映画『ダンサー そして私たちは踊った」
スウェーデン・アカデミー賞(ゴールデン・ビートル賞)で【最多
http://www.finefilms.co.jp/dance/
昨年内覧試写で拝見したのでだいぶ時間が経ってしまったのですが、今も鮮烈な印象があって心を揺さぶられ、劇場公開されたらまた観たいと切実に感じました。ダンサーがなぜ踊るのかという根源的な問い、表現とは、踊ることとは何かを突きつけられる作品なので、ダンスに魅せられた人、そしてダンサーはぜひ観てほしいと思いました。
ジョージアの国立民族舞踊団のジュニアカンパニーで稽古に励むメラブ。ある日彼の前に、新しく入団した男性ダンサー、イラクリが現れる。メーンダンサーに入団する座を争うライバルではあるものの、彼に惹かれてしまう気持ちを抑えられないメラブだったが…。
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ジョージアの文化、ジョージア民族舞踊では男性性が非常に重要であり、主人公メラブは華奢で繊細なダンサーで評価されにくい。同性愛がご法度の国で、舞踊団に現れた男性ダンサーに惹かれる気持ちが、彼を混乱させつつも解放していく。本当に自分らしく生きること、自分らしく踊りたいという切実な想いだ。
メラブを演じたレヴァン・ゲルバヒアニが実際にジョージア舞踊、バレエを経験して今はコンテンポラリーダンサーであるということが生きている。特にラストシーンでの、最初は伝統的なダンスから、やがて発展していく、魂を解き放つような即興性の強いダンスは、彼の心情を何よりも強く物語って心を揺さぶり、なぜ私たちがダンスというものに惹かれてやまないのかを見せてくれる。恋愛はあくまでもメラブが変わっていくきっかけであって、この物語の主眼ではない。イラクリに譲られ、オーディションで着用した民族衣装は、とても美しいものであったが。
まだ21歳というレヴァン・ゲルバヒアニは演技未経験者とのことだけど、非常に寡黙ながらもしなやかな身体による雄弁な身体表現と繊細な目の演技でメラブの心境を語っていて、スウェーデン・アカデミー賞や、いくつもの映画祭で主演男優賞を受賞するなど高く評価されたのも納得。
ジョージア民族舞踊に限らず、ダンスというものが台詞の代わりに作品の世界観と物語性を伝えている。メラブとイラクリが一緒に練習するところの緊張感。友人の家に仲間で遊びに行ったときに、「Honey」に合わせてウィッグをかぶって奔放に踊るところ、兄の結婚式での伝統的な踊りの祝祭感、ゲイクラブでのダンス。ダンス映画としてとても秀逸な表現だ。ダンスとは、生きることで、命を削りながら踊るダンサーの姿がここにある。ABBAからスウェーデンのポップス、そして打楽器を多用した民族音楽まで、音楽もとても作品の世界観にマッチしていて良い。
一方でこの映画は、現在のジョージア社会を見せてくれて興味深い。豊かな民族文化を感じさせる、伝統的で美しい結婚式が行われている一方で、誰もがスマホを使っている。貧富の差が激しく、メラブの父も海外の有名な劇場でも踊った国立舞踊団のダンサーだったのに今はとても貧しい。そして同性愛が禁忌で追放されたダンサーもいた。この国でダンサーとして生きる困難さも描かれている。貧しくてレストランのアルバイトを掛け持ちし、携帯電話代にも事欠き、自宅は頻繁に停電する。同居する家族ともそれほど仲良くない。ダンサーとしては、男性性が足りずジョージア舞踊の型にはまらず国立舞踊団のメインカンパニーに入れるかわからない。同性に惹かれる気持ちはこの社会では受け入れられない。過酷で出口の見えない現実。しかしダンサーは自分だけのダンスを踊り続けるしかないのだ。
幼い頃から一緒に踊ってきた女性ダンサーのマリと、トラブルメーカーながら男気はある兄との心の触れ合いには心温まるところもあって、青春のきらめきを伝える映画としても、とても心に響くものだった
映画『ダンサー そして私たちは踊った』
公開日:
・2020年2月21日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町およびシネマート新宿ほかにて全国公開 (劇場情報はこちら)
監督:レヴァン・アキン
出演:レヴァン・ゲルバヒアニ、バチ・ヴァリシュヴィリ、アナ・ジャヴァヒシュヴィリ
原題:And Then We Danced
配給:ファインフィルムズ
昨年12月の「のむコレ!」での舞台挨拶では、レヴァン・ゲルバヒアニが登場。すらっとしていて脚が長く、とても流暢できれいな英語を話していました。
レヴァン・ゲルバヒアニは実は日本のアニメが好きで、「千と千尋の神隠し」のポスターが劇中に登場しますが、これは彼の私物です。カオナシのタトゥーも掘っているとのこと(見せられない場所にあるそうですが映画では少し見えます)。「デスノート」や「ワンピース」なども好きなのだそうです。劇中でメラブの心境の変化があり、部屋のポスターははがされていますが、この「千と千尋の神隠し」のポスターははがされないで残ります。彼の変わらない部分を象徴させているとのことでした。
マリ役のアナ・ジャヴァヒシュヴィリは高校時代からの実際の友人で打ち解けた仲だそうです。イラクリ役バチ・ヴァリシュヴィリとはオーディションで出会い、撮影中に親しくなった。頭が切れて、ニュースやビデオを良くチェックしていて、とても良い人だけど物事に没頭していて、時間に遅れがちなんだそうです。
彼はInstagramの投稿で監督に見いだされてオファーをされたのだけど、何回も断り、そして家族や友人にも相談したのですが、最終的には社会正義に関わることができるのではという気持ちで受諾したと語っていました。この作品はジョージアでは上映反対運動が起き、プレミア上映では反対する大きなデモまで起きたのですが、後悔はないし、結果としてジョージア社会を揺るがすことができたと。そのこともこの映画の目的とのことです。
サプライズで監督のレヴァン・アキンも登場しました。ジョージア系のスウェーデン人で、この作品はジョージアへのラブレターとのことです。
やはりラストのシーンの伝統的なダンスからコンテンポラリーに移行していくところは、メラブが自由に解釈して即興的な部分を入れて、自分の心情を入れて踊るという場面だったとのことです。
困難な世界の中で、自分を貫き通し、新しい世界へと旅立っていく青年の葛藤をダンスを通して描いた青春映画の傑作、ぜひ観てほしいと思います。
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