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バレエ公演感想

2017/02/02

1/28.29 東京小牧バレエ団「白鳥の湖」倉永美沙、奥村康祐

東京小牧バレエ団の「白鳥の湖」は、バレエ団創立70周年記念公演。ボストン・バレエから倉永美沙さん、新国立劇場バレエ団から奥村康祐さんを迎えての上演。

オデット/オディール:倉永美沙(ボストン・バレエ プリンシパル)
王子:奥村康祐(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
ロットバルト:アルタンフヤグ・ドゥガラー
家庭教師ヴォルフガング:夏山周久
皇后:森理世(ミス・ユニバース2007世界一)
ベンノ:梅澤紘貴
王子の友人:平野玲、今勇也、宮本祐宜、五十嵐耕司、周藤壱、香野竜寛
パ・ド・トロワ:金子綾、山口麗子、梅澤紘貴
二羽の白鳥:佐藤侑里、水谷彩乃
四羽の白鳥:西村美紀、矢部李沙、西村仁美、真嶋菫(28日)、中村絢名(29日)
スペイン:周東早苗、五十嵐耕司、香野竜寛
ルスカヤ:金子綾(ソリスト)、西村美紀、矢部李沙、西村仁美、中村絢名(28日)、眞嶋菫(29日)
ナポリ:藤瀬梨菜、宮本祐宜
マズルカ:嶺岸葵、ビャンバ・バットボルド、髙浦美和子、平野玲、中尾優妙、今勇也
チャルダッシュ(ソリスト):深山美香、梅澤紘貴

演出・振付 佐々保樹
指揮 マーク・チャーチル(ボストン交響楽団)
演奏 東京オーケストラMIRAI

1946年8月9日~30日に帝劇において、「白鳥の湖」日本初演の演出・振付を小牧正英さんが行いロットバルト役を演じており、それ以来このバレエ団のレパートリーとして上演されてきた。

基本的にはオーソドックスな演出だが、1幕のワルツのコール・ド・バレエのフォーメーションはなかなかユニークで見ごたえがある。道化はいなくて、道化が踊る音楽のところで女性ダンサーたちの真ん中で踊るのは家庭教師。東京バレエ団で活躍した夏山周久さんが華麗なステップを見せてくれた。元東京バレエ団のダンサーも数人入る王子の友人たちは1幕と、2幕最初の湖畔のシーンで活躍する。
2、3幕もベーシックな振付で、3幕は王子とロットバルトは戦うものの、オデット、そして王子は身を投げて死を選ぶ悲劇版。新国立劇場やマリインスキーなど、最近観ている「白鳥の湖」はハッピーエンドが多かったので、久しぶりに悲劇版を観るのも良かった。

オデット/オディールの倉永美沙さんは、これぞワールド・レベルの白鳥。身長156cmとコール・ド・バレエに交じっても小柄なのに、その小ささを感じさせない。腕や脚を長く見せる術に長けているし、首や背中、胸の使い方をとても工夫していて、非常に踊りの表情が豊かでドラマティックなオデットを見せてくれた。冒頭のマイムはないのに、まるで台詞が聞こえてくるかのようにオデットの心情が伝わってくる。生き生きとしていて雄弁で、鳥というか動物なのだけど同時に女性として部分もある。これだけきっちりと作りこんで、強い存在感とドラマ性のある白鳥もいないのではと思うほど。悲劇的なのだけど、儚い存在ではなくて、逆境の中でも自分の運命を切り開こうとする意志を感じさせ、それは特にコーダの連続パッセに感じられた。

倉永さんのオディールは艶やかで魅惑的。緩急の付け方がくっきりとしているので一つ一つのポーズが映えるし、アンドゥオールも完璧でアラベスクなどのラインが美しい。鉄壁の技術は言うまでもなく、ヴァリエーションではピルエット2回回った後でそのまま3回目はアティチュードに脚を持って行って回るのを2セット。グランフェッテは、前半は全部ダブル、後半はシングル、ダブルの繰り返しで1日目はダブルの時に片手アンオ―で安定感抜群、パーフェクトだった。オデットの振りをするところで一瞬にして白鳥に変身するところはぞくぞくするほどの変貌ぶりだった。しっかりとこの役を自分のものにしており、これから先、どんなふうにさらに進化させられるのかが楽しみだ。

奥村さんの王子は、とてもイノセントでまっすぐなのだが、ほんの少し孤独の影が漂い、1幕や湖畔の最初で友人数人といるところでも少し断絶を感じさせている。そんな彼の前に現れたオデットこそがその孤独を癒してくれる存在なのであっという間に恋に落ちる。子供の時から地主薫バレエ団で倉永さんと学んできた奥村さんなので、二人のパートナーシップはとても自然で息もよく合っているしサポートも万全。3幕でオデットそっくりのオディールが現れたときの嬉しそうな様子と言ったら。

奥村さんは踊りの方も絶好調で、特に3幕のヴァリエーションは見事だった。軽やかで美しい跳躍、トゥールザンレールではしっかりとプリエを効かせて完璧な5番に着地。ラインもエレガントで、これぞダンスールノーブルというパフォーマンスで、世界中どこに出しても恥ずかしくないレベル。オディールの正体を知った時の悔やみ悲しむ様子、ロットバルトに戦いを挑む4幕での情熱、貴公子らしさの中でも情熱を感じさせて、たとえ悲劇に終わったとしても、このような熱い想いで愛を貫くことができて彼は幸せだったのだろうと思わせてくれた。新国立劇場バレエ団では、プリンシパルであるにもかかわらずなかなかパートナーに恵まれていない彼だが、倉永さんという互角のパートナーだとここまで輝くのだと実感。

モンゴルからのゲスト、アルタンフヤグ・ドゥガラーのロットバルトは、踊る場面はそれほどないのだが、美しい身体のライン、妖しさを感じさせる存在感はさすがだった。ベンノ役に元東京バレエ団の梅澤紘貴さん、彼も貴公子らしいダンサーで、この版はベンノもかなり活躍するので一瞬彼が王子だったっけ?と思うほど。友人たちにも、平野玲さん、宮本祐宜さん、周藤壱さんと東京バレエ団OB組がいて充実したメンバーだった。王妃役には、元ミスユニバースの森理世さん。さすがに美貌で長身の立ち姿に威厳があり、ダンススクールで教えているだけあってマイムも美しかった。王子の実母には若いので、王の後妻なのかな、と思わせるところも面白い。パ・ド・トロワの金子綾さん、山口麗子さんも足先などのパがクリアで良かった。

特筆すべきはコール・ド・バレエのクオリティ。非常に良く鍛えられていて綺麗に揃っていた。4羽の小さな白鳥は特に一つ一つの動きが見事にシンクロしていたし、大きな白鳥の二人も伸びやかで美しい。4幕で幕が開き、アシメントリーに配置された白鳥たちがポーズしている姿がうっとりするほどの美しさで、思わず大きな拍手が出たほど。オデットと王子が身を投げた後、白鳥たちがロットバルトも死に追いやるのだが、それだけの一丸となった力を感じることができた。年に1、2回しか公演を行わない団体でも、これだけのクオリティのコール・ド・バレエをつくりあげることができるのだと感銘を受けた。

ボストン・バレエでも指揮をしていたマーク・チャーチルを指揮者として招聘していたので、音楽のクオリティも高かった。ダンサーをよく見て指揮をしているし、2幕コーダのオデットのソロでは途中まで音の速度を極限まで落として、最後にスピードを上げることでとても効果的で、倉永さんの踊りの持ち味を存分に見せることができていた。

コール・ド・バレエの美しさ、そして世界トップレベルの主演による見事な公演で、「白鳥の湖」という作品の魅力を存分に味わえて、心を動かされたパフォーマンスだった。奇をてらった演出をしなくても、きっちりとつくりあげて、息の合った主演ペアがいて演奏が良ければ、バレエで感動を味わえるという見本のような舞台。

2017/01/27

1/22夜 日本バレエ協会「ラ・バヤデール」長田佳世さんのさよなら公演

1/21と22日の昼・夜は、日本バレエ協会の「ラ・バヤデール」公演。初日の酒井はなさんも観たかったけど、22日昼公演は私の先生がソリストで出演しているし、夜公演は長田佳世さんの引退公演なので、決して見逃してはいけなかった。

昼公演の瀬島五月さん、法村珠里さんの関西2大プリマ・バレリーナが火花を散らした昼公演も、とても素晴らしかったけど、夜の長田さんの公演は、これほど心に残るパフォーマンスはなかったと言えるほどの公演だった。バレエの神が下りて来たと思うほど見事だった。


ニキヤ:長田佳世
ソロル:橋本直樹
ガムザッティ:馬場彩
バラモンの高僧(大僧正):マイレン・トレウバエフ
ドゥグマンタ(ラジャ):桝竹眞也
黄金の神像:高橋真之
苦行僧マグダヴェヤ:土方一生
アイヤ:鈴木裕子
神に捧げる踊り:輪島拓也
壺の踊り:桝谷まい子
太鼓の踊り:楠元結花,佐藤祐基,下島功佐
影のソリスト:増原聖、阿部碧、平尾麻美

音楽:レオン・ミンクス
原振付:マリウス・プティパ
改定振付・演出:法村牧緒

指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽:ジャパン・バレエ・オーケストラ


改訂振付の法村牧緒さんは、1966年に「ラ・バヤデール」が日本初演された時のソロル役。今回の上演は、マリインスキー劇場版をベースに、元ミハイロフスキー劇場バレエマスターのユーリ・ペトゥホフによる結婚式での神殿の崩壊の場面が加わっている。オーソドックスではあるが、最終幕ではニキヤの怨霊が出てくるなどドラマティックさもあった。

ニキヤ役の長田さんは、どんな瞬間を切り取っても精確で美しく、技術的に完璧なのは言うまでもないのだが、精神性がものすごく高く、一つ一つの動きに魂がこもっていて語りかけてくれるのが素晴らしい。1幕では本当に神に身を捧げた聖なる巫女でありながら恋する女でもあった。ニキヤってものすごく生身の女というキャラクターなのだけど、長田さんの解釈ではニキヤも聖性を強く感じさせている。控えめで奥ゆかしいのに、強い想いは伝わってくる。2幕の花籠の踊りは、全身から涙を流しているような悲痛な心情を歌いあげていたけど、ソロルからという花籠を手渡されて、花開いたように表情が明るくなる。ハイテンポの踊りで高揚したのちに仕込まれた蛇に噛まれ、歓び転じての絶望と死。歓びが大きかっただけに、ソロルに裏切られた悲しみが深かったことを感じさせた。

長田さんの影の王国でのこの世のものならざる存在感も見事だった。阿片に酩酊したソロルが最初に見るニキヤの幻と、実際に降りて来たニキヤの幻影ですら、別の存在として舞台の上に立っている。魂だけの存在になっていて、足音も全くさせていなくて浮遊感があり、幻だと感じさせるのだが、一方で死をも超えた強い想いは伝わってきた。技術的に難しい、ヴェールを持った回転のパ・ド・ドゥも完璧に仕上げていた。ほっそりとした肢体で、アラベスクのラインもアカデミックで美しく、見事なアンドゥオールで、音楽性も豊か。影の王国のコーダでは、ニキヤは柔らかい微笑みを浮かべていた。この場面で微笑みながら踊る人というのを見たのは初めてだが、最後に会心の踊りを行うことができた満足感もあったのかもしれない。

この日の長田さん、素晴らしいパフォーマンスで終えることができた幸せが舞台からにじみ出ていた。だからカーテンコールでも、新国立劇場のさよなら公演「シンデレラ」の時のような涙よりも、涙の中でも笑顔が輝いてた。ソロル役には、K-Ballet時代の同僚橋本直樹さん、大僧正には新国立劇場のマイレン・トレウバエフ、神に捧げる踊りのパートナーは、K-Balletと新国立劇場で同僚だった輪島拓也さん。気心の知れたパートナーたちと踊ることができたのも功を奏したのだろう。ボリショイ・アカデミーで学び、ロシアバレエの神髄を知る長田さんにとって、「ラ・バヤデール」が最後の舞台となった意味もよく分かった。

心技体と最も充実していて、ダンサーとしてのピークのところで引退されてしまうのは実にもったいないし、彼女は若いダンサーにとっては素晴らしいお手本となることだっただろう。フェリやイザベル・ゲランのようにいつか戻ってきてくれたらいいのに、と思った。日本には、大人のバレリーナが活躍できる場が少ないのが惜しい。その数少ない場に、この日本バレエ協会の公演があった。(観ることができなかったけど、前日の酒井はなさんのニキヤも素晴らしかったとのこと)

ガムザッティ役は、馬場彩さん。米国アーツバレエシアターオブフロリダ所属で、昨年のヴァルナ国際コンクールでは2回戦まで進出した若手ダンサー。色白で美しいけど世間知らずのわがままなお嬢様という雰囲気がぴったり。ヴァルナだけでなく、ローザンヌやYAGPでもスカラシップを受賞しているだけあって、技術に優れており、特に2幕の婚約式でのイタリアンフェッテからグランフェッテへの流れは見事だった。綺麗にピタッと止まるイタリアンフェッテは特に素晴らしかった。個人的には、ニキヤとガムザッティが同レベルだった昼公演の方がバランスが取れていたとは思うものの、馬場さんという魅力的な若手ダンサーを見ることができたのは良かった。

ソロルは橋下直樹さん。K-Ballet時代の同僚であるだけでなく、彼もボリショイ・アカデミーでバレエを学んでいただけあって、長田さんとの相性もよくパートナーリングがとても良かった。ソロル役は似合っており、途中まではとても良かったのだけど、影の王国のコーダ、ドゥーブルアッサンブレは難所だったようで、ダブルになっていなかったのが惜しい。ソロル役というのがいかにハードな役柄かというのがよくわかった。とはいえ、物語性はしっかりと感じさせてくれたし、長田さんへの敬意が伝わってきたもの良かった。

バラモンの高僧(大僧正)には、マイレン・トレウバエフ。実に濃厚な演技でドラマを盛り上げてくれた。最初から、ニキヤに対する燃え滾る熱い想いを隠せない様子。ラジャとの密談の中でも、ラジャが彼女を亡き者にしようという意図を読み取って慌てるし、婚約式の花籠の踊りの時の落ち着かない様子や、ニキヤの死で見せた深い嘆きと後悔。本当にニキヤを愛していたのはソロルより大僧正ではなかったのか?と思ってしまうほどだった。この版では、最後のシーン、寺院の崩壊で全員死んだ後で、一人大僧正が生き残り、寺院のがれきの上で祈りを捧げる。長田さんの同僚だったマイレンが最後に舞台を締めくくってくれたのも、感動的だった。

ブロンズアイドルには、NBAバレエ団の高橋真之さん。少し故障していたようで前半着地がずれるところはあったものの、後半の伸びやかで軽やかな踊りは流石。太鼓の踊りも大迫力だった。

影の王国は、オーディションで集めたダンサーたちだったけど、とても良く揃っていた。バレエミストレスの杉山聡美さんを始め、新国立劇場の楠元郁子さんと千歳美香子さん、そして佐藤真左美さんによる指導が行き届いていた模様。スロープは2段だがかなり傾斜があった。スロープを降りた後のエカルテではどうしてもぐらつく人が出てきたものの、全体的にはとても美しかった。第一ヴァリエーションの増原聖さんが、とてもやわらかくて強靭で、足音をさせない踊りで素晴らしかった。

すっかりおなじみとなったアレクセイ・バクランの指揮ぶりは熱く、国内メジャーオケの精鋭から構成されたジャパン・バレエ・オーケストラの演奏もとても良かった。長田さんの引退公演にふさわしい、感動的で美しい舞台に仕上がったと思う。カーテンコールは鳴りやまず、最後は会場内は総立ちになり涙が止まらなくなった。本当に数々の素晴らしい舞台を、長田さん、ありがとうございました。特に去年の「子どものための白鳥の湖」「シンデレラ」そして「ラ・バヤデール」は、心の中の宝物となるような美しく忘れがたい舞台だった。いつでも戻って来られるのを待っています。

Dance Squareで「ラ・バヤデール」3公演の舞台写真を見ることができる。
http://dance-square.jp/tbb1.html

2016/10/31

10/15 イスラエル・ガルバン「FLA.CO.MEN」

「FLA.CO.MEN」【日本初演】

10月15日(土)17:30
名古屋市芸術創造センター
主催:
あいちトリエンナーレ実行委員会
公益財団法人名古屋市文化振興事業団(名古屋市芸術創造センター)

振付・演出・ダンス Israel Galván
歌 David Lagos, Tomás de Perrate
ヴァイオリン・バス Eloísa Cantón
ギター・歌 Caracafé、 Proyecto Lorca
サクソフォン Juan Jiménez
パーカッション Antonio Moreno

http://aichitriennale.jp/artist/israelgalvan.html

5月にアクラム・カーンと共演する「TOROBAKA」で来日する予定だったイスラエル・ガルバンだったが、怪我で公演が中止となってしまった。この前の週にやはりあいちトリエンナーレで上演された「Solo」があまりに評判が良く、急きょ観ることにしたのだった。

舞台の上には、パーカッション、ドラムセット、そして譜面台。そこへなぜか白いエプロンをかけたイスラエル・ガルバンが足を小刻みに動かしながら登場し、そして女性ヴァイオリン奏者エロイサ・カントンが登場。ガルバンが歌うようにダイアローグを述べると、ヴァイオリン奏者が日本語に通訳するユーモラスなやり取り。やがて彼は、目にも止まらないようなものすごく速い動きでサパテオ(フラメンコの足の動き)を見せる。

フラメンコの革命児と呼ばれるガルバンは、なるほど自由奔放で型破り、大胆な動きを見せてくれる。しかしそれは、しっかりとしたサパティアードの技術に基づいたもの。素早い足の動きはタップダンスのようでもあるが、上半身の動きはエレガントで、また手の表現も細やかで豊かだ。細身の身体がとてもしなやかで、長い腕で見せる一つ一つのキメポーズが実にスタイリッシュ。しっかりした軸とアプロンがあるので、すべてが美しい。フットペダルをサパテオで踏んでドラムを演奏したり、木の箱を叩いて鳴らしたりブーツを楽器代わりにしたり、舞台の上に小銭をばらまいてその上で踊ったり、舞台上を縦横無尽に駆け回ったかと思えば、椅子に座って休んで水を飲んだり何か食べていたりする。フラメンコが地面を踏んだり手を叩いて音を出すダンスであることもあって、彼の音楽性はずば抜けており、だからこそドラム演奏だってすごいわけなのだ。

一見フラメンコを脱構築し、型破りでゆるいように見えて、しっかりと構成された作品である。1人ずつミュージシャンが入場してきて演奏を始め、楽器の数が増えて音楽が厚くなっていくところからしてうまい。明暗と色彩を巧みに使った照明も場面転換として機能し、構成を見せるのに効果的で見事だ。そしてミュージシャンたちも個性的で魅力的。ガルバンと舞台上で絶妙なやり取りを展開するだけでなく、音楽がダンスそのものをつくりあげているということを実感させるし、ガルバンも音楽と一体化している。

それだけでなく、ミュージシャンなのに皆やけに踊りが上手くて、途中でガルバンと一対一で踊ってちゃんとついて行ける人もいるし、パーカッション奏者などは途中で上半身裸になって、自分の上半身を叩きながらステップを踏みソロダンスまで見せてくれるのだ。フラメンコに欠かせない歌は、哀愁は帯びているもののウェットにはなりすぎない上に、歌手が抜群のリズム感を持っているからとても楽しく、時にはラップのようでもある。ダンスと歌、演奏の掛け合いも決まっていて、ジャズのインプロヴィゼーション・セッションのような雰囲気となる。

途中、ガルバンは客席まで降りて行って歩き回り、客席の通路でも見事なサパディアードやピルエットを見せた上で、客いじりまでしてチャーミングさを発揮してくれた。

クライマックスでは、ヴァイオリン奏者が奏でるリコーダーの音色で、ミュージシャンたちが全員で踊り、まるでハーメルンの笛吹きについていくかのように舞台を去っていく。そしてカーテンコールで踊りながら登場したガルバンは、白に赤い水玉のドレスを着て、そのドレスが脱げそうになるまでノリノリで踊ってくれてしまいには床に転がったた。ここが名古屋でなく、スペインのどこかの広場にいるかのような気持ちになり、幸せで満たされた。

イスラエル・ガルバン、超絶技巧の持ち主であるけど、いたずらっ子のようにチャーミングで、セクシーで、お茶目で大胆で、圧倒的な魅力の持ち主だった。クラクラさせられるような彼のダンスをまた観られる日が近いうちにあることを祈る。


今年9月のリヨン・ビエンナーレでの映像をarteで視聴できる。
http://concert.arte.tv/fr/flacomen-disrael-galvan-la-biennale-de-la-danse-de-lyon

2016/10/20

あいちトリエンナーレ ヴェルテダンス『CORRECTION』

10月15日は、名古屋に日帰りであいちトリエンナーレに行ってきて、3公演観てきました。9月のプロデュースオペラ「魔笛」に続くトリエンナーレでです。

ヴェルテダンスの『CORRECTION』は、東京の Dance New Air でも上演されたのですが、時間が合わなくて観に行けなかったのでした。(Dance New Air では、3公演観ました。10月のダンス公演の多さといったら殺人的な勢いで、10月18日現在、10月に18本もパフォーマンスを観たことになります)愛知で観ることができて良かったです。

ヴェルテダンス(チェコ共和国)
VerTeDance, Jiří Havelka, Clarinet Factory
『CORRECTION』(2014)
http://dancenewair.tokyo/program0104

演出:イジー・ハヴェルカ
振付・出演:ヴェロニカ・クニトロヴァー、テレザ・オンドロヴァー、マルチナ・ハイディラ・ラツォヴァー、カロリーナ・ヘイノヴァー、ロボ・ニジュニーク、ヤロ・オンドルシュ、ペトル・オパフスキー
音楽:クラリネットファクトリー(インドジフ・パヴリシュ、ルジェク・ボゥラ 、ヴォイチェフ・ニードル、ペトル・ヴァラーシェク)

会場に入ると、すでに7人のダンサーが舞台に立っている。等間隔で立っている彼らの靴は床に釘づけられており、その場から歩き出す自由を奪われている。ダンサーたちは、それでも必死に動こうとして、自分の影と格闘する。足を動かすことができないという、ダンスの大前提となる脚の動きを封じ込められた状態でどんなダンスができるのか。

背後にいるクラリネットのカルテットが奏でるちょっととぼけたミニマルな音楽に乗せて、ダンサーたちは様々な動きを見せる。お互いを突っつき合ったり、もたれかかったり、どついたり、ドミノ倒しのように倒れたり。絶妙な間合いとやり取りは、パントマイム劇を見ているようでもある。足が動かないからといって動けないと思ったら大間違いで、前へ後ろへ横へ、身体を大きく反らしたり、映画「マトリックス」の弾除けシーンのようにのけぞったり。床にぎりぎりつかない中途半端な高さのまま浮かんでいたり、足が固定された状態で倒れてしまって、必死に腹筋や背筋を駆使して元の立った体勢に戻ろうとしたり。台詞はなくても、視線やポーズで会話が聞こえてきそう。

時にはバナナや靴などの小道具も登場したり、ユーモアと不条理なセンスが最高に楽しい。様々な違うパターンの動きがあるので、時間が経つのも忘れて食い入るように見入っていた。

靴が床に釘づけられていて足の動きを封じ込められている、というのは一発アイディアのようだけど、それにとどまらず、いろいろと膨らませていて、センス・オブ・ワンダーを感じさせた。横一列に立って一歩も動けないのに、いろんな工夫をしてユニークな振付ができるものだ。とともに、ダンサーたちの驚異的な強靭さ、身体能力にも驚かされた。人間って凄いな~としみじみ感心したし、とても楽しかった。世界中のフェスティバルで大人気を呼んでいる演目だというのも納得。


あいちトリエンナーレのパフォーミングアーツ公演は、どれもキュレーター唐津さんの目利きによって充実したプログラムとなった。遠方から来た人でも、一日に3公演ハシゴすることが可能となっていたので交通費をかけただけの満足感が得られた、優れたプログラミングだったと思う。残りの公演もできるだけレビューできれば、と思う。(22日には、Co.山田うんの「いきのね」を観に再び名古屋へ)

2016/09/25

9/17 あいちトリエンナーレ プロデュースオペラ 勅使川原三郎「魔笛」

あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ
W.A.モーツァルト作曲『魔笛』

(全2幕・ドイツ語上演・日本語字幕付き・日本語ナレーション)
公演日時: 2016年9月17日(土)、19日(月・祝)各日15:00開演
会  場: 愛知県芸術劇場 大ホール

【指揮】 ガエタノ・デスピノーサ
【演出・美術・照明・衣裳】 勅使川原 三郎
【合唱】 愛知県芸術劇場合唱団
【管弦楽】 名古屋フィルハーモニー交響楽団
【キャスト】
賢者ザラストロ:妻屋 秀和
夜の女王:髙橋 維
王子タミーノ:鈴木 准
王女パミーナ:森谷 真理
鳥刺しパパゲーノ:宮本 益光
弁者&神官Ⅰ:小森 輝彦
恋人パパゲーナ:醍醐 園佳
侍女Ⅰ:北原 瑠美、侍女Ⅱ:磯地 美樹、侍女Ⅲ:丸山 奈津美
従者モノスタトゥス:青栁 素晴
神官Ⅱ:高田 正人
武士Ⅰ:渡邉 公威、武士Ⅱ:小田桐 貴樹
童子Ⅰ:井口 侑奏、童子Ⅱ:森 季子、童子Ⅲ:安藤 千尋
【ダンサー】
佐東 利穂子
渡辺理恵 川島麻実子 奈良春夏 沖香菜子 吉川留衣 矢島まい 三雲友里加 政本絵美
秋元康臣 宮川新大 氷室友 岡崎隼也 松野乃知 永田雄大 入戸野伊織 高橋慈生

http://aichitriennale.jp/artist/index.html#op

あいちトリエンナーレ2016のプロデュースオペラは、勅使川原三郎さん演出による『魔笛』。東京二期会を中心とした歌手陣、佐東利穂子さん、そして東京バレエ団のダンサーたちが参加しての舞台となった。

ゲネプロの舞台写真はこちらで観ることができる。
http://natalie.mu/stage/news/201978

http://ebravo.jp/archives/29017

愛知県芸術劇場の大空間に勅使川原さんがデザインした舞台装置はシンプルだ。3つの大きさが異なる金属製の輪が3組宙に浮かび動いて重なり合ったりして、時にはザラストロの神殿となったり壁となったりと様々な図形を描く。2幕では、もう一つ大きな輪も登場する。『魔笛』ならではの三位一体の世界観を巧みに象徴させている。夜の女王と三人の侍女は羽根と毛皮をあしらった黒のゴージャスなドレス、ダンサーたちは白いレオタードの上にシースルーのレースのぴったりとした衣装、パミーナ、パパゲーノ、パパゲーナは白(パミーナは青いタイツ)、ザラストロも白と基本的にモノトーンなのだが、タミーノは鮮やかなオレンジで戦隊モノのヒーローのような姿。

ここまではスタイリッシュなのだが、それ以外のキャラクターの姿はなかなか強烈だ。ぬりかべから大きな手が突き出たモノスタトゥスの滑稽な姿はあまりにもインパクトが大きいし、マシュマロマンというかテレタビーズのような着ぐるみ姿の愛らしい童子たち、エジプトの壺のような神官。タミーノを神殿まで導きながら、よちよち歩きをする童子たちの姿は実にキュートでフィギュアが欲しくなるほどだし、つま先で横歩きする神官たちの大真面目な姿も可笑しい。人間とそれ以外のキャラクターとの差別化がくっきりできていた。『魔笛』って歌詞はよく見てみるとかなりユーモラスなわけで、こういう面白おかしさを衣装で表現するのは、幅広い年齢層の観客にアピールするうえでも効果的だった。(前日には、中学生向けの招待公演も行われたとのこと)

今回勅使川原さんが採った演出手法は、本来歌手が言う台詞をカットして、日本語のナレーションを佐東さんに語らせるというもの。その間歌手はマイムをしたり、振付けられた動きをするものの、基本的には歌唱に集中し、ダンサーたちがキャラクターの心情を表現したり世界観をつくりあげる。ダンサー一人一人が登場人物と対になっているわけではなく、時にはタミーノを襲う大蛇に化けたりする。佐東さんのナレーションは滑舌もきれいで声もよく通りわかりやすいし、物語も理解しやすい。だが、日本語ナレーションでストーリーを説明するという演出については、作品の流れを少し阻害するところがあって、賛否両論はあるようだが、ゴテゴテとなりがちなオペラにあって、そぎ落とした簡素さで作品の本質を伝えようとしている。

東京バレエ団のダンサーたちは、バレエ団内でオーディションを行って16人の精鋭を選抜し、春からワークショップを行ったとのこと。普段踊っているようなクラシックバレエの動きではなく、勅使川原さん独特の重心が低い中で空間を上半身を大きく切り裂くように動かす振付で、慣れるのに苦労はあったと思うが、ダンサーたちは見事にモノにしていて、見ごたえがあった。さすがに佐東さんは群舞になってもその鮮やかな動きとスピード感で際立っているが、彼女とペアになって踊った入戸野伊織さん、岡崎隼也さんには存在感があったし、秋元康臣さんの動きの美しさも格別。ただ、1幕ではダンスのシーンが多いものの、2幕では冒頭と終盤くらいだったし、女性ダンサーの活躍のシーンが少なく、もう少しダンスを観たかった気もする。合唱団の背後にチラチラ見えるダンサーたちの姿は、ちらっとしか見えないのにとても効果的ではあったが。

歌手陣は大変充実していた。特にパミーナの森谷真理さんはパワフルな歌声の持ち主で、パミーナに強い意志を持たせていたし、パパゲーノの宮本益光は愛嬌ある演技がこのキャラクターにもぴったりで、すばしっこくダンサー顔負けに良く動いていた。パパゲーノと、とても魅力的なパパゲーナ役の醍醐園佳さんの「パパパパ…パパゲーノ」の二重唱も聴きごたえがあった。鈴木准さんのタミーノもはまり役。妻屋秀和さんの重厚な歌声はザラストロにふさわしい。ガエタノ・デスピノーサの指揮もとても良かったと思う。

レベルの高い歌手陣に演奏、そして勅使川原さんの演出にダンスと、大変充実して見ごたえ、聴きごたえのあった楽しい公演。総合芸術としてのオペラの価値とは何かということを考えさせられた。東京バレエ団と勅使川原さんのコラボレーションも、今後継続するといいと思う。


この勅使川原版『魔笛』は来年3月に神奈川県民ホールと大分のiichiko総合文化センターで、指揮者やオーケストラ、一部の歌手を入れ替えて再演される。オペラファンも、ダンスファンも観て損のない舞台だ。


神奈川県民ホール・iichiko総合文化センター・東京二期会・神奈川フィルハーモニー管弦楽団 共同制作公演
神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2017
W.A.モーツァルト作曲 魔笛 全2幕

公演日時: 2017年03月18日(土)~2017年03月19日(日)    開演:14:00 (13:15開場)

【指揮】川瀬賢太郎 【演出・装置・照明・衣裳】勅使川原三郎
【出演】18日/19日
ザラストロ:大塚博章/清水那由太 夜の女王:安井陽子/高橋維
タミーノ:鈴木准/金山京介 パミーナ:嘉目真木子/幸田浩子

両日出演/パパゲーノ:宮本益光 パパゲーナ:醍醐園佳
侍女Ⅰ:北原瑠美 侍女Ⅱ:磯地美樹 侍女Ⅲ:石井藍
弁者&神官:小森輝彦 モノスタトス:青栁素晴 神官Ⅱ:升島唯博
武士Ⅰ:渡邉公威 武士Ⅱ:加藤宏隆

ダンス:佐東利穂子 東京バレエ団 合唱:二期会合唱団
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

チケット発売 10/1(土)  かながわメンバーズKAme先行発売(インターネット受付のみ)9/17(土)
チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)http://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/
【チケット購入者特典】公開リハーサルとステージ見学:公演直前のいずれかの日程で開催予定。詳細は12月下旬頃ホームページにて発表予定。
【プレレクチャー】青島広志のたのしい名作オペラ講座 オペラ「魔笛」の魅力 2017年2月4日(土)14:00 小ホール

http://www.kanagawa-kenminhall.com/detail?id=34583


iichiko総合文化センター・神奈川県民ホール 共同制作公演
勅使川原三郎 演出 モーツァルト 作曲
オペラ『魔笛』

3月11日(土)

出演
川瀬賢太郎(指揮) 
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(管弦楽)
二期会合唱団(合唱)
http://www.emo.or.jp/img_file/information/145681304929412-2.pdf

2016/09/04

8/27、28 牧阿佐美バレヱ団 『飛鳥』

新制作/世界初演 飛鳥 ASUKA

牧阿佐美バレヱ団創立60周年記念公演-Ⅶ  
新制作/世界初演 飛鳥 ASUKA

改訂演出・振付 牧阿佐美 (「飛鳥物語」1957年初演台本・原振付:橘秋子)
音楽 片岡良和 
音楽監督:福田一雄
美術監督 絹谷幸二
映像演出 ZERO-TEN
照明デザイン 沢田祐二
衣装デザイン 石井みつる
指揮 デヴィッド・ガルフォース
演奏 東京フィルハーモニー交響楽団

http://www.ambt.jp/perform.html

Asuka

春日野すがる乙女 スヴェトラーナ・ルンキナ
岩足 ルスラン・スクヴォルツォフ
竜神 菊地 研

竜面の踊り 織山万梨子(28日)、米澤真弓(28日)、須谷まきこ(27日)、太田朱音(27日) 清滝千晴
竜剣の舞 青山季可
五色の布奉納舞 日高有梨 中川郁(27日) 高橋万由梨(28日) 成澤ガリムーリナ・マイカ
献舞使 逸見智彦、森田健太郎、塚田渉、京當 侑一籠
黒龍 佐藤かんな(27日) 茂田絵美子(28日)
雄竜(竜神の使い) ラグワスレン・オトゴンニャム

青竜 茂田絵美子(27日) 佐藤かんな(28日) 田切眞純美 三宅里奈
紅竜 織山万梨子(27日) 阿部裕恵(27日) 須谷まきこ(28日) 太田朱音(28日) 清滝千晴
銀竜 日高有梨 ラグワスレン・オトゴンニャム
金竜 青山季可


牧阿佐美バレヱ団の『飛鳥』は、バレエ団設立の翌年である1957年4月に橘秋子が振付け、その後幾たびか改訂されていった「飛鳥物語」をベースとしている。プログラムに、かなり詳しい上演の歴史と、どのように変更されていったかの記述があるが、「飛鳥物語」直近の上演である1986年版からどのような変更が加えられたのかは、明らかではない。片岡良和氏が1962年に作曲を行い、そして1976年に牧阿佐美が新しい演出振付を行ったということである。今回は、日本を代表する洋画家、絹谷幸二氏が本作のために作品「飛鳥に寄せて」を制作し、これを基にしたプロジェクションマッピング映像演出を行ったというのが大きな新機軸だ。

いにしえの都、大陸との交流盛んな国際都市・飛鳥。美(芸術)と権威の象徴である竜神を祀るお宮に仕える舞女たちの中で、春日野すがるをとめは一番の舞の手で大変美しい乙女でした。すがるをとめは竜神へ舞を奉納する栄誉を与えられますがそれは即ち、竜神の妃となり、二度と再び地上に戻ることは出来ないということ。すがるをとめは終生を芸術の神に仕えようと心に決めるのでした。一方、幼なじみの岩足(いわたり)は、美しく成長したすがるをとめの舞を見て思いを抑えらず、こぶしの花を差し出し愛の心を伝えますが、すがるをとめの決意は変わらず、竜神と共に昇天してゆきました。しかし竜の棲む深山に咲くこぶしの花を見つけると不意に、岩足への激しい慕情にかきたてられます……。


牧阿佐美バレヱ団が、自らのルーツを大事にして日本を題材にした作品を新制作し、美術などにも大変お金をかけて上演したのは英断である。片岡良和による音楽は、ハチャトゥリアンの影響を大きく受けているようだで、特に2幕の雄竜たちの群舞では、まるで「スパルタクス」を観ているようだったが、牧阿佐美氏が音楽の素晴らしさが新制作をしようと思ったきっかけだとパンフレットで語っているだけのことはある。スケールが大きくて変化に富み、初演の時に使っていたという雅楽を意識した東洋風の旋律も取り入れてよくできた音楽だ。

1962年版では3幕だった作品が、今回は2幕というシンプルな構成となった。1幕は、すがる乙女が竜神に舞を奉納して見初められ、岩足がこぶしの花を捧げるところまで。2幕は、竜の棲む山の中で王冠を受けて竜妃となったすがる乙女が、黒竜の嫉妬を逃れるものの、岩足を思い出して彼への想いを募らせるところから幕切れまでを描いている。1幕が人間の世界、2幕が竜たちの世界を中心に描いているというわけである。そのような地上と天上という世界観は、「ジゼル」や「ラ・バヤデール」に少し似ている感じがする。

人間の世界の中では、里の娘たちや男たちから女官や豪族たちまで登場し、華麗で繊細な衣装をまとったダンサーたちによる様々な踊りが展開される。日本的なモチーフを巧みにそして違和感なくバレエの衣装に取り込んでいるところが見られた。踊りの種類もバラエティに富んでおり、生き生きとしてエキゾチックな竜面の踊り、五色の布を使っての奉納舞や、重々しい宮廷舞踊をベテラン男性ダンサーたちが踊る献舞使の踊りなどは楽しめた。

ところが、2幕の竜たちの世界になると、ストーリーの部分は黒竜がすがる乙女に嫉妬し、竜王とすがる乙女の間に割って入ろうとするところと、終盤のすがる乙女が岩足を想い、そして結末まで至るところのみとなり、それ以外は本筋とあまり関係のないディヴェルティスマン大会となってしまう。人間の世界での衣装は美しかったのに、竜たちの衣装といえば、白いユニタードにヴェールがついているのみだ。牧阿佐美バレエ団のダンサーたちはみなスタイルがとても美しいので似合ってはいるのだが、ディヴェルティスマンの振付のバリエーションもあまりないうえ、竜たちに色の名前がついているけどヴェールに薄くその色が使われているだけで、区別もつきにくい。もう少し竜らしく見せる工夫をしてほしかったと思う。

また、ディヴェルティスマンも長すぎるように思えた。ダンスを通じて物語の風景を語ることについて、牧阿佐美氏はあまり得意ではないようだ。2幕のディヴェルティスマンがあまりに長いのに対して、物語の展開の部分が少なすぎる。また、1957年初演の作品なので致し方ないところだが、運命に立ち向かうことなくただ流されるヒロインを中心に据えた作品というのは、現代に上演するには人物像があまりに古い感じがする。キャラクター造形としては、竜王を愛しているが故にすがる乙女に歯向かう敵役の黒竜のほうが生き生きとしていて魅力的ですらある。

映像演出については、時々背景が目立ちすぎてしまうことはあったものの、派手な色彩を使った竜の絵は迫力があってドラマティックだった。竜の棲む世界を表す滝や雲などの山水画的な美術、故郷を懐かしむすがる乙女の脳裏に浮かぶ古都奈良の風景との対比も良い。初日は3階正面、二日目は1階やや前方で観たのだけど、3階席だと上部が少し切れてしまったし、サイドから見ていた人からは少し見づらいところがあったようだ。反面、上から見ると、こぶしの花を照明で表現していたり、映像の魔術師である沢田祐二氏による照明効果がとても美しいのだけど、1階からだとその効果は減ってしまう。プロジェクションマッピングは、舞台装置が場所を取らないということもあるので、ツアー公演にも持っていきやすく、これからきっとこのような演出は増えることだろうが、もう少し工夫の余地がある。

今回のゲストダンサーは、2月の「白鳥の湖」に続き、スヴェトラーナ・ルンキナとルスラン・スクヴォルツォフ。リリカルで繊細さのあるルンキナは、ロシア人ながら東洋の美を体現できていて適役だった。プロポーションの美しいダンサーが多い牧阿佐美バレヱ団の中にあっても、ひときわ抜きんでている存かい在で、竜王が選んだ相手にふさわしい。踊りには儚さの中にも確固たる技術によって凛とした強さがあり、神に身を捧げた女性らしさがある。ストイックな彼女が、不意に幼馴染の岩足を思い出して切ない想いにとらわれるものの、その想いはついに遂げられない、そんな悲痛さが伝わってくるエンディングは心を打った。高い精神性を感じさせる踊りと演技は、彼女の内面の成熟を物語っている。

ルスラン・スクヴォルツォフは、猟師の息子を演じるにはノーブルすぎる感じはあったが、端正な踊りはさすがボリショイのプリンシパルで、その端正さの中にも情熱は込められていた。1幕のソロの踊りはまるで「白鳥の湖」の王子のよう。ルンキナとはベストパートナーでパートナーリングも見事だった。終盤は、まるでマクミランの「ロミオとジュリエット」の墓場のシーンか、「マノン」の沼地を思わせた演出だったので、彼の深い嘆きも伝わってきた。1幕ではソロがあったりかなり踊るものの、2幕は最後の15分くらいしか出番がないのが惜しかった。

竜王の菊地研は、スクヴォルツォフと比べると線は細いけれど、カリスマ性を感じさせて踊りも安定。ルンキナとのパ・ド・ドゥもしっかりこなした。黒竜は佐藤かんなと茂田絵美子のダブルキャストで、二人ともいわば悪役であるこの役を魅力的に演じてキャラクターに命を吹き込んでいた。

ディヴェルティスマンでの踊りでもったいないのだけど、青山季可のソロはやはり圧倒するような華があるし、1幕の竜面の踊り、2幕の紅竜とパ・ド・トロワで活躍した清滝千晴の胸のすくような跳躍と美しい足先はいつ見ていても眼福である。27日の紅竜では、新入団の阿部裕恵のしなやかな踊りも観られて嬉しかった。

いろいろと注文はあるものの、バレエ団のレベルは総じて高かったし、この作品のために作曲された音楽もとても素晴らしいので、バレエ団の財産として改訂を加えながらレパートリーとして練り上げていってほしいと感じた。日本的なエキゾチシズムは外国人にも受ける要素がある。今回は、2公演のみで両公演ともゲスト主演だったけど、できれば日本人キャストでもう一日公演ができたら良かったのだが。


2016/08/20

7/21、22(朝)新国立劇場バレエ団『こどものためのバレエ劇場「白鳥の湖」』

公演から日数が経ってしまったけど、大変優れた公演だったのでご紹介します。

http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/kids-swan/

子ども向けに、『白鳥の湖』をわかりやすく構成した作品。といっても、基本的な作品の骨格はそのまま残しており、いくつかの場面を省略したり、幕の前にナレーションを挿入した程度の変更であり、子どもっぽい作品にはなっていない。ベースは、現在の牧阿佐美振付版ではなく、その前に上演されていたセルゲイエフ版で、衣装もセルゲイエフ版のものを使用しているようだ。

具体的な変更箇所としては、1幕をかなり短縮していてパ・ド・トロワや道化のソロがないこと。ワルツもとても短い。2幕は、大きな白鳥のヴァリエーションと、オデットのヴァリエーションの省略。3幕は、ディヴェルティスマンがスペインとナポリのみでチャルダッシュなどを省略。4幕はオデットが出てくるまでの前半部の省略。ストーリーに関係のない部分が省略されているというわけだ。その分、オデット役のダンサーがあまり休む場面がなくて大変そうである。

パ・ド・トロワやオデットヴァリエーションがないのは少し残念だけど、多くの人が退屈だと感じる1幕が短くされていて、2幕はそれほど省かれていないので、「白鳥の湖」を観たという気持ちになることができる。特に、4幕については、牧阿佐美版で王子が何もしていないのにロットバルトが自滅するという、あまり盛り上がらないエンディングではなくて、しっかり王子が闘ってロットバルトの翼をもぐというのがあるので、わかりやすくて良い。

子ども向けといっても、本物を見せることが、バレエに興味を持ってもらうためにはとても大切なことだと思う。そして、この公演はクオリティも高くて大人が観ても楽しめるうえ、「白鳥の湖」の本質はしっかり伝えられていたので、とても良かった。ナレーションも落ち着いた感じで、子どもっぽくなく聞きやすい。満席の客席を埋めた子どもたちも楽しんでいたし、また子どもたちの観ている時のマナーも大変良く、いい雰囲気の舞台となった。

4キャストあったのだけど、観たのは2キャスト。キャスティングはかなり贅沢でプリンシパルもたくさん出演していた。ただ、残念だったのが、キャスト表にはオデット/オディール、王子、そしてロットバルト、王妃、道化を演じたダンサーの名前しか出ていなかったこと。子ども向けの公演だからと言って、こういうところでは手抜きをしてほしくない。お子さんに、あの役をやったのは誰?と聞かれるお父さんやお母さんもいることだろう。

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
原振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
原台本:ウラジーミル・ペギチェフ/ワシリー・ゲリツェル
構成・演出:大原永子
装置・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ
照明:鈴木武人
音響:仲田竜太

7月21日(木)11:30
オデット/オディール 小野絢子
ジークフリード王子 福岡雄大
ロットバルト  貝川鐵夫
道化   八幡顕光
女王   本島美和
四羽の白鳥 寺田亜沙子、柴山紗帆、細田千晶、広瀬碧
スペイン 宝満直也、林田翔平
ナポリ 木下嘉人、飯野萌子

小野絢子さんのオデット/オディールは2年ほど前に観たのだけど、その時には彼女はこの役には向いていないように感じられた。技術的には素晴らしいけれども、どうしても小柄で腕が短めなので、表現が届かない印象があったのだ。ところが、今回小野さんは、大きな成長ぶりを見せてくれた。体型的なハンディを感じさせず、オデットもとてもドラマティックで研ぎ済まされた美しさを感じさせる。一つ一つのポジションがとても正確でアラベスクも長いし、動きもとても滑らかで、特に首の使い方に感情があふれていた。悲しい運命を背負わされたオデットだけど、気高さもあり、運命と戦う凛とした強さも感じさせる。オディールは小悪魔的で魅惑的、高笑いする姿も似合っていた。グランフェッテもダブルを入れてとても安定していた。カンパニーを引っ張っていくスターオーラも身に着けており、もはや小野さんには怖いものは何もないように思える。

福岡さんの王子は小野さんとのパートナーシップがよくサポート上手、そしてソロでの技術も素晴らしい。彼はいつでもきれいに5番に降りることができるし跳躍も高い。王子を演じるにはもう少しノーブルさが欲しいけどそこまで要求するのは贅沢だろう。4幕でロットバルトに敢然と向かっている姿は凛々しかった。

キャスト表には載っていなかったのが残念だったけど、八幡さんの道化は盤石。1幕はソロがカットされてしまってあまり出番はないけれど、3幕の最初にはしっかりと見せ場があって、軽やかで愛嬌に溢れていてプロの仕事。2幕、4幕の白鳥は18人だっただろうか。通常よりは人数は少なめであるけれども、少ないという印象はない。ただ、いつもよりは揃い方が足りないかな、と思ったところがあった。4羽の白鳥は、普段の「白鳥の湖」では実現しないような、ソリストを3人投入したなかなか豪華な顔ぶれで小さな白鳥のはずなのに小さくなかった。この4羽のシンクロ具合は見事だった。


7月22日(金)11:30
オデット/オディール 長田佳世
ジークフリード王子 奥村康祐
ロットバルト  小柴富久修
道化   八幡顕光
女王   本島美和
四羽の白鳥 寺田亜沙子、柴山紗帆、細田千晶、広瀬碧
スペイン 池田武志、林田翔平

長田さんのオデットが圧倒的に素晴らしかった。とても悲劇的なのだけど、気品に溢れていて一つ一つの動きが圧倒的に美しく、どのポーズも完璧にアカデミック。白鳥の姿でもとても高貴な姫だったのが見て取れる。若くひたむきな奥村さんの王子との組み合わせもよく、ドラマを感じさせた。オディールも、エレガントな大人の魅力で魅せると同時に、妖艶な中でもどこか悲しげで影のある黒鳥だった。こういう大人の成熟した踊りは、新国立劇場バレエ団でもっともっと観たいし、若い人にとってはとても良い手本となることだろう。奥村さんは、3幕ではオディールが現れたのが嬉しくて仕方のない模様で、ソロも軽やかなこと。彼はとても端正な踊り手で、その中で若々しい情熱も見せてくれて観ている側も思わず頬も緩んでしまう。クラシック・バレエの中でも日本最高峰と言えるようなパートナーシップの公演を思いがけず観ることができて、とても幸せだった。

4日連続の8公演で、コール・ド・バレエはさすがに昼公演と夜公演は別のダンサーが踊っていたようだけど、ダンサーたちにとっては大変なスケジュールだったと思う。しかしこのような低価格で、しっかりとした本物の舞台を観ることができたのは素晴らしい。これがきっかけで、子どもたちが他のバレエ作品を観てくれるようになったら良いことだ。大人の私たちもこの価格で観てしまうのが申し訳ないような気持ちになるほどで、子供向けもしくは親子券は安い値段で据え置いて、大人だけで観る人にはもっと値段を上げてもいいのではないかと思うほど。あと、せっかく公演数が多いので、もっと若手を抜擢してみるとか、冒険してもいいのではないかと思った。正直、現行の牧阿佐美版より、以前のセルゲイエフ版の方が演出はずっと優れていたと改めて感じた次第であった。

こちらは牧阿佐美版の「白鳥の湖」

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牧 阿佐美(新国立劇場バレエ団・芸術監督)

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2016/08/17

8/7 横浜バレエフェスティバル2016

昨年の横浜バレエフェスティバルは素晴らしい公演だった。今年も引き続き、ここでしか観られないような作品やこれからのホープに出会えて、楽しめてバレエの未来にも想いを馳せることができる、気持ちの良いパフォーマンスの揃った素敵なガラだった。

http://yokohamaballetfes.com/

昨年の出演者のうち、オーディションで選ばれた永久メイさんはマリインスキー・バレエのファテーエフ芸術監督に見込まれて今年のマリインスキー国際フェスティバルの「ラ・バヤデール」にゲスト出演し、マリインスキー・バレエに入団することが決定。
また、同じくこのガラに出演して「ジゼル」を踊ったロイヤル・バレエの高田茜さんが、晴れてロイヤル・バレエのプリンシパルに昇進した。それだけ、このガラの芸術監督である遠藤康行さんの目利き力が優れているということである。


今年は、オーディションでは中島耀さん(シンフォニーバレエスタジオ)、縄田花怜さん(梨木バレエスタジオ)が選ばれて出演。二人とも、大変注目されているバレリーナの卵でこれからの飛躍が期待される。

エトワール・ガラ最終日との掛け持ちをしようとしたら、思ったよりエトワール・ガラの公演時間が押してしまい、終わってすぐに横浜に移動したものの第一部には間にあわなかった。しかし第2部、第3部の内容が非常に充実していたので、大満足の公演となった。


◆【第2部】 World Premium 1
■新作「Measuring the Heavens」 振付:高瀬譜希子
高瀬譜希子
演奏:佐藤健作

ウェイン・マクレガーのカンパニーで活躍し、ユニクロのダウンのCMや、トム・ヨークと共演したプロモーションビデオでも知られている高瀬譜希子さん。この高瀬さんが、和太鼓の佐藤健作さんの演奏による新作を発表したのだけど、彼女のダンスのものすごさをライブで実感してしびれた。驚くべきしなやかさ、強靭さ、表現力と鮮烈な個性。今まで観たことがない存在感。第2部が終わった後ロビーに本人が現れたのだけど、舞台上ではとても大きくダイナミックに見えたのに、実物は意外にも小柄で華奢だった。顔が小さく手脚が長いので長身に見えたのだった。日本ではまだ踊る機会があまりなかった、こういう国際級に凄い人を見せてくれたのがとても嬉しい。

なお、高瀬さんは、来年2月にパリ・オペラ座バレエで上演されるウェイン・マクレガー振付「Tree of Codes」(ウェイン・マクレガーカンパニーとの合同公演)に出演する予定。


瀕死の白鳥
倉永美沙(ボストン・バレエ団)

エトワール・ガラ最終日でドロテ・ジルベールの踊る「瀕死の白鳥」も観たので、今日で2回目の「瀕死の白鳥」。ワガノワ出身、ウクライナのドネツク・バレエで踊っていたボストン・バレエのバレエ・ミストレス、ラリッサ・ポノマレンコ直伝の倉永さんの白鳥はロシア的で、繊細で詩的、ゆったりとしたポール・ド・ブラ、さざ波のようなバ・ド・ブレ、正統派でリリカルで美しかった。死と闘うのではなく、気高くて死の運命を受け入れるような。

■新作「SOLO²」 振付:遠藤康行
みこ・フォガティ
二山治雄(白鳥バレエ学園)

若い二人のために遠藤さんが振付けた愛らしく音楽的な小品。のびのびと踊る二人が初々しい。二山さんの柔軟性、そして浮かび上がって静止するような跳躍は、一瞬目を疑うほど圧倒的。


Lilly 振付:+81
柳本雅寛(+81主宰)
青木尚哉

2011年の震災チャリティ公演「オールニッポンバレエガラ」で上演された作品の再演。コント的な要素が強くてユーモラスな+81の世界再び。絶妙の間が笑わせてくれるコントではあるけど、身体能力の優れた二人の男性ダンサーが組んでのパ・ド・ドゥもあって見ごたえたっぷり。音楽もなくて台詞もないやりとりの場面でも、絶妙なおかしみの中にダンスがある。


「ライモンダ」第1幕より夢のパ・ド・ドゥ ヌレエフ版
米山実加 (ボルドー・オペラ座バレエ団)
高岸直樹(元東京バレエ団)

ヌレエフ作品の権威であるシャルル・ジュドのボルドー・オペラ・バレエの米山実加さん、そして高岸さんによる『ライモンダ』。ヌレエフ版ならではのゴージャスな衣装と典雅さ。夢のパ・ド・ドゥなのでそれほど派手さはないシーンなのだけど、難しいリフトもスムーズなのはさすがの高岸さん。米山さんも、この華麗なコスチュームに負けないプロポーションの良さと気品、長く美しい脚で作品の世界観をしっかりと伝えてくれた。

◆【第3部】 World Premium 2

■新作「埋火 UZUMIBI」 振付:遠藤康行
米沢唯(新国立劇場バレエ団)
遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)

遠藤さんがこのガラのために振付けた新作2作品目。クラシック作品の印象が強い米沢唯さんが、クールでスタイリッシュ、それでいて官能性も漂わせた作品に挑戦。身体能力の高さ、美しさの中にも現代性があって新しい彼女の魅力を見せてくれた。こういう、男女の駆け引きや感情も絡めた大人っぽい作品を踊る米沢さんをもっと観たいと切に思う。


ヴァスラフよりソロ 振付: ジョン・ノイマイヤー
菅井円加(ハンブルク・バレエ団)

菅井円加さんも、とてもテクニックと柔軟性に優れているダンサーで、ノイマイヤー独特の舞踊言語もしっかりと自分のものにしていることを感じられた。短めのソロの中でも、作品の中にある精神性を伝えようとしているのがわかるけど、もう少し長く観ないと流石に伝わらない感じではあった。


「エスメラルダ」よりダイアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ
近藤亜香(オーストラリア・バレエ団)
チェンウ・グオ(オーストラリア・バレエ団)

世界有数のトップバレエカンパニーのプリンシパルであるペアだけあって、見せどころをしっかりと押さえていて客席を沸かせてくれた。特に、学生時代に「小さな村の小さなダンサー」で主人公の少年時代を演じていたチェンウ・グオの跳躍は、目を瞠るほど高くてダイナミック。コーダの540の3連発も大迫力だった。近藤さんも技術がとても高く、きっちりと見せているだけでなく華やかさもあった。オーストラリア・バレエ、そろそろまた来日してほしいと思う。


ロメオとジュリエットより死のパ・ド・ドゥ 振付:アンジェラン・プレルジョカージュ
津川友利江(バレエ・プレルジョカージュ)
バティスト・コワシュー(バレエ・プレルジョカージュ)

このガラのハイライトといってもいい、打ちのめされるような圧倒的なパフォーマンスだった。プレルジョカージュの『ロミオとジュリエット』は、階級差によって結ばれない男女の悲劇を描いた作品で、世界バレエフェスティバルのガラ公演でオーレリー・デュポンとローラン・イレールが踊ったのを観たことがある。今回は、最後の墓所でのシーンで、暴力的な中に悲痛な感情の生々しい炸裂があって鮮烈だった。パートナーを文字通り投げ飛ばす作品の力も強いけど、少女のようなイノセンスを漂わせた津川さんの叫び声が聞こえてくるような表現力、見事だった。一シーンだけだったのに全幕を観たように感情が揺り動かされた。津川さんが日本で踊るのは11年ぶりとのことだけど、これからもっと観られるといいな。


(このシーンは含まれていなけれど、津川友利江さんとバティスト・コワシューが主演している映像)


「くるみ割り人形」第2幕より金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ
倉永美沙(ボストン・バレエ団)
清水健太(ロサンゼルス・バレエ団)

トリにふさわしい華やかな「くるみ割り人形」のグラン・パ・ド・ドゥ。倉永さんの金平糖はキラキラ輝き、一つ一つの動きから音符が見えるようで軽やかなこと。小柄な彼女なのにその小ささは感じさせず、手脚も長く見える。コーダで見せた回転などスーパーテクニックの煌めきは、まさにプリマ・バレリーナ。清水さんもきっちりと5番に綺麗に着地して、初めて組んだというのにとても良いパートナーシップだった。

フィナーレは、「オールスター・バレエ・ガラ」と同じくテーマとヴァリエーションの音楽に乗って、出演者がそれぞれテクニックを披露してくれた。ここでの二山治雄さんの踊りが凄かった。マネージュでの脚の開きは200度くらいあって、前脚が完全に上を向いているし、重力など存在しないかのようにふわっと浮かび上がり静止する瞬間がある。オーストラリア・バレエのペアも、ここで魅せてくれた。


オーディションで選ばれたバレリーナの卵から国際コンクール入賞者の若手、グローバルに活躍するスター、そして独特の世界を築いているダンサーたちまで人選も演目も個性的で見ごたえがあり、とても充実した公演だった。現代作品も多いけど、バレエ/ダンスにそれほど詳しくない人でも楽しめただろうと思う。

来年の第3回目は6月の公演となり、プログラムもAプロ・Bプロの2公演行われるとのこと。今後も続けられるというのは素晴らしいこと。2公演あるということは、さらにいろんな作品が見られそうなので楽しみ。

2017年6月9日(金)夜開演
横浜バレエフェスティバルAプログラム
2017年6月10日(土)午後開演
横浜バレエフェスティバルBプログラム


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2016/08/10

8/3、6 「エトワール・ガラ2016」Aプログラム

エルヴェ・モローの降板に伴うキャスト変更、プログラム変更はあれども、ジェルマン・ルーヴェ、レオノール・ボラックという伸び盛りの若手を加え、パリ・オペラ座バレエの現在の形を見せてくれた「エトワール・ガラ」は充実した公演となった。

オペラ座の伝統を構成するヌレエフ作品、ミルピエ前芸術監督が積極的に導入したものの以前からも上演されているバランシンやロビンス、加えてマクレガー、ビゴンゼッティなどの現代作品、ハンブルグ組によるノイマイヤー作品。バラエティに富んだプログラムではあるが、作家性の高い作品が多いところにペッシュの矜持を感じる。

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/16_gala/

『グラン・パ・クラシック』Grand Pas Classique
振付:ヴィクトル・グゾフスキー、音楽:フランソワ・オーベール
出演:ローラ・エケ&ジェルマン・ルーヴェ

ジェルマン・ルーヴェの日本デビューは、鮮やかなものだった。つま先まできれいに伸びた脚、特にシソンヌの時に開いた脚のラインが見事で、着地音もなく軽やか。特にアントルシャ・シスの時の足さばきが鮮やかで美しい。サポートはこれからの課題だけど、彼はまだ22歳のスジェ。一方、ローラ・エケはエトワールの貫録を見せてくれた。特にヴァリエーションでの連続バロネとエカルテは強靭で余裕と安定感があった。エケのエポールマンやポール・ド・ブラは典雅なパリ・オペラ座スタイル。


『スターバト・マーテル』Stabat Mater
振付:バンジャマン・ペッシュ、音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
出演:エレオノラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ

「スターバト・マーテル」とは、キリストが十字架にかけられた横での聖母マリアの様子を歌った13世紀のラテン語聖歌の歌詞「悲嘆にくれるも聖母は立ち尽くす」という意味の一節とのこと。同じタイトルの曲は、ハイドンやプーランクなども作曲しているけどこちらは司祭でもあったヴィヴァルディによる作曲。薄いピンクの衣をまとったエレオノラ・アバニャートがフードを持ち上げて顔を出すところから始まる。流れるような美しい振付で、歌の入った音楽にもとても合っている。ラストはまさしく「ピエタ」のように、再びフードをかぶったアバニャートが横たわるペッシュを抱きかかえるところで幕。


『シンデレラ・ストーリー』A Cinderella Story
振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
出演:シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ

この『シンデレラ・ストーリー』、ハンブルグで2007年に観ている。従来の『シンデレラ』のイメージと違って派手なところはなく、シンデレラが王子の愛を受け入れられずきらびやかな生活も自分のものとは感じられない。王子は旅に出て時が過ぎたのちに再びシンデレラに求愛するという物語。叔父役を初演したのはマニュエル・ルグリ。舞台装置もシンプルで、シンデレラが少女時代、母が亡くなった時に植えた木が、終幕では大きく育っているのが印象的だった。このパ・ド・ドゥは、物語の終盤、王子が変わらぬ愛を告白するところ。寂しく自信を失っているシンデレラの元に王子がやってきて愛をはぐくんでいく。シルヴィア・アッツオーニが少しずつ心を開いていき、最後には幸福に輝くようになる心境の変化を踊りで表現しているところが見事だし、リアブコはソロでは輝かしいクラシックの技術も見せてくれる。ドラマティックな表現では、このペアに並ぶものはいない。変わらぬ愛の象徴としてのオレンジを、カーテンコールでも大事そうに持っているところが素敵だった。


『カラヴァッジョ』Caravaggio
振付:マウロ・ビゴンゼッティ Mauro Bigonzetti
音楽:ブルーノ・モレッティ(クラウディオ・モンテヴェルディの原曲に基づく)
出演:レオノール・ボラック、マチュー・ガニオ

『カラヴァッジョ』は、2008年にベルリン国立バレエのためにビゴンゼッティが振付けた作品でDVDにもなっている。画家カラヴァッジョの波乱万丈の生涯を描くというよりは、彼が生み出した光と影による劇的な表現をバレエの世界に持ち込んだ。「ローマのカーニバル」と題したこのパートでも、カラヴァッジョ的な照明の使い方、それが肉体に陰影を作っていく様子がとても美しい。モンテヴェルディによるバロック音楽にもとてもよく合っている。最小限の衣装を身に着けたマチュー・ガニオとレオノール・ボラックの身体は研ぎ澄まされ、ゆっくりとした動きも一つ一つがとても洗練されていてほのかな官能が立ち上る。コンテンポラリーが得意というボラックの強靭さ、ガニオの存在感、このガラで初めてペアを組むというふたりだが、良いパートナーシップだった。


『三人姉妹』
Winter Dreams
振付:ケネス・マクミラン、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:アマンディーヌ・アルビッソン、オードリック・ベザール
ピアノ:久山亮子

マクミランの『三人姉妹』はオペラ座のレパートリーには入っていないのだけど、アルビッソンとベザールのたっての願いでマクミラン財団の許可を得てエトワール・ガラでの上演が実現した。全幕を踊ったことがないダンサーが一部を切り取ってガラで上演するのはなかなか難しいことだと思うが、二人とも役の中には入り切って頑張っているのはわかる。アルビッソンは、不倫の恋に苦しむマーシャの心情を丁寧に掬い取り、彼が去った後に残されたコートの残り香を嗅ぐところも情感たっぷりに演じていた。『オネーギン』のタチヤーナ役でエトワールに任命された時には、この作品で任命されたことに対する賛否があったのだが、少なくとも今なら良く演じることができるだろう。ベザールは長身でハンサムな容姿はヴェルシーニン役が似合うはずなのだが、怒り気味の肩にあまり軍服が似合っていないような。オペラ座の洗練されたダンサーには、ロシア人の役は合わないのかもしれない。まっすぐで不器用な想いを伝えようとしているのはよくわかったが。久山亮子さんのピアノの音色はクリアで素晴らしかった。


『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』 Tchaikovsky Pas de Deux
振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン

身長193cmという長身のユーゴ・マルシャンだが、大柄な彼でも着地音がしないのがすごい。ダイナミックな跳躍、つま先もとてもきれいできちんと5番に降り、音楽性もよく活きの良さを感じさせた。ヴァリエーションでの左右にシソンヌする動きでは、脚をスゴンドに振り上げる前にバットゥリーも入れるなどテクニックも素晴らしい。ドロテ・ジルベールと彼は『ロミオとジュリエット』『ラ・バヤデール』『マノン』と共演していて相性はとても良いはずなのだけど、この作品においては少し身長差を感じさせてパートナーシップは万全とはいかないところがあった。ジルベールの方が余裕を感じさせたけど、余裕がありすぎて音楽を思いっきり引っ張っているところには好き嫌いが分かれるかもしれない。技術的には彼女には非の打ちどころはない。



『くるみ割り人形』より
 Casse Noisette
振付:ルドルフ・ヌレエフ、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:レオノール・ボラック、ジェルマン・ルーヴェ

バスティーユでの『くるみ割り人形』でも共演した、若くてキラキラしている二人。愛らしいボラックは華やかなチュチュがよく似合うし、ルーヴェも童顔ながらまさに夢の王子様。ヌレエフの振付は非常に難しく、クララのコーダはアン・ドゥダン(内回り)中心だし、王子のコーダも方向転換が多用されてとても複雑だけど、二人は見事にこなしていた。複雑な足捌きがあることと派手さというのは両立しないので、ワイノーネン版やライト版のような盛り上がりはないけれども、パリ・オペラ座バレエならではのアカデミックな技術を二人とも備えているのがよくわかった。


『クローサー』 *日本初演 Closer
振付:バンジャマン・ミルピエ、音楽:フィリップ・グラス
出演:エレオノラ・アバニャート、オードリック・ベザール
ピアノ:久山亮子

フィリップ・グラスのミニマルなピアノ音楽に合わせて、寄せては返す波のように男女の距離が縮まっては遠ざかる、そんな様子を描いたミルピエの作品。男性が背後から女性を抱きかかえ、女性がやや脱力したようにうずくまっては離れたり、男性が女性を高く、そして低く持ち上げ振り回したり引きずったり、弛緩と伸長という動作が反復される。フレーズはほとんど同じものの、ピアニッシモとフォルテッシモがあることで感情の動きを繊細に表現している久山さんの演奏が見事。白い下着のような衣装の女性、男性も白いタイツのみ。サポートされている女性の身体能力の高さが求められており、コンテンポラリーに定評のあるエレオノラ・アバニャートは流石に素晴らしく弛緩しているポーズですら美しい。途中まではスタイリッシュで魅力的な作品だと感じたのだが、そろそろ終わるかな、と思ってもまだ続き、少々長すぎるように感じられてしまった。

これはバレエ・ドルトムントで上演された時の映像


『Sanzaru』 *日本初演
振付:ティアゴ・ボァディン、音楽:フィリップ・グラス
出演:シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ

フィリップ・グラスの音楽を使ったコンテンポラリー作品を2つ続けて上演するのは構成上のミスだと思ったが(中には眠気に襲われている方もいた)、この作品はユニークだった。ハンブルグ・バレエの元プリンシパルで、今はNDTに所属しているティアゴ・ボァディンの作品。『Sanzaru』とはまさに、見ざる、聞かざる、言わざるの「三猿」のことで、振付の中にも、手で目、耳、口を覆うしぐさが出てくる。非常に精緻なパートナーリングを必要としていて、驚くべきようなバランスやリフトも登場してスリリング。アッツオーニとリアブコの技術の高さを堪能できた。


『瀕死の白鳥』 Dying Swan
振付:ミハイル・フォーキン、音楽:カミーユ・サン=サーンス
出演:ドロテ・ジルベール

ドロテ・ジルベールの瀕死の白鳥は凛としていて、静謐さを感じさせながらも、とても強い。腕はなめらかに波打つような動きを見せながらも生命力に満ちていて、運命と闘いながらもやがてそれを受け入れる。


『感覚の解剖学』より L’Anatomie de la sensation
音楽:マーク・アンソニー・タネジ(「Blood on the Floor」より)
振付:ウェイン・マクレガー
出演:ローラ・エケ、ユーゴ・マルシャン

Aプロはコンテンポラリー作品が多かったのだが、その中で、フランシス・ベーコンの絵画にインスピレーションを得た『感覚の解剖学』は異色の作品だった。マクレガーらしいうねうねとくねるようなポーズの応酬、けだるいようなジャズの音楽、オフバランスや低い重心、複雑なパートナーリング、音楽とはまるであっていないムーブメント。中には少し乾いたようなユーモアも感じられる。ベーコンの作品の中にある恐怖や寂寥感はないけれども、美しい肉体の賛歌ではある。高度な技術を必要とすることは言うまでもなく、特にローラ・エケのシャープさと現代性が光る。ユーゴ・マルシャンはパンツ一枚で、見事な肉体美を披露してくれた。こういう作品を観ると、マクレガーは振付家としてミルピエよりはオリジナリティがあって面白いと感じられる。


『アザーダンス』  Other Dances
振付:ジェローム・ロビンズ、音楽:フレデリック・ショパン
出演:アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
ピアノ:久山亮子

昨年の世界バレエフェスティバルでもこのアルビッソン、ガニオのペアで上演された作品だが、その時はこのペアはちぐはぐなところがあり、あまり合っているとは思えず、やや退屈してしまっていた。だが、今回、この二人が見違えるように良くなっていたのに驚いた。二人の間に気持ちが通い合って抒情性も感じられ、ストーリーはなくとも心に染み入るようだった。マチューのソロはとても鮮やかだし(足捌きの美しさ、パ・デ・シャの高さ!)、美しさの中に作品の中に込められたユーモアもしっかり表現。アルビッソンの音の使い方もよく、とても丁寧に踊られていた。久山さんの演奏はここでもきらりと光った。『アザーダンス』は来年3月のパリ・オペラ座バレエの来日公演でも上演される予定なのだが、このペアを目当てにチケットを買う方も多いことだろう。マチューが本物のスターの輝きを手に入れたのを実感した。


『ル・パルク』より“解放のパ・ド・ドゥ”   Le Parc "Abandon"
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
出演:エレオノラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ

バンジャマン・ペッシュのパリ・オペラ座バレエのさよなら公演でも踊られた『ル・パルク』だったので、万感の想いで踊っているのが感じられた。来シーズンから彼はローマ歌劇場バレエで、芸術監督エレオノラ・アバニャートの右腕となって働くことになる。長年の二人のパートナーシップから来る暖かい気持ちが通い合う、美しいパ・ド・ドゥ。エレオノラの官能的な表現の素晴らしさは言うまでもない。ペッシュは腰が悪いようで、リフトなどは少々苦しそうだが、伊達男の彼はこの作品の衣装や髪型も良く似合い、すべてをゆだね合う男女の心の機微と優しさが伝わってくる。このパ・ド・ドゥの見せ場は、キスしながら女性を遠心力で回転させるフライイング・キスの場面なのだが、最終日、このシーンで拍手が出たのは非常に興ざめだった。「エトワール・ガラ」を続けてきてここまで育ててきてくれたペッシュへの感謝の気持ちを込めて観ていたし、もしかしたら彼が踊るのを観るのは最後になるかもしれないのに…。
ガルニエで観たペッシュとアバニャートが共演した『椿姫』、彼が主演した『オネーギン』や『ジゼル』の舞台を思い出しながらしみじみと感慨にふけった。

エンディングは前回と同じマンボの曲。普通に舞台に歩いていく人もいれば、ドロテ・ジルベールのように白鳥のチュチュなのに大きく腕を広げてゆらゆら踊ったり、意外なことにちょっとおどけるリアブコ、セクシーに踊るアバニャートなど様々。「エトワール・ガラ」はすっかり日本の夏の風物詩として定着した。ペッシュがオペラ座を離れることなど、いろいろと変化は起きてくるだろうが、これからも続けてほしい好企画である。パリでも観られない、贅沢な公演なのだから。

2016/07/23

7/1、2 H・アール・カオス「エタニティ」、トークショー

H・アール・カオスでは6年ぶりという公演が開催されるとあって、これは愛知県芸術劇場まで行かなければと愛知までやってきた。

初期から観ているわけではなく、「神々を創る機械」「Drop Dead Chaos」「春の祭典/ボレロ」くらいしか観ていないのだけど、大島早紀子さんと白河直子さんの創り上げる、身体性と精神性が絶妙なバランスを作っている美しい舞台は鮮烈な印象を残している。

そして昨年、笠井叡さんの「今晩は荒れ模様」での白河さんの、神が降臨したような凄まじいダンスを観て、改めて必ず次の彼女の舞台は観なければならないと思ったのだ。そんな伝説の復活公演が、この舞台だった。

H・アール・カオス 新作公演
白河直子ソロダンス『エタニティ』
http://www.aac.pref.aichi.jp/syusai/eternity/index.html

Hartchaos

愛知県芸術劇場小ホール
出演者・スタッフ 構成・演出・振付・美術:大島早紀子
出演:白河直子
美術作品提供:島田清徳
使用楽曲:「イン・メモリアル」「ヴィオラ協奏曲」「レクイエム」(アルフレート・シュニトケ)
       「ピアノ協奏曲第二番」(ドミトリー・ショスタコーヴィチ)

白い薄い衣装に身を包んだ白河さんが舞台の上に現れた時から、これは何かが起きる、ということを感じた。佇まい一つをとってもただものではない雰囲気があり、そして華奢な身体で描くポーズのラインの研ぎ澄まされたこと。6年前に観た姿と、ほとんど変わっていないようであっても、その間に時は流れた。一つ一つの動きに、万感の想いがこもっているようだ。床には、小さな墓標のように無数の紙片が点々と立てられている。

Hartchaos2

一度舞台から捌けて再び現れたとき、白河さんは少し汚れてくたびれたトレンチコートを羽織り、大切そうにトランクを持っている。そのトランクを開けて、トランクの中で三点倒立して開脚するシーンには驚かされた。下手には倒れた椅子とテーブル。踊り続ける白河さんの手の中から、白い紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。その紙吹雪は、スーツケースの中にも詰まっていたようで、吹いてくる風でこれらはあるときは雪のように、ある時は落ち葉のように舞い上がり、終盤には雪嵐のように、白河さんの激しい踊りと共に吹き荒れる。この紙吹雪は、記憶とか、生命のメタファーなのだろか。あふれ出て、風と共に飛び散って消えていく。

途中でコートを脱いで黒の上下姿となった白河さんは、付箋のような紙を顔に貼り始める。踊るにつれてこれらの付箋は落ちて行ったりするのだが、零れ落ちていく記憶のようにも思えた。大きく背中を反らせ、脚を天に突き刺すように高く振り上げ、腕を傷ついた翼のように広げ、一つ上の次元へと昇っていく。65分の間、緩急はあれども踊り続けて、いろんなものをそぎ落としていって、ついには魂だけの透明な存在となっていった。でもそれが終わりではなく、新しい出発点でもある。ここに至るまでの内面の戦い、葛藤、それらを乗り越えて行って、すべてを出し尽くして突き抜ける。女神のようでいて、たくさん傷つき、苦しんだ人間だというのがその神々しくも激烈な踊りから伝わってきて、その壮絶さに終わりには涙があふれて来た。

死すべき存在である人間が、どうやってその運命の中で、永遠とつながっていくか。人は消えても、形はなくなっても、この世に残り続ける記憶となっていくのだろう。それは、その瞬間にしか存在しえない舞台芸術と通じるものがある。

背景の、羽根のような紙をふわりと重ねたような舞台美術や照明も秀逸で、小さなスペースである愛知県芸術劇場小ホールの公演とは思えないようなスケール感があった。タイトルの「エタニティ」も表しているように、永遠の中で、無限の宇宙とつながっているような広がりを感じるとともに、小宇宙の中に閉じ込められたような感覚にもなった。かけがえのない永遠の中の一瞬を感じられることは、舞台鑑賞を愛する者にとってどれほど幸福なことであるか。その瞬間が二度と来ないだろうと感じる切なさや悲しみ、失われたものへの惜別も同時に味わい胸が締め付けられる。

大島早紀子さんの作品としては、目新しいところはないけど、今までの作品のように、大きな会場で大きな仕掛けがあるような作品ではない。しかし美術、音楽、照明のクオリティは相変わらず美意識に溢れていて深遠なテーマと密接に結びつき、コンセプトも見事に作品に昇華されている。白河直子さんというとてつもない表現者、彼女が舞台に立てるようになるまで待って作っただけのことはある。作家と表現者の強い絆を感じられ、白河さんの肉体と精神だからこそ表現し得た、渾身の作品であり、他では決して得ることができない鮮烈な体験だった。

7月2日の公演終了後には、大島早紀子さん、白河直子さんのトークショーがあった。司会は愛知芸術劇場シニアプロデューサーの唐津絵理さん。

唐津:こういったイメージを持って舞台ができていくのでしょうか、こういった世界観、イメージがあって作られるのでしょうか?

大島:手探りで何もわからない、目が見えない状態から始めています。テーマがなくてどうしようと思っている時に、日常生活で感じていることがテーマとなります。

唐津:6年間のブランクの間にテーマがあったのでしょうか?それとも作品を作ろうと思っている時に浮かんできたのでしょうか?

大島:空白期間の前があまりに忙しすぎて、次の作品を創ろうと思わなかったのです。夢が全部舞台の夢で逃げたいと思いました。そういう時でも、これはダンスにしたい、という気持ちは浮かびましたが。今回は、ここ愛知で作品を創ることを決めてから、テーマを考えました。今までも、視線の暴力性や性暴力から「春の祭典」という作品を創りましたが、イデオロギーではなく、抽象化し、自由な解釈をゆだねて行きました。

唐津:今回は永遠、記憶というテーマで作られたのでしょうか。

大島:私たちの体の中にあるものが外に出ている、身体が外部化していき、空洞化している、身体の実在感が希薄しているのが現代だと思います。生の生きている身体を舞台に出していきたいと思いました。外部化していることを批判しているのではなくて、生の身体を描きたいと思ったのです。限られた時間、短い時間の中に永遠を探したいと思いました。

白河:大島さんが、こんなことをやりたいと言ってきました。ジグゾーパズルのピースのように、パソコンの中をのぞかせてもらうように頭の中を見せてもらいました。その中には、クールでグサッと来るような言葉が多いのです。「カルミナ・ブラーナ」は911や宗教問題、テロを描いたものでした。
「エタニティ」は記憶、想いで、永遠に残るような、そんな瞬間が生きていく実感を感じさせてくれる作品です。失われてしまいそうな感覚、恐怖感。生きているからこそ永遠を感じられると。大島さんの作品を踊ることができることが、生きていることのように感じます。苦しいですが。

唐津:この作品は11月くらいからクリエーションにかかったのですよね。

大島:これだけ作品を創るのに時間がかかったのは初めてです。その時に起きている事柄を映像として影響を受けてきました。世界の断片として自分の中に入ってくるのです。時間をかければかけるほど、いろんなことが入ってきてまとめるのに時間がかかり大変になります。でも、3日間の仕込みでも変わりました。12月の時点で一度唐津さんに観てもらいました。失われていくものがあるからこそ見えるものがあるのでは、と思い、作品も変わってきました。作ってみて改めて大変だと思いました。一つ一つのことに関する意図が違うこともあり、ピントを合わせていく作業が大変でした。そしていざ振付けると、白河さんが機嫌が悪くなったりして、「出て行って」といわれることもありました。

唐津:白河さんには、性別を超える瞬間がありますよね。

大島:肉体というのは時代の鏡であり、いろんな意味を背負っています。まっさらに戻す時間があってもいいと思います。白河さんに出会った時、彼女は表現をしながら無になっていく稀有な存在だと思いました。この人しかいない、と引きずるように強引にカンパニーに入れたのです。

白河:しばらくの間私の体に問題があり、身体が治ってからやりたいと思いました。待って身体を治して、ここに立てて良かったと思います。

唐津:未来に対してやっていきたいことはありますか?

白河:(しばらく言葉に詰まり、涙ぐむ)明日を踊りきることが未來です。何回リハーサルしても、舞台に対しては命がけでやっています。

大島:今はこの瞬間、この作品を考えているので、この先は考えていません。

唐津:今回やってみてダンスとはなんですか?

白河:私は大島さんの作品で育ってきました。空間の中に、照明の中に入った時の感覚はやっぱりこれなんだ、別世界に連れて行ってもらっている。視線があって集中があり、空間に立って幸せだと思います。

大島:ダンスは神様から与えられた媚薬です。生きていることの満足感を感じられます。観ていただいた作品が皆さんの中に結晶し、残っているのがコミュニケーションであって祈りなんだと思います。


(聞き取りなので不正確なところがあるかもしれません)

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