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« 勅使川原三郎 KARAS「イリュミナシオン-ランボーの瞬き- 」 | トップページ | マニュエル・ルグリが2020年にウィーン国立バレエ芸術監督を退任 »

2017/12/12

ハーグ王立音楽院、ヤン・リンケンス校長インタビュー(海外でプロを目指す方はぜひご一読を)

先日のハーグ王立音楽院、ヤン・リンケンス校長ワークショップレポートに引き続き、インタビューをさせていただいたので掲載します。ワークショップ主催のS&H留学センターさん、ありがとうございます。

ハーグ王立音楽院 バチェラープログラム

海外で、特にヨーロッパでプロのバレエダンサーを目指す方は、ぜひご一読いただけると、参考になるかと思います。プロのダンサーになる道は厳しいですが、この学校は非常に恵まれた環境で、しっかりとした指導を受けられるところです。また、リンケンス先生の人格者ぶりも伝わってくるかと思います。

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今回のワークショップの指導はいかがでしたか?

今回の生徒たちが私の教えに対して見せた反応はとても素晴らしかったです。彼らが、熱心に稽古し、学び取ろうとしている姿を観ることができたのは嬉しかったです。情報を得ることに対して貪欲であることも見て取れました。
16歳から18歳くらいになった時に、健康的に、しっかりと脚で立てている一方で、同時にクラシックバレエの難しい技術もきちんとこなすことができることが欠けていることが多いです。あなたには無理です、と教師が教え子に言うことも時には必要となりますが、生徒にこんなことを言えるのは、プロを養成するための学校だからこそです。この年代になってくると、身体的に問題が起きて踊れなくなってしまう人も出てきてしまいます。私立のバレエ学校だと、授業料を払ってもらえるのでそのような生徒を辞めさせることはしません。そうすると、身体に問題が起きて踊れないのにプロになれるという期待を抱いたままの生徒ばかりになってしまいます。

日本の生徒さんで心配なのは、皆さん真面目で熱心なので間違ったやり方で無理をした稽古をし過ぎて、身体に問題を起こしてしまう人が多いのです。教師は、バレエの訓練をするのに適した身体を持った生徒を見抜く力を持たなければなりません。

持って生まれた身体は人それぞれであり、生まれつきターンアウトしている人もいれば、残念ながらバレエに向いていない身体に生まれついた人も少なくありません。毎年、300人の子どもたちがこの学校を受験しに来ますが、合格するのは10人だけです。しかもその10人のうちプロのダンサーになれるのは一人しかいないかもしれないのです。バレエに向いた身体の持ち主であるとともに、高いモチベーションを持ち、規律正しく、音楽性も持ち合わせているといった重要な要素を持つ生徒が選ばれます。プロになるための競争は非常に厳しいですから。

この学校では毎年試験を行い、必ず退学になる生徒が出てきます。進歩していない生徒は退学になります。生徒の親にとってもこれはとても失望することです。今までプロのダンサーになれることを期待して子供に投資もしてきたわけですから。生徒たちは守られた恵まれた環境で、好きなダンスに打ち込んで幸せに生活をしているのに、あなたには見込みがありませんから退学してもらいます、と言わなくてはならないのです。

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ここではバレエ以外の学科の授業も行うので、進路変更することもできますね。

私達の学校は、バレエだけでなく一般的な学校の教科も教えています。すべてが一つの建物の中にあります。子供たちは学科の授業を受けた後で着替えてそのままバレエのクラスを受けることができます。外に出かける必要はありません。たとえば作品のリハーサルをするために生徒が必要な時には、学科の教師に、生徒がリハーサルに参加するので授業に出られません、といえば、その授業を別の時間に振り替えてくれます。学科の授業とバレエの授業を同じ組織で行っているからできることです。

公演があるときには、学校は学科の授業を調整してくれます。生徒たちにとってバレエを学びつつ学科も勉強し宿題をこなすことがどれくらい大変であるかを理解しています。単位を取って進級できるように、一対一の授業なども行ってくれます。子供たちがプロのダンサーになりたいからこの学校に来ていることもわかっています。特別なカリキュラムでありシステムです。

この学校では、バレエだけでなく音楽科もありますよね。

バレエ、音楽、そしてヴィジュアルアーツの学科もあって同じ建物の中にあります。バレエの生徒たちにも音楽の授業はありますし、学校公演のほとんどは、音楽科の生徒たちの生演奏で行われています。公演のレパートリーを選ぶ際には、音楽科の生徒たちが演奏できる音楽の作品を上演するようにしています。音楽性も非常に重要なので、生演奏で公演ができることを重視しているのです。今回のワークショップで学んだファン・マネンの作品は、メンデルスゾーンのピアノ曲ですが、音楽科の生徒がピアノを弾きます。またイリ・キリアンの作品は合唱曲なのでやはり音楽科の生徒たちが歌ってくれました。私達は学科間で大きなコラボレーションをしています。「白鳥の湖」を上演するときには、学生たちの大きなオーケストラの演奏で行います。合同での公演なのでリハーサルなどの準備は大変です。

ヴィジュアルアーツの部門とも一緒にやりますが、彼らはまたちょっと違うのでさらに大変です。バレエと音楽の生徒は規律正しいですが、ヴィジュアルアーツの生徒はそうではなくて、クリエイティブでアイディアであふれているからです。だから一緒にやるとなるともっと複雑な準備が必要となります。

NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)との強力なコラボレーションを行うことができるのがこの学校の魅力ですね。

はい、私たちはその点でとても幸運です。今の時代においては、カンパニーと共に協働する学校が増えてきました。なぜならば、学生たちが自分たちの目標とするダンサー、カンパニーを見ることができるからです。ロールモデル、お手本を日常的に見ることができます。生徒たちにとって、プロのダンサーを見て、プロの公演を観ることは非常に重要です。

NDTとコラボレーションもしていますが、これは私たちのカリキュラムの一部にすぎません。というのは、この学校はモダンも学びますが、クラシックバレエも学ぶからです。古典もモダンと同じくらい重要です。NDTのレパートリーはコンテンポラリーですが、ダンサーはすべてバレエを学んできた人です。ハンス・ファン=マネンもイリ・キリアンも、クラシックバレエのアカデミックなラインを使った作品を創っています。彼らは学校にもやってきて生徒を教えてくれるのです。素晴らしいことでしょう。幸運なのは、彼らもデン・ハーグに住んでいるので頻繁に来てくれることです。キリアンなんて学校の角を曲がったところに住んでいますよ。

時々、このことを生徒たちがこの恵まれた環境を理解しているのかな、と思うことがあります。日常的にキリアンが授業にやってくるので、それがどんなに特別なことなのかわかっているのかな、と。なので、それがどんなに素晴らしいことなのかを生徒たちによく説明しています。

残念ながら日本では、コンテンポラリーの作品を学ぶ機会が少なく、このようなワークショップはとても珍しい機会です。

ヨーロッパでプロのダンサーになるには、コンテンポラリー作品を踊ることができるのは必須条件です。クラシックのヴァリエーションだけ踊ることができても、プロのダンサーにはなれません。クラシックのヴァリエーションを踊ることができるのは、カンパニーの中でも最高のダンサーだけです。最初はコール・ド・バレエで出発してずっとコール・ド・バレエを踊り、そしてその中で抜きんでた場合にはヴァリエーションを踊れるようになります。その逆はあり得ません。なので、コンテンポラリー作品のレパートリーを学ぶことはとても重要なのです。そのためにはコンテンポラリーのレパートリーを教えることができる教師が必要となります。

日本の学生は、古典は優れていてもコンテンポラリー作品は得意ではない人が多いわけですが。

学ぶ機会がなければそうなってしまいますよね。でもきちんと学べば身につきます。2年前まで全くコンテンポラリーを踊ったことがない日本人の生徒たちが、今はこの学校でキリアンやファン=マネンを上手に踊っています。信じがたいほどの早さでコンテンポラリーに習熟しました。素晴らしいことです。つまりは慣れることが大事だということです。やらなければ上手くなりようがありません。

コンテンポラリーの経験がなくてこの学校に入っても、遅すぎるということはないのでしょうか?

バチェラープログラムに入学する時にコンテンポラリーの経験がなくても大丈夫です。クラシックのしっかりとした技術を持っていれば、それ以外のことに集中できるので、コンテンポラリーを学ぶことができるからです。朝から晩まで2年間の集中的なプログラムですから。(注:とはいっても、今回のワークショップを兼ねたオーディションを見ても、コンテンポラリーに対するセンスを持ち合わせている子の方が、オーディションで選ばれる確率は上がると感じました)

最大の問題は、コンテンポラリーを学ぶ機会がないということではありません。古典以外のものに心を開くことができなければ、それは大きな問題となってしまいます。古典のヴァリエーションだけをやればいいと洗脳されている人が多いのです。そういう意識を捨て去らなければなりません。この学校に来るほとんどの生徒は、このように洗脳されてしまっているんです。子どものころから古典のヴァリエーションが大事だと叩き込まれていて、これを上手く踊ることができれば最高のダンサーであると思いこまされています。ほかのことは大事ではないと思うようになります。

でも、プロになれたとしても、古典のヴァリエーションを舞台で踊る機会は一生ないかもしれません。「白鳥の湖」や「ジゼル」の2幕のコール・ド・バレエは、ほとんどの女性ダンサーが踊る機会があるでしょうし、それこそが学ばなければならないことなのです。多くのダンサーにとっては、群舞を踊ることが仕事であり、ヴァリエーションを踊ることではないのです。

もちろん、学校でもヴァリエーションは学びますし、試験ではヴァリエーションの試験はあります。また、コンテンポラリーのソロも試験で踊ります。さらに創作も行い、音楽も自分で選ばなければなりません。振付もしなければなりません。クラシックとコンテンポラリーのバランスが取れた学習をします。

日本ではコンクールが非常に盛んです。ハーグ王立音楽院は、ローザンヌ国際バレエコンクールと提携していますが、コンクールについてはどうお考えですか?

ローザンヌ国際バレエコンクールは素晴らしいコンクールです。なぜならば、このコンクールではメダルを取ることは重要なことではないからです。
このコンクールは、1週間の間世界中から学生が集まり、素晴らしい教師に学ぶことが主旨です。学生たちがお互いを良く見て、お互いから学ぶというものです。勝つことではなくて、経験を積むことが目的のコンクールです。ここで賞を得るというのは、メダルをもらって飾るということではなくて、バレエ学校で1年間のスカラシップを獲得できるということで、これは素晴らしいことです。またローザンヌは、学生たちを非常によくサポートしています。審査も、ピルエットの数や脚をどれだけ高く上げるかということではなく、スタイルや音楽性、踊りのクオリティを重視しています。ローザンヌ国際バレエコンクールは、コンクールの良い例です。

経験を得るためにコンクールに参加することは良いことです。メダルを取るためにコンクールに参加するのなら、スポーツをやった方がいいでしょう。芸術性というのは審査できないものです。たくさん回れるから優れているのではなくて、他の人と違ったクオリティを持っているから優れているのです。音楽性に秀でていたり、役に合ったスタイルで踊れるから、優れているのです。このような要素が、ダンサーを特別な存在にしているのです。回転の数といったものはツールにすぎません。

クラシックバレエは、言語なのです。この言語を使って話さなければなりません。そして話すには、どのように話せばいいのかを知らなければなりません。言葉を知っているだけでは十分ではありません。クラシックバレエで難しいことは、この言語を身につけるのに非常に長い時間がかかってしまうことです。言葉をよく知ることができたころには、もう引退する年齢になってしまっています。その頃には身体は衰え始めてしまうのです。これがクラシックバレエダンサーの悲劇です。

バレエは難しいし、習熟するには長い年月が必要です。やらなければならないことがたくさんあります。毎日プリエをしなければなりません。ほかのダンスのジャンルでは、6週間も学べば、もう踊ることができるようになったりします。バレエでは6週間学んだくらいでは何もできません。10年かかります。10年続けてもいいダンサーになれる保証は全くありません。長い道のりですし、本当に好きでなければ続けられません。たくさんの若い生徒たちが、踊ることは大好きだけど、毎日バーレッスンをしなければならず、そのバーレッスンを退屈だと感じてしまって辞めてしまいます。同じことを何回も何回も繰り返さなければなりません。退屈に思えてしまうようなことも好きでなければ続けられません。誰もができることではありません。

この学校の教育で一番重視していることは?

生徒が自分の身体について学ぶことが一番大事だと考えています。様々なダンスのスタイルの中で、身体がどのように機能するのかを理解しなければなりません。そして振付家のパートナーであることを学ばなければなりません。20年~30年前の振付家なら、「これがこの作品のステップなのでその通りに踊ってください」と言っていたでしょう。それは過去のこととなりました。

現代の振付家はダンサーに、「これが私のアイディアです。だからステップはあなたが考えてください」と言います。ダンサーがクリエイションに参加することになりますが、そのためにはダンサー自身がクリエイティブでなければなりません。アイディアをもたらすことを恐れてはいけません。そして振付家のアイディアとは何なのかも理解できなければなりません。振付のプロセスの中でパートナーとして機能しなければならないのです。それは若いダンサーにとってはとても難しいことです。

かつてはダンサーは一つのカンパニーに20年間在籍し、ゆっくりと一つ一つの役柄を学んでいきました。しかし今はものすごい速さで変化しています。2,3年でカンパニーを替わるダンサーも多い。振付家も経験が豊富で素早く呑みこんでくれるダンサーを求めています。そのためには、振付家と一緒に働くことが特に重要となっています。だから、私はこの学校の中でカンパニーを設立しました。このプロセスを学ぶことができるように。

学校内のカンパニーも年間30公演行うんですよね?

はい、だからいろんな準備が必要で大変です。素晴らしい経験を生徒たちは積むことができます。オランダ国内のツアーも行っていますが、2月には日本でも公演をしますよ(オーチャード・バレエ・ガラ~世界名門バレエ学校の饗宴~)。オーチャードホールで開催され、熊川哲也さんがプロデュースしています。8人の生徒を連れて行きます。今回のワークショップで学んだハンス・ファン=マネン振付の「Songs without Words」とイリ・キリアンの作品を踊ります。

去年は私たちは、カナダのナショナルバレエスクールで、21ものバレエ学校が集まっての公演を行いました。生徒たちにとっては信じられないほどのいい経験となりました。芸術監督直々の教えを受け、8つのスタジオで毎日違ったグループでレッスンを受けるのです。

オランダ特有の流派というものはあるのでしょうか?

ダッチ・スクールと呼ばれる流派はあります。ハンス・ファン=マネンの作品に観られるように、とてもベーシックです。身体があり、そして踊りがあって装飾はあまりありません。純粋で直接的です。動きを細かくコントロールすることができます。音楽にピッタリ合っています。なので音楽から外れてしまうと、観客もそれが間違っているのがわかってしまいます。これが典型的なオランダ式のスタイルです。ファン=マネンだけでなく、ニルス・クリスティやイリ・キリアンの作品でもそうなのです。私自身も振付家であるし、このように振付をする振付家は多いのです。

オランダという国には多くの振付家が住んでいます。このような環境にいると多くのインスピレーションを得ることができます。振付家同士が交流したりお互いの作品を観るわけですから。また、政府や公共からの支援も大きいということが、これだけの振付家が活動できる理由の一つです。オランダの人々はダンスが大好きですし、政府も、芸術が発展できて、海外に向けてオランダのアイデンティティを示すことができると考えています。振付家たちは、その芸術を発展させることができる空間を与えられています。こんなに小さな国なのに素晴らしい環境を与えられていますし、ダンス界における強い声を得られています。

第二次世界大戦でオランダはすべてを失いました。一からすべてを作り上げなければならなかったのです。そしてだからこそ、新しいものを作り出すことができたのかもしれません。オランダ国立バレエも、この学校も1961年に創立されました。もちろんオランダ国立バレエには、この学校の卒業生はたくさんいます。ただ、今は本当に優秀な若手ダンサーが世界中にいるので、カンパニーは本当に最高のダンサーだけを入団させています。だから、最高ではないダンサーにとっては職を見つけるのが難しくなっています。バレエ学校を卒業しても全員がダンサーになれるわけではないのです。

そんな厳しい中でも、この学校の卒業生はみなカンパニーに入団できているんですね。

当校は、オランダのカンパニーだけに集中しているわけではありません。ドイツ、スペイン、米国といった国のカンパニーのオーディションを受けて、入団を果たしています。オランダ流は幅広く、そしてキリアン、ファン=マネンの作品は世界中のカンパニーで踊られているからです。

たとえばモンテカルロ・バレエはキリアン作品だけの公演を行っています。先週彼らはオランダにリハーサルしにやってきました。ボリショイ・バレエでもキリアンを踊っていますし、ブダペストのハンガリー国立バレエは、ハンス・ファン=マネン作品の夕べを二日前に上演しました。2月にはノルウェー国立バレエがオール・キリアン・プログラムを上演しています。私たちの生徒はすでにキリアンやファン=マネンの作品を知っているので、強みがあります。

オランダでのダンサーの待遇は良いです。給料も良くて12か月しっかり出ますし、それは政府が支援してくれているからです。オランダではアートに対しては政府だけがお金を出していて民間の資金は入っていません。

学費についてはどうなっていますか?

この学校においては、バレエの授業のみ授業料を払うことになっていて、学科の学費については無料です。バレエのクラスの学費は、ヨーロッパ出身者なら年間2千ユーロ、外国人は年間4800ユーロです。たとえばロイヤル・バレエスクールは年間2万ポンドですから、比較するとかなり安いです。誰もが学費を払えることがとても重要だと考えているからです。才能のある子の家にお金がない場合には、奨学金など学費を援助してくれる特別の機関もあります。最も重要なのはお金ではなく才能だと考えているからです。

外国の方たちは、私たちの学校がこのように才能があればお金は必要ないと考えていることは知らないと思います。学費が高いと思われていますが、実際には全く高くありません。家賃や食費、健康保険はもちろんかかりますし、学費よりも高いと思います。この費用でこれだけの教育を受けられるのは贅沢なことだと思いますよ。オランダの唯一の問題はお天気が悪いことです。でもデン・ハーグにはビーチがあるのでお天気が良ければビーチに行けます。デン・ハーグは大きな街ではありませんので、どこにでもすぐ行けます。

そして校舎も新築されて、アート・コンプレックス(複合施設)になるんですね。

はい、6階建てのコンプレックスとなり、3つの劇場が配置されます。学校は最上階に位置します。バレエ部門、音楽部門、そして学科のための教室もすべて一つの建物の中にあります。そして同じ建物の中にNDTも入居しています。ダンサーと生徒がとても近いところにいられるので、お互いを良く見て、リハーサルなども見て学ぶことができるわけです。まだ建設は始まったばかりで、完成するのに3年はかかりますがとても楽しみにしています。新校舎は、デン・ハーグの中心地に位置しています。

寮はあるのでしょうか?

いいえ。オランダでは、子どもを学生寮に送り込むという伝統がないからです。オランダの親はそのような考え方を好みません。遠いところからやってきた生徒たちは、ホームステイをします。平日はフォスターファミリーと過ごし、週末に家に帰って家族と過ごすわけです。または、電車で長い距離を通学する生徒もいます。朝6時に起きて1時間かけて学校に通い、授業を受け、バレエのクラスやリハーサルを受け、そして夜帰るのです。大変そうですが、みんなそれに慣れていきます。


日本の学生へのアドバイスはありますか?

まず、踊ることを楽しんでほしいと思います。そして教師に依存しすぎないようにしてほしいのです。先生の言いなりになっているだけではなく、自分の人生の決断は自分で下さなければなりません。日本では目上の人は尊敬すべきという文化がありますので、それが難しいのはわかりますし美しい伝統だと思います。日本にいる間は、先生の助けがあるからこそできることも多いのですが、ヨーロッパに留学すれば、自分で決断をしなければなりません。先生の言うとおりに従うのではなく。もちろん、私たちは生徒を助けるためにいます。でも、結局本人が動かなければどうにもなりません。教師や親などに依存しすぎるのは良くないことです。

教師の言うことがすべて正しいと信じてしまう生徒が多いのですが、必ずしもそうとは限りません。教師によって、自分の生徒をどうしたいのかというのが異なっています。良いキャリアを積むために教える教師もいれば、単にコンクールで賞が取れるように教える教師もいます。良いキャリアを与えるためには、教師は生徒をよく見て、どんな可能性を秘めているのかじっくりと探ります。メダルを取るためには、コンクールで勝てる踊りを教えないと、取れません。

私の教え子の中には、プロになってもクラシックのヴァリエーションを踊る機会は得られないだろうという生徒もいます。もちろん、クラシックのヴァリエーションは試験に出るので練習はします。でも試験が終わって卒業したら、クラシックのヴァリエーションを踊る必要のないカンパニーに彼らは入団します。コンテンポラリーは得意な生徒だからです。つまり私たちは生徒をよく見て、彼らの適性に応じたやり方で彼らを教え、キャリアに備えさせます。コンテンポラリーの得意な生徒にクラシックのヴァリエーションばかりを躍らせたら、せっかくの身体も役に立ちません。

私たちのやり方は、生徒たちにコンクールでメダルを取らせるのではなく、その生徒に適したカンパニーに入団できるように訓練することです。別にコンクールそのものや、メダルを獲ることに反対しているわけではありません。でもそのことだけに集中してしまうと、間違った方向に行ってしまいます。メダルを獲った後で、目的を達成したのでやる気を失う子もいます。メダルを獲った教え子が5人います、ではなくて優れたプロのカンパニーに入団して活躍している教え子が5人います、ということの方が誇らしいのです。それがこの学校の目的です。

才能を見抜くこと、その才能が最も発揮される方向に導くことがとても大事だと私は考えています。その才能がクラシック・バレエに向いていなければ、指導者は正直になって、「あなたはクラシック・バレエのダンサーにはなれませんが、思い詰めないでください。違った道を進むべきです」と言わなければなりません。それはつらいことです。でも人生は続いていくのです。

とても優秀だけどコンテンポラリーが苦手な日本人の女子生徒がいました。そのため、どこにも入団できませんでした。1年半就職活動をしたのち、「もうやめて日本に帰ってホテルの専門学校に入ります」と私に言いました。「もう10年も踊りつづけましたよね。日本からはるばるオランダまで来て。今あきらめるべきではありません。入団できるカンパニーを見つけるべきです」つまり、それは数え切れないほどのオーディションを受けなければならないということです。何回も落とされると、心が折れる生徒もいます。「背が低い、太すぎる」などと言われたりします。それでもプロになりたいなら頑張らないといけません。結局この生徒は、ブカレストのバレエ団に入団して活躍しています。でもそこに至るまで私は何回も彼女にアドバイスを与えました。それまでに何回も何回もオーディションに落ち続けたからです。

生徒たちがカンパニーに就職できるようにたくさんのサポートを与えているんですね。

もちろん、生徒たちが自分のことをよく知ることが一番大切ですが、正しい方向に導き、キャリアを得ることができるようにできる限りのサポートをするようにしています。履歴書の書き方を指導したりもしています。生徒たちは履歴書を書くだけでなく、自分たちが何をやりたいのか、どういう方向に進みたいのかを書かなければなりません。今までの学習の自己評価なども書かせます。

英語ができることがとても重要になってきます。作文をたくさん書かなければならないからです。オーディションでも、このソロを踊るに際してのインスピレーションは何ですか?と聞かれるので、しっかりと答えられなければなりません。音楽、と答えるだけではなく、作品についてのストーリーが書けなければなりません。ダンサーになるためには、英語ができることは必須であり、英語を勉強することはダンサーになるための投資ともいえます。ほとんどのカンパニーでの共通言語は英語ですから大事なことです。


いかがでしたか?これからプロを目指す方にとっては、とても有用なアドバイスなのではないかと思います。とても熱く、真摯に語ってくださいました。生徒の将来を真剣に考えている、あたたかいお人柄が感じられました。


S&H留学センターのワークショップとオーディション

http://shballet.jp/audition_info.html

【12月27日(水)~29日(金)】
国立ミュンヘン音楽舞台芸術大学バレエアカデミー
(ミュンヘン州立バレエ学校)
ワークショップ&オーディション

【2018年1月27日・28日】
ロシア国立ノヴォシビルスク・バレエ学校
   アレクサンドル・シェレーモフ副学長 来日
    ワークショップ&オーディション

【2018年2月23日・24日・25日】
スイス国立チューリッヒ芸術大学 タンツ・アカデミー・
    オリバー・マッツ芸術監督 来日 (オリバー・マッツは2018年のローザンヌ国際バレエコンクールの審査員です)
    ワークショップ&オーディション

【2018年4月4日(水)】
元ベルリン国立バレエ団 芸術監督
ウラジミール・マラーホフ 来日 ワークショップ



熊川哲也オーチャードホール芸術監督 特別企画
オーチャード・バレエ・ガラ ~世界名門バレエ学校の饗宴~

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_balletgala.html

2018/2/11(日・祝)13:00開演
2018/2/12(月・休)13:00開演

ロシア:ワガノワ・バレエ・アカデミー (校長:ニコライ・ツィスカリーゼ)
 『フローラの目覚め』より“パ・ド・カトル”
 振付:マリウス・プティパ 音楽:R.ドリゴ
 『人形の精』より“パ・ド・トロワ”
 振付:S.レガート/N.レガート(改訂:ニコライ・ツィスカリーゼ) 音楽:R.ドリゴ

ドイツ:ハンブルク・バレエ学校 (校長:ジョン・ノイマイヤー)
 『バッハ組曲2』より
 振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:J.S.バッハ

オーストリア:ウィーン国立歌劇場バレエ学校 (校長:マニュエル・ルグリ)
 『プルチネッラ』
 振付:ベッラ・ラチンスカヤ 音楽:G.ヴェルディ
 『ラ・ダンス・デ・トロワ・フィーユ 3人の少女の踊り』
 振付:ボリス・ネビラ 音楽:H.S.パウリ
 『ブルノンヴィルへのオマージュ』
 振付:ボリス・ネビラ 音楽:H.S.レーヴェンショルド

オランダ:ハーグ王立コンセルヴァトワール (校長:ヤン・リンケンス)
 『Evening Songs』より
 振付:イリ・キリアン 音楽:A.ドヴォルザーク
 『無言歌集』より
 振付:ハンス・ファン・マーネン 音楽:F.メンデルスゾーン

カナダ:カナダ国立バレエ学校 (校長:メイビス・ステインズ)
 『Three Images of Hope』より
 振付:ロバート・ビネー 音楽:O.パレット
 『ラ・フィユ・マル・ガルデ』より“パ・ド・ドゥ”
 振付:アレクサンドル・ゴールスキー 音楽:P.L.ヘルテル

オーストラリア:オーストラリアン・バレエ・スクール (校長:リサ・パヴァーン)
 『VITAE』
 振付:マーガレット・ウィルソン 音楽:B.デスナー

総合監修:オーチャードホール芸術監督 熊川哲也

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