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« ミラノ・スカラ座バレエ2014-15シーズン発表 | トップページ | ミハイロフスキー劇場の来日公演のキャスト »

2014/06/19

6/14、15 新国立劇場バレエ団「パゴダの王子」

デヴィッド・ビントレーの新国立劇場バレエ団でのディレクターシップ最後の作品となった「パゴダの王子」、4年間の彼の労に報いたいという気持ちもあって、3キャスト全部観ることにした。

http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/pagoda/

初演の時も3キャストで観ていたのだけど、今年初めのバーミンガムロイヤルバレエでの公演を経て、演出の方も手が入れられて、よりパワーアップしていたと感じられた。そして、初演された2011年から3年間で、バレエ団自体の底力も高められており、ビントレーの下で、より表現力が増して良いカンパニーに成長したと実感したのだった。

http://youtu.be/tS8F94p_ZCY

振付:デヴィッド・ビントレー
音楽:ベンジャミン・ブリテン
美術:レイ・スミス
指揮:ポ-ル・マーフィ

6月14日 昼公演
さくら姫 奥田花純
王子 奥村康祐
エピーヌ 長田佳世
皇帝 山本隆之
北の王 江本 拓
東の王 古川 和則
西の王 マイレン・トレウバエフ
南の王 貝川 鐵夫
道化 福田圭吾

6月14日 夜公演
さくら姫 米沢 唯
王子 菅野英男
エピーヌ 本島美和
皇帝 マイレン・トレウバエフ
北の王 福田 圭吾
東の王 輪島拓也
西の王 小口 邦明
南の王 宝満 直也
道化 髙橋 一輝

6月15日 
さくら姫 小野絢子
王子 福岡雄大
エピーヌ 湯川麻美子
皇帝 山本隆之
北の王 八幡 顕光
東の王 古川 和則
西の王 マイレン・トレウバエフ
南の王 貝川 鐵夫
道化 福田圭吾

「パゴダの王子」は数奇な運命をたどった作品である。1957年にジョン・クランコによって初演されたものの、失敗作とみなされていつの間にか上演は途絶えてしまった。その後、ケネス・マクミランがこのブリテンの曲に振付け、現在もロイヤル・バレエのレパートリーに残っているものの、マクミランの作品としては決して評判の良い作品ではない。

デヴィッド・ビントレーは、ブリテンの音楽を聴いて、この音楽にはロマンティックな要素はないと判断した。クランコやマクミランの作品では、ローズ姫とサラマンダーの王子は恋人同士という設定だったのを、兄妹に変更。エピーヌはローズの姉だったのを、継母に変更した。そして、舞台を日本に持っていき、ちょうど開国を迫られている時代設定としたのだった。

東日本大震災を日本で体験したビントレーは、お互い助け合う日本人の姿を見て、この作品の筋を思いついたとのこと。邪悪な女王エピーヌによって皇帝は権力を奪われ、王子は追放される。ほかの国々はこの国を乗っ取ろうとさくら姫との政略結婚を企てる。傷ついた国を立て直すのは、さくら姫と、サラマンダーに姿を変えられてしまった王子の兄妹愛、そして父である皇帝への愛だった、というのは、日本人への心温まるオマージュとなっている。男女の愛ではないので最後のパ・ド・ドゥが盛り上がらないという感想も聞こえたが、やはりブリテンの音楽にはロマンティックな要素が少ないこともあるので、決して不自然ではない。リア王のように老いさらばえた皇帝が復活し、サラマンダーが王子の姿に戻り王国は復興しめでたしめでたし、というハッピーエンドはさわやかな余韻を残すものだった。

まずこの作品で目を奪われるのは、舞台美術の美しさである。デザインを担当したのは、「ウォーホース(戦火の馬)」でトニー賞を受賞したレイ・スミス。ビントレーは、歌川国芳の浮世絵をたまたま目にしてインスピレーションを得たという。なるほど、浮世絵を思わせるような、大きな赤い太陽と切り絵のような富士山が背景に浮かび、そして国芳さながらの妖怪たちが登場したり、背景幕にも妖怪が描かれている。舞台を取り囲むように配置されている繊細な白い切り紙のフレーム。パゴダの国に舞台が移った時の真っ赤なハイビスカス、そして終幕の桜の花など、ドラマティックで美しく、実に効果的だった。衣装も、淡いパステルカラーがベースで上品だった。さすがに実際の着物のままでは踊れないので、踊る役の人たちの衣装はアレンジされていたけれども、極力違和感を感じないようにデザインされている。

日本風のモチーフが登場しない2幕においても、雲や泡などをイメージしたチュチュのデザインは美しく、視覚効果に大きく貢献した。でも、やはり最大のヒットは、グロテスクながらも愛らしい4人の妖怪さん。一人ずつジャンプする姿もかわいらしく、観客のアイドルとなっていた。帰り際にあの妖怪さんたちが見送ってくれたり、記念撮影でもしてくれたらさぞ楽しかったことだろう。

愛すべきキャラクターとしてもう一人忘れてはならないのが道化。開演前に、幕の前で鑑賞上の注意をコミカルに伝えてくれたり、化粧したり、15日にはワールドカップの号外の新聞を丸めて蹴ったり。ぼろぼろになってしまった皇帝をただ一人見捨てずに忠実に付き添い、ラストも鮮やかなソロで締めくくってくれた道化。この役を演じた福田圭吾さん、高橋一輝さんとも、愛嬌とテクニックを併せ持っていてスパイスの役割を果たした。

1幕は、4人の王たちのソロの他は見せ場はあまりないのだが、ちょっと変わっていてコミカルな彼らのソロは見ごたえがあるし、エピーヌという強烈な女性の印象を植え付けるという重要な役割がある。エピーヌ役の3人は三者三様のエピーヌ像を見せてくれて、それぞれ魅力的だった。踊りの技術については圧倒的だった長田佳世さん、妖艶な美しさと華やかさの本島美和さん、そしてもっとも強くカリスマ性あふれる湯川麻美子さん。それぞれ、このバレエ団が誇る素晴らしい大人の女性たちだ。

2幕は、踊りという面では最大の見せ場である。サラマンダーを追ったさくら姫は、海、風、炎の試練を通り抜ける。コール・ド・バレエによる海や風、炎の表現とも、工夫が凝らされていて見飽きない。海ではタツノオトシゴと戯れるさくら姫、タコに変身して毛ガニと妖しげに踊るエピーヌ。そして鮮烈な炎の踊りとその中でも踊りまくるエピーヌと四人の王たち。ブリテンのガムラン風音楽に合わせて鮮やかなバリダンスも繰り広げられ、そして子供時代の王子が怖ろしいエピーヌによってサラマンダーに変えられてしまった経緯が語られる。子役たちの演技も達者で痛ましく、実にうまく状況説明が表現されていた。

3幕ではエピーヌや王たちなど悪がやっつけられ、王子が帰ってきて大団円を迎える。最後のさくら姫と王子のパ・ド・ドゥが凄い。確かにロマンティックな要素がないので、ドラマティックさには欠けるが、この二人の圧倒的な踊りの技術を堪能することができる。王子のどんどん加速するピルエット、さくら姫のスピーディな跳躍、難しいパートナーリング、高度なテクニックが無ければ踊ることは不可能である。今回の3組の主演陣は、いずれもこの高い要求を難なく乗り切って、バレエ団のレベルの高さを証明した。

サラマンダー役は、王子とサラマンダーの二つの役を踊らなければならず、サラマンダーの時には地面を這いつくばりながらも柔軟性とスピードを見せなければならない。王子でのシーンはそれほどないのだけど、最後のヴァリエーションとコーダでは技術を要求される。しなやかで柔らかい奥村さん、つま先が美しくアカデミックな菅野さん、そして豪快な福岡さん。いずれも素晴らしかった。

さくら姫は、運命に立ち向かい、国の危機を救うために立ち上がる強いお姫様だ。3幕では、4人の王たちとも立ち回りを演じる。アーティストという一番下の位からの大抜擢だった奥田さんは、運命と戦う強さを持ち、とても初主役とは思えない度胸の良さを見せてくれた。米沢唯さんは健気さを感じさせる戦闘美少女という感じで、可愛らしさの中に、テクニックに裏打ちされた芯の強さがあった。小野さんは、しなやかで強靭な踊り、音楽性の豊さと雄弁な表現力で、さすがバーミンガムロイヤル・バレエでもこの役でゲスト出演しただけのことはある、スターオーラがあった。いずれも、世界の舞台に出しても恥ずかしくない見事なプリマぶりである。

老いさらばえて弱くなってしまった時にも気品を失わない山本さん、圧倒的な演技力のマイレン、シェイクスピア作品に出てきそうな二人の皇帝はいずれも威厳があって、最後の堂々とした姿も素敵だった。

日本人ダンサーは、テクニック的には優れていても、表現力、演技力が弱いと常々言われてきた。ビントレーの下で、現代作品や、物語バレエに取り組んでいくうちに、新国立劇場バレエ団ではこの表現面での弱点が克服されてきたように思える。3年前の初演とは段違いに楽しめたのだ。一人ひとり個性を感じさせてくれるし、「パゴダの王子」が物語として楽しめて、ちゃんとストーリーの一員として生きているのが感じられたのだ。ビントレーがこのバレエ団に残してくれたものは大きな財産であった。しかも、このバレエ団のために、全幕新作を芸術監督が作ってくれたというのは素晴らしいことだし、この日本発の作品がバーミンガムでも上演されたのには大きな意味があった。

http://youtu.be/hHeHSvjGFb4

来シーズンから芸術監督が交代し、演目もほぼ古典ばかりとなってしまうことに、大きな不安を感じてしまう。せっかくここまで育ったダンサーたちが、その能力を十分発揮できる機会がなくなってしまうのではないかと。来シーズンのラインアップを見ただけで判断するのは早計かもしれないが、この4年間に培われた財産が生きるようなディレクターシップ、そして再来年のラインアップを期待したい。

最終日、観客は総立ちとなり、感動的なカーテンコールが繰り広げられた。妖怪さんたちが隠していた花束を出して、小野さんの手を経てビントレーに渡ったときの彼の表情は忘れられない。ビントレーは舞台の上から、「ありがとう」と何度も言っていたようだったし、観客たちの姿が見えるように客電を付けるように指示していた彼の目には涙が光っていた。当日出番のないダンサーたちも舞台上にいた。観客の私たちも、大きな声で「ありがとう」と叫んでいた。

Bachtrackでの私の英文レビューはこちらです。
http://bachtrack.com/review-national-ballet-japan-prince-pagodas-june-2014

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バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

naomiさん、こんにちは。
パゴダの王子、私も3キャストで観ました。
初演の時は、1キャストのみの鑑賞だったのですが、それと比べて今回は、それぞれのキャストで見比べができたので、とても楽しめました!
やはり、演出も手が入れられていたんですね。
具体的にはわからないけど、何か違う?と感じるところがありました。
初演の時は、エピーヌが主役?さくら姫と王子の印象が弱いなあと個人的には感じていて、作品全体としては不完全燃焼な感想を持っていました。
でも、今回は主役二人がしっかり主役でした。これは、演出の違いだけではなく、ダンサーの力がついたからかもしれませんね。
主役3キャストは、それぞれテクニックはしっかりしているので、そこに加わるそれぞれの役作り、個性を安心して観ていられるのが良いなと思います。
奥田・奥村ペアは、パートナリングがちょっと固く、リフトにてこづっているところもありましたが、頑張っていましたね。
皇帝と道化の二人の踊りもよろけ具合がコミカルで良かったです。妖怪たちとタコに変身したエピーヌが登場した時は、わたしのお隣の外人男性が大受けしていて、特にタコのエピーヌにはずっと笑い続けていました。ちょっとびっくりするくらいに!!
ところでエピーヌって、魔女か妖怪なのでしょうか?
本島さんのメイクはまさにそんなメイクでしたよね。

最後、ビントレー芸術監督が登場したカーテンコールは、本当に感動的でした。
来シーズン以降も新国立バレエ、頑張ってほしいです!

ashitaさん、こんにちは。

私は記憶力がそんなに良くないので、細かくどこが違う、というのがわからないところもありますが、1幕の南の王のヘアスタイル、それから深海魚が毛ガニに変わったのはわかりました。
おっしゃる通り、主役ダンサーの力が付いたので、しっかり主役が存在感があったと思います。エピーヌのタコは笑えましたよね~。実はその前の日にフィリップ・ドゥクフレの「パノラマ」を観ていたのですが、そこにも同じようなタコが出てきたんですよ。本島さんは、エピーヌに続き、しらゆき姫では后、眠りではカラボスと3つ連続して悪役だそうですが、美しくも怖かったですね~。

来シーズンの新国立の演目はかなり萎えてしまいますが、バレエ団自体は本当に素晴らしいダンサーばかりなので頑張ってほしいし応援したいと思います。

naomiさん、こんにちは。
私も3キャストで観たのですが、キャストごとに登場人物の性格が異なっていて、登場人物の関係や作品から受ける印象が微妙に違っていたのが面白かったです。
来シーズンも応援したいのですが、私は九州に住んでいるので頻繁に初台へ通うのは難しいです。
その上、来シーズンの演目が古典ばかりなので、どうしようかと悩んでいるとこです。
(とりあえず、ダンサーを応援するために行って、アンケートに要望を書いてこようかな・・・)

heliosさん、こんにちは。

そうなんです、キャスト違いで観る楽しみがありましたね、今回!それぞれ違った個性を持っていたので楽しかったです。
九州から上京してご覧になったのですね。素晴らしい!新国立劇場バレエ団も、もっと地方公演を行うべきだと思うんですよね。民間のバレエ団がやっているのに、何でできないんでしょう。
それでも、ダンサーを応援するために来てくださるのは嬉しいことです。本当にこのバレエ団のダンサーの皆さんは素晴らしいですものね。

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