フィーリン襲撃事件続報、ボリショイ・バレエ関連情報
今日、朝「スッキリ」という情報番組を見ていたら、ボリショイ・バレエでのセルゲイ・フィーリン襲撃事件についてかなり時間を割いて取り上げていました。テレビをつけたのが途中だったので、もっと取り上げていたのかもしれません。岩田守弘さんの電話インタビュー、ニコライ・ツィスカリーゼが取り調べを受けた件で彼のコメントを放映、などです。岩田さんは、フィーリンとツィスカリーゼの確執については知らなかったと話していました。ツィスカリーゼは”保守派”とされていて、彼のバックには強力なファン組織がついていることなどなど。
そのフィーリンですが、ロシアのテレビ番組に、中継で生出演をしていました。
こちらでその番組映像を見ることができます。
http://www.ntv.ru/novosti/453119/
頭は剃られていて包帯で巻かれ、首の周りにも包帯が巻かれていますが、顔そのものには包帯などは巻かれていません。中継映像なのではっきりとはわかりませんが、顔はあまりダメージを受けていないように見受けられます。目は閉じられているので見えているかどうかはわかりません。何回も手術を受けているとのことですが、しっかりとした口調で話しています。でも、こんな大変な目に遭った直後にテレビに出演しなくてはならないのは、なんとも気の毒に思えます。
このテレビ出演の様子はGuardianの記事にも載っています。
http://www.guardian.co.uk/stage/2013/jan/28/bolshoi-acid-attack-director-forgives
すでに目の手術を3回受けたフィーリン。病室の彼の元に司祭がやってきたところ、彼はその司祭に「私は今回の事件に関わった全ての人を許すし、裁きを下すのは神になるだろう。人々は弱いものだから」と言ったとのこと。誰がこの襲撃事件の背後にいるのかはわからないけれども、彼のボリショイでの仕事に関わっている誰かだろうと考えているそうです。「約束する、ボリショイの舞台に戻ってくることを」
New York Timesでも詳しい記事が載っています。
http://www.nytimes.com/2013/01/29/arts/dance/bolshoi-ballet-carries-on-amid-acid-attack-scandal.html
事件の捜査は続いていますが、ボリショイでの舞台は続けられ、テレビの報道では事件後最初の舞台「ラ・バヤデール」のカーテンコールで、主演したザハロワがフィーリンへの支援を訴えるスピーチを行った様子が流れました。「ラ・バヤデール」のプログラムノートにフィーリンは文章を寄せ、渦中の人であるツィスカリーゼは日曜日の「白鳥の湖」の公演のリハーサルに励んでいました。メディア向けにバックステージツアーが行われましたが、ダンサーたちは黙々と日々の鍛錬に明け暮れていました。舞台スタッフのひとりは、「この劇場では数千人もの人々が働いていて巨大な組織となっている。フィーリンのような重要な人物が倒れたとしても、劇場での舞台は続けられなければならない、それがここの務めだから」実際、ボリショイの長い歴史の中で、劇場は3度焼け落ちています。
「ラ・バヤデール」の初日の前に、フィーリンはスカイプを使い、舞台の中央に置かれたiPadに向けてダンサーたちへのメッセージを送りました。彼らダンサーたちを深く愛しており、全てを忘れて「踊り続けるように」と指示したそうです。
ニコライ・ツィスカリーゼが取り調べを受けたことは大きく報道されており、本人はそのことについてメディアに登場することで、疑いを晴らそうとしています。彼のコメントによれば、彼は事件当日、フィーリンも出席したモスクワ音楽劇場でのガラ公演に出席しており、夜の12時半まで劇場に残っておりその映像もはっきり映っていることからしっかりしたアリバイがあるとのことです。(先に帰宅したフィーリンが襲撃されたのは11時頃)
ツィスカリーゼとフィーリンは長いこと口をきいていない間柄ではありますが、ツィスカリーゼによればフィーリンの襲撃が彼の地位を狙う者によるものではないかという推測は疑わしいと語っています。「色々な仮説が考えられるけれども、プロの仕業であるとは考えにくい」と。警察のスポークスマンは、目撃者に嘘発見器でのテストを受けさせると語っていますが、誰が受けさせられるかは発表していません。ボリショイ劇場のイクサーノフ総裁も、ツィスカリーゼが事件の背景にいるとは思えないと語っています。
この記事にもあるように、ボリショイでの舞台は通常通り続いており、「ラ・バヤデール」の公演はボリショイ劇場のオフィシャルYouTube(こちらはロシア国内でのみ視聴可能)と、世界中の映画館で中継されました。出演はスヴェトラーナ・ザハロワ、ウラディスラフ・ラントーラトフ、マリーヤ・アレクサンドロワです。
そして事件の前に発表はされていたのですが、ボリショイ劇場のオフィシャルサイトで、昇進の発表が28日に行われました。
http://www.bolshoi.ru/en/about/press/articles/
アルチョム・オフチャレンコがプリンシパルに昇進
クリスティーナ・クレトワがリーディング・ソリストに昇進
アナスタシア・メスコワとヴィタリー・ビクティミロフがファーストソリストに昇進
クリスティナ・カラショーヴァ、ユリア・ルンキナ、カリム・アブドゥーリン、イーゴリ・ツヴィルコがソリストに昇進。
ユリア・ルンキナはスヴェトラーナ・ルンキナの妹です。
ところで、このスヴェトラーナ・ルンキナが今シーズン、ボリショイの舞台に立っていないという事態が発生しています。そして最近、ロシアの新聞で報道されていることによれば、彼女と夫のVladislav Moskalev氏が脅迫されていて、Facebookやメールなどもハッキングされ、身の危険を感じたことから家族共々カナダのトロントに逃げているとのことです。イズベチヤ紙には、彼女のインタビューが掲載されています。
http://izvestia.ru/news/543784
実は私は、12月にナショナル・バレエ・オブ・カナダの「ジゼル」を観に行ったとき、ルンキナが客席にいるのを見かけ、そして関係者から彼女が今トロントに住んでいてナショナル・バレエ・オブ・カナダのクラスレッスンにも参加しているらしいという話を聞いていたのです。
詳しい顛末はこちでも報道されています。(ロシア語)
http://www.mn.ru/friday/20130124/336129037.html
ルンキナの夫君は、「21世紀のエトワール」ガラを主催しているプロモーターなのですが、このブログでも回想録を紹介したバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤの生涯を映画化する企画にVladimir Vinokur氏と取り組んでいました。ところが、なにかの行き違いがあってVinokur氏がルンキナの夫を訴え、彼から世界中の劇場宛にふたりを中傷する手紙が送られ、そして脅迫が来るようになったとのことです。実際、ジョン・ノイマイヤーの元にもこの手紙が届いたとのことで、彼からルンキナはその手紙を見せられたそうです。
ルンキナはボリショイ劇場、そしてフィーリンに助けを求めたものの、ボリショイ側からは手は差し伸べられなかったとのこと。彼女は、ウェイン・マクレガーの「クローマ」に出演して大変高い評価を得て、今シーズン予定されているマクレガーのボリショイ劇場での新作「春の祭典」、そしてマッツ・エックの作品への出演も予定され、長年待ち望んでいたプロジェクトで大変楽しみにしていたそうで、これらの作品に出演できないことをとても残念に思っているとのこと。今シーズン末までの休暇を劇場に申請しているそうです。
フィーリンの襲撃事件については、ルンキナはもちろん大変な恐怖と悲しみを感じているそう。ボリショイ劇場の関係者がこんなことをするということは考えられない。犯人は劇場の人ではないけれど、劇場やバレエに対して利害関係がある人なのかもしれないと考えているとのことです。しかし、最近になって、フィーリンが「ルンキナはボリショイには復帰しない」と聞いているのを知って、自分は彼には必要とされていないと思ったそうです。それでも、彼女はボリショイへの復帰を望んでいるとのこと。
1997年にボリショイ・バレエに入団してから、輝かしいキャリアを築いてきたルンキナ。「ジゼル」(ボリショイの歴史上最年少のジゼル役)、「白鳥の湖」などの古典ばかりではなく、前述のように最近ではマクレガー作品など現代作品でも実力を発揮してきました。事態が解決してボリショイに復帰できることを祈るばかりです。
こちらの記事とほぼ同じ内容が、フランスのニュースでも報道されています。
http://www.france24.com/en/20130129-top-bolshoi-ballerina-flees-russia-after-threats
また、カナダの新聞にもこの件は報じられました。
http://www.theglobeandmail.com/news/world/bolshoi-ballerina-flees-to-canada-after-threats-practices-with-national-ballet/article7937024/
ロシアのバレエ界をめぐる闇は深いようです。
追記:ルンキナの件は、日本語のニュースにも登場しました。
ボリショイ・バレエのトップバレリーナ、脅迫受けて出国
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2924451/10187311
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