7/14 “第2回グラン・ガラ・コンサート~私たちはひとつ!!~”
キエフ・バレエのリーディング・ソリストである田北志のぶさんの呼びかけに応じて、ロシア・バレエ界を中心としたトップダンサーが集結した復興祈念チャリティ・ガラ、昨年に引き続いての2回目が行われました。
http://www.ints.co.jp/grand-gala2014/index.htm
震災から3年が経ち、どんどん報道が減って行っている今、遠い国にいるダンサーたちが日本のことを忘れないでいてくれることに感謝しなければなりません。特に田北さんが所属しているキエフ・バレエは、ウクライナでの争乱の影響を受けて大変なことになっているようです。警官隊と市民との衝突で銃声が鳴り響く中でもバレエ公演を行った、そんな苦境にある国から、日本のために来てくれるのは本当に素晴らしいことです。
残念ながらエレーナ・エフセーエワが直前に体調不良で降板してしまったので、若干の演目変更がありました。
【第1部】
「赤と黒」よりパ・ド・ドゥ(振付/ウヴェ・ショルツ)
(エカテリーナ・マルコフスカヤ/アレクサンドル・ザイツェフ)
スタンダールの小説「赤と黒」を原作とするウヴェ・ショルツの作品で、観るのは初めて。今回上演されたのは、全三幕の作品のうちの2幕の寝室の場面から。音楽はベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」。天幕のついたベッドのセットもあり、ドラマティックで複雑なパ・ド・ドゥが踊られた。ザイツェフは若々しく情熱的で、マルコフスカヤは可憐。機会があれば全幕を観てみたい作品となった。
ごく一部だけどYouTubeに動画有(今回とは別の場面、ライプチヒ・バレエの映像のようです)
http://youtu.be/tWGkEsKgXhk
「パリの炎」よりパ・ド・ドゥ
(オレーサ・シャイタ-ノワ/ブルックリン・マック)
オレーサ・シャイタ-ノワは、2013年にバレエ学校を卒業してキエフ・バレエに入団したばかりの若いバレリーナで今回が初来日という。モスクワ国際コンクールでジュニアの部2位など様々なコンクールの受賞歴があるだけあって、テクニックに優れていた。前回のガラにも出演したブルックリン・マックも、ヴァルナ国際コンクールの金賞受賞者。跳躍が大変高いのだけど、テクニックのゴリ押しではなくて、クラシックバレエらしい気品も備えているのが彼の魅力だ。
「Beginning」(振付/ウラジーミル・ワルナワ)
(イーゴリ・コルプ)
音楽:エリック・サティ(グノシェンヌ第一番)
ルネ・マルグリットの絵画「人の子」をモチーフに振付けられた作品。スモークが立ち上る中、コールプが青いリンゴを口にくわえ、それを落とすところから始まる。マグリットらしいシュールレアリスム的な夢幻の世界が展開する。コールプの動きは精緻で、緩急の差も見事、コントロールが隅々まで利いていて表現者としての実力を改めて実感させられる。オフバランスを使った現代的な語彙と、クラシックテクニックの融合が素晴らしい。
「La rose malade(薔薇の死)」(振付/ローラン・プティ)
(田北 志のぶ/ニキータ・スハルコフ)
ローラン・プティがマイヤ・プリセツカヤのために振付けた作品で、最近ではボリショイ・マリインスキー合同ガラでウリヤーナ・ロパートキナも踊っている美しい作品。マーラーの「アダージェット」を使い、ウィリアム・ブレイクの詩に触発されたという。田北さんは腕が非常に長くて使い方も雄弁で花弁を思わせるような繊細さで美しく、背中も非常に柔らかい。薔薇色のドレスも良く似合っていて官能的だった。パートナーのニキータ・スハルコフは若いダンサーだけど容姿が美しく、二人の見た目のパランスも良い。めくるめくような陶酔感を感じさせるリフトを多用した振付、薔薇のむせ返るような匂いに包まれる思いがした。青年のキスによって、薔薇が萎れ命を失っていく様子も鮮やかに描かれた。
「レ・ブルジョワ」(振付/ベン・ファン・コーウェンベルグ)
(アレクサンドル・ザイツェフ)
おなじみの演目だけど、踊り手が変わると違う作品になるのが面白い。メガネをかけたザイツェフは、やさぐれたサラリーマンなのだけど、彼らしい愛嬌に、ヨレっとしたくたびれ加減も絶妙で、なんともキュートなブルジョワ像を見せてくれた。
「ラ・バヤデール」第三幕よりパ・ド・ドゥ
(マリア・アラシュ/ルスラン・スクヴォルツォフ)
ボリショイのプリンシパルらしい圧倒的なスターオーラの持ち主であるこの二人、堂々とした存在感を見せてくれた。「影の王国」だがコール・ドがないので少々ぶつ切り感があったが、ヴェールを使ったパ・ド・ドゥなどの見せ場はしっかりと見せて、「影の王国」パートのかなりの部分を踊ってくれた。アラシュには凛とした気品があり、きっちりとしたクラシックのテクニックは言うまでもなく、ヴェールを使った回転などの難しいシーンも難なく美しく決めてくれた。スクヴォルツォフも、ソロルらしい雰囲気をよく出していた。コーダがドゥーブル・アッサンブレではなくてちょっと変形したジュッテ・アントルラッセだったのが不思議といえば不思議だったけれども、冬のボリショイ・バレエ来日公演の「ラ・バヤデール」が楽しみになった。この二人は、「ラ・バヤデール」には出演予定ではないのが残念。
【第2部】
「エスメラルダ」よりパ・ド・ドゥ
(オレーサ・シャイターノワ/ニキータ・スハルコフ)
見目麗しいキエフ・バレエの二人のソリストによる「エスメラルダ」。シャイターノワはここでも強靭なテクニックを見せてくれた。非常に柔軟性に優れていて、タンバリンのソロでは跳躍しながら身体を反らせて後ろ足で手に持ったタンバリンを叩いて見せたり。全体的にタンバリンの音は小さめではあったけど、高い身体能力を見せてくれた。また、グラン・フェッテも、2回に1回ダブルかトリプルを見せてくれて、安定していた。スハルコフは、マネージュする様子がとても速くて脚も綺麗に伸びて美しい。有望な若手ダンサーを観ることができてとても良かった。
「As above, So below」ソロ(振付/エドワード・ライアン)
(ブルックリン・マック)
元NYCBで台湾出身のエドワード・リアンの作品で、仏教の「万物照応の原理」に基づいているという。全体は20数分の作品。ブルックリン・マックは、テクニックを要求される古典だけでなく、このようなコンテンポラリーでもしっかり表現できる内面を持っているのがよくわかる。跳躍などはほとんどないけれども、なめらかで饒舌な動きには思わず魅せられる。
こちらで、この作品は全編観られます。(振付家のチャンネルより)
http://vimeo.com/channels/478037/54202461
「Come Neve al Sole(太陽に降り注ぐ雪のように)」(振付/ローランド・アレシオ)
(エカテリーナ・マルコフスカヤ/アレクサンドル・ザイツェフ)
こちらは、世界バレエフェスティバルや、アレッサンドラ・フェリのさよなら公演での上演でもおなじみの作品。ローランド・アレッシオは、シュツットガルト・バレエのバレエマスター。ピンク色の伸縮性のあるTシャツを着た二人が、ちょっとオフビートでユーモアと哀愁を漂わせて踊る。ザイツェフの持つ独特のニュアンスが、この軽妙な作品を味わいものにしていた。
「黄金時代」よりリタとボリスのアダージョ(振付/ユーリ・グリゴローヴィチ)
(マリア・アラシュ/ルスラン・スクヴォルツォフ)
なかなか日本では観られない、ボリショイらしい作品を持ってきてくれて大感謝。ショスタコーヴィッチのピアノコンチェルトに乗せて、アクロバティックなリフトが展開する。「ラ・バヤデール」では若干サポートのミスが見受けられたのだが、こちらの方は、スクヴォルツォフ、頑張った。非常に複雑なサポートが次から次へと展開するのだが、どれもとても滑らかで、流れるようでお見事。圧倒的なパフォーマンスだった。「黄金時代」は映画館中継される予定だったのに、なぜか途中で「マルコ・スパーダ」に代わってしまって見られなくなってしまった作品。いつか全幕を観てみたい。
「シェヘラザード」よりパ・ド・ドゥ
(田北 志のぶ/イーゴリ・コルプ)
コールプの黄金の奴隷、凄かった。途中滑って転倒するアクシデントはあったものの、押し寄せるような熱情と何かに急き立てられているような欲望を剥き出しにしていて、それでいて、従順なだけではない、腹に一物を持っているかのような奴隷。パンサーのようにしなやかで獣そのもので、危険極まりない。このガラは全体的に充実していたのだけど、やはり白眉はここだったと言えるし、コールプ一代の当たり役と言える。田北さんのゾベイダも官能的でエキゾチックで美しいのだが、清潔感を漂わせていた。高貴な愛妾が、奴隷によってめくるめく狂乱の宴に陥れられてとろけるように溶けていくような感じ。彼女のほっそりとしていて柔軟で表現力豊かな肉体の魅力が発揮されていて、観たことがないような新しい鮮烈なゾベイダ像を見せてくれた。「シェヘラザード」を一緒に踊るのは初めてとのことだったが、絶妙なケミストリーが働いて、忘れがたいパフォーマンスとなった。
「ダイアナとアクティオン」より
(ブルックリン・マックと全員)
エフセーエワが出演できなくなったことになり、ブルックリンのヴァリエーションからスタート。ここでも彼の高い跳躍と柔らかい背中を使った超絶技巧が観られた。決めの540も弾丸シュートのようでお見事。他のダンサーたちもこの作品の一部を踊るのかと思ったら、そうではなくて、ガラによくある出演者たちが少しずつ踊りを見せてくれるフィナーレ形式。
フィナーレ 「花は咲く」
(全員)
前回同様、出演者たちが花を持って客席に降りて行って、花束を配って歩いた。このガラならではの、温かくアットホームな感覚がとてもほほえましい。芸術監督のアラ・ラゴダ(キエフ・バレエ バレエミストレス)も舞台上に上がった。
キエフ・バレエで初めての日本人ダンサーとして、長年日本とウクライナの懸け橋となり活躍してきた田北さんを始め、ロシア・バレエ界を代表するダンサーたち、そしてこれから期待できる新鋭ダンサーも観ることができた素晴らしいガラ公演だった。作品も、古典から、ウヴェ・ショルツ、エドワード・リヤン、そしてグリゴローヴィッチとバラエティに富んでクオリティも高く、とても見ごたえがあった。チケット代のうち1000円は被災地復興のために寄付されるという。このような優れた企画は、今後もぜひ続けてほしいと願っている。
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