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2015/02/10

『ディアギレフ・バレエ年代記 1909ー1929』セルゲイ・グリゴリエフ 著

『ディアギレフ・バレエ年代記 1909ー1929』

セルゲイ・グリゴリエフ 著
薄井憲二 監訳、森瑠衣子 ほか訳

http://www.heibonsha.co.jp/book/b178293.html

セルゲイ・ディアギレフのバレエ・リュスの設立当初から、ディアギレフが1929年に亡くなるまで、舞台監督として、そして彼の右腕として彼を支えたのがセルゲイ・グリゴリエフ。ディアギレフの前を多くのダンサーや振付家、スタッフが来ては通り過ぎて行ったが、最初から最後まで彼のところにいたのは、唯一グリゴリエフだった。

作品の構想、振付、リハーサル、舞台化、宣伝、興行とすべてにかかわっていてすべてを知り尽くしている彼ならではの逸話の数々をここで読むことができる。

マリインスキー劇場のキャラクターダンサーだった彼が、友人のミハイル・フォーキンの紹介でディアギレフに出会ったのが1909年。前の年にディアギレフがパリでのオペラ「ボリス・ゴドノフ」を成功させ、今度はバレエも含めたプログラムをパリで上演しようという時だった。ディアギレフのアパルトマンで関係者を集めて開かれた「ディアギレフ委員会」のくだりからワクワクさせられる。

第一回のバレエ・リュスのパリ公演が成功裏に終わった時、グリゴリエフは、「このパリの出来事はお伽噺だった、夢だったんだ、二度目はないのだ」と思いつつディアギレフと別れたという。しかし、それは、バレエの歴史、アートの歴史を変えた20年間の始まりだったのだ。

ディアギレフは天才的な興行師であり、また新しいものを先取りしたり、様々な分野の芸術を合せて新しい芸術を作り上げる素晴らしい才覚を持っていた。その一方で、あまりにも先進的なところがあったり、独断的なところもあって彼についていけない人たちも出てくる。芸術家同士なので、エゴのぶつかり合いもある。特定のダンサーを偏愛したことで軋轢も生まれた。

バレエ・リュスは最初はフォーキンのエキゾチックな作品が人気を呼んだが、やがてディアギレフは、フォーキンの作品は古いと感じるようになり、ニジンスキーの斬新さに魅かれるようになる。結果的にフォーキンはバレエ・リュスを去る。ニジンスキーは、ロモラと結婚したことでディアギレフを激怒させ、バレエ・リュスを解雇される。その後にディアギレフのお気に入りとなったレオニード・マシーンにしても、振付家、ダンサーとして大成したもののやはり後にディアギレフに追われる。ディアギレフの作品を美術面で支えたブノワやバクストにしても、ディアギレフとのちに決裂している。特に振付家が去った後、次の振付家を探すのには、ディアギレフも、グリゴリエフも大変苦労をした。

このように、ディアギレフは魅力的な人物ではあるものの、決して一筋縄ではいかず難しい面も多々あったのだが、グリゴリエフは一貫として彼を支え続けた。芸術的に妥協することを決してしないディアギレフは、それぞれのプロダクションに湯水のようにお金を注ぎ、観客動員には成功しても財政は常に火の車であったし、赤字のかたに衣装や舞台装置を差し押さえられたり、劇場を確保するのにも苦労した。人間関係も複雑怪奇で、様々な足の引っ張り合いがあった。そういった裏方の仕事を一手に引き受けたのがグリゴリエフである。

しかし、このように想像を絶する苦労を重ねたグリゴリエフなのだが、この本の中には彼の泣き言はほとんどない。淡々と仕事をこなし、そして様々な労苦にしても、終わってみればまるで学園祭がずっと続いていて本当に楽しかった、革命を起こすことができて幸せだった、という思いが伝わってくる。特に誰に肩入れすることもなく、公平な観点で見ていたのがわかるし、エゴイストでなかったことが、これだけ長い期間、バレエ・リュスを支え続けることができた理由だろう。ビザが下りずヴェネチアでのディアギレフの葬儀に参列できなかった彼が、8年後にようやく墓参りを果たすことができたくだりは感動的だ。

バレエ・リュス関係の書物の多くは伝記で、記録と取材を基に書かれているのだが、この本は、当事者の記録ということで非常に貴重である。ニジンスキーについても、多くの本では彼がバレエ・リュスを解雇された時の記述で終わっているのだが、実はその後も何回かアメリカのツアーに参加し、様々なトラブルを経て、ついには狂気に陥ってしまった様子が、第三者の目から冷静に(しかし同情的に)描かれている。

「年代記」とあるように、バレエ・リュスの20年間、1年ずつが時系列につづられている。どの一年も平穏なことは何もなく波乱万丈に過ぎていき、当事者は大変だっただろうが、読む立場の私たちにとっては一度読みだしたら止まらなくなるような面白さにあふれている。実際、読み終わった後で、もう一度最初から読み始めてしまったほどの面白さなのだ。

そしてバレエ・リュスを深く知り、愛情を持っている薄井憲二氏が監訳を手掛けたことで、この書物はより生き生きと躍動感があり、読みやすい一冊に仕上がった。

ディアギレフ・バレエ年代記 1909-1929ディアギレフ・バレエ年代記 1909-1929
セルゲイ グリゴリエフ Sergey Grigoriev

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