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2013/07/16

6/23 シュツットガルト・バレエ「クラバート」 Stuttgart Ballet "Krabat"

今年の3月に世界初演された新作「クラバート」。ドイツのみならず世界中でベストセラーとなっている児童文学の傑作を原作に、まだ27歳というコール・ド・バレエ所属の振付家デミス・ヴォルピが全幕作品を振りつけた。この作品の成功で、デミスは、シュツットガルト・バレエ専任振付家に任命された。とにかく大人気を呼んだこの作品、チケット争奪戦は大変なもので全公演ソールドアウトとなり、来シーズンは12回の再演が決定している。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2013-06-06/krabat/

CHOREOGRAPHY Demis Volpi
MUSIC Peteris Vasks, Philip Glass, Krzysztof Penderecki, Mühlenmusik
CONDUCTOR James Tuggle
LIBRETTO AND DRAMATURGY Vivien Arnold
STAGE AND COSTUMES Katharina Schlipf
LICHTING Bonnie Beecher
TRICKTECHNISCHE KONZEPTION Andreas Meinhardt
CHILDREN'S CHOIR rehearse and direct Christoph Heil,
ORCHESTRA Staatsorchester Stuttgart
22. März 2013

HERR GEVATTER(ゴッドファーザー) Sue Jin Kang
THE MASTER Marijn Rademaker
KRABAT David Moore
THE KANTORKA Elizabeth Wisenberg
TONDA Alexander Jones
WORSCHULA A|licia Amatriain
PUMPHUTT(デカ帽) Angelina Zuccarini
JURO Arman Zazyan
MERTEN Matteo Crockard-Villa

宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」にもインスピレーションを与えた原作は、児童文学でありながら、善と悪、人智を超えた力をどう使うか、自由とは何か、そして愛と人生の意味も教えてくれる、味わい深く幅広い年齢層に愛されている作品だ。ひょんなことから水車小屋で働くことになった孤児クラバート。彼を含む12人の少年が、親方の下で働いているのだが、やがて彼らは親方によって魔法の使い方を教えられる。最初は不思議な力を身につけられることにワクワクするクラバートだったが、そこには恐ろしい代償があった。彼らは、毎年一人ずつ仲間が死んでいくという呪われた事実に直面する。ここを抜け出す道はただ一つ、彼を愛する女性が愛の試練に打ち勝つこと。ただし、この試練に失敗した時には、二人には死が待っている…。

ドイツの仄暗く鬱蒼とした森の中で繰り広げられる魔術的な物語なのだが、この作品の成功は、圧倒的なインパクトを持つビジュアルに負うところが大きい。水車小屋で少年たちは労働に勤しみ小麦粉を挽くため、うずたかく小麦粉の袋が1000個も積み上げられていて、この小麦袋を日々運搬する彼らの抑圧感を表現することに成功している。黒を基調としたモノトーンの衣装はスタイリッシュで、時にはカラスに変身する少年たちの姿も違和感がない。そこに背景が描かれているバックドロップが降りてくるだけで、水車小屋は、少女たちが歌う草原に変貌する。親方も歯が立たない大親分の造形デザインに至るまで、視覚的なセンスの鋭敏さは大きなインパクトを与えてくれる。少女たちは薄い半透明の仮面をかぶっていて、その仮面に目や口が描かれているが、感情が交わるとその仮面が剥がれる。

Krabat3_253

デミス・ヴォルピは、少年たちのダイナミックな群舞やクラバートのソロの振付についてはとても現代的なアプローチで迫っている一方で、水車小屋の職人頭でクラバートに大きな影響を与え、そして悲劇的な死をと遂げるトンダと、その恋人ヴォルシューラのパ・ド・ドゥはクラシカルでとても美しく描いており、それは終盤のクラバートとカントルカ(歌う少女、という意味)のパ・ド・ドゥにも結びついてくる。巨大な悪として描かれている親方は、長い黒いコートを着用して基本的には踊らない役なのだが、2幕で現れた謎の魔法使い「デカ帽」との対決では、一転して激しいアクションを見せる。

この作品のクライマックスの一つが、デカ帽と親方との対決シーン。原作では男性だったデカ帽だが、ここではパンキッシュな少女が演じており、ロック少女から着物の和装、カウガールと早変わりしながら、アクション映画さながらの驚異的な身体能力を見せるアンジェリーナ・ズッカリーニが鮮烈な印象を与えた。(なお、別キャストではこの役は、森田愛海さんが演じていた)親方を演じたマライン・ラドマーカーは、ここではスキンヘッドに眼帯という姿で、カリスマ性たっぷりに圧倒的な悪人を体現した。そんな彼も、デカ帽との対決では長い上着を脱ぎ鋭敏なアクションを見せつつも、やりこめられそうになったところにその人間性の一端を見せる。

二人の悲劇を暗示させるかのようなトンダとヴォルシューラのパ・ド・ドゥは儚く夢のようで、アリシア・アマトリアンの柔軟な肢体が雄弁に語り、アレクサンダー・ジョーンズの見事なパートナーリングも相まって強い印象を残した。そして3幕では、クラバートとカントルカが愛の試練について話し合うところをパ・ド・ドゥに置き換え、クラバートの決意を込めた力強いソロまでの流れを、物語が手に取るようにわかるよう表現しており、ここにヴォルピの振付家としての手腕の鮮やかさが見て取れる。クラバートとトンダ、そしてのろまなユーロとの友情、カントルカとの出会い、愛の試練と親方の破滅と、余計な部分を削ぎ落とし、物語バレエとしての話の流れを巧みに伝えられることができているのは、ドラマツルギーの専門家を入れて、丁寧に構成した成果であろう。

(「クラバート」制作に当たってのプロセスの日記も大変興味深い)

フィリップ・グラスなど既存の音楽を中心に現代曲で作り上げた音楽もとても効果的で、中でも少女たちの歌を表現した児童合唱によって清冽な印象が、全体的にはダークな物語の中で光のように差し込むようになっているのは感動的である。カントルカの歌声に魅せられて、クラバートが彼女に恋をして、閉塞的な毎日の中での希望の光としているのがよく伝わってくる。バレエというものが、振付だけでなく、音楽、美術、物語を含む総合舞台芸術である所以を感じさせる作品だ。

原作が3年間の物語であり、1年間の出来事を1章ごとに分けている構成であるため、この作品も3幕仕立てになっている。そのため、少々長く感じられる部分がある。また、12人の魔法使いの少年たちが登場するという魅力的な設定の割には、案外彼らの踊りのシーンが少なく感じられるなど、欠点がないわけではない。しかしながら、人気のある原作を元に、ひとつの長編バレエ作品として破綻なく、斬新さも持ちながら子供から大人まで楽しめる娯楽作品に仕上げたヴォルピの才能は見事なものだ。このような若い振付家に、大きな予算の大作を任せるという賭けに出て、大成功に導いた劇場の決断力と実行力も素晴らしい。特に親方とデカ帽の対決シーンは子供たちには大人気だったようで、大きな喝采を浴びていた。

クラバート役のファースト・キャストをみずみずしく演じたデヴィッド・ムーアがソリストに、しなやかで能弁な腕の動きで少女カントルカ役を表現したエリザベス・ワイゼンバーグがデミ・ソリストに昇進した。また、別キャストでクラバート役を演じたダニエル・カマルゴがプリンシパルに、デカ帽役の森田愛海さんがデミ・ソリストにと、若手ダンサーに大きなチャンスを与えた作品ともなった。ヴォルピ始め若手にチャンスを与えるシュツットガルト・バレエの勢いも感じさせたのが、この「クラバート」である。

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原作も素晴らしいので、ぜひともご一読を。大人が読んでも惹きつけられる作品です。

クラバートクラバート
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