昨年、一昨年と行けなかった「バレエ・アステラス」に久しぶりに行ってきました。
指揮:デヴィッド・ガルフォース
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
『シンフォニエッタ』
振付:牧阿佐美
音楽:C.グノー
新国立劇場バレエ研修所
第11期生(阿部裕恵、髙橋依吹、廣川みくり、廣田奈々、中島瑞生)
第12期生(赤井綾乃、杉山澄華、関 優奈、丸山さくら、渡邊拓朗)
予科生 (羽石彩乃)
ひざ下丈のドレスを着た研修生のみなさんは体型も揃っていてプロポーション良く美しいけれど、これと言って突出した人はいなかったように思えた。男子2人は背も高めで今後が楽しみ。しかし作品は面白くなく、ダンサーの良さをアピールするものでもなかった。
『ラ・シルフィード』
パ・ド・ドゥ振付:A.ブルノンヴィル
上山榛名・塚本士朗(貞松・浜田バレエ団)
2人とも健闘していて、特に塚本さんは前半は足捌きもきれいで良かったと思う。照明と衣装の色が保護色になってしまっていて見えにくいところもあった。
『グラン・パ・クラシック』
振付:V.グゾフスキー
フォガティみこ(インディアナ・バレエ・コンサヴァトリー)
ノア・ロング(元カナダ国立バレエ団)
「ファースト・ポジション」で有名になったミコさんも18歳となり、来シーズンにはバーミンガム・ロイヤル・バレエに入団する。すっかり大人っぽくなって、少し肉付きも良くなった。バランスのキープ力はあるしグランフェッテは安定していて美しく、テクニックはしっかりしているのだけど、いろんなコンクールを総なめにしていた頃のキラキラ感が少し失われていたのは残念。ノア・ロングは2009年にはエリック・ブルーンプライズに出場していてパートナーのエレーナ・ロブサノワ(現在プリンシパル)は受賞していたのだけど、彼はバレエ団を退団して「ビリー・エリオット」の全米ツアーで青年ビリーを演じていたとのこと。まだ20代なのに、すでに現役を引退しているようでもったいない。
『白鳥の湖』第2幕アダージォ
振付:プティパ/L.イワーノフ
奥野 凜、ロベルト・エナケ(ブカレスト国立歌劇場バレエ団)
当初は「ディアナとアクティオン」の予定だったのが演目変更。「ディアナとアクティオン」の方で観たかった。「白鳥の湖」の2幕は、あまりガラ向きの演目ではないし、男性ダンサーの踊りが観られないし。奥野さんはプロポーションに恵まれて大変美しい人。繊細でたおやかな白鳥で、しっかりとアンドゥオールしていてラインの美しさが感じられてた。ロベルト・エナケは、「アリーナ・コジョカル・ドリームプロジェクト」に出演した時は”ロバート・エナシェ”という表記だったので、どっちが正しいのだろうか。サポートが上手でよく息が合っていたし立ち姿も王子らしくて素敵だった。
『幻想~白鳥の湖のように~』クレアとアレクサンダーのパ・ド・ドゥ
振付:J.ノイマイヤー
河野舞衣、ジェイムズ・リトル(バイエルン国立歌劇場ミュンヘンバレエ団)
ノイマイヤーの「幻想~白鳥の湖のように~」からのパ・ド・ドゥが日本人ダンサーで観られるなんて、素晴らしい。主人公ではなく、主人公の友人カップルの、幸福感に満ちたパ・ド・ドゥ。DVDではシルヴィア・アッツオーニとアレクサンドル・リアブコが踊っている。河野さんは、表情が繊細かつ豊かで、それも顔の表情だけではなく、体全体から歓びがにじみ出ていてとても素敵。恋人たちの語らいの場面であるのに、ノイマイヤーらしくリフトもたくさん登場して大変な作品だけど、軽やかでとても愛らしい。パートナーのジェイムズ・リトルもこの複雑なパートナーリングを見事にこなしていた。
『ドン・キホーテ』第3幕グラン・パ・ド・ドゥ
振付:M.プティパ / A.ゴルスキー
木村優里・井澤 駿(新国立劇場バレエ団)
今シーズン、主役にもたくさん抜擢されていて大活躍していた井澤さん。彼は長身で見栄えがする容姿と相俟ってスター性があるのだけど、特に上半身が硬いきらいがあった。でもバジルは、そんな彼の欠点が目立たず、スタイリッシュに決めていて華やかで良かった。木村優里さんは、研修所卒業してからすぐに「白鳥の湖」のルースカヤを踊り、来シーズンも「くるみ割り人形」の主役に予定されており、ソリスト入団で大変期待されている。背が高くて顔も小さくプロポーションに恵まれている。しかし、良くなかった。まず、右脚がアンドゥオールしていないという致命的な欠点がある。このアンドゥオールできていないのは、グランフェッテの時に上げる脚の位置が開いていなくて、変なところで脚が上がってはロンドゥジャンブしているという結果に結びつく。いくらトリプルをたくさんグランフェッテに入れていても、それでは興ざめである。また、音に合っておらず動きの流れが良くないうえ、手の使い方にも癖がある。客席は非常に沸いていたが、これではとても拍手できない。入団してしっかりこれらの問題点を修正してもらいたい。
『シンデレラ』グラン・パ・ド・ドゥ
振付:鈴木稔
林ゆりえ(スターダンサーズ・バレエ団)・木下嘉人
やはりプロのバレエ団で真ん中を踊ってきた人の踊りは安心する、と林ゆりえさんの踊りを観て思った。「シンデレラ」のこのシーンは派手さはないけれど、そんな中でも彼女には華やかさがあって目を惹きつけられる。木下さんはライプチヒ・バレエなどで踊ってきて来シーズン新国立劇場バレエ団に入団する。経歴からしてもコンテンポラリーの方が得意そうだが、着地もきれいで古典もしっかりしている。
『パリの炎』パ・ド・ドゥ
振付:V.ワイノーネン
多久田さやか(ロシア国立バレエモスクワ)
清瀧千晴(牧阿佐美バレヱ団)
多久田さやかさんは、コンクール入賞歴も華やかで、結構ベテランだと思っていたのに若手ダンサーちゅうしんのこのガラに出るんだ、と少し驚いた。でもロシアで活躍しているだけあって、非常に技術的に強くて跳躍も高い。清瀧さんは、「パリの炎」というよりはもっとノーブルな印象の強いダンサーだし、今回も派手に決める、ということはしていなくてエレガントだったが、クリアな動き、ふわっとしたジャンプ、足音のしないきれいな着地で素晴らしかった。日本で活躍している男性ダンサーの中ではピカイチの一人だと思う。
『海賊』奴隷のパ・ド・ドゥ
振付:M.プティパ
日髙世菜、吉田周平(ブカレスト国立歌劇場バレエ団)
幕が開いたら、吉田周平さんが口髭をつけていたので少々笑ってしまったけれども、奴隷商人らしいあくどくてユーモラスな演技をしっかりしていて、役になりきっていたのは好感度が高い(この役を踊ったのは初めてとのこと)。日高さんは長身で手足がとても長く、衣装から見えるお腹も腹筋がくっきり割れていて実に恵まれたプロポーション。その長い手足を綺麗にコントロールしていて、ダイナミックでしなやかで美しい。吉田さんはランケデム役ならではの、深いプリエに降りてからの跳躍が非常に高くて柔らかさもあって素晴らしい。日高さんが長身なのでサポートは少し大変そうだったけど、息は合っていたし、二人とも魅せるツボを心得ているので非常に楽しかった。カーテンコールまでしっかりと役になりきっていて、この日一番のパフォーマンス。
『海賊』グラン・パ・ド・ドゥ
振付:M.プティパ
齊藤 耀、三木雄馬(谷桃子バレエ団)
改めて、三木雄馬さんの美男子ぶりに目を見張った。日本人の男性ダンサーでこんなに美形な人がいるとは。奴隷姿も良く似合う。踊りの方は、前半は力強くダイナミックで良かったけど後半少し失速。齊藤 耀さんは調子が悪かったのか、グランフェッテの途中でトウをついてしまってそのまま終了してしまった。
『アルルの女』より抜粋 振付:R.プティ
菅野茉里奈、ウェイ・ワン(ベルリン国立バレエ)
菅野さん、ウェイ・ワンとも表現力に非常に優れていて、ドラマティックだった。菅野さんは、一途にフレデリを想うヴィヴェットの悲しみ、苦悩を愛らしくも切なく演じていた。そしてウェイ・ワンは、愛する女が目に前にいながらもアルルの女の幻に取りつかれて正気を失い、ついには死へとダイブしてしまう男の心の変遷、細かい心境の変化をまるでセリフが聞こえてくるかのように表現。身体のキレもとても良くて、その動きからも物語が伝わってくる。ファランドールの音楽が高揚していくとともに、狂気も増していって、大きく目を見開いてためらうことなく飛び降りる跳躍も美しかった。彼はベルリンではまだコール・ド・バレエだけど、中国国立バレエではプリンシパルだったようだ。菅野さん、ウェイ・ワンとも容姿にも恵まれていて、このような物語が良く似合う。
「バレエ・アステラス」はもともと、海外で活躍するダンサーを見せるという目的のあるガラだったのだが、昨年より、海外のバレエ学校がゲスト出演するという当初の趣向がなくなってしまい、その分、日本で踊るダンサーも出演するようになった。この変更によって、コンセプトがずれてしまったように感じられる。海外バレエ学校の交流というのも大事な要素だったのだが。そして、海外で踊るダンサーと日本で踊るダンサーを並べての公演だと、どうしても、海外で踊っているダンサーたちの方がずっと表現として優れたものを見せているというのがよくわかってしまう。唯一、清滝千晴さんは、日本で踊っているダンサーでもこれだけ素晴らしいというところを見せてくれたのだが。(彼も、ボリショイバレエ学校に留学し、また文化庁新進芸術家海外研修員としてボリショイなどで研修をしていた)
予算の都合などもあって元のコンセプトに戻すのは難しいのかもしれないけれど、日本で踊るダンサーや、ダンサーの卵たちが、海外で踊るダンサーたちに刺激を受けて、芸術性を磨いてくれることを願うばかりである。
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