらに脚を閉じて開脚するといったすごい技を見せていました。トゥール・ザン・レールから着地すると、そのままつま先をドゥミにして(まるで、かかとをつけないで着地したのではないかと錯覚するほど)そのままピルエットなんて、観たこともないような技まで見せちゃったからびっくり。

急遽のザハロワ降板で、ほとんどの観客はキャスト交代を知らないで会場に着いたと思います。ザハロワのキトリを観たいから(ウヴァーロフを観たいからという方も)という人が多かったと思うので、最初の方は、客席も盛り下がっていて、主演の二人がすごい技を見せても、あまり反応がよくなくてブラーヴォも飛んでいませんでした。でも、だんだん客席が暖まってきて、3幕では最高潮に。良かった、良かった。

オーシポワはやっぱりどうしても肩から指先までのラインがきれいではないので、損をしているんですよね。しかもほとんどのお客さんはザハロワを期待していたわけだし。彼女の情熱的な表情も、人によっては品が良くないと思うかもしれません。ワシーリエフにしても、あのものすごい身体能力を支えるために、太ももが非常に太く、バレエダンサーにあるまじきほどです。そういうわけで、技術はすごいけど、芸術的にはどうなのよ、という疑問はやっぱり出てくると思うんです。だけど、若い二人が、連日このようなハードな舞台で、他のダンサーを楽しみにしてきている満杯の観客を前にして、精一杯お客さんを楽しませようと奮闘している姿は、ちょっと(かなり)感動的でした。

それから、やっぱりボリショイは、キャラクターダンサーやソリストもいいですね~。2幕に出てくる色っぽいお姐さんたち、みんな素敵でした。ジプシーの アンナ・アントロポーワは、「明るい小川」の搾乳女だし、脚がなが~くて、美人なキューピッドのアナスタシア・スタシケーヴィチは、「明るい小川」のキュートな女学生。メルセデスのマリーヤ・イスプラトフスカヤなんか、「白鳥の湖」の美しい女王なんですよね。キトリのママ役アナスタシア・ヴィノクールは「若作りの妻」ですし、ドン・キホーテのアレクセイ・ロパレーヴィチは初老の宿屋の主人。こうやって何公演もみていると、出演者を覚えてきて、親しみを感じてくるので、終わってしまったのが寂しいです。デニス・サーヴィンくんのガマーシュもやっぱり動きが変な人入っていて、笑えましたし、ドン・キホーテとサンチョも、ほーんとに芸達者!

キトリの二人の友人、アナスタシア・メシコーワとヴィクトリア・オーシポワ、二人ともめちゃめちゃ美人だし上手ですね。役に合わせてちょっと肌を濃い目に塗っていたのかしら。アナスタシア・メシコーワはルンキナとニーナを足して2で割ったような超美人。そして3幕のヴァリエーションの二人、「明るい小川」のジーナも可愛くて素晴らしかったエカテリーナ・クリサノワ。アンナ・ニクーリナのヴァリエーションは、足首の柔らかさにほれぼれと見とれてしまいました。それからトレアドールの若手男性たちがやっぱりすごくみんなカッコいいんですよね。ブログでも紹介されていた、「白鳥の湖」のワルツでも目立っていたカリム・アブドゥーリン、改めて脚がすごく長くてきれいなダンサーです。2幕の居酒屋シーンでテーブルに座ってお酒を飲んでいた4人のトレアドールはみんなかっこいいですね。忘れてはいけない、アンドレイ・メルクリエフ。(4階席から観ていたのに)視線の使い方が初日よりもセクシーでした。彼はやっぱり異彩を放つというか、独特の美しい存在感がありますよね。マント捌きも上手いし、つま先もきれい。

連日素晴らしい舞台をありがとう!そして関西公演も怪我人なく乗り切れますように。

ボリショイは再び黄金時代を迎えているのではないかと思いました。ラトマンスキーの功績も大きかったのでしょうね。

キトリ/ドゥルシネア : ナターリヤ・オーシポワ
バジル (床屋) : イワン・ワシーリエフ
ドン・キホーテ (さすらいの騎士) : アレクセイ・ロパレーヴィチ
サンチョ・パンサ (ドン・キホーテの剣持ち) : アレクサンドル・ペトゥホーフ
ガマーシュ (金持ちの貴族) : デニス・サーヴィン
フアニータ (キトリの友人) : ヴィクトリア・オーシポワ
ピッキリア (キトリの友人) : オリガ・ステブレツォーワ
エスパーダ (闘牛士) : アンドレイ・メルクーリエフ
ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ
メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ロレンソ (キトリの父) : イーゴリ・シマチェフ
ロレンソの妻 (キトリの母) : アナスタシア・ヴィノクール
公爵 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
公爵夫人 : エカテリーナ・バリーキナ
居酒屋の主人 : イワン・プラーズニコフ
森の精の女王 : エカテリーナ・シプーリナ
3人の森の精 : ユーリヤ・グレベンシチコワ,ネッリ・コバヒーゼ
          オリガ・マルチェンコワ
4人の森の精 : アレーシャ・ボイコ,スヴェトラーナ・パヴロワ
           チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
キューピッド : アナスタシア・スタシケーヴィチ
スペインの踊り : クリスチーナ・カラショーワ
アンナ・バルコワ,エカテリーナ・バルィキナ
ジプシーの踊り : アンナ・アントロポーワ
ボレロ : アンナ・バルコワ,エフゲニー・ゴローヴィン
グラン・パの第1ヴァリエーション : エカテリーナ・クリサノワ
グラン・パの第2ヴァリエーション : アンナ・ニクーリナ

ひとりごとです。
オーシポワもワシーリエフも私的にはオッケーですし、とても満足した舞台でした。でも、ボリショイの中で踊るザハロワが観たかったです。日曜日の「白鳥の湖」が素晴らしかったので。はっきり言って、今まで何回も新国立劇場でザハロワを観ていますが、そこでの彼女は美しいだけで、特に感銘は残しませんでした。ボリショイでの彼女は、完全に別次元でした。セメニャーカが教師として同伴していたということもあると思います。

で、思ったのは、もう新国立劇場でザハロワを観るのはいいや、と。セット券を買っているので「ライモンダ」と「白鳥の湖」は多分観ますが、売っちゃうかもしれません。というか、最近、すっかり新国立劇場のやり方に嫌気が差しています。「アラジン」は良かったので、ビントレーが来たらまた変わるかもしれないし、彼が芸術監督になったらまた観るかもしれません。が、今の新国立劇場のバレエを、ボリショイやシュツットガルトの素晴らしい公演を観た後では、観たいとは思いません。公演の内容もそうですし、何よりも運営が最近ますますおかしくなっています。来シーズンはもうセット券は買わないし、今もっているチケットだって全部売りたいくらいです。

門 行人さんの「観劇記」の文章をリンクしておきます。ここに書いてあることに、100%同意です。今の東京バレエ団の公演クオリティも決して高くないと思います。でも、(たまに疑問に思うことがなくはないけれど)観客やファンのことを考えてやっていると思います。私設の団体でできることが、なんで国立の劇場、国民の税金を使ってやっている劇場でできないんでしょうかね。しつこいようですが、「コッペリア」のセット券については、本当にあのままでやるつもりなんでしょうかね。本島さんの踊りなんてセット券買ってまで見たくないです、本当に。

http://kado.seesaa.net/article/111066588.html

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2008/12/11

12/10 ボリショイ・バレエ「明るい小川」The Bright Stream まだ途中

今日も楽しかったです~。割引チケットが出ていたようで売れ行きが心配だったのですが、昨日の舞台の評判が良かったためか、当日券等で入った人も多かったみたいで、席はかなり埋まっていたのではないかと思います。私は発売日に予算の都合上3階L列を買ったのです(だってABTと同時発売で、ABTはほぼ全公演買っちゃったんで)。白鳥は上階で観るのが好きなんですけど、こういう小芝居が効いた作品は舞台から近いところで観たほうがいいかも、と思いました。失敗しちゃいました。オペラグラスを使っちゃうと、肝心なところを見逃しちゃうし。

まだ昨日の感想も書き終えていないので、簡単に。後日書き直します。

ジーナがアナスタシア・ゴリャーチェワ、ピョートルがイワン・ワシーリエフ、そしてバレリーナがナターリヤ・オーシポワという若手が中心。そこをフィーリンが怪演ぶりでサポートするって訳で。ワシーリエフはこの日が初役だったようで、1幕のソロなどは例によって人間ヘリコプターぶりを発揮。540を入れた高いクペ・ジュッテ・アン・トゥールナンや、ピルエット・アンドゥオールの途中で空中に浮き上がるように跳躍しながら回転したり。胸のすくような技術はすごかったけど、演技のほうはまだまだ。やっぱりメルクリーエフって演技が上手いんだなあ、って思ってしまった。でも、若くて、憎めないやんちゃな浮気者というキャラクターにはハマっていたけど、若干チンピラっぽいかな。

ゴリャーチェワは「白鳥の湖」でパ・ド・トロワを踊っていた一人。小柄ですごく可愛らしかった。前の日のクリサノワがあまりにも素晴らしかったのでちょっと見劣りしたけど、でも、すごく難易度の難しい振付で、これだけ音が買うにピッタリと合わせて正確に踊れれば十分だと思う。つれない浮気者の夫に耐える健気な若妻という役はあっていたと思う。

ナタリヤ・オーシポワのバレリーナには、もちろんマーシャの超絶男前さはないけど、男装すると男の子みたいで、演技も含めてめちゃめちゃ可愛い。テクニックはもちろんすごくて、コサックたちの踊りの中に飛び出していって、グリッサードなしのすんごい連続グランジュッテを繰り広げるところは仰天するほどだった。マーシャもここはすごかったけど、オーシポワも身体の中に強力なバネがあるみたいで、空中に止まっているかのようだ。「明るい小川」でのレトロなAラインワンピースのような衣装や男装だと、腕の力の入り方も気にならないし、すごい身体能力を感じさせた。

フィーリンのバレエ・ダンサーは今日ももちろん最高だった。後ろ方向へのパドブレ、シソンヌ、アントルラッセ、極めつけはポアントでのランベルセ。どれも一級品なのに、すごく可笑しい。腕の動きもすごくきれいだし、バットマンも柔らかいし、でもデフォルメやカリカチュアを入れておふざけしているのが本当に楽しい。

岩田守弘さんのアコーディオン奏者は、前日のデニス・サーヴィンのやさぐれでちょっときざな色男とはまるで違っていた。もう少し人が良さそうでちょっと可愛いんだけど、やっぱりちょっと胡散臭い。そして踊りの方はというと、サーヴィンもキレキレのすごいテクニックを披露していたけど、岩田さんはもう少し上品。が、それでもノンストップで次から次へと跳躍や回転などの様々なテクニックを万華鏡のように繰り広げていて、すばやい音楽にピッタリあわせていて、本当にこの人38歳なんだろうか、と思うほど若々しい。

若手中心のキャストだったからか、スターそろいで豪華な前日と違って、なんかほんわかとしたムードに包まれていた。でもオーケストラの演奏は今日のほうがノリが良かったかな?ジーナとピョートルのPDDでのチェロのソロの豊潤で美しいこと。思わず聞き惚れてしまった。(実際かなりのショスタコーヴィチファンの方がこられていたようだし、指揮者の井上道義氏も、2日連続で来ていた)ソロでの木琴の爆演も良かったわあ。

フィーナーレは舞台中央に集合写真風に出演者が集まって、みんなで手を振ってくれるというもの。思わず振り返したくなっちゃった。

カーテンコールもなんともいえないあったかい雰囲気。ボリショイでフィーリンが踊るのは最後になるかもしれないのに、特に湿っぽいムードもセレモニーもなかった。その中で、すごいコサックダンス風ウォークを披露してくれた品質検査官のイーゴリ・シマチョフがイカす。彼の品質検査官は、途中で死神になった人かな?あの死神ダンスもすごかった。そして、フィーリンがワシーリエフと手をつなぎ、肩を組んで二人並んでいた時には、フィーリンが、今度は彼がボリショイを引っ張っていくからよろしく、と観客に言っているかのように思えて、ジーンとしてしまった。

「明るい小川」は群舞もノリノリで楽しいし、衣装もとても素敵だし(ジーナや女の子たちの花柄ワンピースが超可愛い)、笑えるし、セットもロシアっぽさ全開でいいし、ショスタコーヴィチの音楽もいいし、そしてボリショイの個性を生かした振付と、本当に最高だった!また日本で全幕を観る機会があればいいなあ。願わくばフィーリンがバレエ・ダンサーを踊り、マーシャがジーナを踊ったこの作品の映像も出して欲しいんだけどね。

音楽 : ドミトリー・ショスタコーヴィチ
 台本 : アドリアン・ピオトロフスキー  フョードル・ロプホーフ
 振付 アレクセイ・ラトマンスキー
 美術 : ボリス・メッセレル
 音楽監督 : パーヴェル・ソローキン
 照明 : アレクサンドル・ルプツォフ
 振付助手 : アレクサンドル・ペトゥホーフ
 指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
 管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団


 ジーナ (ピョートルの妻) : アナスタシア・ゴリャーチェワ
 ピョートル (農業技師) : イワン・ワシーリエフ
 バレリーナ : ナターリヤ・オーシポワ
 バレエ・ダンサー (バレリーナのパートナー) : セルゲイ・フィーリン
 アコーディオン奏者 : 岩田守弘
 初老の別荘住人 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
 その若作りの妻 : アナスタシア・ヴィノクール
 ガヴリールィチ (品質検査官) イーゴリ・シマチェフ
 ガーリャ (女学生) : クセーニヤ・プチョールキナ
 搾乳婦 : アンナ・アントロポーワ
 トラクター運転手 : イワン・プラーズニコフ
 高地の住人 : アントン・サーヴィチェフ
 クバンの作業員 : バトゥール・アナドゥルジエフ
 高地の住人たち :アントン・クズネツォーフ セルゲイ・ゼレンコ ロマン・シマチェフ ロマン・ツェリシツェフ
 クバンの作業員たち :ユーリー・バラーノフ ワシーリー・ジドコフ セルゲイ・ミナコフ アンドレイ・ルィバコフ
 ジーナの友人たち : アナスタシア・メシコーワ クセーニヤ・ソローキナ ヴィクトリア・オーシポワ アンナ・ニクーリナ アンナ・オークネワ チナラ・アリザデ


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2008/12/10

12/9 ボリショイ・バレエ「明るい小川」The Bright Stream(まだ途中)

また遅くなってしまったので、取り急ぎ簡単な感想しか書けないけど、とにかくこんなにバレエを観て大笑いしたことはなかったと断言するほど、最高に楽しい舞台でした!本当に観られて良かった!持って来てくれたボリショイ・バレエとジャパン・アーツ、ありがとう!そしてマーシャとフィーリン、ありがとう!

今日観なかったみなさん、ちょっとでも面白そうと思ったら当日券を買って明日(もう今日だけど)観に行くべし!です。フィーリンのあのシルフィード姿と演技を観ないと後悔します。

1930年代のコルホーズを舞台に繰り広げられるドタバタ恋愛コメディ。農村技師のピョートルの妻ジーナは、かつてはバレリーナだったけど、今は結婚してコルホーズで控えめに暮らしている。コルホーズにバレエ団が慰問にやってきて、ピョートルはバレリーナに一目ぼれをして、妻の目もはばからずにアタック。しかし実はバレリーナは、ジーナとバレエ学校の同級生で旧友という間柄。浮気夫をとっちめるために、バレリーナとバレエ・ダンサーが一肌を脱ぐ。ジーナはバレリーナに扮して夫を魅了、一方バレリーナは男装の麗人に変身、さらにバレリーナの同僚のバレエ・ダンサーは女装してトウシューズを履きヒラヒラ踊る。やはり浮気心を出した初老の別荘住人に女装バレエダンサーが迫り、初老の別荘住人の若作りの妻は男装したバレリーナを誘惑する。その上、アコーディオン奏者と女学生ガーリャの恋の鞘当てなど、いくつものカップルが性別や相手をとっかえたりしえt、誘惑合戦を行う。コルホーズの住民たちが、一連のドタバタなど一部始終を物陰から覗いているという趣向も面白いのです。

ギャグもとてもベタなのだけど、マーシャ、フィーリン、クリサノワ、メルクリエフというメーンキャストに加え、初老の別荘住人のアレクセイ・ロパレーヴィチ、その若作りの妻(大体搾乳婦とか役名が可笑しすぎる)アナスタシア・ヴィノクール、アコーディオン奏者のデニス・サーヴィン(ガマーシュ役に続いて大活躍!本当はハンサムでプロポーションもいいのに、なんでこういう変な役がこんなにうまいの?)、トラクター運転手&着ぐるみの犬のイワン・プラーズニコフ、みんなの芸達者ぶりにはもう大爆笑。演技が面白いだけでなくて、それぞれ踊りも超一流、さらにボリショイ管弦楽団の演奏の方も超ノリノリで最高だったので、ホントに贅沢なエンターテインメントを堪能しました。

最大の爆笑ポイントは、2幕でシルフィードに変身したフィーリンが、まるでジゼルのように、グランジュッテで、あのウィリ独特の腕のまま舞台を何回か超高速で横切るところでしょうか。もうお腹痛~いって感じでした。大体、浮気心を起こした初老の別荘住人&その若作りの妻&ピョートルをみんなでからかおうたしなめよう、と策を練っている時の、フィーリンの嬉しそうでたまらない感じがにじみ出ているシルフィードの手つきからして可笑しすぎる~。

いやはや、本当にこの演目でのフィーリンは凄かった!ポアントを履いてシルフィードのロマンチック・チュチュを着て踊っている姿は、ダイジェスト映像やYouTubeでは観ていたけど、百聞は一見にしかず!フィーリンって、男性のかっこうをしている時にはスリムに見えるのに、ロマンチックチュチュだとものすごくごつく見えてしまう。腕の使い方などもわざとコミカルにやっている部分があるのですが、確かなテクニックに裏打ちされたおふざけなので、ますます楽しいです。回転などはさすがに、基本はドゥミ・ポアントなのですが、ポアントでも美しい回転を見せてくれました。さらにすごいのは、ポアントで後方へのパ・ド・ブレを見せたこと。さすがです!腕だって、太くて逞しいけど、動きは柔らかいのです。

フィーリン演じるバレエダンサーは、浮気心を起こした初老の別荘住人をからかうため、彼を誘惑し、彼とパ・ド・ドゥを踊るのですが、いちいち見せるとぼけた小芝居が面白い。あんなに色っぽく誘惑していたくせに、なぜか初老の別荘住人のウオッカの瓶を奪って、大また開いてがぶ飲みして、それからまた酔っ払って踊るんです。なのに時々思い出したように腕を交差させて、可愛らしくしなを作ったり。面白すぎ~。「ドン・キホーテ」ではタイトルロールを演じたロパレーヴィチ(今産休中のマリア・アラシュの旦那様ですね)の初老の別荘住人も、とぼけた演技が大傑作な上、長細くひょろひょろした身体で、ごついフィーリンをプロムナードさせながらサポートしたり、リフトするものだから、たいしたものです。

それから、マーシャの男前なこと!もう~マーシャ大好き。男装すると、本当に宝塚のスターみたいで、カッコよくって美しくてしびれます。1幕の、高地の住人たちとクバンの作業員たちの勇壮な踊りに興奮して、男たちの輪の中に飛び込んで、真ん中で連続グランジュッテを踊ってくれるのですが、シャープで高くて、空中に浮いているみたいで、ものすごいエネルギーと輝きを放っていました。1幕のワンピース姿は、これまた1920年代の映画女優みたいなクラシックモダンな感じがすごく美しい。その美しさで、男性顔負けの超絶ジュッテ(グリッサードとかプレパレーションとか入れないで、連続で跳躍していて、脚はもちろん180度、きれいに地面に平行に開いています)を軽々と踊っちゃうのですもの。女性の姿をしている時に惚れ惚れするくらいだから、男装の時の素敵さといったら、もう。ベレー帽、白いシャツがとっても似合います。ラトマンスキーは、このバレリーナ役は初演キャストであるマーシャをイメージして振りつけたそうですが、よーくわかります。

数々の名共演を今まで生み出してきた、フィーリンとマーシャのパートナーシップがまた、泣けるんです。なんともいえない、言葉では表現できない絆というか、敬意が伝わってくるんですよね。コミカルなやり取りの息もバッチリで、特に1幕最後にピョートルをみんなで懲らしめる作戦を話し合っている時の掛け合いや、衣装を取り出したり、受け取ったりするタイミングの絶妙さといったら。大体、バレリーナの旧友であるジーナを助けるために、女装してトウシューズを履いて踊るという発想は、普通の人はしないと思うんですが、フィーリンのあのキャラクターだと、それが変なことのように思えないから不思議なんです。


to be continued

2008年12月9日(火) 19:00~20:50
明 る い 小 川 2 幕 4 場

音楽 : ドミトリー・ショスタコーヴィチ
台本 : アドリアン・ピオトロフスキー
     フョードル・ロプホーフ
振付 アレクセイ・ラトマンスキー
美術 : ボリス・メッセレル
音楽監督 : パーヴェル・ソローキン
照明 : アレクサンドル・ルプツォフ
振付助手 : アレクサンドル・ペトゥホーフ
指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

ジーナ (ピョートルの妻) : エカテリーナ・クリサノワ
ピョートル (農業技師) : アンドレイ・メルクーリエフ
バレリーナ : マリーヤ・アレクサンドロワ
バレエ・ダンサー (バレリーナのパートナー) : セルゲイ・フィーリン
アコーディオン奏者 : デニス・サーヴィン
初老の別荘住人 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
その若作りの妻 : アナスタシア・ヴィノクール
ガヴリールィチ (品質検査官) アレクサンドル・ペトゥホーフ
ガーリャ (女学生) : アナスタシア・スタシケーヴィチ
搾乳婦 : アンナ・アントロポーワ
トラクター運転手 : イワン・プラーズニコフ
高地の住人 : アントン・サーヴィチェフ
クバンの作業員 : バトゥール・アナドゥルジエフ
高地の住人たち :
 アントン・クズネツォーフ
セルゲイ・ゼレンコ
ロマン・シマチェフ
ロマン・ツェリシチェフ
クバンの作業員たち :
 ユーリー・バラーノフ
ワシーリー・ジドコフ
セルゲイ・ミナコフ
アンドレイ・ルィバコフ
ジーナの友人たち :
 アナスタシア・メシコーワ
クセーニヤ・ソローキナ
ヴィクトリア・オーシポワ
アンナ・ニクーリナ
アンナ・オークネワ
チナラ・アリザデ

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2008/12/08

12/7夜 ボリショイ・バレエ「白鳥の湖」簡単な感想

本当は12月6日の夜も観ているのですが、それは後回しにして、日曜日の夜公演の感想を先に。

こんなにも素晴らしい舞台を、ボリショイの「白鳥の湖」で観られるとは!チケットを取る時はどうしようかと躊躇していたけど、観に行って本当に良かった!

グリゴローヴィチ版(2001年悲劇版)の「白鳥の湖」は、ロットバルト=悪の天才が存在感がないと締まらないというか、悪の天才こそがこの作品の最重要人物であるということを、改めて認識した。

ベロゴロフツェフは、「ドン・キホーテ」の初日では本調子ではなかったのでちょっと心配をしていた。しかし、さすが「白鳥の湖」のロットバルトを踊るために来日していただけのことはある。長身、大きな表現、大胆さ、切れ味鋭い跳躍、悪魔的なカリスマ性…素敵。こんな悪魔が目の前にいたら、喜んで魂を差し出してしまいそう。王子役のウヴァーロフと並び、1幕2場の冒頭、長身の二人がシンクロするように同じ動きをするのを観ると、ぞくぞくした。王子がロットバルトに操られ、弱みに付け込まれ、幻想の世界へと落ちていく過程が手に取るように判る。

2幕1場でのソロも鼻血が出そうなくらいカッコ良かった!グリゴローヴィチ版(正義は勝つヴァージョン)の「白鳥の湖」DVDでの、アレクサンドル・ヴェトロフの伝説的な演技には及ばないまでも、それに肉薄するような強烈なプレゼンス。

とともに、こんな解釈ができることに気がついた。

1幕2場の湖畔の白鳥たちの世界は、悪の天才が王子に見せた幻影。もちろんオデットもそう。そして、オデットそのものも、悪の天才が作り上げたものであり、ロットバルト=悪の天才の分身なのではないかと。オデットとオディールは、一人の女性の別の側面を見せているからこそ、王子はあんなにもオディールにも魅せられてしまうと考えられないだろうか。オデット自身に悪意はなくても、彼女は実在しない存在であり、この上なく美しい幻影なのだ。

そう考えるに至ったのは、オデットのザハロワがあまりにも神々しく、非現実的なまでに美しかったから。

ザハロワの白鳥は新国立劇場などで今までもさんざん観てきていて、彼女の白鳥が非常に美しいのはよくわかっていた。だけど、何か物足りない。どうしてもお姫様的な演技から抜け切れていなくて、完璧な造形美、しなる脚、とてつもなく美しい曲線を描く甲と、美しいことこの上ない。だけども、それだけ、という印象だった。ボリショイ・バレエで、この悲劇版の白鳥の湖を踊るからこそ、彼女の白鳥は本来の魅力を発揮しているのだと思う。もちろん、ザハロワ自身の演技力も進化していると思うだが。

1幕2場のザハロワは、徹底的に悲劇的な存在として描かれている。ただ単に、眉間に皺を寄せて哀しそうな表情をしているのではない。オデットの悲しみを、全身で奏でている。彼女の表現は、実は賛否両論を呼んでいるようだ。脚を高く上げすぎる。動きがあまりにも曲線的でクリアさに欠けている、と。たしかに、ポアントでデヴロッペから5時55分のポーズを取ったり、アラベスクの脚をびっくりするくらい上げたりするのは少々やりすぎだとは思う。が、音をめいいっぱい使っての腕の動きには、過剰なところや無駄なものは感じられず、ただただオデットの心の震えや悲しみを歌い上げる美しいメロディを奏でるために必要不可欠な、シンプルな表現だと感じられた。十分クリアで、無駄なものなど何もない、純粋な美と哀しみの体現。

1幕2場のコーダの後、再び王子の前に姿を現し、パドブレしながら去っていく時、オデットは二度も王子にまなざしを向ける。2度目は、再び白鳥の姿に戻ってから。これがザハロワの白鳥の演技における大きなポイントだと感じた。

オディールは、悪女っぽさを前面に出さず、常に微笑を浮かべ、その愛らしい笑顔や目、そしてクールで魅惑的な動きで王子を殺していると思わせた。王子が騙されていたことを知った時にも、必要以上には高笑いもしないで、それゆえ余計に王子をダメージを与えるような艶やかな笑みを向けている。その笑みは、1幕2場でオデットが最後に向けた微笑に似ていた。オデット=オディールという解釈ができる余地が、ここに隠されていると思うのは深読みしすぎだろうか。

ウヴァーロフの王子もとても良かった。前日夜のアルテム・シュプレフスキーの王子が、どうしようもなかったこともあり、ウヴァーロフってやっぱりボリショイのトップスターなんだと改めて思った。ウヴァーロフは、ちょっとアンドゥオールが弱くて時々内脚になってしまうという欠点が今日も出てしまった。が、全体的な彼の踊りや演技を観れば、そんな欠点は些細なことのように思えてくる。佇まいが、本当に王子そのもので気品がある。その気品の中に、悪の天才に付け込まれてしまうような繊細さや弱さが見えている。彼の演技が秀逸だったからこそ、悪の天才に操られていたということが判る。ベロゴロフツェフとの踊りのシンクロ具合も見事だった。異界で異形の姫に魅せられて、幻想の中に迷い込んでしまうイノセントさ、優しさをよく表現していた。踊りも軽やかでエレガントで、目を吸い寄せるものがある。

2幕2場、ロットバルトに高々と持ち上げられて息絶えたオデットだが、その姿が目に入らない王子。彼女の姿を、半ば狂気が入り混じりながら追い求め、そして膝をついて慟哭しながらあちらの世界へと見果てぬ夢を追い続けるように旅立ってしまう遠い表情もまた魅力的なウヴァーロフだった。ラストの演技は、グダーノフのが一番気に入ったけど、ウヴァーロフも素晴らしい。

主役3人が絶好調で、超一流の仕事を見せてもらったという思いで大満足。

脇に目を転じると、やっと見られた岩田守弘さんの道化。さすが、彼の代表的な役柄だけあってすんごく良かった。とてもチャーミングな中に、すごく気品があって、宮廷で働いているプロフェッショナルの道化という感じ。動きが柔らかく、跳躍や回転といったきらびやかな面だけで勝負しているわけではない、ちゃんと"道化”とはどういう存在なのか考え抜かれた演技を魅せているのが素晴らしい。といっても、テクニックが劣るという意味ではなく、技術はもちろん超一流。プリエがとても効いていて、バネのある跳躍はとても高くて特に2幕1場の最初の方の跳躍はすごかった。回転も正確で、1幕1場の見せ場でのピルエット・ア・ラ・スゴンドはいつまでも回転できそうなくらいで、音楽を実際よりも長くつなげていたくらい。ボリショイの至宝とも言える、素晴らしい存在感だ。

2幕1場の各国の姫たちの踊りや付随する民族舞踊も、最初はいまいちと思っていたけど、見慣れていくうちに面白くなってきた。姫たちの顔ぶれがとても豪華で、中でもやはりエカテリーナ・シプリナの強気な存在感と魅惑にはひきつけられた。ロシアの王女、オリガ・ステブレツォーワがとても美人。

白鳥の群舞も上の席から観ていたので見事なものだったし、4羽の小さな白鳥での、エシャッペと5番への着地の正確さ、揃い方が本当にすごかった。

やはりボリショイとマリインスキーは世界で1,2を争う2大バレエ団だと感じた次第。観られて良かった!


音楽 : ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー  
 台本・改訂振付・制作 : ユーリー・グリゴローヴィチ 
 原振付 : マリウス・プティパ,レフ・イワノフ,アレクサンドル・ゴールスキー
 美術 : シモン・ヴィルサラーゼ
 音楽監督・共同制作 : パーヴェル・ソローキン
 照明 : ミハイル・ソコロフ
 指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
 管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団


 オデット/オディール : スヴェトラーナ・ザハーロワ
 王妃 (王子の母) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
 ジークフリート王子 : アンドレイ・ウヴァーロフ
 ロットバルト : ドミートリー・ベロゴロフツェフ
 王子の家庭教師 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
 道化 : 岩田守弘
 王子の友人たち : アンナ・ニクーリナ,アナスタシア・ゴリャーチェワ
 儀典長 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
 ハンガリーの王女 : ネッリ・コバヒーゼ
 ロシアの王女 : オリガ・ステブレツォーワ
 スペインの王女 : アナスタシア・メシコーワ
 ナポリの王女 : アナスタシア・ゴリャチェーワ
 ポーランドの王女 : エカテリーナ・シプーリナ
 3羽の白鳥 : ネッリ・コバヒーゼ,ユーリヤ・グレベンシチコワ,オリガ・マルチェンコワ
 4羽の白鳥 : チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ,スヴェトラーナ・パヴロワ,アナスタシア・スタシケーヴィチ
 ワルツ : オリガ・ステブレツォーワ,アナスタシア・シーロワ,アレーシヤ・ボイコ,アンナ・オークネワ,カリム・アブドゥーリン,デニス・サーヴィン,ウラジスラフ・ラントラートフ,エゴール・フロムーシン


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2008/12/07

12/6昼 ボリショイ・バレエ「白鳥の湖」簡単な感想

「白鳥の湖」のマチネとソワレの掛け持ちはめっちゃ疲れます~。しかもマチネは開演が12時とかなり早くて、朝の弱い私はつらかったです。ソワレが終わったのが9時40分ですから、本当に長い一日でした。でも、マチネとソワレの間が空いていてどうしようと思ったけど、お友達と遅いランチをして、それから服なんかも買っちゃったり、さらには国立西洋美術館の前のクリスマス・イルミネーションを見ていたらあっというまにソワレの時間でした。

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December 6th 12:00
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
台本・改訂振付・制作:ユーリー・グリゴローヴィチ(2001年改訂版)
原振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、アレクサンドル・ゴールスキー
指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

オデット/オディール : アンナ・アントニーチェワ
王妃 (王子の母) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ジークフリート王子 : ドミートリー・グダーノフ
ロットバルト : ユーリー・バラーノフ
王子の家庭教師 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
道化 : ヴァチェスラフ・ロパーティン
王子の友人たち : アンナ・ニクーリナ,アナスタシア・ゴリャチェーワ
儀典長 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
ハンガリーの王女 : ネッリ・コバヒーゼ
ロシアの王女 : オリガ・ステブレツォーワ
スペインの王女 : アナスタシア・メシコーワ
ナポリの王女 : アナスタシア・ゴリャチェーワ
ポーランドの王女 : エカテリーナ・シプーリナ
3羽の白鳥 : ネッリ・コバヒーゼ,ユーリヤ・グレベンシチコワ
         ヴィクトリア・オーシポワ
4羽の白鳥 : チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
         スヴェトラーナ・パヴロワ,アナスタシア・スタシケーヴィチ
ワルツ : オリガ・ステブレツォーワ,ヴィクトリア・オーシポワ
      アレーシヤ・ボイコ,アンナ・オークネワ
      カリム・アブドゥーリン,デニス・サーヴィン
      ウラジスラフ・ラントラートフ,エゴール・フロムーシ

アントニーチェワの白鳥は、姿かたちが夢のように儚く、プロポーションが美しい。長い四肢、よく出た甲。そして腕使いもたおやかで、気品があります。特に指先の繊細な表現力が見事でした。派手さはないけど芯の強さを感じさせて、悲劇的なドラマの主人公として相応しい感じがしました。2幕の終わりで去っていく時に王子に向けたまなざしが強烈な印象を与えました。オディールも、余裕のある上品かつしたたか悪女ぶりで素敵でしたが、グランフェッテは32回回りきったものの、芯が通っていない感じで移動してしまい、不安定でした。グリゴローヴィチ版の「白鳥の湖」は、オディールのヴァリエーションがとても好きなのですが、アントニーチェワは自らが楽器となって奏でていく、素晴らしい音楽性を発揮していたと思います。

そして素晴らしかったのがグダーノフの王子!小柄でプロポーションには恵まれていませんが、脚のラインは美しいしピルエットの軸もしっかりとしていて確実なテクニック。きれいに5番に入るトゥール・ザン・レール、ぴたっと止まる回転、つま先もきれいに伸びている。王子としての優雅さと優しさ。その上、この悲劇版の王子としての演技が胸を打ちました。美しいながらも、徹底的に打ちのめされる悪夢によって、王子の心は容赦なく壊されます。その壊れ具合に、涙、涙。

2001年に改訂されたグリゴローヴィチの「白鳥の湖」は徹底的な悲劇、バッドエンドです。その悲劇の予兆は、2幕(1幕2場)のコーダに現れています。コーダで急速に音楽が速くなり、白鳥たちはぐるぐると円環を描くように舞うと、オデットはその中にまぎれてしまい、そしていつのまにかいなくなってしまいます。しばらく舞台の上で一人、視線をさまよわせると再びオデットは姿を現し、王子に視線を送ったかと思うと、白鳥の姿に戻り、ロットバルトに操られるように去っていきます。

ロットバルト(別名悪の天才)は、ノイマイヤーの「幻想 白鳥の湖のように」の影のような存在。ヌレエフ版の「白鳥の湖」のロットバルト像に近いところもあります。悪の天才は、王子に寄り添い、王子を操ろうとします。オデットは、この悪の天才が作り上げた幻想だと考えることができます。1幕1場と2場の間に、王子とロットバルトの二人が繰り広げられるデュオがとても印象的です。ユーリー・バラーノフのロットバルトは上手いダンサーで、技術的にはまったく問題はないのですが、王子を目くらまし、幻惑するトリックスターであり悪魔として存在するには、もう少し濃厚な存在感とカリスマ性が必要なのではないかと思いました。この役を当たり役としているニコライ・ツィスカイリーゼのように。

(微妙にネタバレ)

4幕(2幕2場)でも、王子とオデットはロットバルトの手下の黒鳥たち、そしてロットバルトに邪魔されて、引き離されます。このときの平行線を描いた群舞の隊形が秀逸です。黒鳥たちの列が、文字通り二人を阻む壁として機能するのですから。終幕では、永遠に王子とオデットは、残酷な形で引き剥がされ、王子は狂気の淵、出口のない悪夢に沈むのです。中央の透けて見える幕の向こうでは、ロットバルトが、力なく横たわったオデットを高々と掲げ、二人の姿は魔法のように消えます。グダーノフはオデットの姿を激しく求めながら、最終的に二人を引き裂いた壁に突っ伏し、そして悲嘆のあまり床に倒れこみます。救いの欠片も、カタルシスもまったくない、情け容赦のないエンディング。

(ネタバレ終わり)

岩田守弘さんの道化が見られなくて残念と思いましたが、ヴァチェスラフ・ロパーティンの道化も素晴らしかったです。鮮やかなテクニック、どこまでも高く軽やかな跳躍、だけどその中にも気品があって魅力的でした。

ワルツでの4人の男性が、みなプロポーションも容姿も美しく、テクニックもあって実に目の保養でした。その中の一人には、「ドン・キホーテ」で演技の細かいガマーシュを踊ったデニス・サーヴィンくんもいました。確信はもてないのですが、スペインの王女のバックにも、一部重複したメンバーで、同じく4人の見目麗しい男性ダンサーたちが。グリゴローヴィチ版はキャラクターダンスではなく、各国の王女たちがポアントを履いて踊るバックに群舞がいる形。キャラクターダンスが好きな私にとっては正直言ってあまり面白くなかったのですが、スペインは後ろの男性ダンサーたちばかり観てしまいました(笑)。

演奏は、もう少しドラマティックなもの、ロシア的なものを期待していましたが、バレエのオーケストラとしては十分すぎるほどのもの。「ドン・キホーテ」に続いて、真珠のようにクリアな輝きを放つハープの音色には聞き惚れました。

マチネの軽い感想だけで力尽きたので、続きはまた後で。

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2008/12/06

イリ・イェリネクの「オネーギン」手紙のパドドゥ

オネーギンの備忘録を書いていたら、初日のイリで止まらなくなりました。

それにしても三幕、手紙のパドドゥでイリのオネーギンがまとうオーラの悲劇的なこと。初老に入り人生の厳しさをくぐり抜けてきてややくたびれたオネーギンだが、今なおすらりと背が高く美男子。かえってそのうらぶれ方、老い方がやさぐれた魅力を醸し出しており、再会したタチヤーナが思わず心を揺らしてしまうのも無理がない。あの時あんなにひどくタチヤーナを拒絶し、さらに決闘事件でレンスキーを死に追いやった男が、自尊心の塊だったオネーギンが、足元にすがりつかんばかりに愛を迫る。舞踏会では往時の輝きを失い、時代に取り残された男でも、タチヤーナと一対一で対峙するときは、あの時と同じ、セクシーな大人の紳士として存在している。しかもタチヤーナのことを熱烈に愛しているのだ。

イリのオネーギンは、あの時に振った小娘が美しい社交界の華になっていて、逃した魚は大きいと思って彼女に迫ったのではない。下降していく自らの人生、それに対して今が花の盛りなタチヤーナ。彼は自分の残り少ない生の中に、最後の輝きを点そうと、命懸けでタチヤーナに愛を語る。だから、その最後の人生の賭けで彼はタチヤーナの愛を手にできなくとも、タチヤーナに一度も再会できないで終わる人生だったより、結局は幸せだったのだと思う。何もない人生よりは、不幸な人生の方がいいという人生哲学だ。

パドドゥの中盤から、オネーギンは往時の輝きを取り戻したかのような、切り裂かんばかりの鮮やかで痛切なアントルラッセを見せる。背後からタチヤーナを包み込み、愛おしみ、求めて止まなかった人生ただ一つの宝物を手に入れようとする。包み込みその指先からも、痛ましいまでの想いが零れ落ちている。しかも、前半では、タチヤーナの身体を胸で受け止めて、手では触れていないというのだから、あまりにも痛切だ。

アマトリアンのタチヤーナはまだ年齢的には若い。優しい夫にも愛されていることを感じて日々を暮らしている。だが、その若さに似合わず、心が先に年老いてしまったようだ。何かを封じ込めて生きている、そんな頑なさがある。オネーギンへの恋を葬り去って生きて来た彼女には、表面上の幸せさの間から漏れ出るかすかな不幸が見える。

そしてその頑なさが、オネーギンの出現、彼の手紙、そして彼による求愛で少しずつ溶けてゆく。

だが、タチヤーナはオネーギンによって心が熔かされて行くことに怖れを抱く。鏡のパドドゥのときの動きにも似た、夢の中の奔放な少女が顔を出したことに。そして、タチヤーナはオネーギンへの想いを永遠に葬り去ることを選ぶ。自分の感情に蓋をするように、涙を流しながらも厳しい身振りによる激しい拒絶。かつてのことを繰り返すように、タチヤーナは彼の顔をみないようにして、手紙をびりびりに破って顔を背け、紙くずとなった手紙を彼に押し付ける。あんなにもクールで澄ました伊達男だったオネーギンは、プライドをかなぐり捨てて、全てを投げ出すように彼女の足元にすがる。が、受け入れられないことが解ると、すばやく走り去る。彼の去ったあと、その軌跡を追うように部屋をふらふらさ迷った揚句、激情をぶつけるように激しく慟哭するタチヤーナ。だが、アマトリアンの悲しみ、苦しみの表情があまりにもストレートに出過ぎていたように思えた。若いダンサーだからだろうか。タチヤーナの苦悩はそんなに簡単に顔の表情に出せるものではないと思うのだ。演技しすぎてはいけない、役になりきろうとしてはならない、役そのものを生きなければならないのが、「オネーギン」の難しいところ。

その点、真の意味で"役を生きていた”のがイリだと感じられた。顔の表情ではなく、一挙一頭足で、オネーギンの自己憐憫、鼻持ちならなさ、慄き、熱情、後悔、絶望が手に取るように感じられる。バレエでそれを感じられることはなかなかない。


NBSのサイトでこの動画が観られるのも後わずかか~。
http://www.nbs.or.jp/blog/0811_stuttgart/cat54/

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2008/12/05

12/4 ボリショイ・バレエ「ドン・キホーテ」

昨日とは同じバレエ団の舞台なのが信じられないくらいの、いい意味でも、悪い意味でもとんでもない公演。楽しかったからいいけど!

オーシポワとワシーリエフがすごいというのは様々な映像や、海外で見てきた人などから聞いて織り込み済みだったけれども、実際に全幕を目にしてしまうと驚愕するばかり。

オーシポワは登場の時のジュッテから、ものすごくバネが効いた跳躍で、頭と足先がくっついてしまうほど大きく反る。ゴムマリのよう。そしてワシーリエフも、登場の時から、空中でパッと真横に180度開脚して、しかもひねりを加えたジュッテ。彼には翼が生えているんじゃないかと思うほど。二人とも、いちいち跳躍が高くて、小柄なこともあってさらに高く跳んでいるように見える。

ここでもう、観客がヒートアップ。初日に引き続いて、招待客が多かったので、招待の人がいなければもっと盛り上がったんじゃないかと思う。それに乗せられて、オーケストラもノリノリに。

1幕のキトリの友達二人とバジルのパドトロワ。ワシーリエフは、フィニッシュでは、トゥール・ザン・レールプラスアンレールのコンビネーションを2回、そしてトゥールザンレールで一旦着地したあと、フィギュアのコンビネーションのジャンプのようにプレパレーションなしで2回連続アンレール。

オシポワのカスタネットのソロも、脚をバシッと6時の位置まで上げたかと思うと、それから本当に高く跳ぶこと。のけぞること。やったわ!という喜びが感じられて、気持ちいいといえばそう。コーダのピケの時の、パッセの脚の位置も脚の付け根辺りと高い。

1幕の片手リフトをするところでは、2回目のリフトで、ワシーリエフはオーシポワを持ち上げたまま、ルルベだけでなく、アラベスクまで見せてしまうし、ふらつかず、歩かないでサポートができていた。

2幕の酒場での狂言自殺シーンは、先に二人で打ち合わせてから行う。このあたりの演技は、若い二人らしくてなかなか微笑ましかった。オーシポワの胸をモミモミしてけっこうエッチなワシーリエフ。でも二人とも童顔だから、子供二人がじゃれているみたい(実際、ワシーリエフはまだ19歳)。

ワシーリエフのここでのピルエット、アラ・スゴンドで始まって、途中でアティチュードデリエールに。彼のピルエットは、ホセ・カレーニョのように途中で惰性でくるくる回って、ゆるやかにストップする。必要以上に回転して斜めになることがないのはえらい。多くても8回転くらいにとどめている。(以前、イワンはインタビューで12,3回は当たり前に回れると言っていたような気がした)

ワシーリエフがピルエットした後、オーシポワが勢いよく飛び込むところ、映像ではもっと勢いをつけて飛び込んでいたようなのを観たと思うけど、今日も十分勢いがあって、腕が地面につきそうだった。ふらつかないでしっかりと受け止めるワシーリエフ。

夢のシーンでのドルシネアのオーシポワは、残念ながら姫には見えなかった。キトリの時にはちょっと子豚ちゃんな顔が愛嬌があって可愛いけど、お姫様にはつらい。しかも、ドリアードに長身スリム美女のネッリちゃんが入っていたり、ドリアードの女王のシプリーナもほっそりとした美人だし、コールドもみんなプロポーションが良いので、小柄で体操出身らしく太ももが太く肩もがっちりしているオーシポワは見劣りする。コーダのグランジュッテは、さすがにものすごく高く、空中で静止して見えるほどで飛距離もあるけど、その分足音がしてしまうし。それから、上半身がバレエ的でなくて力が入っているのだ。キトリのときよりは、柔らかく優雅に動こうとしているけど、やっぱりキトリの地が時々出てきてしまう。オシーポワのテクニックは申し分ないのだけど、昨日のアレクサンドロワはちゃんと姫だったし、足音なんかまったくさせていなかったと思い返す。

3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。オーシポワのヴァリエーションは、昨日のマーシャもそうだったけどエシャッペではなくてパッセを繰り返すもの。やっぱり今日も演奏がものすごく早かったけど、音には合わせていた。でも、なんかバレエじゃない感じ。このときのハープの音が、真珠の粒を弾いているみたいで、とても美しかった。

ワシーリエフは、またここで例の惰性で回るピルエット。そして空中開脚ジャンプ。身体を斜めに倒しての2回転半のトゥールザンレールを2回。(3回目もやろうとしたけどやめて、膝で着地していた)とにかくいちいち跳躍が信じられないほど高い。マネージュは、グラン・ジュッテ・アン・トゥールナンの間に、アティチュードで空中半回転するのだけど、そのときにふわっと浮かび上がって、まるで翼が生えているかのよう。

とにかく、これだけスーパーなテクニックを持っている男性は、世界に5人くらいしかいないのではないかしら。(思い浮かぶのは、サラファーノフ、キューバ国立のロメル・フロメタ、ABTのエルマン・コルネホ、ダニール・シムキンあたり) バレエじゃない、と言われたらそうかもしれないけど、ワシーリエフはまだ10代で若いから、表現力などはこれから磨いていけそう。彼には、確かに観るものを幸せにする陽の魅力がある。公称175センチよりも背は低く見えるし、プロポーションもがっちりしていて見栄えはしないが、ルックスは愛嬌があってとても魅力的だ。

オーシポワのフェッテがすごかった。時々手を腰に当てながら、前半は全部ダブル、後半に移るときにトリプルを入れてシングル、ダブルの繰り返し、最後は4回転。音楽が速いので、フェッテも当然すごく速い。そして軸がずれたり、移動することがないのがすごい。まだまだ追加で32回くらい余裕で回れそうだった。

******

というわけで、とにかくこの二人の世界びっくり人間ショーのような技合戦を見せられた「ドン・キホーテ」で、物語性は希薄。あまり全幕バレエを観た気がしない。同じ超絶技巧でも、キューバ国立バレエの「ドン・キホーテ」のDVDの二人は、エレガンスを持ち合わせていて、ちゃんとカンパニーに溶け込んでいるのに。

別の意味ですごかったのが、シュプレフスキーのエスパーダ。前日のメルクリーエフがいかに素晴らしかったかがよくわかった。立っていると本当に美貌で長身でカッコいいのだけど、踊りに切れがなく、やや猫背気味で、背中が硬い。アンドゥオールできていないことも。致命的なのが、音楽性がなく、常に他のトレアドールよりワンテンポ遅れた動き。でも、女たちが奪い合うほどの、セクシーでいい男ではあるのだけど。

ドリアードの女王、シプリーナは、ゆったりと大きな動きで優雅で美しかった。オーシポワと並ぶと、オーシポワが引き立て役になってしまう。キューピッドは昨日と同じアナスタシア・スタシケーヴィチで、脚が長くて、ちょっと大人っぽい美人。第一ヴァリエーションが昨日と同じクリサノワで、彼女のヴァリエーションも素晴らしかった。さすがに主役を踊るだけのことはある。第2ヴァリエーションはネッリ・コバヒーゼ。腕がとても美しく、優雅で音楽的な動き。フィニッシュで若干ぐらついたけど、あの美しさの前では問題なし。

ドン・キホーテ、サンチョ・パンサ、ロレンツォ、そしてガマーシュは前日と同じキャスト。彼らは本当に演技が細かくて芸達者で面白い。特にガマーシュのデニス・サーヴィン、昨日よりもさらにクネクネと怪しい人になっている。ハンサムなのにバカ殿メイクで、ヒール靴から覗く脚がほっそりときれい。。主役が真ん中で踊っているときにもガマーシュらはしっかりと演技をしていて、どこを見ていいのか迷うほど。街の人々一人一人に至るまで、みんな演技をしているのが楽しさを倍増させている。ジプシーの群舞、トレアドール、ボレロ、ファンダンゴに至るまで、コールドは質が非常に高い。

その質の高いメンバーの中で、主役二人(そしてエスパーダ)はいささか浮いて見えた。でも、オーシポワにしても、ワシーリエフにしても、若いし技術や身体能力は人並みはずれているので、今後どのように変化していくかは楽しみ。会場であった知人が、ワシーリエフの「スパルタクス」を見たそうなのだけど、それはそれは素晴らしかったそうだ。日本でも、次回公演には「スパルタクス」を持ってきてくれないかしら。また2,3年後の来日になるでしょうから、きっとワシーリエフ、さらに才能を開花させていることだろう。

バランスが欠けているところが目に付いた公演ではあったけど、世にも珍しい凄いものが観られたということで、やっぱり楽しかった!

キトリ/ドゥルシネア : ナターリヤ・オーシポワ
バジル (床屋) : イワン・ワシーリエフ
ドン・キホーテ (さすらいの騎士) : アレクセイ・ロパレーヴィチ
サンチョ・パンサ (ドン・キホーテの剣持ち) : アレクサンドル・ペトゥホーフ
ガマーシュ (金持ちの貴族) : デニス・サーヴィン
フアニータ (キトリの友人) : ヴィクトリア・オーシポワ
ピッキリア (キトリの友人) : オリガ・ステブレツォーワ
エスパーダ (闘牛士) : アルテム・シュピレフスキー
ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ
メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ロレンソ (キトリの父) : イーゴリ・シマチェフ
ロレンソの妻 (キトリの母) : アナスタシア・ヴィノクール
公爵 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
公爵夫人 : エカテリーナ・バルィキナ
居酒屋の主人 : イワン・プラーズニコフ
森の精の女王 : エカテリーナ・シプーリナ
3人の森の精 : ユーリヤ・グレベンシチコワ,ネッリ・コバヒーゼ
          オリガ・マルチェンコワ
4人の森の精 : アレーシャ・ボイコ,スヴェトラーナ・パヴロワ
          チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
キューピッド : アナスタシア・スタシケーヴィチ
スペインの踊り : クリスチーナ・カラショーワ
           アンナ・バルコワ,エカテリーナ・バルィキナ
ジプシーの踊り : アンナ・アントロポーワ
ボレロ : アンナ・バルコワ,アントン・サーヴィチェフ
グラン・パの第1ヴァリエーション : エカテリーナ・クリサノワ
グラン・パの第2ヴァリエーション : ネッリ・コバヒーゼ

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2008/12/04

12/3 ボリショイ・バレエ「ドン・キホーテ」初日/2009年マリインスキー・バレエ来日公演

ボリショイ・バレエ「ドン・キホーテ」初日に行ってきました。プレトークにはナタリア・オシポワとイワン・ワシリエフが出たようなのですが、もちろん間に合う時間に来られるはずもなく。

マリーヤ・アレクサンドロワはやっぱり最高でした!明るくて華やかでお茶目で、「これぞボリショイ」という踊りを見せてくれました。本当に幸せな気持ちにさせてくれます。1幕でロレンツォに持ち上げられて足をばたばたさせるところとか、3幕のヴァリエーションの小刻みなパドブレなど。足先の細かい技がすごくきれいなのです。ジュッテがあれだけ大きくてもふわりと空中に浮いていて足音はしないし。グラン・フェッテはオーケストラのテンポがびっくりするくらい速く、それにピッタリ合わせての超高速シングルでした。とても正確で安心して観ていられます。片手リフトされる時には、両脚をパドシャのように曲げていたし、非常にバネがあるのがわかります。ドルシネア役のときには姫らしい気品があるし、勝気で可愛いキトリはハマり役でした。彼女のキトリは、もっともっと観たいです。

ドミトリー・ベロゴロツェフは代役の代役。ちょっと調子が悪そうなところもありましたが(片手リフトが決まらなかった。でも、ちゃんと足はルルベしていた)、演技はとても細かくて、マーシャと息がピッタリ。軽薄でひょうきんで楽しいバジルでした。彼ってあんなに細いダンサーでしたっけ?と思うくらいスリムで脚が長くみえてきれいな身体のライン。3幕のコーダのグラン・テカールは高くて浮力があってお見事。ロットバルト=悪の天才役も楽しみです。

3人のドリアードの中にいたネッリ・コバヒーゼの可愛くて綺麗なこと!際立って顔が小さくて美しく、プロポーションに恵まれていて腕使いが柔らかい。明日は3幕の第二ヴァリエーションの予定ですね。第一ヴァリエーションのエカテリーナ・クリサノワもジュッテが高く、甲がよく出ていて美しかったです。彼女の白鳥は取っていないのですが、観たくなりました。今日の第二ヴァリエーションのチナラ・アリザデは、ニーナ・アナニアシヴィリを思わせる黒髪美人で、彼女も素敵でした。

アンドレイ・メルクリエフのエスパーダ、美しかったです。エスパーダにしては王子寄りのキャラクター作りで、ちょっとエレガントすぎるかな、と思うところもありましたが、自然と目が吸い寄せられるような、なんともいえない華と色香がある人です。身体の線が美しくて、マントをまわしながらの大きな背中の反らせ方も絶品。こんなにも綺麗なエスパーダは初めてかもしれません。

キャラクターダンサーたちも、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの二人を始め、演技がとても達者で面白くて、どこに目をやっていいのかわからなくなるほどでした。デニス・サーヴィンくん、美形だし、脚もきれいで、ガマーシュにしてはきれい目メイクなのに帽子を取られると禿げていることになっているから気の毒です。カマっぽいガマーシュで面白かったです。

コール・ドはやっぱりボリショイだな、マリインスキーとは違うな、と思いましたが、女の子たちはみんな美人でスタイル良し。2幕のジプシーの男性群舞も迫力がありました。アンナ・アントロポーワによるジプシーの舞は全身をフルに使った情熱的なもので、見ごたえがありました。主役だけでなくて、脇役、群舞に至るまでレベルが高いのがさすがボリショイ!あのものすごく速い演奏についてこられるというのがまず凄すぎます。

今回はオーケストラ帯同なのですが、この演奏もド迫力。音は爆音系だし、序曲からスピード感(倍速?)があっていかにもロシアオケ。カスタネットのソロではオーケストラピットからもカスタネットが鳴り響き、そしてハープの音が非常に澄んでいて美しかったです。

演出は、新国立劇場の演出と同じなのでしょうか?構成がとても似ていました(向こうもファジェーチェフ版でしたよね)。ギターの踊りが入ったり、ジプシーの踊りのパターンも同じでした。森の女王はイタリアンフェッテはしないで、パンシェアラベスクの繰り返しです。ギターの踊りって新国立で観たときには退屈で仕方なくて早く終わらないかしらと思ったところですが、やはりボリショイのダンサーで、ボリショイのオーケストラで観るとけっこう楽しめます。

いずれにしても、ボリショイの実力を思い知らされた初日。明日のオシポワ&ワシリエフも楽しみです。

 音楽 : ルートヴィヒ・ミンクス
 台本 : マリウス・プティパ
 振付 : マリウス・プティパ,アレクサンドル・ゴールスキー
 振付改訂 : アレクセイ・ファジェーチェフ
 ファジェーチェフの助手 : ミハイル・ツィヴィン
 美術 : セルゲイ・バルヒン
 衣裳復元 : タチヤーナ・アルタモノワ,エレーナ・メルクーロワ
 音楽監督 : アレクサンドル・コプィロフ
 照明 : ミハイル・ソコロフ
 美術助手 : アリョーナ・ピカロワ
 指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
 管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団


 キトリ/ドゥルシネア : マリーヤ・アレクサンドロワ
 バジル (床屋) : ドミートリー・ベロゴロフツェフ
 ドン・キホーテ (さすらいの騎士) : アレクセイ・ロパレーヴィチ
 サンチョ・パンサ (ドン・キホーテの剣持ち) : アレクサンドル・ペトゥホーフ
 ガマーシュ (金持ちの貴族) : デニス・サーヴィン
 フアニータ (キトリの友人) : ヴィクトリア・オーシポワ
 ピッキリア (キトリの友人) : オリガ・ステブレツォーワ
 エスパーダ (闘牛士) : アンドレイ・メルクーリエフ
 ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ
 メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ
 ロレンソ (キトリの父) : イーゴリ・シマチェフ
 ロレンソの妻 (キトリの母) : アナスタシア・ヴィノクール
 公爵 : アレクサンドル・ファジェーチェフ
 公爵夫人 : エカテリーナ・バルィキナ
 居酒屋の主人 : イワン・プラーズニコフ
 森の精の女王 : アンナ・ニクーリナ
 3人の森の精 : ユーリヤ・グレベンシチコワ,ネッリ・コバヒーゼ
          オリガ・マルチェンコワ
 4人の森の精 : アレーシャ・ボイコ,スヴェトラーナ・パヴロワ
          チナラ・アリザデ,スヴェトラーナ・グネードワ
 キューピッド : アナスタシア・スタシケーヴィチ
 スペインの踊り : クリスチーナ・カラショーワ
           アンナ・バルコワ,エカテリーナ・バルィキナ
 ジプシーの踊り : アンナ・アントロポーワ
 ボレロ : アンナ・バルコワ,エフゲーニー・ゴロヴィン
 グラン・パの第1ヴァリエーション : エカテリーナ・クリサノワ
 グラン・パの第2ヴァリエーション : チナラ・アリザデ

ボリショイ・バレエのパンフレットの後ろの方に、来年のマリインスキーバレエ来日公演の広告が載っていました。

2009年11月12月

<予定演目>
白鳥の湖
眠れる森の美女(原典版)
フォーキンの夕べ
ラトマンスキーの新作 他

フォーキンの夕べが入るのがとても嬉しいです。白鳥に眠り、ではワンパターンですからね。フォーキンは、おそらくは4月のNY公演と同じで、ショピニアーナ、薔薇の精、瀕死の白鳥、シェヘラザードのパターンなのではないでしょうか。「シェヘラザード」であの鮮烈な、とてもエロティックなロパートキナが観られるかしら。ちなみに今度マリインスキーでソーモワが瀕死の白鳥を踊るらしいですが、日本公演ではロパートキナかヴィシニョーワにして欲しいです(ソーモワなんて10年早い)。薔薇の精は、またアントン・コルサコフの天使のような薔薇が観られるといいわ。「眠れる森の美女」の原典版って、セルゲイ・ヴィハレフが再振付をして、3幕だけが「マリインスキー劇場のジルベスターコンサート」のDVDに入っているものでしょうか。4時間以上あるので、平日上演は無理でしょうね。

なお、マリインスキー・バレエは3月末~4月に台湾で公演を行うそうです(Lyubov様に教えていただきました)。こちらも、「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」とのこと。演目が違えば台湾に観に行くのも良さそうですが、白鳥に眠りでは食指が動きません。

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2008/12/01

シュツットガルト・バレエ「オネーギン」祭り終了、覚書その1(まだ全然途中)

3日間のシュツットガルト・バレエ「オネーギン」鑑賞が終了しました。前回の来日の時も、マニュエル・ルグリ主演の「オネーギン」を観ていて、あの時もとても感動したので、3日分のチケットを買っていたわけですが、今回はそれ以上に個々のダンサーの魅力、カンパニーの魅力を感じることができて良かったです。

3キャストとも、それぞれ異なった個性、魅力があったので、比較するのはもしかして正しくないかもしれないのですが、粗末な頭のせいで混乱しないように、覚書として書いてみます。個人的な感想ですので~。

Stuttgarter Ballett
Onegin (Gastspiel Tokyo, Japan)
Ballett in drei Akten von John Cranko nach Alexander Puschkin

11/28
オネーギン: イリ・イェリネク
レンスキー: フリーデマン・フォーゲル
ラーリナ夫人: メリンダ・ウィサム
タチヤーナ: アリシア・アマトリアン
オリガ: カーチャ・ヴュンシュ
乳母: ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵: ダミアーノ・ペテネッラ
Onegin (Gastspiel Tokyo, Japan)
Onegin Jiri Jelinek
Lenski Friedemann Vogel
Tatjana Alicia Amatriain
Olga Katja Wünsche
Gremin Damiano Pettenella

11/29
オネーギン:ジェイソン・レイリー
レンスキー:マリイン・ラドメイカー
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:スー・ジン・カン
オリガ:アンナ・オサチェンコ
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ダミアーノ・ペテネッラ
Onegin (Gastspiel Tokyo, Japan)
Onegin Jason Reilly
Lenski Marijn Rademaker
Tatjana Sue Jin Kang
Olga Anna Osadcenko
Gremin Damiano Pettenella

11/30
オネーギン:フィリップ・バランキエヴィッチ
レンスキー:アレクサンドル・ザイツェフ
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:マリア・アイシュヴァルト
オリガ:エリザベス・メイソン
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ジェイソン・レイリー
Onegin (Gastspiel Tokyo, Japan)
Onegin Filip Barankiewicz
Lenski Alexander Zaitsev
Tatjana Maria Eichwald
Olga Elizabeth Mason
Gremin Jason Reilly

11/28 イェリネク/アマトリアン/フォーゲル 
イリ・イェリネクのオネーギンが一番、本来のオネーギン像に近いのかな、と思いました。そして彼が一番自然に、この役そのものになっていると思いました。プライドのとても高い、都会的でスマート、少し斜に構えた男なのだけど、その裏に弱さを隠し持っており、弱さがあるがゆえに虚勢を張っているオネーギン。本来は善良な人間なのに、ついつい自分を実際よりもいい男に見せたくて、田舎の人々を小ばかにして、タチヤーナを小娘だと残酷にも退けてしまう。だから決闘事件を経て成熟した大人の女性になったタチヤーナを見て、自分の取り逃がしたものの大きさに愕然とする。ここで彼は初めて、貴婦人の彼女に恋をします。3幕でのイリは、メイクはそれほど変えていないのに、往年の輝きをすっかり失ってしまって、人生に疲れ果てた男に成り果てていました。舞踏会場でも、かつてはあんなにスマートだった男が、なぜか一人みすぼらしく時代に取り残されてしまった存在として浮いている。そんな彼が、プライドも何もかもかなぐり捨てて、タチヤーナの足元に身を投げ出して取りすがるものだから、一層憐れさが際立ってしまい、タチヤーナよりも彼に心の底からシンパシーを感じました。

イリ・イェリネクは、インタビューで、「『オネーギンこそが人生の恋人だった』と心の中で思いながら後の人生を生き抜くのは…僕の考えではタチヤーナはバカだとしか思えない。ここで過ちを犯した人間がいるとしたら、それはオネーギンではなくタチヤーナ」と語っています。その解釈がものすごくよくわかるのです。確かにラストでは、彼は輝きを失った初老の男になってしまっているけれども、ここまで深く想われたら、女としてはどのような選択を取るのが正しいのか、強く激しく拒絶してしまうのは、ある意味、最も強かった愛をあきらめてしまうということになるのではと考えてしまいます。1幕の鏡のパ・ド・ドゥでのイリは、男らしくも甘く、悪魔的なまでに魅惑的な恋人であり、去り際にタチヤーナに向けた笑顔が誘いかけるかのようで、たまらない魅力を放っていました。それは、タチヤーナの幼い幻想/妄想の中の恋人の姿ではあったけれども、同時に、虚飾を捨て去った本来のオネーギンの姿でもあったように思えたのです。

テクニックについても、イリは素晴らしかったです。今回、オネーギンを演じた3人のダンサーはみなそれぞれ、技術も表現力も非常に優れていて、甲乙つけがたかったのです。イリは跳躍がとても高くて、ふわっと舞い上がるかのようだったし、3幕の手紙のパ・ド・ドゥで見せたジュッテ・アントルラッセは突き刺さるかのように鋭くて、人生最初で最後の恋愛に賭けた彼の真摯な想いを象徴させていたかのようでした。2幕の決闘シーンの前に見せた3つ連続のピルエットはスピードも嵐のようでしたし、軸もぶれていませんでした(それは、ジェイソンもバランキエヴィッチもそうだったのですが)。イリは脚がほっそりとしていて背が高いので、オネーギンの黒い衣装の似合うこと、似合うこと。

それに対するアリシア・アマトリアンのタチヤーナ。非常にほっそりと華奢で繊細、どこか病的な印象すら与えるアリシア。タチヤーナは多分設定としては10代後半ということなのだろうけど、それよりも若く見えるくらい幼い。本ばかり読んでいて、夢見がちで引きこもっているような娘。たしかに、これでは到底、大人の色男であるオネーギンが相手にするわけはない。夢に出てきた素敵な男性が目の前に現れたから、少女の妄想は暴走する。鏡のパ・ド・ドゥでのアリシアは、その柔軟すぎるほどの肢体を奔放に動かして、夢心地の陶酔感をほとばしらせる。そんな彼女を、思う存分ワイルドに振り回すイリのオネーギンのデーモニッシュなまでの魅力。アリシアは、リフトされている時のポーズが非常に美しく、このパ・ド・ドゥは、彼女の息遣い、おののき、高揚感で満たされていて、寝室なのに、上気した頬の薔薇色に空間が染まっていくかのようでした。そして先走ったタチヤーナの想いが飛び散ると共に、終始彼女をリードし続けたオネーギンはついに彼女を置いてきぼりにして、悪魔のように魅惑的な微笑みを残して走り去っていきます。だけど、置いて行かれた方のタチヤーナは、それがゆえにさらにオネーギンの魅力に呆然としてしまうのです。


まだまだ続きます。

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2008/11/28

11/23 スペイン国立ダンスカンパニー「ロミオとジュリエット」(まだ途中)

プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」は、聴くたびに特別な感情を呼び覚まされる音楽。特にこの曲に何か思い出というものが付随しているわけでもない。それなのに、胸の奥が疼き甘くて苦いビターチョコレートのような感情が胸を満たす。たった数日の間に一生分の恋をして、大人になって、死まで駆け抜けていった運命の恋人たち。プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」の何が好きって、その疾走感と高揚感によってもたらされる胸の高鳴りなのだ。そんなに多くの「ロミオとジュリエット」の振付を観たわけではないけれども、美しい3つのパ・ド・ドゥがあり、そして2幕の、街の喧騒と熱気を含んだ空気を運んでくる群舞が魅力的なマクミラン版は一つのスタンダードだと思っていた。

ナチョ・ドゥアトの作品はほとんどがアブストラクト(抽象的)であり、古典のテクニックも使っているけれども、マクミランの(上昇、飛翔→落下)というクラシック・バレエの、重力に反発し引き上げる感覚とは真逆。大地に根を下ろした力強さ、スペイン的な土着性を洗練されたアプローチでの表現が中心となっている。だから、果たして物語バレエとの相性はどうなのか、少しだけ不安を持ちながら会場に足を踏み入れた。

果たして、この「ロミオとジュリエット」はマクミランやクランコ、ラヴロフスキーらの作品とは、物語そのものはほとんど同じでありながら違う印象を与えるものだった。マクミラン版でのジュリエットは、堅苦しい貴族社会の中で暮らしながらも、恋を知るまではそんな世界に生きていることすら気がついていない、幼く無邪気な少女。ロミオを知ったことで、少女期を一気に飛び越えて、キャピュレット家の抑圧に押しつぶされそうになり、悲しみも苦しみも知って、最後の出口として死を選ぶイメージがある。

ところが、ドゥアト版のジュリエットは、もともと自由で束縛されない、奔放な女の子。男の子たちと一緒にやんちゃに遊んでいたり喧嘩だってするいたずらっ子。「嵐が丘」のキャサリンに近い印象すらある。長く垂らした金髪、裸足が似合いそうで、背中から天使の翼が生えているかのようだ。恋においても主導権を握っていて、とても積極的。運命もすべて自分の手で選び取ったように見えるから、この物語が悲劇のように見えなくて、むしろ爽やかなまでの後味を残している。マクミラン版が、終盤、仮死状態でだらんとしたジュリエットとロミオが踊るパ・ド・ドゥがあり、死の匂いに満たされているのに、ドゥアト版は最後まで「生」なのだ。

群舞を構成する両家の人々の踊りも、とても生き生きしていて、ひとりひとりに顔があって感情がある。ハンカチを持ったり、タンバリンを持っての群舞も、どこか庶民的な分、自由で無国籍で、普遍的な印象を与える。

「ロミオとジュリエット」でももっとも有名なバルコニーのシーン。ジュリエットの手が現れて、ロミオを挑発する。ジュリエットはロミオにリフトされながらも、一方的に支えられているのではなく、自分の力でしっかりと跳んだり動いている。とても好きなのが、二人で1枚のマントをヴェールのように、天幕のように持ち上げて走るところ(同じようなこ構図の絵画をメトロポリタン美術館で観たと思うのだけどタイトルが思い出せない)。そして二人並んでのユニゾンでのムーヴメント。二人の気持ちが一つになったことを象徴させていたし、対等な二人の関係を見せている。キスシーンはなくて、二人は扉の向こうへと美しく消えていって、ここでも手だけが見えている。扉の向こうで何が行われているのか、想像力を掻き立てる。そして一人残されるロミオ。

(つづく)

【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ
【振付】ナチョ・ドゥアト
【衣装デザイン】ロルデス・フリアス
【舞台美術】カルレス・ブヨル、パウ・ルエダ(サン・クガット・カルチュラル・センター)
【照明デザイン】ニコラス・フィシュテル(A.A.I)オリジナル・プラン:ミゲル・アンヘル・カマーチョ
【舞台美術製作】サン・クガット・カルチュラル・センター
【衣装製作】スペイン国立ダンスカンパニー
【初演】1998年1月8日 カンタブリア・フェスティバル・パレス(サンタンデル/スペイン)
スペイン国立ダンスカンパニー
【音楽録音】ボヘミアン・シンフォニック・オーケストラ/ペドロ・アルカルデ指揮

【キャスト】ジュリエット:ルイサ・マリア・アリアス
ロミオ:ゲンティアン・ドダ
キュピレット夫人(ジュリエットの母):アナ・テレザ・ゴンザガ
キュピレット(ジュリエットの父):ディモ・キリロフ
マキューシオ:フランシスコ・ロレンツォ
ティボルト:クライド・アーチャー
乳母:ステファニー・ダルファン
パリス:アモリー・ルブラン
ベンヴォーリオ:マテュー・ルヴィエール
キュピレット家:秋山珠子、リウヴァ・オルタ、イネス・ペレイラ、クリステル・オルナ、スジ・ワットマン、ルシア・バルバディリョ、カヨコ・エヴァハート、マイケル・カーター、クリフォード・ウィリアムズ、ホエル・トレド、ステイン・フリュイト
モンタギュー家:アナ・マリア・ロペス、マリナ・ヒメネス、スジ・ワットマン、ルシア・バルバディリョ、アフリカ・グスマン、ヨランダ・マルティン、ランディ・カスティリョ、ホアキン・クレスポ、フランチェスコ・ヴェッキオーネ、ホセ・カルロス・ブランコ

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2008/11/25

11/24「眠れる森の美女」シュツットガルト・バレエ団 簡単な感想

なんとか3連休を乗り切りました。軽い風邪は引いたし、体力の限界に挑戦って感じでしたが!でもまだこれからボリショイ祭りなんかもあるんですよね。あははは…。

NBSの公式ブログでは、23日の公演後のダンサーの姿がアップされています。引き続き、そのほかの公演のレポートも期待したいです。
http://www.nbs.or.jp/blog/0811_stuttgart/

兎にも角にも、マリイン・ラドメーカーの王子が美しかった~。写真で見るよりもさらに美貌で、サラサラの金髪にブルーアイ、小さな顔。長身の男性が揃っているこのバレエ団の中では、背は高い方ではないと思うけど(もちろん低いわけではない)、プロポーションが素晴らしくバランスがよく、脚のラインは美しいし、首から胸にかけてのラインもきれい。ここまで絵に描いたような王子様というのが実在したのだろうか、と思うほど。3幕のヴァリエションでは、いっぱいいっぱいのところがあったと思うけど、トゥール・ザン・レールでは毎回きれいに5番に入るし、エレガンスがあって立っているだけで気品あふれる王子様だからいいのだ。まだ若いし伸び代もありそう。早速ノイマイヤー先生のお気に入りになって、「ヴェニスに死す」のタッジオ役を踊っているくらいだもの。次はぜひ「椿姫」のアルマンで観たい!今が伸び盛りでまさに花開かんとしている若くて美しいダンサーを見ると、とてもわくわくしてしまうとともに、若さや美の持つ儚さも感じてしまう。

もちろん、バランキエビッチのカラボスは最高。前の日に観ていた友達の話では、ジェイソン・レイリーのカラボスのほうが芸が細かくて妖しかったそうだけど、バランキエビッチらしい豪快な跳躍はすごい迫力と切れ味で。長いマントを翻し、ロングドレスにロングヘア、細い描き眉でドラッグクイーン的なお姿も美しい。大げさなまでの視線の使い方、上体の切り返し方や見得の切り方、濃い演技、一つ一つが魅力たっぷりで妖艶で、素敵。カーテンコールでも、他の出演者が正面を向いたまま下がるのに、ただ一人背中を向けて下がっていくところがカラボスのへそ曲がりなキャラクターを表現していて面白かった。 

ハイデ版では、その異様なまでの存在感で、オーロラではなくてカラボスが主役になっているんだと思う。王子なんか2幕からしか出ないものだから、ほとんど出ずっぱりな上に、あのちょっと歌舞伎っぽいというか、"かぶく"という表現がぴったりのカラボスにどうしても食われてしまう。カラボスがオーロラの誕生祝に現れなかったことがすべての始まりなのだから、たしかに主役となってもおかしくない。踊っていないときも、舞台の中央で行われていることを覗き見たり様子を伺ったりしていて、禍々しい影を常に落としているのだ。舞台の一番最後を締めくくるのも、カラボスの妖艶で、愛憎が同居するような濃密な視線。嫉妬、妄想、憎しみ、執着といった人間のダークサイドを象徴させるようなこのキャラクターが、ハイデ版最大の魅力であることは間違いない。

カラボスが覗き見るのに好都合なのが、この版の回廊のような舞台装置。その2階部分にカラボスが立って、見下ろしているのだ。ハンブルク・バレエの美術でも知られているユルゲン・ローズによる装置や衣装は見事なもので、プロローグの水色、2幕の茶色のグラデーションの美しいこと。回廊の色も時の経過と共に変化し、絡まっていた緑の蔦が2幕では枯れて、3幕では再び花々が咲き乱れている。3幕の御伽噺の登場人物たちや宝石の精の衣装は目にも鮮やかでエキゾチック、2幕の茶色の世界とは対照的。その中で、小花をちりばめたような清楚なパステルカラーの、オーロラと王子が際立つというわけ。カラボスの呪いがかけられたときに、カラボス以外の世界がセピア色に褪せていく照明の使い方はドラマティックで効果的だった。

カラボスの異様で強烈な存在感は素晴らしいと思うのだけど、全体的な振付は今ひとつだったと思った。土曜日にスピーディなシアターアイスショーの「眠り」を観たばかりだと、やっぱり古典バレエの「眠れる森の美女」は長いって思う。このハイデ版もプロローグがとっても長く感じた。5人の妖精たちの踊りの振付が今ひとつで、女性ダンサーたちの技量もそれほどではないから余計に長く感じたのかもしれない。2幕のパノラマのシーンでは、コール・ドがチュチュではなく茶色系の長いドレスを着ていて、シックで美しいのだけど振付が地味に感じられてしまった。王子がカラボスと戦うところも、布のようなものにからめとられていたりするのだが、ちょっと判りにくい。

女性ダンサーの振付がどうもピンと来ない分、男性ダンサーの踊りは増やしていて、4人の王子も踊る踊る。総じてこのカンパニーは、男性ダンサーに関してはとても充実していて、背が高くて男前が多い。4人の王子は1幕でそれぞれソロはあるし、4人揃っての踊りもある。北の王子を踊ったエヴァン・マッケイが一番マネージュがきれいだった。(彼は、岩国公演で「眠り」の王子デビューをするそう。「オネーギン」ではオネーギンとレンスキーのアンダーなので観られない可能性が高い)しかし、金髪のカツラのポニーテールが踊っている最中にほどけてしまって、髪を垂らしている状態で踊る羽目になってしまっていた。4人の王子は、3幕にも登場してきて、宝石の精のお付として踊ったりして、出番が相当多いし、上手い人を揃えてきた。

ちょっと面白かったのが、宝石の精たちと一緒に、アリ・ババというキャラクターが出てくること。このアリ・ババ、衣装も踊りも「海賊」のアリにすごく似ている。アレクサンドル・ザイツェフは背中が柔らかいし、なかなか良かった。ここの男性ダンサーはみんな、トゥールザンレールの着地を5番にちゃんと入れている。(いや、ロシア系のバレエ団なら当たり前のことなんだろうけど…)もう一つキャラクターで面白かったのが、長靴をはいた猫と白猫のところ。二人はまるでけんかをしているかのようで、猫パンチをし合っていて、大体最後には白猫が長靴をはいた猫のおでこをパコって殴っちゃうのだ。これは可笑しかった。それから、白雪姫役のダンサーが、タマラ・ロホにとてもよく似ていて可愛かった。

オーロラのアンナ・オサチェンコはアレグロは得意だけどアダージオは苦手なのかもしれない。1幕の登場のところのヴァリエーションは、とても軽やかできびきびしており、音楽にもとてもよく乗っていてすごく良かった。でも、ローズ・アダージオではとても緊張しているのが伝わってきていて、バランスがいつ崩れてしまうのか冷や冷やした。ミスはなかったけど。せわしない振付の問題もあったと思うけど、音を引っ張らずに短めに取っていて、しなやかさといったものが感じられなかった。若い姫らしい、溌剌としていてフレッシュな魅力はあったし、これからに期待できそう。

なんだかんだいっても、すごく楽しめたのは間違いない。マリイン・ラドメーカーとフィリップ・バランキエビッチ、魅力的なこの二人を堪能できただけでなく、姿かたちのきれいな男性ダンサーたちと豪奢な美術、これだけでももう大満足。

あーまた簡単な感想じゃなくなっちゃった。明日は会社なのに!


オーロラ姫:アンナ・オサチェンコ
デジレ王子:マリイン・ラドメイカー
カラボス:フィリップ・バランキエヴィッチ
リラの精:ミリアム・サイモン

王:ヘルマー・ポーロカット
王妃:メリンダ・ウィサム
カタラビュット:トーマス・ダンヘル
乳母:ブリギット・デハルデ

<プロローグ>
澄んだ泉の精:オイハネ・ヘレーロ
黄金のつる草の精:ヒョー=チャン・カン
森の草地の精:ダニエラ・ランゼッティ
歌鳥の精:カタジナ・コジィルスカ
魔法の庭の精:マグダレーナ・ジギレウスカ
お付きの騎士:
 ローランド・ハヴリカ、ウィリアム・ムーア、
 ペトロ・テルテリャーン、ディミトリー・マギトフ、
 ダミアーノ・ペテネッラ、ローラン・ギルボー

<第1幕>
~オーロラの誕生日~
東の王子:ディミトリー・マギトフ
北の王子:エヴァン・マッキー
南の王子:ダミアーノ・ペテネッラ
西の王子: アレクサンダー・ジョーンズ
オーロラ姫の友人:
 ナタリー・グス、マリア・アラーティ、
 アレッサンドラ・トノローニ、ダニエラ・ランゼッティ、
 クリスティーナ・バーネル、カタジナ・コジィルスカ

<第2幕>
~狩りの場、幻を見るデジレ王子、オーロラの目覚め~
伯爵夫人:オイハネ・ヘレーロ

<第3幕>
~オーロラの結婚式~
グレーテル:ナタリー・グス
ヘンゼル:ウォン・ヤオスン
シンデレラ:アンジェリーナ・ズッカリーニ
王子:オズカン・アイク
青ひげ公:マキシム・キローガ
王女:アレッサンドラ・トノローニ
シェヘラザード:エリザベス・ヴィセンベルク
アラジン:ペトロ・テルテリャーン
コロンビーヌ:アナベル・フォーセット
アルルカン:ルドヴィコ・パーチェ
カエルの王子:チャールズ・ペリー
王女:ビリャナ・ヤンチェヴァ
お姫さまとえんどう豆:へザー・チン
王子:ブレント・パロリン
中国の王女:ジュリア・ムニエ
官吏:デヴィッド・ムーア
白雪姫:レネ・ライト
アリ・ババ:アレクサンダー・ザイツェフ
ルビー: マグダレーナ・ジギレウスカ
サファイア:オイハネ・ヘレーロ
エメラルド:ダニエラ・ランゼッティ
アメジスト: ミリアム・カセロヴァ
長靴を履いた猫:アルマン・ザジャン
白い猫:カタジナ・コジィルスカ
青い鳥:ウィリアム・ムーア
王女:ローラ・オマリー
赤ずきん:クリスティーナ・バーネル
狼:ミハイル・ソロヴィエフ

協力:東京バレエ学校、東京バレエ団
指揮:ウォルフガング・ハインツ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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2008/11/24

11/23 スペイン国立ダンスカンパニー「ロミオとジュリエット」ナチョ・ドゥアト アフタートーク

やはりこの連休のスケジュールはあまりにも無謀だったようで、見事に風邪を引いてしまいました。風邪薬を飲むと眠くなってきてしまうし。その上、やっぱり彩の国さいたま芸術劇場は遠い!

でも、その遠い中を観に行った甲斐がありました、スペイン国立ダンスカンパニー「ロミオとジュリエット」。

http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2008/d1122.html
(作品の動画もちょっと見られます)

プロコフィエフの音楽がもつエモーションを最大に生かした、音符の戯れのようなよどみなく流麗な動き。顔の表情ではなく、身体全体の動きで演技を見せる振付。一人一人のキャラクターの息遣いが伝わってきて、生き生きとしており、"生"を感じさせます。中でもジュリエットが、子供ではなく、自分の意思を持った自由奔放で強い女性として描かれているのが印象的でした。キャピュレット夫人も、ティボルトの死に際して長くエモーショナルなソロを踊ります。シンプルながらもエレガントでスタイリッシュなセットも効果的だったし、衣装のデザインの洗練された美しさもさすがです。ロミオが自ら幕を開いたところ、真っ黒な墓所に黒い旗がはためている、という場面転換にはぞくぞくしました。そして下手に佇むロミオの表情がみるみる青ざめて慟哭する様子の切なさ…。二人の死の表現も、今までにないものでした。ここでの死は悲劇ではなく、愛の成就として描かれているのでは、と思いました。

バルコニーのシーンでは、ロミオとジュリエットは二人で一緒にマントをかぶるかのようにはためかせて疾走します。去り際にジュリエットがロミオに向ける視線。別れを扉の向こうで行って、観客には見せないことによって、想像力を駆使させるテクニック。マクミラン版を中心に「ロミオとジュリエット」は数え切れないくらい観たけど、涙を流させてくれたのは、フェリと、このナチョ版だけ。

多くのダンス/バレエファンが思ったことでしょうが、上演スケジュールがシュツットガルト・バレエの「眠れる森の美女」や新国立劇場の「アラジン」、らさにはシアターアイスショーの「眠れる森の美女」にも重なっている。ついでにジャンルは違うけど個人的には映画祭の東京フィルメックスとも重なっていたりして。
興行元が違うと、スケジュール調整が難しいのでしょうが、公演がないときには何もなくて、ある時には重なりまくり、というのは何とかならないでしょうか。可能だったらもっともっとリピートして観たい作品です。ナチョ・ドゥアト自身は、物語バレエより抽象的な作品を作るのが好きということなので、今後観る機会はなくなってしまうかもしれません。

本当は本編「ロミオとジュリエット」の感想を書きたいところなのですが、風邪のために大事をとって(明日はシュツットガルト・バレエの「眠れる森の美女」だし)、終演後に行われたナチョ・ドゥアトのトークショーについて書いて見たいと思います。
予想に反して、ナチョは英語でトークを行っていました。そして、やっぱりナチョはめちゃめちゃセクシーでカッコいいです。

「ロミオとジュリエット」を振付けたきっかけについて。

物語バレエを作ったのは、これが初めてで、おそらくは最後です。私の他の作品はアブストラクトな作品で、アイディアがあって、それを観客に伝えたいから創ったというものです。「ロミオとジュリエット」は10年前の作品ですが、自分がこの種の物語バレエを作れることを見せたかったのです。観客や批評家たちも、私がこのような作品を作ることができるか知りたがっていたようでしたし。そしてやってみたら、うまくいきました。ストーリーが美しいですし、音楽はゴージャスです。バレエ音楽の中でも「ロミオとジュリエット」は最も美しい作品だと思います。まず音楽があったので、音楽に惹かれ、そして物語にも力があると思いました。この物語は、二人の登場人物についてではなく、普遍的な愛を描いたものです。愛の力で憎しみに打ち勝つというところに惹かれました。

二人が初めて出会うシーンはパ・ド・ドゥで表現しました。二人の恋というよりは、愛とは何かということを表現してみました。若者二人のカップルという描き方をしたくなかったのです。たとえばティボルトは血に飢えており、マキューシオは哲学的なキャラクターです。シェイクスピアは愛だけではなく憎しみも描こうとしていました。愛に対しての憎しみを描き、憎しみに対して愛が勝利するという物語なのです。

通常バレエでは、ジュリエットは幼い少女として描かれており、キャピュレット夫人はずっと年を取っていて、乳母は太っているという設定になっていることが多いのです。しかし私は、ジュリエットは15歳だとしたら彼女の母は30代なのでまだまだ踊れる年齢ですし、ジュリエットの父もまだ動けて踊れるわけです。古典バレエでは、これらのキャラクターはステロタイプとして描かれていますが、たとえば私には実際に乳母がいましたが、若くて魅力的な女性でした。この作品では、誰もがパ・ド・ドゥを踊りますし、グループにも見せ場があります。主人公以外の他のキャラクターもとても興味深いし、素晴らしいダンサーが揃っているのに踊らないのはもったいないと思いました。ジュリエットのキャラクターは、ゼフィレリの映画「ロミオとジュリエット」でオリビア・ハッセーが演じたジュリエットにインスピレーションを得ています。

この作品は、まず音楽があり気でした。すごく好きな音楽ですし、プロコフィエフの書いたスコアを見ると、すべての楽章に指示があるので、忠実に従うようにしました。他の「ロミオとジュリエット」の作品では、音楽をきったり入れ替えたりしていることが多いのですが、それは逆効果だと思います。また、ジュリエットがヘロイン中毒だったり、ティボルトとマキューシオが同性愛者で愛し合っているといった設定で描いているという作品もありますが、私には理解できません。私の作品では、振付はコンテンポラリーですが、シェイクスピアの物語とプロコフィエフの音楽をそのまま忠実に再現をしています。

バルコニーのパ・ド・ドゥはできるだけシンプルなものにしました。小さな窓が一つあるだけのセットにして。このシーンでは、一度も二人はキスをしていません。パ・ド・ドゥを通してキスのときの感情を表現しようとしたのです。ベッドシーンもそうです。そこで起きたことを、ダンス全体として表現しました。キスを表現するのに実際にキスをしてしまったら、ダンスとしての意味がありません。

今まであなたは様々な振付家に学んで来られましたが、彼らから何を得ましたか?

イリ・キリアンは私の芸術の父のような存在です。また、ベジャールやアルヴィン・エイリーらと仕事をしてきて、何らかのものは学んできました。しかし、振付と言うのは非常に個人的なものであり、振付を教えるということはできません。見て学ぶものです。ダンサーを見たり、仕事に集中している様子を見ることによって、振付を学びます。それは個人的なものであって、人に教えるものではありません。

舞台装置について

ロミオとジュリエットの舞台装置については、海外のツアーに持って行くということもあり、予算の関係もあってとてもシンプルにしました。セットを考案してくれた人は、ツアーに連れて行って、アイディアを出し合いました。箱を使ったセットがあるのは、劇中劇のように見せるためです。

日本に来て、どのようなインスピレーションを得ましたか?

私は俳句についてのバレエを5年前に創りました。いつか日本に持って行きたいと思います。日本に来るのは今回が4回目になります。日本の演劇や書道も好きです。日本は、スペイン人にとって魅惑的なカルチャーを持っているのですが、共通なものもあります。日本人が興味をもっているものには、スペイン人も惹かれることが多いのです。ただスペイン人は、感情を表に出すのに対して、日本人は内に秘めているというところが違います。私が作品を作るのは、地球上で起こっていることを伝えたいためです。
(俳句をテーマに新作を作っている)ジンガロのバルダンスとは、一緒に仕事をする計画があります。私も馬が好きなのですから。

一度作った作品を、時代に合わせて変えていくということはありますか

私はできるだけ変えていかないようにしています。作品を作って失敗したと思ったときには、次の作品に生かすようにしています。「ロミオとジュリエット」はとても特異な位置を占めている作品であり、とてもクラシカルな作品です。私の心が今近いのは、より抽象的な作品です。次の作品はエロティズムについての作品です。私のカンパニーには、エロティックなダンサーがたくさんいますから。
しかし、私は世界を見て、周りの人を見て感じることを観客と共有したいと思っています。スペインでもテロがあったときには、テロについての作品を作りましたし、拷問についての作品も作り、ハイチにおける政治状況についての作品も作っています。私のもう一つのカンパニーでは、子供と戦争についての作品を作っています。自分が世界に対して感じていることを表現する、複数のプロジェクトを同時に進めています。しかし、これらの作品すべてにおいて、愛と死についてというテーマが共通しています。

「ロミオとジュリエット」に出演するとしたらどの役が良いですか?

年齢的にはジュリエットの祖父ですが(笑)、私はこの作品で踊るべき役はないと思います。もともとダンサーだったわけですから、踊らないということはつらいことです。しかしながら、カンパニーが私の作品を踊ってくれているところを見て、私も一緒にステップを踏んでいますし、見ているときには、私は全部のキャラクターになっているのです。

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2008/11/23

11/22 シアターアイスショー「眠れる森の美女」THE IMPERIAL ICE STARS

めちゃめちゃ面白かったです!こんなに面白くて、華やかでスピーディで、高度なテクニックが盛り込まれているものとは知りませんでした。前回の「白鳥の湖」も見逃しているもので。

フィギュアスケートをテレビで観戦するのは好きなのですが(従って今はDVDレコーダーがフル回転)、ジャンプの種類すらちゃんと見分けられなくて、大魔王にまでバカにされているようなライトファンなのです。したがって、フィギュアを生で観戦するのも初めてで。NFLや大学のアイスホッケーは観に行ったことがあるんですが、こんなにも会場がひんやりとしているとは。

新宿厚生年金の狭い舞台の上で、あれだけの人数のスケーターがトリプルトウループとか平気で決めていたりするのにはびっくりしました。ものすごいスピードでキャメルスピンとかしちゃうんです。さらに、火を使った曲芸のようなアクションあり、宙吊りアクロバットあり、バックフリップあり、竹馬スケートあり(かなり高い竹馬に乗ってスピンするのだからすごい)。ちゃんとセットもありました。

なんといっても素晴らしいのがカタラビュットのイリヤ・クリムキン。トリノ・オリンピックでの演技も記憶に新しい彼です。もちろん、彼の得意技、「マトリックス」のようなクリムキン・イーグルも見せてくれたけど、演技もユーモラスで愛嬌があってすっごく魅力的。トリプルトウループは何回も跳んだし、コンビネーションジャンプも見せてくれました。実質カタラビュットが主役と言ってもいいかもしれないほどの存在感。それにしても背中の柔らかいこと。ずっと出ずっぱりですごい体力ですね。フィギュアの競技は4分間しかないのに、これだけずっと氷の上で演技を続けているのって本当にすごい。

そして、彼と対決するカラボス。これがまた、背が高くてハンサムで、テクニックも素晴らしいミハイル・マゲロフスキー。カッコ良かった!バレエのカラボスって女性だったり、女性的な男性だったりすることが多いから、黒が似合うカッコいいカラボスというのが新鮮。彼も、トリプルトウループをバシバシ入れていました。それも、みんな助走などほとんどなくてきれいに跳んでいるの。

オーロラのエレーナ・ヤヴァノヴィッチは小柄でちょっとぽちゃっとしていたけど、もーめちゃめちゃ可愛い。お姫様ですね。でも、あまり出番がなくて(オーロラと王子はアイスダンスではなくてペアの選手出身みたい)、王子にいたっては、ホントサポート要員って感じで地味です。とにかく、この作品はカタラビュットとカラボスとリラがメーン。そのリラのナタリア・カルピーチは金髪の美人で、腕の表現が柔らかくてバレエ的、存在感があって素敵でした。リラとカタラビュットでカラボス軍団に立ち向かうって訳です。

バレエで言えば3幕のディヴェルティスマンをばっさりカットしていて、カラボス対カタラビュット&リラにフォーカスしているのが判りやすくて良いです。「眠り」ってダラダラ無駄に長いのが苦手、と思っていたから余計にこの編集はいいと思いました。「眠り」の曲だけではなく、「オネーギン」の手紙のPDDで使われているチャイコフスキーの「幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ」作品32が使われていたのは、一瞬あれ?と思いましたが。

群舞のスケーターたちも、男性は背が高くてハンサム、みんなバシバシとジャンプしてくれます。バレエで言うところの「鷹揚の精」「優しさの精」といった妖精たちのソロもあってそれぞれ見ごたえがあります。面白かった~。転倒する人も一人しかいなかったし。もう1回観たいな、と思ったのですが、明日(23日)が千秋楽。新国立の「アラジン」やシュツットガルト・バレエなどとかぶっているせいか、バレエファンっぽい観客はほとんどいなかったけど、バレエファンにも観て欲しい楽しい公演でした。ってゆうか、こういう高度な技術に裏付けられた、エンターテインメント性とスピード感のある物語バレエっていうのを、バレエはもっと作っていかないといけないと思いました。(「アラジン」なんかはその系統の作品だと思うんだけど)

終演後はパンフレットを買った人対象のサイン会もありました。イリヤのサインがいただけて嬉しい~。現在、次の作品「シンデレラ」がツアーをやっているようなのですが、これもぜひ持ってきて欲しいし、見逃した「白鳥の湖」も観たい。それに、今回の「眠れる森の美女」もまた観たいな。

オフィシャルブログも面白いです。カラボスのメイクするところなども見られます。

http://visavision.chicappa.jp/sleepingbeauty/

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2008/11/17

新国立劇場「アラジン」2日目

遅くなってしまったので、本当に簡単に。(って結局簡単じゃないんですが!)

小野絢子さんと八幡顕光さんの「アラジン」、二人ともとってもハマリ役で良かったです!やっぱりイタズラ小僧のようなアラジンは、山本さんのような王子様より、小柄で身体能力に優れ、やんちゃな八幡さんが似合っています。アラジンがその場にいるようでした。持ち前の華麗なテクニックも発揮できていたし。

そして小野絢子さんのプリンセスは、とにかく可愛くて可愛くて。この作品のプリンセスは、性格描写があまりされていないのですが、小野さんはひたむきで愛らしく健気なお姫様でした。小野さんも小柄な部類に入ると思いますが、ラインがとてもきれいで柔らかく、プロポーションがよく見えます。顔のつけ方も的確で、全体的に繊細で砂糖菓子のよう。しかも初めての主役なのに、ほんわかとした華があって目を惹きます。

特に八幡さんは小柄ゆえ女性をサポートする役の経験が浅いようなので、リフトやサポートで細かいミスがありましたが、気になるほどではありませんでした。パ・ド・ドゥのリフトがかなり難易度の高いものだったので、頑張っていたと思います。

全体的には楽しい作品なのに、昨日観た時に主役二人の印象が薄かったのは、振付に起因するところがあるのではないかと思います。他の役の振付は面白いし、いかにもビントレー、なのですが、主人公二人のパ・ド・ドゥがあまり印象的ではないのです。

しかしながら、この二人が主演した回のほうが、より「アラジン」らしいし、二日目ということもあって周囲の緊張もほぐれてきた感じで、まとまりがよく、楽しめました。

ランプの精ジーンには、中村誠さん。初日の吉本さんとはまったく違った役作りで、見比べると面白かったです。より「ランプの精」的なのは、小柄ながらも、どっしりとしていて、飛んだり跳ねたりが得意でどこかユーモラスな吉本さんだったと思います。中村さんは、すらりとしていて、線が細いのですよね。身長も彼の方が高いし、バレエダンサーとしては彼の方が恵まれているのですが、存在感は吉本さんの方が強い。中村さんは、持ち前のしなやかさ、軽やかさ、そしてセクシーさがあって、ちょっと妖しいランプの精。こういうのもありかと。メイクもちょっと違っていて、中国人的な感じがしました。しかし中村さんも、ハードな振付を見事にこなしていて、中でもピルエットの軸のぶれなさとか、背中の柔らかさ、ジュッテの美しさが素晴らしかったです。彼の個性はなかなか得がたいものがあります。

マグレブ人には冨川祐樹さん。さすがにマイレンほどの強烈さや大きな動きはないのですが、演技はとても濃くて怪しくてすごく悪い人~って感じで、よく嵌っていたと思います。

ディヴェルティスマンでは、まずエメラルドが、移籍してからのほぼ初お目見えである古川和則さんと、高橋有里さん、さいとう美帆さん。初日の中村さん&寺島姉妹は、さすがに双子の姉妹ならではの息の合い方に、中村さんの妖しさが加わって3人の独特のセクシーワールドだったわけです。今日はもう少し健全な感じ。当たり前ですが、やはり古川さんは中村さんとは全然違う印象。身体のポジショニングやアイソレーションが見事で、ベジャールなどコンテンポラリーも踊ってきただけのものがあるな、と。とても素敵でした。

ルビーには、寺島ひろみさんとマイレン。ひろみさんは、昨日の厚木さんのような濃厚さはないけど可愛らしいお色気があって、一方マイレンはすごくセクシーでした。ひろみさんをサポートするところがとても多くて、難しそうなのですが、姫を大切に扱いながらも、色々教えて行っている大人の男って感じで。マイレンファンとしては、また鼻血ものでした~。

群舞で目立っていたのは、長身で、手脚がとても長くてきれいな大湊由美さん。砂漠の嵐でも、ダイアモンドの群舞でも、一番綺麗でした。誰かに似ているな、と思ったら、この間のNHKで放映されたドキュメンタリーの、オクサナ・スコリクでした。

それから冒頭に出てくるアラジンの友達二人が、泊陽平さんと福田圭吾さん。若々しく、はつらつとしていてテクニックも華やか、魅力的でした。こういう有望な若手の男子が活躍できる作品をもっとやって欲しいと思います。

作品としては、やっぱり1幕が長くてたっぷりの内容の割りに2幕、3幕、特に3幕が薄いという感じでしたが、繰り返し見るとより楽しめると思います。2幕は、獅子舞やジーンの手下など、お屋敷での華やかな踊りがあって楽しいです。冒頭の入浴シーンもちょっと色っぽくて可愛いし。3幕はやっぱり改善の余地があるのではと。マグレブ人のハーレムが地味すぎるし。美術は本当に素敵なんだけど、やっぱりエンディングはもっと派手派手にしてほしいです。

今日は2階サイド席から見たので、照明の美しさに息を呑みました。1幕冒頭での、砂漠らしい乱反射する光の表現や、床に地模様を作るテクニック。舞台装置をよりリアルに、アラブっぽく見せるのに貢献していました。やっぱり複数回見るときには、席の位置を変えた方がいいと思いました。

音楽も、改めて聞くと、場面場面に見事にマッチしており、とても効果的で、よくできた音楽であるのがわかりました。ただ、やっぱり印象に残りにくいというか、観ている間は凄くいいなと思うのですが、帰宅するとどんなメロディだったっけ?と忘れちゃうのですよね。オーケストラピットの
中を見たら、ずいぶんと人が多く、楽器の種類も多く、演奏もオーケストレーションも素晴らしかったと思います。

湯川さんと芳賀さんのコンビも見たくなりました~。ちょっと大人なふたりなので、また全然違った感じになりそうです。


とにかく、小野さん、八幡さんの主役デビューは大成功でした!おめでとう!

アラジン:八幡顕光
プリンセス:小野絢子

魔術師マグリブ人:冨川裕樹
ランプの精ジーン:中村誠
アラジンの母:難波美保
サルタン(プリンセスの父):イルギス・ガリムーリン

オニキスとパール:大和雅美、伊東真央、寺田亜沙子、福田圭吾、泊陽平、陳秀介
ゴールドとシルバー:川村真樹、西川貴子、貝川鐵夫、市川透
サファイア:湯川麻美子
ルビー:寺島ひろみ、マイレン・トレウバエフ
エメラルド:高橋有里、さいとう美帆、古川和則
ダイアモンド:西山裕子

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2008/11/16

11/15新国立劇場バレエ団「アラジン」初日

世界初演作品の初日なので、これからご覧になる方も多いと思うし、細かい点は今日は割愛します。

一言で言えば、「楽しく華やかでエンターテインメント性ある反面、尻すぼみの印象が強いのが惜しい」、ということでしょうか。
しかし、新国立劇場バレエ団の持つ人材の豊富さは改めて実感させられたし、エンターテインメントとして盛り上げつつも少し毒を含んでいるビントレーの方向性は支持したいと思います。まだその毒を十分発揮し切れていませんが。

(舞台装置、音楽)

舞台の上の人も多いし、1幕はめまぐるしいところがあって、どこを見ていいのかわからなくなってしまうほどでした。細かいところまで見られていませんし。日曜日にもう一度観るので、もう少しちゃんと見てみます。

1幕の洞窟での舞台装置と衣装、照明のゴージャスぶりには目を見張りました。ものすごく美しくて凝っているし、「美女と野獣」でも見られたビントレー・マジックというべき舞台転換の妙もありました。ただし、1幕に予算を使いすぎて2幕、3幕はちょっとしりすぼみな印象が否めず。魔法の絨毯は飛びますが、その前の人形が空を飛ぶシーンといい、あまりのしょぼさに笑いそうになりました。

洞窟のシーンでの宝石のディベルティスマンの衣装の豪華な美しさたるや、うっとりしてしまいました。宝石らしい上品さの中に少しキッチュさが入っているところが良いです。マグレブ人の衣装の紫の使い方も素晴らしい。懸念されていたランプの精の青塗りも違和感がありませんでした。

もともと、イギリスでは「アラジン」は中国の話ということになっているので、アラブと中国の折衷型になっているのはご愛嬌。音楽も中国っぽいところがあるし、獅子舞(可愛い)や蛇ダンスがあったりして。東洋だったら中国もアラブも一緒!みたいなのも、笑って許せる感じです。

その音楽は、やはり映画音楽的で、ものすごく印象的なメロディがあるわけではないのですが、振付にはとてもよく合っているし、オーケストレーションも見事なもので良かったと思います。指揮者もバーミンガムロイヤルから呼び寄せていますね。

(ダンサー)

1幕が一番長くて、1時間近く。3場の洞窟のシーンでの宝石のディベルティスマンのゴージャスさは見事なもので、新国立劇場の誇るソリストたちの素晴らしい踊りを堪能できました。中でも、持ち前のしなやかさを生かした中村誠さんと寺島ひろみ・まゆみ姉妹によるエメラルドの踊りの妖しさや、確固とした存在感の湯川さんのサファイア、ルビーの厚木さんと陳さんは素敵でしたね。西山さんのダイアモンドやシルバーの川村さん含め、このあたりの主役をもっと観たい気がします、本当に。

それから、とにかく運動量が半端じゃないランプの精ジーン、吉本さん!立派に役割を果たしていました。小柄な彼だけど存在感は十分。青塗りの姿もよく似合っているし、空中浮遊などもサマになっていました。明日はしなやかでセクシーな中村誠さんがジーンなので、また全然違った感じになりそうで楽しみです。

あとはマイレンのマグレブ人!技術的には新国立でトップの彼に踊らせないというのはもったいない気もしますが、あの濃い顔立ちにさらに濃いメイク、濃い演技でいいスパイスになっていました。大げさでありながらもすみずみまで神経の行き届いた美しい動き、演劇性の豊かさ、観ていて飽きないです。彼のマグレブ人を見るためだけにもう一回観てもいいかも、と思うほど。

キャラクテールという意味では、アラジンの母役の難波美保さんが新境地。ユーモラスな演技が堂に入っていて、とてもいい味を出していました。

群舞に関しては、ランプの精の手下など、男性が踊るところが多いのが楽しかったです。こういった作品をたくさんこなすことで、定評のある女性コール・ドと比較して弱いといわれている男性のコール・ドの力がつくのではないかと思います。ビントレーが芸術監督に就任した時のことが楽しみです。だけど、この男性群舞大活躍シーンが1幕だけなのですよね。ホント、1幕が終わった時点では、この作品、すごくいいなと思ったのに。

新国立劇場バレエ団には、色々な才能がいるな、これだけの人材が揃っているのはさすがだと思いました。

やはり主役二人が好みに合わなかったのが残念です。山本さんは頑張っていたと思うけど、やんちゃなアラジンのキャラクターには少々ノーブルすぎるのと、パートナーリングが上手く行っていないところがありました。パートナーリングに関しては、もちろん本島さんの責任の部分もあると思います。本島さんは、そつなく踊っていたと思いますが、プリンセスという役柄がそもそもあまり内面のない役ということもあって、すごく空虚な感じをさせていて、二人の間に通い合うものを何も感じられませんでした。そういう意味では、ビントレーイチ押しの湯川さんのプリンセスを見てみたい気がします。アラジンのキャラクターは、小柄で敏捷な八幡さんが一番合っていそうです。

(ビントレーカラーと新国立劇場カラー)

一度観ただけでは判断しかねるところです。とても楽しくゴージャスでエンターテインメント性ある反面、尻すぼみの印象が強いのがもったいないのです。1幕のにぎやかで猥雑な市場と対比しての、3幕のエンディングのデザインが地味なのです。終幕が、新国立劇場が得意とする抑え目のパステルカラーの色合いで、本来あるべきエキゾチックさが薄められてしまいました。振付が基本的にクラシックバレエということも、その印象を強めています。ビントレーが本来作りたかったものを、従来の新国立=牧芸術監督カラーで薄味にしてしまったのではないかと邪推したくなります。

結論付けるなら、早く牧カラーを払拭して欲しい、という一言に尽きるでしょうか。改訂して、もっとビントレーらしい怪しさ、ブラックなユーモアを入れて行って欲しいというのが私の勝手な希望です。エンターテインメントとしては優れているので、早いうちの再演と改訂を望みます。

【振付】デヴィッド・ビントレー

【作曲】カール・デイヴィス
【指 揮】ポール・マーフィー
【舞台装置】ディック・バード
【衣 装】スー・ブレイン

【アラジン】
山本隆之

【プリンセス】
本島美和

【魔術師マグリブ人】
マイレン・トレウバエフ

【ランプの精ジーン】
吉本泰久

【アラジンの母】
難波美保

【サルタン(プリンセスの父)】
イルギス・ガリムーリン

【オニキスとパール】
高橋有里 さいとう美帆 遠藤睦子
江本 拓 グリゴリー・バリノフ 佐々木淳史

【ゴールドとシルバー】
川村真樹 西川貴子
貝川鐵夫 市川 透

【サファイア】
湯川麻美子

【ルビー】
厚木三杏 陳 秀介

【エメラルド】
寺島ひろみ 寺島まゆみ 中村 誠

【ダイアモンド】
西山裕子

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2008/10/19

10/18小林紀子バレエシアター「ザ・レイクス・プログレス」

小林紀子バレエシアター「ザ・レイクス・プログレス」
2008年10月18日18:00 ゆうぽうと

ゲストの出演が最後まで発表されず、しかもこのカンパニーには未だWebサイトがないために宣伝も足りていなかったようで、空席がやや目立ってしまった公演だった。せっかく非常にユニークで良い内容の公演なのに、もったいない。

指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京ニューフィルファーモニック管弦楽団

「バレエの情景」
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
高橋怜子 中村誠

中尾充宏、冨川祐樹
澤田展生、富川直樹
ストラヴィンスキーの不協和音に乗せた、アブストラクトな作品。黒と白の幾何学的な模様の上着に白タイツの男性、女性は白いチュチュに、黒い髪飾り。この髪飾りが黒くて大きいために、日本人女性の髪の色とまじってしまって、頭が大きく見えちゃったのが難。一番前の列の真ん中で観ていたら、指揮者の頭はかぶるし、フォーメーションの妙を楽しめなかったのが残念。主役の二人は非常に良かった。中村さんは五番に綺麗に入る足、しなやかな動き。高橋さんは、小柄だけどバランスがとても良い身体で、のびやかに踊りつつも単調になりがちな作品にスパイスを加えていた。

「ザ・レイクス・プログレス」
振付:ニネット・ド・ヴァロワ
音楽:ギャビン・ゴードン

レイク:後藤和雄
仕立て屋:井口裕之
旗手:佐々木淳史
ブラヴォ:冨川祐樹
ダンシングマスター:横関雄一郎
フェンシングマスター:澤田展生
ホルン奏者:冨川直樹
裏切られた少女:萱島みゆき
少女の母親:高畑きずな
ロープに取り憑かれた男:中尾充宏

18世紀イギリスを代表する画家、ホガースの連作をヒントにしたバレエ作品。もともとは、教訓話だったという。
昨年ヨハン・コボーをゲストに迎えて好評だった作品の再演。主役ペアが一新された。前回公演では「ロープに取り憑かれた男」を熱演した後藤和雄さんが、主役の放蕩児レイクを演じた。コボーのレイクが凄かっただけに、大変だろうなと思ったけど、和雄さんの演技はまたコボーとは違った、ちょっと軽薄で少し頭が弱そうだけど憎めない人物。いかにも金持ちのボンボン然としている。彼にダンスを教えるダンシング・マスターの横関雄一郎さんは白塗りも18世紀風の衣装も似合い、軽やかな脚捌きがとてもきれいだった。裏切られた少女の萱島みゆきさんは、前回の島添さんの儚げで薄幸な感じよりは、健気な少女というイメージ。メイドのような衣装がよく似合っていて、透明感があった。
売春宿での乱痴気騒ぎでの、街の娼婦たちの大胆でセクシー、はじけた演技は、なかなか日本では観られないもの。そして賭博で相続した全財産を失ってしまったレイクの、呆然と失神する時のトホホな表情が独特のもので、凄いオリジナリティがあって良かった。
圧巻はやはり最後の精神病院で、ロープに取り憑かれた男を始め、ヴァイオリニストや教皇(だと思い込んでいる男)、航海士などが半裸でそれぞれに狂った様子を見せている。あの王子様的な中村誠さんまでもが半裸にハゲヅラで狂って見せているから凄い。まさにMadhouseそのもの。この精神病院に放り込まれた、狂ってやせ衰えたレイク、その倒れっぷりが見事。そして、それぞれ動き回る狂人たちの中で一人、片隅に座り込んで虚空を見つめている。そこへ少女がやってくる。レイクは全然少女に気がつかないけど、少女の必死の呼びかけで立ち上がる。ようやく彼女へと手を差し伸べようとした時に、レイクはばったりと事切れる。
やっぱりこの作品はとても面白い。音楽が非常に美しく物悲しいのに、放蕩息子のレイクが転落していく様子が淡々と、どこか可笑しく嗜虐的に描かれている。そのユーモラスなトーンを、後藤和雄さんは見事に表現していたと思った。

「パキータ」
島添亮子
アレッサンドロ・マカーリオ

高橋怜子
大森結城
高畑きずな
大和雅美

小林紀子バレエシアターの「パキータ」は、オレンジのシフォンが天幕としても使われている舞台装置、そしてそれに合わせた淡いオレンジのチュチュが非常に美しい。舞台装置と衣装はピーター・ファーマーによるもの。3年ほど前にも上演された時に観に行ったけど、ソリストのレベルも上がっており、相当踊りこんでいるように思えた。コール・ドもよく揃っている。ヴァリエーションは4つ。高橋怜子さんのイタリアン・フェッテ、長身で美しい大森結城さん、ダイナミックなジュッテが見事な高畑きずなさん、安定感抜群な大和雅美さんと、このバレエ団の実力者がそれぞれの魅力を発揮していた。
この中では一段と小柄な島添さん。でも、看板バレリーナだけあって、真ん中に相応しい華があった。音の捉え方が良くて、腕の動かし方がすっきりとしていてとても優美だ。コーダでのフェッテは、途中で失敗するかな、とみせてちゃんと32回きれいに回った。パートナーのアレッサンドロ・マカーリオは、甘いラテン系ハンサムで、王子役にぴったり。ゲスト出演が直前に決まったようで、なかなか合わせる時間もなかっただろうに、パートナーシップにはまったく問題がなくてサポートも上手だった。

小林紀子バレエシアターには男性の団員が二人しかいないので、どうしてもゲスト頼りになってしまうけれども、新国立劇場がダンサーを一度に3人までしか出せなくなってしまって苦労しているところがあると思う。でも、ロイヤル・バレエなどイギリス人脈をうまく使って、このバレエ団にしか出せない個性は、毎回観ていてとても好ましい。引き続き期待したい。そして、ホームページを早く作ってね。

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2008/10/08

6/28 マチネ パリ・オペラ座「椿姫」La Dame aux Camelias(まだ途中)

舞台を観てからもう3ヶ月以上経ってしまって、忘れてしまった部分も多々あるので(今まで全然書く余裕がなくて)覚えているところだけ、備忘録として書いておきます。

La Dame aux Camelias John Neumeier
Palais Garnier

Marguerite Gautier Eleonora Abbagnato
Armand Duval Benjamin Pech
son Pere, Monsiuer Duval Andrei Klemm

pianos Emmanuel Stosser, Frederic Vaysse-Knitter

Prologue
Prudence Duvernoy Muriel Zusperreguy
La Duc Laurent Novis
Nanine Beatrice Martel
Le Comte de N Simon Valastro
Un Pianiste Frederic Vaysse-Knitter

Acte 1
Manon Lescaut Laura Hecquet
Des Grieux Christophe Duquenne
Trois Soupirants de Manon Audric Bezard, Vincent Chaillet, Alexis Renaud
Olympia Mathilde Froustey
Gaston Rieux Josua Hoffalt Karl Pacqeute

パリに朝4時に到着して、先に来ていた友達と延々と朝食、買い物、昼食をした後に休まずにマチネ公演。なので、眠くなってしまったらどうしよう、しかも席も1階席のサイドのボックス2列目と舞台には近いもののあまり良くないし、と不安だった。が、この「椿姫」という作品の前では、そんなのは杞憂だった。

エレオノーラ・アッバニャートのマルグリットとバンジャマン・ペッシュのアルマンといえば、去年のルグリと仲間たち公演で「椿姫」2幕の「白のパ・ド・ドゥ」を踊った二人だけど、このときの踊りが大不評だった。エレオノーラをよっこらしょと荷物を抱えるように持っていたバンジャマンのへっぴり腰が、なんて言われていたりして。ところが、さすがに全幕なので気合の入り方が違っていたのか、それとも1年足らずの間に大進歩したのか、この二人はとても魂のこもった、素晴らしい「椿姫」を見せてくれた。

バンジャマンのアルマンは、とにかく情熱的というか、熱い男だ。プロローグで、亡くなったマルグリットの遺品が運び出されていく中、悲報を聞いて駆け込んでくるアルマン。遺されたマルグリットの青いドレスの残り香を嗅ぎ、そしてバッタリと倒れこむ。アルマンはこの舞台で何回も走るのだけど、走る時の勢いがすごくてスピードが一番速かったのが、バンジャマンだったのだ。並々ならぬ気迫が感じられる。本来バンジャマンってチョイ悪男の雰囲気があるのに、ここではそれを封じ込めようと真面目で堅物っぽいイメージを作っていて、だからこそ、まっすぐで走り出したら止まらないというイメージ。

エレオノーラのマルグリットは、ノイマイヤーの「椿姫」のマルグリットのイメージからすると若い。デュマ・フィスの原作によれば、実際にはマルグリットは高級娼婦とはいえ、20歳そこそこと若いという設定になっているのだが、どうしてもマリシア・ハイデの映像の印象が強いので、美しいけどやや年嵩の女性と思い込んでしまう。金髪に猫っぽい雰囲気のエレオノーラは、時分の花という感じで、華やかで美しく、しかし高嶺の花らしいオーラと、若いのに似合わない仄かな倦怠感を漂わせている。彼女の美しさを讃える崇拝者に囲まれていても、決して本心は見せないし、うまくはぐらかせるところに、かえってどこか憐れさも感じさせる。

そんな彼女に言い寄るのが、シモン・ヴァラストロ演じるN伯爵。ヴァラストロのN伯爵は可愛らしくて、全然マルグリットに相手にされていない、鼻も引っ掛けてもらえないのにプレゼントを手に一生懸命に言い寄っていて、とてもかわいそうなキャラクター。その哀しさを絶妙に表現しているのがヴァラストロ。途中でピエロの格好までして踊るんだけど、その衣装も似合うこと似合うこと。3幕で見るからに病み衰えたマルグリットに最後まで優しくするのが彼なのよね。優しくて、哀しいそんなN伯爵を、実にヴァラストロは好演していたと思う。まさにはまり役。

(続く)

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2008/09/23

ニュー・アドベンチャーズ「ドリアン・グレイ」Matthew Bourne's Dorian Grayその3

P1010852s

2幕。

Celebrity!
1幕と同様、ドリアンの寝室で「眠れる森の美女」のローズ・アダージオのメロディが目覚まし時計から鳴り響く。目覚まし時計を叩き消すドリアン。彼の片側には、女性が、もう片側には少年(ドリュー)が寝ており、一人ずつベッドから出て行く。ドリューはサービスカットとして、可愛いお尻まで見せてくれる。今度は、ベッドの中からバジルが、そして最後にはレディHまで這い出てくる。このベッドには、5人もの人たちが入っていたのだ!場内大爆笑。さすが、ベッドの使い方には定評のあるマシュー。

すっかりセレブとなったドリアンだが、撮影現場では終始不機嫌、ちょっと他のモデルの身体が触れただけでキレる。しまいには、怒って撮影現場から出て行ってしまう。彼をなだめようと追いかけるバジル。別の日には、テレビのトークショーに出演。ドリアンのフィギュアまで売り出されているほどの人気で、ショーン、ドリュー、ジョーそしてクリス扮する歌うコメディアンたちは、ドリアンTシャツを着用(これは、イギリスの有名な番組のパロディらしい。ショーンのお茶目な表情が最高)。その場ではなんとか機嫌を保っているものの、テレビ局を出るとまた不機嫌になるドリアンは、バジルとのいさかいが絶えない。成功したことで、ドリアンはかえって不幸になっているようだ。

Evil Twin
クラブに踊りに行くドリアン。髑髏の形のミラーボールが回転しているスタイリッシュなクラブ。激しい音楽にあわせ、ショーンが女装していたり、タトゥーをした人々が踊り狂っている。踊っている人物の一人に、ドリアンと瓜二つで、同じ服まで着ている青年がいる。ドッペルゲンガーだ。ドリアンはドッペルゲンガーの存在についに気がつく。ドッペルゲンガーはドリアンの隣に座るが、明らかに薬でハイになっている様子。立ち上がって再び踊り狂う。ドッペルゲンガー役のジャレドは、切れ味の鋭い、リズミカルでちょっとヒップホップ系の踊り。喧騒の中、バジルはドリアンに声をかけようとするが、それはドリアンではなくドッペルゲンガーだった。

Dorian and Lady H
混乱したドリアンは、レディHの部屋を訪れる。彼女に甘えようとするが、レディHは冷たく突き放す。逆上したドリアンは、今度は力づくでレディHを犯そうとするが、激しく抵抗され、平手打ちを食らう。ドリアンは彼女の手からポートフォリオのファイルを奪い取り、自分の写真を抜き取ると破り捨てる。

On The Prowl
壁面の大きな二つの鏡は割れている。その部屋に、ドッペルゲンガーが現れ、ドリアンを嘲笑うかのように「ここだよ」と出てくる。ドリアンとドッペルゲンガー、同じ姿をした二人が、シンクロして同じ動きで踊り続ける。ドリアンはドッペルゲンガーに追い掛け回される。終わりのない悪夢のように。サイレンの音が鳴り響き、あたりはカオスのような状態に。半裸の男女が舞台の上を駆け回っている。

Back Room
音楽がゆっくりとしたトランス系になったかと思うと、薄暗い照明の中、今度は一組、一組と男女が入ってくる。男と男、男と女。男と男と女。まるで乱交パーティのように、相手を取り替え、入り乱れては行為に及んでいる。しかしながら、なぜかあまりエロティックさは感じない。健康的なダンサーの肉体って半裸であってもというか半裸であるからこそ、猥雑さが感じられないのだ。やがてダンサーたちが立ち上がり、つながっているかのように一列に並ぶと、ドリアンが入ってくる。ドリアンは、彼らに高々とリフトされるが、そこからゆっくりと、十字架から下ろされる殉教者のように落ちていく。1幕でスーパーモデルとして完成され、高く掲げられたシーンと呼応するように。なすすべもなく、その様子を見守るバジル。

Dorian Shoots Basil
ドリアンの巨大な「IMMORTAL」の広告のポスター。しかし、このポスターは汚れて所々破れ、「IMMORTAL」の文字が欠けて「MORTAL(死すべき運命)」になっている。ドリアンの目からは、血が流れているかのようだ。そのポスターの前で、絶望したかのように悲しく踊るバジル。

ドリアンの部屋は、荒廃したドリアンの魂を代弁するかのように、死の匂いに満ち、グロテスクで禍々しいインテリアとなっている。麻薬を自らの腕に注射するドリアンのポートレート。髑髏の置物。フランシス・ベーコンの絵画3点。ウォーホールの、髑髏をモチーフとした作品。ニジンスキーの牧神の午後のフィギュア。バジルは、ここでドリアンにカメラを向ける。しかし、あれほどカメラを愛し、執着したドリアンが、撮影されるのを拒んで顔を背ける。それでも、バジルはドリアンに向かってシャッターを切る。カメラを持っている限り、バジルはドリアンに対して力を持つことができるのだから。カメラは、力の象徴なのだ。

ドリアンは、バジルをバスルームへと誘う。バスタブの中にいるドリアンは、バジルに、入って来いよといざなう。嬉しそうにバスタブに入っていくバジル。ドリアンはバジルの首からカメラを外すと、それでバジルを殴打する。何回も。バジルは息絶え、血に染まった両手を十字架のように広げたドリアンは、白いバスルームの扉に血痕を残す。

己の罪深さに気づいたドリアンは、両手を血に染めたまま、苦悩のソロを踊る。これは、「白鳥の湖」の4幕で、ハクチョウたちの幻想を見た王子が、混乱し怯えながら踊るソロによく似ている。レディHがやってきたので、ドリアンは彼女にまた甘えようとする。レディHはドリアンの血をぬぐってやるが、そのまま立ち去り、ドッペルゲンガーがまた出現しては消える。

シリルの亡霊が現れる。死んだシリルとドリアンは、「ロミオとジュリエット」の最後のパ・ド・ドゥのような踊りを踊る。次に、バジルの亡霊が出現して、また死者とのパ・ド・ドゥ。壁が回転すると、さらに荒れ果てたドリアンの部屋は、モデルたちのおびただしく惨たらしい死体の山となっている。扉の欄干にぶら下がる死体、ソファの上の死体。ドリアンのポートレート写真は目を潰されている。死んでいるはずの彼らが、ドリアンを睨み付け、再び死体に戻る。

Doppelgengar
ドリアンは怯え切って、正気をなくしかけている。そこへまたドッペルゲンガーが現れる。二人はベッドに並んで座る。瓜二つの二人なのに、クールな表情のドッペルゲンガーと、狂気、恐怖にすくんで弱りきったドリアン。ふたりは手を取り合って、並んでベッドの中に入る。ドリアンは、シーツをドッペルゲンガーにかぶせると、ドッペルゲンガーを殺す。とともに、ドリアンもついに斃れる。

Immortal
ドリアンの亡骸についた血をふき取り、ベッドからずり落ちかけた彼を動かして額に優しくキスをするレディH。セクレタリーのエドワードが目配せをする。大勢のパパラッチが、ドリアンの死体に容赦なくフラッシュを浴びせかける。ドリアンの死に顔がスクリーンに大写しになり、彼の姿は永遠に残ることになる。レディHは、クールな表情でサングラスをかけて、歩き去る。

アダム・アンド・ジ・アンツの「プリンス・チャーミング」が鳴り響く。

Bill Cooper撮影による写真
http://www.new-adventures.net/news.php?id=24

NAのダンサー、ミカ・スマイリー撮影のリハーサル風景
http://www.new-adventures.net/news.php?id=22

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2008/09/21

ニュー・アドベンチャーズ「ドリアン・グレイ」Matthew Bourne's Dorian Grayその2

作品の大まかな展開とあらすじなどを詳述します。ネタバレ全開なので、ネタバレしたくない方は読まないほうがいいかもしれません。

P1010851s_2

1幕
The Sleeping Beauty
チャイコフスキーの「眠れる森の美女」の序曲が流れる。それは、眠れる森の美女ならぬ美男ドリアン・グレイの目覚まし時計のメロディで、彼はベッドから起き上がって目覚ましを止めるとともに、鏡に映る自分の顔に見入る。

Basil's World
場面は転換し、そこは今をときめくファッションカメラマン、バジル・ホールワードがモデルたちを撮影しているスタジオの中。グラマラスなモデルたちがポーズを取る中、カメラを持ったバジルは、華麗な跳躍を見せながらシャッターを切っていく。スリムで長髪、無精髭のバジルは、いかにも芸術家らしいスタイリッシュでセクシーな男性。カメラを構えながら所狭しと動き回る。

White Box Media Gallery
ホワイトボックス・メディアギャラリーというスタジオでは、ファッション界の大物であるレディHが、モデルを選んでいる最中。モデルたちは身をくねらせて彼女の気を引こうとしている。美しく、絶大な権力とカリスマ性を持つレデイH。舞台の後方で、目立たぬように立っているのは、モデルではなくオーディションでウェイターとして働いているドリアン(そしてもう一人、ドリアンにそっくりのウェイターもいる)。レディHやモデルたちが去った後で、一人後片付けをするドリアン。

Basil Shoots Dorian
そのドリアンに、ふとライトを当て、シャッターを切るバジル。バジルのカメラが捉えたドリアンの姿が、白い壁に大写しになる。最初はカメラに対して構え、緊張するドリアンだけど、次第にカメラを向けられ、シャッターを切られることに快感を覚え、どんどん挑発的な表情に変貌していく。このあたりのリチャード・ウィンザーの表情の変化が素晴らしいし、それらの表情が、撮影されたショットとして、バジルの目から見たドリアンとして、後ろのスクリーンに大写しになるのがまた効果的。カメラを構えたバジルと、被写体のドリアンの間の緊張感あるデュエットは、ドリアンの後ろにバジルの表情が写りこんだショットで終わる。やがてカメラを置いてウォッカをがぶ飲みしたバジルと、ドリアンは、激しい愛を交わす。踊りながら上着を、ベルトを、そしてパンツ(下着じゃない方の)を脱いだり脱がせたり。スピーディにポジションを動かし、お互いにリフトし合い、跳躍や逆立ちまで入ったアクロバティックな動きは、エロティックさをあまり感じさせないがスリリングで、見事な息の合わせ方。踊りという面では、この舞台最大の見せ場と言える。ドリアンのボクサーパンツはD&G、バジルはエンポリオ・アルマーニ。ファッション界におけるマーケティングを、これらのボクサーパンツに象徴させている。

(このパ・ド・ドゥのほんの一部は、BBCのサイトで見ることができる
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/newsnight/7606697.stm

Dorian
バジルが去った後、一人スタジオに残されたドリアンは、バジルが残していったカメラに興味を惹かれる。ドリアンは、自らにカメラを向けてシャッターを切ってみる。しまいには、カメラに取り憑かれたようにポーズを取り、戯れる。そこへレディHが入ってきて、ナルシスティックにカメラと戯れるこの青年に興味を惹かれ、品定めする。去り際に、名刺をドリアンに渡すレディH。ドリアンは、バジルではなく、カメラに恋をしているかのようだ。

The Science of Beauty
ドリアンは、サングラスに白衣、青い手袋をはめた人々に取り囲まれる。彼らの間で様々なポーズを取り、服をとっかえひっかえする。まるで、スーパーモデル製造機の中に入れられたかのように、工業製品として創り上げられたかのように、ドリアンはモデルへと変貌させられる。最後に香水を噴きかけられ、高々とリフトされ、スーパーモデルのドリアンが完成。不敵な笑みを浮かべた上半身裸の青年とIMMORTAL(不老不死)の文字。ドリアンの姿は、香水「IMMORTAL」のポスターに刻み付けられた。巨大なポスターの前で歓喜し、飛び跳ねるバジルのソロ。

セレブレティの仲間入りをしたドリアン。パーティと思しき会場で、華やかな男女に囲まれ、ソファの上から下から、右から横から、セレブたちの手により名刺を渡される。映画「アメリカン・サイコ」の名刺合戦を思わせるような、皮肉で笑えるシーン。ドリアンの隣に座っていたバジルは、彼とドリアンの間にレディHが入り込んだことで、傷ついたような表情を見せる。

Lady H at Home
レディHの寝室。ベッドの上にちょこんと座ったドリアン。レディHは、ドレスのホックを留めることを要求し、それから、長く美しい脚でドリアンを誘惑する。壁の向こうで、その様子をパパラッチのように覗くセレブたちと、悲しげなバジル。ドリアンはレディHと関係を持つが、それはもちろん彼女の持つ権力と寝たのであって、野心に燃える視線を客席に向ける。

Romeo, Romeo
ドリアンを待ち伏せするバジル。しかしドリアンはレディHと登場し、再び傷つくバジル。ドリアンたちは、劇場へと足を運ぶ。そこでは、プロコフィエフの音楽が流れ、バレエ「ロミオとジュリエット」が上演されている。白く長いマントをたなびかせ、白タイツ姿のロミオ役を踊るバレエダンサーのシリル。クリストファー・マーニーは、純白の汚れなき王子を演じ、つま先の綺麗に伸びたアラベスクやピルエットを見せる。ドリアンは、シリルの純粋な姿に美を見出し、いつしか彼は舞台の中に入り込んでいた。シリルとドリアンのパ・ド・ドゥは、まさしくロミオとジュリエットのようであり、シリルはあるときはロミオ、そしてあるときにはジュリエットのように踊り、舞い上がる気持ちをリフトで表現する。ジュリエットが走り去るシーンのように、ヴェールをなびかせるかのように走り去るシリル。

Stage Door
舞台が終わった後も、余韻に浸って立ち上がれないバジルは、楽屋口でシリルを待ち伏せし、名刺を渡す。名刺を一瞥し、微笑を浮かべるシリル。

Dorian's Loft
ドリアンとシリルは愛を交わす。しかし、ナルシスティックなシリルは、愛の最中にもストレッチを欠かさず、自己耽溺しているので、次第にドリアンはシリルに魅力を感じなくなってしまう。ドリアンの部屋には、美しくナルシスティックな裸体のドリアンのポートレート写真がいくつも飾っていある。ドラッグパーティの最中に現れたシリルを、ドリアンは冷たくあしらう。シリルはお菓子のように食べてしまったドラッグの過剰摂取により、ドリアンの寝室で激しい痙攣を起こす。ドリアンは救急車を呼ぼうとするが、死の間際のジュリエットのようににじり寄ってくるシリルを見て、電話をかけるのをやめる。シリルは、マクミラン振付の「ロミオとジュリエット」のラストシーン、ジュリエットの死と同じように、ベッドの上に仰向けになって、悲劇的な最期を遂げる。セットの足場にぶら下がり、そんな彼らを見下ろしながら笑うのは、ドリアンに瓜二つの青年。

IMMORTALの大きなポスターが降りてきて、幕。
(1幕終わり、2幕に続く)

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2008/09/20

ニュー・アドベンチャーズ「ドリアン・グレイ」Dorian Gray その1

9月12日より14日まで、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で、マシュー・ボーン振付のニュー・アドベンチャーズ「ドリアン・グレイ」を観て来ました。完全にシングルキャストで、回数ごとの感想もほとんど同じ(席の位置などは日によってちょっと変わったけど)なので、まとめて感想を書きます。

実はサドラーズ・ウェルズに行くのは初めて。エンジェルという地下鉄ノーザンラインの駅から歩いて5分程度の、緑もあって落ち着いた街にある。伝統ある劇場だけど、今の建物はガラス張りで、明るくモダンな印象。3階席まであるのだけど、それほど大きくない劇場なので、後ろの方でも観やすそう。今回はオーケストラ・ピットをつぶして座席にしており、舞台装置が回転するためにかさ上げをしているので、前の方の席だと観づらく、その分チケット代が安くなっている。

Dorian Gray
Director and Choreographer Matthew Bourne
Set and Costume Designer Lez Brotherston
Composer Terry Davies
Lighting Designer Paule Constable

Dorian Gray Richard Winsor
Basil Hallward Aaron Sillis
Lady H Michela Meazza
Cyril Vane Chris Marney
Edward Black Ashley Bain
Doppelganger Jared Hageman
Ensemble Chloe Wilkinson Drew McOnie Ebony Molina Joe Walkling Shaun Walters

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オスカー・ワイルドの有名な小説「ドリアン・グレイの肖像」を下敷きにした作品。原作をきちんと読んだわけではないのだけど、同行した友達がちょうど原作を読み終わったところで、おおよその設定は教えてもらった。また、以前ABTでロバート・ヒルが振付けた「ドリアン」という1時間の小品を観たことがあった。

原作との違いとしては、設定が現代となっており、ドリアンは美貌を見出されてモデルになったウェイター。彼を見出したバジルは、原作では画家だけどここではファッション・カメラマン。快楽主義の権化ヘンリ・ウォットン卿は、ファッション界の大物、レディHという女性に替わっている。そしてドリアンが弄んで捨てた女優シビルは、この舞台化では、男性バレエダンサーのシリルとなっている。原作では、不老不死で美貌を保ち続けるドリアンに対し、彼の肖像画が醜くなっていく。この舞台では、ドリアンをモデルにバジルが撮影した香水の広告ポスターが破れて血を流すとともに、ドリアンの暗黒面を象徴するドッペルゲンガーが登場するという設定になっている。

マシュー・ボーンと、彼の右腕としてずっとプロダクションデザインを行ってきたレズ・ブラザーストーンのマジックは健在。白い壁の舞台の上手には、グランドピアノがあり、時には5人のミュージシャンが演奏を行う。そして舞台の中央には、回転する壁。片側は白くてスタイリッシュ、シンプルな印象。もう片側は、錆びたような色の、工場のような壁である。場面転換のときに、この壁が回転して、時には撮影スタジオ、時にはレディHの寝室、時にはクラブ、オフィス、劇場と変身する。非常に巧みである一方、場面転換があまりにも多いので、めまぐるしく忙しすぎる印象があるかもしれない。衣装も、モノトーンを基調としており、ドリアンは白、バジルやレディHは黒でグラマラスな印象。特に、ミケーラ・メアッツァは、長身、細いウェストに長く美しい脚、ショートヘアに似合う大人のミニマムなドレスをまとい、洗練された美しさを強調していた。男性ダンサーの多くは、白いブリーフ一丁というシーンも多かったけど。

ところで、一見スタイリッシュを装っていながら、実のところマシュー・ボーンは悪趣味すれすれの、キッチュなカリカチュアや黒く皮肉な笑いが得意である。冒頭に登場するモデルたちの撮影風景やセックス&ドラッグの風景、クラブでのダンスシーンやセレブレティのライフスタイル、テレビ番組などの風刺的で意地の悪い描写に、そのへんがよく出ている。非常に空虚で、しかも打ち込み系ロックの音楽とあいまって、かえってダサい印象すらある。自らの若さや美への執着ではなく、貪欲なファッション業界と消費社会の犠牲になってドリアンが破滅していったという印象を与えられる。

マシューの過去の作品、特に「白鳥の湖」からの引用も随所に見られる。若くはないけども、色香はたっぷり、強くしたたかなレディHは、「白鳥の湖」の女王のよう。その右腕であるエドワードは執事。劇場で「ロミオとジュリエット」を観るシーンは、ロイヤル・ボックスのシーンに似ているし、白衣に手袋の人物たちが、ドリアンをスーパーモデルへと変身させるところは、「白鳥」の4幕のロボトミーシーンを思わせる。

音楽は、録音と生演奏の併用。上記のように、基本的にはオリジナルスコアで、打ち込み系のジャズロックが基調で、ところどころテルミンを使っているのが面白い。生演奏の方は、ピアノ、ベース、パーカッション、ギター、ドラムで5人編成。舞台の裏で演奏していることもあれば、観客から見えるところで演奏していることも。1幕と2幕の冒頭で「眠れる森の美女」のオーバーチュアとローズ・アダージオ、観劇シーンではプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」の1幕の曲を使用している。そしてカーテンコールの終わりには、アダム・アンドの「プリンス・チャーミング」が使われているのだけど、この曲こそが作品の世界観に最もマッチしているんじゃないかと思った。

舞踊言語については、クラシック・バレエ的なところは少なくて、「ロミオとジュリエット」の劇中劇シーンで、ロミオを演じるシリルが白タイツ王子として踊っているところくらいか。登場人物が全部で11人と少なく、群舞というのも少なくて、よりミュージカル的なところとコンテンポラリーダンス的なダンスといえるため、クラシックバレエ好きの人にはもしかしたら楽しめないかもしれない。ダンサーたちも、男同士のパ・ド・ドゥが多いこともあって身体能力は皆優れているけど、クラシック・バレエのトレーニングを受けている人は約半数といったところだろうか。

休憩1回を入れて2時間程度と速い展開で進み、上演中はとても面白く観られる作品。と同時に、批評家ウケが必ずしもよくなかったというのも理解できる作品ではある。まず、登場人物の間に流れるエモーションの描写が希薄だ。感情を露わにするのは、ドリアンに惚れこんだバジルだけである。ドリアンがかくのごとく破滅するほどの悪徳の持ち主なのか、と訊かれるとそうは思えない。欲望に溺れ、美と若さに執着するのは、現代人の多くが持っている要素なのだから。これはひとつの現代の神話なのだ。空虚な作品であるという批判もあったが、それは、現代が空虚な時代であるということを反映しているのであって、「ドリアン・グレイの肖像」という作品の現代版を作るうえでは避けて通れないものだろう。また、独特のチープさ、キッチュさこそ、マシュー・ボーンの持ち味でもあるのだ。

Times紙のインタビューで、マシュー・ボーンはドリアンの死を、故ヒース・レジャーの悲劇的な最期に重ねていた。オーストラリアから出てきた素朴な青年がハリウッドスターになり、栄光をつかむものの、スターダムの魔力に取り付かれて孤独になり、若くして命を落とすという悲劇。

このドリアンには、悪徳は感じられず、野心に隠された傷つきやすい魂があるだけだった。そして、それゆえに彼は破滅していく。まさに、現代のコマーシャリスム、若さと美への執着がもたらした悲劇と言える。

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2008/09/18

9/16 東京バレエ団「ジゼル」

東京バレエ団「ジゼル」
(全2幕)
2008年9月16日(火) 19時開演  会場/ゆうぽうとホール

ロンドンから帰国して空港から職場へと直行、それからゆうぽうとまで行ったのでちょっと大変だったけど、なんとか寝ないで見ることができた。

1幕

小出領子さんは、小柄で可愛らしい容姿から、きっとジゼルが合っているだろうなと思っていたけど、期待通りやはり適役だったと思う。ジゼル・デビューが遅すぎたくらい。まさに純情可憐な村娘という風情で、純粋に一途にアルブレヒトのことを恋しているのがわかる。冒頭の踊りの方は、ちょっと硬さが見られて、小出さんだったらもっと軽やかに踊れるのに、と思う部分もなかったわけではない。しかし、腕の使い方の柔らかさは周囲から際立って美しいし、足音もさせないで、楚々として控えめな愛らしさを保っている。

一方、ルグリのアルブレヒト。最初に登場した時から立ち居振る舞いが優雅で、腕の動きが雄弁、エレガントで美しいこと。村人の扮装をしていても出自は隠せない。ウィルフリードに対する態度もやや尊大。が、そんな彼も、可愛いジゼルを前にすると一人の恋する男のようで、盛大に音を立てながら投げキッスを送り、そして優しくジゼルを抱きしめる。椅子取りゲームの時にも、大げさなほど熱く駆け寄ってロマンティックさを見せる。ちょっと遊び慣れている貴族然としたルグリと、いかにもおぼこな村娘の小出さんの組み合わせからして、この二人の恋は実らないのだろうな、という悲劇の予感がする。踊りましょう、と言われても心臓が悪いから踊れないの、と悲しそうに表情を曇らせるジゼル。小出さんの演技は、非常に自然で、わざとらしさが微塵もない。
一方、ルグリはロマンティックでエレガントなのだけど、高慢な部分を隠すことはしていなくて、ジゼルの母ベルタに向ける視線には、明らかに見下した態度が見受けられる。

友達の指摘で気がついたのだけど、東京バレエ団の「ジゼル」のセットは非常に手が込んでいて、良くできている。ジゼルの家の煙突からは、煙が出ているほどだ。遠景には、白い美しい城。

東京バレエ団の「ジゼル」には絶対に欠かせないのが、木村さんのヒラリオン。今回は後藤晴雄さんもヒラリオン役だったはずなのだけど残念ながら見られなくて。木村さんはある意味、世界最強のヒラリオンだと思う。ジゼルのことを一途に愛していて、彼女のことを少しでも傷つけそうな男は許せない。まっすぐで熱い、男らしい男。実は木村さんって、ルグリよりも背が高いし、脚もラインが美しい。ルグリと並んでも見劣りしないし、脚捌きもきれいだし。

パ・ド・ユイットはこの日はセカンド・キャストということもあって、残念ながら見劣りした。大嶋さん、古川さん、長谷川さんが抜けた穴は大きいことを改めて思い知らされる。このメンバーの中では、西村さんが圧倒的にラインが美しくて落ち着いた中にも華があって素敵。一番小柄な小笠原さんも、小さい分大きく跳んでいるし、クラシックのテクニックもしっかりしているので、着地に一回失敗したのが残念だけど光るものがあるなって思った。

ジゼルの狂乱のシーンは、ジゼルとアルブレヒトの間にものすごい勢いでヒラリオンが割って入るところから始まる。木村さん、熱い!恭しく、井脇さんが演じる美しいバチルド姫の手にキスしてつくリ笑いを浮かべるアルブレヒト。いや~狩に出かけていたんだよ、ってマイムが、いかにも誤魔化している様子。バチルドの目線がとても怖い。小出さんのジゼルは、最初は何が起こったのかわからなくて呆然としている。そして、どうやら彼に裏切られていたことに気づき、あまりの悲しみに、静かに、ゆっくりと壊れていく。花占いをしながら、少しずつ、正気を失っていく。ジゼルが狂っていくプロセスは本当にゆっくりとしているし、大げさな表現はまったくない、それだけに、いまだ少女にしか見えないジゼルが哀れに見えてしまって、涙を誘う。やがて髪を振り乱して笑い出すけれども、静から動への移行がとても自然で、いつのまにか壊れてしまっており、愛するアルブレヒトの姿ももう見えなくなっている。そしてウィリたちの招きに反応するジゼル。小出さん、もう完全にジゼルそのものを生きている。

アルブレヒトは釘付けになったかのように、その場を動けなくなっておろおろするばかり。自分を激しく責めたてて、背中を大きく反らせて泣き崩れるヒラリオン。そしてようやくアルブレヒトがジゼルに駆け寄った時、ジゼルは命を落とす。ジゼルの亡骸をきつく抱きしめるものの、ベルタに「あっちに行って」と突き飛ばされて、走り去るアルブレヒト。カーテンが再び開いても、仰け反ったままの木村さんが素敵。

2幕

東京バレエ団の「ジゼル」では、ジゼルのお墓がとても立派なつくりになっている。ヒラリオンが一生懸命建ててあげたのかな。そして人魂!怯えて走り去るヒラリオン。高木さんのミルタは、最初のアラベスク・パンシェはすごく脚が高く上がっていて、非常にきれいなのだけど、その後は足音が大きめで、動きも滑らかさが足りない。動きが滑らかにならない理由のひとつには、今回のオーケストラの演奏がすごく長く音をとっていて、踊りにくかったのではないかと思う。演奏自体もあまりほめられたものではなく、ダンサーにとっては少々気の毒だった。井脇さんのミルタが素晴らしいわけだけど、次の世代も育って欲しいものね。高木さんのミルタは、上半身の動きはきれいなのだけど怖さが足りない。ドゥ・ウィリの二人は長身でプロポーションが良いのだけど、まだまだという感じ。小出さんは今までずーっとドゥ・ウィリを踊っていたんだよね。ウィリたちのコール・ドはよく揃っているんだけど、1,2,3って感じに合わせているのがわかっちゃっていて、群舞で左右が交差するところも、ずしんずしんと行進しているかのようで、霊というよりはキョンシー軍団のように思えてしまう。その分、怖さは感じられるのだが。

ウィリとなった小出さんのジゼルは、アルブレヒトへの想いを残したまま世を去ったのがよくわかる。ひんやりとはしていなくて、体温が温かい、人間味のあるウィリ。髪型のせいもあって丸顔が強調されており、ウィリになっても可愛らしい。だけど、決して子供っぽくはないというか、大人の悲しみを知った女を感じさせた。出だしは若干回転でぐらついていたようで少し不安定。

百合の花束を抱えたルグリのアルブレヒトが、深い後悔に沈んで歩み入る。もう村人に偽装しなくていいので、貴族オーラが全開となっており、黒いマントから覗く紫色のタイツに包まれた脚もエレガント。美しい立ち姿。心から、ジゼルを傷つけ死なせてしまったことを悔やんでいて、貴族としての気品を保ちながらも、悲しみの底で魂がさまよっているのが見える。そこへジゼルがやってくる。彼女の姿は見えないけれども、気配で確実に彼女を感じている。ふわりと、体重をまったく感じさせないで浮いているかのようにジゼルを高くリフトする。そしてデュエット。小出さんは音楽性に優れているので、ある程度体温や体重は感じさせながらも、柔らかく、粘りを感じさせながら舞う。二人とも足音はまったくさせないのが見事。ミルタやドゥ・ウィリの足音は大きかったのに。

ウィリたちに囲まれて、ヒラリオンが追い詰められる。ここでの木村さんの熱演振りは、毎度のことながら凄い。踊り狂わされながらも、あくまでも脚捌きは美しく、高いジュッテと伸びたつま先、きれいに5番に入るアンレール。ミルタに幾たびと命乞いをするものの、冷たく突き放される。明らかにウィリたちは彼をいたぶることに喜びを感じているのだけど、無表情なのが怖い。そしてついには、ポイっとウィリたちに湖の中に捨てられる。やっぱり木村さんは世界一のヒラリオンだ。

ガラでよく踊られるジゼルのソロ。小出さん、前半のスーブルソーは良かったのだけど、後半のアントルシャしながらホッピングするところは、ちょっと不調だったかもしれない。でもジゼルはテクニックよりも雰囲気が重要な役だから、その点においては満足できた。心血をこめて、ジゼルを演じ踊っているのがよくわかる。それも、あくまでもナチュラルに、ジゼルそのものになりきって。

ミルタたちの次なる獲物として、アルブレヒトが踊らされる。ジュッテ、アントルラッセ、トゥールザンレール、ランベルセ。とても40歳をとっくに過ぎたダンサーのものとは思えない、びっくりするほど高くて美しい跳躍。トゥールザンレールから倒れこんだ時には、嵐のような大喝采が起きて、倒れたルグリはその喝采に応えて再び倒れる。そして大きなジュッテで上手から下手へと駆け抜ける。

次にアルブレヒトは対角線上、ミルタの魔力で引き寄せられるようにブリゼを繰り返す。世界バレエフェスティバルでコジョカルとルグリが共演した時の、ルグリの素晴らしく美しいつま先が印象的だったブリゼのシーン。そこで、この日、ルグリが途中でブリゼをするのをやめてミルタのところまで歩いていって懇願をしたのだ。自分の命乞いというよりは、ジゼルをこれ以上苦しめるのはやめて欲しいという様子。2回目のブリゼはなしで途中からは、アントルシャ・シスの繰り返し。それも、全部右脚が軸になっていた。ジゼルと対になって左、右へとジュッテアラベスクするところも、片方だけしか跳ばなくて。怪我でなければ良いのだけど…。とはいっても、どこかで止まるとか痛そうにすることはなく、そのまま踊り続けてはいたけど。

最後に踊り疲れていよいよもうダメ、とアルブレヒトが昏倒したところで、朝を告げる鐘が鳴る。アルブレヒトが救われたことを知ったジゼルの安堵に満ちた表情には、母のような慈愛が感じられた。そして、一生分の愛を込めてのアルブレヒトの抱擁。手を離し、墓の向こうへと消えていくジゼル。正面を見据えたアルブレヒトは、ジゼルと今度こそ永遠の別れをしてしまったという悲しみと同時に、新しい生を得たという希望を感じさせてくれた。残念だったのが、幕が下りるのがあまりにも早かったこと。もう少し、ルグリの最後の表情を見て余韻に浸りたかった。

もしかしたら脚を怪我したかもしれないのに、幾たびものカーテンコールに笑顔で応え、小出さんの手にキスをしたルグリ、素敵だった。そして小出さんのジゼルも素晴らしかったと思う。初役であった現時点でもこれだけ優れた表現をできるのだから、これからどんな風に成長していくのか、楽しみ。またルグリさんと「ジゼル」で共演する機会があればよいのだけど。


ジゼル:   小出領子
アルブレヒト:   マニュエル・ルグリ
ヒラリオン:   木村和夫

―第1幕―
バチルド姫:   井脇幸江
公爵:   後藤晴雄
ウィルフリード:   野辺誠治
ジゼルの母:   橘静子
ベザントの踊り(パ・ド・ユイット):   西村真由美 - 横内国弘、乾友子 - 宮本祐宜、阪井麻美 - 梅澤紘貴、河合眞里 - 小笠原亮
ジゼルの友人(パ・ド・シス):   高木綾、奈良春夏、田中結子、吉川留衣、矢島まい、渡辺理恵


―第2幕―
ミルタ:   高木綾
ドゥ・ウィリ: 奈良春夏、田中結子

指揮:   アレクサンドル・ソトニコフ
演奏:  東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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2008/09/07

9/1新潟県中越沖地震チャリティー バレエガラコンサート (後半)まだ途中

<第二部>
アダージオ:アンドレイ・メルクリエフ
振付:アレックス・ミロシュンチェンコ 、音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ

桶川の時と衣装が替わっていて、今回は白っぽい、薄い水色の透ける衣装。アンドレイは、古典よりもコンテンポラリー作品での表現に定評があるダンサーであることも頷ける。伸びやかで滑らか、時にシャープな動きが美しく、音符を奏でているかのように楽器となっていた。金髪をサラサラに下ろしている姿も麗しい。

マタハリ(日本初演):ユリヤ・マハリナ、イリヤ・クズネツォフ

第一次世界大戦時にパリで活躍した伝説的な女スパイ、マタ=ハリを主役に、彼女に魅せられた二人の将校との三角関係を描いた作品なのだそうで、マハリナ&イリヤ主演でサンクトペテルブルグで初演されたのも昨年12月というから、まだ新しい作品。YouTubeにマハリナの特集番組がアップされていて、その一部を見ることができる。全幕作品の抜粋なので、一部を見ても全体像はわからないけど、ここでもイリヤは翻弄される切ない男を熱演。そして女スパイらしいきりりとした部分と、匂い立つような色香を目線の使い方や指先で表現していたマハリナ。このふたりは「シェヘラザード」とはまたちょっと違った独特の秘密めいた世界を創り上げていたと思う。タンゴ風の音楽も、ドラマティックで大人の味わいを加えていた。

海賊より奴隷の踊り:寺島まゆみ、芳賀望

すっかり踊りこんで、この作品をモノにしたふたり。最初にThe Proud and Hopes of Japan Galaで観た時よりも、まゆみさんの「いやいや」度が減って、笑顔が増えた気がするけど、ガラだものね。まゆみさん、とってもチャーミングなギュリナーラだった。ヴェールを芳賀さんが外す時にちょっと引っかかってしまったような気はしたけど、あとはスムーズ。華奢な身体で、思い切りよく高くジュッテするまゆみさん、奴隷商人の演技がどんどん濃くなっていく芳賀さん。観ていて楽しいパ・ド・ドゥだった。

il Pleut:松崎えり、大嶋正樹

天から降ってくる雨を感じている松崎さんの表情が素敵。想い合っても、動きはシンクロしていても、すれ違うばかりの男女の切ない心象風景が伝わってくる、とても心がひりひりするような切実感のある作品だと思う。そして大嶋さんのしなやかで美しい動き。コンテンポラリー中心の活動をしているとはいっても、しっかりとした古典のテクニックを持つ松崎さんの表現力。女性らしい繊細さと大胆さを持ち合わせた、いい作品だと思う。

カルメン:アンナ・パシコワ、イリヤ・クズネツォフ

イリヤの翻弄される男シリーズ第三弾。今回のお相手は、また美しいアンナ・パシコワ。炎のような激しい女で、とっても強気なのが魅力的。カルメンが気が強いだけに、振り回されるイリヤの切ないこと…。どうしようもなくカルメンに参ってしまって離れようにも離れられない男の苦悩を見せてくれた。悩める男は色っぽいなあ。

ロミオとジュリエット:オクサナ・クチェルク、イーゴリ・イェブラ

今のこの瞬間だけを信じて生きる、恋人たちのみずみずしい幸福感。美しくピュアな二人に、純白の衣装が似合うこと!疾走感、胸の高鳴り、まっすぐな想い、それが直球で伝わってきた。いつまでも、この幸福の絶頂にあるふたりを見つめていたいという思いにかられる。

瀕死の白鳥:ユリヤ・マハリナ

マハリナの瀕死の白鳥は、観るたびにより胸に突き刺さるような表現に高められていく気がする。死んでいくということはどういうことなのか、という問いを突きつけられた気持ちになる。生命を失いつつあるという事実は明白であり、もはや抵抗するだけの力もない。だけども、あと少しだけ、命の輝きを放ち続けたい。そう願った白鳥が、懸命に命を燃やし続けて一瞬だけ輝き、ついに燃え尽きる姿を見せた。極限まで純化されたロパートキナの表現とは対極にあるけど、強く胸に刻まれる白鳥。

ドン・キホーテ(組曲):ガリーナ・ステパネンコ、アントン・コルサコフ、アンドレイ・メルクリエフ、エレーナ・コレスニチェンコ、アンナ・パシコワ、&ゲジミナス・タランダ、長澤美絵、小川恵瑚他

とっても楽しかったガラも、これが最後の演目かと思うと、ちょっと寂しい。でも、その寂しい気持ちを吹き飛ばしてくれるような、胸のすくような楽しい「ドン・キホーテ」組曲だった。

今回も、赤いバンダナを海賊巻きにした大嶋さんと、バジル風の衣装着用だけど、どう見ても小僧風のミーシャがまず登場。「海賊」は怪我で出られなかった彼だけど、肩の故障ということなので脚は大丈夫そう。また例によって得意のピルエットを披露している。イリヤは今日は一人で登場。今までは翻弄される男シリーズx3のセクシーなイリヤが、ここでは気のいいあんちゃん風で、とても同じ人には見えない。長澤さんに、やっと名前が判った小川さんの可愛い二人のヴァリエーション担当。そしてロミオとジュリエットの衣装のままのイェブラが、軽々とクチュルクをリフトしながら入ってくる。

この「ドン・キホーテ」の見所のひとつである、アンナ・パシコワとエレーナ・コレスニチェンコのロシア美女二人の対決。何回観ても迫力があってカッコいい。二人ともやる気満々で、思わず大きな掛け声まで登場。髪に挿した真紅の薔薇のような、激しく美しく、触ると火傷するか血を流してしまいそうな彼女たちに出会えたのも良かった。テーブルの上に飛び乗って激しく上半身を反らし足を踏み鳴らす姿も、ラテンの女~で色っぽい!

とびっきりの美女二人が取り合うのに相応しい、水も滴る美男の闘牛士、アンドレイが背中を反らせて登場。エスパーダというのは昔から長身の美男が踊るものと決まっていて、古くはパトリック・ビッセル、最近ではデヴィッド・ホールバーグによるエスパーダが素敵だったわけだけど、アンドレイ以上にキラキラと麗しくもイカしたエスパーダを見つけるのは難しいだろう。綺麗につま先の伸びた高くカブリオールからアッサンブレ、そして4番でポーズ、の一連の動きの決まっていること。鼻血モノ。

黄色いチュチュのステパネンコ姐さんとアントンが登場。アントンって、ホント笑わない子なのよね。おまけにプクプクした頬なので、ちょっとふくれっ面気味に見えていたりして。でも、彼が笑わないのは仕様らしい。この機会に、去年のボリショイ・マリインスキー合同ガラでアントンがテリョーシキナと「グラン・パ・クラシック」を踊った録画を見直してみたけど、あでやかに微笑むテリョーシキナの横で、レベランスやカーテンコールの時にも一度も笑わないアントンだったのだ。でも、今日がラストということもあって、桶川よりは気合が入っているのはわかった。奈良ではボサボサだった髪がきちんと撫で付けてあったし。

しかし、またまたステパネンコ姐さんの強烈ダイブは、腕まくりをして胸をはだけたロミオ衣装のイェブラがピルエットした後でキャッチ。それも、桶川の時よりもさらに地面スレスレ、姐さんの指先が地面につきそうなぎりぎりのタイミング。イェブラも先ほどのロマンティックでピュアなロミオから、すっかりスペイン人の陽気なお兄さんに変身している。

(続く)


フィナーレ:「ガウチョ」ゲディミナス・タランダ&イリヤ・クズネツォフ

(これはいま少しお待ちください)


<第三部>
Toshi Special Live
アンドレイ・メルクリエフ、高橋晃子、アンナ・パシコワ

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2008/09/03

9/1新潟県中越沖地震チャリティー バレエガラコンサート (前半)

<第一部>
眠れる森の美女:寺島ひろみ、アンドレイ・メルクリエフ
薔薇の精:さいとう 美帆アントン・コルサコフ
NE ME quittes pas~行かないで:アンナ・パシコワ 
白鳥の湖 2幕:ダリヤ・スホルコワ、シリル・ピエール
ジプシー:高橋晃子
ライモンダ:ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクリエフ
くるみ割り人形 金平糖の精のヴァリエーション:アリヤ・タニクパエワ
シェヘラザード:ユリヤ・マハリナ、イリヤ・クズネツォフ

<第二部>
アダージオ:アンドレイ・メルクリエフ
マタハリ(日本初演):ユリヤ・マハリナ、イリヤ・クズネツォフ
海賊より:寺島まゆみ、芳賀望
il Pleut:松崎えり、大嶋正樹
カルメン:アンナ・パシコワ、イリヤ・クズネツォフ
ロミオとジュリエット:オクサナ・クチェルク、イーゴリ・イェブラ
瀕死の白鳥:ユリヤ・マハリナ
ドン・キホーテ(組曲):ガリーナ・ステパネンコ、アントン・コルサコフ、
アンドレイ・メルクリエフ、エレーナ・コレスニチェンコ、アンナ・パシコワ、
&ゲジミナス・タランダ、長澤美絵、小川恵瑚他、全員出演予定

<第三部>
Toshi Special Live
アンドレイ・メルクリエフ、高橋晃子、アンナ・パシコワ

新潟県中越沖地震チャリティー バレエガラコンサートも最終日。1週間ほどお祭り状態だったけどやっと終わったという感じ。

当初発表されていた予定より、4演目も減ってしまったのは本当に残念。それも、好評だった「アゴン」「Portrait in Red~赤の肖像」「白鳥XXI」そして「ソナチネ」が観られなかったのだから(イェブラ&クチュルク、ピエール&スホルコワという今回予想をはるかに上回る出来だった二組だったし)。

Toshiのライブも、メルクリエフらが即興で踊って見せた1曲目はいいとしても、2曲、3曲目と聴くのは正直なところ苦痛だった。アンプを通した音が割れ気味で大きすぎたのと、曲の調子が同じようなものだから…。個人的な好みでいえば、私は日本語で歌われる歌は好きじゃないのだ。奈良公演では聴かないで出て行っちゃったけど、正解だったかな。ドン・キホーテ組曲の余韻と興奮が残っているうちに。1曲目が終わったところで出るべきだったかも。ただ、Toshiという人自身は、逆境の中で頑張って復活していて立派だと思うし、声そのものは魅力的だと思うんだけど。

バレエの演目を削るくらいなら、Toshiの曲の数をせめて減らせばよかったかなと思ってしまった。奈良や桶川は、休日公演だったので、早い時間からスタートしたけど、最終日である東京の公演が平日だったこともあり、長時間の公演ができなかったのだろう。

それはさておき、第一部と第二部は、めちゃめちゃ充実していて楽しい公演だった。最終日ということで、ダンサーたちも持てるすべてを出し切ってくれた。もう2回も感想を書いているので、個別の感想は書かないけど、また印象を書き加えていきたいと思う。

ブログに書いてあったので、やっと「ドン・キホーテ組曲」の第二ヴァリエーションを誰が踊っているかが判った。NBAバレエ団の小川恵瑚さん。今回主催のひとつである新潟の高野廣子バレエスタジオの出身者のようだ。

それから、ゲネプロでは元気に「海賊」のアリを踊っていたミハイル・マルテニュクが、肩を痛めたということで「海賊」が中止になってしまったのがすごく残念。「ドン・キホーテ組曲」ではイリヤと悪ガキコンビを組み、アダージオで見事なトゥールザンレールを見せてくれた。肩の負傷なので、脚は大丈夫だったみたい。せっかくのテクニックを東京の観客に披露するチャンスだったから、彼もとても残念がっていると思う。


眠れる森の美女:寺島ひろみ、アンドレイ・メルクリエフ

この演目はゲネプロも観たけど、タランダからのダメだしもほとんど入っていなかった。コーダでのひろみさんのピルエットがすごくゆっくりだったけど、キラキラ感はすごかった。メルクリエフはまさにプリンス・チャーミング!ヴァリエーションの出来も、桶川のときより良くて美しかった。二人とも指先がとてもきれい。

薔薇の精:さいとう美帆 アントン・コルサコフ

アントン、今日もちょっときつそうなところがあったんだけど、桶川よりは調子が良かったのではないかな。ちなみに、背中のテーピングは怪我ではないそう。奈良から1週間で、浮き輪もちょっと大きくなっちゃった気がするけど、相変わらず腕の動きはとても柔らかくてきれいだし、ふわっと跳んでいるし、ある種の才能のきらめきを感じさせるのだ。紅顔の美少年風で赤い衣装や髪の薔薇の花が似合うし。でもNYで観た時の方が細かった。しかし、アントン、ホントに不思議な色気があって、どこか惹かれてしまうんだな。
さいとうさんの少女は、すごく愛らしいんだけど、目を開いて笑っていることが多くて、眠っていないな~と思ってしまった。

NE ME quittes pas~行かないで アンナ・パシコワ

美しいアンナさんによるソロ。長身なのに凹凸はしっかりあるプロポーションも、柔軟性や身体能力も実に見事。青いロングドレスを翻して、カッコよく踊ってくれた姿に見とれていたら終わってしまった。

白鳥の湖 2幕:ダリヤ・スホルコワ、シリル・ピエール

派手さはないけど、愛がある二人。友達が、ダリヤは顔がちょっとギエムに似ているのでは、と言っていたけどたしかにちょっと似ているかもしれない。ピエールのサポートが毎度ながらとても丁寧。ダリヤを一番美しく見せるポジションへと導いているのが判る。ちょっとだけ先生モードが入っていたと思う。

ジプシー:高橋晃子

桶川でルースカヤを踊る予定だったのが、ゲネプロで怪我をしてしまい降板。今回は、ポアントを履かない踊りということで、「ドン・キホーテ」の2幕ジプシーの若い女の踊りを踊ってくれた。ガラで踊られるのは珍しいパート。東京バレエ団が踊っているのと同じ振付だと思う。高橋さんはキャラクターが得意ということで、非常に情熱的で火傷しそうな踊りを見せた。この役にしてはちょっと笑顔を見せすぎかな、と思ったけど2日前に怪我をしても舞台に立てたのが嬉しかったのかな。

ライモンダ:ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクリエフ

奈良ではちょっと危なっかしかったアンドレイのリフトもすっかり安定していたし、マント捌きも、気にならなくなっていた。絵から抜け出たような美しい騎士だな~としみじみ思う。マントをなびかせて駆け抜ける姿の麗しいことといったら。ステパネンコ姐さんも貫禄はあるものの、高貴な輝きを放つ姫そのもの。アダージオだけなのが惜しいけど、アダージオだけでこの世界を作り上げることができるのが、さすが。

「くるみ割り人形」 より金平糖の精の踊り:アリヤ・タニクパエワ

ミーシャとの「海賊」の予定が、くるみ割り人形の金平糖の曲が流れてきて、白いチュチュ姿のアリヤが現れた。ミーシャ、ゲネプロでは元気だったのに怪我か(涙)。アリヤの金平糖の精、桶川ではオレンジピンクの、「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」で着るようなドレスだったのを、奈良のときと同じチュチュに戻していた。ヴァリエーションだけでちょっと気の毒だったけど、テクニックは見事だし、キラキラ感もあって素敵だった。東洋的な容姿も可愛らしい。

シェヘラザード ユリヤ・マハリナ&イリヤ・クズネツォフ

奈良も桶川もイリヤは違うパートナーで踊っていたけど、ついに真打マハリナ登場。ゲネプロでこの二人の踊りは少し観ていたのだけど、衣装もつけていないのにぞくぞくするほどの色っぽさだった。マハリナのゾベイダは完璧なハマリ役。あでやかで、誘惑的なのだけど可愛らしさもあって、女神様のよう。

そんなマハリナに、イリヤの奴隷は身も心も捧げている様子。エレーナ・コレスニチェンコと踊った時には挑発的で獰猛さも見せていたイリヤが、ここでは子犬のように従順な奴隷で、まっすぐで火傷しそうなほどの熱い愛をゾベイダに捧げて、せつない子犬のまなざしを向けていた。絶対に報われることのない愛を。本気で彼女を愛しぬいているんだわ~。今回、イリヤは「マタハリ」「カルメン」と悪い女に翻弄される役どころばかりなのだけど、一つ一つの演技が違うところが本当に凄い。踊りの方は絶好調とは言えなかったし、音楽も編集されていて桶川の時より短かったけど、その分、役者振りを発揮してたまらなく魅力的だった。この二人が全幕を踊る「シェヘラザード」が観たい!もちろん、シャリアール王はタランダで。

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2008/08/31

8/30 新潟県中越沖地震チャリティーバレエガラコンサート 桶川公演

初めて行く桶川、とにかく遠かった!行きは比較的電車の乗継が良くて、1時間半でいけたのだけど、帰りは2時間かかってしまった。しかも帰りは例によって凄い雨。

公開ゲネプロが12時と芳賀バレエアカデミーから連絡があったので、11時半くらいに到着したら遅れて1時からになったとのこと。バーレッスンとセンターを少々見ることができた。さすがにみんな動きがきれい。3階席からの見学で、オペラグラスを忘れてきてしまったので細かいところまでチェックできなかったけど、一番真面目に取り組んでいたのはシリル・ピエールだった。センターでもピルエットは毎回7,8回は回っているし、トゥールザンレールの着地も美しい。イリヤ・クズネツォフも身体が大きいのに柔らかいし、つま先がめっちゃきれい。寺島ひろみさんや長澤美絵さんも美しいので目を引いた。柔軟性が凄かったのはエレーナ・コレスニチェンコ。あと、この人の動きはなんてきれいなんだろう、と思ったらそれは、ユリア・マハリナだった。参加していなかったのは、メルクリエフ、大嶋さん&松崎さん、イェブラ。イェブラは客席で弁当を食べていた(笑)

芳賀バレエアカデミーでキャスト表を作って配布してくれたのは良かったのだけど、けっこう間違いが多くて。薔薇の精でイリヤ・クズネツォフって書いてあったのにはちょっとひっくり返りそうになってしまった。それと、ゲネプロ中に高橋晃子さんが怪我をしてしまって、今日は降板。桶川市民ホールは新しくてきれい、とても見やすかったのだけど、床がとても硬そうだ。

物販で売っていたDVDは、インペリアル・ロシア・バレエ団の「白鳥の湖」と「ドン・キホーテ」。両方とも、主演がアリヤ・タニクパエワ。「ドン・キホーテ」はキリル・ラデフがバジルだった。PALフォーマット。「ドン・キホーテ」を買って観たのだけど、アリヤのキトリはとても良い!

ところで、奈良から帰ってきてから、右腕がずっとひどくしびれていて、パソコンで字を打つのがとてもキツイ。腕がちゃんと動いてくれない。通っているバレエ教室の発表会が昨日あって(観に行ったけど、出演はしていない)、8月の平日の大人クラスがお休みになってしまったことで、1ヶ月ほどバレエをお休みしていた。運動不足というのもあるかもしれない。というわけで、いつも以上に遅筆です。

第一部

海賊(2幕)アリヤ・タニクパエワ、ミハイル・マルティニュク

アリヤのメドーラは、フューシャ・ピンクのハーレム・パンツ型。気品と愛らしさを備えた、素敵なメドーラだった。ちょっと安藤美姫似?後ろからアリにサポートされてポーズしている姿がきれい。ヴァリエーションは、フィリピエワのときと違っていて、ABTの「海賊」で使っていたのと同じもの。フェッテはゆっくりだけどとても丁寧。
ミーシャのアリ、普通に上手いんだけど、YouTubeでの映像の彼の方が良かったかな。ちょっとお疲れ気味だったかもしれない。彼は、ポーズのきめ方はすごくカッコいいというかツボを押さえている。

ライモンダ ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクリエフ

またまた長いマントで登場のメルクリエフ。奈良の時から髪を少し切ったみたいで、麗しさアップ。しかしマントがとても長いので、引っかかるんじゃないかと時々ひやっとしちゃった。全幕の場合にはすぐに外しちゃうみたいなんだけど、ずっとつけたまま踊るのはちょっと大変そう。それでも、そのマントをはためかせて走る姿は美しい~。今回、彼は相当日本でファンを増やしたんじゃないかと思う。ステパネンコのライモンダも、姫らしい気品がたっぷりで、場を支配する力がすごい。そのステパネンコに負けない存在感があるから、メルクリエフも貫禄が出てきたってことかしら。

薔薇の精=さいとう 美帆、アントン・コルサコフ

さいとうさんはとても丁寧に可愛らしく踊っていたけど、最初の登場のところでちょっと躓いたのが惜しい。アントンは、奈良で見たときより丸くなっていて、調子もちょっと悪そう。いっぱいいっぱいな感じだった。それでも、彼の薔薇の精って雰囲気はとっても素敵なのだ。白い肌に赤い頬とくちびる、つぶらな瞳、髪に飾ってある薔薇の花も似合っていて、ギリシャ神話を描いた絵画に出てきそうな、美少年顔。

白鳥の湖(2幕)シリル・ピエール、ダリヤ・スホルコワ

この二人の「白鳥の湖」はやっぱり素敵。シリルはサポートに専念しているけど、非常にサポートは上手いし、愛があるんだな、この二人には。軍服チックな衣装もよく似合う。そしてスホルコワの脚と甲!これだけ美しい脚を持っているバレリーナってそうそういないのでは?痩せすぎてもいなくて、適度に女らしい体型、小さな顔。そして、大人な感じの、悲劇性漂う白鳥で、儚く美しかった。全幕を見られる機会があるといいな。マリインスキーも、良いバレリーナを手放しちゃったんだなって思った。

赤の肖像=オクサーナ・クチュルク

女性一人が踊るコンテンポラリーのソロ作品としては、すごく見ごたえがあって面白い演目。激しく美しく、情熱とほんの少しの狂気がほとばしる。腕をもう一方の手でパシっと叩いたり、クラシックバレエのテクニックがベースだけどマッツ・エックみたいなところもあり。クチュルクもボルドーに移籍して、成熟してさらに魅力的なバレリーナになったと思う。

Rain=松崎 えり、大嶋 正樹

松崎えりさんの振付は、オリジナルな才能を感じさせてくれる。二人とも、決して向き合わないで、同じ方向を向いたり背中合わせになったり。その辺で微妙なすれ違いを表現しているのかと。Rainというタイトルも、雨粒を感じているかのような松崎さんの演技で伝わってきた。大嶋さんの上半身のしなやかな動きがきれい。これからも彼の踊りを観る機会がもっとあるといいな。

眠れる森の美女=寺島 ひろみ、アンドレイ・メルクリエフ

今日は嬉しいことに、ヴァリエーションまでしっかりあった!ひろみさんのキラキラのオーロラは初々しくて愛らしい。それに、腕の動きの微妙なニュアンスもとても丁寧で、柔らかで。音楽性も豊かで、音符を奏でているかのよう。そしてもちろん、アンドレイのデジレも、絵に描いたような王子様。サポートは、一箇所メルクリエフが方向を間違えたみたいだけど、あとは問題なし。ぜひ、新国立劇場でアンドレイをゲストに、ひろみさんの「眠れる森の美女」を上演して欲しいなと思った。

白鳥XXI=イーゴリ・イェブラ

イーゴリ・イェブラというダンサーの魅力を余すところなく伝えているこの作品。彼のアラベスクの、なんて伸びやかでしなやかで美しい曲線を描いていること。力強く、雄雄しく羽ばたき、力強く飛翔しつつも、限りある命の儚さを伝えている動き。こういう作品は、これくらい美しい人じゃないと、様にならないなとも感じた。

マノン(第一幕エレジー)=ユリヤ・マハリナ、イリヤ・クズネツォフ

「マノン」のエレジーって、そんなに派手な場面ではなく、ガラなどで上演されることも少ないと思う。だけどこうやって改めて観てみると、リフトがものすごく多く、またリフトされたマノンが体勢を左に右に変えていくので、非常に難しい作品であることがわかる。そこをいかに滑らかに躍らせるかということで、デ・グリューの実力がわかるというもの。イリヤは本調子ではないようだったけど、熱い視線、若々しい恋情、素敵なデ・グリューだった。マハリナも、ドラマティック・バレリーナの本領を発揮していて美しい。彼ら二人の「マノン」を全幕で観る機会はもうないだろうなと思うと、寂しい。

第二部

海賊(1幕 ランケデムとギュリナーラのグランパドドゥ)=寺島 まゆみ、芳賀 望

このペアでこの演目を何回も踊りこんでいるためか、非常に安定感があるし、息もぴったり。まゆみさんもひろみさん同様、指先の動きで細かなニュアンスを出せる人。華奢な身体のどこにこんなパワーがあるのか、跳躍が高くてきれいだし、たおやかでありながら、テクニックもある。芳賀さんのランケデムははまり役。地元公演ということもあって、張り切って技を決めていた。あとはフィニッシュで流れるところがなくなれば。新国立劇場で、ぜひ「海賊」全幕を上演して欲しいと思う。マイレンはガラや発表会でよくアリを踊っているし、あの美しいコール・ドでの花園のシーンもきっと素敵だろう。


新作Ⅱ=松崎 えり、大嶋 正樹

松崎えりさんによるほやほやの新作。赤いプリントの上着の大嶋さんと、ベージュのビスチェの松崎さん、二人とも同じようなだぼっとしたパンツ。松崎さんの振付は、やっぱりヨーロッパ的なコンテンポラリーを感じさせるもの。今回は音楽は歌入り。二人ともなめらかな動きが美しい。大嶋さんの怪我からの回復は順調なようで、とても雄弁に身体で語ってくれた。本当に踊りたくてたまらなかったんだろうな、って思った。二人のダンサーが、決して交わらなくて距離があるところが、いろいろなことを考えさせてくれる。


シェヘラザード=イリヤ・クズネツォフ、エレーナ・コレスニチェンコ

エレーナ・コレスニチェンコのゾベイダが下手で杯を持って横たわっているところから始まる。このエレーナ・コレスニチェンコが、細いのに凹凸はしっかりあるという素晴らしいプロポーションで、非常に色っぽいし美人。やっぱりこの役は、これくらいグラマーな人のほうが似合う。身体をくねらせる時の曲線はやばいくらいの妖艶さ。イリヤの黄金の奴隷。跳躍などを見る限りはやっぱりちょっと不調そうで、奈良のときのほうが出来が良かった気がするけど(ちょっと太った?)、演技のほうはとにかく濃厚で、セクシーで、獰猛でありながら従順さも見せ、ふるいつきたくなるくたいセクシーだった。床の状態があまりよくないようだったけど、足音は全然させないところはさすが。とにかく二人のビンビンの気合とめくるめく官能の世界は十分伝わってきた。絶好調の時のイリヤのシェヘラザード全編が観たい!


アダージョ=アンドレイ・メルクリエフ

急遽追加になったこの演目。振付は誰なのかしら?(「アダージョ」振付:アレックス・ミロシュンチェンコ 、音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ、とのこと。)ブルーの衣装で、髪を下ろしたメルクリエフも、またとっても美しい。彼の美しい動きに酔ったひと時。彼はいつからこんなに素晴らしいダンサーになったのかしら。去年のボリショイ・マリインスキー合同ガラの時にイは、まだまだだったのに。


アゴン=シリル・ピエール、ダリヤ・スホルコワ

スホルコワの美しい脚を堪能。ストラヴィンスキーの難解なスコアにも音がぴったり合っている。二人のコンビネーションも大変良くて、見ごたえたっぷりの演目だった。ダリヤの美しい肢体を、最もきれいに見せる場所にシリルが導いているのが判る。

Ne me quittes pas=アンナ・パシコワ

青いホルターネック、背中の大きく開いたロングドレスのパシコワ、美しい~。ジャック・ブレルの曲。作品としては先ほどのクチュルクのほうがインパクトがあったし、ちょっと印象的に似通った部分もあるけど、二人のバレリーナの持っている性質の違いはよく感じられた。「ドン・キホーテ組曲」でも見せた女っぷりのよさが、ここでも存分に発揮。

くるみ割り人形(パ・ド・ドゥ)=アリヤ・タニクパエワ、ミハイル・マルティニュク

アリヤは、奈良ではチュチュだったと思うんだけどここではオレンジピンクのふんわりとした膝丈のドレスに、ちょこんとティアラを乗せていた。ミーシャは、奈良で失敗したリフトを若干変更し、今回はミスなく乗り切った。彼のくるみ、奈良の時よりずっと良い。特にヴァリエーションの時のはつらつとしたシソンヌや、正確なピルエットが観ていて気持ちよい。とにかく可愛く好感度の高いカップル。

ロミオとジュリエット(バルコニー)=オクサナ・クチュルク、イーゴリ・イェブラ

息が止まりそうになるくらい美しい二人。イェブラの高く柔らかな跳躍には、恋の高ぶりでどこまでも上昇しそうな気持ちが込められているし、初々しくちょっとはにかんだクチュルクのジュリエットは可愛らしい。とても爽やかで、恋に落ちたばかりのどきどきする思いが、とどまるところを知らずにあふれ出ている。こんなにまっすぐに愛し合って幸福感でいっぱいの二人に、悲劇が待っているんだと思うだけで、胸が張り裂けそうになるくらい。この二人が主演してのボルドーの「ロミオとジュリエット」、来日公演熱望!

瀕死の白鳥=ユリヤ・マハリナ

マハリナの瀕死の白鳥は、生きようともがいたり戦ったりすることもなければ、諦念もなく、美しく誇り高い生き物が静かに、しかし絶望し苦しみながら死んでいく様子を、ドラマティックに演じていた。こんな瀕死の白鳥を踊れるのは、彼女だけだと思う。こうやって、彼女の舞踊人生を物語るかのような4分間のドラマを見られる幸せ。

♪フィナーレ: ドン・キホーテ(組曲)ガリーナ・ステパネンコ、アントン・コルサコフ、アンドレイ・メルクリエフ、エレーナ・コレスニチェンコ、アンナ・パシコワ、日本人ダンサー2名他、全員

奈良公演では、アントン・コルサコフがバジルの踊りを全部踊ったというのに、新潟では様々なダンサーが入れ替わり立ち代り彼のパートを踊ったという。今回はどうなるかな、と思ったら入れ替わりヴァージョンだった!

酒場のあんちゃん二人、大島さんとミーシャ。今回はミーシャはバンダナなしでバジルっぽい衣装。背格好も同じくらいだし(ミーシャの方が若干大きい)、悪がき二人って風情。イェブラとクチュルクはロミジュリの衣装のまま(着替える時間がなかったかな?)、シリルとダリアはバジルとキトリ風の衣装にお着替え。シリルは背が高いのでこういう格好は似合う。ウェイターはイリヤとイェブラなんだけど、イリヤもバジルっぽい衣装で、イェブラはロミオの衣装のまま、腕まくりをしてお酒を配っているので、なんだかとても笑える。イェブラはあんなにハンサムなのに、テーブルの上に飛び乗ってジャンプしたり、とてもノリがいい。

パシコワとコレニスチェンコの美人姐さんたちの、エスパーダをめぐっての戦いは今日もカッコよかった。パシコワが赤系の衣装で、コレニスチェンコは大きなストールを巻いている。二人ともテーブルの上に乗って、華やかにメルセデスのソロを踊る。フラメンコのような対決、片方がエスパーダのマントを拾って振り回すが、落とすと今度はイリヤがそれを拾って、エスパーダよろしく素晴らしいマント捌きを披露。その間、ミーシャが隙あればとコレニスチェンコを口説こうとするところがまた面白い。

ガリーナ姐さんのものすごい勢いの飛び込みを受け止めたのは、腕まくりロミオのイェブラ。もうすぐで腕が地面につきそうなスレスレのところでの見事なキャッチ。

メルクリエフのエスパーダのキメキメぶりは今日もカッコよかった!ものすごく高くバットマンしてアッサンブレで着地してから後ろ足を後ろに移動させての決めポーズ、しびれるほどクール。そして同じ踊りをしようとしたアントンは、イリヤに受け止められちゃった。今回は、みんなのアントンいじりが炸裂していて、ある意味アントンはみんなのアイドルなのかな、なんて思ったりして。

黄色いチュチュから、赤と黒のチュチュに着替えたステパネンコ姐さん。アダージオでは、途中でパートナーがメルクリエフに交代。そしてゆっくりとした音楽の時にシリルにバトンタッチし、見事なリフト~フィッシュダイブを見せた。それからまた、隙あれば取って代わろうとする悪ガキのミーシャに交代すると見せかけて、またイェブラが姐さんの手を取る。そしてフィニッシュはイリヤ。そういうわけで、バジルっぽい衣装の男性ダンサーがいっぱいいた意味がよくわかったというわけ。ここでのレヴェランスは、ガリーナ姐さんを真ん中に、シリル、メルクリエフ、ミーシャ、イェブラ、そしてイリヤ、それにアントンという6人の男性が姐さんを奪い合うというものだった。お祭りじゃないと決して見られない豪華版!そして、こんなに途中でパートナーが代わっても、まったく平気で涼しい顔で踊ってしまうガリーナ姐さんって本当にすごい人なんだわ。

ヴァリエーションは今度こそはしっかりアントンが踊ってくれた。やっぱり本調子ではない模様で、スタミナも切れていたようだったけど、精一杯、一生懸命に踊っているのはよく伝わってくる。ガリーナ姐さんのキトリヴァリエーションは完璧。この人は、まず扇捌きが見事にカッコよく決まっていて、一番美しくダイナミックに見える角度を計算して踊っているとしか思えない。突き刺さるポアントといい、これほどのキトリは他にはいないだろう。

そしてグランフェッテも見事なものだった。前半はダブルが3回にトリプル一回。後半はシングルになったけど、フィニッシュではまたトリプル!コーダのピケも速い速い!姐さんには、衰えという言葉はまったく無縁だといえるだろう。

カーテンコールでは、ちびっこたちがダンサーに花を贈呈。すると、ダンサーたちは花を客席に投げ込んでくれた。今日も最高の公演だった!ラストの新宿公演が楽しみ♪こんなすごいガラを見逃す手はないと思う。体験しないと損だと自信を持ってお勧めできる。桶川は7割くらいの入りだったと思うけど、空席があるのが残念でならない。新宿はもっと客席をいっぱいにして、日本のバレエファンの心意気も見せたいと思った

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2008/08/26

8/24 新潟県中越沖地震チャリティーバレエガラコンサート 奈良公演(完結)

奈良に行くのは中学の修学旅行以来。奈良は遠かった!公開ゲネプロが朝10時からというのだけど、10時に奈良到着はとても無理。朝7時前に家を出て、到着したのは11時前。奈良駅では、噂のせんとくんがお迎え(笑)

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なら百年会館は奈良駅からすごく近いんだけど、周りにホテルが一軒あるだけで、ほとんど何もないし。磯崎新が設計したというモダンなホールで、完成してから8年というまだ新しい建物。卵型のような不思議な形をしていて、2階席というよりバルコニーがせり出している感じ。私は1階後方のセンターに座ったのだけど、それほど大きくないためか、非常に見やすい。

第一幕
くるみ割り人形よりグラン・パ・ド・ドゥ(振付:ワシリー・ワイノーネン) アリーヤ・タニクバエワ、ミハイル・マルテニュク

アリーヤは多分初見だと思う。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに何回か出演していたみたいだけど。もともとはインペリアル・ロシア・バレエのダンサーで、カザフスタン出身。ちょっと見日本人か、と思うような容姿でやや小柄な方。で、ミーシャはというとこの間のInternational Ballet Companyの公演で観たばかりだけど、その時に踊ったのがブロンズ・アイドルとか白鳥の道化とか騎兵隊の休日、それにバジルだったので、王子役を踊るのか、とちょっとびっくり。そもそもくるみ割り人形の王子自体、初役だったみたい。彼も22歳とすごく若いし、どちらかといえば小さめだし、アリーヤ同様黒髪なので、本当に可愛らしい二人。どっちかといえばくるみ割り人形役の方が似合うかな?そういうわけで、ミーシャのちょっとしたリフトのミスがあったりと息が合わない部分もあったけど、彼のヴァリエーションはまたピルエットもシソンヌもテクニック炸裂、一方アリーヤは丁寧でたおやかな踊り。好感度は大。

シェヘラザード(振付:ミハイル・フォーキン) 高橋晃子、イリヤ・クズネツォフ

イリヤの黄金の奴隷、鼻血モノのセクシーさだった!黄金の奴隷はぜったいブルーアイじゃないとダメ、と思っているけど彼はホント、その見上げつつ見つめるブルーアイがキレイ。大柄なのにジュッテは大きく着地は柔らかくてライオンのようにしなやかで音がしない。彼のシェヘラザード全編が観たい。。。今まで見た中でも一、二を争うくらい素敵な黄金の奴隷だよ。
そして高橋晃子さんは、表現力があるバレリーナで、ロシアでトレーニングを受けているのがすごくよくわかる。上半身が実にきれいで、ほっそりと華奢で、妖艶さはあまりないけど、挑発的な表情にどきりとさせられる。ロパートキナ&コズロフのようなものすごくエロい世界は作っていなかったけど、ゾベイダがエキゾチックな東洋人というのはいかにもシェヘラザードの世界で似合っている。良い舞台だった。


ライモンダよりアダージオ(振付:マリウス・プティパ) ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクリエフ

アダージオだけだったのが少々もったいなかったけど、アンドレイの長い白いマント姿は、もう完全に反則というか似合いすぎというか、麗しいことこの上ない。それだけでもう降参という感じ。そしてガリーナ姐さんのライモンダの圧倒的な華と風格。アダージオだけで華やかで古典的な中世の騎士物語の世界を舞台空間に持ってきてしまえるのはやっぱり、本物の凄さであり、スターのきらめきなんだろうな。

Lady in Red(振付:ユーリー・ペトゥホフ) オクサーナ・クチュルク

暗い照明の中、椅子に丸まったように腰掛ける赤くて長いドレスのクチュルクが、脚をパッと広げて、それから腕を大きく動かす。音楽は、ヴィヴァルディの「四季」の夏から。なんとなく、フィギュアスケートのジェフリー・バトルが使っている曲という印象が強いのだけど、この音楽の持つ激しさ、情熱と激情を感じさせる動きがよく似合っている。腕を激しく動かすところは、ものすごい集中力でダンスに没頭している感じで、こういう表現ができるのが真の芸術家、と思わせてくれた。

薔薇の精(振付:ミハイル・フォーキン さいとう美帆、アントン・コルサコフ

コルサコフの薔薇の精は4月にマリインスキーのNY公演で観て、とても印象が良かった。彼のベビーフェイス(ちょっとだけディカプリオ似)と白い肌に薔薇のついた赤い衣装がよく似合うし、あまり男性的ではなく少年っぽいところも、両性具有的な薔薇の精のキャラクターに合っている。それから、やっぱり腕の動きがすごく柔らかくてきれいで、薔薇の花が花開く様子を思い浮かべることができた。そして5回もきれいなトゥールザンレールを入れていた。さいとうさんの少女はいうまでもなく愛らしい。

白鳥の湖 第二幕アダージオ(振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ) ダリヤ・スホルコワ、シリル・ピエール

シリル・ピエールはグリーン・グレーの軍服のようなグレーの詰襟衣装。ミュンヘン・バレエの白鳥王子はこれがデフォルトなのかしら?と思ってバレエ団のサイトを見たらやはりそのよう。このサイトでは動画まで見ることができる。白鳥の衣装がすごく美しくて、ついでにロットバルトがちょっと白塗り系だけど吸血鬼のような耽美的な雰囲気。
ダリヤ・スホルコワは、さすがワガノワ~マリインスキー出身だけあって、プロポーションが素晴らしい。ほっそりとしていて背が高く、弓形にしなっていて長く美しい脚。甲がよく出ている。上半身も柔らかく、腕の使い方も繊細、叙情的な表現。そんな彼女も、2006年のマリインスキーの来日ではまだコリフェで、パ・ド・トロワなどを踊っていたのだから、やはりマリインスキーというのは層が厚いんだな、と思った。アダージオなので派手な見せ場はないけれども、ピエールはサポートに愛があって、着実できれいにリフトをしていた。身長の釣り合いもちょうどいい感じ。しっとりとして大人の雰囲気を作り上げていた。

眠れる森の美女 三幕より(振付:マリウス・プティパ) 寺島ひろみ、アンドレイ・メルクリエフ

著作権の承認が間に合わなくて、「チャイコフスキ・パ・ド・ドゥ」から「眠り」に変更。演目が多いからだと思うけどアダージオのみ。二人とも、王子と姫がよく似合うキラキラした雰囲気を持っている。フィッシュダイブ3連発ではなく、ひろみさんがサポートつきのピルエットをするのだけど、8回くらいぶれずにくるくるときれいに回っていて、やっぱりきっちりとしたテクニックがあるなあ、と思った。雰囲気のマッチしている美しいペアだから、いつかメルクリエフが新国立劇場に客演してひろみさんと共演ってことがあればいいな。ヴァリエーションを踊ってくれたらもっと良かったんだけど。

カルメン エレーナ・フィリピエワ、セルゲイ・シドルスキー

直近に決まった演目のようで、プログラムに記載がないため、振付家が誰なのかは不明。コンテンポラリー作品で、フィリピエワは大きく背中が開いた黒いホルターネックのロングドレス、シドルスキーは上半身裸で袴のような長いスカートを着用。背中を向けている振付が多いのだけど、この二人の背中の筋肉のつき方が絶品といっていいほど美しく、雄弁。腕を多用したユニゾンの動きで、なんと表現していいのか判らないけど、とにかく本物の芸術を観た、というか芸術家の心意気を感じさせて、しびれた。彼らが出演するのが奈良と新潟だけというのが惜しまれる。だけども、この二人が奈良に出演するからこそ、奈良にまで出かけて行ったんだし、交通費と時間をかけて奈良まで行って本当に良かったと思った。

白鳥XXI(振付:イーゴリ・イェブラ) イーゴリ・イェブラ

2005年のスペインGALAで観た作品を再見。パンツ一枚のイェブラが丸まった姿で登場し、無音の中踊り始める。大きく開いたジュッテと柔らかい着地。白鳥なんだけど、男性的な部分が強く、マシュー・ボーンの「白鳥の湖」をクラシックバレエ的な踊りにした印象もある。美しい肉体、しなやかな動き、加えて美貌。無音なので息遣いが伝わってきて、舞台に強く惹きつけられる。途中から、「瀕死の白鳥」の音楽が流れていく。上半身を大きく反らせて、崩れ落ちての死。「カルメン」と併せ、今回観られて特に良かった演目のひとつ。イェブラって本当に素敵なダンサー!

マノンより1幕エレジー(振付:ケネス・マクミラン) ユリア・マハリナ、イリヤ・クズネツォフ

「マノン」の1幕で、出会ったばかりのマノンとデ・グリューが繰り広げるパ・ド・ドゥ。ちょっとイリヤ・クズネツォフが調子が悪かったように見えた。「シェヘラザード」ではあんなに素敵だったのに。サポートはしっかりしていた。マハリナは天然のファム・ファタルという雰囲気がぴったりだったし、イリヤとのパートナーシップも良かったと思う。イリヤが次回公演では復調してくれますように!

第二幕
白鳥の湖よりルースカヤ(振付:ガリーナ・シュリャーピナ) 高橋晃子

ダンチェンコではキャラクターソリストを務めていただけあって、高橋晃子さんはポール・ド・ブラが美しく、適度な押し出しもあって華やかでロシアらしさ漂うルースカヤを披露。新国立劇場の牧版「白鳥の湖」のルースカヤは、まるでお仕置きのように踊らされているって感じなんだけど、これくらい人を引き寄せるパワーがないと、この踊りは難しいと思う。

海賊よりランケデムとギュリナーラのパ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ) 寺島まゆみ、芳賀望

先日のHopes and Prouds of Japan Galaでもこの二人でこの演目を観たけど、踊る回数を重ねているだけあって、よりスムーズになっていたと思う。芳賀さんのランケデムは小芝居も面白いし、深く沈みこむプリエの入ったヴァリエーションもなかなか。寺島まゆみさんのギュリナーラはとても可憐で、白いヴェールをぐるぐる巻かれていたのを外されているのは「あ~れ~」って感じなんだけど、きれいな動き。アダージオでのシソンヌでの脚の開き方がダイナミックだし、ジュッテも非常に高い。これだけたおやかな雰囲気があってほっそりと儚げなのに、テクニックも備わっているまゆみさん、本当にいいバレリーナ。

le Pleut(振付:エレーナ・ボグダノヴィチ) アンナ・パシコワ

タランダのインペリアル・ロシア・バレエのアンナ・パシコワ、長身でプロポーションが美しく、非常に美人。 音楽は、ジャック・ブレルのシャンソン"Ne me quittes pas"。コンテンポラリーのソロ。1回観ただけではちょっと印象に残りにくかったかな。でも、表現力のある素敵なダンサーだと思う。

アゴン(振付:ジョージ・バランシン) ダリヤ・スホルコワ、シリル・ピエール

以前、「マラーホフの贈り物」でピエールとルシア・ラカッラのペアでこの演目を観た。その時は、ラカッラの柔軟性があまりにもすごくて妖怪タコ人間のようだと思った。さすがにスホルコワはそんなことはなかった(笑)。でも、この演目を踊るに相応しい身体能力や柔軟性はあるし、何しろ脚のラインが(ラカッラとは別種類の)美しさがあるので、見ごたえがあった。ピエールはここでもサポートの上手さを発揮。奈良で、この作品を、このレベルの高さで観ることができるっていうのはすごく贅沢だと思う。

海賊 第2幕パドトロワ(振付:マリウス・プティパ) エレーナ・フィリピエワ、セルゲイ・シドルスキー、イリヤ・クズネツォフ

コンラッドにイリヤ、メドーラにフィリピエワ、そしてアリがシドルスキーというパ・ド・トロワ。メドーラのヴァリエーションは、「ラ・バヤデール」のガムザッティのヴァリエーションと同じ。先ほどの「カルメン」でのきりりとした姿とは打って変わって、ヘソだしにスリットの入ったふわりとしたスカートも華やかなフィリピエワのメドーラは、安心して観ていられて、落ち着いたキラキラ感がある。セルゲイにも言えることで、派手なテクニックで押すわけではないけれども、抜群の安定感、正統派のクラシックのテクニックを披露。そしてコンラッドのイリヤは、先ほどの不安定感よりはだいぶ復活していた。長身なので、フィリピエワを高々とリフトするとすごく迫力がある。それなのに、つま先はすごくきれい。この3人の顔ぶれでの「海賊」パ・ド・トロワは滅多にないだろうし、豪華!


Rain(振付:松崎えり) 松崎えり、大嶋正樹

7月のアサヒアートスクエアでの公演、松崎さんの作品にちょっと共通するモチーフがある新作。紫色の膝丈のドレスの松崎さんに、グレーのパンツ、モスクリーンのカットソーの大嶋さん。松崎さんの振付作品は、オリジナリティがあって、ヨーロッパ的で面白いし、スポットライトが明滅するなどの照明の使い方も効果的。男女の深層心理を描いた風。大嶋さんの動きはやっぱりきれいだし、跳躍やピルエットも見せてくれたりと、怪我から回復した様子で嬉しかった。


ロミオとジュリエット(振付:ウラージミル・ワシリエフ) オクサーナ・クチュルク、イーゴリ・イェブラ

バルコニーも何もないシーンだけど、甘く美しいパ・ド・ドゥだった。イェブラもクチュルクも、ロミオとジュリエットに相応しいロマンティックな雰囲気のある、ひっじょーに美しいダンサー。優美で愛らしいクチュルクと、端正で情熱的、しなやかなロミオ。いや~素敵!

カルメン(振付:ゲディミナス・タランダ) 高橋晃子、イリヤ・クズネツォフ

鮮やかなオレンジ色のシャツに黒いパンツのイリヤと、赤い花を髪に挿した高橋さん。とっても情熱的な二人だった。椅子がいくつも置いてあったから使うのかな、と思ったら意外と有効には使われていなかったりして。

瀕死の白鳥(振付:ミハイル・フォーキン) ユリヤ・マハリナ

前にもマハリナの「瀕死の白鳥」は「ルジマトフのすべて」で観たことがあったんだけど、その時の印象はあまり残っていない。でも、今回の「瀕死」はかなり印象的だった。「瀕死」といえば、大体のバレリーナは後ろ向きでアームスを白鳥の翼のように広げてくねらせながらパ・ドブレしてくるのだけど、マハリナは正面を向いていて、両腕を前でクロスさせながら入ってきた。とても艶やかで、凛としていて、強く生命感がある白鳥。最後に斃れる時も、背中を大きく反らせながら、後ろへと倒れて行った。生きる希望を最後まで捨てない、美しい白鳥の死だった。

フィナーレ ドン・キホーテ組曲(振付:マリウス・プティパ) 
キトリ:ガリーナ・ステパネンコ
バジル:アントン・コルサコフ
エスパーダ:アンドレイ・メルクリエフ
メルセデス:エレーナ・コレスニチェンコ、アンナ・パシコーワ
酒場のウエイター:イリヤ・クズネツォフ、セルゲイ・シドルスキー
客:大嶋正樹、ミハイル・マルテニュク
カップル:オクサーナ・クチュルク&イーゴリ・イェブラ、ダイヤ・スホルコワ&シリル・ピエール
女性客:高橋 晃子、アリヤ・タニクパエワ
ヴァリエーション:長澤美絵

今回のメーンイベント。いや~楽しかった!

2幕の酒場のシーンからスタート。2組カップルたちが入場してきて、そして日本人の女の子たちによるアントレ、頭にバンダナを巻いた大嶋さんとミーシャ、ロシア美女二人のメルセデス、酒場のウェイターのイリヤとセルゲイ(イリヤはカルメンの時と同じ衣装)、そしてキメキメのエスパーダのメルクリエフ。いや~メルクリエフはエスパーダの衣装が似合って素敵。ミーシャはプルエット・ア・ラ・スゴンドでぐるぐる回っている。それから黄色いチュチュ姿のガリーナ姐さんと、アントンが入場。アントン、なんだか超緊張の面持ち。コレスニチェンコ、パシコーワの華やかな美女二人は、エスパーダをめぐってマントを持って激しく争う。色っぽくて剥き出しの激しさがカッコいい~!彼女たち二人が自分たちで振付けたんだって。女たちが投げ捨てたマントを振り回して応援するのは、ウエイターのあんちゃん二人。イリヤ、マントの振り方が堂に入っている。さっきまでの元気のなさが嘘みたいパシコーワによるメルセデスのソロは柔らかい背中を存分に見せ付けれくれて、それからテーブルの上で踊りまくり。でも回りもいろいろと楽しい小芝居を繰り広げているから、いったいどこを観ていいのかわからなくなるほど。なんて贅沢なこと!ベンチに腰掛けているダンサーたちも、楽しげにセンターを見たり、加勢したり。

エスパーダのソロは、メルクリエフがアッサンブレでぴたっとポーズを美しくキメてくれて、ひゅーひゅー。ラヴェンダー色の衣装が彼の瞳の色とマッチしていて、額にはらりと落ちる前髪も素敵で、超・超・超美しい~。紫色の薔薇の花を背負ってしまいそうな勢い。それと同じ踊りを繰り返すアントン。あれれ~。なんでだろ~。さすがにアン奴隷のようにかっこよくは決まらないけど、それはまたそれで、可愛いから許せる。それから、ガリーナお姉さまのボリショイならではの勢いのフィッシュダイブをう受け止める。これはなんとか上手くいってホっとした。あ、アントン、ヴァリエーションは良かったです。最後のキメの時に、ハーッツってものすごい声がしたのでちょっと笑っちゃった。バジルのヴァリエーションを真剣な面持ちで観ているミーシャが可愛かった。もしかしたら、僕の方が上手いよ、って思っているのかもしれないんだけど。第一ヴァリエーションの長澤美絵さん、小柄だけど柔らかくて、鷹揚でのびやか、本当にきれいな踊り。そしてめちゃめちゃ可愛いらしいの。

ガリーナ姐さんのヴァリエーションは超カッコいい!床に突き刺さるがごとくのポアントワーク。華麗な扇使い。バランス技などは入れないで、正統派の直球な踊り。そしてグランフェッテが素晴らしかった!前半にダブルが4回入って、びくともしない軸、きれいな回転。2003年の世界バレエフェスティバルでの全幕プロで観た時からまったく衰えが見えないどころか、さらにパワーアップしているんじゃないかと思うほど。キトリのグランフェッテでこんなに素晴らしいのを観たのは久しぶり。コーダのピケも見事なもの。ガリーナ姐さん、あと10年くらいはいけそう。

そしてフィナーレ。子役たちの踊りなどもちょっと観られた。最後のカーテンコールにタランダ、出て欲しかったな。でも、本当にこの「ドン・キホーテ組曲」は最高に楽しかった~!東京公演ではどんなことになってしまうんだろう、すっごく楽しみ♪いや、ホントこれは観なきゃ損!

TOSHIのライヴは、所用があって聴けなかったのが残念。でも、モニターを通して彼の美しい歌声は聞こえてきたし、ダンサーたちも喜んでいたみたい。もしかして、新宿公演ではサプライズもあるかも、ってことみたい。

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2008/08/24

8/23 小林紀子バレエシアター「マクミラン・ダイヴァーツ」「ラ・シルフィード」

明日早朝に奈良に向けて出発するので、簡単な感想を。そう、新潟県中越沖地震チャリティバレエガラの奈良公演に行ってくるんです。奈良なんて中学の修学旅行以来です。

「マクミラン・ダイヴァーツ」
振付 ケネス・マクミラン
ステイジド・バイ ジュリー・リンコン
指揮 ポール・ストバート

「ロメオとジュリエット」 バルコニーのシーン
小野絢子・中村誠

マクミラン版のロミオとジュリエットは日本ではなかなか見られないので貴重。一応バルコニーも設置されていたけど、バルコニーの高さが低いので、ロミオとジュリエットが手を伸ばすと届いちゃう。
新国立劇場での「アラジン」で主演デビューも控えている小野絢子さんの可憐なことといったら!彼女なら十分14歳のジュリエットに見える。ジュリエットが実在していたらこんな姿をしているんじゃないかと思うほど。踊りの方も柔らかくしなやかで、見ていて思わず胸がきゅんとしてしまう。中村誠さんのロミオも、持ち前の柔らかさを発揮していた。彼も女性顔負けのしなやかな肢体と優雅な動きで、ロマンティックで切ない雰囲気を作り上げるのに成功していたと思う。演技もとても初々しくて甘く、これでサポートがうまくなれば言うことなし。


「エリート・シンコペーション」 Bethena A Concert Waltz
萱嶋みゆき・中尾充宏

パ・ド・ドゥだけなので、楽団ではなくピアニストだけが舞台に上がっての上演。サポートのうまい中尾さんによって、スムーズで洒脱さ、色っぽさがよく出ていた。短いシーンだったのがちょっともったいない。去年全幕が上演されてとても楽しかったので、ぜひ再演して欲しいなって思う。

「マイヤリング」 ステファニーのパ・ド・ドゥ
高橋怜子・冨川祐樹

ステファニー皇女役の高橋さんがソロを踊った後、銃と髑髏を持ったルドルフ役の冨川祐樹さんが駆け込んできて脅し、そして銃を威嚇射撃するといういささかドラマティックなシーンから始まる。冨川さんは、なかなか髭が似合っていて、ダークなキャラクターにハマっていたのではないかと思う。


「ラ・シルフィード」(全幕) 新制版初演
演出・振付 ヨハン・コボー(英国ロイヤルバレエ団・プリンシパル)
リハーサル・ディレクター ジュリー・リンコン

ブレノンヴィル版をベースに、ヨハン・コボーが再振付し、ロイヤル・バレエとボリショイ・バレエで上演された作品の日本初演。2幕の有名なパ・ド・ドゥの振付を少し変えている。また、エフィのソロは、コボーが新たに作ったり、パ・ド・シスが入ったりするところが違うようだ。また、マイムも変えたり、増やしたりして、ストーリーとして筋が通るようにしている。パンフレットにヨハン・コボーと小林紀子、山野博大氏の対談が載っているのだけど、これがなかなか面白い。

デヴィッド・ホールバーグのジェームズは、なんといっても足先が美しい!甲がよく出ているし、アントルシャ・シスやブリゼするときのつま先の美しさも絶品。もちろん脚のラインも美しいし、キルトから覗く膝小僧もきれいだし、脚捌きもばっちりだった。以前小林紀子バレエシアターに出演した時はまだプリンシパルに昇格したてで、足音も大きかったし技術的にも不安定な部分があったが、今回は足音もさせず、アントルラッセなどの跳躍も大きく、素晴らしい出来だった。ジェームズ役は脚の美しい彼によく似合うので、ABTでも踊る機会があるといいな。デヴィッドのThe Wingerでのエントリによると、3日間しかリハーサル期間がなかったとのことだが、それでここまで踊れるのはすごい。
http://thewinger.com/words/2008/travels-thus-far-2

島添さんのシルフは、まさに空気の精のように柔らかく軽やかで、いたずらっぽいところがありつつも、儚くて素敵だった。登場した時のピルエットがやや失敗気味だったけど、それ以降はミスもなく、アラベスクやアティチュードも美しい。とても繊細な役作り。ジゼルといい、ふわふわした妖精ものがよく似合う現実離れしたキャラクター。

エフィはジュリエットに続き小野さん。このエフィがまた本当に可愛くてけなげで、1幕の結婚式でジェームズに逃げられて悲しみ、ヴェールを外すところは本当に胸を締め付けられそう。

グァーンは中村誠さん。中村さんの演技がすごく濃くて、エフィへの熱い想いを隠そうとしないで積極的にアプローチしている。最初のうちは見向きもしないエフィも、ついに彼の熱情にほだされてプロポーズを受け入れてしまう。ジェームズがシルフィードを暖炉のそばの椅子にタータンチェックの布で隠したところを見ていて、グァーンが、そこを見ろ!と言って探させるけどシルフは消えていた、というときの演技もユーモラスでよかった。

それからマッジの楠元さんも、大きなマイムでノリノリで楽しそうに演じていて、とてもいい演技をしていた。ああいう役を演じるのはやりがいがあるだろうな。ラスト、斃れたジェームズを前にマッジが悔し涙を流していた。それは、マッジとジェームズは縁戚関係にあり(同じタータンチェックの柄の服を着用)、彼をここまで追い詰める意図はなかったと言うことなのだそう。

1幕の結婚式での民族舞踊的な群舞も非常によく踊れていて、見ごたえがあった。アカデミーの子役たちも、グァーンと踊った少女役の子をはじめ、とても達者。これから何回も再演されるといいな、と思わせてくれる、とても良い出来の舞台だった。デヴィッドくんもまたゲストで呼んでね。

Act1 
シルフ 島添亮子
ジェームス デヴィッド・ホールバーグ(ABT)
エフィ 小野絢子
ガーン 中村誠
マッジ 楠元郁子
アン(ジェームスの母) 斎木眞耶子
パ・ド・シス 高畑きずな・大和雅美・難波美保・冨川直樹・中尾充宏・佐々木淳史
2人の男性(友人) アンダーシュ・ハンマル、澤田展生
祖父  塩月照美
ミュージシャン 冨川祐樹
少女 菅さくら

Act2 
シルフ 島添亮子
ジェームス デヴィッド・ホールバーグ(ABT)
エフィ 小野絢子
ガーン 中村誠
マッジ 楠本郁子
アン(ジェームスの母) 斎木眞耶子
マッジの召使 アンダーシュ・ハンマル、佐々木淳史・澤田展生・冨川直樹
1st シルフ 大森結城
サイドシルフ 高橋怜子・駒形祥子
シルフ達  楠本郁子・難波美保・中村麻弥・高畑きずな・宮澤芽実・斎木麻耶子・小野朝子・松居聖子・萱嶋みゆき・志村美江子・荒木恵理・藤田奏子・倉持志保里・真野琴絵・秦信世・喜入依里・瀬戸桃子・大門彩美・林詠美

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2008/08/21

8/17 Tokyo Internationl Ballet Company「白鳥の湖」

「夏休み親子劇場」の2日目は、「白鳥の湖」の全幕。ベラルーシ国立バレエからミハイロフスキー劇場(レニングラード国立バレエ)に移籍したばかりの、エカテリーナ・ボルチェンコとピョートル・ボルチェンコの双子を主演に迎えたもの。演出は、マリインスキーで採用されているセルゲイエフ版そのもの。監修がマリインスキー劇場のバレエマスタであるのをはじめ、ここの教師がワガノワやマリインスキー・バレエの講師だからか。

ちなみに、このペアによる2幕アダージオの動画(2007年上演より)を、Tokyo Internationl Ballet Companyのサイトで見ることができる。
http://www.tokyointernationalballetcompany.com/movie/07_gala04.html

オデット/オディール エカテリーナ・ボルチェンコ(ミハイロフスキー劇場)
王子 ピョートル・ボルチェンコ(ミハイロフスキー劇場)
ロットバルト:イワン・シートニコフ(マリインスキー劇場)
王妃 ガリーナ・シュリヤーピナ
道化 ミハイル・マルテニュク(クレムリン・バレエ)
パ・ド・トロワ 中村優 長澤美絵(ドネツク劇場) シェエ・ジョンソン(メトロポリタン・クラシカル・バレエ)
2羽の白鳥 菅野茉里奈(ベルリン国立バレエ) 玉井るい(ウィーン国立バレエ)

カーチャ(エカテリーナ)の白鳥、美しかった!小さく美しい顔に長い首と長くて絶妙な曲線を描く脚や腕の理想的な白鳥体型。神経が指先まで行き届いたしなやかで磨かれた腕の動き。パンシェをするときにアラベスクの脚がものすごく開いたり、バットマンのときの脚もすごく上がるのだけど、それでも気品を失わないのがいい。アラベスクで静止した時の背中から脚にかけてのフォルムの美しさと言ったら!あまり感情表現をしないで、比較的クールに踊っている女王然としてプライドの高そうなオデットだけど、王子役が双子の弟(兄?どっちなのかしら)なので、あまり情感を込められて踊っても変だし、というところがあったりして。とにかくカーチャは素晴らしかった。来年一月のミハイロフスキーの公演でも観てみたいなと思った。

そしてオディールのほうは、妖艶さはそれほどないのだけど、これまた、まさに高嶺の花といった感じのプライドの高そうな、艶やかで高貴さを漂わせたオディール。前日のガムザッティ役が似合っていたので、オディールはいいだろうなと思ったけど実際はまり役だった。テクニックにモノを言わせるのではなく、場を支配する魔力が強いイメージ。とはいっても、テクニックも正確で見せ所をきっちり心得ている。フェッテは全部シングルだけど、正確で、軸のブレも場所の移動もなく完璧。騙された王子を嘲笑する表情の邪悪さが素敵。それまでの仮面を脱ぎ捨てて悪女の本懐を見せてくれた。

4幕では打って変わって、儚く悲しげなオデットで情感豊かに踊っていたけど、ラストではロットバルトに立ち向かう強さも見せてくれて圧巻。ミハイロフスキーに入ったことから、これから日本で観る機会も増えそうで嬉しい。

ピョートル・ボルチェンコは、やっぱり人間としてありえないようなプロポーションに驚愕。身長が190cmあるダンサーと並んでいるのを見たことがあるけど、そのダンサーより5センチは高かったと思う。顔はとても小さくて、カーチャにけっこう似ているのだけど若干長くて、髪形が垢抜けない。でも、何しろ脚も長くてラインがきれいだし、きちんとアンドォールしていてつま先もきれいなので、容姿は申し分ない。踊りの方はカーチャの方が上。脚が長いのでジュッテは高く跳べるし、3幕のヴァリエーションの山なりジュッテも美しかったのだけど、回転が弱いみたいで、ピルエットがスタミナ切れなのかちょっとふらついていた。さすが兄弟だけあって、サポートの息はぴったり。キャラクター的にも、情けない王子がぴったり。なぜこんな彼がロットバルトに勝てたのかが謎なのだけど、それはきっとオデットが強かったからでしょう。

ロットバルトのシートニコフはマリインスキーのコール・ドのダンサー。彼もピョートルと同じくらいの身長と非常に長身で、細身。前の日に観たときは、金髪でなかなか美形だと思ったのだけど、原形をとどめないほどのすごいメイクを施している。ジュッテはすごく高いんだけど、膝が下がってしまっているのが残念。

道化のミハイル・マルテニュクは、すごく良いパフォーマンスを見せてくれた。ピルエットが何しろ上手い。軸がぶれずに12回くらい回って、ぴたっと止まってきれいな5番でフィニッシュ。それと愛嬌があり、演技が細かくて達者。パ・ド・トロワで女の子たちにちょっかいを出してみて振られたり、家庭教師や王子とのやり取りも面白くてついつい目をやってしまう。それから、3幕の最後で女王が失神したときにはずっと一生懸命にパタパタ仰いであげたりしていて。こういうテクニシャン系のダンサーにありがちなことだけど、やや小柄なので役柄が限定されそう。

群舞は、発表会だということを考えれば健闘していたと思う。プロポーションも全体的に良い人が多いし、2幕などはかなり揃っている。4幕の2羽の白鳥を踊った二人は、海外のバレエ団に所属しているだけあって、きっちりと見せてくれた。中でも、菅野茉里奈さんは、身体のラインもきれいだし、アラベスクで静止するポーズが柔らかくて美しかった。男性がゲストと子供一人しかいないので、キャラクターダンスのインパクトが弱いのは仕方ないか。

パ・ド・トロワとナポリを踊った長澤美絵さんが、小柄だけど、とても可愛らしく軽やかな踊りを見せてくれて素敵だった。全体的にダンサーの踊りがロシアン系で古典的、優雅な雰囲気の公演。何しろカーチャが素晴らしかったので、満足できた。

*******

レニングラード国立バレエ(ミハイロフスキー劇場)の「白鳥の湖」のカーチャ主演の日は、
<1/10(土)13:30>エカテリーナ・ボルチェンコ/ピョートル・ボルチェンコ 東京国際フォーラムAです。
会場がちょっとアレなんですが、観に行きたいです。
一般発売は今週末からです。
http://eplus.jp/sys/main.jsp?prm=U=82:P6=001:P1=0375:P2=015179:P5=0001:P7=1:P0=GGWC01:P3=0139

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2008/08/19

8/8,9 エトワール・ガラBプロ

すっかり時間が経ってしまって今更って感じなのですが、最近記憶力も怪しくなってきたので、少しでも覚えているうちに書いておこうと思います。2日分まとめて。

眠れる森の美女より「青い鳥」(振付:R. ヌレエフ)
メラニー・ユレル/アレクサンドル・リアブコ

2006年のハンブルク・バレエの来日公演で観た「眠れる森の美女」でのサーシャ(リアブコ)の青い鳥が、未だに鮮烈な印象がある。こんなに高く、鳥のように跳ぶ青い鳥を見たことがない、どこまでも飛んでいきそうな感じだった。だから、このガラでサーシャの参加が決まり、「青い鳥」を踊ってくれると聞いて本当に嬉しかった!一演目目だったので、絶対に遅刻しちゃいけないと思ったし。

で、やっぱりサーシャの青い鳥は素晴らしかった!高いブリゼ・ヴォレやアントルシャ・シスにはテクニックだけでなくエレガンスも備わっている。そして腕の動きはまさに鳥そのもの!自由で伸びやかでしなやか、まさに翼が生えているかのよう。ヌレエフ特有の細かく詰め込んだ振付なのにそれを感じさせず、指先や足先まで気配りが行き届いていて、軽やかなこと。2日目は、ちょっと疲れが出たのか、着地で手をついてしまったり、やや不調気味だったようだけど、初日はほとんど完璧。メラニー・ユレルも二日目は調子が悪かったようで、サポートつきピルエットが2回ほどぐらついてしまったけど、チュチュがよく似合っていて、典雅な感じではあった。


「モーメンツ・シェアード」(振付:R.V. ダンツィヒ)
エレオノーラ・アバニャート/マニュエル・ルグリ   ピアノ:上田晴子

ちょっと短くて強い印象が残らないで終わった演目だけど、流れるように美しい。ちょっと茄子紺のような色の衣装も素敵。そしてエレはやっぱりコンテンポラリーだと素敵。リフトされている姿がきれいにきまっているし、大人っぽいクールな表情も、猫系の顔によく合っている。ルグリのいつもながらによどみない、ロールスロイスの用途形容されるサポートにもブラボー。

「白鳥の湖」第2幕より
スヴェトラーナ・ルンキナ/マチュー・ガニオ

ルンキナの白鳥は、も~ロシアの白鳥!!!って感じ。身長が高いわけではないのに、小さな愛らしい顔、華奢で長い腕と脚、柔らかい上半身。今回出演のどの女性ダンサーよりも、クラシックな身体の持ち主で飛びぬけて美しい。観客までもが凍てついた湖畔に連れて行かれるような、冷たいマイナスイオンの空気で会場が満たされる。ルンキナの白鳥はとても悲しく儚い白鳥。一方の王子は、これまた美しい、絵に描いたような王子のマチュー・ガニオ。王子は一生懸命白鳥に愛を伝えようとするのだけど、ついぞ白鳥は、王子に心を開いてくれませんでした。アダージオの間、二人の距離は縮まらなかった。王子に白鳥は癒されなかったのだ。


「ロミオとジュリエット」第3幕より“寝室のパ・ド・ドゥ”(振付:J.ノイマイヤー)
シルヴィア・アッツォーニ/バンジャマン・ペッシュ

いきなり寝乱れたベッドから始まるというちょっとアダルトなシーン。とても可憐で少女そのもの、妖精のようなシルヴィアと、ちょい悪系のバンジャマンなので、悪い男が何も知らない少女をたぶらかしたかのよう。金髪を垂らして眠っているジュリエットの頬にキスをするバンジャマン、うーんセクシー。悪い男なんだけどけっこう純情で、情熱的で…ってそれはロミオと違うじゃん、というのは置いておいて、バンジーは役者だと思う。目覚めたジュリエットに背中から抱きつかれ、マントを前方に飛ばす。初夜が明けて、永遠の別れが待っているというのに、シルヴィアのジュリエットはどこまでもピュア。ロミオと無邪気に手を合わせて戯れる。ジュリエットはまだ14歳なんだなって、でもこれからの数時間で、何年分も成長しちゃうんだなって。そんなジュリエットを置いてきぼりにするように、ロミオは走り去ってしまう。そしてプロコフィエフのドラマティックな音楽が鳴り響き、ジュリエットをわが身に重ねながら、恋人たちを待っている運命に思いをめぐらせ、切なさに胸が切り裂かれそうになる。来年デンマーク・ロイヤル・バレエの来日公演で、このノイマイヤー版を見られるのが楽しみ!


「カノン」(振付:イリ・ブベニチェク)
マチュー・ガニオ/アレクサンドル・リアブコ/イリ・ブベニチェク

昨年の「融」公演でパッヘルベルのカノンに乗せて、ドレスデン・バレエのダンサーによって全編が踊られた作品が、また観られるので嬉しかった。イリ・ブベニチェクが振付けた「カノン」は、音楽的この上なく、至福の時間。3人のダンサーがユニゾンで動いている時の美しさと言ったら!サーシャもマチューも魅力的だったけど、初日マチューが他の二人と並んでしまうと、音に遅れるところがあった。二日目は慣れたのか、遅れなくなった。ダンサーとしてのイリの存在感がすごくて、驚異的な柔らかさと強靭さ、マスキュリンさ、音楽性…。底知れぬ才能を持った人だと改めて実感。生きている、生身の人間がいる!と思わせてくれた。3人のダンサーが背中を向けて舞台の奥へと歩いていくところから始まり、一旦暗転。最初にサーシャ、次にイリ、そしてマチューがまさにカノンのように、一人ずつ踊り、そしてユニゾンのパートへ。マチューの動きが一番クラシカルだし、身体のラインは本当にきれい。サーシャは、踊ることが幸せで仕方ないという風に、のびのびと踊っているし腕がきれい!いつまでも観ていたい、終わって欲しくない、そんな素敵な作品だった。今回のガラで上演された作品の中でも、一番好き!


「瀕死の白鳥」(振付:フォーキン)
マリ=アニエス・ジロ   ピアノ:上田晴子

羽のたくさんついた、とてもボリュームのあるチュチュを着たマリ=アニエスがパ・ド・ブレで滑るように滑らかに入ってくる。腕の動きは細かくて、腕そのものが意思を持って動いているかのよう。瀕死の白鳥とはいっても、しに直面した印象は受けない強さ、凛々しさがある。そして彼女の背中の強靭そうな筋肉の蠢き。こんなに強く戦う意思を持った白鳥でも、死んでしまうのかと思うと、生命の無常を感じる。音楽もピアノの演奏だし、一般的に考えられる儚い「瀕死の白鳥」ではまったくないのだけど、自身がそういった瀕死の白鳥が似合わないことを判っていて、あえて自分なりの独自のアプローチでこの作品を踊ったマリ=アニエスの心意気は感じた。


「マーラー交響曲第5番 アダージェット」(振付:ノイマイヤー)
シルヴィア・アッツォーニ/バンジャマン・ペッシュ

シルヴィアとバンジャマンが並ぶと、身長のバランスがちょうど良いのがよくわかる。そして、ちょっと「アポロ」の衣装に似た白い衣装が、彼によく似合っていて、つるりとした彼のストイックな筋肉とあいまって、意外なことに彫刻のような美しさと神聖さを感じた。そしてシルヴィア!物語のない、シンフォニック・バレエ、しかも「アダージェット」を使っているのだけど、この曲に特段の思い入れのない私にとって、シルヴィアはとても純化された、月日を経て磨かれた宝石のような美の化身になっていて、なんともいえない情緒や普遍性を感じさせてくれた。


「ドリーブ組曲」(振付:ジョゼ・マルティネス)
エレオノーラ・アバニャート/マチアス・エイマン

マチアス!!!彼を観ると、なんでこんなにも頬が緩んでしまうんだろう。彼の未だ見えざる、無限の可能性をかいま観る気がした。去年のルグリガラから1年でこんなに成長するとは。まだ荒削りの部分もあるけれども、どこまでも高い、胸のすくような跳躍の中にもあるエレガンス、そして独特の甘さが魅力的で、目が離せない。彼は観客に愛されるダンサーのようで、全体のカーテンコールの時も、ルグリの次くらいに多く拍手をもらっていたと思う。あの逆回転マネージュも難なくクリア。エレオノーラは、アニエス・ルテステュデザインの紺色の衣装が金髪によく映えて美しい。彼女がこのようなクラシック寄りの演目を踊るのは珍しく、飛ぶ鳥を落とす勢いのマチアスと並ぶと、若干古典技術の弱さが見えてきちゃう。軸足を変えてのピルエットなど難しいテクニックが山盛りになっている作品で大変そうだったけど、ノーミスでちゃんと踊れてはいた。

 
「トリオ」(振付:S.L. シェルカウイ)
マリ=アニエス・ジロ/イリ・ブベニチェク/アレクサンドル・リアブコ

プログラムには「デュオ」となっていたけど、結局サーシャが加わって「トリオ」になった。音楽は「ファド」という民族音楽ジャンルの、哀感ある女性ヴォーカル。まずはサーシャのソロ、続いて、長い赤いドレスをまとったマリ=アニエスとイリの踊り。マリ=アニエスのスカートを頭にかぶせるところが面白い。この二人のパ・ド・ドゥには二人の間の信頼関係みたいなのか感じられて、じーんとした。その次は、スポットライトを真ん中にして、片側にイリ、片側にサーシャが左右対称な感じで踊る。そしてモスグリーンのやはり長いドレスを着たマリ=アニエスのソロ。またスカートを頭にかぶって斃れこむ。最後は、男性二人が加わり、まずマリ=アニエスがゴロゴロと転がり、ついでサーシャ、最後にイリが一緒に、ほとんど横一直線にゴロゴロと前へと転がっていく。この転がり方がスムーズなのに感心した。最初はすごく面白いな~と思っていたけど、途中からちょっと長いかも、と感じるように。が、最後の3人ゴロゴロはちょっとシュールで笑っちゃうほどだけど、独創的。力のある3人のダンサーがこういう作品を踊るのは興味深い。


「マノン」第1幕第2場より“パ・ド・ドゥ”(振付:マクミラン)
スヴェトラーナ・ルンキナ/マニュエル・ルグリ

ルンキナが演じるマノンの、無邪気さの中に小悪魔性を秘めた美しさ。そう、本物の悪魔は、悪魔の姿をしているんじゃなくて、こんな風に黒い巻き毛を白い肌に垂らした純情可憐な美少女の中に住んでいるものなのだってことがよくわかる。手紙なんか書くのやめちゃいなさいよっと、マノンがデ・グリューから羽ペンを奪って放り投げるところなんか、矢印のついた尻尾が覗いちゃって。でもそんなことをされちゃって、デ・グリューは嬉しくて嬉しくて仕方ない。目をキラキラさせちゃってハートにしちゃって。ルンキナを軽々と、ボールを転がすようにリフトするルグリ!しかもこの人は、演技で20歳は若返ることができるから、びっくり。恋する青年そのもの。手をつなぎながら回転したり、お互いに引っ張り合ってバランスを取ったアラベスクするところも軽やかで、もう。最後にマノンをぎゅっと抱きしめる時のルグリ先生の熱さといったら。うっとり。ガラの中でのシーンとしては、十分満足できた。「マノン」の全幕観たいな~。

カーテンコールでは、ルンキナがルグリの腕の中に飛び込んでお姫様抱っこ状態になるというサービスまで見せてくれた!本当にルンキナは天使の姿をした悪魔だわ。


こんな豪華な公演が、こんなお値段で観られていいの、と思うほどの充実振り。素晴らしかった!功労者バンジャマンに大感謝。しかし、プロデューサーなのにその他大勢で普通にカーテンコールされるバンジーって、控え目な性格なのね。事情を知らない人は、彼がそういう立場だって気がつかないだろうに。というわけで、実はここしばらく、バンジャマン・ペッシュ株が私の中で急上昇中なのだ。

単なるパ・ド・ドゥ集ではなく、組み合わせを変えてのペア、男3人で踊る作品、ソロ、男女トリオという変則的な作品の数々。ガラで良く上演されるシーンだけではなく、「ロミオとジュリエット」の3幕PDDやマドリガル、「ラ・バヤデール」1幕から切り取ってみたり、「椿姫」も黒ではなく青のPDDだったり、工夫がふんだんに凝らされているのも良かった。また世界初演作品や日本初演作品もあったし、意欲的なプログラムぞろいだったと思う。

次回も絶対にこの企画は開催して欲しい。その時には、出演者の降板で実現しなかったプレルジョカージュの「Trait d’union(アン トレドュニオン)」 や「受胎告知」を上演して欲しいな、というのが主催者(Bunkamura様様)とバンジーへのお願い。そして今回出られなかった3人も出られるといいな。特にエルヴェとレティシア。(あ、誰か忘れている?)

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2008/08/17

8/16 東京インターナショナルバレエカンパニー「夏休み親子芸術劇場」

第一部 ガラコンサート

  ダイアナとアクティオン    安部麻依子  シェエ・ジョンソン (メトロポリタン・クラシカル・バレエ)
  騎兵隊の休日         長澤美絵(ドネツク劇場) ミハエル・マルテニュク(クレムリン・バレエ)
  スターズ&ストライプス    中村優 イワン・シートニコフ(マリインスキー劇場)
  チャイコフスキー・パドドゥ   菅野茉莉奈(ベルリン国立バレエ) シェエ・ジョンソン
  海賊               桜堂 詩乃 イワン・シートニコフ
  ドン・キホーテ          玉井るい(ウィーン国立バレエ) ミハエル・マルテニュク 他


第二部「バヤデルカ」結婚の場

ガムザッティ  エカテリーナ・ボルチェンコ(ミハイロフキー劇場) 
ソロル ピョートル・ボルチェンコ(ミハイロフキー劇場)
ニキヤ  菅野茉莉奈
ブロンズ・アイドル  ミハエル・マルテニュク 

あるご縁から見せていただいた公演。基本的には発表会なのだけど、ミハイロフスキーに揃って入団したボルチェンコ姉弟(双子の姉エカテリーナはNHKがワガノワを取材したドキュメンタリー「地球に好奇心」のカーチャとして有名になった)が出演したり、海外からのゲスト、さらに出身者で海外のバレエ団で活躍している人も出演するということで面白そうだなと思っていた。

コンクール入賞者のちっちゃい子たちのソロなども入っているけれども、小学生の女の子が踊っていた「ドン・キホーテ」のキトリのヴァリエーションなどはなかなか堂に入っていて良かった。ボリショイやマリインスキー関係など、ロシアの教師が指導しているので、上半身がロシアンできれいな人が多い。

ディアナとアクティオンは、シェエ・ジョンソンがアメリカンな感じの、なかなか力強いアクティオンを踊っていた。テキサスのメトロポリタン・クラシカル・バレエは、元ボリショイのスター、アレクサンドル・ヴェトロフが芸術監督を務めているところ。なかなか良かったと思う。「スターズ&ストライプス」はちょっとダメだったかな。イワン・シートニコフはマリインスキーに2006年に入団したコール・ドのダンサーで、背が高く金髪でハンサムなのだけど、あまりにも細すぎる感じ。母親がワガノワの著名な教師イリーナ・シートコワとのこと。そしてパートナーの方は、それに対してちょっと太すぎて、ピルエットをしていてもちゃんと止まれなかったり、ミスが目立った。

「騎兵隊の休日」は、ウクライナのドネツク劇場のソリスト長澤美絵と、クレムリン・バレエのプリンシパルで、新潟県中越沖地震チャリティガラにも出演するミハエル・マルテニュク。マルテニュクは初役だという。長澤美絵さんはとても可愛らしいダンサーで、村娘の衣装がよく似合っていて丁寧で柔らかい踊り。ミハイルのほうは、テクニックがあるのがよくわかった。ピルエットの軸がぶれないで、10回くらい軽くきれいに回っている。ちょっとアジア系の風貌。

「チャイコフスキー・パドドゥ」を踊った菅野茉莉奈さんは、ベルリン国立バレエに入団したばかりで、プロポーションがよく華やかな雰囲気。このチャイコフスキー・パ・ド・ドゥはなかなか良かった。欲を言えば、コーダでのフィッシュダイブはもっと大胆にやって欲しいなって思うけど。

前半トリの「ドン・キホーテ」の前に、急遽、ボルチェンコ姉弟によるコンテンポラリー作品が入った(タイトルは失念)。ピョートルが一人で座っていると見せかけて、その後ろにエカテリーナもいて、まるで千手観音のように腕を動かしていくところから始まる。二人が立ち上がると、ピョートルの背の高さにびっくり。エカテリーナはたぶんロシアのバレリーナとしては平均的な身長で、バランスの取れた美しいプロポーションなのだけど、二人が並ぶと、エカテリーナはピョートルの顎のところくらいまでしか背がないのだ。おそらく彼の方は190㎝以上あるのではないかと思われる。顔が小さく、また細身なので、ちょっと人間離れした縮尺という感じ。そのプロポーションに驚いて、肝心の作品をちゃんと観られていないのだけど、エカテリーナが、人をひきつける魅力を持ったバレリーナであるのはよくわかった。

「ドン・キホーテ」のGPDDは、ヴァリエーションつき。こっちはとにかく、ミハイル・マルテニュクのバジルが良かった。ピルエットがすごくて、全然ぶれずに12回くらい平気で回っちゃうけど、テクニックバリバリというよりは、気品もあって正確。ピルエット・ア・ラ・スゴンドのほうもすごくて、会場は大いに沸いていた。それから、マネージュの時の脚の開き方や、つま先の美しさ、そしてスピード感も申し分なし。ちゃんとバジルらしい見得の切り方も心得ていてとても良かったと思う。若干背が低めなのかな。(178cmと聞いていたけど、ロシアのダンサーにしては小さいよね)キトリの玉井るいさん、ヴァリエーションは扇子なし。でもテクニックはしっかりしていて、フェッテも、スピードはゆっくり目できっちり32回回っていた。


第2部の「バヤデルカ」結婚の場は、一応壷の踊りや太鼓の踊りまでしっかりある、2幕ほぼ完全版。ただし大僧正やラジャが出てこない。エカテリーナのガムザッティは華やかで、お嬢様っぽい高慢さ、貫禄と優雅さを備えていて申し分なし。イタリアン・フェッテは、軽々と決め、グラン・フェッテはすべてシングルだけどきれいに回った。来年1月にこの二人はミハイロフスキー劇場の「白鳥の湖」で東京国際フォーラムAで主演するのだけど、エカテリーナの白鳥/黒鳥は期待できると思った。ピョートルの方は、姉に比べるとちょっとへたれかもしれない。非常に背が高いので、ジュッテはとても高く軽やかに上がるし、カブリオールも高くてきれいなのだけど、回転系は苦手そう。ヴァリエーションも最後にちょっと着地を失敗してしまって、決めポーズの位置も後ろ向きになってしまった。が、これだけ背が高くてほっそりしていて顔も小さく、ハンサムなダンサーはミハイロフスキー劇場にはいないので、貴重な戦力になりそう。(シェミウノフは背はすごく高いけど王子キャラではないから)

パ・ダクシオンが、あまり揃ってはいないものの、キラキラ感はあってよかったと思う。それから、太鼓の踊り。これはロシア系でないとやらないのでなかなか貴重。ソリストの中村優さんが頑張っていて、パワフルに仕上げていた。壷の踊りも可愛らしかった。ブロンズ・アイドルは第一部でも大活躍していたミハイル・マルテニュク。顔と髪は金色に塗られていたけど、体の方は塗りが足りなかったようだ。ブロンズ・アイドルは初役ということだったけど、こちらのほうも良かった。やっぱりピルエットが見事。パ・ド・シャも高さがあったし。後はもう少し仏像らしさを身につければばっちりだろう。

ニキヤは菅野茉莉奈さん。ウェストがとてもくびれていてプロポーションが良い。踊りの方もとても柔らかさがあって美しい。テクニックは正確だし申し分がないのだけど、花篭を渡されて微笑んだ後、かなり嬉しそうに笑顔を浮かべて踊っていた。嬉しい感情の方が大きく勝ってしまっていて、婚約者に裏切られる苦しみや哀しみ、その中でも自分を思ってくれているソロルへの愛、そういった複雑な感情を込めて踊るのはちょっと難しかったのかもしれない。しかし容姿やスタイルに恵まれているし、テクニックもあるので、ベル