11/10 大前光市公演「わたしのブレイクスルー」
NHKの番組「ブレイクスルー File.38 “唯一無二”になる ―ダンサー・大前光市―」で取り上げられていた大前光市さんの公演&トーク「わたしのブレイクスルー」に行ってきました。
http://taichokouen.blogspot.jp/
以前このブログでもご紹介した通り、大前さんはオーディションを受ける前日、23歳の時に、酔っ払い運転の自動車に轢かれて左脚を失いました。脚を失って絶望の淵にいた大前さんでしたが、4か月後には再び踊ることを目指します。踊ることができるようになるために、初心者に交じってのバレエだけでなく、武術など様々なものを学びます。素晴らしい師匠との出会い、仲間たちの出会いもあって、大前さんは再び前を向いて、自分にしかできないダンスを求めて精進を続けています。
会場は練馬区桜台にある小さ目の多目的スペースで、客席はぎっしり、熱気がこもっています。客席に段差がないので、足元が見づらかったことだけがちょっと残念でした。
まずは「Gift」というソロでスタート。種から芽が出て花を咲かせるようすを見せた作品とのことで、大前さんの腕の柔らかい動きに目が引きつけられました。
司会は、番組にも登場したアーティスト集団Alphactのメンバー金刺わたるさん。このようなことは初めてとのことでしたが、親しい仲間ならではのスムーズな進行で、非常にいい雰囲気を作り上げていました。
番組でも紹介されてきた大前さんの足跡をたどりながら、番組には出てこなかった裏話も披露されます。Alphactのメンバーたちに出会った時には、武術のワークショップだったのですが大前さんは当時会社員だったのでスーツを着ていたそうです。番組の中でも印象的だった、フライパンから生のブロッコリーを食べる場面。ここでも、大前さんは生のブロッコリーを食べるところを見せてくれました。
今までダンスを続けていられたのは、支えてくれる人たちがいたから。大前さんがダンサーになることを反対しながら、亡くなる前には、信じた道を進んで行けと励ましてくれた父。NHKで大前さんの番組が放送されるときには、町中に知らせて回り、町内放送でも番組放映のお知らせが流れて有名人になったという母。骨肉腫で23歳で亡くなった、踊ることが大好きだった娘さんの姿を重ねながら、彼を指導し、「カナリア」という脚を失ったカナリアを描いた作品を振付けた師匠の佐藤典子さん。大前さんが脚を失ったのも、奇しくも23歳の時のことでした。
金刺わたるさんとはデュオ作品も披露されます。男性同士のパ・ド・ドゥということで、官能的な雰囲気も漂っていて非常に美しいです。
第4回 Dance Creation Award 2014で審査員特別賞を受賞した『目覚めよと叫ぶ声が聞える』も披露してくれました。明るくポジティブなエネルギーを与えてくれる作品で、ヒップホップの要素なども含まれています。ひざ下から失った左脚を、そのままの長さで使っており、両脚の長さが違う中でのバランスのとり方も凄いですし、540を入れたりの回転技、身体能力の高さにも驚かされますが、なによりも表現したいという強くい気持ちが胸に痛いほど伝わってきます。ここまで踊れるようになるのに、どれほどの努力をされてきたのでしょうか。
http://www.kk-video.co.jp/concours/akita/032/akitakomachi.shtml
質疑応答タイムもありました。このような大変な逆境の中でどうやって力を振り絞っていったのですか、と質問されて大前さんは、バーベルが重いほど、それを持ち上げようとする力が出てくるものだと答えていました。義足は、今は20種類も持っていて、足がついているものだとバレエの動きのようにつま先を伸ばして使えないので、足のついていないものを踊るときには使っています。実際使っている義足をいくつか持ってきてくれました。番組の中でも出てきましたが、ピエロの役を演じる時には、実際の自分の脚よりも長い義足を使い、義足の脚を軸にして踊るなんてこともしていました。とにかく、片脚がないことを生かして、彼にしかできない独特の表現を見せてくれているのです。
最後に、番組でリハーサルシーンが流れた、新国立劇場バレエ団のマイレン・トレウバエフ振付の「SWAN」が踊られました。音楽は「瀕死の白鳥」やチャイコフスキーの「白鳥の湖」を使っているわけではないのですが、男性版スワンソロのある意味決定版かもしれません。苦悩したり暗黒面に落ちようとしながらも力強く飛び立とうとする白鳥でした。大前さんの持ち前の非常に柔らかく美しい腕の動き、強いバランス感覚と軸が感じられて素晴らしかったです。この作品はぜひ、大きな会場でも見てみたいと思いました。
とても暖かい雰囲気の中で行われたトークとダンス。熱いハートが伝わってきて、美しい踊りからは希望を与えてもらった気がします。脚が一本でこんなに素敵なパフォーマンスを見せられるなんて。大前さんは非常に気さくでチャーミングな方でした。来場者にはチロルチョコレートのプレゼントもありました。関西が活動の拠点ではありますが、東京でもバレエのワークショップを開いているとのことです。(ワークショップの情報はブログにて)
大前さんのブログ
http://ameblo.jp/shinka0927/
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