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2019/02/14

針山愛美「世界を踊るトゥシューズ」と日本国際バレエカンパニー(追記あり)

ソ連崩壊直後にボリショイ・バレエ・アカデミーに留学し、モスクワ音楽劇場バレエ、ドイツのエッセン・バレエ、アメリカのボストン・バレエ、そしてベルリン国立バレエと、ロシア、ヨーロッパ、アメリカで活躍したバレリーナの針山愛美さんの著書「世界を踊るトゥシューズ 私とバレエ」


ソ連崩壊に始まり、ニューヨークの9.11のテロなど、世界情勢が激動する中で、バレエ団での活動だけでなく、一流音楽家とのコラボレーション、後進への指導などで幅広く活動する針山さんが、その半生を振り返る一冊です。

1990年代から2010年代までの激動する世界を飛び回り、踊ってきたバレリーナの足跡としてとても興味深い本となっています。これからダンサーを目指す人や、バレエに限らず世界で活躍したいと思っている人にとっては示唆に富んでいます。

まだ日本からロシアに留学する生徒が少なかった時代、物資に乏しく、寒く質素な学生寮で過ごしたボリショイ・アカデミー時代。モスクワ騒乱などで治安も悪い中、ロシア語を学びつつ、バレエ漬けの毎日でした。卒業後、モスクワ音楽劇場バレエに入団し、パリ国際バレエコンクールで銀賞を受賞し、ヨーロッパへ。そしてジャクソン国際バレエコンクールでエルダー・アリエフと出会い、アメリカへ。イリーナ・コルパコワの教えを受けます。しかしその後移籍したバレエ団が解散するなどのトラブルにも見舞われます。ボストン・バレエ団時代に9.11のテロが起き、困難な時代となります。大きな怪我に見舞われてボストン・バレエを退団し、吹田市の国際交流大使として活動。ウラン・ウデ劇場などでも踊ります。そして、ちょうどベルリンで3つのバレエ団が統合され、ウラジーミル・マラーホフが芸術監督として就任する時にオーディションを受けてベルリン国立バレエに入団。そしてマラーホフが芸術監督を退いた2014年に
退団します。

食べ物を買うのにも苦労し、まだメールやインターネットがなくて家族ともなかなか連絡が取れなかったロシアでの留学時代の様子はとても印象的です。そこでたくさんのバレエ公演を観たことが針山さんの糧になります。ベルリンに移った時にもベルリン・フィルの公演をよく聴きに行ったり、自分が踊るだけでなく、様々な芸術に触れた、そのことの大切さを実感させられますし、そのことによってアーティストとして豊かになっていくことが伝わっていきます。また、ロシアやヨーロッパでは芸術が人々の生活に根付いていて、誰もが気軽に劇場に通うことができる素晴らしさが伝わってきます。そのように芸術に親しんできたことから、チェリストの巨匠ダヴィド・ゲリンガスとデュオでプロデュース共演するといった活動につながっていきました。

イリーナ・コルパコワ、マイヤ・プリセツカヤ、モーリス・ベジャール、小澤征爾、ベルリン・フィルのヴァイオリン奏者ホルム・ビークホルツと、様々な人々との出会いが語られます。その中でやはり特別な関係を結んだのがウラジーミル・マラーホフでした。ベルリン国立バレエ時代はもちろんのこと、退団後はますます親しくなっていきました。巻末にマラーホフ本人の言葉が掲載されています。マラーホフは芸術監督を退任するにあたっては、落ち込んだこともあったそうですが、その時に針山さんに支えられたとのことです。

マラーホフはキューバでコンクールを開催したり、また針山さんを振付助手として、クロアチア国立バレエに「白鳥の湖」を振付けると行った活動を近年行っています。(マラーホフ版『白鳥の湖』は昨年、倉永美沙さん主演で東京でも上演されています)また、ダンサーとしてはコンテンポラリー作品に挑戦し、島崎徹さん振付の作品を踊っています。この年齢になってから新境地に挑んだマラーホフの様子についても読むことができます。

針山さんが、政治や歴史について知ることも芸術家にとっては必要だと書かれていることについては、とても大切な視点だと思いました。芸術は世界情勢に左右されるところが多く、自分だけの努力ではどうしようもないことも起きたりします。その一方で、芸術が世界を変える力の源となることもあります。人々に希望や力を与えてくれるものだからです。これからも、ブレグジットや行き過ぎたナショナリズム、貧富の差の拡大、まだ残る様々な差別など世界には問題が山積していますが、厳しい時代だからこそ芸術が必要であるということは伝わってほしいと思います。

この本の中で、針山さんが自分の夢として、いつか本格的な自分のバレエ団を作り、ダンサーが職業として成立して、公演と教育に打ち込める環境を作りたいと書いています。その夢は実現に近づいています。

世界を踊るトゥシューズ―私とバレエ
針山愛美
論創社 (2018-06-27)
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日本に「マラーホフバレエ団」…世界的ダンサー 育成拠点新設へ
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20190205-OYT1T50222/

世界的なバレエダンサー、ウラジーミル・マラーホフさん(51)が芸術監督を務める「日本国際バレエカンパニー」が、近く設立されることになった。国内のダンサーを育成して海外展開を進めるのが目的で、当面は関西を拠点に練習を重ね、6月末にカザフスタンのアスタナ劇場で初公演を行う。

 マラーホフさんはウクライナ出身。ドイツ・ベルリン国立バレエ団で2004年から10年間、芸術監督を務めた。現在も舞台に立ち、振付家としても活躍する。

 発起人は、マラーホフさんの振付助手を務める大阪府出身のバレリーナ針山愛美えみさん(41)。今月10日から大阪、東京でオーディションを3回行って約20人の団員を選考し、針山さんの活動拠点がある大阪府豊中市、兵庫県西宮市で練習を行うほか、マラーホフさんが年に数回、来日して直接指導にあたる。当面の運営費用は針山さんが私費で賄うが、今後は寄付を募るなどして国内外で公演機会を増やしたいという。

Japan International Ballet 日本国際バレエカンパニー
https://japanballet.org/company/

2019年8月16日(金)カルッツかわさきでガラコンサートが開催される予定です。
ウラジーミル・マラーホフや世界からのゲストダンサーが出演。

カンパニーは現在オーディションを行っています。(今回の公演用に)

針山愛美さんのチャコット・ダンスキューブの連載コラムより
▼今回はバレエカンパニーの事、バレエを取り巻く環境の違い等について少し書きたいと思います。
https://www.chacott-jp.com/news/column/berlin/detail011329.html


<追記>
針山愛美さんにお話を伺いました。今回の日本国際バレエカンパニーは、常設のバレエ団ということではなく、

「まずはできることから、できる限りのことをしたい。まずはプロジェクト的に、プロダクションごとに集まっていただいてパフォーマンスの機会を増やしていきたいと思っています」
「バレエの裾野を広げたい、そしてせっかく素晴らしいスキルを持った世界的なアーティストの方に日本の若いアーティストにそのオーラと芸術性を伝えていただきたい」
「バレエをしている方だけではなく、一般の方々の力になれるような活動もしていくことが私の夢です」

このような想いを持っている舞台人はたくさんいると思います。日本のバレエ界を変えていく力になればいいと願っています。

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コメント

naomi様

 針山さんの新しいカンパニー、常設ではない、と教えていただいて、安心しました。実はかなり心配していたんです、私財を投じたプロジェクトがこの国でうまく行くのは難しいのではないか、と思っていましたので。
 新国立劇場の大原さんはずいぶん批判されていましたが、とてもお気の毒でした。ああいう評判の悪い結果に終わったのは大原さんのせいだけではない、と思います。優秀な人材はみんな若いというか、幼い時から海外に行ってしまうし、公演数は少なく、その中でチケットを確実に売ろうと思ったら誰でも親しめる古典を選ぶしかない…。

 国内に残っているダンサーさんの中から何とか少しでも良いところのある方を必死で選んで、その方が「白鳥」や「ジゼル」など本当に限られた演目を一年に二つほど、必死になって考え抜いて創り上げ、一生懸命に演じる…。
 それはそれなりに価値のあるものだとは思いますが、それではプロとは思えません。それでは学芸会、または発表会です。

 20年からは都さんが芸術監督に就任されますが、都さんに過度の期待と伏魔殿的な圧力がかかるのではないか、ととても心配です。この国では常設のバレエ団はとても難しいし、それにもかかわらず、すでに数はかなりあるのではないでしょうか。何だかバレエに対する愛と情熱だけで支えられている気がするのですが…。

 だから、無理のない形で、新しい風を吹かせてくださるのならば、とても素晴らしいことですね。これがプロフェッショナルの舞台だ、というところを見せていだだき、この国のバレエ界に新しい展望を開いてくださる事を祈ってます。

    MIYU

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