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« 第13回 世界バレエフェスティバル、BSプレミアムシアターでの放映演目 | トップページ | 9/28, 30 東京バレエ団「オネーギン」 The Tokyo Ballet "Onegin" »

2012/10/05

ダンスマガジン2012年11月号

世界バレエフェスティバル特集号であるダンスマガジン2012年11月号。瀬戸秀美さんによる美しい舞台写真が紙面を多く飾っています。特に冒頭の「ライモンダ」のタマラ・ロホとスティーヴン・マックレーの決めポーズが素敵。それから「アザー・ダンス」のオーレリー・デュポンとジョシュア・オファルトもいいですね。「マノン」のアリーナ・コジョカルは可愛い!マリア・アイシュヴァルトとマライン・ラドマーカーの「椿姫」はドラマティック。個人的には、全プログラムを通じてとても素晴らしいパフォーマンスを見せたオレシア・ノーヴィコワが小さな写真1枚だけだったのがちょっと残念ですが、どの写真も本当にクオリティが高くて、ページをめくっているだけで至福を感じてしまいます。

インタビューも、スヴェトラーナ・ザハロワ、マルセロ・ゴメス、スティーヴン・マックレー、ステファン・ビュリヨン、ジル・ロマンとある上に、ミラノ・スカラ座バレエの来年の来日公演の宣伝ですがアリーナ・コジョカルとフリーデマン・フォーゲル、ポリーナ・セミオノワとイーゴリ・ゼレンスキーの対談、「稽古場のダンサーたち」ではダニール・シムキンも。

何より一番読み応えがあったのは、「ダンスマガジン・インタビュー」でのオーレリー・デュポンのインタビュー。アメリカで過ごした子供時代。オペラ座学校時代のクロード・ベッシーとの確執。ピナ・バウシュの「春の祭典」との出会いと受けた啓示。ロビンスなどコレオグラファーとの話、音楽について、そしてパートナーについて。最後に、2年半後に控えている引退について。引退は2015年1月頃で、ジョシュア・オファルトと「マノン」を踊る予定だそうです。

バレエフェス以外には、小林紀子バレエシアターが日本で初演した「アナスタシア」について大きく取り上げているのと、ストリートダンス世界大会R-16の記事が面白かったです。大変充実した号だと言えるでしょう。


シュツットガルト・バレエのエヴァン・マッキーが、世界バレエフェスティバルについて書いた記事。4ページにも渡るもので、巻末には英語の原文も掲載されています。ダンサーの視点から観た「世界バレエフェスティバル」のレポートは大変興味深く、彼がいかに知性溢れていて表現についても豊かな語彙を持っている人であるのかがよくわかるのですが、翻訳には意訳しすぎての疑問点が多いのです。
(お断りしておきますが、私自身もプロの翻訳家ではありません。翻訳の学校に通ったことはありますが。従って、もしかしたら解釈に誤りがあるかもしれません。ご指摘があったらコメントでお寄せください)

特に後半、「全演目を通しても特によかったものについて述べようとすると、細部の印象が際立っていることに思い至る」となっているところが、原文は"It is the details that made the next performances I am about to mention my favorite moments of all the programs"となっています。つまり、批評家の視点ではなく、一観客としての視点で彼は「自分が気に入った、楽しいと思った演目について」書こうとしているわけですが、この翻訳の文体を読むと、いかにも評論家が書いているような、絶対的評価を前提とした文章になってしまっています。”よかった”と”楽しんだ”では意味が違います。

また、気になった点をいくつか挙げてみたいと思います。
「ドン・キホーテ」(サレンコ、シムキン)
"We are going to do it our way and hope you like it"が「だったらどう踊るのがベストか、練り上げたのがこれです。こういうのもいいでしょ?」と訳されています。「自分たちのやり方でやってみるけど、気に入ってくれたら嬉しい」という方が正しいと思います。「練り上げる」というのは、ニュアンスが違うものと感じられてしまいます。

「海賊」(セミオノワとゼレンスキー、上野とゴールディング)
「セミオノワとゼレンスキー、二人の『海賊』は端正で華やか、別プログラムでは上野水香とマシュー・ゴールディングもこれを踊ったが、そちらと比べても興奮度という点では上だった」とありますが、原文では"Semionova and Zelensky also completed a clean and showy Corsaire along with another version by Mizuka Ueno and Matthew Golding that had the audience relatively excited"とあり、上野/ゴールディング組の方が相対的に観客が興奮していたというのが本来の原文の意図で、逆の意味に翻訳されてしまっているのがわかります。

「ラ・シルフィード」(ロホ、マックレー)
原文は"...making the image alive to a whole audience the way it might have not since the great era of Fracci or Evdokimova"となっていますが、訳では「これは偉大なるフラッチやエフドキモワ以来のことだ」としています。フラッチやエフドキモワの偉大なる時代で起きたであろうやりかたで、というのが正しいわけで、正確性に欠けています。エヴァンは年齢から言っても当然フラッチやエフドキモワをリアルタイムでは見ていないわけですから。

「ラ・シルフィード」(オブラスツォワ、ガニオ)
"In my opinion she is one of the most professional ballerinas today"を、「現在最もプロ意識の高いバレリーナと言えるのではないか」としていますが、professional とプロ意識が高い、はまったく違うわけではないのですがニュアンスが違うように感じられます。プロ意識を英語にすると、pride of a professionalとか、 professionalismというのが一般的なのではないでしょうか。

「アザー・ダンス」(デュポン、オファルト)
"She is in a definition of a ballerina in how she approaches every step"を「オーレリのステップへのアプローチは、バレリーナならかくあるべしと思わせるものであり」と訳しています。「すべてのステップへのアプローチ」とするのが正解だと思われます。「一つ一つ=すべて」という部分がこの文章では重要なのです。

ブシェ、ボアディン
「ノイマイヤー流の”語り”」と訳していますが、原文は"Neumeier style of story telling”となっています。語りというよりは、物語を語る、としたほうが正確です。”語り”でも間違いではありませんが、”物語ること”がノイマイヤー作品の本質だと思われますので、本質が曖昧になってしまいます。


それと、文体については、前述したように、これは評論ではなく、あくまでも公演を楽しんだ一観客であるダンサーの観劇記であるのですから、もっと原文のチャーミングで純粋に楽しんでいる部分を再現すべきだったと思います。そういう意味で、評論家として名高い長野由紀さんによって翻訳されるのではなく、職業的な翻訳家に翻訳したほうが良い訳になったのではないかと考えられます。

しかしながら、現役のトップダンサーが観た世界バレエフェスティバルについての、網羅性の高い観劇記を掲載するという趣向は大変面白いものであったし、エヴァンがとても文章が達者でウィットに富んでいることもあって、大変よい企画だったと言えます。巻末に原文を掲載したことで、原文のニュアンスも併せて楽しむことができました。

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コメント

いつも丁寧な解説をありがとうございます。バレエ初心者(鑑賞専門)の男性で、技術的なことはちんぷんかんぷんですが、とても参考になります。28日のオネーギンを見ましたが、吉岡さんは「思いを漏らすまいと健気にふるまう女性」というふうに感じましたが、30日は別の表現だったのですね。それからバレフェスのエヴァン・マッキーの訳ですが、海賊についてもう一歩、修正した方がいいと思います。本来の意図は「上野&ゴールディングズのペアがどちらかというと観客を興奮させるものであったのに対し、セミオノワ&ゼレンスキーのペアは端正ではなやかなものだった」と、表現の力点の置き方の違いを述べたもので、2組のペアの興奮度の差を述べたものではありません。

Polluxさん、こんいちは。

28日の吉岡さん、確かに想いを秘めて漏らすまいと振舞う女性というふうにも見ることができると思います。1,2幕の彼女の演技が思いがけず(というとちょっと失礼かもしれないけど)良かっただけに、3幕はちょっと冷たすぎるかなと感じてしまったのですね。その点、30日には大変身していて、本当に素晴らしかったです。

それと、「海賊」の部分の役ですが、まさにおっしゃるとおりで、どちらかに優劣をつけるというより、表現の力点の置き方の違いということですよね。ちょっとこの辺は修正してみたいと思います。(で、元の役は明らかに誤訳ですよね)

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