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« ボリショイ劇場での「春の祭典」100周年記念フェスティバル他「春の祭典」記念公演 | トップページ | NHKバレエの饗宴 2013 »

2012/12/02

「ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!」 First Position

世界中から5千人を超す応募がある、世界最大のバレエ・コンクール「YAGP(ユースアメリカグランプリ)」の2010年大会に出場した6人の少年少女を追ったドキュメンタリー。

http://firstposition-movie.com/index.html

6人の子供たちは様々なバックグラウンドを持っている。海軍の軍医を父に持つためナポリに住んでいるアメリカ人の少年アランは、マチュー・ガニオの父デニス・ガニオに師事している。その彼と親しいイスラエル人少女のガヤの母親は、コンテンポラリーの振付家だ。日英ハーフの少女ミコは、天真爛漫な弟ジュールズとともにステージママにお尻を叩かれながらバレエを学ぶ。シエラレオネの内戦で両親を失ったミケーラはアメリカ人の夫妻に養子に迎えられて、黒人には難しいと言われながら憧れのバレリーナを目指す。金髪美人のレベッカは高校生活を楽しみながらもバレエに打ち込む。そしてコロンビア出身のジョアンはニューヨークでホームシックと戦っている。どの子もダンサーとして大変魅力的で、彼らが踊るシーンを見ているだけでもとても楽しい。

監督のベス・カーグマンは14歳までバレエに打ち込んでいたとのことでバレエをよく知っている。2年間子供たちに密着していたことからも、ディテールを捉えてそこから家族らの愛情をすくい取って見せるのがとても上手い。黒人の養女ミケーラのために、養母が彼女のチュチュに縫い付けらる肌色の当て布を茶色く染めているところなどは、ちょっとホロリとするシーン。

舞台裏を通るためにチュチュの端を持ち上げて歩く女の子、楽屋に置いてある日本製のつけまつげなどは、バレエのことをよく知っている監督ならではの視点だ。そしてバレエ少年少女たちの、ボロボロに痛めつけられ、変形し血が滲んだ足の痛々しいこと。彼ら彼女たちはいろんなことを犠牲にしてバレエに取り組んでいる。ミコは12歳の時から学校に通うのをやめて家で勉強している。バレエ学校のほかは、友達には会えず、家族と飼い犬とだけ接触する毎日。それでも、皆バレエを踊りたいというひたむきな情熱のために、すべてを捧げているのだ。(そうではない子もいるけど)

チュチュ1着のお値段、ポワント1足の値段、振付を創ってもらうための料金、とにかくバレエにはお金がかかる。車が何台も買えるほどのお金をつぎ込むことになる。そのため、賞よりもスカラシップ(奨学金)を求めているダンサーが多いのも納得できる。

バレエはその瞬間だけの芸術であり、コンクールともなると5分間だけで自分を表現しなくてはならない。どんなに日頃努力を重ねていても、本番で成功しなければどうにもならない。コンクール本選でも、失敗して泣いている出場者の姿がたくさん映し出されている。敗者に対しても暖かい視線を送っているのがこの映画だ。一番胸を打ったのは、本番の前にミケーラが足を怪我してしまい、悪化すればもう二度と踊れないかもしれないという中、痛みをこらえて本選で見事な踊りを見せたこと。彼女がどれだけ努力し、そして養親の愛情に支えられてきたかを見てきただけに、彼女が成功した時には思わず涙がこぼれた。

子供達だけでなく、彼らを取り巻く家族や教師たちの姿も大変興味深い。ジョアンのように故国を離れて一人で頑張っている子も、遠い祖国にいる両親の強い想いに支えられて頑張ってこれた。大変な教育ママであるミコとジュールズの母親(日本人)の姿は時には滑稽だけど、彼女の後押しがあるからますます子供たちは頑張る。厳しくも時にはひょうきんなデニス・ガニオ。そしてミコ、ジュールズ姉弟を指導するヴィクトル・カバニアエフの表情豊かな様子、ジョアンを指導する、やはりコロンビア出身の元ABTのダンサー・フラヴィオ・サラザールと、教師は厳しいだけでなくて、人間的な魅力にも溢れている人が多いことを感じた。姉ほどの才能はないけれど、とっても無邪気なジュールスの存在には思わず頬も緩む。また、アランとガヤの幼い恋人同士の様子もとても微笑ましい。

往年のバレエファンにとっては、デニス・ガニオを始め、オペラ座学校校長のエリザベット・プラテル、ロイヤルバレエスクール校長のゲイリーン・ストック、YAGPの司会者を務めていた元ABTプリンシパルのスーザン・ジャフィの姿が見られるのもちょっと嬉しい。

YAGPで受賞したりスカラシップがもらえても、それはプロのバレエダンサーへの第一歩に過ぎない。映画のタイトル「ファーストポジション」は、バレエの5つのポジションの一つであるとともに、第一歩という意味も持っているのだと思う。映画の最後には、この子供たちのその後の様子も少し紹介されている。見事に念願のロイヤル・バレエ・スクールのスカラシップを獲得したジョアン、ワシントン・バレエと契約したレベッカ、ABTジョクリーヌ・オナシス・アカデミーに入学したミケーラ。

だが、この映画が撮影されて2年が経ち、さらにその後のことを調べると、さらにほろ苦い感傷が感じられる。ダンス・シアター・オブ・ハーレムに入団を果たしたミケーラ、今年のヴァルナコンクールで銅賞を受賞したミコ、今年はYAGPジュニア部門でグランプリを受賞したアランなど成功した例もあれば、正団員の地位をオファーされたのに断りバレエを辞めてしまって普通の大学生になったレベッカ。監督は、この子供たちの10年後の姿を追ったドキュメンタリーも撮影してみたいとのことだけど、それは大変興味深いものとなることだろう。

ミコ・フォガティの今年のヴァルナ・コンクールでの「エスメラルダ」の素晴らしい演技。映画からは見違える程大人っぽくなっている。

予告編

12月1日からBunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。

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映画」カテゴリの記事

コメント

バレエを習っている小学生の娘と一緒に見に行きました。
小さい子でも飽きずに楽しめる作りになっていると思いました。

プロを目指す目指さないにかかわらず、バレエを習っている子にはぜひ見て欲しいなと思いました。
決戦で最後、アランくんの名前が呼ばれず、「最後にもう一人・・・」と名前が呼ばれたときには、思わず「よし!」と拍手をしそうになりました。

子どもたちの頑張っている姿は日本とは状況が大変異なるとはいえ、とてもためになるものです。反面、良くも悪くもアメリカ的な作りをしているというか、コロンビアからNYに来ている(貧乏な)ジョアンくんは、レッスン費用・生活費・コンクール出場費・コロンビアへの帰国フライト費用など誰が出しているの?など、もう少し説明が欲しかったです。その他の子どもは裕福な子ばかりでしたし。

最後に、ここまで限界に自分を追い込んでいないであろう日本の子どもたちも多数入賞していることを考えると、自信を持ってレッスンに励んでいいのではないかと思いました。

ミコちゃんは来年ローザンヌのファイナルに出るようですし、楽しみです。

パンダさん、こんばんは。

お嬢さんとご覧になったのですね!きっとお嬢さんも大いに励みになる作品だったのではないかと思います。小さなお子さんでも楽しめる作りになっていますね。

バレエは共通言語ではあるけれども、やはりお国柄というのは出ますよね。ミコちゃん、ジュールズくんのママはいかにも日本にもいそうな教育ママだったし。バレエはお金がかかるので、やはりどうしても裕福な家の子供が多くなってしまうのは致し方ないところがあるかもしれません。それからご指摘のとおり、コンクールの内容そのものについての突っ込んだ話は出てきていませんよね。子供たちの頑張りと家族のサポートに絞っているという感じで。

映画からも伺えましたが、随分多くの日本人の子供たちも決勝に参加し、入賞しているようですね。このようなライバルを見て心を奮い立たせる子達も多いことでしょう。ミコちゃん、ローザンヌにも出場するのですね。テレビで決勝で踊る姿を見られたらいいな、って思います。

Arteのアート情報番組「Metropolis」19日放映分danseコーナーでMichaela DePrinceが取り上げられていました。
xfs.jp/2BU3e

18日放映のPBS「Great Performances」40周年ガラコンサートからはNYCBのPeter Martinsの挨拶とAndrew Veyetteの"It Should Have Been Me"です。
xfs.jp/cPRRB

rednalさん、こんにちは。

いつも貴重な映像をありがとうございます!

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