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シュツットガルト・バレエ

2016/07/22

シュツットガルト・バレエのドキュメンタリー番組

シュツットガルト・バレエ55周年を記念して、ドイツのテレビ局でドキュメンタリー番組が放映されました。今までの、そして現在のシュツットガルト・バレエについての番組で、クランコ生前の貴重な映像やリード・アンダーソン芸術監督、マリシア・ハイデやジョン・ノイマイヤー、そしてアリシア・アマトリアン、ジェイソン・レイリーなど現役ダンサーなどのインタビュー映像、リハーサル映像もあります。デミス・ヴォルピの新作「サロメ」などの舞台映像も。

http://swrmediathek.de/player.htm?show=fa0e44c0-4d8f-11e6-a659-0026b975e0ea

全編ドイツ語ですが(一部インタビューで英語あり)、89分の長さで大変興味深いです。昨年の来日公演の時の様子も少し流れます。

2016/06/03

シュツットガルト・バレエの2016-17シーズン

ヨーロッパの劇場では、次シーズンを発表するのが一番遅いシュツットガルト・バレエの2016-17シーズンが発表されています。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2016-17-season/

新作としては、注目の若手振付家、現在新作「サロメ」の初日(6月10日)を目前としているデミス・ヴォルピの「ヴェニスに死す」。

シュツットガルト州立歌劇場オペラとの共同制作作品で、ブリテンの同名オペラ作品となります。ヴォルピは「クラバート」の大成功で一躍名を挙げ、20代半ばの若さでシュツットガルト・バレエの常任振付家となりましたが、オペラの振付もすでにいくつか手掛けており、2014年にはハイデルベルグ・オペラで「Fetonte」の演出をしています。オペラの演出としては2作目ですが、今回はバレエ団との共同制作なのでダンサーも出演します。シュツットガルト・バレエとオペラの共同制作作品としては、クリスチャン・シュプック演出の「オルフェオとエウリディーチェ」がありました。

もう一作、全幕の新作としては、マルコ・ゲッケの「カフカ」(仮題)があります。

これは、「くるみ割り人形」と「オルランド」に続きゲッケの3つめの全幕作品となります。オーストリアのJohannes Maria Staud という作曲家に音楽を委嘱。もちろん作家フランツ・カフカについての作品ですが、カフカの著作と、カフカという人物の両方の面からのアプローチとなるようです。ゲッケ独特の痙攣するような動きや暗い照明などは、なるほどカフカの世界に合っているかもしれません。

さらに、ミックスプロの2プログラムが用意されています。

SEDUCTION!
バレエ団のデミ・ソリストでもあるカタルツィナ・コツィエルスカの新作、シディ・ラルビ・シェルカウイの「牧神」、マルコ・ゲッケの「薔薇の精」そして、ベジャールの「ボレロ」です。

コツィエルスカの作品は、セルゲイ・プロコフィエフの孫であるガブリエル・プロコフィエフに音楽を委嘱。「牧神の午後」「薔薇の精」は、バレエ・リュスの作品が有名ですが、その現代版が上演されます。そしてあまりにも有名なベジャールの「ボレロ」で締めて、音楽の持つ魅惑的な力を表現したプログラムとしています。

Night Pieces
こちらは、中劇場での上演。エドワード・クラグの「SSSS ...」は、一部が日本でのガラでも上演されている作品でショパンのノクターンを使用。イリ・キリアンの「フォーリン・エンジェル」の音楽はスティーヴ・ライヒ。そしてもう一作品は、バレエ団の若手デミ・ソリストで昨年の来日公演でも活躍したルイス・シュテーンズの新作(バレエ団のプログラムとしては2作目)


リバイバルとしては、

マキシミリアーノ・グエラ振付の「ドン・キホーテ」
デミス・ヴォルピの大ヒット作「クラバート」
クランコの「じゃじゃ馬馴らし」
クランコの「ロミオとジュリエット」
Kammerballette」と題されたミックスプロ(中劇場での上演、ハンス・ファン・マネンの「カンマ―バレエ」、グレン・テトリーの「アリーナ」、そしてカタルツィナ・コツィエルスカの作品で今年の3月に初演されたばかりの「NEURONS」)

なお、2017年4月7、8、9日の3日間、東京バレエ団がツアーでシュツットガルト州立劇場でブルメイステル版「白鳥の湖」を上演します。

このほか、恒例の若手振付家の夕べ、ジョン・クランコ・スクールの公演、そして劇場前の公園で舞台の中継を観られる「バレエ・イン・ザ・パーク」もあります。


ヨーロッパの劇場が素晴らしいのは、毎年全幕の新作を1~2作品初演し、ミックスプログラムも新作含めて複数上演し、さらにレパートリーの公演が数多くあることで、公演数も演目も少ない北米と比較すると、ヨーロッパの文化の成熟度は桁外れであり、やはりバレエってヨーロッパの文化だと実感する次第です。国(ドイツの場合は州政府)が文化にそれだけお金を支出しており、そしてこのレベルの高い文化を求めて海外からも観客がやってくるわけですね。

なお、かつてシュツットガルト・バレエで活躍し、ウラジーミル・マラーホフともよく踊った名花イズール・レンドヴァイが、シュツットガルト・バレエにバレエ・ミストレスとして帰ってくるとのことです。

7月22日の「オネーギン」公演で、スージン・カンが引退します。オランダ国立バレエに移籍するダニエル・カマルゴはすでに「貴婦人と道化師」でさよなら公演を終えています。

今年はリード・アンダーソンの芸術監督就任20周年記念ということで、7月にはフェスティバルが行われ、日替わりで様々なプログラムが上演されます。7月24日には、ガラ公演も行われてシーズンが締めくくられます。

2015/07/08

シュツットガルト・バレエの次期芸術監督がタマシュ・ディートリッヒに決定

シュツットガルト・バレエは、現芸術監督のリード・アンダーソンが2018年に任期が切れますが、後任が誰になるのかが不明でした。

1年前から、シュツットガルト(バーデン・ヴュッテンブルグ州)の文化相と市長が、次期芸術監督を決めるための委員会を開催していました。この委員会には、ジョン・ノイマイヤーがアドバイザーとして参加もしていました。その中で、20人以上の候補者の中から振付家のサシャ・ヴァルツの名前が挙がっており、有力候補の一人であることが明らかになって、波紋を呼んでいました。そうなった場合には、バレエ団の方針が完全に変わってしまうからです。

しかし結局、現在のシュツットガルト・バレエの観客動員が94%~98%と好調であることもあり、現在のクランコ路線を継承することが決まったとのことで月曜日に、タマシュ・ディートリッヒが次期芸術監督となると発表されました。

公式サイトにお知らせ掲載
http://www.stuttgart-ballet.de/home/

バーデン・ヴュッテンブルグ州文化省のプレスリリース
http://mwk.baden-wuerttemberg.de/de/service/presse/pressemitteilung/pid/die-findungskommission-schlaegt-dem-verwaltungsrat-einstimmig-den-stellvertretenden-intendanten-des/

新聞記事
http://www.stuttgarter-zeitung.de/inhalt.intendantenwechsel-beim-stuttgarter-ballett-tamas-detrich-soll-neuer-tanzchef-werden.78e3f095-56cc-421f-a4a4-273f5c55c908.html

タマシュ・ディートリッヒは、アメリカ出身。1977年にシュツットガルト・バレエに入団し、1981年にはプリンシパルに昇進。世界バレエフェスティバルにも出演したことがあるスターダンサーでした。2004年よりバレエ・マスターとなり、2009年には副芸術監督に。リード・アンダーソンの片腕として活躍してきました。今年の夏に56歳となります。

リード・アンダーソンは今あまり体調がよくないとのことですが、2018年にジョン・クランコスクールの新しい校舎が完成することから、それまでは芸術監督を務めるとのこと。今シーズンオフには、プリンシパルのアレクサンダー・ジョーンズ(チューリッヒ・バレエに移籍)、ソリストのラケーレ・ブリアッシ(ボストン・バレエに移籍)、ニコラ・ゴドノフ、アルマン・ザジャン、ドゥミ・ソリストのエリザベス・ワイゼンバーグら合計8人のダンサーが退団するなど、ここ数年ダンサーが大幅に入れ替わっています。クランコ・レパートリーを熟知しているタマシュ・ディートリッヒが後任に決まったことは朗報だと思われます。

2015/06/10

シュツットガルト・バレエの2015/16シーズンと次期芸術監督問題、アレクサンダー・ジョーンズ移籍

シュツットガルト・バレエの2015/16 シーズンが発表されています。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/

注目の新作は、
デミス・ヴォルピ振付の「サロメ」。
「クラバート」で大成功を収めた、バレエ団常任振付家のヴォルピが、オスカー・ワイルドの原作のバレエ化に挑みます。2016年の6月10日初演予定。
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/salome/

このほか、新作扱いは以下のミックスプロです。

キリアン/ファン・マーネン/クランコ ミックスプロ
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/kylian-vanmanen-cranko/

FORGOTTEN LAND(キリアン)、SOLO、VARIATIONS FOR TWO COUPLES(ファン・マーネン)、POÈME DE L'EXTASE(「法悦の詩」、クランコ)

フォーサイス/ゲッケ/ショルツ プロ
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/forsythe-goecke-scholz/
「セカンド・ディテール」(フォーサイス)、ゲッケの世界初演作品、「ベートーヴェン交響曲7番」(ショルツ)

KAMMERBALLETT ミックスプロ (中劇場での上演)
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/kammerballette/
CHAMBER BALLET(ファン・マーネン、カンパニー初演)、ARENA(グレン・テトリー)、カタルツィナ・コツィルスカの世界初演作品

リバイバルとレパートリーは、

「欲望という名の電車」(ノイマイヤー)

「眠れる森の美女」(ハイデ)

「ロミオとジュリエット」(クランコ)

クランコ・クラシックス(クランコのミックスプロ)
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/cranko-classics/
「パイナップル・ポール」「貴婦人と道化師」

また、リード・アンダーソンの芸術監督20周年を記念してのフェスティバルが行われます。
http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2015-16-season/festival-20years/

6月16日~24日にわたって行われ、バレエ団出身で他のカンパニーの芸術監督をしている元ダンサーたちを迎えたトークあり、ミックスプロあり、「ロミオとジュリエット」「オネーギン」などの特別公演あり、カンパニー団員の振付家たちの新作をそろえたガラありと盛りだくさんです。最終日は海外からのゲストを迎えてのガラ公演で締めくくられます。


さて、2018年にリード・アンダーソンの芸術監督としての任期が切れ、その時に69歳となる彼は退任する予定です。その後任人事を巡って、バレエ団が揺れているようです。

http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.vertrag-von-reid-anderson-sorge-um-die-zukunft-des-stuttgarter-balletts.048390a9-2d8c-4210-aee9-ddc70dd2e07d.html

http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.diskussion-um-nachfolge-klares-bekenntnis-zur-cranko-tradition.1b53afd1-d517-405f-b57f-4d528b6c1342.html

現在、リード・アンダーソンの後任芸術監督はサシャ・ヴァルツとなり、完全にレパートリーを一新するという噂があり、バレエ団が揺れています。一月に地元新聞でこのことが報じられた時にはダンサーたちは動揺し、退団を申し入れた団員も続出しました。後任人事のための委員会が、バーデン・ヴュッテンブルグ州の文化庁によって組織されています。その委員会のアドバイザーにジョン・ノイマイヤーがおり、シュツットガルト・バレエは、クランコ作品と密接な関係を保ってきたと語っています。(一応、サシャ・ヴァルツ就任の噂については、委員会では否定されているようです) が、ノイマイヤーが後継者になるべきだという声も上がっていたようです。

シュツットガルト・バレエは、ジョン・クランコの急逝を受けて、1974年にグレン・テトリーが芸術監督を引き受けました。「春の祭典」「ヴォランタリーズ」などの傑作を振付けた振付家であるテトリーは、バレエ団のカラーを一新しようとしましたが、結局2年で退任し、マリシア・ハイデが引き継いで、クランコ作品の伝統を守ってきました。リード・アンダーソンは、1996年に芸術監督に就任してその路線を保ちつつも、現代作品の新作なども多く取り入れ、クリスチャン・シュプック、マルコ・ゲッケ、そしてデミス・ヴォルピなどの振付家が育っていったのです。

また、このカンパニーの出身者の多くが、他のバレエ団の芸術監督として活躍しています。ハンブルグ・バレエを長年率いているジョン・ノイマイヤーを始め、チューリッヒ・バレエ芸術監督のシュプック、カールスルーエ・バレエ芸術監督のビルギット・カイル、韓国国立バレエ芸術監督のスージン・カン、そしてフィリップ・バランキエヴィッチも次期チェコ国立バレエ団の芸術監督に決定しています。ブリジット・ブライナーはドイツのゲルセンキルヘンのカンパニー、エリック・ゴーティエはゴーティエダンス、ロバート・コンはアウグスブルグ・バレエの芸術監督、そしてマリシア・ハイデはチリのサンチアゴ・バレエの芸術監督です。

プリンシパル・クラスで多くの退団者が相次いでいるなど、いろいろと困難に直面しているシュツットガルト・バレエですが、大きな財産であるクランコのレパートリーを守り抜いてほしいものですね。


その退団者の話ですが、若手プリンシパルのアレクサンダー・ジョーンズが退団し、チューリッヒ・バレエに移籍します。ソリストも、ラケーレ・ブリアッシがボストン・バレエに、アルマン・ザジャンが米国のタルサ・バレエに、そしてニコライ・ゴドノフは引退します。6人のソリストのうち3人が退団、1人が昇進なのでソリストが2人しかいないというびっくりの事態に。

11月の来日公演でアレクサンダー・ジョーンズのロミオやオネーギンが観たかったので、残念ですね。一方で、来日公演の「オネーギン」に主演する予定のソリストのロマン・ノヴィツキーがプリンシパルに昇進します。

2015/02/02

12/31 シュツットガルト・バレエ「Silvester Gala」

感想が遅くなりましたが、2014年の大晦日を飾ったシュツットガルト・バレエのシルヴェスター・ガラを観に行ってきました。アリーナ・コジョカルとエドワード・ワトソンがゲスト出演。

客席には、フィリップ・バランキエヴィッチ、アレクサンドル・ザイツェフ、マリシア・ハイデ、ハンス・ファン=マネン、ヨハン・コボーの姿が見え、幕間にはシャンパンがふるまわれるという華やかなガラ公演。特にバランキエヴィッチの颯爽とかっこいい様子は目を引いた。体調が良くないと噂されるリード・アンダーソンだが、開演前にはあいさつに立っていた。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2014-12-31/silverstergala-1415/program-2014-12-31/

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* Debut
** Stuttgart debut

Hommage à Bolschoi 「ボリショイへのオマージュ」

Choreography: John Cranko
Dancers: Elisa Badenes, Daniel Camargo

この日唯一のクランコ作品。シュツットガルト・バレエでも最も技術的に優れている若手ダンサーであるエリサ・バデネスとダニエル・カマルゴが踊った。難しくアクロバティックなリフトをこれでもかと繰り広げるのだが、どれも余裕たっぷり。あっという間に終わってしまうことだけが残念。


Mopey 「モペイ」
Choreography: Marco Goecke
Dancer: David Moore *

日本でもおなじみのこの作品、新プリンシパルのデヴィッド・ムーアがこの日初めて踊った。踊る人によって全然違う印象を見せる作品で、若いデヴィッド・ムーアが踊ると、この奇妙な作品も、爽やかで一服の清涼剤のように感じられるから不思議だ。闇の中に浮かび上がるムーヴメントの残像が美しい。日本ではあまり人気がないゲッケ作品だけど、彼の作品は、このように残像や動きの軌跡を楽しむものであるというのがようやくわかってきた。


Aus Ihrer Zeit
Choreography: Demis Volpi
Dancers: Alicia Amatriain **, Constantine Allen **

シュツットガルト・バレエを代表する往年のバレリーナ、ビルギット・カイルに捧げられた作品で、彼女が芸術監督を務めるカールスルーエ・バレエで初演された。デミス・ヴォルピならではのユーモラスな面と、古典的なまでの端正な美しさが同居するデュエットで、アリシア・アマトリアンの圧倒的な柔軟性と身体能力が生かされている。


Bite
Choreography: Katarzyna Kozielska
Dancers: Anna Osadcenko **, Jason Reilly **

シュツットガルト・バレエの現役のデミ・ソリストでありながら、振付家としても活躍するカタルツィナ・コツィエルスカによって振付けられた作品。実生活でもカップルのアンア・オサチェンコとジェイソン・レイリーによる非常に官能的なパ・ド・ドゥで、オサチェンコの美しい脚、ジェイソンの力強いセクシーさが印象付けられた。特に、開脚したままのオサチェンコを放り投げてジェイソンがキャッチする場面には思わず息を呑んだ。


Äffi 「エフィ」
Choreography: Marco Goecke
Dancer: Marijn Rademaker

世界バレエフェスティバルなどで何回も観ている「エフィ」。しかし、この日でシュツットガルト・バレエを去るマライン・ラドマーカーの万感の思いが込められているように感じた。一人の男性の苦悩、葛藤、行き場のないエネルギー、様々な感情がねじれた動きの中に渦巻く。ここでも闇に浮かび上がる、光輝く肉体と、身体が描く軌跡を追っていると、初見の時には長かったと思えた上演時間もあっという間に過ぎてしまう。静まり返った劇場で、観客の誰もが同じように感じているのが伝わってきた。


Variations for Two Couples (Stuttgart premiere)
Choreography: Hans van Manen
Dancers: Alicia Amatriain*, Anna Osadcenko*, Constantine Allen*, Alexander Jones*

世界中のバレエ団で踊られている、ハンス・ファン=マネンの代表作の一つ。ブリテンの弦楽四重奏などの曲を使用し、アリシア・アマトリアンとコンスタンチン・アレン、アンナ・オサチェンコとアレクサンダー・ジョーンズの2つのペアが踊る。ファン=マネン独特の、プロットレスバレエの中に男女の駆け引きを込めたセンシュアルな部分と、わざと期待を裏切るようなユーモラスな部分が合わさった、ハイセンスで面白い作品。4人のダンサーとも、音楽性に優れているので、洒脱さがよく伝わってくる。特にアマトリアンとオサチェンコという、カンパニーを代表する二人のバレリーナの身体性が拮抗する様はスリリングだった。

これはマリインスキー・バレエでのリハーサル動画。アリーナ・ソーモワの姿が見える。
http://youtu.be/YZVBbabujE0

Pas de deux, Radio and Juliet (Stuttgart premiere)「レディオとジュリエット」
Choreography: Edward Clug
Dancers: Miriam Kacerova **, Roman Novitzky **

去年、アリーナ・コジョカル・ドリームプロジェクトでも踊られた、レディオヘッドの音楽を使用した作品。しかし非常に短い抜粋だったのであっという間に終わってしまった。エドワード・クルグは、シュツットガルト・バレエにも作品を振付けているので、今後この作品がレパートリー入りするのかもしれない。


Allure
Choreography: Demis Volpi
Dancer: Myriam Simon **

一昨年の「メイド・イン・ジャーマニー」プログラムでは、ヒョ・ジュン・カンが踊ったソロ作品。今回は産休から復帰したばかりのミリアム・サイモンが踊った。上半身の動きが雄弁で、しなやかながらもダイナミックでスピーディな作品。フェミニンさと力強さが同居し、ヴォルピならではの個性も感じられた。


3 with D (German premiere)
Choreography: Javier de Frutos
guitar and singer Dan Gillespie Sells  pianist Ciaran Jeremiah
Dancers: Edward Watson (a. G. ) **, Marijn Rademaker **

昨年ロンドンで行われたガラ「Men In Motion」で上演された、ハビエル・デ・フルートス振付の作品。舞台上にギターを持ったヴォーカリストが立ち、ガーシュウィンの「The Man I Love」を、哀愁を帯びた歌声で歌う。これは二人の男性の出会いと別れを描いた作品で、特に別れについてポップで、少しメランコリックな描写をしている。エドワード・ワトソンとマライン・ラドマーカーは絶えず舞台の上を移動しながら同じ動きを繰り返し、重なってアラベスクをしたり、同時に脚を上げたり。柔らかくしなやかでほっそりとしたワトソン、少しマッチョなラドマーカーの対比が鮮やか。キスを交わしたかといえば手を激しくつかんだり。最後にワトソンが去り、ラドマーカーは一人取り残される。何とも言えず切ない余韻が残る、別れの時の甘酸っぱい感傷で胸に響く、美しい一品。

ロンドンでの「Men In Motion」で上演された際のアルバムをここで観ることができる。
http://www.danceeurope.net/gallery/ivan-putrovs-men-in-motion-2014#slide-16-field_images-721

Pas de deux, I. Akt : Manon 「マノン」1幕パ・ド・ドゥ
Choreography: Kenneth MacMillan
Dancers: Alina Cojocaru ** (a. G.), Friedemann Vogel **

コジョカルのマノンの素晴らしさに尽きた。なんという愛らしさ、小悪魔さ、そして一挙一動の軽やかさと動きに込められたキャラクター描写の的確さ。コジョカルの方ばかり見てしまった。甘い雰囲気に包まれてうっとり。まだ彼女が踊る全幕の「マノン」は観られていないのだ。


Scene from II. Akt: Leonce und Lena 「レオンスとレーナ」
Choreography: Christian Spuck
Dancers: Heather MacIsaac, Fernanda Lopes, Ruiqi Yang, Julia Bergua-Orero, Anouk van der Weijde, Aiara Iturrioz
Nicholas Jones, Robert Robinson, Ludovico Pace, Fabio Adorisio, Matteo Crockard-Villa, Roland Havlica

休憩が終わり、幕が上がると、顔を白塗りし、三角帽子をかぶった群舞のダンサーたちがコミカルなポーズで静止している。この静止の時間がずいぶん長く続いた。そのあとは、ややドタバタしているものの、群舞が登場するのはこの作品だけなので楽しいアクセントになった。

Pas de deux, III. Akt: Don Quijote 「ドン・キホーテ」3幕パ・ド・ドゥ
Choreography: Maximiliano Guerra
Dancers: Elisa Badenes, Daniel Camargo

この日唯一の古典作品。エリサ・バデネスとダニエル・カマルゴのペアは、オーストラリア・バレエの「ドン・キホーテ」と「ラ・バヤデール」にもゲスト出演しているほどで、テクニックとともに、若いのに魅せ方を心得ている。ダニエル・カマルゴは、途中ピルエットが少し乱れるところはあったものの、エレベーションが驚くほど高くて超絶技巧を連発。エリサ・バデネスは、スペイン人なのでちゃきちゃきしたキャラクターもキトリにぴったり、グラン・フェッテでは前半は全部ダブルでトリプルも織り交ぜた。


The Chambers of a Heart (World Premiere)
Choreography: Itzik Galili
Dancers: Friedemann Vogel, Jason Reilly

こちらも男性同士の関係をモチーフにしたパ・ド・ドゥで、「モノ・リサ」のイツィーク・ガリリの新作。ベートーヴェンの「月光」に合わせて、2人が絡み合う。エモーショナルでリリカルな、良い作品だと思うのだが、先ほどのフルートスの「3 with D」とテーマが似通っているところがあるので、印象がやや薄かった。そして、女性ダンサーと踊るときにはあんなにセクシーなジェイソン・レイリーが意外とここでは官能性が薄いのが不思議だった。また別の機会に観てみたい作品ではある。


Fanfare LX 「ファンファーレLX」
Choreography: Douglas Lee
Dancers: Alicia Amatriain, Alexander Jones

これはあちこちのガラで踊られているエッジ―なコンテンポラリー作品。音楽は、マイケル・ナイマン作曲の「英国式庭園殺人事件」のサウンドトラックなのだが、この曲がオーケストラで生演奏されたのにはちょっと驚いた。アリシア・アマトリアンもアレクサンダー・ジョーンズも優れたダンサーなのだが、なぜかこの二人で踊ると、別キャストで観たときのスリリングさを感じないのが少し残念だった。


Pas de deux, III. Act : Lady of the Camellias 「椿姫」3幕パ・ド・ドゥ
Choreography: John Neumeier
Dancers: Sue Jin Kang, Marijn Rademaker

ガラの締めくくりは、「椿姫」の黒のパ・ド・ドゥ。今は韓国国立バレエの芸術監督としての仕事が忙しく、在籍はしているもののほとんどシュツットガルトで踊ることがないスージン・カンが、この演目でシュツットガルト・バレエを去るマライン・ラドマーカーのために出演した。そして、このペアこそが、私にとっての最高のノイマイヤー「椿姫」であることを改めて確信したのであった。やつれきっていて、命の灯が今にも消えそうなマルグリットが、最後の情熱を傾けてアルマンと愛し合う、切実さの中にも、包み込むような優しさ、慈しみを感じて、私は彼女の繊細で雄弁な演技の見事さに涙が止まらなくなった。マラインのアルマンは、怒りん坊で、純粋でまっすぐで熱い、だけど以前の彼のアルマンとは違う。悲しみや苦悩をより感じさせるものだった。おそらくこのガラが、この二人で踊る最後の「椿姫」となるのだろう。この最後のパ・ド・ドゥに、二人が持てるすべてを出し切って、感情を絞り出すように燃焼つくしたのが伝わってきた。終演後の万感こもる熱い抱擁も、感動的だった。

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というわけで、これがシュツットガルト・バレエでのラドマーカーのフェアウェルとなったのだが、リード・アンダーソンからの花束贈呈があったくらいで、特に特別なセレモニーはなかった。新年を祝うために、たくさんの紙吹雪とリボン、風船が舞い、涙は少なく晴れやかなカーテンコールだった。しかし誰よりも涙していたのが、スージン・カンだったのは見逃さなかった。出演回数は少ないものの、まだ彼女は2016年までは踊る予定であり、実際年明けの「レクイエム」と「オネーギン」にも出演した。それでもあと舞台に立つ回数は何回だろう、と様々な思いが胸に去来したことだろう。特に、ここしばらく、共演してきたダンサーたちがことごとくバレエ団を去ったから。

シュツットガルト・バレエは、クランコ作品の継承とともに、新しい振付家を育て、新しい作品を上演することを重点的に行っているバレエ団である。しかし、今回のガラで上演されたクランコ作品は、ごく短い「ボリショイへのオマージュ」のみ。ここ3年程で驚くほど多くのダンサーがバレエ団を去ったため、ドラマティック・バレエを踊り演じることができるダンサーが減ってしまったということもある。1月の「オネーギン」でボリショイ・バレエから主演ペアを招いたのは前代未聞のことで、それだけ、この役を演じられるダンサーがこのバレエ団にはいなくなったということであり、由々しき事態である。

新しい振付家については、デミス・ヴォルピという素晴らしい才能、そしてカタルツィナ・コツィエルスカという現役ダンサー振付家の作品も個性的で優れており、その点ではうまく育っていると言える。ここから育ったマルコ・ゲッケ、クリスチャン・シュプック、ダグラス・リーの作品も上演された。以前からよく上演しているハンス・ファン・マネンやエドワード・クラグ、イツィーク・ガリリなども、このバレエ団らしいチョイスだ。新しい作品を積極的に上演するという高い志が感じられる。

ただし、この日上演された作品の全体のクオリティは、正直なところ、玉石混合であるのは否めない。似たような印象の作品が多いのだ。そして、マライン・ラドマーカーが去り、スージン・カンもほとんど出演しなくなることを考えると、成熟したスターダンサーがずいぶん減ってしまって、地味な印象を受けた。客席にいたバランキエヴィッチやザイツェフにも舞台に立ってほしいと思うほどである。もちろん、エリサ・バデネス、ダニエル・カマルゴ、コンスタンチン・アレンという、光り輝くような才能の若手ダンサーたちもいるのだが、技術だけではない、深みのあるパフォーマンスを見せるにはもう少しかかるだろう。今、このバレエ団は過渡期にあり、正直かなり苦しい現状であるという印象を受けた。ここが踏ん張りどころだろう。

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2014/12/15

ウェアモアのカタログとプロモーション映像

バレエ・ウェアのブランド、ウェアモアの2015年のカタログとプロモーション映像がアップされています。

プロモーション映像には、シュツットガルト・バレエのアンナ・オサチェンコとアリシア・アマトリアン、ナショナル・バレエ・オブ・カナダのエヴァン・マッキーの他、パリ・オペラ座学校の生徒たちが登場しています。撮影は今年の夏、パリで行われたとのこと。いずれも大変脚の美しいダンサーたちで、とてもクラシックで美しい映像です。

http://youtu.be/cCnpVt0dLlA

こっちは短縮版のプロモーション映像
http://youtu.be/aifwGIUdeW0


ギャラリー
http://www.wearmoi.com/photos/2015

カタログ(アンナ・オサチェンコ、エヴァン・マッキーがモデルで登場)
レオタード
http://www.wearmoi.com/store/1-leotards

スカート
http://www.wearmoi.com/store/8-dresses

メンズ
http://www.wearmoi.com/store/3-men

ウォームアップ
http://www.wearmoi.com/store/7-warm-up

今回のカタログ、PDFでダウンロードできます。
http://www.wearmoi.com/_elements/pdf/WEARMOI2015_NOUVEAUTES_bd.pdf

2014/10/17

マライン・ラドマーカーがオランダ国立バレエに移籍

シュツットガルト・バレエのプリンシパル、マライン・ラドマーカーがオランダ国立バレエに移籍することが発表されました。2015年1月1日付。

http://www.marijnrademaker.com/m/

シュツットガルト・バレエには15年近く在籍していたラドマーカーですが、数年前からオランダ国立バレエでもゲスト出演していました。オランダ出身では数少ないトップダンサーで、移籍後も唯一のオランダ人プリンシパルとなります。

移籍した後も、ラドマーカーはシュツットガルト・バレエにはゲスト出演する予定なのだそうです。クランコ作品には定評のある彼ですが、ハンス・ファン=マネンでのシャープな表現力も大変素晴らしいものがあり、もちろん古典も踊れるので、大きな戦力になることでしょう。

それにしても、シュツットガルト・バレエ、ここ数年で退団するプリンシパル・ダンサーがあまりにも多くて、このカンパニーは大丈夫なのかと心配になってしまいます。ここ3年でも、カーチャ・ヴンシュ、ウィリアム・ムーア、アレクサンドル・ザイツェフ、エリザベス・メイソン、マリア・アイシュヴァルト、フィリップ・バランキエヴィッチ、エヴァン・マッキー、そして今回のマライン・ラドマーカー。スージン・カンも韓国国立バレエの芸術監督に就任したので、籍を残しているとはいえ、ほとんど出演していません。

ダニエル・カマルゴ、エリサ・バデネス、コンスタンティン・アレンなど、若くて非常に才能あふれるダンサーもたくさんいますが、それでもあまりにも世代交代が急なのに戸惑いを隠せません。来年の来日公演も誰が出演するのか、気になります。

とりあえずは、12月の東京バレエ団の「くるみ割り人形」で、マライン・ラドマーカーとエフゲーニャ・オブラスツォーワを楽しみにしようと思います。

http://www.nbs.or.jp/stages/1412_nuts/index.html

マラインの踊る「ドン・キホーテ」バジル役
http://vimeo.com/84137108

Don Quixote Elisa Badenes Marijn Rademaker debut from Heike Ballett on Vimeo.

2014/07/21

6/2、3 シュツットガルト・バレエ「Wayfarers」

6月の2日、3日に行われたシュツットガルト・バレエのミックスプロ、「Wayfarers」を観てきました。

これは、エドワード・クルグ振付の「No Men's Land」、デミス・ヴォルピの「Aftermath」という二つの世界初演新作と、ベジャールの「さすらう若者の歌」の3作品のトリプルビル。2つの新作は、音楽もこれらの作品のために委嘱して新たに作曲し、「No Men's Land」は全員男性、「Aftermath」は全員女性の出演者。シュツットガルト・バレエのレパートリーにはいくつかの柱があるのだが、クランコ作品、20世紀の作品、古典の他に、新作を上演することが重要な柱の一つとなっている。毎年、新作を何本も制作するパワーはこのカンパニーならではだ。

http://www.stuttgarter-ballett.de/spielplan/2014-06-02/fahrende-gesellen/

「No Men's Land」
振付:エドワード・クルグ
音楽: Milko Lazar「Ballet Suite for Cello and Orchestra in 5 Movements」
出演:ブレント・パロリン、ルイス・シュテーンズ、アレクサンダー・ジョーンズ、ダニエル・カマルゴ、デヴィッド・ムーア、コンスタンチン・アレン、ジェシー・フレイザー、ロバート・ロビンソン、オズカン・エイク

マッテオ・クロッカード=ヴィラ、ローランド・ハヴリカ、エドゥアルド・ボリアーニ、クレメンス・フロリッヒ、アレクサンダー・マッゴワン、ルドヴィコ・ペイス、ファビオ・アドリシオ、ロジャー・クアドラド、セドリック・ルップ、ノアン・アルヴェス・デ・サウズ※、マルティ・フェルナンデス・ペイザ※

エドワード・クルグは、アリーナ・コジョカルドリームプロジェクトでも踊られる「レイディオ・アンド・ジュリエット」の振付でも知られる、スロヴェニアのマリボール劇場の芸術監督。シュツットガルト・バレエのために振付けられた作品としては3作品目。音楽も、この作品のために作曲されたもので、ブラスを使ったジャズ的な音は攻撃性を感じさせるものの、途中に挿入されたリリカルで美しいチェロのソロも印象的だ。

21人の男性ダンサーが出演。上半身裸、紺色のパンツの上にニーソックスを履いている。登場シーンでは全員が一列に並んで一斉にユニゾンに動く。ブレント・パロリンの、ちょっと奇妙にゆがんだソロ。その次には9人の男性ダンサーが、かわるがわる、ペア、トリオ、4人などでの踊りを繰り広げる。天井から、いくつもの軍用コートが吊りさげられているのが下りてくる。ダンサーたちは、これらのコートにしがみつき、まるで首つりをしているのかのようなイメージ。その中を、顔を袋で覆われ、ポワントを手に履いた男性が這いずり回る。若く小柄なルイス・シュテーズの奔放なソロ。そして最後には、ペアになった男性ダンサーたちがお互い向き合い、格闘ゲームのように戦い合ったりお互いを高々とリフトしたり。最後には座っている一人のダンサーを、数人のダンサーたちが囲み、一人は彼の方の上にまたがり、脚の間から座っているダンサーの腕を持ち上げることで、性的な要素を暗示する。

戦争、暴力性を強く感じさせる作品だが、男性ダンサーが充実しているシュツットガルト・バレエならではの力強い作品。今シーズン限りでこのバレエ団を離れ、ナショナル・バレエ・オブ・カナダに移籍するブレント・パロリンが繊細さを秘めた中での存在感、雄弁な表現力を見せてくれた。

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「さすらう若者の歌」Lieder eines fahrenden Gesellen

振付:モーリス・ベジャール
音楽:グスタブ・マーラー
出演:ジェイソン・レイリー、エヴァン・マッキー
バリトン:Julian Orilishausen

新作2本に挟まれた現代の古典ともいうべき作品。71年にヌレエフのために振付けられたこの作品は、76年にはシュツットガルト・バレエでも上演され、リチャード・クラガンとエゴン・マドセンが踊った。ジョルジュ・ドンとリード・アンダーソンが共演したこともあったという。43年前の作品ということもあり、衣装などに古めかしさは否めないが、日本でも様々なダンサーが何回か踊っているのでおなじみの作品。

ヌレエフ財団のサイト
http://www.nureyev.org/rudolf-nureyev-main-roles-ballets/songs-of-a-wayfarer-bejart-rudolf-nureyev

今回、初めて、この作品の歌詞を読んでみた。マーラー自身の体験が大きく反映されていると言われている。「Wayfarer」というのは、若者、というよりは、「マイスター(親方)」の称号を取得するために、ドイツ語圏を広く渡り歩いた職人のことを指しているとのこと。親方について旅して回った職人の若者が、最後に彼のもとを旅立っていくというのがモチーフである。また、マーラー自身の失恋の経験をもとに、胸をナイフで刺されるような辛い、恋人との別れも綴られている。

ヌレエフが演じた、薄いブルーの衣装の若者役を演じていたのはジェイソン・レイリー。彼の生命力に満ちて若々しい雰囲気はこの役によく合っていた。柔らかいプリエ、生き生きとしたマネージュ、イノセントな雰囲気。人生に対する希望に溢れていた若者はやがて痛みを知り、苦悩し、死の世界も垣間見る。そして師に導かれて、新しい世界へと旅立っていく。そして、「運命」とも呼ばれる、赤い衣装の彼の師を演じたのがエヴァン・マッキー。この公演が、彼のシュツットガルト・バレエでの最後の舞台となった。愛する弟子にまず人生の喜び、そして次に苦しみを見せた師は、最後に彼の運命を示し旅立ちへと導いていく。カリスマ性に溢れ、最初は慈愛に満ちて優しく見守り包み込みながらも試練を与えていく運命に相応しく、一挙一動がアカデミックで美しく知性に満ちた存在感のエヴァン。弟子と師との心の交流がしみじみと感じられていく。エヴァンは、この歌詞、自分を育ててくれたバレエ団との別れと旅立ち、そして自身の境遇に非常にマッチしていて特別なものであると感じたとのこと。

二つの青い眼、
愛しい人のが、
私をこの
広い世界へと追いやった。
さあ、私は最愛の地に別れを告げなければ。
おお、青い眼よ、なぜ私を見つめたりしたんだ?
いま私にあるのは、永遠の苦しみと嘆きだ。

私は旅立った、静かな夜に、
暗い荒れ野をすっぽりと包む夜に。
惜別を私に告げる者などいないが—さらばだ。
私の仲間は愛と苦しみだった。
 (Wikipedia より引用)

青春の歓びに満ちた第2楽章、荒々しく苦悩があふれる第3楽章との対比も鮮やかだった。独唱を行ったJulian Orilishausenの若々しくも哀感のある声も美しく響いた。舞台正面、観客に手を伸ばしながらも去っていくジェイソン、そして彼の手を引いて奥へと連れていくエヴァンの後ろ姿には悲しみが漂っていた。この時点で彼はすでに涙ぐんでいるのが分かった。

週の真ん中の平日、トリプルビルの中の真ん中の演目、そして全幕ですらないしクランコ作品でもない。最後の公演がこんな形となったのは、正直言ってトッププリンシパルのフェアウェルとしてはあまり良い対応ではなかったと感じた。しかしカーテンコールでジェイソンとエヴァンが抱き合ったのち、客席からはいくつもの花束が投げ込まれ、リード・アンダーソンと、ジョン・クランコスクールの校長タデウス・マタッチが舞台に上がり、クランコ・ソサエティからの大きな花かごを贈って、彼を見送った。アンダーソンも泣いていた。

シュツットガルト・バレエ、この4年間でバレエ団を去る/去ったプリンシパルの数が非常に多い。名前を挙げていくと、ダグラス・リー、ブリジット・ブライナー、ウィリアム・ムーア、カーチャ・ヴュンシュ、エリザベス・メイソン、アレクサンドル・ザイツェフ、エヴァン・マッキー、マリア・アイシュヴァルト、そしてフィリップ・バランキエヴィッチの9人だ。加えて、スージン・カンもすでに韓国国立バレエの芸術監督に就任していて、ほとんどシュツットガルトでは踊っていない。ということで急速に世代交代が進んでいるわけだが、優れた若いダンサーもたくさんいるものの、経験豊かなダンサーがほとんど残っていないため、正直、このバレエ団は今後大丈夫なのか、という気がしてしまう。エヴァンは移籍するのだが、マリア・アイシュヴァルトも、そして明日さよなら公演を迎えるフィリップ・バランキエヴィッチも、まだまだ引退するには早いダンサーたちだ。彼らはバレエ団には残らないで、フリーとして他で活動を続けるのだが、彼らの経験を受け継ぐようなことをしていないのが、非常に気になる。

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「Aftermath」
振付:デミス・ヴォルピ
音楽:Michael Gordon
出演:エリサ・バデネス

昨シーズン「クラバート」で大成功をおさめ、ドイツ・ダンス賞「未来」を受賞した若手専属振付家のデミス・ヴォルピの作品。「No Mens Land」と対をなすように、こちらは女性ダンサーばかり25人が登場する。一人のアーティストが周囲の無理解や圧力と戦い抜く物語だ。

一人の女性ダンサー(エリサ・バデネス)が、圧倒的な柔軟性を見せつける、苦悩に満ちた長いソロを踊る。振付自体も非常に個性的で、首や肩の動きなど上半身を雄弁に使ってもがいている様子を見せる。バデネスの圧倒的な柔軟性、強靭さが迫ってくる。彼女は、まずは5人の女性ダンサーたちに囲まれている。彼女たちは顔と髪を白く塗り、目の周りは真黒で無表情、グレーの服を着てポワントを履いてずっとポワントの上で立っている。この女性たちの人数は増殖して、やがて24人になり、フォーメーションも整列したものから円環と変化していく。この女性たちの軍団が、ヒロインを取り囲むように迫ってきて、それはまるで現代版の「ジゼル」のウィリたちのようだ。彼女たちは、ヒロインの声を、表現を取り上げようとしているのだ。ヒロインの動きは激しくなり、まるで「春の祭典」の選ばれし乙女のように垂直に何度も飛び上がったかと思うと、深いプリエで地面へと近づく。

この作品のために作曲された音楽は、パーカッションの激しいリズムが印象的だ。だが、楽器としてもっとも有効に機能しているのは、女たちのポワントがパドブレするときに鳴る床の音。ヒロインは、やがて女たちの群れの中に飲み込まれていく。女たちも舞台上を去るが、舞台の袖からはずっと激しいポワント音が鳴り響いている。そして空となった舞台。不意にポワントの音が鳴りやみ、静寂。

女性群舞の使い方、ポワントを効果音として使ったアイディア、そして斬新な舞踊語彙。デミス・ヴォルピという若い天才の溢れる才能に震撼した。打ちのめされるようなインパクトがあって凄まじい。また、常に舞台の上にいてソロを踊り続けるヒロイン役を踊ったエリサ・バデネスの身体能力と目を吸い寄せられるような表現力にも恐れ入った。この作品のファースト・キャストはヒョジュン・カン、セカンド・キャストはアリシア・アマトリアン。いずれもテクニックに優れた強い女性ダンサーたちだ。

おそらく、シュツットガルト・バレエは今の現状ではクランコ作品を引き継いでいくよりも、このような現代作品の新作を踊っていく方向性に進んでいくのではないかと感じた。優れた新作次々とを生み出していき、現代的な作品に求められる強さを持った若いダンサーたちを育てていく、そういうカンパニーになったのだと思う。いずれにしても、デミス・ヴォルピは凄い。来シーズンも、彼の新作があるというので、とても楽しみである。

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英文レビューはこちら
http://bachtrack.com/review-stuttgart-ballet-wayfarers-june-2014

2014/05/16

シュツットガルト・バレエの2014/15シーズン、昇進情報

シュツットガルト・バレエの2014/15シーズンが発表されました。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2014-15-season/

新作としては、ストラヴィンスキーイーブニングが行われます。
シディ・ラルビ・シェルカウイの世界初演「火の鳥」
デミス・ヴォルピの世界初演「兵士の物語」
マルコ・ゲッケの「ナイチンゲールの歌」

ジョン・クランコの夕べ「オーパス1」「イニシャルR.M.B.E」「フルートとハープのためのコンツェルト」「ホルベアの時代から」
ケネス・マクミランへのオマージュ「大地の歌」「レクイエム」
ルイス・ステインズ、カタリーナ・コツィエルカ、ダグラス・リーのトリプルビル

全幕作品
「レオンスとレーナ」クリスチャン・シュプック振付
「欲望という名の電車」ジョン・ノイマイヤー振付
「オネーギン」ジョン・クランコ振付
「眠れる森の美女」マリシア・ハイデ振付

大晦日ガラ
若手振付家の夕べ

ツアー
シンガポール、バンコク、オマーン

なお、コンスタンティン・アレン、デヴィッド・ムーア、ミリアム・カチェロヴァがプリンシパルに昇進、アレッサンドラ・トノオリーニがソリストに昇進します。マリア・アイシュヴァルトが振付指導/ノーテーションの専門家に、フィリップ・バランキエヴィッチがフリーランスのダンサー/教師になるために退団、エヴァン・マッキーとデミ・ソリストのブレント・パロリンがナショナル・バレエ・オブ・カナダに移籍します。

コンスタンティン・アレンはデミ・ソリストからの飛び級昇進、入団3年目での快挙です。彼はYAGPのグランプリ受賞という華々しい経歴の持ち主で間違いなく将来のスター候補ですが、ほかの2人は正直地味なダンサーですね。

2014/05/11

シュツットガルト・バレエ、マッキー、アイシュヴァルト、バランキエヴィッチのさよなら公演

シュツットガルト・バレエを今シーズン限りで退団するエヴァン・マッキー、マリア・アイシュヴァルト、フィリップ・バランキエヴィッチのさよなら公演の予定が発表されていました。

http://www.stuttgart-ballet.de/home/

エヴァン・マッキー 6月3日 さすらう若者の歌

マリア・アイシュヴァルト 7月12日 ジゼル

フィリップ・バランキエヴィッチ 7月19日 ロミオとジュリエット

人気プリンシパルが3人も一度にいなくなるのは大きな損失です。若いダンサーたちも育ってきているとはいえ、まだそこまでスターになっていないわけです。また、スージン・カンも韓国国立バレエの芸術監督に就任し、あまりシュツットガルトで踊っていない上2016年に引退予定です。来年の来日公演とか大丈夫なのかな、と思ってしまいます。「オネーギン」に関しては、フィリップ・バランキエヴィッチも退団しダンサーより教師の方に主軸を置いてしまうので、エヴァン・マッキーにゲストで出演してもらうしかない、と思いますが。

ドイツの劇場の場合、15年以上続けて雇うと終身雇用をしなければならず、アイシュヴァルト、バランキエヴィッチはそれに引っかかったというのもあるようです。

より以前の記事一覧