9/12 アロリー・ゴエルジェ &アントワンヌ・ドゥフォール『GERMINAL ー ジェルミナル』
横浜を舞台にしているダンスフェスティバル、Dance Dance Dance@Yokohamaのプログラムの一環として上演された「ジェルミナル」。2012年のリヨン・ダンスビエンナーレで初演された作品なのだけど、いわゆる「ダンス」ではない。だけど、カテゴライズに囚われない、非常にユニークな作品だった。いわば「脳みそのダンス」というべき作品。
http://dance-yokohama.jp/eventprogram/germinal/
会場:KAAT神奈川劇術劇場 <大スタジオ>
コンセプト:アロリー・ゴエルジェ&アントワンヌ・ドゥフォール
出演:ジャン-バティスト・ドラノワ、アロリー・ゴエルジェ、
ドゥニ・ロベール、ベアトリッツ・セティヤン・エレギー
(少しですがネタバレがあるのでこれからご覧になる方はご注意ください。観る前には事前に情報を極力仕入れない方が楽しめるかと思います)
暗闇から始まる。明るくなると、がらんとした舞台上の空間には3人の男性と1人の女性、計4人のパフォーマー。最初彼らは言葉を発さず、一人一人が操作盤を持っていて、セリフは字幕のように上部の2枚のスクリーンに映り、その文字で彼らは会話を交わす。そのうち操作盤を使わなくても、会話はスクリーンに映るようになることがわかる。しかし、4人が同時に会話すると、スクリーンに文字が映りきらなかったり、誰が発したセリフなのかがわからなくなったり。セリフの主を識別する方法を彼らは見つけ、そしてやがて、一人の人物が、他の人物の代わりに声を出して話すことができるようになり、さらに一人一人が話しできるように会話術を獲得していく。歌まで歌えるようになるし、日本語を話す人も。彼らが人間として、真っさrな状態から、コミュニケーション術を徐々に身につけてきている様子が寓話的に表現されている。
舞台上に穴を開けた人がいて、そこからマイク、そしてエレキギターが登場。マイクをたたいて「ポクポク」という音がするかしないかで、彼らは自分たちの小宇宙にあるあらゆるものをカテゴライズしようとする。カテゴライズに困った彼らは、ぐちゃぐちゃになった状況を解決すべく、初めて外部と接触し、アウトソーサーのコールセンターに電話する。「スターターパック」を推奨するオペレーター。そこで繰り広げられる、禅問答のような、時に科学的で哲学的な会話の数々の可笑しいことといったら!オペレーターの指示に従ってマニュアルを取り出して操作すると、コンピューターの壁紙のようなスクリーンが幕に映し出される…。
文明の起源、人類の進化、果ては宇宙の起源まで至る壮大な話なのに、四人の男女は、そんな壮大な世界観の中で、ミニマルな閉じた空間でまったりと終わらない日常を生きているのが面白い。メンバー間で恋愛が芽生えることもなければ大きな喧嘩もなく関係性は変化しない。まるでコンピューターゲームのキャラクターのようであるし、ロールプレイングゲームのようでもある。
哲学的なテーマと壮大な世界観がある作品なのに、大上段に構えずわかりやすくて、それでいて奇想天外な発想があちこちに登場する。セリフも大変多い作品であるのだけど、字幕やスクリーン上の表示がとても効果的なため、フランス語での上演であるにもかかわらず、手に取るようによくわかる。これは、字幕を担当した岡見さえさんの功績も大きい。観ている間、客席からは笑い声が絶えないほどの人を食ったようなユーモラスなやり取りがテンポよく続く。一見、特に大掛かりなセットもない簡素な舞台のようなのに、この舞台装置にも意外なアイディアが凝らされていて、驚きに満ちている。最後の収斂の巧みさには思わず舌を巻いた。
ダイジェスト動画
GERMINAL - TEASER ENGLISH SUBS from amicale de production on Vimeo.
これだけ刺激的で面白い舞台を観る機会はそうそうめったにあるものではない。
作・演出のアロリー・ゴエルジェによれば、初演の当日、劇場に観に来た劇場プログラムディレクターや批評家たちから、“この作品はこれから公演ツアーの申し込みが殺到するようになるだろう”と言われたとのこと。それも納得できるほどの、魅力的な作品だ。9月13日までだけど、初日を観た人の評判もありソールドアウト。チケットを買えた人は本当にラッキーだと思う。
アロリー・ゴエルジェの「ジェルミナル」についてのインタビュー記事
http://allabout.co.jp/gm/gc/458162/
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