6/22 NBAバレエ団「トリプル・ビル」
久保紘一芸術監督が就任してから、NBAバレエ団は、アメリカの20世紀、21世紀の作品を取り上げることが多くなった。
このトリプルビルは、70年代、80年代にABTがレパートリーとした3つの名作「ガチョーク賛歌」、「葉は色あせて」、「ブルッフ・ヴァイオリン・コンチェルト1番」から構成。いずれも素晴らしい作品だが、「ガチョーク賛歌」「ブルッフ・ヴァイオリン・コンチェルト1番」の全部の上演は、日本のバレエ団では初めてとのこと。現地から振付指導者を招き、きっちりと仕上げてクオリティの高い上演となった。
http://nbaballet.org/performance/2014/triplebill/index.html
「ガチョーク賛歌」 Great Galloping Gottschalk
音楽:ルイス・モレウ・ガチョーク
振付:リン・テイラー・コーベット
振付指導:リン・テイラー・コーベット、サンドラ・ブラウン
1.プエルトリコのみやげ
竹内碧 ほか
2.ある詩人の死
峰岸千晶、三船元維
3.トーナメントギャロップ
小嶋沙耶香、鈴木恵里奈、土田明日香
4.愛しい人よ
佐々木美緒
5.バナナツリー
高橋真之、皆川知宏
6.ラマンチャの調べ
全員
ニューオーリンズ出身の作曲家ルイス・モレウ・ガチョークが作曲したピアノ曲を管弦楽に編曲したもの。カラフルな衣装で踊られ、楽章ごとに変化に富んでいるものの、全体的に軽快でとても楽しい作品。
「プエルトリコのみやげ」は、一人の女性ダンサーを中心に、8人の群舞で繰り広げられる。ソリストが単独で踊るというよりは、ほかのダンサーたちにリフトされたり絡んだりして、フォーメーションが変幻自在に変化するので飽きない。「ある詩人の死」はロマンティックなパ・ド・ドゥだけど、男性が跪いて女性をリフトしたり、開脚した女性を回転させるリフトをしたり、さらには床の上にダイブしたりと高度なテクニックを駆使。でも雰囲気は軽快で、二人の間の楽しい会話を思わせる。「トーナメント・ギャロップ」は、3人の女性ダンサーたちが競い合うように自分たちの魅力を見せつけ合う、キュートな踊り。「愛しい人よ」は女性ダンサーのソロ。踊った佐々木美緒さんは、来シーズンから新国立劇場バレエ団に移籍するのだが、長身で顔が小さくプロポーションに恵まれ、大変美しい。「バナナツリー」は、二人の男性ダンサーが、テクニックを競い合い、ピルエット、跳躍をふんだんに盛り込んでいてすごく楽しい。高橋真之さん、皆川知宏さんとも、軽やかで弾むような動き、軽く6~7回転きれいに回る技術と、この役にはうってつけ。そしてフィナーレでは、輪になったダンサーたちに竹内碧さんがぶら下がって振り回されるなど、高難度な部分もありつつ、高揚感を伴ったクライマックスへ。
「葉は色あせて」 The Leaves are Fading
音楽:アンソニー・ドボルザーク
振付: アントニー・チューダー
振付指導:アマンダ・マッケロー、ジョン・ガードナー
第1パ・ド・ドゥ:竹内 碧/皆川 知宏
第2パ・ド・ドゥ:岡田 亜弓/大森 康正
第3パ・ド・ドゥ:関口 祐美/土橋 冬夢
第4パ・ド・ドゥ:浅井 杏里/オリバー ホークス
アンソニー・チューダーの代表作で、非常に美しい作品。このバレエの名演で知られるアマンダ・マッケロー、ジョン・ガードナーが振付指導を行った。ロングドレスを着た女性が舞台を横切ると、林の中、若者たちが現われる。4組のカップルのパ・ド・ドゥを中心に繰り広げられる。特にストーリーはないものの、ドヴォルザークの音楽もあいまって、一つ一つのカップルの間にはドラマが紡ぎだされ、ふとした視線や首の動き、背中などから感情の揺らめきが伝わってくる。特に綿密なパートナーリングが繰り広げられる第二パ・ド・ドゥの抒情的な美しさはたとえようがないほど。冒頭の女性は、自分の過ぎ去った青春を思い起こしているのだろう、彼らが去った後に、またもう一度登場する。その姿がなんともいえない余韻を残す。舞台上が情感にあふれて、一人一人のダンサーが舞台を丁寧に繊細に紡ぎあげていったのが感じられた。
ブルッフ ヴァイオリン協奏曲 第1番 Bruch Violin Concerto No.1
音楽:マックス・ブルッフ
振付:クラーク・ティペット
振付指導:デヴィッド・リチャードソン
ヴァイオリンソロ:浅井千裕
Aqua:岡田 亜弓/三船 元維
Red:浅井 杏里/宮内 浩之
Blue:峰岸 千晶/泊 陽平
Pink:田澤 祥子/大森 康正
この日唯一チュチュで踊られた華やかなアブストラクト作品。バランシンを思わせる音楽的な振付なのだけど、男性が女性ダンサーをリフトする時に女性が大きく開脚したり、またハンガリー的なステップが含まれていたりとひねったところもある。3楽章から構成されていて、それぞれの曲想にマッチし、群舞のフォーメーションも多彩で面白い。コーダはさしづめ「シンフォニー・インC」的に、4組のソリストがテクニックを競い高揚感に包まれる。女性ソリストは4組ともとても果敢でクラシック・テクニックを存分に堪能させてくれた。特にRedの浅井 杏里さんの空間の使い方が大きくて映えていたと思う。
3つの演目とも、いずれ劣らぬ良い作品で、バレエの楽しさ、美しさ、そして華やかさを感じさせてくれた。古典全幕でないとなかなか集客が難しいと言われているけれども、今回の3つは、バレエ初心者が観ても楽しめる作品だと思う。振付指導者を呼んで丁寧に指導した成果がよく出ていた。これほど良い作品、良い上演でも観客動員にはやや苦戦しているところもあったようだが、観てもらえれば作品、そしてバレエ団の良さはわかるはずだ。準備にこれだけ手間をかけて2日間だけの上演はあまりにもったいない。ぜひとも再演を期待したい。あまりよく知られていない作品でも、こんなに素敵なものがあるのだから。
久保紘一芸術監督は、とにかく日本でのダンサーの地位や待遇を良くしたいという思いで取り組んでいるとのことだった。振付家や、振付家に近い振付指導者を呼ぶのも、ダンサーにとってはモチベーションが上がることだろう。彼の取り組みを応援していきたいと感じた。次回作の「ドラキュラ」では大貫勇輔さんをゲストに呼ぶ大掛かりなプロダクションということで、とても楽しみ。
「ガチョーク賛歌」がフルで収録されています。
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