8月28日ティアラこうとう、30日鎌倉芸術館
http://www.dancetoursproductions.com/
ロイヤル・バレエとバーミンガム・ロイヤル・バレエのダンサー計8人を迎えてのガラ。休憩時間を含めても2時間というコンパクトなものだったのに、非常に満足度が高かった。
まず、大半の演目が、英国バレエを代表する振付家の作品で構成されているというコンセプトがいい。英国バレエを代表するアシュトン、マクミランから近年のウィールダン、マクレガー、新進のリアム・スカーレットというラインアップで、英国バレエの流れを学ぶことができた。
それから、一つ一つの演目が短めで、ダラダラとつまらないものがなく全部が面白かった。古典のパ・ド・ドゥはバーミンガム・ロイヤル・バレエのペアによる2作品のみというのも良かった。ダンサーが自分で踊りたい作品を楽しんで踊っているというのがよく伝わってきた。
さらに、この主催者さんによる初めての公演ということもあり、手作り感がなんともいい感じ。プログラムが1000円と良心的な値段で、しかもダンサー紹介にはダンサーの人柄を感じさせるエピソードが掲載されていたり、主要作品について、その作品を踊るダンサーからのコメントが掲載されていたり、と読み応えも十分あった。 鎌倉芸術館の小ホール、600人(プラスティアラこうとう)という少人数の観客だけが観られたのはとても贅沢だけど、反面この素晴らしさをこれだけの人数しか味わえなかったのはちょっともったいなかったかもしれない。
★「リーズの結婚」より第1幕のパ・ド・ドゥ La Fille Mal Gardee
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フェルディナン・エロルド
出演:ラウラ・モレーラ/スティーヴン・マックレー Laura Morera / Steven McRae
リボンを使ったパ・ド・ドゥ。全幕を見直して確認したのだが、実際には二つのパ・ド・ドゥをつなげていたのであった。実はラウラ・モレーラ、一昨年に「オネーギン」のタチヤーナ役で観ていて、その時には役の解釈に違和感を覚えてしまって苦手意識を持っていたのだけど、この舞台を見て、その意識が払拭された。彼女は実に音楽性が素晴らしく、またアシュトンの難しいパの一つ一つが正確で軽やかなのだ。スティーヴン・マックレーの輝かしいテクニックはもちろん言うことなし。思わずニコニコと笑顔になってしまう、愛らしい作品。
★「ウィンタードリーム」 より別れのパ・ド・ドゥ Winter Dreams
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
出演:サラ・ラム/ネマイア・キッシュ Sarah Lamb / Nehemiah Kish
「三人姉妹」というタイトルの方が一般的なマクミランの作品。華やかな金髪美人のサラ・ラムが地味な人妻マーシャにちゃんと見えて、情熱を秘めた演技で心を打った。初見のネマイア・キッシュは、ロンドンオリンピックの閉会式でダーシー・バッセルと踊った人。長身で誠実そうな雰囲気。ヴェルシーニン役はとてもダイナミックな跳躍があるのだけど、この跳躍はやや重そうな感じ。でも二人の全体的な雰囲気はとても素敵だった。特にヴェルシーニンの残していったコートに頬を寄せるサラ・ラムの姿は胸を打った。
★「ファサード」 Façade -solo
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:ウィリアム・ウォルトン
出演:チェ・ユフィ Yuhui Choe
1931年に初演されたアシュトン初期の作品。白とピンクのフリフリのショートパンツという衣装も可愛いユフィちゃんの、コケティッシュでキュートな部分と音感の良さが生かされた作品。ただ、1分もあるかどうかで、ものすごく短かった。
★「海賊」よりパ・ド・ドゥ Le Coisaire
振付:マリウス・プティパ
音楽:アドルフ・アダン
出演:佐久間奈緒/ツァオ・チー Nao Sakuma / Chi Cao
世界バレエフェスティバルで派手な「海賊」ばかり観てきたけど、こうやって正統派の「海賊」を観るとホッとする。特に鎌倉芸術館は小ホールで舞台も狭かったので、ツァオ・チーの跳躍は控えめだったけど、彼のピルエットはまっすぐでゆるやかでとても美しい。佐久間さんは透け感のある真っ赤なキャミソールドレス。彼女はとにかくアラベスクがとてもきれいでうっとりしてしまうほど。そして二人のパートナーショップがこれまた見事で、動きのシンクロの仕方もぴったり。
★「リーベストゥラウム」 Liebestraum (日本初演)
振付:リアム・スカーレット
音楽:フランツ・リスト
出演:ラウラ・モレーラ/リカルド・セルヴェラ Laura Morera / Ricardo Cervera
現在26歳の若手振付家/ロイヤル・バレエのファースト・アーティストであるリアム・スカーレットの作品で初演は2009年。タイトルにある通り、リストの「愛の夢」を使った情感あふれるパ・ド・ドゥ。物語は特にないというが、男女の出会いと別れを時には激しく、時にはリリカルに描いている。リフトも多いが、ユニゾンで見せる動きもあり、変化に富んでいるので少し長いけどまったく飽きない。動きが音楽とも見事に融合していて流れるような動きで構成されており、ドラマ性を感じさせる逸品。この若さでこれだけの訴えかける作品を作り上げてしまうスカーレットの才能も素晴らしいし、派手さはないけれどもとても繊細で、一つ一つの動きから目が離せず思わず見入ってしまうモレーラとセルヴェラの踊りやパートナーシップも素敵だった。
★「クローマ」よりパ・ド・ドゥ Chroma - solo and pas de deux
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:J.タルボット、J.ホワイト
出演:スティーヴン・マックレー/サラ・ラム/リカルド・セルヴェラ Steven McRae/ Sarah Lamb / Ricardo Cervera
マックレーのソロ(このガラのための特別編集版)と、ラム、セルヴェラによるパ・ドゥ・ドゥの2つのパートから構成。「クローマ」はDVDで観ていたけど、やはり生で観ると、あのぐにゃぐにゃしていていったい人の身体ってどうなっているの?って独特の動きがダイレクトに伝わってきて面白い。ホワイト・ストライプスの音楽に合わせてのマックレーの驚くべきスピード感とキレのある動き。パ・ド・ドゥは、もう少し音楽がゆっくりするけれども、こちらでもまるでアンドロイドのようなサラ・ラムの身体能力と丁々発止のセルヴェラのサポートがすごい。
★「カリオペ ソロ」エリートシンコペイションズより Elite Syncopations - Calliope Rag
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジェームス・スコット
出演:ラウラ・モレーラ Laura Morera
とっても派手でキッチュな衣装を見事に着こなしているラウラ・モレーラ。ラグライムの音楽にぴたっと合わせての動きがとてもセクシーで小粋でかっこいい。この作品は全編をロイヤルのダンサーで踊っているのを観たいなって思う。
★「白鳥の湖」より白鳥のパ・ド・ドゥ Swan Lake Act 2 pas de deux
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
出演:佐久間奈緒/ツァオ・チー Nao Sakuma / Chi Cao
こちらも正統派の「白鳥の湖」。やはり奈緒さんのアラベスクの美しさにほれぼれする。とてもたおやかなオデット。この2幕のシーンは王子はサポート要員なのが残念だけど、ここでのパートナーシップも完璧。ツァオ・チーの衣装は王子というよりちょっとロットバルト的。古典はこのペアだけが踊ったのだけど、せっかくなので1演目はビントレーの作品でも良かったのではないだろうか。
★「ジュエルズ」よりルビーのパ・ド・ドゥ Rubies from Jewels
振付:ジョージ・バランシン
音楽:イゴール・ストラヴィンスキー
出演:チェ・ユフィ/リカルド・セルヴェラ Yuhui Choe / Ricardo Cervera
ユフィちゃん、リカルドとも大変音楽性に優れているダンサー。「ルビー」のジャジーでスパイスが効いた踊りに二人ともぴったり。もう少し長い時間観ていたかった。
★「マノン」より第1幕ベッドルームのパ・ド・ドゥ Manon Bedroom pas de deux
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
出演:ラウラ・モレーラ/ネマイア・キッシュ Laura Morera / Nehemiah Kish
大人っぽいラウラはマノンのキャラクターっぽくはないのだけど、その辺は演技力でカバー。とても奔放でファム・ファタル的、官能的なマノン像を描くことに成功している。ネマイアのデ・グリューは本当に世間知らずであほんだらという感じで、いかにもマノンの魅力に骨抜きにされてどこまでもついてくるようなデ・グリューとしてのキャラクターが伝わってきた。
ここからは5つのソロ作品が続けて上演。しかも全部日本初演作品である!
★「アイヴ・ガット・リズム」 (日本初演)I 've Got Rhythm
振付:スティーヴン・マックレー
音楽:ジョージ・ガーシュイン
出演:スティーヴン・マックレー Steven McRae
スティーヴンの自作自演シリーズ。これはタップではないのだけど、タップっぽい印象のあるノリノリの作品。ステージを超高速シェネで一周してしまったり、細かいステップや跳躍を挟み込んで、舞台上を縦横無尽に駆け回る。彼のエンターテイナーぶりを堪能。涼しい顔をして驚くようなことをやってのける彼の魅力に会場はノックアウトされたようだった。
★「アンド・ザッツ・ミー」 (日本初演) And That's Me
振付:ジョナサン・ワトキンス
音楽:クロード・ドビュッシー
出演:チェ・ユフィ Yuhui Choe
ユフィちゃん1曲目のアシュトン作品と若干イメージが重なるけど、彼女のキュートな魅力と柔軟な肢体を生かしたソロ作品。これを振付けたジョナサン・ワトキンスも、ロイヤル・バレエのファーストアーティスト兼振付家。
★「エレクトリック・カウンターポイント」 (日本初演)Electric Counterpoint
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
出演:リカルド・セルヴェラ Ricardo Cervera
上半身裸にブルーのハーフパンツという衣装のリカルドが、上半身の雄弁な動きで静謐に踊る美しい作品。リカルドはマクレガー、バランシン、そしてウィールダンと全く違ったテイストの作品、どれも器用に踊るいいダンサーだ。(来日公演では「ラ・フィユ・マル・ガルデ」のコーラス役も踊っていたし)身長が低めなのでプリンシパルになれないのだろうけど、彼の良さを改めて実感したこの公演だった。
★「水に流して」 (日本初演) Je Ne Regrette Rien
振付:ベン・ヴァン・コーウェンバーグ
音楽:エディット・ピアフ
出演:サラ・ラム Sarah Lamb
黒いドレスのサラ・ラムが、笑顔を浮かべ少しおちゃめな表情を見せながらも、片脚をフレックスにしたクペでピルエットをしたり、グランフェッテを入れたりと難しいテクニックを織り込んだ小品。これを振付けたベン・ヴァン・コーウェンバーグ は、「レ・ブルジョワ」の振付家。
★「サムシング・ディファレント」 (日本初演)Something Different
振付:スティーヴン・マックレー
出演:スティーヴン・マックレー Steven McRae
待っていました、のスティーヴンのタップナンバー。もちろん本職のタップダンサーとは比べてはいけないのだろうけど、彼の抜群の音感の良さ、エンターテイナーぶり、チャーミングさはタップを通して得られたのだろう、と感じる。彼のショーマンシップなら、ブロードウェイの舞台でもラスベガスでも通用するだろうな。
フィナーレは、このナンバーに続くように、メンバーが入ってくる。リカルドはズサーっと駆け込んできて、ユフィちゃんは軽やかな側転で。ネマイアはラウラを、そしてツァオ・チーは奈緒さんを高々とリフトして。和気藹々とした雰囲気もあって、とても楽しいガラだった。公開リハーサルも見学したために、さらに楽しむこともできた。今後も継続的に行なって欲しい素晴らしい公演である。特に4演目も踊ってくれたスティーヴン・マックレーの鮮烈な才能を目撃して満足感がいっぱい。彼の才人ぶりは驚くばかりである。
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