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2013/12/06

11/29、30 シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン「聖なる怪物たち」Sylvie Guillem & Akram Khan "Sacred Monsters"

シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー
「聖なる怪物たち」

http://www.nbs.or.jp/stages/1311_sacredmonsters/

芸術監督・振付:アクラム・カーン

ダンサー:シルヴィ・ギエム、アクラム・カーン

振付(ギエムのソロ):林懐民
振付(カーンのソロ):ガウリ・シャルマ・トリパティ

音楽:フィリップ・シェパード
およびイヴァ・ビトヴァー、ナンド・アクアヴィヴァ、トニー・カサロンガの歌より

照明:ミッキ・クントゥ
装置:針生康
衣裳:伊藤景
構成:ギィ・クールズ

演奏:アリーズ・スルイター(ヴァイオリン)
ラウラ・アンスティ(チェロ)
コールド・リンケ(パーカッション)
ファヘーム・マザール(ヴォーカル)
ジュリエット・ファン・ペテゲム(ヴォーカル)

http://youtu.be/txW41sShg-w

2009年に上演された時に観て、「大好き!」と思ったこの作品、再びの来日公演があったので待ち望んでいた。今年の1月にさいたまで上演されたアクラム・カーンの「DESH」を観たことで、よりこの作品の魂に触れることができたと思う。両作品とも、自分のルーツに迫ることがテーマであるからだ。

http://www.nbs.or.jp/stages/0912_sacredmonsters/movie.html

クラシック・バレエを踊ってきたシルヴィ・ギエムと、インド古典舞踊であるカタックの踊り手であったアクラム・カーン。男性と女性、かたや長身でほっそりしたギエムと、やや小柄、がっしりした体つきで浅黒いカーン。フランス人のギエムと、バングラデッシュ系イギリス人のカーン。クリスチャンのギエムと、イスラム教徒のカーン。バックグランドや外見は対照的な二人であるが、伝統を受け継ぎながらも、その伝統を打ち破り、新しい世界を開拓していったという点では、共通点がある。二人がお互いを縛るものと、どのように葛藤し、そして乗り越えていったかということが、彼らの話すセリフと踊りによって表現される。

針生康さんによるスタイリッシュでシンプルな装置に、同じくシンプルでややリラックスした衣装の二人。カーンは裸足で、ギエムも裸足にサポーターをつけているのみ。冒頭、自分を縛っていた鎖から手を放し、「黙って従順に過ごすことは問題外」と自分で答えを見つけることを選んだギエム。美しいクリシュナを踊りたいのに、髪が薄くなってきたので演じられなくなるのではないかと悩むカーン。二人の語り口は驚くほど率直で親しみやすく、時にはユーモアも交えている。

「あのクリシュナにはなれっこない。自分が怪物になってしまいそうに感じた。そしてそうすることになった」、それがこの作品の題名に結びつくのだが、もちろん、その「聖なる怪物」はカーンだけでなく、古典バレエから逸脱して自分の道を進むギエムにも当てはまるモチーフだ。

独白と対話。ギエム、カーンそれぞれの、圧倒的なダンステクニックを見せつけるソロ。二人のデュエット。舞台上で演奏される音楽と歌。セリフはほぼ決まっているものの、一部アドリブもあったし、踊りについても、まるでインプロビゼーションのように見える部分もあり、きっちりとした構成が決まっているというよりは、もっと緩やかで自由な感じだ。様々な固定観念や過去の葛藤から自由になり、お互いに敬意を払い共感し、そして二人で新しいものを創造していく、そんな力にあふれている。

シルヴィ・ギエムがミラノの本屋でチャーリー・ブラウンの本を読み、その中に出てきた彼の小さな妹サリーに共感する。楽しそうに縄跳びをしていたのに、突然泣き出すサリー。「突然、むなしくなってきちゃったの」と。「私も同じように感じたことがある。楽しいからと言って、踊りに没頭していていいの?そうしたいの?それでいいの?」自問自答する。あんなスーパースターで、強い女の象徴のようなギエムでも、心の中に無垢で素直な小さな女の子が住んでいるんだな、と実感した。その小さな女の子によって突き動かされているところもあるのだろうと。

ギエムとカーンのデュエットは、時には闘争のようで、まるでカンフーのような格闘技でも観ているのかと思うこともあった。しなやかでどこまでも強靭なギエム。竜巻のような超高速の回転、力強く音楽性が見事なカーン。異種格闘技なのだが、二人とも強くて美しい。ギエムを、彼女よりも背の低いカーンが向かい合って中腰でリフトし、お互いに背中をそらせて静止するポーズは、すさまじい身体能力がなければできないものであると同時に、静謐な美しさと、お互いの心が理解しあえたことを象徴していた。

そして最後にギエムが語る「emerveille(エマーヴェイユ)」(ポジティブに心を動かされること)。クリスマス・ツリーを目の前にした子供の例を出すも、うまくカーンに説明できずに試行錯誤するギエムだが、「こういう感激をいつまでも忘れないでいたい」という言葉には、改めて目を見開かされた。解き放たれて、自由で軽やかで無邪気な心た時に、涙があふれてきた。ポジティブなエネルギーが湧いてきた。そして自分自身も、自由になって、怪物になろうとも感激を求めていきたいなと思うのだった。を忘れないことが、感激を持ち続けることにつながっていくし、人を感動させることができるのだろうと。そう理解し

生演奏の音楽、特に歌が素晴らしく、和紙のような舞台装置の美しさと相まって、ひとつの総合芸術の形となっている舞台。だけど、形にははまっていなくて、自由な雰囲気が作り上げられていたのがなんとも気持ちよかった。

こちらで、おおよそのセリフのテキストを読むことができる。
http://www.nbs.or.jp/stages/0912_sacredmonsters/movie.html

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