映画「ハートビート」High Strung
元マリインスキー・バレエのキーナン・カンパが主演した映画「ハートビート」を観てきました。
ニューヨーク。プロのバレエダンサーになるために上京してきたルビーは、ある日、生活の為に地下鉄で演奏するイギリス人バイオリニストのジョニーと出会う。二人は徐々に惹かれ合っていくが、自分が思い描くようなダンスが出来ないルビーは、ルームメイトのジャジーと共に、奨学金の資格剥奪のピンチに直面する。一方、ジョニーは大切なバイオリンを盗まれた上、グリーンカード詐欺に遭い、不法滞在で強制送還の危機に陥ってしまう。崖っぷちの二人は、ヒップホップダンスチーム“スイッチ・ステップス”を誘い、お互いの夢を叶える為、“弦楽器&ダンスコンクール”に出場することになるが・・・。
ストーリー展開としては、ご都合主義のところもあるのだけど、この映画はダンスシーンをきちんと作っていて、出演しているダンサーも一流のダンサーばかりだったので、ダンスシーンが本格的でとても見ごたえがあった。バレエ好き、ダンス好きの方なら間違いなく楽しめる作品だと思う。中でも素晴らしい出来だと思ったのは、序盤のニューヨークの地下鉄の駅でのダンスバトル。ここは完全にヒップホップチームの対決なのだけど、撮影もダンスもぐいぐい迫ってくる迫力があってカット割りも上手い。ギャングか工事の作業員か?というイイ顔をした人たちが、いきなりキレキレのダンスをし始めて周囲も巻き込まれていくのだ。振付もとてもスタイリッシュ。地下鉄の駅でこんな撮影ができるというのもさすがニューヨーク。普段ストリートダンスはあまり見慣れていなくても、これを見るとやはり凄い人は凄い、と思う。
そのほか、セレブレティを集めた上品な資金集めパーティがセクシーなタンゴからいきなりヴァイオリン対決となり、ウェイターを務めていたストリートダンサーたちも乱入するところもスリリングだったし、クライマックスのコンクールのシーンも、ヴァイオリンとクラシックバレエのクールさに、熱いストリートダンスが巧みにマッシュアップされていた。
バレエのシーンも本格的で、キーナン・カンパはマリインスキー・バレエでコリフェとして活躍し、「ドン・キホーテ」では主演もしているほどなのでクラシック・バレエの技術は折り紙付き。ソノヤ・ミズノも、ロイヤル・バレエスクール出身でドレスデン・バレエ、スコティッシュ・バレエで踊っていたプロ。さらに、バレエ学校のシーンはルーマニア国立バレエで撮影されているので、レッスンのシーンで踊っているのは全員プロのダンサー。当時ルーマニア国立バレエのプリンシパルだった日高世菜さんが華麗なグランフェッテを見せるところもしっかり映っている。コンクールのシーンでも、出場者の中にルーマニア国立バレエのプリンシパル、ロバート・エナシェがいて踊っていた。
ヒップホップダンサーも、アメリカン・ダンスアイドルに出演していたダンサーや、66万人もYouTubeチャンネルに登録しているイアン・イーストウッド、B-Boyの伝説的な存在であるFlipzといった有名どころを“スイッチ・ステップス”のメンバーとして揃えているので、本格的なダンスを見せてくれる。
キーナン・カンパ演じるルビーの名前の由来は、バランシンの「ジュエルズ」から母親が名付けたという設定。アイリッシュ・パブで盛り上がったルビーたちがテーブルの上で踊るのは、「白鳥の湖」の四羽の小さな白鳥の踊り(アイリッシュアレンジ)で、こんなシーンでもしっかりとダンサーたちはクラシカルに踊っている。ルビーが、クラシック・バレエは得意だけどコンテンポラリーダンスが苦手なため、奨学金を打ち切られる危機に瀕するという設定はなかなか説得力があるし、コンテが苦手な彼女がヒップホップとの共演に挑戦するという逆説的な展開が面白い。
コンテンポラリーダンスのクラスの教師を演じるのは、自身もかつてバレエを学んでいた往年の名女優ジェーン・シーモアで、彼女が製作総指揮を務めている。共同脚本のジャニーン・ダミアンも元プロのバレエダンサーでミシシッピ・バレエ・シアターでプリンシパルを務めていたというので、バレエ関連の設定はとてもしっかりと作られている印象。序盤、ニューヨークに到着したルビーがタクシーの窓からから見上げると、ナショナル・バレエ・オブ・カナダのプリンシパル、ユルギータ・ドロニナが大写しになったゲイナー・ミンデンのポスターがあるというところからも、雰囲気作りが達者だ。
ヒロインのキーナン・カンパは踊りとプロポーションは美しいもののキャラクターがちょっと弱いというか、予想通りの行動をする感じだけど、それはやはり映画出演一本目で演技に不慣れなところがあるからだろう。その分、「エクス・マキナ」のAIキョウコ役で一言も話さないものの強烈な存在感があったソノヤ・ミズノは、演じたジャジーが跳ねっ返りのキャラクターということもあったけど魅力的だった。ルビーと恋に落ちるヴァイオリン奏者ジョニー役のニコラス・ガリツィンは憂いのある美青年で、これから人気が出そう。登場シーンからして上半身裸でヴァイオリンを弾いてしまうのだから憎い。ロシア人バレエ教師クラムロフスキー役のポールフリーマン(ナチスの強制収容所帰りという設定)も、こんな先生いるよね、というイメージでいい演技を見せてくれた。
アカデミックな教育を受けていないジョニーが、コンクールでエリート学校の優等生に勝てるのか、とか、彼がグリーンカード詐欺の捜査で足止めを食らってギリギリまで来ないけど間に合う、といったお約束の展開や突っ込みどころはあるけれども、とにかくダンスとダンサーが素晴らしいので、観ていてとても楽しめる。深く考えなくて、スカッとする爽快なダンス映画を観たい人にはお勧め。
監督マイケル・ダミアン
ルビー・アダムス キーナン・カンパ
ジョニー・ブラックウェル ニコラス・ガリツィン
ジャジー ソノヤ・ミズノ
オクサナ ジェーン・シーモア
クラムロフスキー ポール・フリーマン
原題 High Strung
製作年 2016年
製作国 アメリカ・ルーマニア合作
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コメント
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製作は2015(BSプ番組情報がミス?),公開は2016年(IMDb)では
字幕翻訳者の情報が欲しい!
投稿: Kitapes | 2019/12/19 15:02