カルロス・サウラ監督『J:ビヨンド・フラメンコ』
『血の婚礼』(’81)、『カルメン』(’83)、最近では『イベリア 魂のフラメンコ』(’05)、『フラメンコ・フラメンコ』 (’10)などで知られる巨匠カルロス・サウラ監督の最新作が、『J:ビヨンド・フラメンコ』。
待望、5年ぶりの日本公開となる最新作『J:ビヨンド・フラメンコ』で描かれるのは、監督の生まれ故郷、スペインのアラゴン地方が発祥とされる「ホタ」。フラメンコのルーツのひとつである「ホタ」を通し、フラメンコのフィールドの彼方に広がる、つつましくも陽気な民俗舞踊の多彩なスタイルを紹介。その奥深い魅力に迫る、至福のダンス&音楽エンターテインメントがここに完成した。めくるめく映像美で描かれる数々のダンスシーンは、絢爛豪華なエンターテインメントショーか、あるいはアート空間か──観る者を魅惑の世界へと誘うだろう。
「ホタ」という音楽の名前は初めて聞いたけど、フラメンコのルーツであるとはいうものの、非常に洗練されていて聴きやすい音楽であり踊りへと進化していた。この映画の中では、時代とともに進化していったホタの様々なスタイルを見せてくれる。土着的なものもあれば、とても現代的なものも。ノスタルジックだけど陽気で耳馴染みのいい音楽であり、出演する歌い手たちも魂がこもっていて素晴らしい。
少年少女たちがホタの基本ステップを学ぶレッスン風景から始まり、ラストは、町の広場のシーンで人々が祭りに繰り出すところで終わる。ホタがアラゴン地方では老若男女に愛され、生活に密着している様子がうかがえる。
ダンスのスタイルとしては、フラメンコ的な足を打ち鳴らす系というよりは軽やかな足捌き、そして上半身を高く保ち腕を高い位置に置いて優雅に保つ。チェロの独奏と共演する『ボッケリーニのファンダンゴ』では、男性ダンサー(元スペイン国立バレエ団でスペイン舞踊界のスターであるバレリアーノ・パニョス)のダンスが鮮やかで、クラシックバレエ的なテクニックも駆使している。女性群舞による『タランチュラ』は照明効果も駆使してとても洗練されて美しい。さらに大スターであるサラ・バラスとミゲル・アンヘル・ベルナのペアによる踊りは、情熱的で息が止まるほど目が吸い寄せられる。『町はずれ』は現代的で、ネオクラシックのバレエのパ・ド・ドゥを観ているようだ。
カルロス・サウラ監督の、映像の魔術師のような美しい照明とスタイリッシュな切り取り方で、多様なアプローチのダンスと音楽がめくるめくように繰り広げられて飽きない。その中で異色なのは、スペイン内戦後の授業風景を再現したパートで、ルイス・ブニュエル監督が脚本を手掛けたスペイン内戦初期のドキュメンタリーを引用している。また、最初の方では、1935年の「気高いアラゴン人の娘」というモノクロ映画のシーンも引用されていてホタの歴史をうかがい知ることができる。
フラメンコ界のトップダンサーも出演しているこの映画、フラメンコやスペイン音楽のみならず、音楽やダンスが好きな人だったら至福の時間を送ることができるだろう。めくるめく映像美、人々の日々の営み、喜びや悲しみと寄り添ってきたホタの心躍るリズムとメロディに酔いしれ、いくつもの舞台を観たような気になる贅沢な90分間だった。
監督 カルロス・サウラ
キャスト サラ・バラス/カニサレス/カルロス・ヌニェス/ミゲル・アンヘル・ベルナ
作品情報 2016年/スペイン/90分
受賞ノミネー ト第41回トロント国際映画祭 マスターズ部門正式出品
配給 レスペ
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