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2016/05/30

5/28 江口・宮アーカイヴ「プロメテの火」

「プロメテの火」

1950年初演で50年ほど上演が途絶えていた作品が、2011年の一部上演に続き金井芙三枝氏らにより復元された。伊福部昭の音楽によるもので、今回主演は首藤康之と中村恩恵。

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「プロメテの火」は、伊福部と日本現代舞踊の礎を築いた舞踊家の江口隆哉が共同制作したもので、上田仁指揮の東宝交響楽団(現、東京交響楽団)により、帝国劇場(東京)で1950年に初演された。人間に火を与えたとされるギリシャ神話のプロメテウスの物語を題材に、人間の悩みや苦しみと希望を描いた作品で、戦後の混迷期にあった当時の日本人を勇気づけたといわれる。迫力ある美しい群舞などが大きな反響を呼び、川端康成の長編小説『舞姫』にも公演の様子が描かれている。1960年までの間に全国で100回近く上演されたが、その後は再演が途絶えていた。

オーケストラの総譜は長年行方不明になっていたため、伊福部ファンの間では、「幻の作品」とされてきた同作品であるが、2009年に江口の関係者によってスコアが発見され、2011年以降、江口の門下生や研究者らによって、再演に向けた準備が進められてきた。(日本コロムビア)http://tower.jp/article/feature_item/2013/12/05/1102

「プロメテの火」上演に先立ち、金井芙三枝氏によるトークがあり、大変興味深いものだった。

2011年の5月の第3景の上演の際には、昔の江口・宮の生徒たちが注文を付けた上演となったそうだが、今回は、記録から解き放ち、自由に踊られたとのことである。

1960年までの間に全国で100回近く上演されたが、1960年からは舞台上で火を使うことが消防法により不可能となってしまった。江口は本物の火を使って松明を持ち、髪を焦がしたり、スリリングな上演だった。その後一回だけ、偽物の松明を使ったものの、江口は「もうこの作品は踊れない」と言ったとのこと。その後小道具の技術が進歩して、ドイツで開発された装置を使うことで本物に近い松明を再現できるようになったため、再演ができるようになった。

伊福部昭は、「プロメテの火」以外にも「日本の太鼓の獅子踊り」などいくつも舞踊用の音楽を作曲している。今までは、作曲家と振付家が同時にクリエーションを行ったということになっていたようだが、実際には、江口は理論家だったため先に踊りを創り、それに見合った音楽を作曲してほしいと伊福部に依頼したそうだ。伊福部は苦労し、必死になって曲を作った。上記の通り、2009年にスコアが発見され、東京交響楽団によって演奏会上演された。

上演されていた当時は、舞台装置の転換に時間がかかったため、間奏曲が長く、第4景「コーカサスの山巓」のところが一番長くなっている。舞台機構も進化したので、舞台転換に時間はかからなくなったものの、間奏曲はほぼそのまま使っている。舞台装置は大掛かりだったので、地方公演を行う時には、江口は2階席の一番後ろに立って装置の指示をした。その位置から見えるギリギリの高さまで、第4景の山巓を高くするためである。

第3景の火の群舞は、帝劇での初演当時は63人、日比谷公会堂での芸術祭参加の時には83名もいたそうだが、2011年の上演では30名、今回は40名となった。初演時はダンサーの技術があまり高くなかったのでたくさん出演させて量で勝負したが(なお、女優の岸田今日子も群舞に出演したことがあったとのこと)、今はテクニックも向上し、ダンサーの手脚も長くなったので40名でも十分見ごたえがある。ただ、「今の人は技術は凄いが心がない、火を手に入れた喜びを見せてほしい」という評も、2011年の時には出た。

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なお、青森県野辺地町出身の江口は、その地に伝わっていた「ささ踊り」を復興させようと熱心に活動した。その成果もあり、現在でもこの「ささ踊り」は踊られており、この地でしかこの踊りは観られない。今年2月に金井氏ら4人が野辺地で実際のささ踊りの取材に行き、「ささ踊り保存会」の50人の踊りを観ることができた。そして今回出演している江口門下の松本直子氏が、この踊りの一部を見せてくれたが、手の独特の繊細な回し方や、足を摺って出すところなどはかなり難しそうだった。これが今は当地では正確に踊られているとのことで、野辺地町の町長さんも会場であいさつに見えた。

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ドイツでマリー・ヴィクマン舞踊学校に学び日本のモダンダンスの始祖となった江口隆哉と宮操子。ビデオ映像などの資料がない時代のものを、門下生の記憶により復元した。1950年の作品の復元ということで、舞踊語彙の少ないところはある。だが、戦後5年しか経っていない時に、音楽もオリジナルで1時間の大作を作り上げたというのは凄いことだ。初演当時の熱気も伝わってきた。スケール感の大きな伊福部の音楽(やはり彼が作曲した怪獣映画の音楽を連想させる)、40人もの群舞で力強く展開するスペクタクルで見応えがあった。

第一景は、火を持たない人間たちによる闇の中の混沌としたプリミティブな踊り。重心の低い、いかにもモダンダンス的な動き。やはり今のダンサーたちはプロポーションも向上していて美しく、動きもそれにふさわしくアップデートした部分を感じられた。その中で白いドレスをまとった清らかな少女イオ役の中村恩恵さんの動きがエレガントで美しい。しかし彼女は、牛の姿に変えられてしまう。耳と尻尾をつけた中村さんが思いのほか愛らしい。

第2景は、火を盗んだプロメテの8分にわたる長いソロが中心。首藤康之さんは、江口隆哉の動きを相当よく研究したのだと思われ、残された写真にもよく似ている。バレエとは異なった、やはり重心は低く表現主義的な動き、ゆっくりしているけどその分しっかりとしたキープ力が必要。江口隆哉は歌舞伎の動きからもかなり影響を受けているとのことだが、盗み出した火の松明を掲げて長くポーズする姿は圧巻だった。

火を手に入れて歓喜する人々の40人もの群舞からなる第3景は一大スペクタクル。新国立劇場の中劇場の舞台狭しとダンスが繰り広げられ、6人の男性ダンサーたちによる跳躍が繰り返される動きも大迫力。第4景「コーカサスの山巓」は、火を盗んだことをとがめられ、山巓の岩に鎖で縛りつけられ、黒鷲についばまれるプロメテの姿を描く。そこへ通りかかる牛に変えられたイオと、プロメテの邂逅。言葉はなくとも視線を交わすと心は通じ合い、プロメテに希望をもたらす。そしてそのプロメテを崇める地上の人々が集ってくる。血を流しぼろぼろに痛めつけられるプロメテの首藤さんは、被虐美よりも崇高さを感じさせ、奇妙な牛の姿をしながらも清らかで美しい中村さんと交わす視線と、両手を広げた佇まいが心に残った。プロメテを痛めつける黒鷲の男性ダンサーたちにもう少し力強さが欲しかった感はある。

なお、11/12に、第2景、第3景のみの抜粋版の再演が今回と同じ新国立劇場中劇場で予定されている。佐々木大主演、今回も参加している坂本秀子舞踊団による上演。

乗越たかおさんによる首藤康之さんのインタビュー記事。
http://ebravo.jp/archives/25687

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なお、第一部では、宮操子「春を踏む」(坂本秀子)、江口隆哉「スカラ座のまり使い」(木原浩太)、宮操子「タンゴ」(中村恩恵)の上演もピアノの伴奏つきであった。ピンクのドレスが風をはらむ「春を踏む」、ユーモラスでジャグリングの要素を含む「スカラ座のまり使い」、そして中村恩恵さんの強くカリスマ性たっぷりの「タンゴ」と、それぞれとても興味深く面白い作品だった。

ダンスへの熱い想い、戦争による破壊から立ち上がる強い意志と希望を伝える「プロメテの火」。先人による意欲的でスケールの大きな作品が再演されたのは素晴らしいことだと感じた。

『プロメテの火』
原案 菊岡久利
構成・振付  江口隆哉・宮 操子
音楽  伊福部 昭
使用曲「プロメテの火」舞踊作品用特別版
演奏 東京交響楽団   指揮:広上淳一
録音 日本コロムビア株式会社

装置・衣装原案 河野国夫
美術・衣装・特殊効果 江頭良年
芸術監督・演出 金井芙三枝
演出助手 中田 杏  内田和子
ダンスミストレス 坂本秀子 吉垣恵美  松本直子
坂本秀子舞踊団
日本女子体育大学モダンダンス部

1950年初演 於:帝国劇場
1951年芸術祭参加公演(於:日比谷公会堂)により芸術祭奨励賞受賞

伊福部昭:舞踊音楽《プロメテの火》伊福部昭:舞踊音楽《プロメテの火》
広上淳一指揮、東京交響楽団

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