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2012年8月

2012/08/27

Bunkamuraザ・ミュージアム青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』

いつものバレエネタはしばらくお休み中なので、たまにはアートの記事を。

現在 Bunkamuraザ・ミュージアムにて、「国立トレチャコフ美術館所蔵・レーピン展」が開催されている(~10月8日まで)。
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_repin/index.html

2009年に同じくBunkamuraザ・ミュージアムにて、「忘れえぬロシア」展が開催されたが、ここで観たイリヤ・レーピンの作品がとても素晴らしく、レーピンの作品をまとまった形で観たいと思っていたところ、レーピン展が開催されることになった上、トークショーつきのスペシャル企画にも参加させていただいた。

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19世紀後半から20世紀初頭まで、ロシア絵画界を代表する巨匠として活躍したレーピン。文豪トルストイや作曲家ムソルグスキーの肖像画(死の10日前に描かれたという)を描いたことでも知られているため、ジャパンアーツのブログでも紹介記事が掲載されている。
http://ja-ballet.seesaa.net/article/282874796.html

今回の青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』では、人気アートブログ「青い日記帳」のTakさんがナビゲーターとなり、山下祐二氏(明治学院大学教授)と籾山昌夫氏(神奈川県立近代美術館 主任学芸員・本展構成者の一人)の対談を実施。籾山昌夫氏は、ロシア美術を研究されている数少ない研究者(実際両手の数に収まるしかいないそう)の一人ということもあり、たいへん興味深い話を聞くことができた。

籾山氏によれば、そもそも19世紀ロシア絵画を日本で観る機会自体が大変少なく、レーピンの作品そのものも、横浜美術館に1点所蔵されているのが確認されているのみだという。ほかに1点、とある社長の所有物があったのだが、その作品は盗難にあってしまったそう。レーピンの展覧会も70年代(日光荘主催で三越にて)と90年代に小樽にあったロシア美術館にて1度ずつ行われたのみで、今回ほどの本格的な展覧会は初めてとのことだ。

1844年~1930年というレーピンが生きた時代は、日本で言えば天保から昭和という長い時代に渡るのだが、ロシア革命後のレーピンの消息があまり伝わってこなかったこともあり、実は革命後の混乱期に餓死したのではないかというデマが日本で流れたそうだ。なぜレーピンをめぐるそんなデマが日本で流れたかというと、トルストイの肖像画を彼が描いていたということで彼の名は日本では知られており、「荒城の月」を作詞した土井晩翠が、そのデマを聞いてレーピンの死を悼む詩を詠んだりしていたとのこと。

だが、トルストイなどのロシア文学が日本でブームを呼んでいたにもかかわらず、今ひとつ彼の作品が日本に紹介されてこなかったのは、理由があった。文学や音楽は複製して簡単に輸入することができたが、絵画作品は1点限りであり、まだ写真技術も進んでいなかったのだ。さらに、レーピンの作品は上流階級の人々が購入したため、海外に出ることが極めて稀であった。

さらに、戦後美術の中心地がヨーロッパからアメリカへと移った。レーピンの代表作の中に「ヴォルガの船曵き」(今回の展覧会でも習作「浅瀬を渡る船曳き」が出展)があるが、社会主義的リアリズムの作品であり、彼自身が人民の画家というイメージがあった。冷戦時代となった際には、彼の作品は東側を代表するものとして米国の批評家には酷評されてしまったのだった。米国の代表的な美術批評家であるクレメント・グリーンバーグは、その代表作「アヴァンギャルドとキッチュ」(1939年)において、ピカソをアヴァンギャルドの代表とし、一方でキッチュの代表としてレーピンを挙げて批判したのであった。

今回の代表的な作品についての紹介がいくつか行われた。

「皇女ソフィヤ」。山下氏曰く「マツコ・デラックス」。ものすごい憤怒の表情を浮かべた皇女ソフィア、その幽閉された部屋の外には彼女を支持していた銃兵隊の処刑された死体がぶら下がっているという凄まじい作品で、中野京子氏のベストセラー「怖い絵」でも紹介されている。

「休息―妻ヴェーラ・レーピナの肖像」。レーピンの妻ヴェーラを描いた作品で、まだ20代という若さの彼女が可憐に眠る姿を描いているが、X線で撮影すると、元の絵では目を開いていたことが判明している。

「思いがけなく」。「放蕩息子の帰還」(レンブラント)的なモチーフの作品であるが、革命家が家に帰ってきた際の家族の驚きを描いている。ピアノを弾いている人がいるという比較的裕福な家庭。皇帝アレクサンドル2世の葬儀の写真と「ゴルゴタ」の絵が飾ってあり、また革命家の背後の扉の枠が十字架を思わせるところがある。

「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」。イワン雷帝が息子を杖で殴り殺すという衝撃的なテーマを描いた作品であり、ロシア史上、初めて皇帝の命令により地方美術館での展示から外すようにとされた作品である。その命令に反して作品は展示されたが、皇帝アレクサンドル3世の寛容性をプロパガンダするために、その命令は取り消された。

レーピンはモスクワに住んでいたのは5年間のみで、人生の大部分はサンクトペテルブルクで過ごした。(革命後はフィンランドへ移る)サンクトペテルブルグは、ロシアが西欧に向けた唯一の窓というべき都市であり、また皇帝の街であった。一方でモスクワはスラブ派の街であり、人民の街であった。皇帝の肖像画を描き、美術アカデミーの校長という地位にあったレーピンは、いかにもサンクトペテルブルク的なアーティストだった。

*******
今回は観覧時間は30分のみということで、あまりゆっくりと観ることはできなかったのだが、80数点という彼の作品はいずれも傑作ぞろいであり、しかもテーマ的にも多岐にわたっている。まず印象的なのは、レーピンの圧倒的なテクニックの高さである。今回の対談でも、レーピンは元々画力があるタイプと山下氏が評しているのも納得。実に絵が巧いのだ。「浅瀬を渡る船曳き」のような社会主義的リアリズムの作品があったと思えば、妻や息子、娘などを愛情豊かに丁寧に描いた作品もあり、また美術アカデミーの給費留学生として訪れたパリの影響を受け、印象派的な光の表現を使った作品もある。さらに、前述のムソルグスキーやトルストイを始め、「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」や、「イタリア人演劇女優エレオノーラ・ドゥーゼの肖像」など、芸術家を描いたゴージャスな肖像画も。その一方で「皇女ソフィヤ」や「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」(習作)、「ゴーゴリの『自殺』」のような、歴史的事件を圧倒的な迫力で描いた大作もあり、リアリズムという表現手法を取りながらも幅広いテーマがあって飽きさせない。この充実ぶりに、もう一度ゆっくり観たいと思った。

また、イヤホンガイドを借りたところ、ムソルグスキー、グラズノフ、グリンカなどの音楽も使用されているので、ロシア的な気分が一層盛り上がる。「展覧会の絵」を聴きながらムソルグスキーの肖像画を観るという経験は大変面白かった。スペシャル解説で、東京外国語大学学長の亀山郁夫氏の話を聴くこともできる。


会期
2012年8月4日(土)-10月8日(月・祝)  開催期間中無休

開館時間
10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)

会場
Bunkamuraザ・ミュージアム


巡回予定
浜松市美術館 2012年10月16日~12月24日
姫路市立美術館 2013年2月16日~3月20日
神奈川県立近代美術館 葉山館 2013年4月6日~5月26日


なお、今回の対談に参加された山下祐二氏は、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催される「白隠展」(12月22日~2013年2月24日)の企画担当であり、こちらの方も大いに期待できるとのこと。白隠の作品は国宝や重要文化財が1点もないことを逆にうまく利用して、大胆な展示を見せてくれるそうである。

怖い絵怖い絵
中野 京子

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2012/08/07

リチャード・クラガン逝去 Richard Cragun Passed Away

シュツットガルト・バレエの黄金期「シュツットガルトの奇跡」を作り上げ、「じゃじゃ馬ならし」のペトルーチオ役や「椿姫」のデ・グリュー役など数々の名作の初演キャストであったバレエ界の伝説、リチャード・クラガンがリオ・デ・ジャネイロで亡くなりました。享年67歳。

http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.stuttgarter-ballett-ballett-legende-cragun-ist-tot.77855238-5146-4eb7-808c-b6faa534f658.html

http://www.jb.com.br/cultura/noticias/2012/08/06/morre-no-rio-o-ex-bailarino-richard-cragun/

1944年に米国サクラメントで生まれたクラガンは、ロイヤルバレエスクールを卒業して1962年にシュツットガルト・バレエに入団。65年にプリンシパルに昇進し、30年以上にもわたるマリシア・ハイデとのパートナーシップで知られました。主な初演作品としては、前記「じゃじゃ馬ならし」のペトルーチオ役や「椿姫」のデ・グリュー役の他、ノイマイヤーの「欲望と言う名の電車」のコワルスキー、ハイデの「眠れる森の美女」のカラボス、マクミランの「大地の歌」「レクイエム」、クランコの「イニシャルR.M.B.E」「カルメン」「法悦の歌」、テトリーの「ヴォランタリーズ」など。そしてクランコの「オネーギン」や「ロミオとジュリエット」の名演でもよく知られています。世界バレエフェスティバルにも何回も参加しています。

96年にダンサーを引退した彼は99年までベルリン・ドイツオペラバレエの芸術監督を務めたあと、ブラジルに渡って自身のカンパニーを設立。その後2005年に心臓発作を起こして体調を崩していました。

昨年2月に行われたシュツットガルト・バレエ設立50周年記念ガラでは、クラガンは病をおして出席し、マリシア・ハイデ、ビルギット・カイル、エゴン・マドセンら当時のスターと再会を果たし、彼らに捧げられた「イニシャルR.M.B.E」(Rはクラガン、Mはハイデ、Bはカイル、Eはマドセン)が上演されました。私もこの時幸運にして舞台上の彼の姿を見ることができました。

クラガンの死は、一つの時代の終焉を物語るものです。ご冥福をお祈りいたします。

*********
追記:産経新聞に載った追悼記事
世界的ダンサーのリチャード・クラガン氏死去 独シュツットガルト・バレエ団で活躍
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/120808/ent12080818310015-n1.htm

シュツットガルト・バレエの公式サイトにも追悼文が載っています。
http://www.stuttgart-ballet.de/home/

Mourning the Passing of Richard Cragun
Reid Anderson remembers Cragun as a friend - and as an artistic idol: "Cragun was part of the 'Stuttgart Ballet miracle', he inspired people all over the world with his performances and many important roles that mark our repertory up to today were created for him. Cragun has always been a role model to me, and helped me a lot when I was a young dancer: among many other things he taught me the high art of partnering. I am very happy that Richard was with us on our 50th Anniversary in Stuttgart in 2011, and that he had the chance to take part in that Festival.
We will miss him forever. The Stuttgart Ballet is mourning."

第13回世界バレエフェスティバル  <プログラムA> (まだ途中) World Ballet Festival Program A

■第1部■ 15:00~15:45

「スターズ・アンド・ストライプス」 Stars and Stripes
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ジョン・フィリップ・スーザ
ヤーナ・サレンコ ダニール・シムキン Iana Salenko (Staatsballett Berlin) Daniil Simkin (American Ballet Theatre)

明るく溌剌としたこの作品はオープニングを飾るのに相応しく、トップバッターのこのペアは客席を暖める重責を果たした。バレエフェス2回目登場のダニール・シムキンは初登場の時の驚きはないものの、おもちゃの兵隊っぽいルックスもこの作品にマッチしているし、敬礼する仕草もキュート。これみよがしではなくさりげなく超絶技巧を見せてくれるところは好感度大。後半の連続パ・ド・シャとフレックスにしたアントルシャも見事なもの。ビジュアル的な釣り合いがピッタリのヤーナ・サレンコも、ぴったりと決まる回転、安定したテクニックで派手さはないけれどきっちりと決めてくれた。二人とももっとはじけてくれたら、さらに言うことなかったのだが。


「モペイ」 Mopey
振付:マルコ・ゲッケ/音楽:C.P.E. バッハ
フリーデマン・フォーゲル Friedemann Vogel (Stuttgart Ballet)

この作品は「マニュエル・ルグリの新しき世界」で上演されたのを観たときにはとても面白いと思ったのだが、2回、3回と観ると少々飽きが来る。


「幻想~『白鳥の湖』のように」より第1幕のパ・ド・ドゥ Pas de Deux from Illusions Like Swan Lake
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
エレーヌ・ブシェ ティアゴ・ボァディン Hélène Bouchet(Hamburg Ballet) Thiago Bordin (Hamburg Ballet)

王の婚約者ナタリア姫が愛を求めて王に迫るも、生身の女性に興味のない王は彼女を受け入れられないというシーン。ノイマイヤーの作品の世界観が息づいている二人による渾身の演技が、短い時間の間でもまるで全幕の舞台を観るように心に染み入る。エレーヌ・ブシェの身体で想いを訴えかける姿が切なく、美しくも雄弁なその脚が物語を紡ぎ上げる。リフトを多用しているノイマイヤーの振り付けをよどみなく表現し、狂気を内に秘めながらも見事なサポートを見せたティアゴ・ボァディン。「幻想~『白鳥の湖』のように」はミュンヘン・バレエで一度観ているのだが、ぜひ本家ハンブルク・バレエの生の舞台で観たいものだと改めて思った。


「ドリーブ組曲」 Delibes Suite
振付:ジョゼ・マルティネス/音楽:レオ・ドリーブ
上野水香 マシュー・ゴールディング Mizuka Ueno (The Tokyo Ballet) Matthew Golding(Dutch National Ballet)

マシュー・ゴールディングはパートナーリングの上手いダンサー。即席ペアでもしっかりとサポートできていた。また彼のピルエットは軸がしっかりとしていて、6,7回と軽々と周り緩やかにフィニッシュしていてとても綺麗だ。この作品の特徴である、右回りにジュッテしながら左回りでマネージュするという変則技が出なかったのは少し残念だったがリハーサル時間が不足していたのだろうか。「ドン・キホーテ」や「ラ・バヤデール」、あるいはファン・マーネン作品など、もっと彼が馴染んでいる演目で観たかった気がする。上野さんは、今までの世界バレエフェスティバルでの彼女のパフォーマンスの中では、今回がベストだったと感じた。身長のバランスといい、マシューとの相性がいいのだろう。後半の軸足を替えながらの連続ピルエットが少しもたついたのが惜しい。


■第2部■ 16:00~16:45

「扉は必ず...」 Il Faut Qu'une Porte…
振付:イリ・キリアン/音楽:ダーク・ハウブリッヒ(クープランの「プレリュード」に基づく)
オレリー・デュポン マニュエル・ルグリ Aurelie Dupont(Paris Opera Ballet) Manuel Legris (Wiener Staatsballett)

ゆっくりとしたテンポで、スローモーションのように動きを見せていくこの作品だが、この男女の間のただならぬ緊張感と巧みな間合いには思わず引き込まれてしまう。長年のパートナーシップを誇ったこのペアならではの息の合い方。ロココ調のドレスが似合って、作品のモチーフであるフラゴナールの絵画「閂」から抜け出たようなオーレリー・デュポン。普段は生真面目そうなのに、この作品では少々やさぐれた様子がセクシーなマニュエル・ルグリ。倦怠感と緊張感、愛憎、躊躇い。扉の内と外を行ったりきたり。後半のルグリの踊りを観ると、芸術監督となった今も彼の踊りはまだまだ衰えを知らない美しさを保っていることが実感できる。二人が椅子を並べてリンゴをかじっては投げるアンニュイな終わり方まで、本当によくできた作品で、見事なパフォーマンス。


「海賊」Le Corsaire
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
ポリーナ・セミオノワ イーゴリ・ゼレンスキ Polina Semionova (American Ballet Theatre) Igor Zelensky (Novosibirsk Ballet/The Mariinsky Ballet)

世界バレエフェスティバル初出演のゼレンスキー、40代というのに美しい上半身を保っていることに驚かされた。若いダンサーのように超絶技巧をバシバシ入れていくというのはさすがにやっていなかったが、ゆっくりとしていながらも軸の美しいピルエット、ふわりと舞い上がる柔らかいジュッテ、マリインスキーらしい正統派の気品あふれる美しいバレエを踊る貴重な存在だ。ポリーナはゼレンスキーと踊ると先生と生徒のようにも見えてしまうところがあるが、きっちりと踊っていて良かったのではないだろうか。ヴァリエーションはガムザッティのヴァリエーションだった。


「セレナータ」 Serenata
振付:マウロ・ビゴンゼッティ/音楽:アメリゴ・シエルヴォ
ナターリヤ・オシポワ イワン・ワシーリエフ Ivan Vasiliev(Mikhailovsky Ballet) Natalia Osipova (Mikhailovsky Ballet)

オシポワが日によって髪型と衣装を替えてきていた。最初の2日間は髪を下ろしていて下の赤い生地が透けて見えるワンピースだったが、最終日は髪をポニーテールのようにしてスカート付きレオタードのような黒いミニワンピースに。伝統的な音楽の歌に乗って、何かに反抗するか戦っているかのような女性の激しい情念が炸裂して男性がそれを必死に抑えようとする振付。オシポワの圧倒的な身体能力も、それを自在に操るイワン・ワシーリエフの力強いサポートも凄い。決して美しい作品ではないが、パワーは感じさせるし、普段の跳んだり回ったりといったテクニックを封じてこのような表現に果敢に挑戦する二人の姿勢は素晴らしいと思う。


「瀕死の白鳥」 Dying Swan
振付:ミハイル・フォーキン/音楽:カミーユ・サン=サーンス
ウリヤーナ・ロパートキナ Ulyana Lopatkina (The Mariinsky Ballet)

実は演目が発表された時には「また瀕死の白鳥か」と思ってしまったのだが、そう思ってしまったことを深く反省したい。ロパートキナの瀕死の白鳥ほど美しいものは、この世には存在しないのではないかと思ったほどだ。とても人間とは思えない。磨き抜かれた、透徹した芸術とはこの「瀕死の白鳥」のことなのだ。会場の空気を一瞬にして変えて、煙った月の下の、冷たく澄んだ湖の上へと連れて行ってくれる。痛みや苦しみを秘めながらもゆるやかにたゆたう翼。繊細だが凛としていて、運命を受け入れて静かに死んでいく気高く美しい生き物。ロパートキナの「瀕死の白鳥」を観るためだけにAプロを3回観ることにしてよかったと思った。


<休憩15分>


■第3部■ 17:00~17:55

「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ Romeo and Juliet
振付:ジョン・クランコ/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
マリア・アイシュヴァルト マライン・ラドメーカー Maria Eichwald (Stuttgart Ballet) Marijn Rademaker(Stuttgart Ballet)

このペアの「ロミオとジュリエット」は2年前の「マラーホフの贈り物」で観て、その後シュツットガルトでマラインがスージン・カンと踊った全幕を観ている。マラインのベストパートナーはやはりスージンなのだが、マリア・アイシュヴァルトのジュリエットもとても可愛らしい。落ち着きはあるのだが、恋心に目をキラキラさせているジュリエットで、ロミオにキスされてクラっとして後ろ向きに倒れこむところは初々しくて、こちらも思わず目を細めてしまう。マラインはシェイクスピアの小説から出てきたような、これぞロミオというロマンティックな容姿で、白い衣装に鮮やかな赤いマントもよく似合う。若さが暴走気味だった2年前に観たときよりは表現が成熟していて、踊りがより精緻になっていた。風を切るようなトゥールザンレール、伸びやかなランベルセ、柔らかい腕の表現、疾走感で、ジュリエットのことで頭がいっぱいの、ひたむきな青年の恋が伝わってくる。そしてクランコダンサーには欠かせない資質、流れるようなサポートのうまさ。階段の上へと大切そうに持ち上げながらキスする姿には優しさが満ちている。アイシュヴァルトのリフトされる空中姿勢も美しく、普段組んでいないパートナーとは思えないような素敵なパートナーシップ。


「ジュエルズ」より"ダイヤモンド"  Diamonds from Jewels
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
アニエス・ルテステュ ジョゼ・マルティネス Agnes Letestu (Paris Opera Ballet) Jose Martinez

パリ・オペラ座のエトワールを引退したジョゼ・マルティネスと、2014年に引退するアニエス・ルテステュ。この二人が一緒に踊る姿を観るのも最後かと思うと、じーんとこみ上げる思いがあった。お互いを見つめ合う視線が暖かい。アニエスは寄る年波に勝てないのか、プロポーションが少し衰えていたが、二人の醸しだすパリ・オペラ座ならではの磨き抜かれた気品は健在。今は芸術監督業が中心のジョゼも、相変わらず美しい脚と紳士的なサポートが素敵だったが、このパ・ド・ドゥは男性のソロ部分がほとんどないのが残念。白タイツ姿の彼を見るのもこれが最後かとしみじみと見入ってしまった。


ディスタント・クライズ」Distant Cries
振付:エドワード・リャン/音楽:トマゾ・アルビノーニ
スヴェトラーナ・ザハロワ アンドレイ・メルクーリエフ Svetlana Zakharova (Bolshoi Ballet) Andrei Merkuriev (Bolshoi Ballet)

台湾出身で元NYCB、NDTの振付家エドワード・リャンには注目していた。彼の作品は先日のバレエ・アステラスでも踊られている。ザハロワの細く長くしなやかな脚の美しさ、そして身体能力を最大限に生かした作品。ザハロワが一人で舞台に登場すると、後ろの暗闇からメルクリエフが現れ、背後から彼がずっとサポートする中、彼女が自由自在にその脚を操り、そして最後にはまた一人舞台の上に取り残される。シャープでミステリアスな雰囲気が魅惑的。ザハロワは、ケレン味が強すぎる古典より、このような現代作品の方が魅力が生きるのではないかと感じた。


「パガニーニ」
振付:マルセロ・ゴメス/音楽:ニコロ・パガニーニ
マルセロ・ゴメス

「ラ・シルフィード」第2幕より
振付:ヨハン・コボー オーギュスト・ブルノンヴィルに基づく/音楽:ヘルマン・S.レーヴェンスヨルド
タマラ・ロホ スティーヴン・マックレー

■第4部■ 18:10~19:10

「ブレルとバルバラ」 
振付:モーリス・ベジャール/音楽:ジャック・ブレル、バルバラ
エリザベット・ロス ジル・ロマン

「明るい小川」よりパ・ド・ドゥ  
振付:アレクセイ・ラトマンスキー/音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー

「カンタータ」 (世界初演)
振付:ナチョ・ドゥアト/音楽:ヨハン・セパスティアン・バッハ
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ

「オネーギン」より第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ポリーナ・セミオノワ フリーデマン・フォーゲル

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス
オレシア・ノヴィコワ レオニード・サラファーノフ


指揮:ポール・コネリー 
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 
 
チェロ:遠藤真理、ハープ:田中資子(「瀕死の白鳥」)
ヴァイオリン:チャールズ・ヤン(「パガニーニ」)

2012/08/03

世界バレエフェスティバルA,Bプロが10月15日NHKBSプレミアムで放映

第13回世界バレエフェスティバル開催にあたって、NBSが"Standing by the people of East Japan"をスローガンに被災地への支援を行うとのことです。その一環として参加アーティストの全面的な協力のもと、NHKがA・Bプロを収録し、テレビ放映するとともに、その映像を被災地の映画館等で無料公開することになったとのことです。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/renew/13-6.html#001567

その放映日が10月15日(日)午前0時~NHKBSプレミアムのプレミアムシアターに決定したことが、今日の世界バレエフェスティバルの会場でアナウンスされていました。今日(8月2日)の公演においては収録用のテレビカメラも入っていました。

直鎖権上の関係で、全部の作品の放映は難しいとのことですが、楽しみですね。

なお、公演会場でも、アーティストからの提供・協力を得て、チャリティー・オークションを実施し、被災地支援のための義援金とするとのことです。オークション出品アイテムは以下のサイトで公開されております。会場だけでなく、メールでの入札もできるとのことです。アイテムとしては、出演者のサイン入りのトウシューズ、バレエシューズ、過去の公演プログラム、会場バナーです。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/13-9.html#001571

2012/08/01

ABT香港公演(2013年)と2014年2月の来日公演「くるみ割り人形」

私は世界バレエフェスティバルの全幕プロ「ドン・キホーテ」は観に行かなかったのですが、観に行った友達より教えていただきました。ABT(アメリカン・バレエ・シアター)が2014年2月来日することが決定したとのことで、ジャパンアーツによる速報チラシが配布されていたとのことです。

ABT(アメリカン・バレエ・シアター)2014年2月来日公演
予定演目: 『くるみ割り人形』(ラトマンスキー版)、他
詳細の発表は、11月を予定しています。
「ジュリー・ケント、マルセロ・ゴメス、パロマ・ヘレーラ、シオマラ・レイエス他屈指の人気ダンサーたちが集まるバレエ団」となっていたとのことです。

ラトマンスキー版くるみ割り人形は評判も良かったですし、全幕は日本初お目見えなので楽しみですね。

******
なお、来年(2013年)2月~3月にABTは香港公演を行います。香港アーツフェスティバルの一環としての公演です。

http://www.hk.artsfestival.org/en/programme/201-american-ballet-theatre

会場:香港グランドシアター
http://www.hkculturalcentre.gov.hk/

ガラ公演Ⅰ
21 Feb 7:30pm 2月21日(金)
Drink to Me Only With Thine Eyes (Mark Morris/Virgil Thomson) 『汝が瞳に乾杯』
Classical Pas de Deux (2 pieces, to be announced)
Shostakovich - Symphony No 9 (Alexei Ratmansky/DmitriShostakovic) Asian Premiere ラトマンスキー新作 『ショスタコーヴィチ交響曲9番』

ガラ公演Ⅱ
22-23 Feb 7:30pm 2月22日(土)、23日(日)
The Leaves Are Fading (Antony Tudor/Antonin Dvořák) 『葉は色あせて』
The Moor’s Pavane (José Limón /Henry Purcell) 『ムーア人のパヴァーヌ』
Symphony in C (George Balanchine/Georges Bizet) 『シンフォニー・イン・C』

Romeo and Juliet マクミラン版 『ロミオとジュリエット』
27 Feb (wed) – 1 Mar (fri) 7:30pm 2月27日(水)~3月1日(金)(夜公演)、3月2日(土)、3日(日)昼&夜公演
2-3 Mar (sat-sun) 2:30pm & 7:45pm
Choreographer: Sir Kenneth MacMillan
Music: Sergei Prokofiev

第25回ヴァルナ国際バレエコンクールの結果

新聞などでも報道されているので、ご存知の方も多いかと思いますが、世界屈指のバレエコンクールであるヴァルナ国際バレエコンクールの結果が7月28日に発表されました。涌田美紀さん(シニア女性部門)と宮川新大さん(男性シニア部門)が銀賞に輝いています。

涌田美紀さんは現在アメリカのサンノゼ・バレエ団に所属。また宮川新大さんは昨年はモスクワ音楽劇場バレエに所属し、現在は福井市の坪田バレエカンパニーに所属。

朝日新聞
http://www.asahi.com/showbiz/stage/theater/OSK201207300023.html
共同通信
http://www.47news.jp/CN/201207/CN2012072901001489.html

福井新聞
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/36035.html

シニア部門男性の金賞に輝いたのは、ウィーン国立バレエのプリンシパル、デニス・チェレヴィチコと、ワシントン・バレエのブルックリン・マック。デニス・チェレヴィチコは、ウィーン国立バレエの来日公演でも活躍していましたし、ブルックリン・マックは2007年のゴールデン・バレエ・コースター・ガラに出演した時の踊りを私も観ています。シニア部門女性の金賞は該当者なしです。


審査員を務めた左右木健一さんによる、チャコットダンスキューブでの速報
http://www.chacott-jp.com/magazine/news/concours/25-2.html

グループA
シニア女性
銀賞 二名
涌田美紀(日本)
チェーウン・ヤン(韓国)

銅賞 二名
アイゲリム・ベカタエヴァ(カザフスタン)
クリスティーナ・チョチャノヴァ(ブルガリア)

シニア男性
金賞
ブルックリン・マック(アメリカ)
デニス・チェレヴィチコ(オーストリア)

銀賞
宮川新大(日本)

グループBジュニア
グランブリ
へ・タイユー(中国)

グループBジュニア女性
金賞
ワン・ツィンシン(中国)

銅賞 三名
ミンジュン・キム(韓国)
ナタリー・ブラタノヴァ(ブルガリア)
ミコ・フォガルティー(アメリカ)

グループBジュニア男性
金賞
ヅァン・チャオイ(中国)

銅賞
ジューウォン・アン(韓国)

エミール・ディミトロフ賞
へ・タイユー(中国)

ニーナ・キラジェヴァ賞
クリスティーナ・チュチャノヴァ(ブルガリア)

シルビア賞
女性
カテリーナ・オダレンコ(ベラルーシ)
男性
ジューウォン・キム(韓国)

ベストパートナー賞
ニコラ・ハジタネフ(ブルガリア)


左右木健一・くみバレエスクール公式ブログでは、左右木健一さんのヴァルナ国際コンクールのレポートが写真入りで載っていて大変面白いです。
http://ameblo.jp/sokiballet/

日本からのファイナル出場者は、涌田さん、宮川さんの他、吉田恭平さん(米国 Grand Rapids Ballet Company)
、奥村彩さん(オランダ国立バレエ)、上草吉子さん(ゴーバレエアカデミー)の5人だったとのことです。ファイナルまで進出すると合計8曲が課される。特に第2ラウンドとファイナルは1日に3曲を踊らなければならず、精神力や総合力も求められる大会なのだそうです。

これはブルックリン・マックを紹介するワシントン・ポストの記事。
http://www.washingtonpost.com/entertainment/theater_dance/brooklyn-mack-of-washington-ballet-wins-gold-at-international-ballet-competition/2012/07/30/gJQA8lpsKX_story.html

アメリカ人で金賞を受賞したのは、74年にフェルナンド・ブフォネス、96年にラスタ・トーマスとミシェル・ワイルズが受賞して以来で、アフリカ系アメリカ人では初めてのこと。ゴールデン・バレエ・コースターでブルックリン・マックを観たときは、まだ未完成の部分もあったものの、高いテクニックとノーブルさを備えており、魅力的なダンサーだと思いました。

なお、ヴァルナ国際コンクールは森下洋子さんが74年に金賞を受賞したことが有名ですが、それ以外で受賞したのは、有名どころではナタリア・マカロワ、ミハイル・バリシニコフ、ニーナ・アナニアシヴィリ、シルヴィ・ギエム、パトリック・デュポン、ウラジーミル・マラーホフ、イヴリン・ハート、アニエス・ルテステュ、オーレリー・デュポン、小嶋直也さんなどがいます。

受賞者や出場者のみなさんの今後の活躍に期待したいですね!

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