毎日新聞掲載記事:バレエへの夢、未来開く トップダンサー被災地訪問に同行して
毎日新聞の8月18日夕刊に掲載された私の「エトワール・ガラ」出演ダンサーの東北チャリティレッスン記事、ブログに掲載して良いという許可を頂いたので、こちらにも掲載しました。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140818dde018040007000c.html
寄稿:バレエへの夢、未来開く トップダンサー被災地訪問に同行して
毎日新聞 2014年08月18日 東京夕刊
ひのき舞台に立つ日を夢みて、イラク唯一のバレエ学校で学ぶ17歳のリーザン・サレム。イスラム教では踊りはみだらなものとされ、この国でプロのバレリーナになるのは困難だ。その上、戦禍が続き、リーザンの友人も爆撃で死んだ。「どんなことがあっても、バレエを続けたい」。命がけで踊り続ける彼女を先ごろ、英国のテレビ番組が紹介し、感銘を呼んだ。
大災害や戦乱の中では、命をつなぐこと、生活の再建が最優先となり、芸術や文化は後回しとされてしまう。だが、芸術は、生きる上での心の支えとなる。筆者はこのほど、世界のトップダンサーによる被災地訪問に、ボランティアの通訳として同行した。バレエを通じて明日を信じる姿を目の当たりにした、旅の模様を報告したい。
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「エトワール・ガラ2014」公演のために来日したパリ・オペラ座バレエのエトワール(最高位)ダンサーらが7月末、仙台市、福島市など東日本大震災の被災地計5カ所で、チャリティーレッスンを行った。
石巻バレエ研究所(宮城県石巻市)では、2年前にも同校を訪れたオペラ座のドロテ・ジルベールと、独ハンブルク・バレエのシルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコが指導。生徒の年齢やレベルはさまざまだが、ダンサーは一人一人の体に触れながら丁寧に教える。子供たちが緊張しつつも心から喜んでいる様子が伝わってきた。「今回は、未来へと向かっていく力の芽生えを感じた」とジルベール。「ダンスがあれば、人生のつらい局面も乗り切れる。私も同じ経験をしてきました」
アッツォーニは、レッスンの終わりに生徒を集めてこう伝えた。「私もイタリアの小さな町で踊り始めたの。バレエは生きる力、強い心を育てるし、夢をもつことが未来を開く。夢を決して諦めないで」。リアブコは、混乱が続くウクライナの出身。故国に残した家族や友人のことを思いながら、子供たちの未来のために指導した、と語った。
生徒の谷川瑞華さんは「ドロテさんが私たちのことを忘れずに、また来てくれてうれしかった」と目を輝かせた。また、仙台市から参加した増田えみりさんによると、震災直後にはバレエを習っていない子供も教室に集まったという。「みんなで踊ることで、悲しみを乗り越えられた」と話してくれた。
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「今も遠い国から、東北に思いを寄せる人がいることを知ってほしい」と、ダンサーらは口をそろえる。どんなに絶望的な状況の下でも、未来への希望があれば、人は生き抜くことができる。
冒頭のリーザンには、米国のバレエ学校から奨学金提供の申し出があり、渡米の準備を始めたところだ。災害や紛争の続く中、バレエを支えに生き抜く子供が、世界の各地にいる。今回トップダンサーに指導を受けた東北の生徒たちの中からも、世界へと羽ばたくダンサーは現れるだろう。(もり・なおみ)
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