吉田都「バレリーナ 踊り続ける理由」
50歳を迎えた今も、舞台に立つ回数こそ減ったものの、その軽やかさと確かな技術、豊かな音楽性と気品ある溢れる踊りで観客を魅了し続ける吉田都さん。その芸術性の高さと観る者を幸せにする踊りの美しさには、未だ比肩する者はいないほどです。
その吉田都さんの、新しい本が発売されました。
【バレリーナ…/吉田都】「若い頃の『もっと』は練習の''量だったかもしれません。いまは『もっと』の''質''を大切に…。やみくもに頑張るのは今となっては自己満足。昨日の自分と今日の自分の違いは何かを問いながら、身体と向き合います」 pic.twitter.com/KiDInw1YCJ
— 河出書房新社 (@Kawade_shobo) November 27, 2016
バレリーナを目指す人のみならず、若い人から都さんと同年代の女性まで、多くの人に勇気を、そしてしなやかに美しく生きる上でのヒントをたくさん与えてくれる本です。
都さんがトウシューズに憧れてバレエを始めた子供時代の時から、現在までの道のりを綴った一冊です。表紙のナチュラルな表情、本に掲載されているレオタードにチュチュボン姿も自然で飾り気のない笑顔がとても素敵です。
ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを獲得してロイヤル・バレエスクールに留学するものの、体型などへのコンプレックス、言葉の問題などからホームシックに悩まされます。サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ(現バーミンガムロイヤル・バレエ)に入団してチャンスを迎えるものの怪我をして自己管理の大切さを知り、師であるピーター・ライトに表現の神髄を学びます。
”心が身体をどう動かしているのか”つまり内側の表現、その人ならではの表現の大切さ。今でも都さんは振付家やバレエ・ミストレスから指導を受ける時間を大切にして、人の心を動かす表現をつなげて行こうと努力しています。
プリンシパルとなり、さらに大きなバレエ団であるロイヤル・バレエに移籍してからは、公演に対して大きな責任を負うようになります。その中で、都さんはプレッシャーに負けず、評価に一喜一憂せず、他人と自分を比べないことで自分の心を鍛え、44歳でロイヤル・バレエを去るまで第一線で活躍し続けます。最大のライバルは、自分。自分の心と向き合い、マイナスの感情に負けないことの大切さも、都さんの経験談を聞くと実感として伝わってきます。
ジョナサン・コープ、イレク・ムハメドフ、フェデリコ・ボネッリなど一緒に踊ってきたパートナーたちとの話も興味深く、また、意外なことに、スヴェトラーナ・ザハロワについても、彼女を尊敬する気持ちについて語ってくれています。
結婚、K-Ballet Companyでの活動、ロイヤルを退団して拠点を日本に移したこと、そしてフリーランスのバレリーナとしての活動、様々な人生の転機がありました。ロイヤル・バレエ本拠地での最後の「シンデレラ」、そして日本でのロイヤル・バレエさよなら公演「ロミオとジュリエット」。人生での一つ一つの転換点を経てポジティブに人生を切り開いていきます。最近ではハンガリー国立バレエで、ピーター・ライト振付の「眠れる森の美女」の振付指導も担当しました。
膝の状態が悪くなって踊ることを断念しようと思ったことがあったものの、優れたトレーナーとの出会いで回復し、今も身体は進化し続けているそうです。堀内元さんとの「Ballet for the Future」で現代作品を踊る機会を得て、新境地を開きました。今も現役のバレリーナとして、日々のクラスやトレーニングで身体を整え、しっかりと食事をしてヘルシーな生活を送っています。
終章では、エレガントに生きるためのヒント、そして芸術が人生を生きる上でどれほど大切なものなのかが語られています。吉田都さんのようなバレリーナになれる人はほとんどいませんが、都さんの生き方は、多くの女性にとってのお手本でもあり、多くの学びを与えてくれます。このような素敵な人柄と、ひたむきな努力から、あのような感動的な踊りが生み出され、そしていつまでたってもチャーミングで内側から輝くような美しさが生まれるのだと実感されます。
文体もとても読みやすく、挿入された写真も都さん自身が撮影したものもあったりで、普段の生活の一端もうかがえます。たくさんの人に手に取ってほしい一冊です。
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そういえば、グランプリ・ファイナル進出を決めたフィギュアスケートの宮原知子さんは、吉田都さんにバレエの指導を受けて表現力を向上させたようですね。
http://www.hochi.co.jp/sports/winter/20161127-OHT1T50053.html
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