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2025年5月

2025/05/28

NBAバレエ団『海賊』久保紘一芸術監督、勅使河原綾乃、山田佳歩、宮内浩之、新井悠汰対談(その2)

 6月7日、8日NBAバレエ団「海賊」公演新国立劇場中劇場で開催されます。

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(c)瀬戸秀美

Part1に続き、久保紘一芸術監督と主演ダンサーの皆さんにたっぷりと語っていただきました!

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左から新井悠汰、山田佳歩、勅使河原綾乃、宮内浩之

―勅使川原綾乃さん、山田佳歩さんは本当に素晴らしい プリシパルのお2人です。山田さんが演じられるギュリナールはこのプロダクションの中で、大きな特徴ですね、普通の「海賊」だとパシャと仲良くなって、ウキウキしているみたいな軽いキャラクターですが。

久保:「海賊」は、一般的には内容があまりない。昔のABTの映像にも。ダンサーのインタビューか入ってありました。

―それのABTの映像でジュリー・ケントやいろんな人がこの海賊について語っているんですが、自分で何言っているのかわからなくなっているんです。あれ?これこういう話だっけ?みたいな。いかに作品としてはばかばかしいかっていうのを(笑)。

宮内:それだけバレエが形式だというイメージはありますよね。

久保:その形式をやっぱり表現にしたいよね。

―「海賊」だから内容を考えなくて、ただ派手な踊りがいっぱいあって楽しいな、みたいな。そんなのが多いので。そういった中で、楽しいけど、また深みもあるのがこの『海賊』ですね。

久保:だからやりがいがあったのです。その中で有名なパ・ド・ドゥが二つありますね。だから作りやすかったです、有名なものをしっかり見せればお客さんには満足してもらえるし、他はオリジナルで作りました。

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(c)瀬戸秀美

―このプロダクションのギュリナールってとても切ない役ですね。報われない愛があります。こういう役を演じるって、なかなかのものですよね、

久保:最後は彼女は死ぬことによって自分の尊厳を守るんですよ。。自分らしくあることっていうのを貫き通すから、

―そういう意味では今っぽいですよね。

久保:より現代的に再解釈したんです。それが、ただの男女の愛じゃないっていうのもポイントで。コンラッドも結局。自由に振る舞っているけど、実は彼の内面は自由じゃないんですよ。で、そこをギュリナールは見抜くのです。

―先ほどのパ・ド・ドゥはとても見応えがあって。ドラマチックでちょっと切ないみたいなところがあって。ここを踊られていていかがでしたか?

山田:今回ギュリナール役が2回目で、前回初めて演じさせてもらいました。その時は主要キャストに入ったのも初めてで。だから、ただがむしゃらに先輩たちの踊りを見て、ただひたすらにやって、やることはやったけど、客観的にこうだったかな?と考えるところまではできませんでした。今は前回の課題だったり、リハーサルをしていくごとに、もっとここはこうした方がいいかな、音と合うよねと考えたり話し合ったりしながら演じているので、楽しくリハーサルは進めていられます。

―結構パートナー役の方とやっぱり話し合っていますか。

山田:話し合っていますね。キャストによってパ・ド・ドゥの間だったり、演技の間だったりもと全然違う、なるほどと思うし、それは本当、キャストごとに違う。どのキャストも楽しめる作品になっています。

―だから見たい方はぜひ全キャストを観ましょうっていう話ですよね。皆さん違った魅力が。先ほど見ていても、それぞれ演じ方の違いがあったので、すごく面白いなと思いました。自分を貫くんだけど、でも愛のために命を捨てるみたいなところがありますよね。

久保:実際にできるのですかね(笑)。いざその立場になったら、撃たれちゃった、すまんってなりそうで(笑)。

―ギュリナールの愛は尊いですよね。

久保:実際もそうなれるようにね。悠汰に何かあったら(笑) 悠汰は襲われても負けなさそうですよね。

―一網打尽にできそうです。ここのバレエ団の男性は皆さん強いと思うので負けないと思います。NBAバレエ団のみなさんはテクニックが強いですね、男女問わず素晴らしくて見ごたえありますよね、皆さんやっぱり夜な夜なトレーニングしているのですか?

勅使河原:してないですね(笑)

―綾乃さんは、最強ですもんね。毎回見るたびに、なんでこの人こんなに回れるんでしょうと思っているんです。勅使川原さんの素晴らしいテクニックの秘訣は何だろうっていつも思って見ています。

久保:家で体幹を鍛えるトレーニングはしているの?常にプランクしながらご飯食べる?休むのも大事ですよ。

勅使河原:プランクも逆にしなくしたんです。自分の踊りの、いい部分と悪い部分を、指導していただくので、その中でうまく変化をさせていかなくてはいけないっていうところで、今までやってきたことを少し変えて。役やキャラクターによってもそうなのですけど、それを出せるようにということで、ブランクは今はやっていません。

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(c)瀬戸秀美

―メドーラも大変な役ですね。

勅使河原:今回演じるのは2回目です。1回目に初めて演じた時には、見ているのとやるのと全然違っていました。どうしてああいう動きになっているのだろう。どうして今はこんな風に少し悲しんでいるのだろう。弱い部分がメドーラにもあると思っていて、そこが一瞬見えるのに、また心が開き直って、コンラットに手を置くとか、ちょっとしたところで、もうわけがわからなくて、メドーラの心を理解できているのかわからないのですが。

久保:さっきのABTの話じゃないけど、うちの歴代の主役もこれをどう持っていったらいいのだろうか、というのをよく聞いていたそうです。

勅使河原:そこはもう1回目で、自分のその最大限の思考を使って、自分の中でストーリーが成り立ってないと。手出しただけでバレてしまうと思うんです。どう思っているかっていうか、途切れていることを感じてしまいます。だからそこはその時の最大限でやってきました。今二年経って、自分の映像を見て、また新しいメンバーが加わって、メドーラを客観的に見させてもらって、感じるものが新たにありました。いただいた新たな紘一さんの言葉でのメドーラの印象、人柄から深掘りして、メドーラ像をまた作りたいっていう気持ちがあります。

―綾乃さんならではのメドーラ像がそこにあるという。メトーラはいい役ですよね。

勅使河原:女性の鑑みたいな。

久保:強さもあるわけですよ。

勅使河原:その強さがないと、コンラッドの相手にはいられないですね、

久保:帰ってきたと思ったら、またすぐ行っちゃうわけですよね。もしかして死ぬかもしれない。

―「海賊」はバージョンによっては、最後に難破して、最後2人だけ生き残るとか、そういうバージョンもありますよね。

久保:原作ではメド―ラは身を投げて自殺したわけです。悩んだんですよ。どうやって終わりさせようか。原作に寄せすぎても、これ救いがないよねってなって。それで後半少し変えたのです。

―メド―ラはそういった意味で強さがある役ですよね。

勅使河原:ゆるぎない強さ、

―やっぱり揺るぎないテクニックを持っていらっしゃるから。

勅使河原:グラン・パ・ド・ドゥは、いろんなとこでやっているし、いろんな人が踊っていて。でも全幕で見たことがない人は多いです。さっき言ったように役で踊ると違ってきますね。初めて私も全幕を見た時に、こういう人がこのグラン・パ・ド・ドゥを踊っていると思ったので、踊りで見せないと全幕の意味、その役は通して伝えないといけないと思っています。

久保:あとは、ロングランできるようにね。

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(c)瀬戸秀美

―本当に面白いので、見れば良さがすごく伝わる作品なのでたくさんの方に見ていただきたいと思います。いろんなキャラクターがいるから面白いですよね。

久保:他にも、キャラが立っているビルバンドとかそうですよね。アリは今回は感情的に何かがあるわけではないのだけど、テクニックで見せるキャラクターだし。ビルバンドがまたクセが強いのです。

<リアリティがあって、ワクワクするバレエ>

―この作品のおすすめポイントをお話してください。

宮内:バレエ団の作品全般ってなっちゃうけど、でも『海賊』はさっき紘一さんがおっしゃったように、原作からもう一から作り直しているしリアリティがあります。古典バレエの形式を残しつつ、伝わりやすいリアルなバトルとか音で、リアリティっていう部分も兼ね備えている。飽きないバレエ。賛否両論あるかもしれないけど、僕はすごく賛成派、すごく好きですね。このNBAの『海賊』もリアリティを強く作っている海賊です。僕、新垣さんの曲が大好きで。聞いているだけで、ワクワクしてくるんです。最初のパ・ド・ドゥ、あそこ一番緊張してやりづらいです。突然。メドーラが踊り出して、僕が出てって、コンラッドとパ・ド・ドゥやって、そこからあの新垣さんの音オープニングの曲になります、本当はあれ、最初に聞きたいんですよ。うわーってなる。

久保:最初の一発目も新垣さんの曲です。

宮内:盛り上がり的にメインテーマ。カッコいい曲のやつ。あれ聴いてからだったら、出ているから、そういうシーンを、全体を想像して盛り上がるところ、喜怒哀楽全部が入っていると思います。こんな感じだっていうのを想像しながら、一発目、マント持って出ていけたら。そこから積み上げていきたいですね。目の前の一個一個。

―ああいう最初にこう、舞台の上にパンって出てくる役って大変ですよね。

宮内:でも僕は好きですね。マントつけているし。ワクワクします。

音楽の新垣隆さんを迎えてのリハーサルの模様もある動画です。新垣さんによるオリジナルの音楽は非常に美しいです。

【NBA 海賊】久保紘一 × 新垣隆|『海賊』音楽の舞台裏

<愛が駆け巡っている>

勅使河原:今ぱっと浮かぶのは、ドラマです。ドラマ。愛が駆け巡っている。ドラマを感情移入してもらえるように作品を伝えたいっていうのが一番。なかなかない女性同士の場面。それを起こしたのはなぜだっていうのまで、見せられたら。だからNBAの『海賊』ならではの世界観をお出ししたいですね。

宮内:メドーラって難しくない?って思うのですけど、僕はコンラッドで良かったみたいな。

勅使河原:秘めている役ですね。

宮内:サンチョ・パンサみたいな役ではない(笑)。

勅使河原:手を出すだけで、感情を表現するのが一番難しいんですよね。それで伝えないといけない。パとパの間の間って、自分の思考で考えないと生まれないと思っているんです。

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2024年『ドン・キホーテ』公演より(勅使河原綾乃、北爪弘史、山田佳歩)

―教えてもらう部分以上のものがあるんですね。

勅使河原:自分で矛盾がないように作らないといけない。そこが自分の中ではメドーラのキーとなっている部分だと思っています。そこを大切に。

久保:最後、ギルナールがメド―ラを殺そうとした時に、彼女はギュリナールさえも包み込むわけですね。

勅使河原:そのぐらいの人なのですね。

久保:そこが彼女の強さなんですよ

宮内:これは弱さじゃなくて。

久保: どんな困難にも屈せず、愛と自由のどちらも諦めない、その芯の強さです。

勅使河原:メド―ラに学びます。

久保: 知らないうちに転がされそうだよね。気づいたら全部彼女の言う通りになっているな。実は彼女の意思のままに家庭が作り上げられていた(笑)

山田:ギュリナールってこの海賊のキーパーソンだと思うのです。2時間の作品の中で、ギュリナールの感情の変化がすごく現れている作品でもあって。ギュリナーラの感情の変化によっていろんなことが起きます。コンラッドに恋したり、パシャから裏切られる場面だったり、そこからコンラッドに惹かれていく場面だったりという、その変化がすごく激しい。いきなり変わってしまっても、物語がつながらなくなってしまうので、さっき勅使河原さんもおっしゃっていたんですが、動きと動きの間や、演技と演技の間をもっと大事にしていきたいって思います。最後の女同士の最後の戦いに、なんでここで今争っている、戦っているんだろうって、すんなりお客さんが物語に入ってくれるように、これからもっと演じ、修正していきたいと思います。演技の変化だったり間だったりという部分が見どころです。

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(c)瀬戸秀美

―残り一ヶ月半に細かく詰めていくっていう感じですよね。

勅使河原:結構1回やっただけでも感情が伝わってくるんですよ。この時に何を言っているのかって、こっちはこっちの想像ですけど、言葉ではもらってない。でも、それが伝わっているのを会話でお見せしないといけないので。

―女性同士のそういう感情のところの部分っていうのもこれから深めていかれるのですね。

久保:ただ女性同士がコンラッドを奪い合う戦いというわけじゃない。もっと深いところがあります。

新井:NBAの『海賊』、どの作品もそうなのですが、テンポ感が大事です。長い作品をギュッと濃縮した公演、作品を出しているので、そこが見どころの一つだと僕は思っています。だからこそ、ダンサー一人一人が生きているのも表現しなきゃいけないし、それは難しいんですが、みんなで切磋琢磨して、一丸となって作り上げることをこれからしていきたいと思います。

―踊りの部分はもう皆さん完成しているので、そこから先のところですね。見ている人にどう伝わるか。

久保: とても大変だと思いますよ。僕も踊っていたからわかるのですが、踊るだけでも大変なのに伝えるのはさらに大変です。

―そこからさらにいろんな感情を乗せていっているわけですね。

久保:ダンサーも言っていたけど、伝わらない場合もあるわけじゃないですか。そこがすごく難しい。独りよがりになって、俺はこう感じるんだって言っても、お客さんが感じなければ意味がないわけで。見せ方の研究をしないといけません。だからこそ、お客さんも対価を払って見に来ているので、感動して帰ってもらえるよう、最後まで挑戦し続けないといけませんね。

―本当に面白い作品なので、ぜひ皆さんに観ていただきたいと思っています。楽しみにしています。いろんなキャストを見ないと。若手の方も今回、たくさん出ていらっしゃいますし初めてこの役を演じられる方っていうのもいらっしゃるので、それも楽しみにしています。

 

久保紘一芸術監督に密着した映像。久保監督のリーダーとしての考え方、バレエ団の方向性の考え方など、大変素晴らしいビジョンを持っていることが感じられます。公演数を増やして、ダンサーがバレエ団の仕事だけで生活できるようになれたら、という夢が実現しますように。

日 時

2025年6月7日(土曜日)
2025年6月8日(日曜日)

時 間

6月7日(土)開演14:00(開場13:30)/開演18:00(開場17:30)
6月8日(日)開演16:00(開場15:30)

チケット料金

S席9,900円 、車いすS席5,000円、障がい者S席7,900円、学生席2,000円(25歳以下)


※2歳までのお子様の入場はご遠慮ください。
※車いすS席・障がい者S席ご購入の方は、
直接バレエ団宛( ticket@nbaballet.org )にお問い合わせください。
※学生席・障がい者席ご購入の方は、当日学生証・障がい手帳などの証明書を拝見させていただきます。
※チケットご購入後のキャンセル・変更は承ることができません。

 

NBAバレエ団『海賊』久保紘一芸術監督、勅使河原綾乃、山田佳歩、宮内浩之、新井悠汰対談(その1)

 6月7日、8日NBAバレエ団「海賊」公演新国立劇場中劇場で開催されます。
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(c)瀬戸秀美
リハーサル取材に続き、久保紘一芸術監督と主演陣の勅使河原綾乃、山田佳歩、宮内浩之、新井悠汰の5人にインタビューをさせていただきました!和気藹々とした雰囲気で、楽しいお話をたっぷりしていただきました。

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(左より、新井悠汰、山田佳歩、勅使河原綾乃、宮内浩之。勅使河原さんと宮内さんはご夫婦です)
<バイロンの原作からインスパイアされた、物語性のある『海賊』>

―久保紘一版『海賊』は、『海賊』の固定概念を覆されるようなドラマチックな独自なバージョンで、とても面白い作品ですね。久保さん、この作品の魅力を語ってください!

久保:実は独自というわけでもないのです。バイロンの原作があり、逆になんでこんなに原作とかけ離れた話をやっているのか、と考えたのが創作したきっかけです。従来の作品は、割とコメディですよね。海賊っていう割には、なんでもありみたいな感じです。だから、もっとバイロンの原作をしっかりオマージュした方向に振った方が面白いと思いました。やろうと思ったら、まず音楽がないのです。ちょうどその時、新垣隆さんと『死と乙女』という作品を創作していたので、音楽をお願いしました。

―音楽に統一感があるっていうのは素晴らしいですよね。「海賊」っていうと、適当な音楽を集めたところがありますが、作曲家も。統一感のある音楽があるのは素晴らしいですね。

久保:作業は大変でしたけど、でもやってよかったです。


―ソードファイトの場面もオリジナリティがあります。

久保:これも僕は、よくある気の抜けたような、たまにジャンプひょい、みたいなファイトシーンを見ていても全然燃えないし、ワクワクしない。そこはリアリティ持たせて、たとえ踊りじゃないファイトシーンであっても、お客さんにはずっと集中していて欲しいのです、ここは手が抜けないと思うのです。ファイトシーンは、人を殴る場面なので、リアリスティックにやりたかったというのもあり、新美智士さんという専門家の方に入っていただきました。

―気合の入ったファイトシーンは、見応えがありましたね。

久保:宝満さんの振付もすごく良くて。演出と、振付、音楽、そのディテールがすごくいいバランスで融合していると思います。そもそも僕は一人が全部やるっていうのは無理だと思っています。バレエの人って全部一人でやりたがりますよね。脚本演出と、そんなマルチの人はいないと思うのです。映画みたいに分業、総監督がいて、監督がいて、脚本がいて。で、全部違うスペシャリストが揃うのが一番いいスタイルだと思っています。だから今回、いろんな才能が一つにまとまった作品になったと思います。

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(c)瀬戸秀美

<主要な役の設定シートを作ってダンサーに読みこんでもらいました>

―ドラマチックですよね。特にギュリナーラの役柄がフィーチャーされた作品になっています。

久保:キャラクターの深掘りした設定を僕が。ダンサーに渡したんです、各キャラクターってこういうキャラクターだよっていうの(詳しいキャラクター設定は公式サイトに掲載されています)。今までは自分たちで想像をふくらませていました。みなさんは原作読みましたか?読んでないのですね。バイロンの原作は読みづらいんですよね。いろんな研究は進んではいるのですが、難解で昔の言い回しだから。翻訳されても、よくわからない書き方をしています。読むのは大変だったのだけど、それを読み解いて。話としては火曜サスペンスみたいな話じゃないですか。

で、結局コンラッドっていうのはもともと、オスマンの官僚側、支配する側に最初いて、抑圧されたものから彼も自由になりたいって言って、オスマン帝国に対抗するギリシャの義勇軍として立ち上がったのです。

原作ではメドーラは、コンラッドがオスマンの捕虜になっていて、もう死んだと勘違いして塔から身を投げて自殺してしまうのですね。ギュリナーラは、捕まった捕虜のコンランドの世話をします。キャラクターの説明がやっぱり大事なのです。

―一貫した物語があるというのがこの版の特徴で、本当に画期的ですよね。

久保:『海賊』が本当はこういう話で、バックグラウンドを知った上で演じないと、ということでそれぞれのキャラクターを深堀りした説明を皆さんに渡したんですよ。ダンサーの皆さん、今度、ちゃんと感想を聞きますからね。感想文400文字ぐらい書いてください、宿題ですから(笑)

―ドラマチックで物語性があり、私も最後の場面を初演で見た時、泣きました。再演にあたって、変えた部分はありますか?

久保:前回、所沢ミューズで上演した時には、団員の岩田雅女に僕が振り付けた振り付けのところを、あなたの才能で何とかしてくれって頼んで変えてもらいました。でもそれぐらいですね。最後に好きな男をかばって撃たれるとかね、昭和ですねとか言われたこともあって。

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(c)瀬戸秀美

―アリが出てこない『海賊』も結構ありますよね。エルダー・アリエフ版や、ルグリ版も出てきません。

久保:うちのアリは元気いっぱい。若手の皆さんで。原作は実はアリが出てこないんです。

僕も、エルダーのバージョンをアメリカにいる時に踊る予定だったのです。次は海賊だよって言われていたのですが、僕はその年だけ辞めていたのです。バレエ団に、せっかくお前のために持ってきたのにと言われてしまって、やり損なってしまったのです。僕自身はアリ役を踊ったことがないのです。

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(c)瀬戸秀美

<ダンサーの皆さん、演じる役について熱く語る>

―皆さんもそれぞれこの『海賊』に対する思いがいろいろ思っていると思います。これだけの豪華メンバーが一同に集まったので。この作品の魅力について、自分が演じる役の魅力について、お話を聞かせてください。

宮内:僕は初演から出演しているので、今回で4回目です。鮮明に明確に煮詰めていく作業はとても多いですし、ここをもっとこういう風にしたかったなというところが多々あって。全幕としてもっと改良していけるっていう冷めない気持ち。戦っているところよりも、バレエバレエしているところ、グラン・パ・ド・ドゥ、クラシックバレエ、古典の形式とか型というところをやっている時に、僕は一個のパでも演技でありたいという気持ちがあるんです。ヴァリエーションでも演技を心がけたいので。形式をずっとやっていると、気持ちが冷めてきってしまうのですね。リハーサルから気持ち入れていく、音楽をよく聞いて、こんな音だったんだみたいな。そこに対して熱くなれる材料を、自分を奮い立たせる材料を見つけながら。再々再演だけど、一番情熱を入れてできたらいいと思っています。

―このコンラッドだといろんな気持ちが揺れる部分もあります。

宮内:そこは初演の時、紘一さんとすごく話し合ったのですけど、僕は揺れたくないって言って、紘一さんはギュリナーラに対してちょっと揺れてほしい、僕は揺れたところをお客さん見せたくない、という意見を言って、でも紘一さんはいや、お客さん的にやっぱりそこ、恋に揺れるところも見せたいっていうことで。

久保:結構原作のオマージュもあったからね。

宮内:そのような話し合いもありました。

久保:ほら、男ってさ、弱いじゃない。だから誘惑に駆られた時にみたいな話を男同士でしたいと思ったんだけど、今は奥さん(勅使河原綾乃さん)が隣にいるし(笑)と思って。実際にそういう時になった時には、絶対動かない人も。それは揺るがない、

勅使河原:やっぱりそれは人それぞれです。

宮内:バレエの主人公の男ってみんな最低じゃないですか(笑)。『海賊』くらいはカッコよくないと。

久保:揺れ動くけど、やっぱりメドーラへの貞操は守り抜くっていう。

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(c)瀬戸秀美

―一般的にコンラッドって珍しくバレエの男の中でカッコいいじゃないですか。ダメなところが全然ないっていうか、男らしいですね。

宮内:真の目的を果たすために行動していく、その熱さ。

久保:でも何の弱みもないのもつまらないし(笑)。今回、実は宮内さんは悪役もやるんですよ。コンラッドだけじゃない。彼はパシャもやるんですよ。

―このパシャがまたカッコいいのです。これは珍しいですよね、普通「海賊」のパシャって、こんなおじいさんですよね。

久保:だから似合うだろうなと思っています。

宮内:今回はそこの対比もあって、自分の中で二つできるので演技が楽しくなると思っています。

久保:二つの役の対比があってのコンラッド作れるかもしれないですね。

―もう一人コンラッドがここにいらっしゃいます。新井悠汰さん。

新井:僕は、お客さんに「アリじゃないんだ」とよく言われますね。すみません、コンラッドです(笑)。初演からアリを2回やらせていただいて、前回初めてコンラッドで今回2回目のコンラッド役ということで。アリと違った男らしさ、みんなをまとめて引っ張る。船長としてのその魅力にも自分の気持ちを乗せて、みんなを引っ張っていきたいです。

久保:絶対人間って弱い部分を持っているから、部下を率いているとはいえ、自分の中で葛藤もあるはずです。自分の理想のために人を殺してきているわけだから。決して綺麗ではない、でも自分の成し遂げたいこと、自分自身で解放されたいという欲求もあるわけです。そういうものを表現できたらいいよね。深いものがあるわけで。各キャラクターごとに、抱えている悩みがあるわけで、それをどう表現できるか、お客さんにそれをどう共感させられるか。

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―さっきほどリハーサルをしたシーンは、ドラマチックでやりがいはあるでしょうしね。踊りの中に感情を込めるところがあって。

久保:ギュリナーラだって、ただ好きになるわけじゃない。

山田:「瞳の奥に。宿る炎」

久保:炎っていうのは、「自分と同じものを持っていることを誰よりも早く気づいたのがギュリナーラだった」ってキャラクター説明に書いてありますよね。

―こういう役は、新井さんにとっては新境地ですよね、今まで演じられていた役とはまたちょっと違う。

新井:前回より表現面だったり、自分の通った道と、罪の意識だったり、いろんなコンラッドの気持ちを音楽と合わせて表現できたらいいと思います。リハーサルの時も紘一さんから言われて、音楽を聞くと、ああ、こういう表現の仕方もある、自分もこうしてみようとか、そういう思いが生まれてくるので、それを積み重ねていって、いいコンラッド船長を目指して頑張りたいと思います。

―音楽も、新垣さんの、オリジナルの素晴らしい音楽なのでいいですよね、他にない、この作品のために作られていますし。

久保:こういう作品、本当はあと二つ、三つあるといいと思います。

―音楽に触発されるっていうか、そういった部分がすごく大きいという感じがします。

新井:あとはファイトシーンも見どころですね。

久保:あれも新美さんレベルまで行けばもっとカッコいいんだけどね。

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(c)瀬戸秀美

―NBAバレエ団って、男の人がすごいっていうイメージがあるので、その魅力が『海賊』だと爆発することを期待します。

宮内:やっぱりバレエって、音楽とかバレエが教えてくれる部分はありますよね。ああ、こういう感じなんだみたいな。

―やはり踊っていくうちに自分の解釈がいろいろ出てきますもんね。元々の解釈はあるけど、演じられる方によってもだいぶ違うと思います、このキャスト違いで楽しむっていうやり方も、もちろん大きいと思います。皆さんの個性のそれぞれの違いがありますし、新井さんの新境地が見られますね

新井:自分も楽しみですし。それをお客さんに見てもらいたい。感動してもらいたいし、喜んでもらいたいので、日々精進です。

(続きます)

【NBA 海賊】バレエ×アクションの舞台裏|ファイトディレクター 新美智士

迫力のソードファイトシーンはどうやって実現しているのか、というお話が面白いです。

2025/05/24

NBAバレエ団『海賊』リハーサルを取材しました

 6月7日、8日NBAバレエ団「海賊」公演新国立劇場中劇場で開催されます。
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新井悠汰、山田佳歩、勅使河原綾乃、宮内浩之

 

私も初演の時に観たのですが、今までの『海賊』の血沸き肉躍る冒険活劇の楽しさはそのままに、ドラマ性が加わって、海賊として矜持を持って戦う男性たち、愛を貫く女性キャラクターたち、それぞれの強い想い、胸を締め付けるような感情が迫ってきて、とても見ごたえがある素晴らしいスペクタクル作品でした。

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(c)瀬戸秀美

久保紘一演出、宝満直也、久保紘一他の振付に躍動感と美しさがあって素晴らしく、音楽はアダンに加えて新垣隆のオリジナル曲を加えました。バイロンの原作を新解釈し、それぞれのキャラクターに深みがある、壮大でドラマティックなバレエになっています。
また、剣術シーンは西洋殺陣師の新美智士による指導で、バレエとは思えないほどの迫力が満点です。もちろん、オリジナルのプティパ版の『海賊』の人気の場面ーパ・ド・トロワや奴隷のパ・ド・ドゥ、オダリスクのパ・ド・トロワや美しい花園の場面はそのままあり、NBAバレエ団の誇るテクニックに優れたダンサーたちの大活躍がふんだんに観られます)
(ぜひ公式サイトのキャラクター紹介をお読みください!とても面白いです)

『海賊』と言えば冒険活劇で、有名なパ・ド・トロワに代表される男性ダンサーの華麗な超絶技巧や花園の場面の美しい女性群舞が見どころ。物語性は二の次の作品と言えますが、本作はこれらの見せ場、ダンスはもちろんありますが、様々な愛が交錯しており、そのドラマが魅力的です。
オスマン軍のパシャ・サイード(通常この役は太って年老いた男性ですが、ここでは颯爽とした将軍)に捕らえられたギュリナールを救出したコンラッドを、彼女が愛してしまう。だが、コンラッドにはメド―ラという妻がいて、コンラッドは揺れながらもメド―ラへの忠義を守る。一方報われない愛に苦しむギュリナールは、命を懸けて愛する人を守り抜こうとする。またメド―ラも凛とした強い女性として描かれているなど、原作に基づきながらも現代に通じるキャラクターたちになっています。ギュリナールという役が他の『海賊』よりも大きくフィーチャーされ、物語のカギを握っているところが特徴です。

 

4月に、所沢にあるNBAバレエ団の「海賊」リハーサルを取材し、また久保紘一芸術監督と、4人のダンサー(勅使河原綾乃、山田佳歩、宮内浩之、新井悠汰:敬称略)にインタビューをさせていただきました。インタビュー記事はまたこの後アップしますが、まずはリハーサルの模様をご紹介します。

 

<リハーサルの場面>
2幕冒頭、傷ついたコンラッドを手当てするギュリナール。ここから、ギュリナールとコンラッドのお互いを意識した、揺れる想いが繊細に伝わるパ・ド・ドゥへとなっていきます。“There is a fire in his eyes that tells of other worlds.”コンラッドの瞳の中に燃える炎を見つけたギュリナールは、気持ちを押さえられなくなって情熱が溢れていきます。非常に切なくて美しい場面です。

 

 

コンラッド 新井悠汰/ギュリナール 山田佳歩
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コンラッド:北爪弘史 ギュリナール 須⾕まきこ
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ギュリナールの秘めていた想いが、切々とした愛をコンラッドへと伝えていく場面へと繋がり、切なくも美しいパ・ド・ドゥへと。
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コンラッド:宮内浩之、ギュリナール:市原晴菜 (宮内さんは別キャストではパシャ・ザイードも演じます)
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そして『海賊』と言えばおなじみのパ・ド・トロワでは、バレエ団の誇るスーパーテクニシャンたちの華麗な踊りをたくさん見ることができました。迫力たっぷりです。こちらは、一般的なプティパ版『海賊』のトロワになっています。メド―ラ役の⽶津美千花、渡辺栞菜も見事なグランフェッテを決めました。
コンラッド:北爪弘史、メド―ラ ⽶津美千花 アリ:中⼭諒
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同じ作品でもキャスト違いで観ると、それぞれ異なった魅力があります。NBAバレエ団のダンサーはみな瞬発力があってテクニックも素晴らしく、トロワの場面の2人のアリ(栁島皇瑶、中⼭諒)ともスーパーテクニシャンです。

 

NBAバレエ団の公式YouTubeでは、バレエ団内での「回転」「つま先」「ジャンプ力」ランキング動画という楽しい企画を行っているのですが、回転3位、ジャンプ力2位が柳島さんです。(一位は鈴木恵里奈さん)

 

NBAバレエ団のカンパニーが一丸となり、総力を結集して届ける『海賊』、ぜひ劇場でその迫力、ドラマ、バレエの美しさ、ドラマティックで壮大な世界観を実感してください。

詳しいキャスト表


「海賊」本編、オリジナルのオープニング映像。特殊効果を駆使してまるで映画のようで、見ごたえあります!

日 時

2025年6月7日(土曜日)
2025年6月8日(日曜日)

時 間

6月7日(土)開演14:00(開場13:30)/開演18:00(開場17:30)
6月8日(日)開演16:00(開場15:30)

チケット料金

S席9,900円 、車いすS席5,000円、障がい者S席7,900円、学生席2,000円(25歳以下)
※2歳までのお子様の入場はご遠慮ください。
※車いすS席・障がい者S席ご購入の方は、
直接バレエ団宛( ticket@nbaballet.org )にお問い合わせください。
※学生席・障がい者席ご購入の方は、当日学生証・障がい手帳などの証明書を拝見させていただきます。
※チケットご購入後のキャンセル・変更は承ることができません。

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(c)瀬戸秀美       

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