12/7 新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future ~Second Steps ~ NBJ Choreographic Group
新国立劇場バレエ団の中から振付家を育てるプロジェクト「Choreographic Group」は、ビントレー舞踊芸術監督の発案・監修のもと、新国立劇場バレエ団がコンテンポラリーダンスに出会う舞台「DANCE to the Future」の関連企画として行われてきた。
http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/131207_001623.html
昨年12月のFirst Stepsが好評につき、今回第二回が開催された。First stepsは平日昼間の公演で1日のみだったので観られなかった人も多かったようだが、今回は土日の2回公演。それでも、チケットは発売日に完売したという。前回は上演作品数が多くてまさに玉石混淆といったところだったが、今回は作品数を絞り込んだようである。
ふだんは群舞などでしか観られないコール・ド・バレエのダンサーがソロを踊ったり、自分の作った作品を上演したりして、違った一面を観られるのが魅力。また、こうした試みを通じて、表現力や新しい解釈をする力を身に着けるためにも、とても良い企画である。
<第1部>
①「フォリア」Folia 振付:貝川鐵夫 音楽:アルカンジェロ・コレッリ「ラ・フォリア」
出演:小野絢子、福岡雄大、堀口純、輪島拓也、田中俊太朗、川口藍
②「SWAN」振付:マイレン・トレウバエフ 音楽:ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリ「シャコンヌト長調」
出演:小野寺雄
③「春」Spring 振付:広瀬碧 ヤン・ティルセン「Déjà Loin」
出演:宇賀大将、奥田花純、林田翔平、広瀬碧
④「Calma」振付:今井奈穂 音楽:吉田靖「Octave of Leaves」、チャイコフスキー「無言歌Op2 No.3」
出演:今井奈穂
⑤「Chemical Reaction」振付:小笠原一真 音楽:U2「約束の地」
出演:湯川麻美子、丸尾孝子、輪島拓也、中田実里、原健太
-休憩-
<第2部>
⑥「ONE」振付:宝満直也 音楽:高木正勝「One by One by One」、マックス・リヒター「A Lover's Complaint」出演:宝満直也
⑦「The Celebrities, Part VI: The Post, Break-Up Depression of the Baroque Peacocks」
バロック孔雀の乖離後の憂鬱 音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィッチ「弦楽四重奏第11番ヘ短調」振付:アンダーシュ・ハンマル
出演:奥村康祐、丸尾孝子、大和雅美
⑧「球とピンとボクら...。」Ball, pin, and Us... 振付:宝満直也 音楽:レーサーX「テクニカル・デフィカルティーズ」
出演:小柴富久修、宝満直也
⑨「Side Effect」振付:福田圭吾 ロバート・フッド「Side Effect」
出演:八幡顕光、福田圭吾、五月女遥、高橋一輝
幕開けの貝川さん振付「フォリア」が非常にまとまっていてよくできた作品。このレベルだったら、本公演に出してもそん色のないクオリティだった。バロック的な音楽を用い、ナチョ・ドゥアトの作品を思わせるような振付言語が登場していて、女性の衣装も長いスカートだったりして、とても洗練されている。6人のダンサーの組み合わせ方やポジショニングなどの構成がユニークだったし、リフトもかなり登場するけれども、有機的に作用していて完成度が高い。暗い照明もひそやかな雰囲気にマッチしていた。そして小野絢子さんの踊りの軽やかでしなやかなこと。跳躍してもまったく音がしない。6人のダンサーたちの作り上げた世界観は独特のもので、思わず引き込まれた。
マイレンの「SWAN」は題名通り白鳥を表現しているのだが、男性版の白鳥であるところがポイント。音楽のセンスも良い。マシュー・ボーンの白鳥とはまた全然違ったものを作ってくれて、跳躍なども多用してダイナミックなソロを、若いダンサーが表現力豊かに踊ってくれた。海外出身のダンサーは、バレエ学校で作品の振り付けなども学ぶので、手慣れて一定のレベルのものを出してくれる。
広瀬さんの「春」は、男女二人ずつのダンサーが登場するかわいらしい作品。音楽のヤン・ティルセンと言えば映画「アメリ」でおなじみ。広瀬さんは、前回も作品を提供しており、その時に上演された「ドッペルゲンガー」がとても個性的で良かった。ダンス界にはまだまだ女性振付家が少ないので頑張ってほしい。続く今井さんの作品はソロで、こちらも女性らしさを感じさせつつも内省的な苦悩も表現したものであり、またクラシックのダンサーとは少し違った方向性を感じさせて興味深かった。今井さんは2/26-27「ダンスっておもしろい!? vol.7」にも作品を提供している。
小笠原さんの「Chemical Reaction」は、キラキラ光るメイクと迷彩柄の宇宙的な衣装で、存在感の圧倒的な湯川さんが女王のように君臨する作品。こちらもリフトを多用しているのだけど、音楽がU2なのにちょっと違和感を感じた。
宝満さんのソロは、椅子などの小道具も使い、上着のシャツを途中で脱ぎ捨てる。なぜかヨーロッパ的な香りがする作品。こういう作品なら、ドイツのバレエ団で踊られていても不思議ではない。宝満さんも振付け活動に注力しているようで、「横浜ダンスコレクションEX」でこの作品をもう一度踊ってくれる予定。(2月6日)このコンペティション部門の新人振付家部門の予選を突破したということである。
アンダーシュの作品は、ちょっとゴス風味の二人の黒チュチュ姿の女性と男性一人による異色のもの。強烈な女性二人の個性にやや奥村さんが押されていたようだったけど、なかなかユニークだった。少し長いのだが、前半はマッツ・エック風味の風変りさでとてもインパクトが強くて良かった。宝満さんの2作目は、打って変わってユーモラスなもので、小柴さんはまるでボウリングのピンのような着ぐるみを着用しており、ボールに扮した宝満さんと楽しい掛け合いをする。
最後の福田さんの「Side Effect」は、4人のダンサーの高い身体能力を生かしたエネルギッシュなものだったのだけど、どうしてもエアロビクスに見えてしまったところが、ちょっと微妙に感じられてしまった。五月女さんは、3人の男性に負けない強靭さで、このような作品は良く似合うと感じられた。
そんなわけで、今回もやや玉石混淆の出来ではあったものの、最初の貝川さんの「フォリア」のクオリティの高さには舌を巻いた。この作品に出演していた6人のダンサーも作品の世界観を非常によく理解していて、素晴らしいパフォーマンスだった。「くるみ割り人形」の準備で忙しい時期だっただろうに、オリジナルな作品を振付家、ダンサーで作り上げていったことは称賛されるべきだろう。また、宝満さん、今井さんが新国立劇場だけでなく、外部の公演にも自作を提供しているなど、振付活動に力を入れているのもとても良いことだ。
ダンサーが振付作品を発表するといえば、シュツットガルト・バレエの「ノーヴェル・ソサエティ」の「若手振付家の夕べ」の例が挙げられる。その成果として、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイス、最近ではクリスチャン・シュプックやマルコ・ゲッケが育っていったのだ。新国立劇場バレエ団も、ぜひこの意欲的な取り組みを続けて、日本発の優れた振付家を生み出してほしいと思った。また、群舞のダンサーなどが事故をアピールする貴重な機会でもあるから、継続的に実施してほしいと切に願う。
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