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« マラーホフのベルリン国立バレエ退任続報 | トップページ | ベルリン国立バレエの新芸術監督、ナチョ・ドゥアトに決定/追記あり »

2013/02/05

1/27 アクラム・カーン「DESH」

演出・振付・出演:アクラム・カーン
舞台美術・衣裳・映像:ティム・イップ
音楽:ジョスリン・プーク

http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2013/d0126.html

第13回英国ナショナルダンスアワードの最優秀男性ダンサーに選ばれ、ロンドン・オリンピックの開会式でも踊ったアクラム・カーン。本作は、ロンドンのサドラーズウェルズ劇場で2011年に初演されて高い評価を得て早速翌年には同劇場で再演された他、昨年12月にはパリのシアター・デ・ラ・ヴィルでも上演されて、絶賛を浴びた。

「DESH」とは、ベンガル語で母国(homeland)を意味する言葉。バングラデッシュ人の血を引きながら英国で生まれ育ったアクラム・カーンは、この80分間のソロダンスで自らのルーツをたどる旅に出る。父の墓と思しき場所で対話していたかと思ったら(実際の彼の父は健在であるそうだが)、その墓に向けてハンマーを振り下ろす。そしてスキンヘッドの頭頂部に描かれた(おそらくは彼の父の)顔を転がすように動かし、ユーモラスで哀愁漂う踊りを見せる。メイクで描かれた顔が、汗で流れて泣いているような表情へと変わっていくのも面白い。大きな古いエンジンが置かれた舞台で、訛りの強い、バングラデッシュのコールセンターの12歳の女の子と会話する。カタック(インド古典舞踊)独特の素早い足の動き、サイクロンのような超高速の移動、なめらかで美しい腕の動きで見せる圧倒的なテクニックの踊り。自分の姪に、父から伝え聞いた逆さの森と蜂のフェアリーテールを語り伝えると、魔術的なまでに美しく幻想的な白いアニメーションが映し出され、彼はその中へと溶け込んでいく。靴紐がレース模様へ、それが森となり、ロープとなり、水や船となり、蜂となって、彼のムーブメントと一体となり、絵本のような語り口で舞台を覆い尽くす。

エンジンとアクラムの対話は、やがて彼の父の、1971年のバングラデッシュの独立戦争の記憶へとつながって行く。コックだった父が戦争に駆り出され、小柄だったゆえ戦闘機のエンジンの中に隠れていたという逸話。その痛ましい体験の数々。バングラデッシュという国から英国へと移民してきた父の物語、バングラデッシュの歴史、英国で生まれ育った自分自身、幼い姪、そして今バングラデッシュで英語圏の携帯電話ユーザーのために電話サポートをする女の子。語り継がれる民族としてのアイデンティティと血の記憶が織り成す、それは大河ドラマのようだ。一つ一つのエピソード、軸が有機的に重なり、時空を超えて絡み合う巧みなストーリーテリングはお見事の一言。

幾重もの細長い帯状の白布が舞台を埋め尽くすように大量に降ってくると、その中で迷子になったかのようなアクラムは姿を消す。と思ったら彼は逆さに天井から吊り下げられ、白布と戯れながら、その状態でも驚くべき動きを見せてくれる。父から聞いた「逆さの森」の物語と、バングラデッシュの人々にとって大切な水を、こんなふうに舞台装置と自分の肉体で表現して痛切に観客の心へと響かせてくれるとは。

たったひとりの出演者で踊られた作品が、このように豊かでイマジネーション溢れて、魔法のような多様な表現とドラマ性を持つものとなるとは、誰が想像しただろう。民族の歴史と自身のアイデンティティを探る旅を、彼と一緒にたどっていく80分間はあっという間のものだった。連綿と続く人々の記憶と未来への想いが、ずしーんと胸にしみわたる。ジョスリン・プークによる美しい音楽、ティム・イップによるシンプルだが力強い美術デザインと、イースト・カルチャーによる繊細なアニメーションというプロダクションの高いクオリティもさることながら、ダンサー、アクラム・カーンの凄まじい表現力、そしてドラマティックで濃厚な舞台を作り上げる構成力には圧倒された。再演を強く望む。

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コメント

こんばんわ。

 ロンドンでは、新作の上演後に再び、「Desh」が再演されます。世界初演のときに観て惹き込まれたので、楽しみです。彼一人での舞台ですから、海外での再演は難しいかもしれないですね。

 サドラーズでの「Anjin」の初日を観に行ったときにスポルディングさんと話したとき、こちらで伺った、埼玉での舞台の成功を伝えたところ、とても嬉しそうでした。

守屋さん、こんばんは。旅行に行っていてお返事が遅くなって申し訳ありません。

アクラム・カーンはロンドンで新作が上演されるのですね。それもとっても楽しみ!また「DESH」が再演されるということは、この作品の素晴らしさ、人気の高さを物語っていますね。こちらでも、さいたまというかなり不便な場所での公演なのに、噂が噂を呼んだのかお客さんの入りがよく、反響も大きかったです。スタオベしている人が大勢いました。
日本での成功をサドラーズウェルズで喜んでいただけたのも嬉しい!

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