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« 11/26 マリインスキー・バレエ「ジュエルズ」 | トップページ | 年初のテレビ番組放映情報/追記 »

2016/01/02

12/30 シルヴィ・ギエム ファイナル

2015年12月30日(水) 神奈川県民ホール

http://www.nbs.or.jp/stages/2015/guillem_final/

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ついに迎えてしまったシルヴィ・ギエムのファイナル公演。大晦日のジルベスタ―コンサートでの最後の「ボレロ」があるとはいえ、彼女の公演としては、これが最後となった。

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』『ドリーム・タイム』は、「ライフ・イン・プログレス」公演で同じキャストを観ている。

作品を何回も踊ることで、確実にダンサーたちの習熟度は上がっているものの、『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』は、やはりまだ大胆さが足りないように感じられた。それぞれのダンサーは大変優秀で上手いのだが、アンサンブルになると迫力が薄い。その中で、やはり異彩を放っているのが秋元さんで、音の取り方も的確だし、スピード感と不敵さもあって際立って魅力的だった。長身というわけではないのだが、腕が長くて身体に厚みがあるので、見栄えがする。

『ドリーム・タイム』は東洋的な美しさがこのバレエ団、特に吉岡さん、木村さんにはとても良くマッチしていたし、他の3人も健闘。今後カンパニーのレパートリーとして、若いダンサーたちにも踊り継いでほしい作品。

『TWO』
舞台に近い座席から観ると、闇が思ったほど漆黒ではなくて見えすぎるところがあるため、「TWO」の視覚効果もちょっと減ってしまったところがあった。少し離れて見たほうがきれいだっただろう。
初めてこの作品を踊るのを見てから時間が経っているのだが、彼女の変化というのを感じた。表現が、ナイフのような鋭さが息をひそめ、精神性の高さが伝わってきて、高速で動いている時ですら、まるで瞑想しているかのように感じられ、祈りにも似ている踊りとなっていた。もちろん身体能力の衰えは微塵も感じられないし、あの圧倒的に高い足の甲、まっすぐ天を突き刺すかのような6時のポーズも鮮烈だ。光の魔法で腕や脚の動きの残像が美しい軌跡を残す作品なのだが、今回の光の軌跡、とても儚いのだけど魂の光が浮かんでは消えていくようで、感慨深かった。

『ボレロ』
私は実は割とバレエ鑑賞歴が短くて最初にギエムのボレロを観たのってバレンボイム、CSOとの共演が初めてだと思う。2003年のこと。『ボレロ』って、シンプルに見えて、非常に難しいし奥深い作品なのだ。踊っている人の内面を恐ろしいまでに透けて見せる作品なので、いくら完璧な技術で美しく踊っても、語るべき中身のない人の『ボレロ』は恐ろしく空虚だ。それは、海外で、とある人気ダンサーの踊る『ボレロ』を見て実感した。当時のギエムも、もちろん形は美しかったけれども、心に残るものではなかった。

それから彼女の『ボレロ』はかなり変容を遂げていて、2005年の時は民衆を率いる自由の女神のような、周りを鼓舞する強いイメージだった。震災後のHOPE JAPANの時は祈りにも似た、優しくて勇気を与えてくれる踊りで、震災で傷ついた日本の人々に、私がついているから大丈夫、生きていていいのよ、希望を持っていこうというメッセージを内包していた。

今回は、もっと等身大というか、観客の方に降りてきたシルヴィだった。凄いのはもちろん凄いし、女王の風格も相変わらずなのだが、ひとりの普通の女性らしさがある。リズムのダンサー一人一人に、強い視線を送っていて、その強い視線が、そのダンサーの後ろで舞台を観ている自分にまで届いていて、メッセージを伝えようとしていたのがありありと見えた。いろんなことを若いダンサーたちに伝えていこうとしてるんだな、と思うとものすごく胸が熱くなった。そしてリズムのダンサーに語りかけていたように、観客の一人一人にも語りかけていて、同じ目線の高さで話しているようだった。「私が踊るのはもう最後だけど、後は頼みました、あなたたちに任せるので大丈夫よ」と慈愛に満ちた表情で。観客への惜しみない愛情も感じられて、それを思うとあふれる涙を抑えられなくなった。彼女は100年に一度の天才で大スターで女神様だけど、同時に一人の人間でもあり、同じ高さで接してくれる、私たちの間のスターなのだ。

そのシルヴィの姿は、『Bye』の中に登場するシルヴィとオーバーラップした。普通の年齢相応の女性だけど、靴とカーディガン脱ぐと踊りは凄くって奔放で美しくて強くて、でも最後にはまた靴を履いてカーディガン着て、扉の向こうの市井の人々の中に紛れて消えていく。それからも彼女の人生は続いていくけれども。

『ボレロ』が終わってカーテンコール、満ち足りた表情のシルヴィの笑顔が眩しいけど、涙も光っていた。そして、一度緞帳が下りると、「Bye」にも使われたベートーヴェンのピアノソナタが流れ、ホリゾントには、今までのシルヴィの踊った作品、バレエ学校時代の「二羽の鳩」から始まり、ヌレエフと踊った「白鳥の湖」、「マノン」、「ルナ」、「シシィ」、「ラシーヌ・キュービック」、「バクティ」、「眠れる森の美女」のオーロラ、オディール、「田園の出来事」、「マルグリットとアルマン」、ル=リッシュとの「椿姫」、「聖なる怪物たち」、「エオンナガタ」、エックの「カルメン」、そして「Bye」の写真が流れて行った。最後は、愛犬と戯れるシルヴィの素敵な笑顔の写真。入り口で来場者に配られたペンライトが客席で振られ、映像に見入っているギエムの後ろ姿は、体を震わせて泣いているかのようだった。客席から数えきれない数の花束が渡され、その花束は『ボレロ』のお盆の前に積み上げられる。東京バレエ団のメンバーが一人一人花を捧げに行った。このあたりの演出は、非常にうまくて、シルヴィにとっても、観客にとっても、とても心に残るフェアウェルとなった。

4演目、あっという間に終わってしまった。終わらないでほしいと思ったけど、すべてのものにはいつか終わりが来るもの。まだ最高の踊りを見せることができるうちに引退をすることを決めたシルヴィの決断は、私たちにとっては悲しいことだけど、彼女にとっては幸せなものだったと思う。自分で辞める時期を決めることができて、思い通りの幕引きをできたのだから。私は彼女の熱心なファンではなかったけれども、やはり芸術に対する真摯な姿勢、常に前進していく姿、ファンを大事にする様子、誠実さ、そしてもちろん50歳まで完璧な踊りを見せることができる高いプロ意識と強い意志。天才の影には、人には見せないけれどもとてつもない努力と芸術への献身があったことだろう。これほどの凄い女性ダンサーは100人に一人だったと言っても過言ではないし、その鮮烈な生き方は心の底から尊敬する。舞台にも映し出されていたけれども、これからの彼女の人生も素晴らしいものであることを祈らずにはいられない。きっと凄いことを成し遂げるのではないかと思う。

そしてこんなにも素晴らしいアーティストと同じ時代に生きることができたのは、自分も幸せだったのだと思う。最後の踊りも見届けることができたことも幸せだった。

(ところで、休憩時間にホワイエで、少しお太りになったニコライ・ツィスカリーゼを目撃。彼はシルヴィ・ギエムの大ファンらしい。まもなくワガノワ・アカデミーの来日公演が行われるので一足先に来ていたのだろうか)


『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』−東京バレエ団初演−
[振付]ウィリアム・フォーサイス
[音楽]トム・ウィレムス(レスリー・スタックとの共同制作)
[演出・照明・衣裳]ウィリアム・フォーサイス
[振付指導]キャサリン・ベネッツ
川島麻実子、渡辺理恵、秋元康臣
河合眞里、崔美実、高橋慈生、伝田陽美、松野乃知、吉川留衣

『TWO』
[振付]ラッセル・マリファント [音楽]アンディ・カウトン
[照明デザイン]マイケル・ハルズ
シルヴィ・ギエム

『ドリーム・タイム』
[振付・演出 ]イリ・キリアン [振付助手]エルケ・シェパース
[音楽]武満徹 オーケストラのための「夢の時」(1981)
[装置デザイン・衣裳デザイン]ジョン・F・マクファーレン
[照明デザイン]イリ・キリアン(コンセプト)、ヨープ・カボルト(製作)
[技術監督・装置照明改訂]ケース・チェッベス
吉岡美佳、乾友子、小川ふみ
木村和夫、梅澤紘貴

『ボレロ』
[振付]モーリス・ベジャール [音楽]モーリス・ラヴェル
シルヴィ・ギエム
森川茉央、杉山優一、永田雄大、岸本秀雄

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