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映画

2019/06/06

映画「氷上の王 ジョン・カリー」

 「氷上の王 ジョン・カリー」

https://www.uplink.co.jp/iceking/

試写で拝見しており、Twitterに感想を書いただけでこちらには書いていなかったので、遅くなりましたがぜひ多くの方に観ていただきたいので、こちらにも書きます。

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高い芸術性でフィギュアスケートに革命をもたらし、1976年のインスブルック・オリンピックで金メダリストとなったジョン・カリーの栄光と孤独、苦悩を描く。バレエダンサーになりたかったが、父親に男らしくないと反対されたために、アスリートであるフィギュアスケート選手となったカリー。彼のスケーティングが圧倒的に美しく、その演技を観るだけで涙してしまう。多くの貴重な映像が登場している。

カリーのスケーティングはエレガント過ぎると当初は評価されず、最初はスーパーでアルバイトをするなど苦労した。だが美しさだけでなく音楽性も素晴らしく、オリンピック金メダルをもたらした「ドン・キホーテ」は美しく音楽的な上に、技術的にも見事だった。プロ転向後の「牧神の午後」の芸術性の高さはまさにバレエを見ているかのようで、ニジンスキー版やロビンス版よりも美しいと感じてしまうほどだ。「シェヘラザード」の官能性も見事で、フィギュアスケートでこのような表現ができるとは、驚くほどである。

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カリーは自身のカンパニーを率いてフィギュアスケートとバレエの融合を目指すという夢に身を捧げ、メトロポリタンオペラハウスやロイヤルアルバートホールで公演を実現し、幅広くツアーを行うも無一文となる。そして44歳の若さで、AIDSで命を落とす。

2019/02/06

ヌレエフの亡命劇を描く映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』5月劇場公開

何回かこちらのブログで紹介してきた、ヌレエフの亡命劇を描く映画『The White Crow』が、『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』の邦題で劇場公開されることになりました。

https://eiga.com/news/20190205/8/

レイフ・ファインズ監督によるこの作品は、昨年の第31回東京国際映画祭のコンペティション作品に選ばれ、私も上映を2回とも観ることができ、ファインズとプロデューサーのQ&Aセッションも聞くことができました。東京国際映画祭では、最優秀芸術貢献賞を受賞しました。
https://2018.tiff-jp.net/ja/lineup/film/31CMP16

20世紀のバレエ界を代表するバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが1961年にパリで亡命を果たした亡命劇を中心に、故郷ウファでの幼年時代、ワガノワ・バレエ・アカデミーでの学生時代、そしてキーロフ・バレエ団に入団してから亡命するまで、という3つの時制を交互に描いています。

ヌレエフ役には、タタール歌劇場の現役プリンシパルダンサーであるオレグ・イヴェンコ。ヌレエフのワガノワ・バレエ・アカデミーでの師匠であるプーシキンを、レイフ・ファインズが流暢なロシア語を操って演じています。パリで友情をはぐくみ、亡命の手引きをするクララ・セイント役を「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコプロス。プーシキンの妻クセニアには「ルナ・パパ」のチュルパン・ハマートヴァ、ピエール・ラコット役はラファエル・ペルソナ、そしてヌレエフのライバル、ユーリ・ソロヴィヨフをセルゲイ・ポルーニンが演じているのも話題です。

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<レビュー>

バレエ界に燦然と輝けるレジェンド、ルドルフ・ヌレエフ役を演じる俳優を見つけるのは簡単なことではなかったと思う。映画祭のQ&Aで、ファインズは、演技ができるダンサーを求めてロシア中でオーディションを行ったとのこと。イヴェンコはウクライナ出身だが、ヌレエフの頬骨が高いエキゾチックな顔立ちを少し思わせるところもあり、射貫くような大きな青い瞳が印象的。現役プリンシパルであると共に、テレビ番組「ビッグ・バレエ」にバレエ団を代表して出場するなど、バレエの実力も折り紙付き。若きヌレエフのギラギラした野心、自由を求めてやまない心、新しい文化を吸収していく生き生きとした様子を繊細に、そして大胆に演じており、とても初めて演技に挑戦するとは思えないほどだった。

この映画は、本物のバレエダンサーを使って、実際のワガノワ・バレエ・アカデミー、マリインスキー劇場、ガルニエ宮、エルミタージュ美術館、ルーヴル美術館でロケを行っているという本物志向のところがまず素晴らしい。ヌレエフ役のオレグ・イヴェンコはもちろんのこと、もう一人の伝説的なダンサー、ユーリ・ソロヴィヨフ役にセルゲイ・ポルーニン。ソロヴィヨフはパリでヌレエフと同室で、ラコットらとの外出にお目付け役として同伴しているものの、この映画の中では大きな役ではない。しかしながら、ポルーニンのクラスレッスンの時のひときわ大きな跳躍や、舞台の上で見せる踊りは華やかで、まさにスターのものである。(ユーリ・ソロヴィヨフは、30代半ばで自殺するという悲劇的な運命をたどる) イヴェンコの踊る場面も、伝説的なヌレエフのパリでの最初の踊り『ラ・バヤデール』はじめ、たくさん観ることができる。

さらに、伝説的なスター・バレリーナだったナタリア・ドゥシンスカヤ役を演じているのが、ハンブルグ・バレエの元プリンシパル、アンナ・ポリカルポヴァ。ポリカルポヴァはハンブルク・バレエに移籍する前には、マリインスキー・バレエで踊っており、美しい金髪のグラマラスなバレリーナで、ひときわ印象的。ヌレエフと踊る場面も出てくる。ドキュメンタリー映画『ボリショイ・バビロン』に出演していたボリショイ・バレエのソリスト、アナスタシア・メスコーワもバレリーナの一人として出演している。

ヌレエフの故郷での幼年時代、ワガノワ・バレエ・アカデミー時代、そしてパリと、3つの時制を行き来するという演出も、ヌレエフの内面を描くうえで実に効果的な演出となっている。映像のルックもそれぞれ異なっており、少年時代の寒々としてモノクロに近い映像、少し色あせた60年代風のパリの様子と時代の違いがよく分かるようにできている。

ワガノワ・バレエ・アカデミーのパートでは、最初なかなか伸びないヌレエフが直訴して、放校になりそうなところを名教師プーシキンのクラスに代えてもらい、ぐんぐん伸びて行く。ついには自宅にヌレエフを住まわせるプーシキンの、弟子に向ける愛情。映画の冒頭で、ヌレエフが亡命した後に尋問されるプーシキンの、困惑した表情が印象的だ。

パリのパートでは、初めて西側に渡って自由世界の空気を吸うヌレエフ。ルーヴル美術館の開館前に行ってジェリコ「メドゥース号の筏」に見入る。(対をなすように、エルミタージュ美術館ではレンブラントの「放蕩息子の帰還」を観ている。これは父親的な存在のプーシキンと、ヌレエフの関係を象徴させている) 振付家のピエール・ラコットと終演後のパーティで知り合い、親しく交流し、クララ・セイントにも出会う。パリの夜がグラマラスに、魅惑的に描かれている。その中で、ヌレエフは自由に生きたいという思いを募らせていく。鉄道の中で生まれたヌレエフが、パリで鉄道模型を買い集めるというエピソードはほほえましい。

そして空港での亡命シーンの息詰まるような緊迫感。ピエール・ラコット本人に取材して、実際に亡命の瞬間にヌレエフはどのように動いたかということまで再現してもらったとのこと。一人一人の登場人物が立体的に描かれて、手に汗を握る演出の手腕は見事なものだ。まさに自由への飛翔。

エンドロールでは、実際のヌレエフ本人が踊る映像が使われている。オレグ・イヴェンコはロシアのダンサーらしい、ダイナミックなテクニックの持ち主だけど、流石にバレエ界の伝説、ヌレエフのカリスマ性というのはなかなか再現するのは難しく感じた。

それでも、構想20年、ファインズの強い思い入れが感じられる、魂の感じられる作品であると思う。ファインズはロシア語を習得し、ロシアに足しげく通ってワガノワ・バレエ・アカデミー校長のニコライ・ツィスカリーゼとも親交を結び、資金を調達するために監督に専念するのではなく自らも出演。特にエルミタージュ美術館は、撮影許可を取るのが非常に困難だったところを、実現させた。(ソクーロフの『エルミタージュ幻想』での撮影でトラブルがあったので、長編映画の撮影を許可しない方針となったとのこと)台詞も、英語も登場するけどロシア人同士で話すシーンはロシア語を使ったり、本物のバレエダンサーを起用したり、そして史実にもほぼ忠実な内容となっていて、ファインズの深いバレエ愛が感じられる作品となっている。クララ・セイント本人にも取材し、プロデューサーは彼女と仲良しになったとのことだ。

また後日、東京国際映画祭でのQ&Aセッションの内容もご紹介します。


レイフ・ファインズのインタビュー
https://2018.tiff-jp.net/news/ja/?p=50586

『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』

5月、TOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

監督:レイフ・ファインズ
脚本:デヴィッド・ヘアー
出演:オレグ・イヴェンコ、セルゲイ・ポルーニン、アデル・エグザルコプロス、ルイス・ホフマン、チュルパン・ハマートヴァ、ラファエル・ペルソナ、レイフ・ファインズ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(c)2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

この映画の原作となったジュリー・カヴァナ著「Nureyev: The Life」 映画の中に登場するのは、亡命するまでですが、彼の死まで追っており、非常に面白い一冊です。邦訳出してほしいです。

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2018/03/14

ミケーラ・デ・プリンスの自伝「夢へ翔けて ~戦争孤児から世界的バレリーナへ~」がマドンナにより映画化

YAGP(ユースアメリカグランプリ)の出場者を追ったドキュメンタリー映画「ファースト・ポジション―夢に向かって踊れ!」に出演して一躍有名になった、ミケーラ・デプリンス。現在はオランダ国立バレエのソリストとして活躍しています。

シエラレオネの戦争孤児だった彼女がアメリカ人の養父母に引き取られ、バレリーナになるという夢をかなえたその波乱に満ちた半生をつづった自伝「夢へ翔けて ~戦争孤児から世界的バレリーナへ~」が映画化されることになりました。しかも、この本を読んで感銘を受けたビッグスター、マドンナが自らメガホンを取り、監督することになりました。スタジオはMGMで2015年より準備が進められてきました。

http://variety.com/2018/film/news/madonna-directing-ballerina-movie-taking-flight-1202725212/

「ミケーラの旅路は、アーティストとしての私だけでなく、逆境を知っている活動家としての私の心にも深く響きました。シエラレオネに光を当て、ミケーラと共に育った孤児たちを代弁する存在としての彼女に、声を与えたいと思います。彼女の物語に命を与える機会を得られて誇りに思っています」とマドンナはコメントしています。

マドンナは、2008年の映画『ワンダーラスト』で映画監督デビューし、2011年には『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』を監督。これが3本目の作品となります。

「夢へ翔けて ~戦争孤児から世界的バレリーナへ~」は、多くの方に読んでいただきたい、とても勇気と希望を与えてくれる一冊です。養母エレインとの共著ですが、18歳の時にこれを書いたというのは素晴らしい文才です。

(私の感想)
戦争、両親の死と大変な苦難を生き抜き、アメリカに渡っても差別されるという現実に直面しながら、努力を重ねて夢の扉を開いたミケーラ。だけど、養母エレーンと共に書いたこの自伝では、等身大の彼女の姿が、素直な言葉で生き生きと綴られています。決して成功に酔うことなく、様々なトラウマや恐怖、姉妹となったミアとの友情と葛藤など、若い女の子ならではの視点で語られているので、とても好感度が高いです。翻訳もとても読みやすく、ルビも振ってあって小学校高学年くらいでもスルスル読めてしまうし、ドラマティックで感動的で、面白い内容です。

ミケーラ・デ・プリンスを追ったアメリカNBCのドキュメンタリー

オランダ国立バレエで「コッペリア」のスワルニダをリハーサルする映像。

オランダ国立バレエでの活躍の他、ENBの「ジゼル」にミルタ役でゲスト出演したり、ビヨンセのLemonadeのPVに出演するなどの活躍もしています。2年ほど前にKLMオランダ航空に載った時には、彼女が機内誌の表紙を飾っていました。

ミケーラ・デ・プリンスの公式サイト
http://www.michaeladeprince.com/

素晴らしい原作なだけに、映画化がとても楽しみです。

夢へ翔けて: 戦争孤児から世界的バレリーナへ (ポプラせかいの文学)夢へ翔けて: 戦争孤児から世界的バレリーナへ (ポプラせかいの文学)
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2017/12/20

カルロス・サウラ監督『J:ビヨンド・フラメンコ』

『血の婚礼』(’81)、『カルメン』(’83)、最近では『イベリア 魂のフラメンコ』(’05)、『フラメンコ・フラメンコ』 (’10)などで知られる巨匠カルロス・サウラ監督の最新作が、『J:ビヨンド・フラメンコ』

http://j-beyond-flamenco.com/

待望、5年ぶりの日本公開となる最新作『J:ビヨンド・フラメンコ』で描かれるのは、監督の生まれ故郷、スペインのアラゴン地方が発祥とされる「ホタ」。フラメンコのルーツのひとつである「ホタ」を通し、フラメンコのフィールドの彼方に広がる、つつましくも陽気な民俗舞踊の多彩なスタイルを紹介。その奥深い魅力に迫る、至福のダンス&音楽エンターテインメントがここに完成した。めくるめく映像美で描かれる数々のダンスシーンは、絢爛豪華なエンターテインメントショーか、あるいはアート空間か──観る者を魅惑の世界へと誘うだろう。

「ホタ」という音楽の名前は初めて聞いたけど、フラメンコのルーツであるとはいうものの、非常に洗練されていて聴きやすい音楽であり踊りへと進化していた。この映画の中では、時代とともに進化していったホタの様々なスタイルを見せてくれる。土着的なものもあれば、とても現代的なものも。ノスタルジックだけど陽気で耳馴染みのいい音楽であり、出演する歌い手たちも魂がこもっていて素晴らしい。

少年少女たちがホタの基本ステップを学ぶレッスン風景から始まり、ラストは、町の広場のシーンで人々が祭りに繰り出すところで終わる。ホタがアラゴン地方では老若男女に愛され、生活に密着している様子がうかがえる。

ダンスのスタイルとしては、フラメンコ的な足を打ち鳴らす系というよりは軽やかな足捌き、そして上半身を高く保ち腕を高い位置に置いて優雅に保つ。チェロの独奏と共演する『ボッケリーニのファンダンゴ』では、男性ダンサー(元スペイン国立バレエ団でスペイン舞踊界のスターであるバレリアーノ・パニョス)のダンスが鮮やかで、クラシックバレエ的なテクニックも駆使している。女性群舞による『タランチュラ』は照明効果も駆使してとても洗練されて美しい。さらに大スターであるサラ・バラスとミゲル・アンヘル・ベルナのペアによる踊りは、情熱的で息が止まるほど目が吸い寄せられる。『町はずれ』は現代的で、ネオクラシックのバレエのパ・ド・ドゥを観ているようだ。

カルロス・サウラ監督の、映像の魔術師のような美しい照明とスタイリッシュな切り取り方で、多様なアプローチのダンスと音楽がめくるめくように繰り広げられて飽きない。その中で異色なのは、スペイン内戦後の授業風景を再現したパートで、ルイス・ブニュエル監督が脚本を手掛けたスペイン内戦初期のドキュメンタリーを引用している。また、最初の方では、1935年の「気高いアラゴン人の娘」というモノクロ映画のシーンも引用されていてホタの歴史をうかがい知ることができる。

フラメンコ界のトップダンサーも出演しているこの映画、フラメンコやスペイン音楽のみならず、音楽やダンスが好きな人だったら至福の時間を送ることができるだろう。めくるめく映像美、人々の日々の営み、喜びや悲しみと寄り添ってきたホタの心躍るリズムとメロディに酔いしれ、いくつもの舞台を観たような気になる贅沢な90分間だった。


監督 カルロス・サウラ
キャスト サラ・バラス/カニサレス/カルロス・ヌニェス/ミゲル・アンヘル・ベルナ
作品情報 2016年/スペイン/90分
受賞ノミネー ト第41回トロント国際映画祭 マスターズ部門正式出品
配給 レスペ

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2017/11/29

映画「新世紀、パリ・オペラ座」

パリ・オペラ座を支える人々を追ったドキュメンタリー映画新世紀、パリ・オペラ座が12月9日より劇場公開されます。

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http://gaga.ne.jp/parisopera/

フランスが誇る芸術の殿堂パリ・オペラ座は迷っていた。ルイ14世の時代から350年以上にわたる伝統を守ってきた彼らにも、時代の波は容赦なく押し寄せる。選ぶべき道は、歴史の継承か、新時代の表現か。

さらに史上最年少でバレエ団芸術監督に大抜擢され、"ナタリー・ポートマンの夫"としても注目を集めていたバンジャマン・ミルピエの1年半での電撃退任と、カリスマ・エトワール:オレリー・デュポン就任というマスコミをも巻き込んだ大騒動。

そして2015年11月、パリの劇場が襲撃された同時多発テロ。混迷を極めた今の時代に、彼らは自問し続ける。「今、オペラ座に求められるものは何なのか──?」

今までパリ・オペラ座を扱ったドキュメンタリー映画はたくさんありましたが、この作品はオペラを中心に描いています。でも、バレエファンであっても、劇場を愛する人にとっては面白いことこの上ないドラマが描かれています。

2015年1月から1年半ほどの期間で撮影されたこの作品。歌手育成プログラム、パリ・オペラ座アカデミーで学ぶ若いバス・バリトン歌手ミハイル・ティモシェンコ。教育プログラム「学校とオペラの10か月」で学ぶ子どもたち。そしてオペラ座総裁ステファン・リスナー。彼らのエピソードを中心に、激動の1年半を乗り切った劇場とそれを取り巻く人々が描かれます。

シーズンはじめのストライキでの公演中止、同時多発テロ、新制作『ニュルンベルクのマイスタージンガー』主演歌手の初日2日前のドタキャン、さらにバンジャマン・ミルピエの退任騒動と、よくもまあこれだけのトラブルが続いたものです。文化相からの圧力、チケット代金を値上げするべきかどうかという、劇場の存亡をかけた議論も登場します。なんとか劇場を走り続けさせようと奔走し、懸命に働く人々。そこには劇場と芸術への深い愛が感じられます。主演歌手が降板した場合にはこうやって代役を探すのか、というプロセスもとても興味深いです。

中でも印象的だったのが、ロシアの田舎から出てきたバス・バリトン歌手ミハイル・ティモシェンコの純朴さと真摯さ。大スター、ブリン・ターフェルのリハーサルを食い入るようにキラキラとした瞳で見入って素敵な会話を交わしたり、衣装合わせをしている時のワクワクした様子。誰もが彼を応援せずにはいられないことでしょう。そしてシーズン・オープニングのロメオ・カステルッチ演出『モーゼとアロン』に登場する「イージーライダー」という名前の巨大な雄牛は強烈なインパクトを残します。牛も演技指導をされてしまうとは!『ファウストの劫罰』のリハーサルでは、超人気テノール、ヨナス・カウフマンの姿も見られます。

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強烈といえば、もう一つの大きなドラマは、バンジャマン・ミルピエの退任の件。ダンサーたちから不満の声が上っていたミルピエに辞任を迫るリスナーの電話の様子が記録され、そして退任とオーレリー・デュポン新芸術監督の就任の記者会見の模様も登場します。退任を告げた時に誰もねぎらう様子がなくて、オペラ座の怖さが伝わる一瞬でした。同じくドキュメンタリー『ミルピエ パリ・オペラ座に挑んだ男』と併せて観るとより一層味わい深いところです。

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バレエのパートは少ないものの、怪我でなかなか舞台を観ることが難しい人気エトワール、エルヴェ・モローがミルピエの振付作品『La nuit s'achève』をリハーサルする様子が記録されているのは、ファンにとっては嬉しいこと。また、『ラ・バヤデール』ニキヤ役をリハーサルするアマンディーヌ・アルビッソン、そして影の王国のコール・ド・バレエを踊るスジェのファニー・ゴルスの舞台リハーサルも登場します。

華麗なパリ・オペラ座の舞台の裏で、多くの人が困難を乗り越えて劇場を支えていることが伝わる好ドキュメンタリー。それも、驚くほどドラマティックで面白いエピソードばかり。パリ・オペラ座バレエのファンにも、オペラファンにも、舞台芸術ファンにもぜひ観ていただきたい作品です。

Photo


「新世紀、パリ・オペラ座」

2017/12/9(土)よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
上映劇場リスト
http://gaga.ne.jp/parisopera/theater/index.php


こちらはアメリカ版の予告編

監督ジャン=ステファヌ・ブロン
キャスト
<オペラ座総裁>ステファン・リスナー
<バレエ団芸術監督>オレリー・デュポン、バンジャマン・ミルピエ
<音楽監督>フィリップ・ジョルダン
<オペラ歌手>ブリン・ターフェル、ヨナス・カウフマン、オルガ・ペレチャッコ、ジェラルド・フィンリー、ミヒャエル・クプファー・ラデツキー、ミハイル・ティモシェンコ、ブランドン・ヨヴァノヴィッチ
<バレエダンサー>アマンディーヌ・アルビッソン、エルヴェ・モロー、ファニー・ゴルス

作品情報 2017年/フランス・スイス/111分受賞
ノミネート 2017年モスクワ国際映画祭 ドキュメンタリー映画賞受賞
配給 ギャガ

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2017/10/12

「ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス」

イスラエルを代表するコンテンポラリーダンスカンパニーのバットシェバ舞踊団

「ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス」は1990年から芸術監督・振付家を務めるオハッド・ナハリン(1952〜)に8年間に渡って長期密着取材したドキュメンタリー映画。その人生を振り返る貴重な資料映像と、代表的な公演の記録映像を数多く使用したダンスシーンとで構成されます。

また、「GAGA(ガガ)」と呼ばれる独自の身体能力開発メソッドを考案し、現代人の身体感覚や直感的な感性を目覚めさせてきたその世界に肉迫。本作を通して「ミスター・ガガ」と呼ばれるナハリンの創作の秘密が明らかになります。

http://mrgaga-movie.com/

作品のクラウドファンディングに参加したので、オンラインで視聴。オハッド・ナハリンの振付、そしてバットシェバ舞踊団のダンス、ダンスの無限の可能性と面白さを教えてくれる鮮烈な作品ばかりで、できる限りその作品は見続けていた。今月末にも、バットシェバ舞踊団の来日公演が予定されている。

この映画に登場するナハリンの半生は実に波乱万丈なもの。イスラエルのキブツに生まれ、徴兵されて第四次中東戦争に従軍する。遅い年齢でダンスを本格的に始めるものの、バットシェバ舞踊団に入団。そこに教えに来たマーサ・グラハムの目に留まり、ニューヨークのマーサ・グラハム舞踊団に入るものの、うまくいかず、ジュリアード音楽院とスクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)でバレエを学び、彼のハンサムな容姿に惹かれたベジャールに見いだされて20世紀バレエ団に入団する。しかしここも合わずアルヴィン・エイリー舞踊団へ。ここで活動した後、自らのカンパニーを設立、そしてイスラエルに戻ってバットシェバの芸術監督に就任した。

ナハリンの半生が記録映像で、本人の語りによって伝えられるとともに、彼の代表的な作品の映像が挿入される。どれもダンサーたちの強靭な踊り、パワフルでメッセージ性のある振付、実にユニークで鮮烈な舞台づくりが魅力的に捉えられていて、ますます彼の作品を観たくなる。徴兵されての従軍での過酷な経験、ニューヨークでの苦労、愛する妻梶原まりの死、イスラエル建国50周年セレモニーでの出来事、それらを生き抜いた彼の強さとどこか漂ってくる優しさが印象的だ。巨匠なのにあくまでも穏やかで、すべての人々がダンスを楽しめて心を開放する独特のGAGAメソッドを指導する姿は実に楽しそう。

この作品を観て感じるのは、ダンスというのはすべての人々にとって、生きる力になりうるということ。ナハリンの幼少時のエピソードで、彼には自閉症の双子の兄弟がいて、彼とコミュニケーションをするために祖母が踊って見せたことに触発されて自分もダンスを始めた、と語っているのだが、実はこのエピソードは彼の創作によるものであることが明かされる。(こういう、どこか人を食ったところがあるところもナハリンらしい) だけど、ダンスにはそういった力があるということがこの映画を通じて伝わってくる。

イスラエル出身のハリウッド女優、ナタリー・ポートマンもイスラエルに戻った時にGAGAメソッドに出会って魅せられたと劇中で語っている。GAGAメソッドは、ダンサーだけでなく様々な年齢の一般の人々にも、自分の身体の無限の可能性と出会い、身体と心を開放させてくれるものだ。以前の来日公演で、実際にナハリンが指導するGAGAのクラスを受講したことがあったけれども、目から鱗が落ちるような新鮮でワクワクするような経験だった。

65歳になったナハリンは、先日、バットシェバ舞踊団の芸術監督を退くことを発表した。しかしながら、引き続きカンパニー専属振付家としての活動、そしてGAGAの普及活動は続けるという。来日公演「ラスト・ワーク」が楽しみでたまらない。そしてその前には、映画館の大きな画面で再び「ミスター・ガガ」を観て、ナハリンの作り出すダンスを味わいたいと思う。


監督:トメル・ハイマン/出演:オハッド・ナハリン、ナタリー・ポートマン、マーサ・グラハム、モーリス・ベジャール、マリ・カジワラ
2015年/イスラエル/100分/配給:アクシー株式会社、プレイタイム

2017年10月14日(土)ロードショー
シアター・イメージフォーラム他
http://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/980/


バットシェバ舞踊団/オハッド・ナハリン
『Last Workーラスト・ワーク』

彩の国さいたま芸術劇場大ホール
2017年10月28日(土)、29日(日)各15時開演

世界はどこに向かっているのか。
わたしたちに今できることは何か―
オハッド・ナハリンのクールな知性と豊穣なイマジネーションが
バットシェバ舞踊団の強靭なダンサーたちとつくりあげた
現代へのひそやかなメッセージ。

http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/4012

2017/08/03

ディズニーの実写版『くるみ割り人形』、ラッセ・ハルストレム監督、キーラ・ナイトレイ、ミスティ・コープランド、セルゲイ・ポルーニンら出演

ディズニーが実写版映画『くるみ割り人形』を製作するというニュースは以前に発表されていましたが、キャスト、公開日程が明らかになっています。

http://www.insidethemagic.net/2017/07/d23-expo-2017-nutcracker-four-realms-release-date-announced-walt-disney-studios/

http://www.slashfilm.com/the-nutcracker-and-the-four-realms-details-revealed/

http://www.imdb.com/title/tt5523010/

監督はラッセ・ハルストレム(『ギルバート・グレイプ』『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』『砂漠でサーモン・フィッシング』)。
出演は、金平糖の精にキーラ・ナイトレイ、ドロッセルマイヤーにモーガン・フリーマン、ジンジャーおばさんにヘレン・ミレン、クララにマッケンジー・フォイと、とても豪華です。

そしてミスティ・コープランドがバレリーナ役、役名は書いていませんがセルゲイ・ポルーニンも出演者の中に名前があります(踊る役なので金平糖の王子ではないかと)。

CGをふんだんに使ったプロダクションで、ねずみの王様は1000匹以上のねずみで表現されるのだけど、とても驚異的でクールな動きをさせるために、リル・バックのダンスの動きを捉えて表現させたとのことです。

題名は‘The Nutcracker and the Four Realms’ で、2018年11月2日公開予定です。

2017/07/15

『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』エトワールインタビューコメント

パリ・オペラ座バレエが、その輝かしい伝統を継承していく姿を舞台裏から捉えたドキュメンタリー映画『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』が7/22(土)よりいよいよ公開となります。

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http://backstage-movie.jp/

古今東西、世界中のダンサーが憧れ、バレエファンに愛され続けているバレエの殿堂“パリ・オペラ座”。
創立から356年という長きに渡り、なぜ“パリ・オペラ座”が最高峰であり続けてきたのか? それはダンサー個人の素質や才能だけでなく、“オペラ座”の伝統を伝えようとする指導者たちの情熱だった!

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本編内に登場するパリ・オペラ座バレエ団、最高位であるエトワールを務める人気ダンサー、アマンディーヌ・アルビッソンとジョシュア・オファルトから、同バレエ団で活躍する気鋭の日本人ダンサー、オニール八菜について、そしてバレエを学ぶ子どもたちへの温かい応援メッセージが届いています。


■アマンディーヌ・アルビッソン(エトワール) 

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1989年生まれ。1999年にパリ・オペラ座学校に入学し、2006年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。2014年、25歳の若さでエトワールに任命される。伸びやかな長身を生かして「白鳥の湖」オデット/オディール役など古典作品から、ミルピエ振り付け「ダフニスとクロエ」など現代作品も得意とし、幅広いレパートリーを持つ。

Q:本作内「ラ・バヤデール」で共演したオニール八菜さんについては?

彼女については良いことしか語れません。優しくて心が広く、気持ちがシンプルで潔い人です。おそらくこれから素晴らしいキャリアを歩む、大きな可能性に満ちていると思います。

Q:あなたが考えるパリ・オペラ座の伝統と魅力とは?

クラシック・バレエや現代的なヌレエフの作品などの演目そのものを受け継いでいくこと、そしてダンサーたちの実力も伝統だと思います。私たちには古典も現代作品も、同じようにたやすく踊らなければならない使命があります。

オペラ座は仕事場として世界一美しい場所です。私はオフィスと呼んでいますが(笑)毎朝出勤する時に見上げて、なんて私は恵まれているんだろうと思います。


Q:オペラ座に憧れるバレエを学ぶ子どもたちに伝えたいことは何でしょうか。

とにかく踊ることを、情熱をもって思い切り楽しんでほしいです。ただ、バレエはすごくハードです。毎日休むことなく努力するという覚悟が必要です。ただ、それを続けて形にすることができたときには、信じられないような感覚を舞台で味わうことができるので、ぜひそのことを知ってほしいです。

■ジョシュア・オファルト(エトワール)

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1998年、パリ・オペラ座学校に入学。2002年に18歳で同バレエ団に入団し、スジェ時代から王子役など主役を踊る。2012年、エトワールに任命。自身のダンスウェアブランド「Hoffalt」のデザインを手がけ、世界中のダンサーから愛用されている。

Q:エトワールとしての責任感と誇りとは?

エトワールであることは、自分に自信を与えてくれることもありますが、役によっては、責任の重みを感じ過ぎて負担になってしまうこともあります。宝石店のショーウィンドーに飾ってある旬の宝石がエトワールだと感じていて、自分はパリ・オペラ座のそれだという意識でいつも踊っています。

Q:パリ・オペラ座を目指す子どもたちに伝えたいメッセージは?

可能性というのはどこまでもあるものです。“ここまでしかできない”とは決して思わないでほしい。僕自身、裕福でない家庭に生まれ、まさかパリ・オペラ座バレエ団の一員として世界中で踊る日が来るとは思っていませんでした。何でもできるんだよ、と伝えたいです。ダンスに限らず、情熱をもって打ち込めるものを見つけてほしいと思います。

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こちら2名のエトワールのインタビューについては、今年3月のパリ・オペラ座バレエ来日公演の際に、私が取材をさせていただきました。より詳しいインタビューについては、劇場用パンフレットに掲載されていますので、ご覧いただければ幸いです。劇場用パンフレットでは、他に演目紹介、出演者紹介も書かせていただいています。

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監督:マレーネ・イヨネスコ 『ロパートキナ 孤高の白鳥』

出演:マチュー・ガニオ/アニエス・ルテステュ/ウリヤーナ・ロパートキナ/オニール八菜/バンジャマン・ペッシュ/ウィリアム・フォーサイス

2016/フランス/86分/原題:BACKSTAGE/字幕翻訳:古田由起子/字幕監修:岡見さえ

配給:ショウゲート/協力:(公財)日本舞台芸術振興会 ©Delange Production 2016

公式サイト:backstage-movie.jp

7/22(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー


2017/06/27

「ポリーナ、私を踊る」フランス映画祭2017

バスティアン・ヴィヴェスのバンドデシネ(グラフィックノベル)を原作にした映画「Polina, danser sa vie」は、「ポリーナ、私を踊る」という邦題で、今年10月28日より劇場公開されることが決定しています。
http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2017/04/polina-danser-s.html

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かねてから注目していたこの作品、フランス映画祭2017で上映されるというので観に行ってきました。共同監督のアンジュラン・プレルジョカージュとヴァレリー・ミュラーもゲストとして来日していました。

http://unifrance.jp/festival/2017/films/polina-danser-sa-vie

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ボリショイ・バレエ団のバレリーナを目指すロシア人の女の子ポリーナは、厳格な恩師ボジンスキーのもとで幼少の頃から鍛えられ、将来有望なバレリーナへと成長していく。かの有名なボリショイ・バレエ団への入団を目前にしたある日、コンテンポラリーダンスと出会い、全てを投げうってフランスのコンテンポラリーダンスカンパニー行きを決める。新天地で新たに挑戦するなか、練習中に足に怪我を負い彼女が描く夢が狂い始めていく。ダンスを通して喜びや悲しみ、成功と挫折を味わい成長していく少女。彼女が見つけた自分らしい生き方とは…。

原作は、BD書店賞とACBD批評賞を受賞しているバスティアン・ヴィヴェスのグラフィックノベル。ポリーナ役には本作で映画初出演となるアナスタシア・シェフツォワ、コンテンポラリーダンスカンパニーの振付家の役にジュリエット・ビノシュ、さらにパリ・オペラ座エトワールのジェレミー・ベランガールらが出演。


ポリーナ役のアナスタシア・シェフツォワはワガノワ・アカデミーを卒業後、マリインスキー・バレエの研修生となった現役バレリーナ。途中で彼女が入団するコンテンポラリーダンスのカンパニーの振付家役を演じたジュリエット・ビノシュはもちろんスター女優だけど、アクラム・カーンと「in-i」というダンス作品で共演しているということもあって、プロのダンサーと見間違うほどの表現力がある。また、アントワープでポリーナが出会う振付家/ダンサーのカールを演じるのは、パリ・オペラ座のエトワール、ジェレミー・ベランガール。さらに、ポリーナがボリショイ・バレエ入団を捨ててコンテンポラリーダンスを目指そうと思うきっかけ、プレルジョカージュ振付の「白雪姫」の舞台で踊るのは、バレエ・プレルジョカージュの津川友利江さん。

アフタートークでもプレルジョカージュが言っていましたが、この作品においては吹き替えは一切使わず、すべて本物のダンスで構成されているとのことで、ダンスシーンはそれぞれリアルで見事だし、映像としても非常に美しく撮られています。世界有数の振付家であるプレルジョカージュが共同監督をしているだけのことはあります。バレエ学校での厳しいクラス、雪の中でポリーナが踊るダンス、ジュリエット・ビノシュのソロ、アントワープのダンサーが見せる即興のダンス、そしてラストシーン、ポリーナとベランガール演じるカールが踊るパ・ド・ドゥでは、幻想的な演出も美しい。ダンスを扱う映画では、”本物のダンス”というのはとても大切な要素だと思います。

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原作に比較的忠実に作っているものの、いくつかの変更点があります。原作ではあまり多く描かれていない、ポリーナの両親とのエピソードが加えられていること、そしてエクサンプロヴァンスのダンスカンパニーの芸術監督が女性であること、そしてポリーナが最終的に目指すのはコンテンポラリーダンスのダンサーではなく、振付家であること。でも、しっかりと原作のスピリットは描かれていると思います。

ロシアの貧しい家庭で育ったポリーナが、本人の希望というよりは両親の「娘をボリショイのプリマ・バレリーナにする」という期待を背負ってバレエ学校に入り、そして両親はそのために大きな犠牲を払うものの、彼女自身が途中で目標を見失って挫折を経験するというストーリーは、ドキュメンタリー「ダンサー セルゲイ・ポルーニン」を思わせるものがあります。ポリーナがボリショイに入団しないという決心を聞いた時の母の取り乱し方は強烈でした。一方で、無一文でアントワープにいるポリーナが、父からの電話にすべてうまくいっている、と嘘をつくシーンも胸を締め付けます。

バレエ学校に入ったばかりのころは決して際立った生徒ではなく、いつもおびえたような様子を見せていたポリーナ。やがて頭角を現すものの、ものすごくバレエに燃えていたわけではなかった彼女が初めて惹かれたのが、コンテンポラリー・ダンスです。しかしそこで怪我や失恋といった挫折を経験し、アントワープへ。そこでも仕事が見つからずお金も底をつき、クラブでアルバイトをしながら荒んだ生活をしていた彼女が、今度はダンスを創造していくことに喜びを見出して目の輝きを取り戻し、自分らしい生き方を見つけていくという再生の物語は、心を揺さぶるものがあります。ボリショイ・バレエ学校で彼女を指導していた厳格な教師ポジンスキーの姿が最後に一瞬登場するというのも、原作を上手くアレンジしていると感じました。

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ヒロイン、ポリーナを演じたアナスタシア・シェフツォワは、ワガノワを卒業したダンサーとしての実力もさることながら、吸い込まれそうな大きな瞳と透明感が魅力的。フランス、モスクワ、サンクトペテルブルグでのオーディションで500人の中から選ばれたという。映画の中ではポリーナはどちらかといえば寡黙であまり自分のことを話しませんが、「人が振付けた作品をそのまま踊るのは嫌」という台詞には説得力がありました。アントワープで、すべてを失い、寝る場所すらなくしてしまった彼女が街をさまよう姿の中にも、強い意志が感じられ、モスクワでの弱弱しかった彼女が確実に成長して自由である姿を見ることができました。

出演者の多くは、半年間のダンストレーニングを経たとのことですが、特にジュリエット・ビノシュのダンスの見事さには驚かされました。しっかりとしたダンサーの肉体をもっていて、振付家、ダンサーとしての表現力を備えたダンスです。ポリーナには厳しく接するものの、ポリーナが将来目指すべき道のロールモデルとしての役割を果たしていました。トークでプレルジョカージュは、ピナ・バウシュなどの女性振付家へのオマージュを捧げるとともに、ダンス界にはもっと女性振付家が活躍してほしいという願いを込めて、ビノシュをキャスティングし、ポリーナも振付家を目指す設定にさせたと語っていました。

そしてもちろん、アントワープで登場するジェレミー・ベランガールは、パリ・オペラ座のエトワールでありながら異色のキャリアを歩み、オペラ座引退公演でも、自らの即興作品を踊ったという才人。一般の人達に即興でダンスを踊ることを教える振付家/ダンサーであるという設定がベランガール自身と重なり合うところがあり、またダンサーとしての魅力も大きく発揮されていて、二人が踊るシーンでもリードをしてます。彼の出会いを通してポリーナが再生していくという説得力がありました。

雪に包まれたロシア、華麗なるボリショイ劇場、衣裳部屋でのラブシーン、南仏エクサンプロヴァンスの自然、アントワープの港の夕焼け、ロシアでの少女時代を想起させるラストの幻想的なダンスシーンと映像も美しい。一人の少女の成長物語として、ダンスへの愛を語る作品として、心に残る一本でした

映画『ポリーナ、私を踊る』公式
@polina__jp

https://twitter.com/polina__jp

監督:アンジュラン・プレルジョカージュ、ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジェレミー・ベランガール、ジュリエット・ビノシュほか

2016年/フランス/フランス語、ロシア語/108分/DCP/2.35/5.1ch
配給:ポニーキャニオン

10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開

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バスティアン・ヴィヴェス 原正人

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2017/06/23

Bunkamuraル・シネマのダンス関連映画ラインナップ

Bunkamuraル・シネマの今年下半期のラインナップが発表されています。

http://www.bunkamura.co.jp/cinema/

そして今年は特にダンス関係の映画の上映が多いんですよね。

上映中~6月30日まで

「ザ・ダンサー」
世界を熱狂させた天才ダンサー ロイ・フラーとイサドラ・ダンカン、ふたりの情熱がぶつかり合う、夢と愛の行方は──?


7月15日(土)より
ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣
19歳で英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとなるも、人気のピークで電撃退団。バレエ界きっての異端児の知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー。


7月22日(土)より
パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち
世界最古にして最高峰のバレエ団、パリ・オペラ座。356年の夢と伝統はどうやって守られてきたのか?指導者たちがトップダンサーへと引き継ぐ豊かなインスピレーションと秘めたる想いが今、明かされる!


8/12(土)~9/1(金)
※各作品の詳しい上映スケジュールは7月下旬発表予定
ボリショイ・バレエinシネマ Season2016-2017
【上映作品】
①くるみ割り人形
②眠れる森の美女
③白鳥の湖
④明るい小川
⑤現代の英雄
⑥コンテンポラリー・イブニング
⑦ゴールデンエイジ


8/19(土)より
パッション・フランメンコ
声よ、届け!
パコ・デ・ルシア、アントニオ・ガデス、カルメン・アマジャ、カマロン・デ・ラ・イスラ、エンリケ・モレンテ、モライート・チーコ、フラメンコ界に燦然と輝く6人のマエストロに現代フラメンコ界最高のフラメンコダンサー、サラ・バラスが捧げた奇跡の舞台


今冬ロードショー予定
J: BEYOND FLAMENCO
『カルメン』『フラメンコ・フラメンコ』のスペインの名匠カルロス・サウラ最新作。自身の故郷アラゴンで生まれた「フラメンコ」と並ぶスペインの伝統的舞踊「ホタ」の魅力に迫る。


今冬ロードショー予定
新世紀、パリ・オペラ座
フランスが誇るパリ・オペラ座は波乱に満ちていた。バレエ団芸術監督ミルピエ突然の退任、オレリー・デュポン新芸術監督の誕生、オペラ初日直前の主要キャスト降板……。そんな中行われたオーディションに綺羅星のごとく現れたロシア人青年歌手ミハイル。規格外の音域と奇跡の声を放つ若き天才――!フランス本国で『パリ・オペラ座のすべて』を超える大ヒットを記録。絢爛豪華なステージの舞台裏を描く、圧巻のドキュメンタリー。


これだけたくさんのバレエ/ダンス関連の映画が一つの映画館でロードショー公開されるのは本当に嬉しい限りですよね。

さらに、英国ロイヤル・オペラハウスシネマシーズン、7月1日から東京都写真美術館で公開される「アントニオ・ガデス舞踊団 in シネマ」、また2017年8月12日 新宿ピカデリー他にて全国ロードショーされる、パリ・オペラ座を舞台にしたアニメーション映画「フェリシーと夢のトウシューズ」、フランス映画祭で上映され、10月28日に劇場公開される「ポリーナ、私を踊る」と、本当にたくさんのバレエ/ダンス関連の映画やライブビューイングがあり、映画館でバレエ、ダンスを楽しむというのも定着してきた感じがします。

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