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2013/01/03

『ペテルブルグのバレリーナ クシェシンスカヤの回想録』

マチルダ・F.クシェシンスカヤ著、森瑠依子訳、関口紘一監修

ペテルブルグの有名ダンサーの家に生まれ、プティパ時代のペテルブルグ帝室劇場(マリインスキー劇場)で当時ロシア人唯一のプリマ・バレリーナ・アッソルータの称号を得て権力と名声、栄華を欲しいままにしたクシェシンスカヤ(1872~1971年)の回想録。ロマノフ王朝からロシア革命、第二次世界大戦を経た99年に及ぶ生涯は、そのままバレエの歴史と重なると言っていい。ディアギレフと同い年だった彼女の生涯には、カルサヴィナ、パブロワ、ニジンスキー、イザドラ・ダンカン、フォーキン、リファールなどバレエの歴史上の重要人物が多数登場する。

クシェシンスカヤといえば、ディアギレフの伝記にも、バレエ・リュスのパリ公演を妨害したと書かれており、またロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の愛人としても有名で、マクミランのバレエ「アナスタシア」にも登場する。イメージとしてはたいへん腹黒く、バレリーナとしての実力よりも皇室との関係を利用して権勢を振るった女性として毀誉褒貶がつきまとう印象がある。

この回想録は、クシェシンスカヤ自身が書いた本なので、もちろん自分にとって都合の悪いことは書かれておらず、おそらくは史実と異なるところもあるのではないかと思われる。だけど、彼女の悪いイメージというものはこれを読むと払拭されるし、読み物として大変面白い。バレエについての記述よりも、ロマノフ王朝の皇族との華やかな交際、そしてロシア革命の時のスリリングな逃避行などドラマティックな描写が多いので、バレエファンでなくても楽しめる一冊となっている。

もちろん、クシェシンスカヤのバレリーナとしての実力も素晴らしいものであり、もうひとりのプリマ・バレリーナ・アッソルータであったイタリア人のピエリーナ・レニャーニがロシアで初めて「白鳥の湖」で32回転のグランフェッテを踊った後、対抗心を燃やしてロシア人で初めて32回転グランフェッテを踊り、アンコールがかかるともう一度、32回踊ったという。表現力も大変優れていて、「ファラオの娘」「エスメラルダ」「眠れる森の美女」などのプティパ作品には定評があり、オーロラ役はチャイコフスキーにも絶賛された。イタリア式の高度なテクニックをマスターするために大変な努力を払った一方で、凄まじいブライドの高さ、自負心が彼女の表現を磨いたということが強く感じられる。

17歳の時に当時皇太子だったニコライ二世と恋に落ちた彼女は、身分の差があり彼とはどうしても結婚できない運命だった。戴冠式のガラ公演の出演者からはわざと外されたため、皇帝の叔父に手を回して出演できることにした。恋の苦しみを知っている者だけが踊ることができるとプティパが語った「エスメラルダ」を皇帝の前で踊るという念願も叶えられた。ロマノフ家の二人の大公、セルゲイとアンドレイとの三角関係も有名で、皇室との交際などを通じて手に入れた豪奢にして華麗な生活、帝室劇場内での権勢を誇ったために敵も大変多く、中傷されたり妨害工作をされることもしばしば、32歳の時には一度は引退まで追い込まれる。だが、彼女は力強く敵に対抗し、アンドレイとの間には息子をもうけ、パリに亡命後ようやく結婚を果たして女公爵の地位を手に入れた。

権力欲の高さと自負心の高さを隠そうとしない一方で、豪華な屋敷や宝石の数々、皇族たちとの交友関係も楽しげにあけっぴろげに語っている様子は無邪気で、彼女が魅力的な人柄の持ち主であることが伝わってくる。ロシアでの内乱が始まると自腹で傷病兵のための病院を作ったりといったヒューマニスト的な側面を持っていたこともわかる。中でも印象的なのは、この本の終わりの方で紹介されるアンリ・マールの手記での、若き日の劇場での出会いを経て彼女がある兵士の命を救うために奔走したことと、アンリ・マールとの50年の歳月を経た再会の感動的なエピソードだ。手記を閉じるにあたり長年の使用人たちへの感謝の念も述べている。一方で、セルジュ・リファールが書いた「ロシア・バレエの歴史」での彼女の扱いが小さいことに対して怒りを炸裂させていることで、彼女の誇り高さ、自分こそがロシアバレエであるという強烈な思いが顕になっている。

革命が勃発したペテルブルグから命からがらの脱出、全てを失ってのパリでの亡命生活では想像を絶する苦難も描かれているが、それを経て、過去の遺恨を乗り越えてディアギレフら亡命ロシア人と助け合って生きていき、1世紀近くの生涯を全うした彼女の強さは深い感銘を与える。亡命後パリで彼女が開いたスタジオに通っていたマーゴ・フォンテインは、「どんな環境でもお伽噺のプリンセスを思わせる素敵な人だった」だったと語っているが、そのような魅力があったからこそ、バレエの歴史に大きな足跡を残ることができたのだろう。イヴェット・ショヴィレ、ジジ・ジャンメールらも彼女の教えを受けたという。

ペテルブルグのバレリーナ―クシェシンスカヤの回想録ペテルブルグのバレリーナ―クシェシンスカヤの回想録
マチルダ・F・クシェシンスカヤ 関口 紘一

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ちなみに、去年、ロシアでクシェシンスカヤの伝記映画を作るという企画があり、ディアナ・ヴィシニョーワがクシェシンスカヤ役の候補に挙がっていたようです。その後どうなったかはわかりませんが。
http://www.proficinema.ru/news/detail.php?ID=123447

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バレエの本」カテゴリの記事

コメント

面白そうな本の紹介をありがとうございます。池田理代子の漫画になりそうな豪華絢爛&波乱万丈な人生ですねー。
私はこの女性を全く知らなかったのですが、naomiさんのレポートを読んで、がぜん興味がわいてきました。
wikiのフランス語ページを見てみたところ、彼女が亡命後、パリで暮らしていたのは、なんとうちのすぐ近くだと知りました。そこでバレエスタジオを開いていたんですね。明日、散歩がてら、お家を見てきます。
今年も有益な情報をよろしくお願いいたします。

ポチさん、こんにちは。

ほんと、池田理代子さんのコミックになりそうなドラマティックな人生です。私も名前を聞いたことがあるくらいで、具体的なことはほとんど知らなかったので、こんなに波乱万丈な人生を歩いてきたなんて、とびっくりしました。彼女のパリでのスタジオのお近くに住んでいらっしゃるんですね~!素敵。多い時は150人くらい生徒がいたそうですね。

この本、すごく読みたいんですが、海外からAmazonジャパンで注文するとDHLで届くので、配送料が本より高くなってしまうんです(泣)英語版を探してみます。
naomiさんはロイヤルのオネーギンはご覧になったことがありますか?再来週、コジョカル&コボーで見てきます。
マシューボーンの眠りも:)
アクラム・カーン、楽しんできてくださいね!
パリでは全公演ソールドアウトで、気づくのが遅かった私はみられませんでした。

はじめまして。
いつも楽しみによらせていただいています。
クシェシンスカヤさんのお名前は聞いてはいましたが、本当に凄い方ですね。
伝記映画製作となったら3部作ぐらいになりそう・・・また誰が誰を演じるのか、かなり興味深いです(笑)
マーゴ・フォンティンの名前も懐かしい。私は10代の頃にマーゴの踊りを観て感銘を受け、以降バレエ観賞が趣味となりました。彼女も大変な環境にありながら、優雅であり続けていたのを思い出します。

ポチさん、こんにちは。

この英語版も出ています。Dancing in Petersburg: The Memoirs of Mathilde Kschessinkaという題名です。amazon.ukなどでも買えるようですね。

ロイヤルのオネーギンは、前回の上演の時に見ました。コジョカル&コボー(レンスキーはマックレー)、モレーラ&ボネッリ、ガレアッツィ&マッカテリでした。コジョカルのタチヤーナは素晴らしかったけど、コボーはちょっと(かなり)老け過ぎでしたね。あと(もちろんもういませんが)ポルーニンのレンスキーも良かった記憶が。マシュー・ボーンの眠り、BBCのドキュメンタリーを見ましたがとても面白そうで、観たかったです。ぜひ楽しまれてくださいね。

Y.Yさん、こんにちは、そしてはじめまして!

クシェシンスカヤさんの伝記、たしかに映画化したら3部作くらいになるかもしれません!ペテルブルグ時代、ロシア革命、そしてパリとその人生はたしかに普通の人の数倍の濃さがあるかもしれませんね。今日は「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」というドキュメンタリー映画を見たのですが、この映画の主人公であるハーパーズ・バザー、ヴォーグ編集長のヴリーランドはバレエ・リュスを経験し(両親がディアギレフの友人でフォーキンにバレエを習った)、やはり長生きした人でした。

おっしゃる通り、マーゴ・フォンテーンも年を重ねてからもプリンセスの優雅さがある人でしたよね。私は残念ながら映像でしか観ていないのですが、母がマーゴの踊りを生で観ることができたそうです。

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