遅くなりましたが、Bプロの感想です。8月9日と13日の2回観ていて、キャストや演目に変更がありました。
http://www.nbs.or.jp/stages/2015/wbf/
指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:フレデリック・ヴァイセ=クニッテル (「ノー・マンズ・ランド」、「椿姫」)
チェロ:遠藤真理、ハープ:田中資子(「瀕死の白鳥」)
出演:矢島まい[東京バレエ団](「こうもり」)
第1部
「ディアナとアクテオン」
振付:アグリッピーナ・ワガノワ/音楽:チェーザレ・プーニ
ヴィエングセイ・ヴァルデス オシール・グネーオ
トップバッターとして客席を暖める役割を十分に果たしてくれた。ヴァルデスは、得意の長いバランスだけでなく、ここではグラン・フェッテでも魅せてくれた。一回4回転も入ったように見えたし、うまく説明できないのだけど腕の動きがまさに矢を繰り出すような感じで、今まで見たことがないようなものだった。後半は「ドン・キホーテ」でも見せた、両腕をア・ラ・スゴンドに広げて腕の力を使わないでの回転。最後のサポート付きピルエットでは、サポートを外しても回り続けるというスーパーテクニックを披露。技術がとてつもなく高いのに、気品を失っていなくてディアナらしさを見せてくれた。グネーオはやはりピルエットが凄い。速度も形も完璧にコントロールしていて、ピルエットのフィニッシュで足をアラベスクさせたりしている。また、片足をクー・ド・ピエの位置に下げてピルエットを続けるというのも難易度が高い。グネーオは褐色の肌が美しく、アクティオンの露出度の高い衣装も非常によく似合っていてまるでサラブレッドのようだった。
「シナトラ組曲」より"ワン・フォー・マイ・ベイビー"
振付:トワイラ・サープ/音楽:フランク・シナトラ
イーゴリ・ゼレンスキー
「シナトラ組曲」は私はマルセロ・ゴメスが踊っている印象が強いのだが、ゼレンスキーは大人の魅力。長身でプロポーションが良いのでタキシードがとてもよく似合う。オリジナルのミーシャと比較すると物足りないし、少し地味ではあるのだが、味わい深くスタイリッシュで素敵なソロだった。大スターなのにカーテンコールではちょっと恥ずかしそうにしているところも魅力的。
「ペール・ギュント」
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:アルフレット・シュニトケ
アンナ・ラウデール エドウィン・レヴァツォフ
ノイマイヤー版の「ペール・ギュント」は未見。音楽は、グリュックではなく、ノイマイヤーがシュニトケに依頼したものとのこと。赤いオーバーオールのペール・ギュント(レヴァツォフ)、ピンクのヴェールで髪を覆ったソルヴェイ、おそらくここは最後に彼が息絶えるラストシーン。足場のようなセットが組まれ、レヴァツォフの手の上にラウデールが乗るという難しいリフトが登場する。全編で観たらとても面白い作品のように思えるけど、この一シーンを切り取って見せるのは少し難しかったかもしれない。レヴァツォフは非常に背が高くハンサムだが、少し背中が硬そうだ。ラウデールも長身で手脚が細長く美しい。
「悲しみのエチュード」より 4つのダンス (8月9日のみ)
振付マルセロ・ゴメス/音楽:フレデリック・ショパン
マルセロ・ゴメス
ゴメスはこの日の朝に日本に到着したとのことで、ヴィシニョーワと合わせる時間がなかったため、代わりに特別にこの日だけソロを踊った。ある意味、この日に来た人はラッキーだったと言える。朝に到着したばかりで、4曲もソロを踊ってしまう彼の体力に驚かされるとともに、彼の音楽性の豊かさも改めて実感。
「ライモンダ」より 幻想のアダージオ
振付:マリウス・プティパ/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ウリヤーナ・ロパートキナ ダニーラ・コルスンツェフ
二幕の幻想のシーンから。派手なところは一切ないけれども、どのシーンを切り取っても美しいことこの上ない、ロパートキナの動きは一切のよどみがなく流れるように滑らかで美の体現。ひたすらサポートに徹しているコルスンツェフの騎士ぶり、彼のサポートがあるからこそ、ロパートキナの完璧な美が実現するのだということも実感する。マントのたなびかせ方も見事。この二人が主演した「ライモンダ」が観たい。
「椿姫」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン
マリア・アイシュヴァルト マライン・ラドマーカー (9日)
マリア・アイシュヴァルト アレクサンドル・リアブコ (13日)
マラインのアルマンは、デュマ・フィスの原作に出てくるアルマンそのもの。まっすぐで向こう見ずで、火傷しそうなほど情熱的で未熟。マルグリットにからかわれ、身をかわされてばったりと倒れこむところから、身を投げ出し足元にすがりつくところまで、完璧にアルマン。ノイマイヤー独特の複雑なリフトも流れるよう。年齢を重ねてもいつまでも初々しくて、病と老いにおびえていたマルグリットが心を許し希望を持ち始めるのも、思わず納得してしまう。また彼が踊る「椿姫」全幕を観たい。
残念ながら、2公演終わったところでマラインが膝を痛めたとのことで降板し、代役にアレクサンドル・リアブコ。アルマンを踊っているバレエフェス出演者はたくさんいたけれど、ノイマイヤーのカンパニーの、ベスト・アルマンが代役になってくれたのは良かった。リアブコは本当は決して若くないのに、とても初々しくて素直でストレートなアルマンを好演。急な代役で、初めて組むアイシュヴァルト相手だったのにリフトもとてもスムーズで、演技の呼吸もぴったり。恋に落ちた、優しいけど激しさも秘めた青年として非常にドラマティックに演じてくれた。
アイシュヴァルトは、シュツットガルト・バレエではあまりマルグリット役を踊っていないのに、それでもこれだけの完成度の高い、細やかな演技を見せてくれた。艶やかさの中に病の苦しみや不安を抱え、そんな中でも、こんな私だけど恋してもいいかもしれないと心が解けていく様子を見せてくれた。鏡の中のやつれた表情とは対照的な、アルマンに向ける華やかな艶笑の対比。スカートの裾がアルマンの顔にかかってしまうところを、よけてあげるなどの気配りも見せる。本当にバレエ界の至宝のような彼女を手放してしまって、シュツットガルト・バレエは何を考えているのか、と思ってしまう。(ミラノ・スカラ座へのゲスト出演を中心に、まだまだ頑張ってくれているのはうれしいが)
第2部
「眠れる森の美女」
振付:ルドルフ・ヌレエフ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
リュドミラ・コノヴァロワ マチアス・エイマン
ミリアム・ウルド=ブラムが怪我のために降板してしまい、ウィーン国立バレエのリュドミラ・コノヴァロワが代役。急な代役で、しかもウィーン国立バレエの「眠れる森の美女」はヌレエフ版ではなく、ピーター・ライト版なので大変だったのではないかと思う。しかし、ヌレエフ版「くるみ割り人形」のDVDで主演しているだけあって、コノヴァロワはう初々しさはないけれど実力派でテクニックが強い。ヌレエフ版の振付ってやはり非常に難しくて、王子のコーダなども、アン・ドゥダンのピルエットの連続て鬼、と思ったけどこれを難なく踊ることができるのは流石マチアス。ヴァリエーションのマネージュも足先まできれいに伸びてスピード感があって美しかった。
「ノー・マンズ・ランド」
振付:リアム・スカーレット/音楽:フランツ・リスト
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー
第一次世界大戦100周年を記念したENBのトリピルビル「Lest We Forget」の中のリアム・スカーレット振付作品。新しい振付家の作品が少ないこのガラで、スカーレット作品を取り上げてくれたのはよかった。
粗末な服に身を包んだコジョカルの後ろから、上半身裸のコボーが登場する。二人は目を合わすことはなくて、最初、コジョカルは彼の存在に気が付いていないようである。おそらくコボーは、戦争に行ったきり帰ってこなくて、死んでしまった恋人の幻なのだ。まるで、「ジゼル」の2幕のウィリとなったジゼルのように。二人のパ・ド・ドゥは複雑で高度なリフトが中心の激しいもので、コジョカルの強靭さと柔軟性には目を見張らされる。彼女の深くて激しい悲しみ、強い想いが伝わってきて、見ているうちに涙がにじんでくる。やがて彼女は彼の存在に気が付き、ここでやっとお互いの姿を目で捉える。しかし彼はまた舞台の後ろへと後ずさって消えていき、一人取り残される彼女。カーテンコールでは、コジョカルの目にも涙が光っていた。
振付を通して物語を語ることができるスカーレットの才能、表現者としてのコジョカルの圧倒的な力。この日の舞台の中でも、トップクラスのものだった。見事な作品であり、やはり非常に評価が高く英国ダンスアワードも受賞したアクラム・カーンの「Dust」と合わせて、このトリプルビルを観たいと強く思った。ENB、招聘してくれないでしょうかね。特に、戦争のことが他人事ではなくなった今の時代だからこそ、観られるべき作品なのだと思う。
「海賊」
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
サラ・ラム ワディム・ムンタギロフ
サラ・ラムの紫のチュチュは、タチアナ・テレホワに贈られたものだそう。お姫様度の高いメドーラだったけど、技術的なレベルは非常に高くて、グランフェッテも正確で、ダブルも入れながら安定していて美しかった。ムンタギロフのアリは、やはりアリを演じるには気品があってあまり奴隷らしくはないものの、長身であるにもかかわらずのスプリット跳躍、柔らかい着地、ダイナミックなマネージュで素晴らしい。ENBの「海賊」のDVDでは彼はコンラッド役なので本来の持ち味はそっちなのかもしれないけれど、正統派クラシックバレエを魅せてくれた。
「ヴァーティゴ」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ/音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
ディアナ・ヴィシニョーワ マルセロ・ゴメス
これは、シュツットガルト・バレエなどでもよく上演されている「カジミールの色」を改題して振付を少し変えて、衣装も変えたものだった。元の衣装は、マレーヴィッチの作品にインスパイアされた辛子色のものだったけど、今回は二人とも黒になったので、ずいぶんとシャープな雰囲気に仕上がった。そして、ヴィシニョーワの強靭で柔軟な動きをもってすると、やはり全く違った作品に見えてくる。猛獣使いのようなマルセロのサポートもお見事だけど、彼の魅力はヴィシニョーワの強烈さに食われている感じもする。ストーリー性はないのに実に雄弁でダイナミックで面白い。
Diana Vishneva / Marcelo Gomes / Vertigo from Dianavishnevaofficial on Vimeo .
「ギリシャの踊り」
振付:モーリス・ベジャール/音楽:ミキス・テオドラキス
オスカー・シャコン
オスカー・シャコンは実に美しいダンサー。褐色の肌、ウェーブのかかった長めの髪、引き締まって野性的で美しい肉体。この作品自体は少し古く感じられるところもあるけれど、でもやはりベジャールのダンサーが踊るベジャールというのは別格であり、よいアクセントになったと思う。ギリシャ的な音楽に寄り添うような音楽性が素敵で、若く美しい男性を讃える賛歌となっていた。
第3部
「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ヤーナ・サレンコ スティーヴン・マックレー
サレンコはマクミラン版ジュリエットは初役のはずだが、9月に始まるロイヤル・バレエの新シーズンでこの二人はペアを組む。マックレーのロミオはスピード感とキレがあってソロは本当に素晴らしく、ロミオのはやる気持ちが伝わってくる。サレンコは非常にうまいのだけど、ジュリエットを演じるには少し妖艶すぎたかもしれない。そしてやはりこの作品に取り組むのが初めてなので、パートナーリングは今一歩。特に、ロミオが跪いた状態でジュリエットをリフトするところは、もっと思いっきり持ち上げてほしいところだ。そしてもう少しマクミランらしい、オフバランス的な大胆さを見せてほしかった。二人の胸の高まりも伝わってこなくて、マクミランのロミオとジュリエットを観た感じはあまりせず。
「伝説」
振付:ジョン・クランコ/音楽:ヘンリク・ヴィエニャフスキ
アリシア・アマトリアン フリーデマン・フォーゲル
映画「愛と喝采の日々」でマリシア・ハイデとリチャード・クラガンが踊っていることで知られる作品。物語は特にないが、クランコ作品らしいダイナミックなリフトが見所。白い衣装でさらに華奢さが目立つアマトリアンの美しいパ・ド・ブレ、歌うような柔軟性と詩情が素敵で、リフトされた時の姿勢も美しく身体能力の高さをうかがわせる。フォーゲルは、「オネーギン」の時はリフト不調だったけど、ここでは、片手リフトなどは非常に良かった。彼はストーリーのないバレエの方がずっと良い。でもアマトリアンの音楽性豊かで繊細な踊りの印象の方が強い。
「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン
タマラ・ロホ アルバン・レンドルフ
この二人には「椿姫」は合わないというのが、多くの観客の意見だろう。豊満なタマラは、病人メイクをしたところでやはり病で命の火が今にも消えそうなマルグリットには似合わないし、繊細さにも欠けるので熱演すればするほど空回りしてしまう。まるでダース・ベーダーのような登場シーンの姿一つとっても、違和感があった。アルバン・レンドルフは、実は「椿姫」のアルマン役でブノワ賞を受賞しているのだが、ブノワ賞の選定基準は、彼のケースを除いても謎が多いのだ。彼はプロポーションが良くなくて、背が低い、脚が太い、顔も大き目なので、美青年が演じるアルマンを見慣れている日本の観客にとってはとてもつらい。タマラとのパートナーリングも良くなくて、3回続けてリフトするところでは、うまく持ち上がらず、息が上がっているのは上階の観客にも聞こえていたようだ。フレデリック・ヴァイセ=クニッテルのピアノも、ショパンのバラード1番という難曲にはかなり手こずっているようでミスタッチが目立った。レンドルフはテクニックはあるダンサーなので、もう少し別の演目で踊ればよかったのに、と思う。
「レ・ブルジョワ」
振付:ベン・ファン・コーウェンベルク /音楽:ジャック・ブレル
ダニール・シムキン
シムキンの「レ・ブルジョワ」なんてもう見飽きた、と思わないこともないけれども、さすがに演じ方については、だいぶ大人っぽくなったと感じられた。ダニールのお父さんのドミトリー・シムキンがこの作品の初演ダンサーなので、きっとお父さんにも特訓されたのだろう。今までは中学生が粋がっているようだったけど、20代の青年、眼鏡をかけているのでハリーポッターにも似ているけど成人には見えてきた。テクニックは相変わらず見事で、最後は2つ連続540を決めてくれた。でも、2003年の世界バレエフェスティバルでこの作品をかっこよく粋に踊ったフィリップ・バランキエヴィッチのことが懐かしくなってしまう。
「オールド・マン・アンド・ミー」 (8月9日のみ)
振付:ハンス・ファン・マーネン/音楽:J.J.ケイル、イーゴリ・ストラヴィンスキー、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ
9日は、マルセロ・ゴメスとヴィシニョーワが合わせる時間がなかったので、Aプロと同じ演目。この作品、好きなので何回観られても良いのだが。前半のベンチの上でセクシーに身をくねらせるヴィシニョーワ、浮かぬ顔のマラーホフから転じて、「空気人形」のユーモラスなやり取り。そして最後の、モーツァルト23番をバックにベンチを媒介にし、フラッシュバックする光の中で近づいてみてはすれ違い、最後の誰もいないベンチでの切ない余韻と、味わい深い作品だ。
「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ
オレリー・デュポン エルヴェ・モロー
エルヴェが「トゥゲザー・アローン」で負傷したために、実現しなかったオーレリーとエルヴェの「マノン」が、一部だけとはいえ東京で観られる贅沢。
手紙を書いているエルヴェ・モローの憂いに満ちた横顔の美しいこと。一途で情熱的な演技、長い脚で描くアラベスクはエレガントで長い腕の包容力もあり、理想的なデ・グリューだった。オーレリーも衣装がよく似合って非常に美しいのだけど、マノンを演じるには、ファム・ファタル性というか愛らしさの中にある魔性があまり感じられず、9日に観た時には少々クールさを感じてしまったのだが、彼女の理知的な美貌もそう感じさせてしまったのかもしれない。が、これがおそらく最後の二人で踊る「マノン」だった13日には、クライマックスに向けての気持ちの高まり愛を感じて、これが二人の「マノン」の見納めかと切ない気持ちになった。
第4部
「シンデレラ」
振付:ウラジーミル・マラーホフ/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ヤーナ・サレンコ ウラジーミル・マラーホフ
サレンコは今回、毎回2演目を踊って大活躍。こちらの「シンデレラ」もアダージオだけだったが、「ロミオとジュリエット」よりこちらのキラキラ輝くシンデレラがサレンコには似合っていた。マラーホフは持ち上げ係。ノースリーブでタイツには縦のラインが入っている異色の王子衣装だけど、マラーホフは少し体を絞っていて、まだ王子衣装が似合うと実感した。そしてシンデレラに向ける暖かい愛情が感じられて胸が熱くなった。彼の王子姿もこれで見納めなのかもしれない。
「瀕死の白鳥」
振付:ミハイル・フォーキン/音楽:カミーユ・サン=サーンス
ウリヤーナ・ロパートキナ
ロパートキナの十八番だけど、何回観ても毎回、違った感動と高い精神性を感じさせてくれる見事なパフォーマンス。床を滑るような滑らかなパドブレ。腕の動きは大きくゆったりとしていて、関節などどこにもないように見えるほど。白鳥という生き物ではなくて白鳥の精なのだろう、この動きは人間どころか鳥や動物にも見えないほどの静かな波のようなたおやかさ。そのエレガントな中でも、白鳥は生きるために戦っているし、強い気持ちで抗っている。ついに力尽きる時ですらも、凛としていて誇り高い。何回観ても、この短い時間の中で生と死のドラマを違った形で見せてくれる。
「シルヴィア」
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:レオ・ドリーブ
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ
シルヴィアとアミンタが年月を経て再会したシーン。スーツケースを下げたシルヴィア、二人ともすでに若くない。再会の戸惑いから始まり、かつての情熱を少しずつ取り戻すふたり。ノイマイヤーの作品は好きだけど、「シルヴィア」に出てくるフレックスの足先の多用や、ちょっと奇妙な感じの振付は私の好みではない。しかし、アッツオーニ、リアブコとノイマイヤー作品最大の伝道師である二人がこれを踊ると、この不思議な動きにも物語性が感じられて、二人の心境をこまやかに、的確に伝えてくれるのだ。愛を確かめ合ったものの、二人は再び別れてしまう運命。だけど、最後に去っていくアミンタをシルヴィアが捕まえるところで、深い愛を二人は感じさせてくれて、思わずじわ~と涙がにじんでくる。なんという素晴らしいペアだろう。
「こうもり」よりパ・ド・ドゥ
振付:ローラン・プティ/音楽:ヨハン・シュトラウス2世
イザベル・ゲラン マニュエル・ルグリ
実はウィーン国立バレエの沖縄公演も観に行っていて、ルグリの美しい高速シェネや鮮やかなステップを堪能してきたのだが、ベラ役にイザベル・ゲランを迎えてさらにパワーアップ。ルグリのウルリックには、ユーモラスな中にもエレガンスがある。好演したメイド役の矢島さんや、ゲランとの掛け合いは、セリフが聞こえてくるようだし、ベラが着替えている間の、ディアゴナルに進んでいくピルエットがどれもキレがあって美しい。相変わらず惚れ惚れするような足先で、まだまだ現役感がある。ゲランは、最初の白い服の時の欲求不満気味の演技は可愛らしく、そして変身した後の圧倒的な脚線美には驚かされた。プロポーションが今も美しいのは、Aプロの「フェアウェル・ワルツ」でもわかったけど、脚を完全に露出した状態での、すらりとしているだけでなく色気もたっぷりあって、それだけで語る脚というのは流石だ。その脚の動かし方のニュアンスも、プティ作品ならではのコケットリーがあってたまならい。今回の世界バレエフェスティバルの最大の収穫が、ゲランの復帰であることは、多くの観客も同意することだろう。
「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス
マリーヤ・アレクサンドロワ ウラディスラフ・ラントラートフ
お祭りガラならではのお遊びと愛情に満ちた、とても楽しい「ドン・キホーテ」。隙あらばマーシャにキスしてしまうラントラートフ。アダージオが終わってレベランスする前に、手を取ろうとすると、「その前にキスしてよ」と甘えるマーシャ。舞台袖に捌けていくときも、アティチュードで可愛くポーズしてからジュッテで去って行ってサービス満点。観客とのコミュニケーションもたっぷりとってくれた。アダージオでの片手リフトは、マーシャは片脚をルティレの位置まで上げていて、よりダイナミックさが増して見栄えがした。去年の来日公演では、まだ怪我から完全復帰していなかった彼女はグラン・フェッテしなくてピケで代用したけど、今回はしっかりと32回転決めてくれた。カーテンコールでは2人ともジュッテで飛び出し、二人の間の駆け引きややり取りもユーモラスで楽しかった。誰もが彼らのことを大好きになったことだろう。
Bプロの方が、古典と現代作品の演目のバランスが取れていて、より楽しめる良いプログラムになっていたように感じた。ノイマイヤー作品が4演目というのは、賛否が分かれるところもあるかもしれないが。今のコジョカルの最良の部分を伝えた、気鋭のリアム・スカーレット「ノーマンズ・ランド」、ノイマイヤーの神髄「シルヴィア」、ベテランの魅力が発揮された「こうもり」、至高のロパートキナ2作品と名演が続いた。
カーテンコール映像
VIDEO
最近のコメント