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« オランダ国立バレエのガラ映像配信 | トップページ | ジョン・ノイマイヤー、ハンブルク・バレエの芸術監督の契約を2019年まで締結 »

2013/10/28

ワガノワ・アカデミーの人事―ロパートキナとツィスカリーゼが就任/追記

ここ数日、マリインスキー劇場の芸術監督ワレリー・ゲルギエフがワガノワ・バレエ・アカデミーの育成方針に不満を表明し、現在アルティナイ・アスィルムラートワが務めている芸術監督に別の人物を据えようとしている動きが、ロシアのメディアを賑わせていました。

そして、今日、イズメチヤ紙の記事によれば、ウリヤーナ・ロパートキナがワガノワ・バレエ・アカデミーの芸術監督に、そしてニコライ・ツィスカリーゼが校長に就任することが、文化大臣ウラジーミル・メディナから発表されたと報道されています。ロパートキナは引退するわけではなく、引き続きマリインスキー・バレエで踊り続けるそうです。

http://izvestia.ru/news/559618

ゲルギエフは、当初、かつての大スター、イリーナ・コルパコワをワガノワ・アガデミーの芸術監督に就任させようと考えており、先月コルパコワがサンクトペテルブルグに来た際にはアカデミーに立ち寄り、また最近ではゲルギエフがニューヨークに飛んで彼女を説得しようとしていました。1980年代ににアメリカに渡り、ABTで長年バレエミストレスを務めているコルパコワは、現在80歳の高齢。ロシア時代には共産党の幹部だったという事実もあります。彼女は、ワガノワのレベルの低下は嘆かわしいと語っていたそうです。もう一人の候補が、ニコライ・ツィスカリーゼでした。

この動きに関して、ロシア語の記事をまとめたIsmene Brown氏による英語の記事がここにあります。
http://www.ismeneb.com/Blog/Entries/2013/10/27_Gergiev_attacks_Vaganova_school_amid_Kolpakova_rumours.html

もともと、ゲルギエフは、マリインスキー劇場、リムスキー=コルサコフ音楽院、そしてワガノワ・アカデミーを一つの組織に統合して、自分が統合された組織の頂点を務めようという構想がありました。さらにミハイロフスキー劇場までも傘下に収めようと考えていたようです。この構想は、劇場関係者などには反対されてとん挫していたかのように見えました。しかし、ワガノワ・アカデミーの人事に介入することによって、ゲルギエフは政治的な力を強めようとしています。

ゲルギエフは、現在のマリインスキー・バレエのニーズに合った人材を、ワガノワ・バレエ・アカデミーが生み出していないとして、アスィルムラートワを解任する動きに出たのです。ウリヤーナ・ロパートキナやディアナ・ヴィシニョーワといったスターはいるものの、それに続くスターが出てきていないと。ところが、アスィルムラートワは優れた生徒を育てるために身を捧げており、現在のマリインスキー・バレエの団員の98%はワガノワ・バレエ・アカデミー出身です。

ワガノワ・アカデミー側では、この動きに抗議し、ゲルギエフ宛の公開書簡を発表しました。
http://www.vaganova.ru/page.php?id=265&pid=265&level=1

その中で、ボリショイアカデミー出身でボリショイ・バレエのプリンシパルだったツィスカリーゼと、長年アメリカで活動してきたコルパコワは、ワガノワ・アカデミーの首脳としてふさわしくないとしています。現在のワガノワ・アカデミーの教師陣はほとんどすべてワガノワ出身で、1738年設立の帝室バレエ学校以来の長い伝統を守り抜き、アグリッピナ・ワガノワの教授法を受け継いできました。

一方で、ここ4年の間、ワガノワ出身者のマリインスキーからの流出が顕著なことも、ワガノワ・アカデミーは指摘しています。近年に限らず、スヴェトラーナ・ザハロワに始まり、ミハイル・ロブーヒン、オルガ・スミルノワ、エフゲーニャ・オブラスツォーワがボリショイに移籍したのをはじめ、ミハイロフスキー、モスクワ音楽劇場バレエ、ウィーン国立バレエ、ドレスデン・バレエなど多くのバレエ団に才能が去って行ってしまいました。それは、ひとえにマリインスキー劇場でのマネジメント上の問題によるものとしています。

また、新たに新劇場マリインスキーIIが開場したものの、リハーサル室が不足しているためにワガノワ・アカデミーのけいこ場を借りてリハーサルが行われるなど、アカデミーの授業に支障が出る事態が起きているということでした。


さらに、ゲルギエフの縁故採用が常軌を逸しているとして、マリインスキー劇場の従業員145人が彼の解任を要求する署名を行うという動きもありました。
http://top.rbc.ru/spb_sz/14/10/2013/881983.shtml


実際、マリインスキー・バレエでは特に深刻な男性プリンシパル不足に見舞われており、現在の男性プリンシパルはたったの4人。しかもイーゴリ・コールプは最近はほとんど王子役を踊っていなくて、エフゲニー・イワンチェンコも年齢による衰えが顕著となってきました。ダニーラ・コルフンツェフは頑張っているもののすでに40代であり、若いプリンシパルはウラジーミル・シクリャーロフただ一人となっています。ワガノワ・アカデミーが指摘したように、ワガノワ卒業の優秀な生徒が他のバレエ団へと行ってしまう例も増えていて、カンパニーのレベルの低下は否めないところです。

こちらも、ツィスカリーゼのアカデミー校長を報道する記事です。
http://ria.ru/spb/20131028/973069558.html

6月30日にボリショイ劇場との契約を打ち切られたツィスカリーゼは、ボリショイ劇場のウリン総裁に、引退公演として大晦日に「くるみ割り人形」に主演することを提案されましたが、もう踊る意欲はなくなったとして断ったそうです。現在のワガノワ・アカデミーの校長は2004年より現職のヴェラ・ドロフェーワですが、その地位を彼が引き継ぐそうです。そして、アルティナイ・アスィルムラートワの後任である芸術監督にロパートキナが就任することになります。

教師として優れた手腕を持つと評判ではあったものの、ワガノワ・アカデミー出身ではないツィスカリーゼが、ワガノワの校長に就任するというのは、いったいなんなんでしょう…。

**********
日本語の記事も出ました。
名門バレエ校長に=ボリショイ劇場内紛で解雇のダンサー-ロシア
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201310/2013102800945&g=int

Isemene Brown氏のブログで、ツィスカリーゼのインタビューが紹介されています。
http://www.ismeneb.com/Blog/Entries/2013/10/28_Tsiskaridze__schooling_needs_to_be_as_good_as_Soviet_times.html

この件につき、初めて話が出たのは2012年9月のことだったそうです。ツィスカリーゼは、法律をモスクワ大学のロースクールで学んでおり、この経験も今回の人選において考慮に入れられたとのことです。

ツィスカリーゼは、マリインスキー・バレエとワガノワ・バレエ・アカデミーが統一した組織になることに賛成しており、ワガノワでは学んでいないものの、ロシア・バレエの継承者として自負しており、ソ連時代のバレエの教育水準が維持されるべきと語っています。(彼の師の一人は、ワガノワで学んだ名教師の故マリナ・セミョーノワであり、またもう一人の師故ピョートル・ペストフは、ヌレエフやバリシニコフを教えたワガノワの伝説的な教師プーシキンの教え子だった) ロシア・バレエの教育は間違いなく世界一であり、他の国からの品質保証は必要としないと。

なお、現ワガノワ・アカデミーの芸術監督、アスィルムラートワおよびワガノワで教えている夫君コンスタンティン・ザクリンスキーの今後については、まだ未定のようです。現校長のヴェラ・ドロフェーワについては、ミハイロフスキー・バレエの副芸術監督に就任することが内定しているとのことです。

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バレエ(情報)」カテゴリの記事

コメント

naomiさま、こんにちわ。
ゲルギエフの独裁っぷりもここまでくると、あきれてしまいます。
こんなことが許されていいんでしょうか。
ツイスカリーゼも、ボリショイのプライドはないのかしら?
ロシアという国の、いまだに存在する暗い部分を見ているような気がして、ロシア・バレエの未来に少々危惧を感じてしまいます。

ロパートキナには、まだまだ現役で踊り続けてほしい、ということと
ロパートキナの白鳥を引き継ぐ人材が育ってくれればと願っています。

ショコラ・ショーさん、こんばんは。

マリインスキーは、以前にもダンサーたちの待遇改善の直訴などの問題もあり、そしてダンサー流出の問題もかねてから話題になっていましたが、バレエのことをまったくわかっていないのに口だけは出すゲルギエフと、その傀儡のファテーエフのせいでかなりひどいことになってしまいました。もちろん、ゲルギエフは指揮者としては世界有数の素晴らしい人なんでしょうけど、プーチンとも親しく、ボリショイの総裁イクサーノフが退任した時にはボリショイの総裁の座まで狙っていたくらいで、ものすごい権力志向が強い人なんですよね。ゲルギエフとツィスカリーゼも近しかったと言われていました。(たまにツィスカリーゼはマリインスキー・バレエにもゲスト出演していたし、自分の名前の冠公演も行っていました)

ツィスカリーゼは、守旧派というか現代的な路線は否定していた人なので、最近目立っていた外国人の入団も今後は減るかもしれません。そしてロパートキナとうまくいくのかどうかも心配です。ロパートキナには、もっと踊り続けていてほしいですものね。

meiさん、こんにちは。

おっしゃる通り、ロパートキナにはまだまだ踊り続けていてほしいです。(つい先日、40歳の誕生日を迎えられたのですね)まだ現役で踊り続けるとのことですが、芸術監督の仕事が入ったら必然的に踊る機会も減りそうな気がするのが残念です。
そして彼女の跡を継ぐような白鳥バレリーナ、出てきてほしいですよね。彼女の白鳥は世界一ですから。

naomiさま、こんにちわ。
ほんとに、おっしゃるとおり、ロパートキナにはまだまだ現役で踊ってほしいものです。
バーレッスンすら芸術に見えてしまう、彼女の素晴らしさを受け継ぐ後継者の出現を心待ちにしています。

lこんばんわ。
ツィスカリーゼ、いいじゃないですか。マリインスキーの弱体化の救世主だと思います。ボリショイであれマリインスキーであれ、どちらもロシアバレエの重鎮組織です。そのレベル維持をできる人ならば、そして教えられる人ならば、どっちの出身でもいいです。
ツィスカリーゼの就任は大歓迎です。
ロパートキナにはまだまだ現役で踊ってほしいという気がしますが、彼女にも同じ気持ちがあると信じ出ています。

ニーナにいろいろお願いしてもいい感じだけどそうもいかないし。。。
グルジア人であってもロシアで不屈の精神でがんばり、周囲に認められ、圧力にも屈しなかったツィスカリーゼに大いにエールを送ります。そして稀有のダンサーであることも、、、、

本当はツィスカリーゼの踊りを見たいのですが、ここは我慢我慢。彼の子供たちに彼のDNAをみることができるのならば、ツィスカリーゼの踊りが見れなくとも私は我慢できます。

いつも素敵な情報、ありがとうございます。

ショコラ・ショーさん、こんにちは。

そうなんです、ロパートキナが現役を続けるにしても、ワガノワの芸術監督との兼任だと踊りに割く時間も減ってしまうでしょうからね。彼女がワガノワの生徒たちにその素晴らしさを伝えていくことは非常に大切なことだとも思いますが。

buminekoさん、こんにちは。

ツィスカリーゼの就任に関しては、いい部分と悪い部分があると思います。いい部分というのは、流派は違いますが、ロシアバレエ主義者ではあるし(たとえば、ミルピエがワガノワの校長になる、というほどかけ離れているわけではない)、マリナ・セミョーノワやピョートル・ペストフの教え子なので、多少はワガノワ派もわかっているところ。そして政界や財界とのパイプが強力であるということでしょうか。

悪い面は、やはり今回の件については、ワガノワ側にとっては寝耳に水の出来事であったようで、ヴェラ・ドロフェーワは、この発表で初めて自分が職を失うことを知ったそうですし、また何人もの教師が、こんな体制では教えられないと辞表を提出したということですし、生徒たちにも動揺が走っているようです。プロセスには大いに問題があるといえるでしょう。ワガノワ自体はきちんとした教育をしているのに、マリインスキーの体たらくはワガノワのせいだと、バレエを何もわかっていないゲルギエフに言われて芸術監督と校長を解任させるというのは、やはり間違っているとしか言いようがありません。バレエ団にたくさんのスケジュールを詰め込み、ほとんどドサ周りの海外巡業させて稼いだお金を、自分のオペラのプロダクションにつぎ込み、バレエダンサーやスタッフは薄給で労働争議が起きているような事態に追い込んだのも、ゲルギエフの責任です。
また、ロパートキナやツィスカリーゼがゲルギエフの言いなりになる可能性も大いにあります。

また、いうまでもなくメソッドも違いますし、ワガノワのメソッドはマリインスキーが受け継いでいくべき遺産であるので、それを変えようとするのはバレエの歴史そのものに対する冒涜だと思います。

ところで、このワガノワの校長、という地位は、少なくとも現在までは、芸術面というよりはアドミニストレーション的な業務を担っているようです。実際のところはどうなるのかはわかりませんが…。

こんにちわ。KOKOAです。
私もこの人事、騒動、気になっており・・・
アカデミーの生徒たちも「???」となっているようです。

アルティナイの娘が学校を卒業した途端に、この騒動ですからね。
ゲルギエフも政治、マネーに弱い人なのでしょう。
マトビエンコの時も、その「見えない力」が有りましたし。

ツィスカリーゼは、その顔つきから好きじゃ有りませんが(笑)
評価されている「教師の腕」を期待するしかありませんね。
ロパートキナの将来を考えての今回の人事かもしれませんが、
アルティナイの時の様に、現役を辞めない限りは良い芸術監督には
なれないでしょう。
優れた踊り手が、優れた指導者とは限りませんから。


KOKOAさん、こんにちは。

そういえばアルティナイ・アスィルムラートワのお嬢さんが今年マリインスキーに入団されましたよね。とりあえずアスィルムラートワは暫定的にはアカデミーに残るようですが、果たしてどうなることなんでしょうか、ほんとうに心配です。ワガノワ=ロシアバレエそのものですからね。

ゲルギエフは政治的な野心がとても強いようですし、一方ツィスカリーゼには多分そこまでの野心はないものの、影響力の強い支持者がいるようですよね。バレエに全く関心のないゲルギエフと違って、ツィスカリーゼはロシアバレエ自体は愛していると重いますが。

そう、仰るとおり、アスィルムラートワは芸術監督に就任された時に現役は退かれましたものね。とりあえずロパートキナが就任しないことになったのは良かったと思います。

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