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2012年10月

2012/10/31

アメリカの新聞に載った日本のバレエ界の現状

日本のバレエ界の現状について、アメリカ、ピッツバーグの新聞に載った記事がとても興味深かったのでご紹介します。

Japanese ballet dancers embracing Pittsburgh
http://www.post-gazette.com/stories/ae/theater-dance/japanese-ballet-dancers-embracing-pittsburgh-659561/

ペンシルバニア州にあるピッツバーグ・バレエ・シアターのカンパニーには現在3人の日本人ダンサーがいますが、付属のバレエ学校のサマースクールには、20人もの日本人が学び、学校公演でも主要な役柄を踊っています。このバレエスクールの共同芸術監督であるデニス・マーシャル氏が、日本のバレエ・コンクールジャパン・グランプリの審査員を務めていることもあって、日本人留学生が多いそうです。

デニス・マーシャルとジャパン・グランプリの芸術監督であるマーティン・フリードマンが長年の友人だそうです。マーティン・フリードマンは、ワシントンのキーロフ・アカデミーの芸術監督であるとともに、2005年に旭日小綬賞受賞を受賞するなど日本のバレエ界の発展に貢献してきました。フリードマン氏は27年間のあいだに100回近くも日本を訪問しており、流暢な日本語でレッスンを行うことができるそうです。

ジャパン・グランプリは10年前に開設されました。「日本人の審査員の多くは、細かいところに目を取られてしまいがちだけど、バレエはインターナショナルな芸術であり、私たちは参加者の本質的な才能、音楽性、そしてプロポーションに注目しています」とのこと。昨年は600人もの参加者がこのコンクールにエントリーしたそうで、日本の伝統文化ではないのにこんなにも多くの生徒がいることに驚いたそうです。

日本では1980年代以来バレエの人気が爆発的に拡大し、1万5千校ものバレエ教室があり、100以上のコンクールが開催され、また大スターが人気を呼び世界バレエフェスティバルは2週間に渡って開催されています。Kバレエを率いる熊川哲也のような日本人のスターもいるけど、彼が怪我をして出演できなくなった時には、チケットはタダ同然で取引されていました。

日本ではおよそ10のプロのカンパニーがあるものの、特に女性のコール・ドのダンサーはほぼ報酬を受け取ることができないのが現状です。フリードマン氏によれば、「彼女たちは自分でチケットを売らなければならず、たくさん売ることができれば大きな役を得ることができます」とのこと。そのため、女性ダンサーは教える経験がほとんどないままにバレエ教室を開きます。多くの場合、コンクリートの床の狭い稽古場で、天井が低いためリフトの練習もままなりません。フリードマン氏によればポワントの練習もできないため、7歳といった低い年齢の子供たちは難しいバリエーションをポワントクラスも受けないままYouTubeで見て練習するそうです。

日本のバレエ教室は、何時間にも渡る発表会を開き、全幕も上演するために男性ダンサーにとっては良い収入になるそうです。バレエの衣装を制作しているアトリエヨシノの吉野勝恵氏は億万長者なのだそうです。バレエ教室の数が多いため、良い生徒を集めるためには外国人の教師を招聘したり、高い参加費を払ってコンクールに参加させるとのことです。「有象無象の外国人がお金のために、日本に来て振りつけたり教えたりしています」とフリードマン氏。

それでも優秀な生徒は頭角を現し、コンクールの実績を活用してビザを獲得し、きちんと報酬が支払われる仕事を目指して海外へと流出します。ピッツバーグ・バレエ・シアターのアプレンティス(見習い)でも、公演に出演すれば報酬と貴重な経験が得られます。日本ではプロの公演の「くるみ割り人形」に出演するのに100万円も払わなければならないのに。

フリードマン氏によれば、キーロフ・アカデミーの生徒を全員日本人にすることだって可能であり、ジャパン・グランプリを利用してピッツバーグ・バレエ・シアターのスカラシップを毎年2,3人分用意しているそうです。このコンクールは、そのままサマースクールの受講オーディションも兼ねているそうです。

この夏、ピッツバーグ・バレエ・シアターのサマースクールを受講した18人の日本人の生徒の中には、何人かの男の子もいました。12歳の男の子は、昨年の東日本大震災で家を津波に流されたとのことだけど、「今は大丈夫」とのこと。

「日本人の生徒は、悪魔のように真面目に学びます。彼らはバレエに身を捧げており、それは彼らの血の中に流れている勤勉さ、そして家庭環境や学校で身につけたものです。彼らは脇目もふらず、ダンサーになりたいと真剣に考えています」とフリードマン氏。

この記事は、バレエ雑誌Pointeのブログでも紹介されています。
http://pointemagazine.com/blogs/japan/japans-perplexing-relationship-ballet

2012/10/30

東京・春・音楽祭でパトリック・ド・バナ新作xウィーン国立バレエ

東京・春・音楽祭2013年のサイトを見ていたら、バレエ公演があることが判明。しかも、

東京春祭のStravinsky vol.2
ストラヴィンスキー・ザ・バレエ
~ド・バナの《アポロ》、ベジャールの《春の祭典》

というなかなかの豪華版。パトリック・ド・バナ振付の新作「アポロ」が上演されるそうです。それも、ウィーン国立バレエのダンサーによるものだとのこと。東京バレエ団の「春の祭典」は東京都交響楽団の演奏によるものということで、こちらも期待できそうです。

http://www.tokyo-harusai.com/program/page_1337.html

■日時・会場
4.14 [日] 15:00開演(14:00開場)
東京文化会館 大ホール

■曲目・出演
《アポロ》
  振付:パトリック・ド・バナ(新作)
  音楽:ストラヴィンスキー(《ミューズを率いるアポロ》)
  舞台美術:アラン・ラガルド
  衣装:ステファニー・バウエル
  バレエ:ウィーン国立バレエ団のメンバー
  演奏:長岡京室内アンサンブル
《春の祭典》
  振付:モーリス・ベジャール
  音楽:ストラヴィンスキー
  バレエ:東京バレエ団
  演奏:東京都交響楽団
  指揮:ジェームズ・ジャッド

チケットについて
【発売日】2012年11月25日(日)10:00~
【料金】S:¥10,000 A:¥8,000 B:¥6,000 C:¥5,000 D:¥4,000 E:¥3,000
    U-25チケット:¥2,000


ここでは紹介しそびれたのですが、2013年4月には<マニュエル・ルグリの新しき世界III>が上演されるので、その直前に行われる公演と考えたほうが良さそうなのでしょうか。こちらの概要は以下の通り。

<マニュエル・ルグリの新しき世界III>

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/renew/20134iii.html#001615

◎公演日程:
<Aプロ>
4月17日(水)/4月18日(火)
<Bプロ>
4月20日(土)/4月21日(日)

◎会場:ゆうぽうとホール

◎予定される出演者:
 マニュエル・ルグリ(ウィーン国立バレエ団 芸術監督)
 
 シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルク・バレエ)
 オレリー・デュポン(パリ・オペラ座バレエ団)*Bプロのみ出演
 パトリック・ド・バナ
 デヴィッド・ホールバーグ(ボリショイ・バレエ/アメリカン・バレエ・シアター)
 アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ)

 ※そのほかの出演者は後日発表

ひょっとして上記バナ新作にはマニュエル・ルグリが出るなんてこともあるのでしょうか?なくても客席でお姿は見られるかもしれませんね。そして「マニュエル・ルグリの新しき世界」の後日発表のダンサーは、ウィーン国立バレエ所属の人の可能性が高そうですね。

2012/10/26

10/24 ロイヤル・バレエ「白鳥の湖」映画館中継

ロイヤル・バレエの公演映像を映画館で上映する「シアタス・カルチャー」、第一弾の「白鳥の湖」の上映に行ってきた。友達と一緒に観るということで、港北ニュータウンのワーナーマイカル港北にて。

http://www.theatus-culture.com/

開映前に吉田都さんのミニトークショーがあったので、簡単に内容を紹介。花束贈呈とかマスコミ向け写真撮影タイムなどがあったので実質的には15分程度だった。

都さんがバレエ団に入って初めてオデット・オディールを踊ったのは20歳の時。そしてロイヤルに移籍して最初に踊ったのもこのダウエル版白鳥だったとのこと。初めて白鳥を踊った時はキャストされていなくてけが人が出たので代役として踊り、ピーター・ライトが教えてくれた。振り返ってみるとその時はただ振りをなぞって踊った。数多くの白鳥をサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ)では踊らせてもらえた。

マイムのところが都さんにとっては難しくて、王子様と会話するようにするのが大変だったため、オデットと王子の出会いの場面はみっちりと教えてもらった。最初の頃は白鳥の方が表現が難しく感じた。出会いの時には怯えて恐怖を見せていたのが、だんだん王子へと心を許していく過程を見せるのが難しかったが、何十年も踊っているうちに感情表現が変わっていった。黒鳥は子供の頃からコンクールで踊っていた。演じ分けは踊りがいがあり、若い時は王子様を誘惑していたが、踊っていくうちに、オディールはオデットと同じように王子への愛があったというふうに変わって行き、根底では二つのキャラクターに共通するものがあったと感じるようになった。

ロイヤル・バレエ学校時代、都さんは3幕の王妃のおつきの役で立っていたので毎晩違うオディールを見ていて、違うダンサーの違う演じ方に驚いて勉強させてもらった。バレエ団に入ってからも「白鳥の湖」のコール・ドを踊った。白鳥、眠りは全部の役を踊り込んでいるので、それが自分の表現につながっていった。
映画館でバレエを観る楽しみについて。都さんが主演した「オンディーヌ」も生中継された。ロイヤル・バレエのダンサーは端から端まで役柄に入り込んで演じているので、映画館で見るとまた違った楽しみ方ができるとのこと。

********

さて本編。前日10月23日に上演された舞台を、時差の関係で生中継は難しいため翌24日に映画館で上映するという趣向。本編の前と休憩時間には、ミニ・ドキュメンタリーと舞台裏の映像もつけて上映された。振付のアンソニー・ダウエル、主演のゼナイダ・ヤノウスキー、ネヘミア・キッシュ、バレエ・マスターでロットバルト役のギャリー・エイヴィスらのインタビュー、主演の二人のリハーサル映像など。2回目の休憩後には、白鳥の湖のコール・ドの大変さについて、コール・ドのサビーナ・ウェストコームらのインタビューもあって大変興味深かった。これらの映像は、ロイヤル・オペラハウスの公式YouTubeにアップされている。

ゼナイダ・ヤノウスキー、ネヘミア・キッシュのリハーサルとインタビュー

コール・ド・バレエのドキュメンタリー

最終幕について(ギャリー・エイヴィス、ゼナイダ・ヤノウスキー、ネヘミア・キッシュのインタビュー)

2幕で数秒間の音声や映像の途切れがあったほかは、不具合もなく、音質も良かった。画質は、最近のハイビジョン放送を見慣れている目からすると若干落ちるところはあったけど十分。映画館の大画面であるため迫力、臨場感はあるし、生の舞台を見ている時には見られないクローズアップもあって(その点は好き嫌いが分かれるかもしれないが)、映画を見ているように大変面白く見ることができた。都さんが述べていたように、ロイヤル・バレエのダンサーは演技力があるため脇役一人ひとりまで演技しているので、とてもドラマティックに感じた。

オデット/オディール ゼナイダ・ヤノウスキー
ジークフリート王子 ネヘミア・キッシュ
ロットバルト ギャリー・エイヴィス
女王 エリザベス・マクゴリアン
家庭教師 アレイステア・マリオット
ベンノ ヴァレリー・ヒストリフ
パ・ド・トロワ チェ・ユフィ(崔由姫)、ヘレン・クロフォード、アレクサンダー・キャンベル
小さな4羽の白鳥 エリザベス・ハロッズ、ミーガン・グレース・ヒンキス、エマ・マグワイア、サビーナ・ウェストコーム
大きな2羽の白鳥 小林ひかる、イツァール・メンディツァバル
スペイン ヨハネス・ステパテク、平野亮一、イツァール・メンディツァバル、ディードル・チャプマン
ナポリ ラウラ・モレーラ、リカルド・セルヴェラ
チャルダッシュ ベネット・ガートサイド、?
マズルカ トーマス・ホワイトヘッド、蔵健太、シアン・マーフィほか
(キャスト表はこちら


ロイヤル・バレエの現プロダクションは、アンソニー・ダウエル版、衣装と舞台装置はヨランダ・ソナベントによるもの。1幕、3幕の衣装はたいへん手が込んでいて時代設定も19世紀という雰囲気があって素敵なのだが、大きく賛否が分かれるのが白鳥コール・ドの長いチュチュである。ロマンティック・チュチュのような薄く透ける素材でもないため、群舞の脚が隠れてしまって、コール・ドを観る楽しみの半分位奪われてしまうのがつくづく残念。K-Balletの「白鳥の湖」も同じくヨランダ・ソナベントの衣装で同様に丈の長いチュチュなのだ。体型をごまかせるというメリットはあるのだが。

オデット/オディール役のゼナイダ・ヤノウスキーは、長身であるため今までパートナーが限られており、過去にはケネス・グレーヴやロベルト・ボッレなどの長身の男性ゲストを呼んで「白鳥の湖」を踊ってきた。去年からやはり長身のネヘミア・キッシュが移籍してきたために、ゲストを呼ばなくて済むようになったのは彼女にとってラッキー。その彼女のオデットだが、背が高いだけでなく上半身ががっしりしているため、また美人なのだが男顔ということもあり彼女の表現自身はとても女らしくて情感があるのにどうしてもごつく見えてしまう。脚が長くて細くてとても美しく、身体能力もしっかりとしているし、何より長身であることもあってほかの白鳥たちとかくっきりと際立つ女王様的な要素はあるのだが、鳥ではなくてひとりの女性というふうに見えるオデットだった。マイム含めて演技はドラマティックでしっかりと物語を紡いでいける実力があるのだけど、持って生まれた体格と、ポール・ド・ブラの堅さは致し方ない。

王子役のネヘミア・キッシュは長身だが、ゼナイダがポワントで立つと彼よりも背が高くなる。育ちの良いボンボン的な王子で、いかにも人が良さそうだしオディールにも簡単に騙せてしまうのがよくわかる感じ。恋愛など意識したことは一度もなかったのに、オデットに出会ってあっさりと恋に落ちてしまうのが伝わってきた。パートナーリングはとても上手くて大きなゼナイダを軽々と持ち上げていたし、二人の心が通じ合っているのが感じられていたのは良かった。踊りはところどころいっぱいいっぱいのところがあって3幕のグラン・パ・ド・ドゥのフィニッシュの着地が滑ったように見えたけど、作品の世界観を伝えるところはうまくいっていたと思う。

ゼナイダのオディールは、邪悪さはあまりなくて、高貴さと華で圧倒するタイプ。長い手足をうまく生かして踊りも大きく、またたいへん美しいので存在感は強い。グランフェッテはちょっと不安定で32回転は回りきれなかったが、これもそんなに大きな傷にはなっていなかった。そして4幕、オデットと王子が出ているシーンは短いのだけどその中に、悲劇性が感じられて二人が湖に身を投げるエンディングも説得力があった。

もうひとりの主役は、ものすごく強烈な存在感のロットバルトを演じたギャリー・エイヴィス。この版では邪悪な梟という設定であるため、2幕と4幕はボロのような衣装をまとっているのだが、マイムがキメキメで切れ味鮮やか、4幕では実はオデットを彼が愛しているという設定のため、必死で王子に彼女を奪われないように戦う場面で思わず彼に肩入れしてしまったりして。そして3幕では、モヒカンにピアス、まるでパンクロッカーのような出で立ちで登場して、この扮装の似合うことといったら。カッコよすぎる。来日公演の「白鳥の湖」は、ギャリーがロットバルト役で出演する日を観たいと思ったのだった。カーテンコールでロットバルト役にブーイングするのは英米ではお約束のようだが、そのブーイングすらも嬉しそうな彼、実に鮮烈なカリスマ性があった。

パ・ド・トロワでは、ユフィちゃんの優雅さ、音楽性、上品さに思わず目が惹きつけられてしまった。もう一人のヘレン・クロフォードは華奢なユフィちゃんと並ぶと明らかにごつくて踊りも冴えず引き立て役に。センターを踊ったアレクサンダー・キャンベルは跳躍力があって元気いっぱい。1幕では、王子の友人役が平野亮一さん、蔵健太さん、ブライアン・マロリーと大変豪華な面々なのだが、酔っ払って倒れこむ平野さんの演技が楽しめた。女王役のエリザベス・マクゴリアンの華やかな美しさにはうっとり。

3幕の民族舞踊では、なんといってもナポリのラウラ・モレーラとリカルド・セルヴェラの素晴らしさに舌を巻く。ここだけ、フレデリック・アシュトンが振りつけたそうだが、特に女性のポワントワークが難しく、それをきっちりと踊るラウラの実力に恐れ入った。ロットバルトの手下という設定のスペインは、平野さん、ヨハネスともキメキメでかっこよかった。チャルダッシュのベネット・ガートサイドも良かった。

白鳥の群舞は、ロイヤルなのであまり揃っていないけど、でも気になるほどの不揃い加減ではない。体型については、あの丈の長い衣装なのでわかりにくいが、今は美しいダンサーが多くなったのではと思った。群舞の中には、金子扶生さんや、「アリス」で主役に抜擢されているベアトリス・スティクス・ブルネルもいた。2羽の白鳥は、小林ひかるさんとイツァール・メンディツァバルの踊りが異質であまり揃っていない。小林さんは優雅でたおやかな踊りなのだが、イツァールは大きくてダイナミック。タイプが似通っている二人にしたほうが良かったのでは、と思った。

ロシア的な一糸乱れぬ、体型の美しいコール・ドによるひたすら美しく精神性の高いバレエ、とは全く別物だが、ロイヤルらしいドラマティックさのあるこの「白鳥の湖」は、大変楽しく観ることができた。来日公演も楽しみである。

また、今後の「シアタス・カルチャー」でのロイヤル・バレエの中継もとても楽しみ。このライブ感を堪能できるなら、3000円払って観る価値があった。特に中継の「くるみ割り人形」「不思議の国のアリス」は必見であると感じた。

こちらは、同じプロダクションだが、マリアネラ・ヌニエスとティアゴ・ソアレス主演の「白鳥の湖」。1幕パ・ド・トロワのチェ・ユフィ、ラウラ・モレーラ、スティーヴン・マックレーがとにかく素晴らしい。

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新国立劇場バレエ団2013/2014シーズンバレエ 注目の2公演先行発表

新国立劇場バレエ団が来年1月下旬に予定している2013/2014シーズンラインアップ発表に先駆けて、注目の2公演が先行発表されました。

http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/30000298.html

2013年11月公演
  
~ディアギレフ×ストラヴィンスキー 豪華トリプル・ビル~

「火の鳥」   
振付:ミハイル・フォーキン  
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
「アポロ」   
振付:ジョージ・バランシン  
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー 
「結婚」
振付:ブロニスラヴァ・ニジンスカ  
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

現代バレエの礎を築いたバレエ・リュス(ロシアバレエ団)の創設者ディアギレフと、20世紀を代表する作曲家の一人であるストラヴィンスキーの二人によって生み出された作品によるトリプル・ビル。「アポロ」と「結婚」は新国立劇場では初演。「結婚」は以前東京バレエ団で上演されたことがあったはずですが、このニジンスカの傑作は大好きですし、音楽も素晴らしいので大期待!

2014年4月公演
 
~日本初演を含む、ビントレー振付作品2本立て~
 
「Faster」 <日本初演>
振付:デヴィッド・ビントレー  
音楽:マシュー・ハインドソン
「カルミナ・ブラーナ」   
振付:デヴィッド・ビントレー  
音楽:カール・オルフ

「カルミナ・ブラーナ」は2005年と2010年に新国立劇場バレエ団で上演されて話題となり、一躍日本でのビントレーの名前を挙げた作品。そして、ロンドン・オリンピックにインスピレーションを得て今年6月に初演されたばかりのホヤホヤの新作が早くも日本で観られるのは、本当に嬉しいことです。
http://www.brb.org.uk/masque/index.htm?act=Production&urn=21907&srn=21906&showpart=yes
The Arts Desk による批評
http://www.theartsdesk.com/dance/grand-tour-faster-dream-birmingham-royal-ballet-birmingham-hippodrome

2012/10/20

新国立劇場バレエ団「ジゼル」のキャスト

新国立劇場からメールでお知らせが来ており、新国立劇場バレエ団2013年2月公演「ジゼル」のキャストが発表されていました。

http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/30000285.html

【2/17(日)2:00・24(日)2:00】
ジゼル:長田佳世
アルベルト:菅野英男

【2/20(水)7:00・22日(金)7:00】
ジゼル:ダリア・クリメントヴァ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
アルベルト:ワディム・ムンタギロフ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)

【2/23(土)2:00】
ジゼル:米沢 唯
アルベルト:厚地康雄

今年2月の「アリーナ・コジョカル・ドリームプロジェクト」への出演が好評だったENBのダリア・クリメントヴァ、ワディム・ムンタギロフがゲスト出演。新国立劇場も、この人気ペアを呼んでくるとは頑張りましたね!特にワディム・ムンタギロフはABTのメトシーズンへのゲスト出演も好評で、来シーズンも出演予定の新星です。

さて、気になるのが、現在の新国立劇場の看板バレリーナ、小野絢子さんの出演予定がないこと。彼女、ジゼル役が似合いそうなのに、と思っていたのですが、ちょうどこの時期、バーミンガム・ロイヤル・バレエで「アラジン」が初演されるのでした(2月15日~)。もちろん、これは現段階では推測に過ぎないのですが、もしそうだったとしたら嬉しいことです。

http://www.brb.org.uk/masque/index.htm?act=WhatsOn&urn=23785&tsk=show

2012/10/18

パリ・オペラ座バレエ「天井桟敷の人々」日本公演キャスト発表

パリ・オペラ座バレエの来日公演「天井桟敷の人々」の日毎キャストがようやく発表されていました。

http://parisopera.jp/cast.html

名古屋公演
5月25日(土)18:30
バチスト:マチュー・ガニオ
ガランス:イザベル・シアラヴォラ 
5月26日(日)13:00
  バチスト:ステファン・ビュリオン
ガランス:アニエス・ルテステュ

東京公演
5月30日(木)19:00
バチスト:マチュー・ガニオ
       ガランス:イザベル・シアラヴォラ 
5月31日(金)18:30
  バチスト:ステファン・ビュリオン
        ガランス:アニエス・ルテステュ
  6月 1日(土)13:00 
バチスト:マチュー・ガニオ
       ガランス:イザベル・シアラヴォラ 
6月 1日(土)18:00
  バチスト:ステファン・ビュリオン
       ガランス:アニエス・ルテステュ

※最終的な出演者は当日発表とさせていただきます。病気・怪我等、やむを得ない事情により出演者は変更となる場合があります。 予めご了承ください。


チケット発売開始前にはキャストが発表されていませんでしたが、今チケットスペースオンラインを見たら、相当売れていますね。さすがはパリ・オペラ座ブランドと言うべきか。

2012/10/14

10/15 BSフジプライムニュースにて『世界的プリマ森下洋子 バレエ歴61年の軌跡 現役続ける原動力とは』

10月15日(月) BSフジのプライムニュースにて『世界的プリマ森下洋子 バレエ歴61年の軌跡 現役続ける原動力とは』が放送されます。放送時間は夜20:00~21:54。生放送の番組です。

http://www.bsfuji.tv/primenews/schedule/index.html#MonTheme

今年の高松宮殿下記念世界文化賞、その演劇・映像部門は日本を代表する国際的プリマバレリーナ、森下洋子氏に贈られる事が決まった。この高松宮殿下記念世界文化賞は、1988年の創設以来、「全人類の財産である芸術の創造者たちに感謝と敬意を捧げ、永遠に讃える」ことを基本理念とし、全世界の芸術家の中から国際的に著しい業績をあげた人々を厳選、授与されてきたものだ。
 今回受賞が決まった森下氏は3歳の時からバレエに取り組み続け、26歳でバレエ界屈指のコンクールであるヴァルナ国際バレエ・コンクールで、日本人バレリーナとして初めて金賞を手にするなど、国際的に知られる芸術家だ。
 バレエを始めて61年になる今も、現役のプリマバレリーナとして世界の第一線で大舞台に立ち続ける森下氏だが、同時にバレエという芸術を通じた国際社会との文化交流の第一人者でもある。そんな森下氏の原動力とは何なのか? 世界に挑み続けてきた日々とは、どのようなものであったのか? 芸術を通じた国際交流で何を得、何を育んできたのか?
 日本人として国際社会に挑んだ先駆者である森下氏に、今求められる国際社会との向き合い方、日本の未来へのヒントをきく。


世界文化賞を受賞した森下洋子さんのインタビューシリースが、産経新聞に掲載されています。

世界文化賞受賞 プリマの軌跡(上)バレエダンサー・森下洋子 日本人だから、日本でやる
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121009/ent12100903100000-n1.htm

世界文化賞受賞 プリマの軌跡(中)バレエダンサー・森下洋子 人々に夢や希望、感謝、そして愛
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121010/ent12101004040000-n1.htm

「ガリーナ・ウラノワ(1910~98年)。ステップが見えないくらい、音と一緒になる。『踊るとは、技を見せることではない』と来日時に、教えていただきました。

という言葉がとても印象的です。

世界文化賞受賞 プリマの軌跡(下)バレエダンサー・森下洋子
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121011/ent12101103140000-n1.htm

「全部踊り中心。それが幸せなんですもの。こうやって生きていられるというのはみんなが支えてくれるおかげ。ほかに何もいらないから、“犠牲”にしたものなどありません。必要ないですから。」

61年間もトップで活動し続けている森下さんの言葉には、重みがあります。

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2012/10/12

ABTの2013年METシーズン

ABTの2013年METシーズンが発表されていました。
(まだプレスリリースはオフィシャルサイトには掲載されていませんが、Ballet Alertフォーラムに載っています)

ニューヨーク・タイムズの記事
http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2012/10/10/american-ballet-theater-announces-spring-season/

各日のキャストも発表されています。(一部未定有り)
http://www.abt.org/calendar.aspx?startdate=5/1/2013

2013年METシーズンの目玉としては、ラトマンスキーがショスタコーヴィチの曲を使って振りつけた世界初演作品が二つあること。ラトマンスキーは、ショスタコーヴィチ3部作として3作品を新たに振り付けるワケですが、第一弾(交響曲9番)は秋のシティセンターシーズンで世界初演されます。交響曲1番と弦楽のための室内交響曲(Op. 110a)にそれぞれ振りつけられた作品と併せての3部作が、5月31日に初演され、4公演を予定しています。

カンパニー初演としては、フレデリック・アシュトンの「田園の出来事」が5月21日に上演されます(4公演を予定)。

また「海賊」はプロダクションを一新したものを上演(6月4日~)。

ほかの作品としては、5月14日~「オネーギン」、5月21日~「田園の出来事」の他「汝が瞳に乾杯」(マーク・モリス振付)「シンフォニー・インC」の同時上演、5月24日~「ドン・キホーテ」、6月10日~「ロミオとジュリエット」、6月17日~「白鳥の湖」、6月24日~「シルヴィア」、7月1日~「眠れる森の美女」。

ゲストとしては、アリーナ・コジョカルとENBのワディム・ムンタギロフが出演。コジョカルは「白鳥の湖」「眠れる森の美女」に、ムンタギロフは「眠れる森の美女」に出演予定。なんだかコジョカルが、決して得意ではないと思われる「白鳥の湖」を踊るのが意外なのですが、でもエルマン・コルネホが、やっとジークフリート・デビューを彼女を相手に果たせるのは良かったと思います。

ダニール・シムキンが先シーズンの「白鳥の湖」に続き、「眠れる森の美女」でも王子役を演じるので、サポートの訓練中なのかな、って思っちゃいました。それ以外のソリストが、新しく昇進したアレクサンダー・ハムーディとシムキン要員のサラ・レーン以外はあまりチャンスを与えられていないのが残念です。シカゴでの「ジゼル」でジゼル役デビューした加治屋百合子さんがとても好評だったのですが、今回は「ジゼル」の上演はないのですよね。今のところ、「白鳥の湖」一公演がキャスト未定になっているのですが、これに誰が入るのかが興味深いところです。

大柄なポリーナ・セミオノワがマクミランのジュリエット役を演じるのがちょっと意外です。「オネーギン」のタチヤーナ役もですが(ベルリン国立バレエやシュツットガルト・バレエでのゲストで一応踊っていますけどね)。イリーナ・ドヴォロヴェンコの出演予定が「オネーギン」だけだったり、ジュリー・ケントも「オネーギン」と「ロミオとジュリエット」だけでとても少ないので、今後彼女たちを観る機会があるのかちょっと心配になってしまいます。

2012/10/10

9/28, 30 東京バレエ団「オネーギン」 The Tokyo Ballet "Onegin"

ジョン・クランコによる全3幕のバレエ
アレクサンドル・プーシキンの韻文小説に基づく

振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
振付指導:リード・アンダーソン、ジェーン・ボーン
コピーライト:ディーター・グラーフェ
世界初演:1965年4月13日、シュツットガルト
改訂版初演:1967年10月27日、シュツットガルト

東京文化会館(東京)

オネーギン:エヴァン・マッキー Evan McKie
レンスキー:アレクサンドル・ザイツェフ Alexander Zaitsev
タチヤーナ:吉岡美佳 Mika Yoshioka
オリガ:小出領子 Reiko Koide
ラーリナ夫人:矢島まい 
乳母:坂井直子
グレーミン公爵:高岸直樹


エヴァン・マッキーは役を自分に引き寄せるダンサーである。彼はオネーギンそのものに同一化し、オネーギンの人物像を練り上げるのではなく自分の個人の感情を役の中にこめて演じているので、演技がとても細かく自然に感じられるし、それぞれの舞台においても、毎回少しずつ違う自分の気持ちに従っているため、観るたびに異なった表現ができて”役を生き”ている。オネーギンという複雑な人物の変遷、彼の人生を観客は追体験できるのだ。しかも、パートナー毎に毎回違ったオネーギン像を彼は見せてくれる。今まで彼がパートナーを務めたバレリーナ6人全員との組み合わせを観たが、それぞれが全部異なるケミストリーがあった。そして30日の公演では、彼の熱情が吉岡美佳さんに驚くべき変化をもたらしたのだった。

2年半前にエヴァンのオネーギン・デビューを観たときには、1幕ではなんと人の良さそうなオネーギンだろうと思った。今回の彼は、とても慇懃で礼儀作法はきちんとしているものの、とても空虚で虚栄心の強い、自分にしか関心を持たない人物だ。1曲目のソロで、自分の視界からタチヤーナの存在を消して行って、自分ひとりの世界に溺れるがごとく、ナルシスティックな姿。一分の隙もなく、指先からつま先のすみずみまで行き届いた動き。一つ一つの動作が磨き抜かれており、都会の垢抜けた紳士としてこの田舎町で際立っているというか、ほかの人々を見下ろすような長身で黒衣の彼はとても異質で浮き上がっている。彼を包んでいる空気自体がひんやりとしていて別物のようだ。研ぎ澄まされていて、ナイフのように冷ややかで尖った存在の高等遊民、そんなオネーギン。一方、田舎の少女にしては洗練されていてお嬢さんぽいが、物静かな吉岡さんのタチヤーナはあこがれをこめた視線で遠くから少し恥ずかしそうに彼を見つめ続ける。

鏡のパ・ド・ドゥでは、長い腕で弧を描き悪魔的な微笑みを浮かべながらオネーギンは出てくる。このシーンでのオネーギン、クール悪魔ヴァージョンと優しい悪魔ヴァージョンの二通りあると思うのだが、今日のエヴァンは、いつになく優しげなオネーギンで、甘い微笑みを浮かべてタチヤーナの夢を体現した。後ろ脚が垂直に突き刺さるほど高く上がるアントルラッセ、美しく伸びたジュテと無音の着地。恋心に高揚するタチヤーナを包み込むようにサポートし、疾走感を保ちながらいくつもの跳躍へと導く。いつもはお姫様キャラの吉岡さんも、ここでは笑顔を花開かせたドリーミーな少女で、オネーギンの腕の中で奔放に舞っている。長身のエヴァンにサポートされると驚くばかりの高さに舞い上がる吉岡タチヤーナは、柔らかい背中を生かしたアラベスクで歓びを全身で表し、多幸感に酔いしれる。タチヤーナが甘い余韻に浸っている間に、また長い腕を手招きするように振りながら、スタイリッシュに鏡の中へと消えていくオネーギン。

タチヤーナの名前の日の宴では、オネーギンはあからさまに退屈していて、欠伸などみせている。部屋の隅で黒い染みのようになってエレガントにトランプ遊びに興じるオネーギンは、こんなつまらない田舎にいることに飽き飽きしている。タチヤーナがしきりに自分のことを気にしているから、苛立ちが募り、ついには彼女からの手紙をビリビリに破いてしまう。礼儀を損なわないように丁寧に接しているし、恋に恋していないで現実を見ろと言いたげな彼なのだけど、タチヤーナにとっては心が二つに割れてしまったかのようだ。この日のオネーギンは、この上なく美しいが憐れで悲しい男だ。小娘相手に苛立っている自分のことが心の奥底では嫌で嫌で仕方ないのに、虚勢を張ってクールに振舞っている。本当はタチヤーナと同じように、繊細で壊れやすく孤独な魂を持っているのに。机をバンと叩き立ち上がる姿にも、タチヤーナに苛立っているだけでなく、自分自身に対してもナルシズムと表裏一体の嫌悪感を抱いていることがわかって、観ている側としても辛くなる。なんという哀しいエゴイスト。隙がなく美しく洗練されていればいるほど、このオネーギンはより一層哀しく見えるのだ。

オネーギンの中のふさぎの虫は黙っていることができなかった。再び悪魔の微笑みを浮かべて、オルガの手を取って戯れる。楽しそうにオルガを弄んで有頂天にさせる彼だが、本当はこんな退屈しのぎのゲームなどすべきではないということをわかっていた。純朴なレンスキーを激怒させて決闘を申し込ませる事態にまでなるとは、さすがの彼も予想ができなかったようだが。

決闘に向かうオネーギンは、すでに敗者の気配を濃厚に漂わせている。マントから取り出した銃を見ておののき、自分の退屈しのぎのゲームがこんな事態をもたらしてしまったことを激しく後悔している。彼の銃弾にレンスキーが斃れると、タチヤーナの射るような視線に耐え切れず、自責の念とともに愕然とするオネーギンの姿があまりにも哀れだ。この決闘に勝者はいない。すべての者が傷ついた、そんな痛切な幕切れだった。

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「エフゲニー・オネーギン」(イリヤ・レーピン)

3幕のエヴァンは、28日の方が白髪が目立っていた感じだ。年月は経たものの、相変わらず美しい立ち姿のオネーギンだが、この数年の間、彼がどんな地獄をくぐり抜けてきたのかが浮かび上がってくるようなやつれ方。耳を隠して美しく変貌した貴婦人タチヤーナを見つめる瞳は、まるでタチヤーナは彼自身の人生における最後の希望として見ているようだ。それなのにグレーミンと踊ったタチヤーナは、去り際にもほとんどまともにオネーギンの姿を見ようともしない。

最後の手紙のパ・ド・ドゥ。28日に観た吉岡さんは、一度ポワントが落ちた他はきれいに踊れていたものの、とても頑なでオネーギンに最後まで心を許そうとしない、とても冷たいタチヤーナに感じられた。激しいオネーギンの求愛に対しても心揺れることなく、最初から彼を拒絶する気持ちが固まっていたように見えた。だが、30日は一転して、彼女は自分の中の理性と戦い葛藤して揺れ動く様を表情ではなく肉体で表現した。迷いに迷った末に決断を下しオネーギンを追い出すものの、終生その選択を悔やんで生きただろうと思わせるほどの嘆きと苦悩を感じさせて、大熱演だった。この劇的な変化はまるで魔法のよう。

その演技を引き出したのが、自己の存在意義のすべてを賭けて、つまづいてしまった人生を立て直す唯一の光としてのタチヤーナへ、直球の想いをぶつけるエヴァンのオネーギンだった。愛だけじゃない、彼女は失ってしまった彼の誇りをも象徴している。ここでの彼の表現は若々しい。人生の辛酸をなめてきたのは伝わってくるが、タチヤーナに再会して彼の心は彼女と出会った頃の若さや魅力を取り戻していた。彼の踊りからは台詞が聞こえる。そしてすべての虚飾を剥ぎ取った裸の感情が奔流となって流れ出る。涙を流しながらタチヤーナの背後から迫り、ついにはタチヤーナの気持ちがこちらを向いて勝利を確信した彼は、彼女の目を見て微笑むのだ。だから、突然タチヤーナが彼の前に手紙を突き出し、それを破り捨てるとき、彼女の取った行動に彼は心底驚き慌てる。歓喜から絶望の底に突き落とされたオネーギンは、我を捨ててすがりつくも紳士としての気品を保ちながら走り去り、タチヤーナは慟哭する。この最後の表現、激しく泣き叫ぶ人もいれば、じっと耐え抜き正しい選択をしたと自分に言い聞かせるタチヤーナもいる。吉岡さんは、それほど激烈な嘆きは見せなかったものの、降り積もる雪のような哀しみを見せて、タチヤーナがオネーギンのことを愛していたことを表現した。カーテンコールで役から抜けきらず立ち尽くしている姿が忘れがたい。

Tchaikovsky: OneginTchaikovsky: Onegin
Emerson String Quartet

Animato
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追記:ところで、先日まで開催されていたレーピン展には、「決闘」という作品が出展されていたが、これが思いっきり「オネーギン」の決闘シーンを思わせるものであった。この展覧会には出品されていないが、レーピンの作品には題名も「エフゲニー・オネーギン」というものもある。レーピンは、この他にも決闘をモチーフとした作品をいくつか残している。

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「決闘」(イリヤ・レーピン)

7月のシュツットガルト・バレエでの公演からの映像を収めたトレーラーがシュツットガルト・バレエのサイトで公開されていた。シュツットガルト・バレエの動画は重いので、こちらを貼っておく。

2012/10/05

ダンスマガジン2012年11月号

世界バレエフェスティバル特集号であるダンスマガジン2012年11月号。瀬戸秀美さんによる美しい舞台写真が紙面を多く飾っています。特に冒頭の「ライモンダ」のタマラ・ロホとスティーヴン・マックレーの決めポーズが素敵。それから「アザー・ダンス」のオーレリー・デュポンとジョシュア・オファルトもいいですね。「マノン」のアリーナ・コジョカルは可愛い!マリア・アイシュヴァルトとマライン・ラドマーカーの「椿姫」はドラマティック。個人的には、全プログラムを通じてとても素晴らしいパフォーマンスを見せたオレシア・ノーヴィコワが小さな写真1枚だけだったのがちょっと残念ですが、どの写真も本当にクオリティが高くて、ページをめくっているだけで至福を感じてしまいます。

インタビューも、スヴェトラーナ・ザハロワ、マルセロ・ゴメス、スティーヴン・マックレー、ステファン・ビュリヨン、ジル・ロマンとある上に、ミラノ・スカラ座バレエの来年の来日公演の宣伝ですがアリーナ・コジョカルとフリーデマン・フォーゲル、ポリーナ・セミオノワとイーゴリ・ゼレンスキーの対談、「稽古場のダンサーたち」ではダニール・シムキンも。

何より一番読み応えがあったのは、「ダンスマガジン・インタビュー」でのオーレリー・デュポンのインタビュー。アメリカで過ごした子供時代。オペラ座学校時代のクロード・ベッシーとの確執。ピナ・バウシュの「春の祭典」との出会いと受けた啓示。ロビンスなどコレオグラファーとの話、音楽について、そしてパートナーについて。最後に、2年半後に控えている引退について。引退は2015年1月頃で、ジョシュア・オファルトと「マノン」を踊る予定だそうです。

バレエフェス以外には、小林紀子バレエシアターが日本で初演した「アナスタシア」について大きく取り上げているのと、ストリートダンス世界大会R-16の記事が面白かったです。大変充実した号だと言えるでしょう。


シュツットガルト・バレエのエヴァン・マッキーが、世界バレエフェスティバルについて書いた記事。4ページにも渡るもので、巻末には英語の原文も掲載されています。ダンサーの視点から観た「世界バレエフェスティバル」のレポートは大変興味深く、彼がいかに知性溢れていて表現についても豊かな語彙を持っている人であるのかがよくわかるのですが、翻訳には意訳しすぎての疑問点が多いのです。
(お断りしておきますが、私自身もプロの翻訳家ではありません。翻訳の学校に通ったことはありますが。従って、もしかしたら解釈に誤りがあるかもしれません。ご指摘があったらコメントでお寄せください)

特に後半、「全演目を通しても特によかったものについて述べようとすると、細部の印象が際立っていることに思い至る」となっているところが、原文は"It is the details that made the next performances I am about to mention my favorite moments of all the programs"となっています。つまり、批評家の視点ではなく、一観客としての視点で彼は「自分が気に入った、楽しいと思った演目について」書こうとしているわけですが、この翻訳の文体を読むと、いかにも評論家が書いているような、絶対的評価を前提とした文章になってしまっています。”よかった”と”楽しんだ”では意味が違います。

また、気になった点をいくつか挙げてみたいと思います。
「ドン・キホーテ」(サレンコ、シムキン)
"We are going to do it our way and hope you like it"が「だったらどう踊るのがベストか、練り上げたのがこれです。こういうのもいいでしょ?」と訳されています。「自分たちのやり方でやってみるけど、気に入ってくれたら嬉しい」という方が正しいと思います。「練り上げる」というのは、ニュアンスが違うものと感じられてしまいます。

「海賊」(セミオノワとゼレンスキー、上野とゴールディング)
「セミオノワとゼレンスキー、二人の『海賊』は端正で華やか、別プログラムでは上野水香とマシュー・ゴールディングもこれを踊ったが、そちらと比べても興奮度という点では上だった」とありますが、原文では"Semionova and Zelensky also completed a clean and showy Corsaire along with another version by Mizuka Ueno and Matthew Golding that had the audience relatively excited"とあり、上野/ゴールディング組の方が相対的に観客が興奮していたというのが本来の原文の意図で、逆の意味に翻訳されてしまっているのがわかります。

「ラ・シルフィード」(ロホ、マックレー)
原文は"...making the image alive to a whole audience the way it might have not since the great era of Fracci or Evdokimova"となっていますが、訳では「これは偉大なるフラッチやエフドキモワ以来のことだ」としています。フラッチやエフドキモワの偉大なる時代で起きたであろうやりかたで、というのが正しいわけで、正確性に欠けています。エヴァンは年齢から言っても当然フラッチやエフドキモワをリアルタイムでは見ていないわけですから。

「ラ・シルフィード」(オブラスツォワ、ガニオ)
"In my opinion she is one of the most professional ballerinas today"を、「現在最もプロ意識の高いバレリーナと言えるのではないか」としていますが、professional とプロ意識が高い、はまったく違うわけではないのですがニュアンスが違うように感じられます。プロ意識を英語にすると、pride of a professionalとか、 professionalismというのが一般的なのではないでしょうか。

「アザー・ダンス」(デュポン、オファルト)
"She is in a definition of a ballerina in how she approaches every step"を「オーレリのステップへのアプローチは、バレリーナならかくあるべしと思わせるものであり」と訳しています。「すべてのステップへのアプローチ」とするのが正解だと思われます。「一つ一つ=すべて」という部分がこの文章では重要なのです。

ブシェ、ボアディン
「ノイマイヤー流の”語り”」と訳していますが、原文は"Neumeier style of story telling”となっています。語りというよりは、物語を語る、としたほうが正確です。”語り”でも間違いではありませんが、”物語ること”がノイマイヤー作品の本質だと思われますので、本質が曖昧になってしまいます。


それと、文体については、前述したように、これは評論ではなく、あくまでも公演を楽しんだ一観客であるダンサーの観劇記であるのですから、もっと原文のチャーミングで純粋に楽しんでいる部分を再現すべきだったと思います。そういう意味で、評論家として名高い長野由紀さんによって翻訳されるのではなく、職業的な翻訳家に翻訳したほうが良い訳になったのではないかと考えられます。

しかしながら、現役のトップダンサーが観た世界バレエフェスティバルについての、網羅性の高い観劇記を掲載するという趣向は大変面白いものであったし、エヴァンがとても文章が達者でウィットに富んでいることもあって、大変よい企画だったと言えます。巻末に原文を掲載したことで、原文のニュアンスも併せて楽しむことができました。

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