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« ヴァルナ国際コンクール開催中 | トップページ | 7/20 アリーナ・コジョカル ドリームプロジェクト »

2014/07/21

6/2、3 シュツットガルト・バレエ「Wayfarers」

6月の2日、3日に行われたシュツットガルト・バレエのミックスプロ、「Wayfarers」を観てきました。

これは、エドワード・クルグ振付の「No Men's Land」、デミス・ヴォルピの「Aftermath」という二つの世界初演新作と、ベジャールの「さすらう若者の歌」の3作品のトリプルビル。2つの新作は、音楽もこれらの作品のために委嘱して新たに作曲し、「No Men's Land」は全員男性、「Aftermath」は全員女性の出演者。シュツットガルト・バレエのレパートリーにはいくつかの柱があるのだが、クランコ作品、20世紀の作品、古典の他に、新作を上演することが重要な柱の一つとなっている。毎年、新作を何本も制作するパワーはこのカンパニーならではだ。

http://www.stuttgarter-ballett.de/spielplan/2014-06-02/fahrende-gesellen/

「No Men's Land」
振付:エドワード・クルグ
音楽: Milko Lazar「Ballet Suite for Cello and Orchestra in 5 Movements」
出演:ブレント・パロリン、ルイス・シュテーンズ、アレクサンダー・ジョーンズ、ダニエル・カマルゴ、デヴィッド・ムーア、コンスタンチン・アレン、ジェシー・フレイザー、ロバート・ロビンソン、オズカン・エイク

マッテオ・クロッカード=ヴィラ、ローランド・ハヴリカ、エドゥアルド・ボリアーニ、クレメンス・フロリッヒ、アレクサンダー・マッゴワン、ルドヴィコ・ペイス、ファビオ・アドリシオ、ロジャー・クアドラド、セドリック・ルップ、ノアン・アルヴェス・デ・サウズ※、マルティ・フェルナンデス・ペイザ※

エドワード・クルグは、アリーナ・コジョカルドリームプロジェクトでも踊られる「レイディオ・アンド・ジュリエット」の振付でも知られる、スロヴェニアのマリボール劇場の芸術監督。シュツットガルト・バレエのために振付けられた作品としては3作品目。音楽も、この作品のために作曲されたもので、ブラスを使ったジャズ的な音は攻撃性を感じさせるものの、途中に挿入されたリリカルで美しいチェロのソロも印象的だ。

21人の男性ダンサーが出演。上半身裸、紺色のパンツの上にニーソックスを履いている。登場シーンでは全員が一列に並んで一斉にユニゾンに動く。ブレント・パロリンの、ちょっと奇妙にゆがんだソロ。その次には9人の男性ダンサーが、かわるがわる、ペア、トリオ、4人などでの踊りを繰り広げる。天井から、いくつもの軍用コートが吊りさげられているのが下りてくる。ダンサーたちは、これらのコートにしがみつき、まるで首つりをしているのかのようなイメージ。その中を、顔を袋で覆われ、ポワントを手に履いた男性が這いずり回る。若く小柄なルイス・シュテーズの奔放なソロ。そして最後には、ペアになった男性ダンサーたちがお互い向き合い、格闘ゲームのように戦い合ったりお互いを高々とリフトしたり。最後には座っている一人のダンサーを、数人のダンサーたちが囲み、一人は彼の方の上にまたがり、脚の間から座っているダンサーの腕を持ち上げることで、性的な要素を暗示する。

戦争、暴力性を強く感じさせる作品だが、男性ダンサーが充実しているシュツットガルト・バレエならではの力強い作品。今シーズン限りでこのバレエ団を離れ、ナショナル・バレエ・オブ・カナダに移籍するブレント・パロリンが繊細さを秘めた中での存在感、雄弁な表現力を見せてくれた。

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「さすらう若者の歌」Lieder eines fahrenden Gesellen

振付:モーリス・ベジャール
音楽:グスタブ・マーラー
出演:ジェイソン・レイリー、エヴァン・マッキー
バリトン:Julian Orilishausen

新作2本に挟まれた現代の古典ともいうべき作品。71年にヌレエフのために振付けられたこの作品は、76年にはシュツットガルト・バレエでも上演され、リチャード・クラガンとエゴン・マドセンが踊った。ジョルジュ・ドンとリード・アンダーソンが共演したこともあったという。43年前の作品ということもあり、衣装などに古めかしさは否めないが、日本でも様々なダンサーが何回か踊っているのでおなじみの作品。

ヌレエフ財団のサイト
http://www.nureyev.org/rudolf-nureyev-main-roles-ballets/songs-of-a-wayfarer-bejart-rudolf-nureyev

今回、初めて、この作品の歌詞を読んでみた。マーラー自身の体験が大きく反映されていると言われている。「Wayfarer」というのは、若者、というよりは、「マイスター(親方)」の称号を取得するために、ドイツ語圏を広く渡り歩いた職人のことを指しているとのこと。親方について旅して回った職人の若者が、最後に彼のもとを旅立っていくというのがモチーフである。また、マーラー自身の失恋の経験をもとに、胸をナイフで刺されるような辛い、恋人との別れも綴られている。

ヌレエフが演じた、薄いブルーの衣装の若者役を演じていたのはジェイソン・レイリー。彼の生命力に満ちて若々しい雰囲気はこの役によく合っていた。柔らかいプリエ、生き生きとしたマネージュ、イノセントな雰囲気。人生に対する希望に溢れていた若者はやがて痛みを知り、苦悩し、死の世界も垣間見る。そして師に導かれて、新しい世界へと旅立っていく。そして、「運命」とも呼ばれる、赤い衣装の彼の師を演じたのがエヴァン・マッキー。この公演が、彼のシュツットガルト・バレエでの最後の舞台となった。愛する弟子にまず人生の喜び、そして次に苦しみを見せた師は、最後に彼の運命を示し旅立ちへと導いていく。カリスマ性に溢れ、最初は慈愛に満ちて優しく見守り包み込みながらも試練を与えていく運命に相応しく、一挙一動がアカデミックで美しく知性に満ちた存在感のエヴァン。弟子と師との心の交流がしみじみと感じられていく。エヴァンは、この歌詞、自分を育ててくれたバレエ団との別れと旅立ち、そして自身の境遇に非常にマッチしていて特別なものであると感じたとのこと。

二つの青い眼、
愛しい人のが、
私をこの
広い世界へと追いやった。
さあ、私は最愛の地に別れを告げなければ。
おお、青い眼よ、なぜ私を見つめたりしたんだ?
いま私にあるのは、永遠の苦しみと嘆きだ。

私は旅立った、静かな夜に、
暗い荒れ野をすっぽりと包む夜に。
惜別を私に告げる者などいないが—さらばだ。
私の仲間は愛と苦しみだった。
 (Wikipedia より引用)

青春の歓びに満ちた第2楽章、荒々しく苦悩があふれる第3楽章との対比も鮮やかだった。独唱を行ったJulian Orilishausenの若々しくも哀感のある声も美しく響いた。舞台正面、観客に手を伸ばしながらも去っていくジェイソン、そして彼の手を引いて奥へと連れていくエヴァンの後ろ姿には悲しみが漂っていた。この時点で彼はすでに涙ぐんでいるのが分かった。

週の真ん中の平日、トリプルビルの中の真ん中の演目、そして全幕ですらないしクランコ作品でもない。最後の公演がこんな形となったのは、正直言ってトッププリンシパルのフェアウェルとしてはあまり良い対応ではなかったと感じた。しかしカーテンコールでジェイソンとエヴァンが抱き合ったのち、客席からはいくつもの花束が投げ込まれ、リード・アンダーソンと、ジョン・クランコスクールの校長タデウス・マタッチが舞台に上がり、クランコ・ソサエティからの大きな花かごを贈って、彼を見送った。アンダーソンも泣いていた。

シュツットガルト・バレエ、この4年間でバレエ団を去る/去ったプリンシパルの数が非常に多い。名前を挙げていくと、ダグラス・リー、ブリジット・ブライナー、ウィリアム・ムーア、カーチャ・ヴュンシュ、エリザベス・メイソン、アレクサンドル・ザイツェフ、エヴァン・マッキー、マリア・アイシュヴァルト、そしてフィリップ・バランキエヴィッチの9人だ。加えて、スージン・カンもすでに韓国国立バレエの芸術監督に就任していて、ほとんどシュツットガルトでは踊っていない。ということで急速に世代交代が進んでいるわけだが、優れた若いダンサーもたくさんいるものの、経験豊かなダンサーがほとんど残っていないため、正直、このバレエ団は今後大丈夫なのか、という気がしてしまう。エヴァンは移籍するのだが、マリア・アイシュヴァルトも、そして明日さよなら公演を迎えるフィリップ・バランキエヴィッチも、まだまだ引退するには早いダンサーたちだ。彼らはバレエ団には残らないで、フリーとして他で活動を続けるのだが、彼らの経験を受け継ぐようなことをしていないのが、非常に気になる。

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「Aftermath」
振付:デミス・ヴォルピ
音楽:Michael Gordon
出演:エリサ・バデネス

昨シーズン「クラバート」で大成功をおさめ、ドイツ・ダンス賞「未来」を受賞した若手専属振付家のデミス・ヴォルピの作品。「No Mens Land」と対をなすように、こちらは女性ダンサーばかり25人が登場する。一人のアーティストが周囲の無理解や圧力と戦い抜く物語だ。

一人の女性ダンサー(エリサ・バデネス)が、圧倒的な柔軟性を見せつける、苦悩に満ちた長いソロを踊る。振付自体も非常に個性的で、首や肩の動きなど上半身を雄弁に使ってもがいている様子を見せる。バデネスの圧倒的な柔軟性、強靭さが迫ってくる。彼女は、まずは5人の女性ダンサーたちに囲まれている。彼女たちは顔と髪を白く塗り、目の周りは真黒で無表情、グレーの服を着てポワントを履いてずっとポワントの上で立っている。この女性たちの人数は増殖して、やがて24人になり、フォーメーションも整列したものから円環と変化していく。この女性たちの軍団が、ヒロインを取り囲むように迫ってきて、それはまるで現代版の「ジゼル」のウィリたちのようだ。彼女たちは、ヒロインの声を、表現を取り上げようとしているのだ。ヒロインの動きは激しくなり、まるで「春の祭典」の選ばれし乙女のように垂直に何度も飛び上がったかと思うと、深いプリエで地面へと近づく。

この作品のために作曲された音楽は、パーカッションの激しいリズムが印象的だ。だが、楽器としてもっとも有効に機能しているのは、女たちのポワントがパドブレするときに鳴る床の音。ヒロインは、やがて女たちの群れの中に飲み込まれていく。女たちも舞台上を去るが、舞台の袖からはずっと激しいポワント音が鳴り響いている。そして空となった舞台。不意にポワントの音が鳴りやみ、静寂。

女性群舞の使い方、ポワントを効果音として使ったアイディア、そして斬新な舞踊語彙。デミス・ヴォルピという若い天才の溢れる才能に震撼した。打ちのめされるようなインパクトがあって凄まじい。また、常に舞台の上にいてソロを踊り続けるヒロイン役を踊ったエリサ・バデネスの身体能力と目を吸い寄せられるような表現力にも恐れ入った。この作品のファースト・キャストはヒョジュン・カン、セカンド・キャストはアリシア・アマトリアン。いずれもテクニックに優れた強い女性ダンサーたちだ。

おそらく、シュツットガルト・バレエは今の現状ではクランコ作品を引き継いでいくよりも、このような現代作品の新作を踊っていく方向性に進んでいくのではないかと感じた。優れた新作次々とを生み出していき、現代的な作品に求められる強さを持った若いダンサーたちを育てていく、そういうカンパニーになったのだと思う。いずれにしても、デミス・ヴォルピは凄い。来シーズンも、彼の新作があるというので、とても楽しみである。

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英文レビューはこちら
http://bachtrack.com/review-stuttgart-ballet-wayfarers-june-2014

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