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« ジョン・ノイマイヤーのプレトーク | トップページ | ジュリー・ケントがワシントン・バレエの芸術監督に就任 »

2016/03/08

3/4、6 ハンブルグ・バレエ「リリオム」

「リリオム―回転木馬」  Liliom Ballet Legend by John Neumeier
─ プロローグ付き全7場のジョン・ノイマイヤーによるバレエ伝説 ─

ロジャーズ/ハマースタインのブロードウェイ・ミュージカルの名作『回転木馬』の原作となった、フェレンツ・モルナールの戯曲をバレエ化したジョン・ノイマイヤーの『リリオム』。

http://www.nbs.or.jp/stages/2016/hamburg/lilio%EF%BD%8D.html

http://www.hamburgballett.de/e/_liliom.htm

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1930年代の大恐慌時代。遊園地の客引きリリオムは、水兵にからまれたジュリーを助けたことから恋に落ち、ふたりはともに暮らし始める。雇い主で愛人でもあったマダム・ムシュカートに解雇されたふたりの生活は苦しく、また互いに気持ちを素直に伝えられない。リリオムは些細なことでジュリーを殴ってしまうが、彼女が子を宿していることを知ると未来に希望を抱く。しかしリリオムは悪人フィスカーにそそのかされて盗みを働き、失敗すると絶望して自殺する。
あの世で裁かれたリリオムは、煉獄にとどめ置かれる。16年後、束の間、地上に戻ることを許されたリリオムは、天国の星を土産に成長した息子のルイスに会う。しかし自分そっくりに荒ぶれた息子から拒絶され、失望と怒りから彼は息子を殴る。そこにジュリーが現れ、リリオムの気配を、そして彼の愛を感じ取る。


リリオム:カーステン・ユング

ジュリー:アリーナ・コジョカル(ゲスト・ダンサー)

ルイス:アレッシュ・マルティネス

風船を持った男:サシャ・リーヴァ

マダム・ムシュカート:アンナ・ラウデール

マリー:レスリー・ヘイルマン

ウルフ:コンスタンティン・ツェリコフ

フィスカー:ダリオ・フランコーニ

水兵:キーラン・ウェスト

天国の門番:エドウィン・レヴァツォフ

内気な青年:アリオシャ・レンツ

悲しいピエロ:ロイド・リギンズ

エルマー:エマニュエル・アムシャステギ

幼少時のルイス:ヨゼフ・マルキーニ


指揮:ジュール・バックリー

演奏:北ドイツ放送協会ビッグバンド、および録音音源


ミシェル・ルグランがオリジナル・スコアを作曲し、2011年12月に初演されたノイマイヤーの作品は、映画にもなった「回転木馬」と同じ原作を基にしたもの。今回のキャストは、マダム・ムシュカート役のアンナ・ポリカルポヴァが引退した他はオリジナル初演キャストとほぼ同じ。オーケストラは入っていないものの、北ドイツ放送協会ビッグバンドが舞台奥、遊園地のセットの上に配置されてスイングジャズの演奏を聴かせてくれた。時に録音テープのクラシックな響きの音楽と、生き生きとしたビッグバンドのジャズが融合する。この音楽の使い分けで、登場人物の心理も描写されていく。クラシカルなライトモチーフのメロディの切ない美しさは、いつまでも耳に残った。

死んで16年後、地上に戻ることを許されたリリオムが息子に会うところから始まり、ジュリーとの出会いの回想シーンへと戻ることで物語は展開する。ノイマイヤー得意の入れ子構造。ストーリーテリングと場面転換、モチーフの使い方の巧みさは流石ノイマイヤー・マジックというべきものだけど、あざとさや小難しさは一瞬も感じさせず、シンプルに語られていく。

風船を持った白塗りの長身の男が、現世とあの世をつなぐ存在として静かに現れ、片脚をあげたポーズで静止したり、ゆっくりとスローモーションのように歩いていく。彼の持っているカラフルな風船が、リリオムの死の時には真っ白になったり、リリオムに天国の星を渡したり、まるで守護天使のようだ。煉獄から地上にリリオムが戻った時も、最初は風船男の影に隠れている。天に輝く星たちは、あの世から人々の営みを見守っている魂のようだった。

愛が死を越えて、向こうの世界からこちらへと受け継がれていくことを描いた作品。そして、どんなに愛が深くても、心が通じ合わないことがある深い悲しみも。リリオムは心優しい男性のはずなのだけど、乱暴者で愛を伝えることに不器用で、愛するジュリーも行き違いから思わず殴ってしまう。職を失ってどうやって妻子を食べさせていいのかわからず、命を失ってしまう。その不器用さは息子ルイスにも受け継がれていく。

作品の舞台は1930年代、大恐慌の後の時代。職安の前での失業者たちのダンスが強烈だ。貧しさと絶望の痛みは現代の貧困にも通じていて胸が痛い。リリオムの死後、シングルマザーとして苦労して息子を育てるジュリー、貧困と暴力の連鎖は続き、16年後の世界にも職を切実に求める失業者たちは街にあふれている。

そんな中でも短くもキラキラと輝くリリオムとジュリーの恋、それを彩る遊園地の回転木馬とカラフルなネオン、ジャズの響き、若い娘たちのダンス。ノイマイヤーのマジックによって、一人一人の登場人物が生きていて、脇に至るまでそれぞれの物語が感じさせてくれる。そしてアンサンブルのダンサーたちも、そのキャラクターにそれぞれの命を吹き込んでいる。ぼろぼろの服に大きすぎる靴、帽子をいつも追いかけている悲しいピエロを演じていたのが、名ダンサーのロイド・リギンス。彼はノイマイヤーの右腕たる副芸術監督で、これから舞台にいる姿をあとどれだけ観られることだろうか。大きな役ではないけれども、彼が演じていることで、作品にさらなる深みが与えられている。

***
『リリオム』は、リリオムとジュリーの物語、リリオムと息子ルイスの物語という二つの関係が軸となっている。時には暴力的なダメ男のリリオムと、純情可憐なジュリーの関係は、DV男と共依存の女という図式にともすればあてはまってしまい、このような男性を同情的に描くことには賛否はあるだろう。リリオムの中に秘められた優しさと、愛する人なのに手を思わず挙げてしまう悲しみを身体現したカーステン・ユングが演じたからこそ、嫌悪感を持たずに済んだと思った。

死んでから16年間、煉獄に留め置かれたリリオムは、空にある窓からじっとジュリーとルイスを見守る。死んで初めて、彼は本当の愛を知った。二人を見つめる表情には、次第に慈愛が満ち溢れるようになった。だけど、煉獄にいる彼は、自分の息子にも、ジュリーにも会えない。天国の門番によって、一日だけ戻ることは許されたけど、それは一日だけのこと。

冒頭、そしてラスト近くに登場する、父と息子のパ・ド・ドゥ。リリオムは息子への想いを伝えるように、万感を込めて踊る。一瞬二人の心は通い合い、ユニゾンでの伸びやかで美しい動きも見られる。息子は、リリオムが自分の父だとわからない。親し気に近づいてくる怪しい男はいったい誰だと思い、キラキラ光る星を渡されても、きれいだと思ってもそれが何なのかわからない。ここで、またリリオムは息子を殴ってしまう…。

そんな二人の再会のシーンに現れたのが、息子を想う母ジュリー。ルイスにはリリオムは見えているようだったけど、ジュリーには彼の姿は見えない。だけど、次第に彼女は彼がいるのを感じるようになってその短い時間を慈しむ。たった一度の、背後からのリリオムとのキス、そして彼は地上からいなくなってしまう。一度戻ってきた彼が再びいなくなってしまった悲しみを抱えつつも、穏やかで満ち足りた微笑みを浮かべてベンチに佇むコジョカルの姿は、深く心に響いた。

アリーナ・コジョカルはこれ以上ないほどのはまり役。幸薄そうで、純情な娘ジュリー。生きていく才覚に乏しく、時には彼女を殴ってしまう刹那的な男のリリオムに従順に従う姿には、男性にとって都合のよい、理想化された女性にも見えてしまう。だけど、ジュリーは強いし、コジョカルが演じることで、彼女の芯の強さと感情の豊かさ、心の襞が見えてくる。

二人の心が少しずつ近づいていくことが感じられる、最初のベンチでのパ・ド・ドゥで恋する気持ちが伝わってくる。リリオムが死んでしまった後、彼の遺体にすがりつき、かき抱くときの激しい慟哭の表現。見知らぬ男に殴られたかのように見えた息子へ駆け寄る姿。コジョカルは、どんな悲しみや苦労をも乗り越えられるような強い愛というものを体現していた。

愛ってなんだろう。死んでしまった後も、心はどのようにこの世に残っていくのだろう。ここにはもういない愛する人の想い出は、どのように受け継がれていくのだろう。この物語は、決して甘いものではなくて、いろんな問いかけを観る者に投げかけ、そして内なる心の傷や想い出を呼び覚ます。愛する人との日々はどれほどかけがえのないものなのか。赦しとは何か。どんなに愛し合っていてもいつかは別れの日は来る。死によって二度と会えなくなった人を、どのように想い続けるか。帰り道、思わず空の星を見上げて、会えなくなった大切な人のことを想って涙し、そして今生きている愛する人のことを思い切り抱きしめたくなる、そんな気持ちにさせられる舞台だった。

****
ほぼオリジナルキャストで、この深く心に残る舞台を観ることができた幸せをかみしめた。この作品は、胸の中に宝物として、大切にしまっておきたい。風船を持った男サーシャ・リヴァの静かながら大きな存在感。息子役アレッシュ・マルティネスの伸びやかな動き。哀しみをにじませた悲しいピエロのロイド・リギンス。長い手脚のグラマラスなマダム・ムシュカート、アンナ・ラウデレ。魅力的なメーンキャストもさることながら、日本人ダンサーもアンサンブルで大活躍していた。風を切るような高いジュッテ・アントルラッセで舞台を一周して印象的だった菅井円加さん、リリオムに絡む姿もキュートで魅力的な石崎双葉さんを始め、ソリストの有井舞耀さん、研修生の平木菜子さんも、遊園地でリリオムに秋波を送る娘たちのなかでも、それぞれが目を引いていた。

引き続き、ガラと「真夏の夜の夢」も楽しみ。

シャルル・ボワイエ主演、フリッツ・ラング監督の映画作品

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