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« マリインスキー・バレエ「ロミオとジュリエット」インターネット中継 | トップページ | マシュー・ボーンの「ドリアン・グレイ」7月にオーチャードホールで上演 »

2013/03/04

2/23 シュツットガルト・バレエ「ロミオとジュリエット」Stuttgart Ballet "Romeo Und Julia"

シュツットガルト・バレエのロミオとジュリエットを観るのは、2年半ぶり。この傑作を、スージン・カンという稀代の女優バレリーナで観られた幸せを今も噛み締めている。

http://www.stuttgarter-ballett.de/spielplan/2013-03-08/romeo-und-julia/

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(劇場前の池は凍り、雪がちらつく氷点下の寒い気候だった)

この作品、2012年12月には初演50周年を迎え、初演キャストを含むオールスターキャストで特別公演が行われた(乳母役にマリシア・ハイデ、キャピュレット夫人にビルギット・カイル、ロレンツォにエゴン・マドセン、ヴェローナ大公にレイ・バラなど)。そのため、プログラムも50周年仕様で、過去の名演の写真をたくさん収めた大変豪華なものが販売されていた。

シュツットガルト・バレエでも「ロミオとジュリエット」は、「オネーギン」よりもチケットの売れ行きがよく、最もチケット入手困難な演目の一つ。キャストが発表された公演1ヶ月前には一枚もチケットが残っていなくて、大変な苦労をして入手した。当日券を求める長い列もできていたが、買えなかった人も多かったようだ。

振付:ジョン・クランコ John Cranko
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ Sergej Prokofjev
装置・衣装:ユルゲン・ローゼ Jürgen Rose
初演:1962年12月2日 Uraufführung: 2. Dezember 1962, Stuttgarter Ballett

キャスト
ジュリエット:スージン・カン Sue Jin Kang
ティボルト:マッテオ・クロッカード=ヴィラ Matteo Crockard-Villa
パリス:ニコライ・ゴドノフ Nikolay Godunov
キャピュレット夫人:メリンダ・ウィザム Melinda Witham
乳母:リュドミラ・ボガート Ludmilla Bogart

ロミオ:エヴァン・マッキー Evan McKie
マキューシオ:フィリップ・バランキエヴィッチ Filip Barankiewicz
ベンヴォーリオ:ダニエル・カマルゴ Daniel Camargo

3人の娼婦:エリサ・バデネス、ラケーレ・ブリアッシ、マグダレーナ・ズィエゲルスカ Elisa Badenes, Rachele Buriassi, Magdalena Dziegielewska
ロザリンド:ミリアム・カチェロヴァ Miriam Kacerova
カーニバルの踊り:ローランド・ハヴリカ、マリーヤ・バットマン、ヘザー・マックアイザック、ルイス・スティエンス、パブロ・フォン・ステーネンフェルズ Roland Havlica Mariya Batman Heather MacIsaac Louis Stiens Pablo von Sternenfels

指揮:ジェームズ・タグル James Tuggle

シュツットガルト・バレエの至宝スージン・カンとエヴァン・マッキーが主役で共演するのは初めてのこと。1967年生まれでもうすぐ46歳のスージンの主役を観る機会も、もしかしたら減ってしまうのかもしれないと思って観に行くことにしたのだけど、彼女の全く衰えを知らないテクニックと表現力には恐れ入った。スージン、来年にはオーストラリアのバレエ団で全幕新作に主演するそうで、まだまだ当分踊る姿を観られそうだ。

華奢なスージンは、これが「椿姫」のマルグリットや「オネーギン」のタチヤーナを演じたのと同じ人とは思えない、とても愛らしい少女ジュリエットとして登場。どちらかといえば大人っぽい容姿なのに、一挙一動がピュアでイノセントで、14歳と言い張ってもいけるくらいなのがすごい。とても情感豊かなのに、表現は自然でさらっとしている。何より柳のようにしなやかな肢体が美しく、キープされている時のポジションもきれいに決まっている。スージンはジュリエットとして等身大で舞台の上で生きて、恋をして、大人の階段を駆け上がり、あっという間に駆け抜けていく。その心模様が手に取るように伝わってきて、観客も一緒に微笑み、胸を痛め、そして泣くことができるのだ。パリスとの結婚を強制され、両親に冷たく拒絶された時の傷ついた様子の痛ましさは、特に心に響いて胸がつぶれる思いがした。

エヴァンがロミオを踊るのはまだ3回目。正直ロミオ役は彼の得意な演目ではない。エヴァンはエレガントで知的な雰囲気の持ち主であるため、若くて未熟なロミオのイメージはあまりない。そこをなんとか外見からでもイメージを近づけるため、エヴァンは髪を短く切って若く見せようとし、マキューシオ、ベンヴォーリオの三馬鹿トリオで戯れる時にはとっても元気よく踊っていた。マキューシオにフィリップ・バランキエヴィッチ、ベンヴォーリオ役はまだ20歳だけどすでにドン・キホーテのバジル役で成功を収め、確実にプリンシパルに近いうちに昇進するだろうダニエル・カマルゴ。3人で繰り広げられるパ・ド・トロワで、このバレエ団の男性ダンサーの充実ぶりを実感。クランコ版のこのシーンは、トゥールザンレールの連続であり、リズミカルな音楽にぴったり合わせて跳ばなければならないので、テクニックが試される。3人とも素晴らしかったのだが、その中でもエヴァンの着地の美しさ、柔らかいプリエはひときわ際立つ。ジュリエットとの出会いのシーンでは、彼は持ち前のノーブルさを発揮させながらも、同時にとても熱い視線をジュリエットに送っていて二人の気持ちが早くも燃え上がっているのが見え、パリスがものすごく彼に嫉妬しているのを感じた。

クランコ版ロミオとジュリエットのバルコニーシーンは、バルコニーから一段、一段とロミオがジュリエットを抱き上げて優しく下ろしていくところがとてもロマンティック。ここでのスージンは実に初々しくて可愛らしい。エヴァンのロミオは、やはり落ち着いていて気品があって王子様のようだし、ほかのロミオ役ダンサーの方がきっと甘い雰囲気は出せると思う。でも、彼らしい美しいロミオになっていた。なんといっても、あの長い手脚が描くアラベスクやポールドブラの軌跡が目に鮮やかな上に、きれいに5番に入るトゥールザンレールの着地、止めるべきところでピタッと止まる技術。特にクランコ版独特のトゥール・ザン・レールの後に前にカンブレして、そこからラッベルセをする時の腕の優雅さと柔らかい背中、伸びやかなアラベスクの美しさにはうっとり。2幕のヴァリエーションで見せたいつまでも続くピルエット、綺麗に高く上がるシソンヌもそうなのだけど、彼のテクニックは確実に磨かれている。あの並外れた長身をコントロールするテクニック、かつては不安定さもあったのが、今ではそんなところは微塵もなく、クラシックバレエの美しさをすみずみまで堪能させてくれるのだ。何より、スージンとは初めて組むとは思えないくらいパートナーリングが良かった。マクミラン版とは似ているようで違うクランコ版ロミジュリは、ジュリエットを逆さまにリフトしたり、中途半端な高さで回転させたり、フィッシュダイブさせたり大変難しいのだけど、びっくりするほどスムーズだった。同じくラインが美しくたおやかなスージンの踊りとエヴァンの動きが見事にシンクロしていて、音楽への乗せ方も流麗で、それはそれは美しいパ・ド・ドゥに仕上がっていた。懸垂キスを交わしたあと、走り去っていくロミオと手を離し、甘美な余韻に浸るスージンの満ち足りた姿を見ていると、じんわりと胸にこみ上げてくるものがあり、幕が下りてからの観客の熱狂ぶりもいつになく熱いものだった。

でも、スージンにしてもエヴァンにしても、彼ら本来の持ち味が発揮されていくのは、2幕以降、物語が暗転するところから。特にエヴァンは、本来の持ち味がダークな人なのだと思う。親友マキューシオを殺されて怒りを炸裂させ、激しくティボルトを追い詰めて息を止めるまでの暗い情熱。3幕のジュリエットとの寝室のパ・ド・ドゥの、お互い愛する人と引き裂かれる悲しみ。こういうところのシリアスな演技はさすがにお手のものだ。3幕は、このパ・ド・ドゥくらいしかロミオの見せ場はなくてジュリエットの独壇場。どんなことをしてもロミオと一緒になると決意し、死の恐怖に震えながら薬を飲み、そして目を覚まして事切れているロミオを見つけたときの慟哭。ジュリエットの心の揺らぎ、迷いを経ての決心が細やかにナチュラルに伝わってきて、思わずのめり込んでしまう。クランコ版「ロミオとジュリエット」のラストは、ジュリエットがロミオを背後から抱きしめながら死んでいくのだけど、ベッドの上を這いつくばるマクミラン版よりずっと美しい幕切れ。(参考写真) 恋を知り、悲しみを知ったことでわずか数日で急に大人の女性へと変貌していくジュリエットだけど、それでもロミオへの思いを死によって遂げようとした彼女は、最後まで14歳の女の子のままのイノセンスと透明感を持ち続け、その痛ましさが胸に強く響いた。

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「ロミオとジュリエット」というと、多くのカンパニーで上演されているマクミラン版が最もメジャーだが、友人であるジョン・クランコの「ロミオとジュリエット」を観てインスピレーションを得たケネス・マクミランが自身の振り付け版を発表したのは有名な逸話だ。この二つはよく似ているように思われるが、基本的に大きな違いがある。マクミランは、作品の意図として、惨めに死ぬ愚かな若者たちを描きたかったと語っている。仮死状態というかほとんど死体のジュリエットを大きく振り回す終幕のパ・ド・ドゥ、両家の戦いでうずたかく積み上げられた死体。マクミラン版では”死”の匂いが色濃いし、パリスに至っては、ロリコンで、無理やり力づくでジュリエットをモノにしようとする卑劣さを感じさせる。

一方、カーニバルの熱気の中で繰り広げられるクランコ版では、両家の争いにおいても舞台は市場で、野菜が飛び交う陽気なものだし、2幕のマンドリン・ダンスでは道化師たちがユーモラスに踊る。娼婦たちも、マクミラン版のように「マノン」から抜け出たような退廃的な存在ではなく、ジプシーのようで、底抜けに明るい。ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの3人がお互いの体をぶつけ合って戯れる様子は無邪気で元気いっぱいだし、足踏みが多用される振り付けには、若さと力強さがみなぎっている。ロミオのキャラクター自体も、馴染みの娼婦と遊んでみたりロザラインに迫ったりして、かなり積極的。直情的で、生命力に溢れていて、”陽”のイメージだ。群舞にもそのイメージは貫かれており、2幕のフォーメーションにも、祝祭性の高さが感じ取れる。

この生き生きした感じを出すためには、コール・ドに至るまで高度なダンステクニックが必要だし、3人の娼婦役は特にキャラクター色の強さが求められる。さすがシュツットガルト・バレエはクランコ作品を踊るためのバレエ団だけあって、このあたりは全くぬかりがない。3人の娼婦の中では、まだ20歳にして「ドン・キホーテ」のキトリ役の初日を飾り、プリンシパル昇格がほぼ決定しているエリサ・バデネスの身体能力の高さが目を引いた。小柄な彼女は可愛らしく、奔放に踊る姿が印象的。ベンヴォーリオ役のダニエル・カマルゴはエリサとペアを組むことが多い期待の若手で、彼のテクニックもシャープな跳躍などが素晴らしく、2幕のソロでは540を鮮やかに決めていた。マキューシオには、日本でもお馴染みのフィリップ・バランキエヴィッチ。クランコ版のマキューシオは長いソロがあったり、これでもか、と思うくらいトゥールザンレールやドゥーブル・アッサンブレ、ピルエットなどテクニックが詰め込まれているのだが、さすがに彼はその辺り達者で、実に鮮やかに決めてくれた。ティボルトに刺されて死に至るまでのマキューシオの演技がまた、泣かせるのだ。お調子者のマキューシオが、痛みに耐えながらも精一杯虚勢を張ってひょうきんに振る舞い、ロミオとベンヴォーリオに両脇を抱きかかえられ、寂しく微笑みながらがくっと首を傾け死んでいくさまには胸を痛めずにはいられない。バランキエヴィチのもつちょっと皮肉で斜に構えた感じが、この役にいいスパイスを加えている。

回廊を使うことでドラマ性をさらに強くさせているユルゲン・ローゼの美術も印象深い。3幕の寝室に使われるブルーのドレープはドラマティックだし、回廊の上でのジュリエットの葬列、そこから彼女の遺体(仮死状態だが)が墓所へと下ろされていく舞台効果には目を奪われる。キャピュレット家の宴で正体を暴かれるロミオの周りを、黒い旗が取り囲む演出は恐怖感を喚起させる。舞台美術の持つ力を実感させる見事なプロダクションだ。

シュツットガルト・バレエで「ロミオとジュリエット」が最も人気のある演目の一つである意味を改めて実感した。そして、スージン・カンとエヴァン・マッキーがパートナーシップを深め合って、ほかの演目でもそれを見せて欲しいと願った。特にスージンとエヴァンの「オネーギン」は絶対に見てみたい組み合わせの一つである。スージン、いくら今でも全盛期に近いテクニックを誇っていても、今45歳の彼女がいつまでも踊れるわけではないので、彼女の主演映像をぜひ収録して欲しいと思うのである。そして彼女の類まれな演劇性を、エヴァンが吸収して彼の芸術をさらに高めて欲しいと強く感じたのであった。

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コメント

お久しぶりです。
エヴァンのロミオって、とても以外です。でもNAOMIさんのコメントを読むと、とても魅力的で、今までとはまた違うイメージのロミオのようですね。私も是非見てみたいです。
11日にユニバーサルバレエ団の白鳥でエヴァンが王子を踊るのを見に行きます。白鳥の王子って、あまり好きなキャラクターではないのですが、エヴァンのことだから、きっと少し陰のある素敵な王子を見せてくれると信じています。ま、どんな役にせよ、エヴァンの踊りを見られるだけでも嬉しいんですよね、実は。^^;

HESSさん、こんばんは。
そうなんです、エヴァンはロミオは今まで2回しか踊ったことがなく、ロミオデビューはオネーギンデビューのあとでした。彼のイメージとはちょっと違う役でしたね。でもとても素晴らしいパフォーマンスなので、日本か韓国でもぜひ踊って欲しいと思います!
白鳥の湖は、やっぱりどうしてもオデット/オディール中心のバレエで王子の影はちょっと薄いのですが、でもユニバーサル・バレエの白鳥は4幕がちょっとドラマティックだし、きっと素敵なことでしょう。シュツットガルト・バレエで踊られているクランコ版の白鳥の彼も素敵でしたからね。

いつも詳細なレポートありがとうございます。スージンとエヴァンですか!うらやましい組み合わせですね。
ただ、私はロミオ(や、アルマン)のような”若さにのめった”感のある役はマラインでぜひ見たいな~と。5月のロシア公演では実現しないのでしょうか?。キャストが確定していれば追っかけも厭わないです・・・^^;

penguinさん、こんばんは。

お返事が大変遅くなってしまってごめんなさい。

「ロミオとジュリエット」、確かにロミオのキャラクターって若さにのめった感じなので、それを考えるとやっぱりエヴァンはちょっと落ち着いているかなと思いました。(彼はどちらかといえばパリス役を演じることが多い)
そう言う意味では、マラインの方が合っている感じがしますね。ボリショイ劇場でのロミオとジュリエット、ファーストキャストはフリーデマン・フォーゲルの可能性が高いと思います。2回公演なので、もしかしたら2回目はマラインかもしれませんね。5月5日のガラは、クランコの素晴らしい「Initials」を上演するので、多分すごく見ごたえがあると思います。

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