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« チャコット主催、コシミハルが芸術監督・音楽監督の『フォリー・バレリーヌ「秘密の旅」』公演 | トップページ | ウィーン国立バレエ団来日公演、マニュエル・ルグリとキミン・キム「海賊」公開リハーサル »

2018/05/10

ウィーン国立バレエ来日公演、マニュエル・ルグリ記者懇談会

ウィーン国立バレエ来日公演の開幕に先立ち、マニュエル・ルグリの記者懇談会と、ルグリとキミン・キムの「海賊」公開リハーサルが開催されました。

順番としては、公開リハーサルが終わった後に、記者懇談会があったのですが、まずは、マニュエル・ルグリの記者懇談会のレポートを先にします。

※写真は、井上ユミコさんに撮影していただきました。無断転載はお断りします。

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(写真 (c)Yumiko Inoue)

稽古着からスーツに着替えて、さっそうとした姿のルグリが登場しました。前日に来日したとのことですが、長旅の疲れはうかがえません。

「私のバレエ団と共に、一緒に日本に来ることができたことを喜ばしく思います。皆さまに初めて観ていただく演目があるということで本当に幸せに感じています。長々と私が演目についてお話するよりも、皆さまからのご質問にお答えしたいと思います」

音楽的センスもあって頭も良い、サポートも上手いキミン・キム

ルグリさんから見て、キミン・キムさんの魅力とは?

「今回「海賊」のゲストに誰を連れて行くかを考えた時に、もう一人候補がいたのですが、最終的にキムさんを選んだ理由は、私にとってはやはりマリインスキーのようなところで経験を積んできて、すべてのレパートリーに関して知識、経験があり、高い教育を既に受けている人、ということで最終的に彼に決めました。私にとっても彼にとっても今回は大きなチャレンジになります。一緒にリハーサルをしてみて、とても気持ちのいい方だと思いました。音楽的センスもあって頭も非常によくて、女性をサポートすることも完璧にできていて、とても期待しています

「ルグリ版『海賊』には難しい点があります。私のカンパニーのダンサー全員にも要求したことなのですが、ストーリーを語る演技の部分を、ただ踊りのテクニックだけではなくきちっと表現してもらいたいということです。
具体的には、私は海賊を振付けた時に調査をして、この作品は歴史的にも改訂を重ねてきていますが、ストーリーがよくわからないと思ったのです。そこで私はこの作品を3つの愛の物語として仕立てました。メドーラを中心とする男女の愛の物語、そしてパシャもラブストーリーの中心人物として登場します。それからビルバントとズルメアの物語もストーリーに展開させていきます。このようにいくつかの人間の物語の中に主役二人が絡んできますので、キムさんの対応力、それをどうやってまとめ上げていくかという部分も問われるつくりになっています」


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(写真 (c)Yumiko Inoue)


ヌレエフ・ガラについて教えてください

「大筋については皆さまもご存じだと思いますが、改めて特徴的なことをお話します。私が2010年にウィーン国立バレエの芸術監督に就任した時に、私がやったという特徴のあることを行いたいという考えがありました。シーズンの最後を飾るガラ公演のために考案したものです。魅力のある人物を象徴するようなものをやりたくて、ヌレエフだったらウィーンでは知らない人はいません。ヌレエフはウィーンでダンサーとして大きな成功を収めており、彼しかいないだろうと思いました。ガラ公演は必ずしも成功するとは限りませんが、幸いにも、このガラはとても好評となり、必ずソールド・アウトとなります。今年はヌレエフ生誕80周年でもあるので、日本でもやってみようと思いました」

「ヌレエフの作品も素晴らしいのですが、もう一つ大事なコンセプトとして、新しい世代の振付家を紹介する機会にしたいと思い、バレエ団に所属する2人の若手振付家の作品をその中に入れて、旧来の作品と混然一体となった面白さを見せたいと考えています。ヌレエフはたくさんの作品を振付けており、日本の方はヌレエフ版「ドン・キホーテ」などを好きになっていただきファンも多いのです。ヌレエフの作品を受け入れる土壌は十分あると信じていました。ヌレエフ・セレブレーションの踊りのコレクションについては、まず少しキャラクターが強いものを見せたいと思って、スペインの踊りや、サラセン人の踊りなどキャラクターダンスを入れました。また有名なヴァリエーションですが、これはダンサーにとっては超絶技巧中の超絶技巧というコレクションになっています」

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(写真 (c)Yumiko Inoue)


キム・キミンさんにヌレエフの作品を踊ってもらうとしたらどのような作品が良いと考えていますか?

「ヌレエフ版の作品というのは、ヌレエフの人となりを直接知らない人にとっては、挑戦するのに難しい部分があります。キミンさんはとても頭が良くて、私が「ライモンダ」を踊ってみたらどうかという提案をしたのですが、「まだ自分には難しいと思う」と断られたのです。自分がいま踊りたい、踊れる作品を、自分自身でしっかり判断している人だと思いました。彼はパリ・オペラ座で「ラ・バヤデール」をすでに踊っているので、ヌレエフの作品を踊る能力は非常に高く強いものを持っていると思っています。

私の考えを付け加えると、たとえばキューバ国立バレエの「ドン・キホーテ」は世界的に非常に有名ですが、私がそれを踊ってくれないかと言われても、断ると思うのです。キューバにはキューバの演出を非常によくわかっている、私の何倍も踊れるダンサーがいるからです。そのような理由で、単純に、ただ単にテクニックというのではなく、その意図している、その作品が醸し出そうとしているものは何なのかを肌身で感じて、理解できるものでないと、真の意味での偉大なダンサーにはなれないと思います。キムさんが今、自分にしっくりこない作品を踊れと言われてもおそらく踊らないでしょうし、私も彼が自分にしっくりこないなと思いながら、無理をするような作品を勧めるようなことはしません」


クラシックのレパートリーは守られて生き残っていくべき

世界的にクラシック・バレエをレパートリーとするバレエ団が少なくなっていますが、ウィーン国立バレエの来シーズンのレパートリーはルグリさんの新作「シルヴィア」を始めバランスのとれたものになっています。ルグリさんはダンスクラシックはどのように生き残っていくとお考えですか?

「クラシックのレパートリーは守られて生き残っていくべきだと私は考えています。守っていかなければならないと思います。私自身は、従来のクラシックバレエのレパートリーをいい形で伝えて行くために大変な時間とエネルギーをかけて、ウィーンにおいて仕事をしています。その意味で私の「海賊」の成功はとても大きな励みになっております。私自身が振付を行う場合、コンテンポラリーをやるのか、と問われたらやらないと思います。やはり私の芯にあるのはクラシックなので、現代作品へと傾いていくことはありません。その結果どのような観客の反応があるのかということを見れば、今そういった傾向でコンテンポラリーをやる比率が世界的に大きくなっている中でも、やはり私はお客様が本当に求めているのは、むしろきちんと作られたクラシックの作品で、このような作品への要望の方が実は大きいのではないかと思っています。流れとしてそういう作品を作るための努力というものが軽視されているのは、私は残念に思っています。この姿勢自体を私自身がこの先変えて行くことはございません」

「ただ誤解してはいけないのは、コンテンポラリーの作品にバリアーを設けてはいけない、受け入れて行かなければならないということです。たとえばピナ・バウシュが振付けた作品の初演の密度を、こちらでやってみようか、という時に、例えばオペラ座に移した場合には、やはりオリジナルのプロダクションとは違うリスクを背負っていなければならないと思います。そういったことのすべてを鑑みて、やはりテイストがあり、そこにパッションを傾けた形で作られたものを舞台に上げて行く必要があると思います」

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(写真 (c)Yumiko Inoue)


「ダンサー」「芸術監督」「振付家」「教師」という4つの柱

2020年にルグリさんは退任されますが、この任期までにやっておきたい課題は何でしょうか。そして退任後はどうされるとお考えですか?

「この10年という時間は私にとって本当に大切な時間でした。実際にやってみて、そして2020年に継続をしないという決断をしたのですが、この決断をすること自体も大変考えましたし、大きな、難しい決断でした。自分がこの年月を振り返ってみると、実際に初めて芸術監督としての仕事をやってみて、2,3年では何も成果が見えてこない、と思ったのです。3年目、4年目になって少しずつ自分のやったことが自分でも見えてきた、という時期になって、7年目、8年目となって一つの指標につながってきたと自分自身でも実感しました。果たして今日までやってきたことがきちんときれいに結ばれていくのかを、少し客観的に見るような残りの2年間となると思います」

その後のことですが、今具体的にこれをやります、こういう方向に行きますというのは決まっていません。まだ何も考えていないのです。自分としては、非常に密に仕事をした年月を過ごしたので、少し充電期間という形で、おそらくフリーランスというポジションで、いろいろなことを試して少し放出してみたいと思います。エネルギーを蓄える時間になるのではないかと。まだどうなるか、どんな話が舞い込むのかわかりませんが」

「最低限具体的な可能性として4つ言えることは、まだ現役で踊れるので、今回も舞台に立ちますし、実際に踊ってみて、身体に限界が来ていたとしたら自分が一番よくわかるのですが、今はまだそのような時期ではないと思います。まだまだ自分はいける、今までと違ったものが踊れると思っています。それから芸術監督という立場を経験したので、そのような経験値も自分の中にあります。振付ももちろん次のビジョンとして大事に温めています。それから後進を教育する教師としての役割、真の意味でいい教育を授けることもしていきたいです。この4本の柱をいつも心に持っていたいと思います。
日本の皆さまとは長い付き合いがありますので、私の気持ちは言葉にしなくても伝わっていると思います」


ヌレエフ・ガラで踊る作品について

「今回私が踊るのは、ノイマイヤーの「シルヴィア」のパ・ド・ドゥです。最近、パリ・オペラ座バレエでレティシア・プジョルが引退公演を行った時に共演しました。それから、ローラン・プティの「ランデヴー」を踊ります。これもまたがらりと違った特徴の作品なので、ぜひお楽しみいただければと思います」

「そしてどうしても話したくなるので、他の作品の紹介もしたいと思います。ちょっとだけ付け加えますと、先ほど話にもあったクラシックとコンテンポラリーのバランスをよく考えて上演作品のレパートリーを作りました。ノイマイヤーやバランシンのような超大御所の作品の中にウィーン近郊で活躍されているプロイエットなどの、私の目を通して選んだ秀作がちりばめられていますので、バレエの世界の現代と未来を確かめていただく意味でも、このヌレエフ・ガラを絶対にご注目いただけたらと思います」

*****

この後、NHK「ごごナマ」への生出演があったのですが、時間ぎりぎりまでルグリは熱く語ってくださいました。

伝統を大切にしながらも、バレエの未来について真摯に考えているマニュエル・ルグリ。まだ今後も踊り続けてくれるという言葉も嬉しい限りです。また、日本のファンによる長年の支援に深く感謝している様子も伝わってきました。

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(写真 (c)Yumiko Inoue)

ウィーン国立バレエ来日公演公演概要
http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_wiener/ticket.html


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