フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA が、『CONTACT-コンタクト』 を引っ提げて10月28日~30日、彩の国さいたま芸術劇場で公演を行います。
http://saf.or.jp/arthall/stages/detail/3602
(その前に、10月15日、16日には愛知県芸術劇場、10月22日、23日にはりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館での公演もあります)
(c)Laurent Philippe
過去作品の名場面を集めた『パノラマ』(2014年)の摩訶不思議で夢のような世界が記憶に新しいフィリップ・ドゥクフレのカンパニーDCAが、今度はミュージカルをひっさげ日本上陸!
『CONTACT-コンタクト』は、ゲーテの『ファウスト』にインスパイアされ、20世紀の舞台芸術の巨人ピナ・バウシュ『コンタクトホーフ』へオマージュを捧げたカンパニー最新作です。ライヴ音楽、サーカス、コント、トリッキーな映像、そしてダンスが交錯する、ドゥクフレの“現在”が凝縮されたフレンチ・キャバレー風の摩訶不思議な世界!
アルベールビル・オリンピックの開会式の演出を手掛け、ブロードウェイで上演中のシルク・ドゥ・ソレイユのための新作『Paramour』を演出、来年1月には楳図かずおのSFマンガ「わたしは真悟 」を日本でミュージカル化するなど活躍はとどまることのない鬼才の共同取材に参加しました。
映画、特にミュージカル映画が大好きなフィリップさん、『コンタクト』について、そしてその中でオマージュを捧げられている映画について、熱く語ってくださいました。
『コンタクト』を振付けようと思った一番最初のきっかけについて聞かせてください。
「いくつかありますが、人数を集めて、それぞれが背負っているカルチャーを入れて、作品を作りたいという欲求があったので作りました。出演者は、昔から一緒に仕事をしている人も入っているし、バックグラウンド、年齢、身体の特徴も様々です。ピナ・バウシュが亡くなった直後だったので、彼女へのオマージュという面もあります。ミュージカルというジャンルにしたのは、様々な芸術のミックスであり、喜びをもってミックスできるのが特徴だからです。ミュージカルですが、必ずしも歌えることが出演の条件ではなく、特定の技術を持っている人を選んでみました。14人の出演者のうち11人は歌っていますが、3人はうまくないので、歌わせませんでした(笑)」
この作品には、ダンス、歌、アクロバットなど様々な要素が詰め込まれていますね。
「それらが好きだから入れています。私は自分が観たいと思う作品を作っています。ミュージカルにおける一番素晴らしいマリアージュは歌だと思っています。今回の作品は、すべての音楽はライブとなっています。2人の才能あるミュージシャン、ピエール・ル・ブルジョワとノスフェルが作曲をしているし、演奏もしています。また、今回は音楽を演奏できるダンサーもいてミュージシャンとしての役割も果たしてます。サーカスのアーティストも参加しています。シルクドソレイユで一緒にやった、エアリアルのアーティストもいます。宙を舞うというのを見せたかったので。演技の部分でも純粋な演劇ではなくて、演劇とサーカスが混ざったような部分があります。装置が美しいのですが、 ジャン・ラバスが手がけています」
「装置のインスピレーションの源は、ドイツ表現主義の映画『カリガリ博士 』 です。ミュージカルのそれぞれの場面は映画にインスパイアされています。そこかしこに、好きな映画をレファレンスしています。最初のほうでは、フレッド・アステア、ジーン・ケリーを参照しています。そして、これはわかっていただけると思うのですが、とあるシークエンスは、『ウェストサイド物語 』 を引用しています。また、ブライアン・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス 』 は15歳の時に夢中になって影響を受けていて、その雰囲気を取り入れています。1920年代、30年代のアメリカのミュージカルの振付家であるバスビー・バークレーなどにも影響を受けています」
Photo: Laurent Philippe
今回は、ノスフェルとピエール・ル・ブルジョワというミュージシャンが参加していますが、ノスフェルとの出会いについて教えてください。
「ノスフェルとは6、7年一緒に仕事をしています。『オクトピュス』という作品で初めて一緒に仕事をしました。その時は、音楽を決めないままダンサー数人と仕事をしてて、音楽はそのうちに見つかるのではないかと予感がありました。ある日、女性ダンサーが、シンガーとしてもミュージシャンとしてもすごい才能がある人に出会ったと言って興味を持って、ノスフェルを連れてきてくれたのです」
「このように、コレクティブ・ワークというか、メンバーがアイディアを持ち寄って作品を作っていきます。音楽でも、振付でも、他の人の意見を聞くようにしています」
「今回幸運だったのは、同じスタジオで仕事をすることができたので、作曲と振付を同時に作ることができました。このやり方が良いのは、相互反応で作って行って、上手くいかなかったらすぐにその場で直すことができたからです」
作品の作り方の順序、全体で見せたいものを考えて作るのか、部分ごとに作っているのかどちらでしょうか?
「毎回やり方は違っています。毎回敢えてそのようにしています。今回に関しては、まず執筆するということから始めました。4,5人のグループが週末に田舎に集まって意見交換をしてどういうことをするかを決める作業をして作品プランを作りました。そこで出てきた最初のアイディアが『ファウスト』だったのです。そして、ピナ・バウシュへのオマージュも。メンバーそれぞれの個性や才能を発揮できる様々な人のグループを作りました。しかしいざクリエイションプロセスが始まると、プランというのは吹っ飛んでしまいました。それでももともとのプランにあったいくつかの要素は残りました」
「ベースのメソッドというのはあります。アイディアを出し、それぞれのアイディアに基づいてワークショップを行う、パズルの駒を作る。パズルの駒を組み立てる。今回は、この駒を組み立てるのが難しかったです。それぞれの駒が違っているので、どうやって一つの絵にするかという部分も難しかった」
「実はツアーに出て一年目の時には、ツアー中にもこのパズルをいじっていました。それが舞台作品が生きているという意味です。ツアーに出ているからといって、毎回同じことをしているわけではなく、毎晩違います。やっと組み立てられたときに、主役級のダンサーが靱帯を痛めてしまって踊れなくなってしまって、またいじらなくてはならなくなりました。ただし今回の日本公演では、その人は怪我が治って復帰したので、完成形で観ることができます」
「家族的なカンパニーなので、クリエーションから現在までにダンサーのうち二人が妊娠して出産しました。お腹が大きい状態でも彼女たちは踊りました。女性ダンサーが妊娠中というのは舞台上ではとても興味深い状態です。その状態のダンサーに私はソロを振付けました。人生が変わっていくようにこの作品も変化を経てきました。
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ピナ・バウシュへのオマージュと言いつつ、「ファウスト」にインスパイアされているということが大変興味深いのですが、さらに舞台上は”キャバレー”のイメージがあり、この3つがどのようにつながるのでしょうか?
「この3つの要素の中には、何かしら統一性があると思います。みんなドイツですし。「ファウスト」をテーマにしたのってゲーテだけでなくて、ファウストの本を集めていたら本棚がいっぱいになってしまいました。で、「ファウスト」は私も全部は読み切れていないです(笑) 私が使ったのはジェラール・メルヴィルのフランス語訳なので、かなり古い、詩的で美しい、格調高い訳です。ファウストはたくさん人を殺しますが、私は殺人は一つしか採用していません。自由な脚色で作りました。ファウストというのは神になろうとした人物なのが面白いと思います。永久に満足することがないというのが、私との共通点です」
「まずミュージカルへのオマージュというのを考えました。先ほども話に出た、ブライアン・デ・パルマ監督の映画『ファントム・オブ・パラダイス』 も、「ファウスト」の脚色の一形態です。デ・パルマがあのように自由に「ファウスト」を映画化したのを見て、私も自由に脚色していいんだ、と思ったのです。なので今回の作品は、ファウストが出てくるまで40分もかかるのです。ファウストはずっと舞台にいるわけではなく、一度舞台から消えて戻って来たり、かなり自由な方法で展開していきます。この作品によって「ファウスト」を理解しようとは思わないでほしい。これは物語を伝える作品ではなく、イメージを与えつつ何かしらのセンセーションを人々に覚えてもらう、それによって幸福を感じ、そして現実を一瞬でも忘れてもらえばと思います」
Photo: Laurent Philippe
今回、映画やミュージカルといった様々な要素が入っていますが、少年時代から影響を受けたものは何ですか?
「答えるのが難しいのですが…『コンタクト』の中で私が言っているミュージカルとは、舞台ではなくて映画のことです。ミュージカルは舞台より映画の方が好きなんです。私にとって大切な映画は古い映画、私よりむしろ両親が好きだった映画で、『天井桟敷の人々 』 です。この映画が、私に舞台の世界で仕事をしたいと思わせました。この映画では主人公のバティストに共感し、彼のようになりたいと思ってこの職業を選びました。私の兄がピエール・フランソワという、登場人物と同じ名前がついているので、それだけ母がこの映画に入れ込んでいたということです。私の名前も危うくバティストになるところでした(笑)」
サーカスの学校に通われていたのも、大道芸に関心を持っていたからですか?
「『天井桟敷の人々』はサルティン・バンコや大衆芸能にオマージュを捧げている作品なので、こういうものも広い意味での舞台芸術であるということを教えてくれました。ただ、子どものころ家にサーカスのポスターがあったので、それを見ながら、それはどんなものだろうと想像力を働かせていました。その影響が大きかったと思います。
Photo: Laurent Philippe
「空間の魔術師」という肩書がついていますが、今回の空間美術についてのこだわり、美術家への注文は?
「今回は全部斜めの線にこだわっています。舞台というのは通常直角線、垂直線で作っています。今回は床は水平ですが、装置の線が全部斜めになっているんです。空間をゆがめる、たわめるという意図があります。また、他の作品でも取っている手法ですが、ビデオを使ってディテールを大写しするという効果をつかっています。今起こっていることをアンプ役として増幅させて見せるために、ライブのカメラを使っています。装置が今回大掛かりですが、常に斜めの線というのが一つのテーマになっています。
今回の日本ツアーでは、愛知、新潟、さいたまと巡回しますが、その間に変化していく可能性はありますか?
「ベースの部分、構造は変わらないと思います。ただ今回は音楽がライブで、ミリ単位で決め込んで作曲はされていないので、その点での変化は出てくると思います。すべて作曲され振付けられているとはいえ、音楽やダンスには少し即興の部分があるので、2回全く同じ公演というのは存在しません。様々な要素が入っていて複雑な作品ですが、今回はツアーも3年目なので、こうしたら面白い、上手くいくというような構造は完成形として固定化して完成形に近づきつつあります」
「自分のカンパニーでこれだけ多くの人数で公演を行うのは今回が初めてです。見ごたえのあるすべての要素を入れてみました。ダンスあり、音楽あり、演劇的な要素あり、空中芸含めたサーカスあり、ビデオ使いあり、多様なものが詰め込まれています。なので、お子さんからお年を召した方まで、どなたでも楽しめます。ぜひ来てください!」
★公演インフォメーション
日時
2016年10月28日(金) 開演19:00
29日(土) 開演15:00
30日(日) 開演15:00
※開場は開演の30分前です。
※演出の都合により、開演時間に遅れますとご予約席への案内ができない場合がございます。
予めご了承ください。
上演時間 約100分(途中休憩なし)
会場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出・振付 フィリップ・ドゥクフレ
出演 カンパニーDCA
主催 公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
チケット:S席一般6,500円、U25(25歳以下)3,500円、A席一般4,000円、U25(25歳以下)2,000円
問い合わせ:SAFチケットセンター 0570-064-939(彩の国さいたま芸術劇場休館日を除く10:00~19:00)
オンラインチケット予約 http://www.ticket.ne.jp/saf/
国内ツアー
【愛知公演】
2016年10月15日(土)、10月16日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
http://aichitriennale.jp/
問い合わせ:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局 052-971-6111
【新潟公演】
2016年10月22日(土)、10月23日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
http://www.ticket.ne.jp/ryutopiaticket/
★フィリップ・ドゥクフレ2作品 スペシャルセット券の発売が急遽決定!
9月24日(土)10:00~ ※なくなり次第販売終了
『CONTACT-コンタクト』×『わたしは真悟』 S席セット券 16,000円
(CONTACT:定価6,500円⇒6,000円、わたしは真悟:定価10,800円⇒10,000円)
【チケット取扱い】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日10:00~18:00、土10:00~13:00/日祝休み)
※お電話のみでの受付。
http://hpot.jp/topics/#topics7016
『わたしは真悟』公演詳細
▼原作:楳図かずお『わたしは真悟』(小学館刊)
▼演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ
▼日時:2017年1月8日-26日
▼会場:新国立劇場 中劇場
▼料金:S席10,800円
▼公演URL:http://www.watashingo.com/
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お茶目なフィリップ・ドゥクフレさんは、東京で映画『シン・ゴジラ』を観に行ったそうです。
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