K-BALLET COMPANY 「シンデレラ」イベント (2/15 開催)
K-BALLET COMPANYは3月6日~10日、Bunkamuraオーチャード・ホールにて、熊川哲也演出:振付の「シンデレラ」を上演します。
http://www.k-ballet.co.jp/performances/2013-cinderella
公演に先駆けて、今回3公演で主演する松岡梨絵さん、宮尾俊太郎さん、そして衣装製作を手がけられた工房いーちの林なつ子さんを招いてのイベントに招待していただきました。ここでしか聞けないような、たいへん興味深いお話を伺えた他、ダンサーさんたちの素顔も垣間見えて楽しいイベントでした。特に衣装にまつわるエピソードにはワクワクしました。バレエの衣装の仕事って、ものすごい職人芸の世界なのですね。
先日再放送された、「シンデレラ」の特別番組「熊川哲也の死ぬまでに一度はバレエを」の録画を見て予習してきました。熊川さんの徹底的なこだわり、バレエに対する思い入れを改めて確認。ハイアートはわざわざ観客のために下りてくる必要はない、という熊川さんの考え方には、とても共感します。
まずは「シンデレラ」の30分ほどのダイジェスト映像を見せていただきました。前回上演の際には生の舞台は観られなかったのですが、ダイジェストで観てもとても面白い作品に仕上がっていました。ロイヤル育ちの熊川さんらしく、演劇性がたっぷりあって、脇役のキャストまでしっかりと演技しているのがわかります。なんといっても衣装と舞台装置が豪華。日本で制作されたとは思えないほど重厚で華麗かつスタイリッシュです。それでいてちょっとだけアヴァンギャルドさ、新鮮さがあります。12時のシーンがとても凝っていて、時計の針を模したダンサーたちが登場したり、不気味な雰囲気で覆われたりしていて、とてもドラマティックな演出です。男性ダンサーたちの見せ場もたっぷりあります。松岡さんのシンデレラは、少しだけ大人っぽくてとっても美しい。
さて、イベントはTBSの安東弘樹アナの軽妙な司会進行で和やかに行われました。
「演出、舞踊、技術のレベルの高さはまさに”熊川ワールド”」
まずは、公演のイメージビジュアルにも登場している松岡梨絵さんが、彼女自身から見たシンデレラ像について語ってくれました。赤いワンピースに身を包み、スラリとしていてスタイル抜群、とても美しい方です。話し出すと、とても可愛らしく一生懸命なイメージで好感度大です。
「シンデレラは、温かくて健気で、それを前面には出さないけど芯の強い女性です。だれかの真似ではなく、自分ならではのシンデレラとして演じました。2幕で美しい衣装に変身した時に、お客さんがジーンとするように、1幕ではかわいそうな女の子として見えるように、演技を頑張っています。最初に踊った時に、ディレクターに、『綺麗な衣装に変身したのに当たり前のように見えてしまっている』と言われてしまったので、そうならないように気をつけています」
(暗いスタジオで、携帯でフラッシュなしで撮っていますが、松岡さんは超美人です)
長身でハンサムな宮尾さんは、いかにも王子様という容姿です。「王子の役作りですが、シンデレラの王子は一番シンプルな王子で、王子のストーリーがないので、誰が観ても理想の王子として演じなければならず、それが難しいので頭を悩ませています。初演の映像を自分で観たら、ひどいものでした。もっとうまく演じられるよう努力したい」と謙虚で向上心あふれるようす。テレビドラマや映画俳優としても活躍する宮尾さん。最近ではボクサーの役を演じました。「ダンサーも結局いろんな役を演じるので、取り組み方はドラマもバレエも同じです。役のバックグラウンドや日常の研究から入って役作りしていく工程は変わりません。撮影現場とバレエと違うのは、ドラマだと撮り直しができることで、緊張感が違います。また、自分を第三者目線で見ることができたり、人の演技に対して受ける芝居、応える芝居の勉強にもなります」
K-BALLETの「シンデレラ」ではどこを見て欲しいですか?
松岡さん:「カーテンが開いてからすべてが見所です。プロコフィエフの音楽は難しく、一番難しいのは演技をしながらの音の取り方です。ちょっとでも動きと音が違ってしまうと、すぐにディレクター(熊川さん)から『違う!』って言われてしまいます。音はなかなかつかめませんでした」「コメディ要素もけっこう多いのです。義理の姉たちや母とのやり取り、ダンス教師とK-BALLETならではのエンターテインメント性があり、うまく笑いを誘うようにできています。ユーモラスなシーンがあって客席から笑いがあると嬉しいし、ホッとします」
宮尾さん:「本音を言えば僕だけを見て欲しい(笑)。『シンデレラ』はものすごく世界観が完成されています。セットが段のところが上がっていて不思議な世界です。演出、舞踊、技術のレベルの高さはまさに”熊川ワールド”」
「この作品は、緩急がついていて、いろんな感情が込められます。シリアスなシーンが続くとお客さんも疲れちゃうので」
「一枚一枚手で染められている衣装!」
ここで、K-BALLETのカンパニー衣装の制作を、カンパニー旗揚げから担当している林なつ子さんが登場します。林さんは、K-BALLETの他、新国立劇場バレエ団、新国立劇場のオペラの衣装なども制作されている方です。とても話が上手な方で、思わず引き込まれてしまいました。ダンサーの二人とも話の息がぴったり。
熊川哲也さんの作品の衣装は、ロイヤル・バレエなどのデザインも担当されているヨランダ・ソナベントがデザインしています。
林さん:「舞台の衣装デザイナーは、舞台の人、ファッションデザイナー出身など色々なキャリアの方がいますが、ヨランダは本当は絵描きさんです。彼女の絵は写実的な絵ではなく、どこから出てきたのか、という、なかなかないデザイン、発想のものが多いのです。熊川さんも大変気に入っています。私は『シンデレラ』で5作目で、苦労してきましたが、衣装ができた時には面白いです。彼女は、普通の生地をそのまま使わなくて、全部ムラ染めをします。一色ではなくて、ちょっと赤、黒などが入っていたりして、業者さんはできなないので、普通のガスコンロにかけて手作業で染めています」
「形も、これは一体どうなっているのか、というのを絵から見て衣装にするのが、次に大変です。とにかくバレエの衣装というのはダンサーをきれいに見せなければなりません。シンデレラ役の衣装は、1幕では「なんてかわいそうなの、こんなのを着せられて」そして2幕で変身した時にはお客さんをあーって思わせないといけません。『シンデレラ』の衣装の枚数はおよそ150着ですが、『白鳥の湖』よりは少ないです。一つ一つ、ダンサーそれぞれの寸法に合わせて違っていて1着1着オートクチュールのように作っています。シンデレラ役は4人いて、K-BALLETは昼夜公演もあるので過酷だし、汗でびしょびしょになってしまうので使い回しではなく一人一人に合わせて製作しています」
「ライティングも考えて衣装の色を決めています。材料を選んで色はこれ、と決めても照明で全然衣装の色が出してもらえないこともあるので、照明の人との掛け合いをします」
(すごく和やかで息の合った会話が弾む宮尾さんと、林さん。安東アナに「付き合っているんじゃないの?」って言われるほど!)
松岡さん:「衣装は、その役そのものにしてくます。なつ子さんの衣装はキレイに見せてくれるし、一点ものに近いし、デザインも素敵だし、うまく踊れる気がします」
宮尾さん:「衣装は本番前のスイッチの役割を果たしています。物語の人物になれます」
林さん:「表に立つ人の精神状態がとても大切なので、衣装作りではそれを気をつけています」
「四季の精の代わりにロウソクやティーカップの精」
「K-BALLETならではの衣装の『シンデレラ』の特徴としては、熊川さんと打ち合わせをしている時に、通常の『シンデレラ』の四季の精でなくてもいいんじゃないかな、という話から、そこにあるロウソクが踊ったら面白いのでは、という発想になり、どんどん話が大きくなって、花が飾ってあったのが踊る、ロウソク、ティーカップ、それぞれの妖精になったら面白いのではとなりました」(ここで、安東さんから「団長は思いつきの人だから、というツッコミが入り、慌てて「ひらめきの人」と言い直していました(笑))
松岡さん:「四季の妖精が、シンデレラの家の中にあるもの、普段シンデレラことを見ていた生きていないモノたちが彼女の守護神になってパーティに連れて行ってくれるというのはすごく好きな演出ですね」
宮尾さん:「踊りに関しては大変なこともあります。公演の最中に振りが変わることもあるのは大変だけど、ディレクターはお客さんのことを考えて変えて行って、お客さんの反応もいいので、団長はすごいセンスがあると思います」
公演中にダンサーの体型が変わることもあるのでは?と安東さんが聞くと
林さん:「ハードな稽古で汗をかくし、生地も生きているので、できたばかりだと結構硬くてつらいのですけど、馴染んできます。でも馴染みすぎると今度はゆるくなります。女性の場合はこういうことが多いですね。男性は女性をリフトするので力が入り、腕がきついこともあります」
ここで質問タイムとなりました。
「スモークから輝くシンデレラが出てくるシーンはぜひ舞台で観てください」
林さんが、今の衣装制作の仕事を始められた経緯を語ってくださいました。
「日本で衣装制作を勉強する場所はなく、すべて独学で身につけました。今になってやっとデザイン学校などで学べるところは出てきましたが。服飾などほかのデザインの経験はなく、舞台の衣装制作一筋でやってきました。困難なことも多いけど、刺激を受けてきて、いつの間にか、という感じです。物真似をする機会が幸いにもあって、いい仕事をさせてもらいました。舞台衣装は、何十人もの人たちがフルに何ヶ月も働いて完成するものです。『シンデレラ』は熊川さんがオーチャードホールの芸術監督になって初めての作品なので、スタッフはみな緊張してやっていました。だけど、舞台稽古を見ているうちに、スタッフがみんな感動してきちゃって、そんなの初めてでした。そして熊川さんが、『本当にありがとう』とスタッフひとりひとりに頭を下げてくださいました。そういう喜びが直に見られるおもしろさ、嬉しさがこの仕事にはあり、今まで続けてきたという感じです。
「ぜひ皆さんに、ここは観てきて欲しいのですが、スモークの中から輝くシンデレラが出てくるところは、鳥肌が立ちました。まさにシンデレラ・ストーリー、非現実に移行していく見せ場ではないかと」
質問「衣装は重いのでは?着やすさと見栄えのバランスは?」
林さん:「衣装はある程度は重くなってしまいます。でも熊川さんが見て、良ければそれで踊ります。衣装はタイトな方がかっこいいですよね。彼の持っている感覚は素晴らしいので、ごまかすとすぐに彼にバレてしまいます。やり直しになります。レースなどは、費用との兼ね合いもあるのでまったくのオリジナルではなかなかなく、既製品も使いますが、遠くから見ていかにもそれらしく見えることが舞台衣装であり、いかにもその時代のモノに遠くから見たときに見えることが重要です。そばから見たら「何これ」と思えるものでも。近くで見られるとドキドキしてしまいます」
松岡さん:「私はきつくて踊りにくい衣装はイヤです(きっぱり)。動きづらいとラインも崩れるし、自分の気持ちも落ちてしまいますから。緩めの方が好きです」
宮尾さん:「僕も衣装はぴっちりしていない方がいいです。熊川さんは自分でもぴっちりしている方が好きですが。リフトをすると1.5倍くらい衣装がきつくなります。『シンデレラ』の衣装は、今までの中でも一番動きやすいです」
質問「熊川さんが主演しない新作は、『シンデレラ』が初めてですが、熊川さんが踊るところを見ないで、主役を踊ることに対してはどう感じられましたか」
宮尾さん:「今までは熊川さんが踊るところを見て勉強して研究してきました。『シンデレラ』では熊川さんはよりじっくりダンサーを観ているので、自分も勉強することになり、ハードな感じでした。その分、達成感、完成感がありました。そしてプレッシャーから解放されました。今回の再演は、体に動き(振付)が入っているので、スタート地点も前回より楽で、より深み、幅を出すことができました。去年の上演からある程度の変化を見せられたと思います」
松岡さん:「私は男性ダンサーほど熊川さんを意識することはありません。前例がないものに打ち込むのは試行錯誤があり大変です。でも熊川さんから押し付けられることはなく、任せてくれました。音楽との兼ね合いが難しく、先程もお話したように、美しい衣装に変身した時に『当たり前に見える』とディレクターに言われていたので、より気をつけました」
宮尾さん:「熊川さんはダンサーのパートは実演してくれるのでわかりやすいです。自分からも、『こういう雰囲気はどうですか?』と提案することもあります」
「バレエはとにかくライブが美しい」
最後に、『シンデレラ』を上演するにあたってのメッセージがありました。
林さん:「汚れたシンデレラから、綺麗なシンデレラへと変身する様子を見てください。本当にキレイです。熊川さんがこれほど褒めてくださった衣装はないくらいです。フィッティングの時にも『いやあ~』って言われました。これから何が起きるのだろう、という気持ちで観ていただければ」
宮尾さん:「豪華なセットや衣装は、時間もお金もかかっています。一時一時の儚い芸術を感じて欲しいです」
松岡さん:「DVDも出ていますが、バレエはとにかくライブが美しいです」
主催
TBS/Bunkamura
会場
Bunkamura オーチャードホール
日程
2013年3月6日(水)~3月10日(日)
問合せ先
チケットスペース
03-3234-9999
Bunkamura
03-3477-3244
[チケット取り扱い]
チケットスペース03-3234-9999(オペレーター対応)
TBSオンラインチケット
http://www.tbs.co.jp/kumakawa/
Bunkamuraチケットセンター
03-3477-9999
Bunkamuraオンラインチケット
http://www.bunkamura.co.jp/online/
※事前登録が必要 〈PC&携帯〉
チケットぴあ
0570-02-9999( 音声自動応答予約・Pコード:424-310)
http://pia.jp/t/k-ballet/〈PC&携帯〉
ローソンチケット
0570-084-003(音声自動予約・Lコード:39293)
0570-000-407( オペレーター対応)
http://l-tike.com/k-ballet/ 〈PC&携帯〉
イープラス
http://eplus.jp/kumakawa〈PC&携帯〉
間近で見ると、衣装は実に手が込んでいて、一つ一つが芸術品なのだと感じました。これだけのものを作るのにどれほど時間と手間をかけたのでしょうか。一からプロダクションを作り上げる熊川さん、そして林さん始めスタッフの才能は凄いと感じました。
K-BALLETが素晴らしいのは、デザイン、衣装、装置は徹底的にこだわって豪華でセンスが良く美しいものを作っていることで、観客を非日常の、夢の世界に連れて行ってくれることです。最近は発表会なども衣装がが豪華なことが多いですが、せっかくダンサーが良くても、みすぼらしい衣装や装置では作品の魅力が半減しますからね。
今回の「シンデレラ」の、四季の精の代わりにシンデレラの日常を囲んでいたモノたちが妖精になるという発想もユニークだし、アリを主役に据えた「海賊」など、単純に古典作品をそのまま上演するのではなく、少しひねりを加えているところもいいと思います。圧倒的な人気を誇る熊川哲也さん、まだまだ素晴らしいテクニックを維持していますが、いつまでも踊れるわけではなく、「シンデレラ」のように彼が主演しない作品を創っていくことで世代交代を進めて新しいスターを生み出そうとすることも正しい選択です。カンパニー自体のクオリティも非常に高く魅力的なダンサーたちが揃ってきました。後は、より観客層を広げつつ、熊川さん抜きでも熱心にサポートしてくれるファンをつけていくための、バラエティあふれるレパートリーがもっとあれば、というところです。もっと大胆な読み替え作品、ドラマティックな作品なども見てもたいですね。
『シンデレラ』の次に上演される『ベートーヴェン第九』で同時上演される作品の一つに、リアム・スカーレットの世界初演作品があります。まだ26歳と若いにもかかわらず、振付家として高く評価され、去年11月よりロイヤル・バレエのアーティスト・イン・レジデンスとなった彼に、新作を委嘱するというのは素晴らしい試みです。アブストラクトな小品においても、英国バレエの伝統を感じさせるドラマティックさを込められる彼に白羽の矢を立てたというセンスが良いですね。古典の再振付だけでなく、小品やよりコンテンポラリーな作品などもレパートリーに加えていくことで、カンパニーの幅を広げて行くとさらに良いのではないかと思いました。
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追記:ローザンヌ国際バレエコンクールの審査員をこのたびつとめた熊川さん。彼の「ローザンヌ徒然日記」がKーBALLETスクールのサイトで始まりましたが、とても面白いです。
http://k-balletschool.com/topics/view/123
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