アリシア・アロンソと、キューバ国立バレエを描いた映画「ホライズン」
アリシア・アロンソと、キューバ国立バレエを描いたドキュメンタリー映画「ホライズン」が公開されます。
伝説のプリマ、アリシア・アロンソと、キューバが世界に誇る国立バレエ団。
90歳を超えた今も情熱を燃やし続けるアリシアと、教え子たちの“今”を捉えた
詩情溢れるドキュメンタリー映画
http://www.tk-telefilm.co.jp/horizontes/
歴史上も数人しかいない、バレリーナの最高称号”プリマ・バレリーナ・アッソールタ”を持つ伝説のバレリーナ、アリシア・アロンソ。90歳を過ぎ、視力をほとんど失ってしまった今も、キューバ国立バレエの芸術監督として情熱的に指導を続けて、後進を育成している。
そのキューバ国立バレエの今を代表するプリマ・バレリーナ、ヴィエングゼイ・ヴァルデス。世界バレエフェスティバルにも2回出場した世界的なスターで、4人いるプリンシパルの一人。入団して20年が経つが、今もなお向上心を持ち続けて厳しい訓練の毎日を送る。
国立バレエ学校でバレエを学んでいる14歳の少女、アマンダ。両親は娘の夢を叶えるために地元の家と職を手放し、ハバナ旧市街の狭く質素なアパートに住んでいる。学校の進級試験を控えてプレッシャーに押しつぶされそうになるアマンダ。
冒頭、若かりし頃のアリシア・アロンソ、ヴィエングゼイ・ヴァルデス、そしてアマンダがそれぞれグランフェッテを踊る映像が挿入される。正確無比なアロンソのフェッテ、トリプルを何回も入れている超絶技巧のヴァルデスと比較して、まだ学生のアマンダの回転は、おぼつかない。
キューバにとってバレエがどれほど重要な意味を持つものであるのかということが、この作品からもよく伝わってくる。ABTで活躍していたアリシア・アロンソは、1948年にキューバに戻ってバレエ団を設立した。カストロ兄弟と親しいアリシアは、バレエをキューバ革命における文化の礎と位置付けて発展に力を尽し、白人の上流階級のものであったバレエと、その教育の門戸を広く開放する変革に成功した。バレエ学校の教育の中でも、革命スローガンを生徒たちが叫ぶ様子が出てくる。
貧しい家の出身であったとしても、才能があればバレエ教育を受けることができて、カルロス・アコスタのような大スターになることができる。国立バレエ学校でさえも、建物は古びており、生徒たちはポワントも十分には買えないのでテープなどで修理して履いている。この国では、バレエは一つの希望なのだと実感させられる。
アリシア・アロンソはとてつもない存在だ。ABTの舞台に立ったのは、怪我をしたバレリーナの代役として急きょだったがこれをきっかけにABTに入団して、トップスターとなった(ABT時代の映像も登場する)。しかし若い頃から目の病気に悩まされ、視力を徐々に失っていく恐怖と闘うことになる。若い頃の彼女の貴重な映像、歴史的な映像もふんだんに観ることができる。
ほぼ完全に視力を失ってしまった今も、アリシア・アロンソはきれいに化粧しネイルもした姿で毎日稽古場にやってきて、矍鑠とした立ち姿で後進を指導する。目は見えていないはずなのに、心の眼で見ているのか、得意とした演目である「ジゼル」のパ・ド・ドゥでは実に的確な指導をすることができるし、時には厳しく叱責もする。トッププリマのヴァルデスですら、落ち込んで夜の街をさまようくらいに。
ノスタルジックで美しいオールド・ハバナの街並み。カラフルなヴィンテージカー。開放的に作られた古めかしい稽古部屋からは、南国のうだるような暑さも伝わってくるようだ。ヴィエングゼイ・ヴァルデスやアマンダが通うトレーナーや、ポワント・フィッターとの交流は心温まる。今はイングリッシュ・ナショナル・バレエでバレエ・ミストレスとして活躍している名教師ロイパ・アラウホの姿も。
キューバ出身のダンサーは世界中で活躍しており、キューバから命がけで亡命して踊っている人もいれば、合法的に海外で踊っているカルロス・アコスタのような人もいる。トッププリマのヴィエングゼイ・ヴァルデスも、海外に出ることを考えたことはあっただろう。しかし、トレーナーとの会話の中でも、彼女は「私は自分の国のために踊りたい」と言い切っている。バレエのためにすべてを捧げているストイックな生活。アロンソという偉大な師に近づくためにひたむきに努力をする姿は心を打つ。
アマンダは、すらりと伸びた肢体に愛らしい顔立ちで、見るからに将来性が豊かな生徒だ。両親が犠牲を払って娘の将来に賭けていることを痛いほどよくわかっている。バレエ学校の進級試験の様子なども観ることができて、とても興味深い。この稽古場から、世界的なスターが何人も旅だっているのだ。
アメリカとキューバの関係が改善されて国交が回復し、今年3月にオバマ大統領がハバナを訪れたことは記憶に新しい。この時、アリシア・アロンソはラウル・カストロともにオバマ大統領を迎えた。この雪解けによって、米国とキューバの間に直行便も飛ぶようになったし、キューバと外国のバレエ界の交流もより活発になることだろう。今の街並みも、いつかはスターバックスやH&Mが立ち並ぶようになるのかもしれない。
アリシア・アロンソがすっと背筋を伸ばし、高いヒールのある靴を履いて踊るシーンがあるなど、彼女の健在ぶりには驚かされる。今でも、お守り代わりに必ずポワントを一足持ち歩いているそうだ。キューバから亡命したダンサーたちは、キューバ国立バレエは古典演目しか踊らず現代作品を踊ることができないために外に出たと語っていることが多い。アリシア・アロンソが表舞台を去る日もいつかは来るはずだが、キューバのバレエはこれからどう変わっていくことだろうか。古き良きキューバの街並みの映像を見ながら、考えさせられた。
キューバの今をとらえた美しい映像、ふんだんに挿入されたリハーサルシーン、そして貴重なアリシア・アロンソの踊る姿と教える姿。バレエ、そしてキューバに関心がある方にはぜひ観ていただきたい、素敵な映画です。
2016年11月12日(土)より
角川シネマ新宿
東京都写真美術館ホール
2017年1月予定
テアトル梅田 [大阪]
ほか順次全国ロードショー
ドキュメンタリー映画
「ホライズン」
(原題"Horizontes")
監督:アイリーン・ホーファー
出演
アリシア・アロンソ
ヴィエングセイ・ヴァルデス
アマンダ・ペレス、ほか
キューバ国立バレエ団
フェルナンド・アロンソ国立バレエ学校
2015/スイス、キューバ/スペイン語/71分/16:9/©INTERMEZZO FILMS 2015
配給・宣伝:T&Kテレフィルム/協力:dbi、樂画会
後援:駐日キューバ共和国大使館、日本キューバ友好協会
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