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« キューバ国立バレエの芸術監督補にヴィエングゼイ・ヴァルデスが就任 | トップページ | ローザンヌ国際バレエコンクール 2019 のインターネット生中継 »

2019/01/25

大前 仁 「ボリショイ卒業: バレエダンサー岩田守弘 終わりなき夢の旅路」

大前 仁 さんがボリショイの元ファーストソリストで現ウラン・ウデ劇場バレエ芸術監督岩田守弘さんの7年を追った労作「ボリショイ卒業: バレエダンサー岩田守弘 終わりなき夢の旅路」が発売されています。

著者は現在毎日新聞のモスクワ支局に勤務する記者である大前仁さん。モスクワ駐在中に岩田さんと知り合い、10年にわたって取材を続けてきた。そして、この本は、これぞジャーナリストの仕事というべき読み応えのある一冊。大前さんは岩田さんに魅せられ、親しく付き合い敬愛する一方で、記者らしくがっぷり四つに取り組み食らいつきぶつかっていく。
岩田さんのバレエに寄せる深い愛情と、どんな逆境にも負けずに挑戦し続ける不屈の精神が見事に掬い取られている。

「どうして僕はこんなにバレエのことが好きなのかな」

ボリショイ・バレエ初の日本人団員として入団し、身長が低いというハンディを抱えながらもファースト・ソリストにまで昇格した岩田さん。『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドル、『白鳥の湖』の道化などのテクニックを要求される役柄で高く評価されてきた。だが2011年、入団16年目に、芸術監督であるセルゲイ・フィーリンより退団を勧告される。フィーリンはボリショイ・バレエでは先輩であるものの同い年であり、親しい間柄だった。悩みつつも、そしてのちには引き止められながらも、退団を決意し、新しい人生へと踏み出す決意をする。その決断に至るまでの心の動き、変わってしまったボリショイ・バレエへの想い。変わらぬバレエへの愛。ボリショイ劇場での引退公演、そしてシベリア、ブリヤート共和国のウラン・ウデ劇場芸術監督を引き受けて、新しい扉が開く。

岩田さんの光の部分だけでなく、影の部分、苦悩や挫折もしっかり描き、今まで明らかにされてなかった葛藤が綴られている。聞きづらいことも取材できているのは流石だ。取材対象に友愛を感じながらも、冷静な視点を保っている。特にボリショイ劇場での特別引退公演については、長年取材対象として接してきた大前さんならではの、生き生きとして臨場感あふれる描写で綴られている。


それにしても岩田守弘さんはとてつもない大それた人物である。バレエでは決して他人には負けたくないという気持ちを、40代後半となった今でも持っている。ダンサーとして一線を退いても踊ることがやめられない。そして、名脇役だった彼だが、本当はプリンシパルとなり、王子役を踊るのが夢だったし、それは叶う夢だと信じていたのだったのだ。だが、その夢は表に出すことはなかった。そのことに深く葛藤していたのである。背が低いことを恨んだこともあったが、この身体だったからこそ、努力に耐えられたのだと今は感謝しているのだという。

その不屈の精神は今、いつかウラン・ウデ歌劇場バレエをボリショイを超えるバレエ団に育てたいという気持ちへと結びついている。ウラン・ウデに着任した時には、レベルの違いに衝撃を受けた。それでもひとりで戦い、バレエ団のレベルを向上させた。世界制覇をしたいという野望を今は抱いている。本当にあきらめの悪い男なのだ。

感動的なエピソードがいくつも現れる。ウラン・ウデ歌劇場は日本人のシベリア抑留者によって建てられた。この地に抑留されていた90歳を超えた旧日本兵との邂逅、それは抑留者をモチーフにした作品の振付へと結びついていく。ボリショイ・バレエで彼に引導を渡したフィーリンとの交流。かつて共演した時に彼の手を振り払ったバレリーナや、ガリーナ・ステパネンコ、イーゴリ・ツヴィルコなどのトップダンサーたちがノーギャラで引退特別公演に出演してくれた、そして小嶋直也、久保紘一といった同期の友人たちとの友情など。不器用さのある岩田さんだけど、皆、彼の人間力に魅せられていくのだ。

ロシア人にとってバレエとはどんな存在なのか、という文化論でもある。ボリショイ・バレエの内幕と変貌、そしてロシア・バレエそのものの変化も描かれている。ウラン・ウデ劇場を育てる苦労の話も興味深い。

岩田守弘さんはインタビュー記事やテレビ番組出演も多いが、そこでは明るみに出ていなかった心境が綴られ、臨場感ある描写が新聞記者ならではの見事な筆致。バレエファンやバレエを学ぶ人のみならず、多くの人に、この熱い生きざまに触れてほしい。きっと励まされ、勇気付けられることでしょう。

ボリショイ卒業: バレエダンサー岩田守弘 終わりなき夢の旅路
大前 仁
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1月15日に、ロシア、サンクトペテルブルグにて、岩田さんが振付け、ファルフ・ルジマトフ、日本舞踊の藤間蘭黄さんが出演した「信長-Samurai-」が上演された。この舞台は日本で初演された作品だが、今回はサンクトペテルブルグだけでなく、ウラン・ウデ劇場と、モスクワのクレムリンにある劇場でも上演された。この公演のレポートを、大前さんが書かれています。写真、動画もあるのでぜひご覧ください。

https://mainichi.jp/articles/20190119/mog/00m/030/007000c

クレムリンで日本舞踊×バレエ

http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye3582533.htm

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