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« 12/13深夜 ミュンヘン・バレエ「くるみ割り人形」ネット生中継 | トップページ | SWAN MAGAZINE Vol.30 2012 冬号 »

2012/12/16

12/7、9 ナショナル・バレエ・オブ・カナダ「ジゼル」 National Ballet of Canada "Giselle"

先週の水曜日から月曜日まで、カナダのトロントに行って、ナショナル・バレエ・オブ・カナダの「ジゼル」を観てきました。全部で全4キャスト(ジリアン・ヴァンストーンと江部直哉、ソニア・ロドリゲスとズデネク・コンヴァリーナ、シャオ・ナン・ユとエヴァン・マッキー、グレタ・ホジキンソンとギョーム・コテ)を観たのですが、とりあえずはゲスト出演したエヴァン・マッキーの回の感想を書きますね。

この時期のトロント、さぞかし寒いことだろうと思っていたのですが、寒いことは寒いけど日本よりちょっと寒いくらいで、パリなどよりは暖かいのではないかと。最終日には雪も降りましたが、予報されていた雪嵐にはならなくてよかった。

Giselle

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(写真は、ジゼル役シャオ・ナン・ユ)

Choreography and Production : Peter Wright after the choreography of Jean Coralli, Jules Perrot and Marius Petipa
Music : Adolphe Adam, revised by Joseph Horovitz
Set and Costume Design : Desmond Heeley

Albrecht : Evan McKie
Wilfred : Brett van Sickle
Hilarion : Jiri Jelinek
Giselle : Xian Nan Yu

Giselle's friends: Jenna Savella, Tina Pereira, Dylan Tedaldi, Skylar Campbell

Myrtha : Heather Ogden (12/7), Stephanie Hutchinson (12/9)
Moyna and Zulme : Alexandra MacDonald, Alejandra Perez-Gomez

ナショナル・バレエ・オブ・カナダの「ジゼル」はロイヤル・バレエでもお馴染みのピーター・ライト版。ライト版ジゼルの初演はなんとシュツットガルト・バレエなのだそうだ(現在はシュツットガルト・バレエのジゼルはライト版ではない、リード・アンダーソン演出によるもの)。
ライト版の特徴としては、2幕のウィリのフォーメーションが独特なものがあり、ヒラリオンににじり寄っていくところや、ひとりひとりのウィリがそれぞれの意思を持って動いて行くところに独特の怖さがある。2幕冒頭のミルタのソロもほかの版と少し違うところがある。ピーター・ライトによれば、ジゼルの死は明らかに自殺であると解釈しており、それもアルブレヒトの剣で自らを刺して命を絶ったものとして描かれている。

ジゼル役は中国出身のシャオ・ナン・ユ。産休から復帰したばかりだという。このバレエ団の中でももっとも長身のバレリーナで、かなり大柄である。身長バランスからいっても彼女をパートナーできるダンサーがバレエ団内にいないので、ゲストでエヴァンが呼ばれたものだと思われる。大柄なジゼルってどうしたものだろうか、と思ったのだが、1幕での演技は愛らしく、とても内気で東洋人ならではの繊細さが現れたジゼルだった。2幕でウィリとなった後も、足音をさせず、とても浮遊感があり、透明感のある踊りを見せてくれてくれた。今回4人のジゼル役を観たのだが、狂乱のシーンではやや壊れ方が大きかったように感じられた。とはいえ、それでもさほど激しいわけではなかったのだが。際立って凄かったわけではないのだけど、長い手足を生かした綺麗なライン、儚さの感じられる演技、すみずみまで行き届いた丁寧な踊りだったと感じた。

エヴァンのアルブレヒトは、1幕では彼の持ち前の人柄の良さが現れた、優しくてロマンティックな、甘い青年だ。ジゼルに対してもとても温かい笑顔を注いでいて、恋する雰囲気が漂ってきている。村人に扮していてもその優雅な立ち居振る舞いの端々に、高貴な出自が垣間見える。ヒラリオンと口論になった時に、思わず腰にあるはずの剣を手にするところには威厳があって、この人の正体は貴公子だというのがはっきりと見える。ライト版では1幕にアルブレヒトの短いソロがあり、ここで軽やかでエレガントな舞いを見せてくれる。その正体がヒラリオンに見破られ、ジゼルが狂乱するところでは、取り乱すことはないものの、自分の行った行為の愚かさに愕然としてジゼルの亡骸にすがりついて悲しむ様子を観ると、本当にジゼルのことを真摯に愛していたのだというのが伝わってくる。

2幕のアルブレヒトのヴァリエーションは、実に端正なものだった。後ろへと体を反らせるカンブレをあまり入れず、垂直方向への高さとバランスを重視した踊りになっていた。高く上がるアントルラッセのつま先にはうっとりさせられたが。テクニックを見せつけるより、踊りとしての美しさ、エレガンスを損ねないことを第一に考えて、余裕を持って踊っているの感じられた。自己憐憫の情もナルシズムもなく、ただひたむきな貴公子としての姿を見せていた。シュツットガルトでは、アントルシャ・シスは32回跳ぶのだそうだけど、ライト版はアントルシャは10回と決まっているとのことで、アントルシャの後はソ・ド・バスク、アッサンブレによるマネージュという決められた振り付けでアルブレヒト役は4人ともこのお約束を守って踊っていた。エヴァンはとにかくどんな時でも足先が美しいことこの上ない。そして、サポートもとても丁寧で壊れ物のようにジゼルを扱っているところが素敵。そのあまりに長い手脚といい、比類なく美しいラインといい、エヴァンのアルブレヒトはある意味美しすぎて怖いという感覚に襲われた。幕切れでは、アルブレヒトはジゼルを優しく抱き上げ抱擁を交わすものの、いつのまにかジゼルはアルブレヒトの背後で消えていき、アルブレヒトは彼女の残した花一輪を拾い上げてその別れを噛み締めるという終幕。静かな余韻が残っていい終わり方だ。

ヒラリオン役には、元シュツットガルト・バレエのイリ・イェリネク。長身でかっこよく、演技力にも優れた彼のヒラリオンは、ドラマに深みを与えている。冒頭、ベルタに獲物をプレゼントする演技から、好感度の高い男らしい人物というイメージを与え、ジゼルにも一途な愛情を持っているのが、その一途で熱い演技から感じられる。ライト版では2幕、ジゼルの粗末なお墓で嘆き悲しむ彼の様子をたっぷりと描き、またウィリたちに追い立てられて死に至るまで、踊りの見せ場も存分にあるので、テクニックを発揮するところもたくさんある。ほかの版よりもボリュームたっぷりにいたぶられ、ドゥ・ウィリによってポイッと湖に放り投げられて絶命するところまでしっかりと描かれてしまうヒラリオンの哀れさが際立つ。ヒラリオン役とアルブレヒト役が同じくらいの身長で、存在感も対照的ではあるけど拮抗していると物語も盛り上がるものだと実感。

ミルタ役は、7日のヘザー・オグデンが圧倒的な存在感と場を支配するようなカリスマ性、冷徹さを感じさせて出色だった。彼女は大柄ではないが美しく、元の金髪を黒く染めて立ちはだかる姿は恐ろしい。細やかなパ・ド・ブレから大きな跳躍、一つ一つの動きが大きくてなめらかで素晴らしい。手下のドゥ・ウィリは、ソロの時のポール・ド・ブラが機械的な動きだったが、全キャストともそうだったので、ライト版はそのような振り付けなのかもしれない。6日のマチネにミルタ役を演じた平岡珠理さんも、非常に威厳があって力強いミルタだった。

ナショナル・バレエ・オブ・カナダのコール・ド、最初に観た6日マチネではバラバラな印象が強かったものの、8日夜に5階席から観たところ、なかなかしっかりと揃えられており、また舞台照明の美しさもあって静けさの中に魔術的な印象があった。ライト版は、ウィりたちが登場するしてからしばらくはヴェールをかぶっているため、とても幽玄で怖いけど幻想的で引き込まれるものがある。1幕ペザントは、パ・ド・カトルとなっており、音楽もほかの版とはやや異なっている。中でも若手のスカイラー・キャンベルの跳躍力や美しい足さばきは目を引いた(サポートはもう少し)。彼は来年3月のノイマイヤー振付「ニジンスキー」でタイトルロールに抜擢されているらしい。

なお、他キャストに目を向けると、なんといってもグレタ・ホジキンソンのジゼルが素晴らしくて、5階席から観ていたというのに目が釘付けになり、一つ一つの感情のゆらぎが細かく伝わってきて心を揺さぶられた。動きがしなやかで軽やか、透明感に溢れ、とても愛らしくイノセントで最後までぬくもりを残した彼女のジゼルが観られて良かった。できればもっと良い席で観たかったし、3月の「眠れる森の美女」で共演したエヴァンとの組み合わせで観たかった。そしてアルブレヒト・デビューを果たした江部直哉さん。貴公子姿が大変良く似合っていて、若さに満ちていながらも気品があり、ひたむきな青年を演じていて良いデビューを飾れていた。

ジゼルは上演時間が短い作品ではあるけど、その中で見せ場とドラマがぎゅっとつまっていて、何回観ても飽きない作品である。ジゼル役、アルブレヒト役とも、作品を引っ張っていく力量が問われる作品でもあり、特にアルブレヒト役は本物のダンスール・ノーブルしか踊ってはいけない役だと思う。エヴァン、今度はぜひ日本でもアルブレヒトを踊ってほしい。

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(会場のフォーシーズンズ・センター・フォー・パフォーミング・アーツ。看板は既に「くるみ割り人形」ですが)

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