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2016/11/10

「天才バレエ・ダンサーの皮肉な運命」東京国際映画祭

東京国際映画祭のコンペティションに出品された「天才バレエ・ダンサーの皮肉な運命」を観た。

http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=3

アレクセイ・テムニコフは名の知れた天才バレエダンサーだが、90年代にその短いキャリアは突然終わっていた。20年後の現在はバレエ教室を営み、傲慢で冷淡な性格が周囲との軋轢を招いているが、全く気にする様子を見せない。達観したように生きるアレクセイだが、次第に体調が悪化するに従い、人生の選択を迫られる。

本作が3本目の長編劇映画となるアンナ・マチソン監督は、舞台との関わりも深く、本作でも威風漂う姿を見せるマリインスキー劇場の舞台監督や美術などを手掛けている。同劇場の芸術監督ワレリー・ゲルギエフが指揮するオペラの映像監督も務め、その縁でゲルギエフが本人役で登場するが、ここで虚構と現実の境が曖昧になり、実在のダンサーの生涯を追っているような効果を本作にもたらしている。マジカルなカメラワークも楽しく、スケール感のあるエンターテイメント作品として、従来のロシア(映画)のイメージを覆す作品である。主演のセルゲイ・ベズルコフは舞台と映画の双方で活躍するロシアの人気俳優である。


Afteryouregone


主人公アレクセイ・テムニコフ、相当傍若無人で嫌な男である。20代の若さでボリショイのトップスターとなるものの、大けがが原因で引退を余儀なくされ、小さな街でバレエ教室を営む傍らドラッグストアチェーンも経営している。一応ビジネス的には成功しているけど、元スターという高いプライドが災いして生徒たちに対しての接し方は冷淡だし、妊娠した恋人への扱いもぞんざい。そんな彼の下に、12歳となった娘が突然現れる。一方で、若い頃の怪我が悪化してこのままでは下半身がマヒするという医者からの宣告も受けてしまう。そこで彼は人生最後の賭けに出る。

テムニコフ役のセルゲイ・ベズルコフは、ロシアでは人気のある俳優ということで、映画祭の上映会場には多くのロシア人が詰めかけていた。バレエを本格的に学んだ経験はなく、撮影前2週間ほどレッスンしただけだというが、なかなかどうして、姿勢よく、腕もしなやかで元バレエダンサーという感じの容姿の持ち主であった。演劇大学でバレエの授業を受けていたのが幸いしていたようだ。作品の終盤でテレビに出演して踊る場面があるが、跳躍など一部をデニス・マトヴィエンコが吹き替えているものの、かなりの部分が本人の踊りとのこと。

バレエそのものがテーマではなくて、一人の男性のミドルライフ・クライシスを描いた作品ではあるけど、バレエ好きにとっては思わずにやりとする場面も出てくる。スターダンサーだった若い頃のテムニコフの出演したテレビ番組の映像が、YouTubeを思わせる動画サイトに出てくるのだけど、いかにもやんちゃでバッド・ボーイという感じの不遜な態度に思わず苦笑してしまう。自身の振付作品をボリショイ・バレエに売り込む時には、実際にボリショイ劇場の中で撮影しているし、さらにマリインスキー劇場での撮影、ワレリー・ゲルギエフが本人役で出演、そしてマリインスキー・バレエのダンサーたちを使って実際のバレエ作品が踊られるところまで出てくる。

マリインスキー・バレエで、テムニコフが振付けたとされて上演された作品は、実際には、ラドゥ・パクリタル(ソチオリンピックの開会式を振付けた)がこの映画のために振付けた「シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ」(ストラヴィンスキー作曲)という作品で、主演がユーリ・スメカロフとスヴェトラーナ・イワーノワ、ダリア・パヴレンコも出演しているという豪華版だ。特にスメカロフは本人役で出演していて、リハーサルしている様子もしっかり登場する。作品はゲルギエフ指揮で、マリインスキー2劇場で上演されていて実際にマリインスキー・バレエのレパートリー入りした。実在の登場人物、実在の劇場で上演されていることから、劇映画なんだけどドキュメンタリーを見ているような気持ちになるのが面白い。監督がマリインスキー劇場を良く知っているから故のリアリティがあった。

そして、このテムニコフ、過去の栄光にすがり未だスター気分が抜けない、中年なのに子どもっぽくてどうしようもない男なのだけど、その高すぎるプライドゆえ周囲の人間に悪態をついてしまうというところが憐れであり、また憎めないところでもある。彼の奇行じみた態度はユーモアたっぷりに描かれているし、演じているべズルコフがチャーミングなので、ついつい同情してしまうし、本当は繊細な人なのかも?とも思ってしまう。突然現れた娘キアラも生意気ながらとてもキュートだ。原題は「After You're Gone」。自分の先行きが長くないのを知って、うまくいかなかった人生を生きて来た証をなんとか残そうと奮闘するテムニコフの姿には、思わず応援したい気持ちになってしまうし、シニカルなユーモアと魅力的な俳優の力もあって、楽しい作品となった。バレエシーンは本格的だし、日本でも劇場公開される価値があると思う。


スタッフ
監督 : アンナ・マティソン
プロデューサー : アレクセイ・クブリツキー
プロデューサー : セルゲイ・ベズルコフ
撮影監督 : セルゲイ・オトレピエフ
脚本 : チムール・エズグバイ
編集 : イワン・リシチキン

キャスト
セルゲイ・ベズルコフ
アナスタシア・ベズルコワ
カリーナ・アンドレンコ
ウラジーミル・メンショフ
アリョーナ・バベンコ
セルゲイ・ガザロフ
ステパン・クリコフ
マリヤ・スモルニコワ
ヴィタリー・エゴロフ

セルゲイ・べズルコフの公式サイトにある作品紹介ページ。ロシア語だけど、詳しい解説や写真などがたくさん載っている。
http://sergeybezrukov.ru/art/cinema/posle-tebya/


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