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2012年4月

2012/04/28

「バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史」

バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史
編著: 鈴木晶
出版社/メーカー: 平凡社
発売日: 2012/03/16

第一部 バレエ
第一章 バレエの起源 市瀬陽子
第二章 バレエ・ダクシオンの誕生 森 立子
第三章 19世紀のバレエ 鈴木 晶
第四章 バレエ・リュス 鈴木 晶
第五章 20世紀ロシア・バレエ 赤尾雄人
第六章 現代のバレエ 海野 敏

第二部 ダンス
第一章 アメリカのモダンダンス 武藤大祐
第二章 ポストモダンダンス 外山紀久子
第三章 ドイツのダンス 副島博彦
第四章 フランスのダンス 安田 靜
第五章 コンテンポラリーダンス 貫成人

日本語での、バレエおよびダンス(劇場舞踊に限定し、エンターテインメントやショーダンスは除く)の歴史を網羅する本というのがあるようでないのが現状だった。本書は大学で舞踊史を学ぶ学生に向けての教科書的な位置づけの書籍であり、これ一冊を読めば、ルネッサンスから現代までのバレエ、および20世紀初頭から現代までのダンスの歴史の流れが一通りわかるようになっている。巻末の参考文献リストが大変便利であり、この本を読んで一連の歴史の流れをつかんだあと、参考文献で興味のある分野についてさらに理解を深めていくのが、本書の正しい使い方なのだと思う。

バレエについて興味を持った人なら、バレエを広めたのが太陽王ルイ14世であり、その後ロマンティック・バレエがフランスで勃興し、パリ・オペラ座が社交の場となってしまい衰退するとロシアへと主な舞台が移り、バレエ・リュスでバレエ界のみならず芸術全体に一大革命が起きてバレエがフランス、イギリス、そしてアメリカへと広がって現代に至る、という流れは把握しているのではないかと思う。

しかしながら、例えば実際にバレエらしきものが始まったのはルネッサンス、メディチ家での「詩、音楽、舞踊の調和」を目指したインテルメディオの舞踊において、最初の舞踊理論書が書かれたことは、知っている人はあまりいないのではないだろうか。第2章では、筋書きのある物語バレエとしての「バレエ・ダクシオン」について書かれていて、フランス古典悲劇の「三統一の規則(場所の統一、時の統一、筋の統一」にバレエがどこまで従うべきかの話が、ノヴェールの有名な「舞踊とバレエについての手紙」(1760)で書かれていることを知ることができる。バレエを観ている人なら、必ずしも古典バレエ作品がこの原則に縛られるものではないことは認識していると思うが、すでにこの段階で、柔軟な姿勢をノヴェールは示している。ただし、「構想の統一」は必要だと。

第3章では、バレエの商業化、大衆化、そしてポワント技法の登場、そしてスターバレリーナの誕生について書かれている。第4章「バレエ・リュス」では、バレエ・リュスの全作品リストがついているのがとても便利だ。第5章「20世紀ロシア・バレエ」では、ロシア革命前後から現在に至るまでのロシア・バレエの系譜。

そして第6章「現代のバレエ」では、バレエ振付家の系譜が大変わかりやすい。
1.バレエ・リュスの参加者(フォーキン、ニジンスキー、ニジンスカ、リファール、マシーン、バランシン、ランベール、ヴァロワ)
2.バレエ・リュスにつながる振付家(アシュトン、チューダー、プティ、ロビンス、マクミラン、クランコ、ビントレー)
3.クランコの僚友とその後継者(クランコ、ライト、マクミラン、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス、ハイデ、ドゥアト、マイヨー) 
4.ドイツ表現主義舞踊とその後継者(ラバン、ヨース、クルベリ、ベジャール、エック、バウシュ、ドゥアト)
5.ソ連、ロシア圏の振付家(ゴルスキー、ロブホープ、ゴレイゾフスキー、ブルメイステル、ラヴロフスキー、セルゲエフ、グリゴローヴィチ、エイフマン) 
この章では2~4まで解説されている。

一方、第二部、ダンスについては、特に第1章「アメリカのモダンダンス」第2章「ポストモダンダンス」と知らないことばかり書いてあり、頭をひねりながらも大変ワクワクしながら読み進めることができた。第1章はイザドラ・ダンカン、マーサ・グラハムを中心に、ペニントン舞踊学校の果たした役割など、そして第2章は1960年代~70年代のニューヨークを中心とするアヴァンギャルド舞踊としての「ポストモダンダンス」、カニンガム、ケージ、フォルティ、ハルプリンなど。新しく知ることばかりだったので大変面白い。

また、第3章「ドイツのダンス」は、リトミックに始まってラバン、ヴィクマン、シュレンマー、ヨース、そしてピナ・バウシュのタンツテアターへとたどる系譜について。特にダンスとナチズムの関係は大変興味深い。第4章のフランスのダンスは、いわゆるヌーヴェルダンス、そして国の文化制作により各地に設立された国立振付センター(CCN)の存在の大きさに学ぶところが大きい。第5章の「コンテンポラリーダンス」は、現在に至るまでの世界各地の状況と、グローバル化、ネットワーク化という現代の私たちにとって欠かせない視点で、ダンスを読み解いている。

巻末の参考文献、そして舞踊史年表は大変貴重な資料で、さらに知識を深めたい場合の大きな指針になる。

専門書ではあるが、コンパクトなボリュームで図版も多数、全体的には読みやすい文体となっているので、バレエ・ダンスの歴史を知るには、まずはこの一冊を手に取ることをおすすめしたい。


バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史
鈴木 晶

平凡社 2012-03-16
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2012/04/27

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン バレエ関連イベント

明日からゴールデンウィークですね。私は今年は基本家でおとなしくしていて、4月30日のウィーン国立バレエの「こうもり」を観に行くほか、クラオタの家人と共に、5月3日~5日のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでいくつかコンサートを聴きに行く予定です。

さて、このラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンですが、今年は「サクル・リュス(ロシアの祭典)」がテーマで、1870年代以降のロシア音楽界を代表する6人の巨匠、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチの楽曲が中心です。バレエ音楽で知られる作曲家も多いので、おなじみの楽曲の公演もたくさんある他、バレエ関係の催しもいくつかあります。また、勅使川原三郎さんの公演が5月5日 20:00-20:45にあり、それは観に行く予定です。

音楽とバレエに夢中な中高生も楽しむプラン
http://www.lfj.jp/lfj_2012/enjoy/type_student.html

誰でも参加できる無料のイベントでは、まずこんなのがあります。

「チャイコフスキーとロシア音楽展」
http://event.yomiuri.co.jp/russia2012/
ロシア作曲家に焦点を当てた展覧会です。2012年4月27日(金)~5月5日(土・祝)に開催され、丸ビル7階 丸ビルホールなど丸の内地区5箇所で開催されます。バレエファンにとって見逃せないのは、個人が収集したコレクションとしては世界有数の規模を誇る、「薄井憲二バレエ・コレクション」より、チャイコフスキーとストラヴィンスキー、それぞれの“3大バレエ”と呼ばれる作品に関する貴重資料の展示が、丸ビルホールと新丸ビルアトリウムで行われることです。5箇所全部回ってスタンプを集めると、特製オリジナルエコバックが先着300名にもらえるとのことです。

1.チャイコフスキー (丸ビル7階 丸ビルホール)
2.ストラヴィンスキー、プロコフィエフ (新丸ビル3F)
3.グリンカと「ロシア5人組」 (TOKIA2,3F)
4.ラフマニノフ、スクリャービン(丸の内オアゾ 5,6F)
5.ショスタコーヴィチと現代作曲家 (丸ビル35F)

そして、5月5日には、東京シティバレエ団が踊るバレエが無料で観られる催しがあります。

2012年5月5日(日) 
15時、16時半
丸ビル1階「MARUCUBE」 【入場無料】
http://www.tokyocityballet.org/event/event52.html
高原守氏の指揮、丸の内交響楽団の演奏で、「くるみ割り人形」より“トレパック”“中国の踊り”“金平糖の踊り”、「白鳥の湖」より“四羽の白鳥”が踊られます。

4/24 ウィーン国立バレエ団<ウィンナー・ガラ> Wiener Staatsoper "Wiener Gala"

ウィーン国立バレエ団 2012年日本公演
http://www.nbs.or.jp/stages/1205_wienerstaatsballett/index.html

終演が10時15分頃、フィーナーレとカーテンコールをいれると10時25分頃まで続いた、休憩込みで4時間近い長丁場。それも純クラシックの作品が「ライモンダ」のみで現代作品中心のガラであったが、現代作品も多彩な作品群で大変趣味が良く、ダンサーの平均レベルも高くて楽しめた。普通のガラの1.5倍くらいのお得感があったと思う。さらにルグリ自身の素晴らしい踊りまで楽しめたのだから、大満足であった。


< ウィンナー・ガラ >
 
「バッハ組曲第3番」Bach SuiteIII
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
マリア・ヤコヴレワ ‐ ロマン・ラツィク
橋本清香 ‐ ミハイル・ソスノフスキー

マルタ・ドラスティコワ ‐ アレクサンドル・トカチェンコ
アリーチェ・フィレンツェ ‐ ドゥミトル・タラン
澤井怜奈 ‐ ダヴィデ・ダト

ノイマイヤー振付(1981年作品)によるシンフォニック・バレエ。2組のペアを中心としたアブストラクトな作品であったが、音楽との親和性が高くて目に快い振付。中心ペアであるマリア・ヤコブレワとロマン・ラツィクはストーリーのないところにも叙情性と少しのドラマ性を持ち込んでとても素敵で、「G線上のアリア」に合わせた二人のパ・ド・ドゥは思わず息を詰めて見入ってしまった。第一のペアを踊った橋本清香さんも美しくて、やはり存在感の強いソスノフスキーと共に惹きつけられた。


「アンナ・カレーニナ」より パ・ド・ドゥ Pas de Duex from Anna Karenina
振付:ボリス・エイフマン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アンナ:イリーナ・ツィンバル  カレーニン:エノ・ペシ

新国立劇場バレエ団でこの作品は観たばかり。カレーニンとアンナの1幕のパ・ド・ドゥ。カレーニン役のエノ・ペシがとても迫力のあってドラマを感じさせる、怒りのこもったソロを踊り、そこへ白いドレスを翻したアンナ役イリーナ・ツィンバルがやってくる。イリーナ・ツィンバルはそんなに大きなダンサーではないので、エイフマン・バレエのダンサーたちによるパ・ド・ドゥほどダイナミックさはなかったけど、それでも超絶技巧のリフトを多用した踊りは見ごたえたっぷりで、片手リフトもきれいに決まった。エイフマンの振付ってともすれば”やり過ぎ感”が強いのだが、彼らで観るとそのトゥーマッチな感じが少し中和されてちょうどいい感じ。ツィンバルはシュツットガルト・バレエの50周年記念ガラではロバート・テューズリーと「マイヤリング」を踊ったのを観たのだけど、あの時もドラマティックな役柄がとてもはまっていた。


「マリー・アントワネット」より Marie Antoinette
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:ジャン=フィリップ・ラモー、ルイ・ミゲル・コボ、アントニオ・ヴィヴァルディ
マリー・アントワネット:オルガ・エシナ
ルイ16世:ロマン・ラツィク
運命:キリル・クルラーエフ

冒頭に赤いコートを来た”運命”役のキリル・クルラーエフがソロを踊り、これがすごく悪魔的で妖しくカッコいい。このパ・ド・ドゥは前にもルグリ・ガラでルテステュとバナが踊っているのを観たけれども、やはり演じる人が違うとだいぶ違って見える。オルガ・エシナはルテステュよりもずっと繊細な感じだ。そしてラツィクも、ぼんぼんなイメージでルイ16世によく合っている。あまり評判は良くない作品だけど、ラモーのバロック音楽といい、雰囲気があって決して嫌いではない。ギロチンの音で終わるラストは少々ベタすぎるが。衣装は前回のシースルーの方が良かった。なんで変えてしまったのだろう。(そしてブノワ賞ノミネートおめでとうございます)


「スキュー ‐ ウィフ」 Skew-Whiff
振付・衣裳:ポール・ライトフット、ソル・レオン 音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ
イオアナ・アヴラム、ミハイル・ソスノフスキー、デニス・チェリェヴィチコ、マーチン・デンプス

これは最高に楽しかった!ロッシーニの「泥棒かささぎ」に乗せて、男性3人が登場。クネクネしたり痙攣するところも入れた動きなのだけど、お互いの身体とのタイミング合わせ方とアップテンポの音楽とのマッチの仕方が素晴らしくて、”間”の面白さを実感。みんな体がキレキレに動いている。振付のポール・ライトフットは現在NDTの芸術監督なので、ちょっとキリアンっぽさも感じさせる。途中で女性ダンサー、イオアナ・アヴラムが登場するけど彼女は身体能力が素晴らしい。そしてラスト近くの、デニス・チェリェヴィチコのグランジュッテの美しさに目を見張った。
(これはNDTIIで踊られたライトフット作品を含む3作品の映像。「スキューワイフ」は3分54秒から。

「グロウ ‐ ストップ」 GLOW-STOP
振付:ヨルマ・エロ 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト、フィリップ・グラス
オルガ・エシナ、イリーナ・ツィンバル、リュドミラ・コノヴァロワ、アリーチェ・フィレンツェ、仙頭由貴、アンドレア・ネメトワ、
キリル・クルラーエフ、リヒャルト・ザボ、ウラジーミル・シショフ、アッティラ・バコ、エノ・ペシ、イゴール・ミロシュ

実はこの作品、ABTでの世界初演を観ているのでちょっと懐かしかった。ヨルマ・エロの振付はやはりキリアンの影響を感じさせながらも、かなりクラシカルな感じ。前半がモーツァルトのシンフォニー28番で、後半がフィリップ・グラス。赤い衣装が綺麗で、とてもスピーディでキレのあるテクニックが要求されて、めくるめく感じは観ている間は楽しいのだけどあまり残らない作品ではある。(検索したら、自分の感想が出てきた)

「イン・ザ・ナイト」 In The Night
振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン
ナタリー・クッシュ ‐ 木本全優
アレーナ・クロシュコワ ‐ ロマン・ラツィク
ニーナ・ポラコワ ‐ マニュエル・ルグリ
イーゴリ・ザプラヴディン(ピアノ)

イーゴリ・ザプラヴディンの演奏が叙情的でクリアで素晴らしかった。NBSの公演での生ピアノ、全部この人にすればいいのにって思うほどだった。木本全優さんは頭が小さくて手脚が長くて本当にプロポーションに恵まれている。つま先がとても綺麗だしサポートも上手いけど、情感を出せるまでにはもう少し。ロビンスの振り付けは目新しさはないけれども、音楽が何しろ素晴らしいので聴き入ってしまう。2組目のロマン・ラツィクは軍服のような衣装が似合っていて、この人らしい真面目さを感じた。パートナーのアレーナ・クロシュコワも美しくてとても良かった(M's daily lifeさんによれば、元マールイのダンサーのようですね)。しかしなんといっても白眉はルグリで、この人が登場するともう別格なのがわかる。リフトを多用した振り付けを美しく見せるパートナーリングの巧みさとロマンティックな雰囲気、上半身から醸し出されるエレガンス、音楽性。そして途中で見せた超高速シェネでは、衰えないテクニックを見せてくれた。現在はあまり踊っていないということだけど、体型もキープされており、この年齢でこれだけ踊れるのは驚異的なことである。彼を観られただけでも、観に行った甲斐があったというものだ。

「精密の不安定なスリル」 The Vertiginous Thrill of Exactitude
振付・衣裳・照明:ウィリアム・フォーサイス 音楽:フランツ・シューベルト
リュドミラ・コノヴァロワ、玉井るい、橋本清香、木本全優、デニス・チェリェヴィチコ

5人のダンサーのうち3人が日本人だというのが凄い。しかも3人ともプロポーションの良さも現代性もあって素晴らしいダンサー。中でも、やはり木本さんがすごく良くて、この作品のスピーディさにぴったりと音を合わせることができていて切れ味抜群。デニス・チェレヴィチコも良かったけど、木本さんの前では霞んでしまうほどだった。このバレエ団は、こういったクラシックのテクニックをベースにした現代作品が得意だということを改めて示してくれたレベルの高い上演であった。

「ルートヴィヒ2世‐白鳥の王」 〈世界初演〉 Ludwig II - The Swan King
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:リヒャルト・ワーグナー
ルートヴィヒ2世:マニュエル・ルグリ
エリザベート皇后:マリア・ヤコヴレワ
湖の貴婦人:ニーナ・ポラコワ

主人公二人に、狂言回し的な役割を持つ第三のキャラクターが登場するという点では、「マリー・アントワネット」に似ているし、ルートヴィヒ2世といえばノイマイヤーの「幻想~白鳥の湖のように」でも”影”という狂言回しが出てくる点では少々既視感がある。しかしこの作品もオリジナリティがないわけではなく、ほっそりと美しい肢体を肌色の総タイツに身を包み死へと誘う”湖の貴婦人”の存在感が強烈であった。まるでルートヴィヒの分身のような、エリザベート皇后のマリア・ヤコヴレワも衣装共々美しかったけど、死に取り憑かれ湖の幻に取り憑かれたロマンティックな狂気を感じさせるマニュエル・ルグリの演技力はさすがで、彼の力でこの作品には乗り切れた。「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」を使った音楽の使い方も良かった。ただ、パトリック・ド・バナってオペラ曲を使いすぎる傾向にあるのが気になる。

「ライモンダ」よりグラン・パ Grand Pas de Duex from Raymonda
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパに基づく) 音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ライモンダ:オルガ・エシナ
ジャン・ド・ブリエン:ウラジーミル・シショフ
アンリエッテ:アレーナ・クロシュコワ
パ・ド・カトル:アッティラ・バコ、グレイグ・マチューズ、ドゥミトル・タラン、アレクサンドル・トカチェンコ
クレメンスとふたりの女性:マルタ・ドラスティコワ、マリア・アラーティ‐澤井怜奈    
他、ウィーン国立バレエ団

唯一の純クラシック作品。悪くはないのだけど、現代作品の上演より少しレベルが落ちる印象を受けてしまった。群舞が少々苦しいところが感じられてしまった。ほかの作品でソロを踊っていたダンサーも、コール・ドの中に配置されていたから、長いガラで少々お疲れだったのかもしれない。主役ペアのオルガ・エシナとウラジーミル・シショフは、何年か前に彼らがまだマリインスキーに所属していた頃、ルジマトフのガラで観たことがあって、あの時も「ライモンダ」だったという記憶がある。オルカ・エシナは相変わらず輝くばかりの美しさだったが、シショフは少々お太りになってしまったようで、踊りにも精彩がなかった。ヌレエフ版の上演なので仕方ないのだが、マリインスキー出身のロシアン・バレリーナだったらソロでは音を出して手を叩かないで欲しいと細かい注文を出したくなる。そういう細かい点を別にすると、エシナはポールドブラも美しく、気品のあるライモンダで思わず見とれてしまうほど素晴らしかった。アンリエッテのアレーナ・クロシュコワもとても良かった。パ・ド・カトルの男性陣は健闘していた。パ・ド・カトルとクレメンスと二人の女性のパ・ド・トロワに、元シュツットガルト・バレエのアッティラ・バコとマリア・アラーティがいたのが嬉しく、二人ともほかのダンサーよりもレベルが高かった。

*****

長時間のガラであったが、プログラム選びに芸術監督ルグリのセンスの良さが発揮されており、個人的には現代作品も大いに楽しめた。クラシックのパ・ド・ドゥやソロでお茶を濁しておしまい、ではなく、一つ一つの作品をじっくりと見せてくれたことに好感を持った。ルグリが愛情と手間をかけて育てている、ウィーン国立バレエの現在の姿を知ることができた、良いガラだった。終演時刻が遅かったにも関わらず、カーテンコールも長く続き、最後にはスタンディングオベーションとなったのも納得であった。

2012/04/25

マリインスキー・バレエ2012年の来日公演のキャストが決定

マリインスキー・バレエ2012年の来日公演のキャストが決定しました[2012年4月25日現在]

http://www.japanarts.co.jp/html/2012/ballet/mariinsky/ticket.htm

<ラ・バヤデール>
上演時間:約3時間 (休憩2回含む)
Minkus
Approximate Running Time : 3hrs.with two intermissions
【ニキヤ/ソロル/ガムザッティ】
11月15日(木) 18:45 文京シビックホール ウリヤーナ・ロパートキナ/ダニーラ・コルツンツェフ/エカテリーナ・コンダウーロワ
11月24日(土)18:00  東京文化会館 ヴィクトリア・テリョーシキナ/ウラジーミル・シクリャローフ/アナスタシア・マトヴィエンコ
11月25日(日) 14:00 東京文化会館 アリーナ・ソーモワ/エフゲニー・イワンチェンコエカテリーナ・コンダウーロワ
11月26日(月) 18:45 東京文化会館 ディアナ・ヴィシニョーワ/イーゴリ・コールプ/アナスタシア・マトヴィエンコ

<アンナ・カレーニナ>
上演時間: 約2時間 (休憩1回含む)
Shchedrin
Approximate Running Time : 2hrs.with one intermission
【アンナ/ヴロンスキー/カレーニン】
11月22日(木) 19:00   東京文化会館 ディアナ・ヴィシニョーワ/コンスタンチン・ズヴェレフ/イスロム・バイムラードフ
11月23日(金・祝)14:00 東京文化会館 ウリヤーナ・ロパートキナ/アンドレイ・エルマコフ/ヴィクトル・バラーノフ

<白鳥の湖>
上演時間: 約3時間 (休憩2回含む)
Tchaikovsky
Approximate Running Time : 3hrs.with two intermission
【オデット&オディール/ジークフリート】
11月17日(土) 18:00 文京シビックホール ヴィクトリア・テリョーシキナ/ウラジーミル・シクリャローフ
11月20日(火) 18:45 府中の森芸術劇場 エカテリーナ・コンダウーロワ/エフゲニー・イワンチェンコ
11月27日(火) 18:45 東京文化会館 ウリヤーナ・ロパートキナ/ダニーラ・コルスンツェフ
11月29日(木) 13:00 東京文化会館 アナスタシア・マトヴィエンコ/イーゴリ・コールプ
11月29日(木) 18:45 東京文化会館 アリーナ・ソーモワ/アレクサンドル・セルゲーエフ

<オールスターガラ>
12月2日(日) 18:00 東京文化会館 ウリヤーナ・ロパートキナ/ディアナ・ヴィシニョーワ
ヴィクトリア・テリョーシキナ/アリーナ・ソーモワ
エカテリーナ・コンダウーロワ/エフゲニー・イワンチェンコ
イーゴリ・コールプ/ダニーラ・コルスンツェフ
ウラジーミル・シクリャローフ 他

平日(月~金)料金
S\21,000 A\18,000 B\15,000 C\13,000 D\9,000 E\5,000
ジャパン・アーツ夢倶楽部会員 S\20,000 A\17,000 B\14,000 C\12,000 D\8,100 E\4,500
※11/15, 20公演はS席~D席のみ

休日(土・日・祝)料金
S\22,000 A\19,000 B\15,000 C\13,000 D\9,000 E\5,000
ジャパン・アーツ夢倶楽部会員 S\21,000 A\18,000 B\14,000 C\12,000 D\8,100 E\4,500
※11/17公演:S席~D席のみ


ロパートキナが「白鳥の湖」に1回しか出ないので、平日ですが激戦になりそうですね。「アンナ・カレーニナ」で評価の高かったコンダウーロワが出演しないのは残念です。

追記:愛知県立芸術劇場での「白鳥の湖」公演のキャストが発表されていました。東京では「白鳥の湖」に出演しないディアナ・ヴィシノーワとイーゴリ・コールプが出演します。

http://cte.jp/detail/12/121118/index.html

チャイコフスキー:「白鳥の湖」

[主要キャスト(予定)]
オデット/オディール:ディアナ・ヴィシニョーワ
ジークフリート王子:イーゴリ・コールプ
ロットバルト:コンスタンチン・スヴェレフ

2012年11月18日(日) 開場/16:15 開演/17:00

お申込み・お問合せ:中京テレビ事業
052-957-3333  9:30~17:30(土日祝日休業)
会 場 愛知県芸術劇場大ホール
料 金 S¥20,000 A¥17,000 B¥14,000 C¥12,000 D¥9,000 E¥7,000 学生¥3,000
※学生券は往復ハガキで申込みの上抽選。

チケット発売所 一般発売は2012年5月26日(土) AM10:00~
中京テレビ事業:052-957-3333
チケットぴあ:0570-02-9999(Pコード:419-273)
ローソンチケット:0570-084-004(Lコード:48995)
愛知芸術文化センターPG:052-972-0430
栄プレチケ92:052-953-0777
e+(イープラス):eplus.jp
中日サービスセンター:052-263-7282

ブノワ賞のノミネート発表 Nominees for 20th Anniversary Benois de la Danse Awards Announced

今日はウィーン国立バレエのウィーン・ガラに行ってきました。休憩まで含めると4時間近い長丁場で、バラエティに富む作品をたっぷりと見せてもらって、とても楽しく充実したガラでした。明日ご予定のない方には、ぜひお勧めしたいです。これだけの上演作品があって、退屈な作品がほとんどないというのがまず凄い。そして、何しろマニュエル・ルグリが踊る「イン・ザ・ナイト」が観られるというだけでも、観る価値があるというものです。「イン・ザ・ナイト」はピアニストのイーゴリ・サプラヴディンの演奏も素晴らしかったです。それから「精密の不安定なスリル」の木本全優さんの踊りがすごく良かったです。私も余裕があれば明日も観に行きたいくらいです!


さて、バレエ界のアカデミー賞的な位置づけにあるブノワ賞のノミネートが発表されました。今日上演されたパトリック・ド・バナの「マリー・アントワネット」、振付部門で、そして同作品に主演したオリガ・エシナもノミネートされています。

http://pointemagazine.com/blogs/benois-de-la-danse/benois-de-la-danse

CHOREOGRAPHERS : 振付賞
Patrick de Bana (Marie Antoinette, Vienna State Ballet) パトリック・ド・バナ「マリー・アントワネット」、ウィーン国立バレエ。
Jean-Guillaume Bart (La Source, Opera National de Paris) ジャン=ギョーム・バール「ラ・スルス(泉)」、パリ・オペラ座バレエ
Lar Lubovitch (Crisis Variations, Lubovitch Dance Company) ラー・ルボヴィッチ 「Crisis Variations」、ルボヴィッチ・ダンス・カンパニー
Boris Eifman (Rodin, Ballet Theatre of Boris Eifman)  ボリス・エイフマン「ロダン」、エイフマン・バレエ

BALLERINAS : 女性ダンサー賞
Kathleen Breen Combes (Juliette, Romeo et Juliette, Kranko ; Titania, A Midsummer Night’s Dream, Balanchine, Boston Ballet) キャスリーン・ブリーン・コンブス、「ロミオとジュリエット」(クランコ版)「真夏の夜の夢」ボストン・バレエ
Olga Esina (Marie-Antoinette, P. de Bana, Vienna State Ballet) オリガ・エシナ、「マリー・アントワネット」ウィーン国立バレエ
Kim Ji-Young (Giselle, P. Bart, Juliette, J.-Ch. Maillot, Korea National Theatre) キム・ジヨン、「ジゼル」「ロミオとジュリエット」(マイヨー版)韓国国立バレエ
Alina Cojocaru (Julie, Liliom, Neumeier, Hamburg ballet) アリーナ・コジョカル、「リリオム」ハンブルク・バレエ
Sara Mearns (Honorata, Ocean’s Kingdom, P. Martins, NYCB) サラ・メアーンズ、「オーシャンズ・キングダム」NYCB
Evgenia Obraztsova (Kitri, Don Quixote, Bolshoi ballet) エフゲーニャ・オブラスツォーワ、「ドン・キホーテ」ボリショイ・バレエ
Laetitia Pujol (Cendrillon, Opera National de Paris) レティシア・プジョル、「シンデレラ」パリ・オペラ座バレエ

DANCERS : 男性ダンサー賞
Matthew Golding (Prince, Nutcracker and the Mouse King, W. Eagling, T. van Schajk, Het Nationale Ballet) マシュー・ゴールディング、「くるみ割り人形とねずみの王様」オランダ国立バレエ
Vladislav Lantratov (Basil, Don Quixote, Bolshoi ballet) ウラディスラフ・ラントラートフ、「ドン・キホーテ」ボリショイ・バレエ
Lee Dong-Hoon (Albrecht, Giselle ; P. Bart, Romeo, Romeo et Juliette, J.-Ch. Maillot, Nutcracker, Grigorovich, Korea National Ballet) イ・ドンフン、「ジゼル」「ロミオとジュリエット」「くるみ割り人形」(グリゴローヴィチ版)韓国国立バレエ
Chase Finlay (Apollo, Balanchine, NYCB) チェース・フィンレー、「アポロ」NYCB
Mathias Heymann (Zael, La Source, J-G. Bart, Opera National de Paris) マチアス・エイマン、「ラ・スルス(泉)」パリ・オペラ座バレエ
Carsten Jung (Liliom, Liliom, Neumeier, Hamburg Ballet) カーステン・ユング、「リリオム」ハンブルク・バレエ

COMPOSERS : 作曲賞
Michel Legrand (Liliom, Hamburg ballet) ミシェル・ルグラン「リリオム」、ハンブルク・バレエ
Paul McCartney (Ocean’s Kingdom, NYCB) ポール・マッカートニー「オーシャンズ・キングダム」、NYCB

オフィシャルサイト
http://benois.theatre.ru/english/massmedia/news/

2012/04/24

デンマーク・ロイヤル・バレエの2012/13シーズン Royal Danish Ballet's 2012/13 Season

デンマーク・ロイヤル・バレエの2012/13シーズンが発表されました。ニコライ・ヒュッベ芸術監督の5シーズン目となります。

デンマーク語でわかりにくいのですが、シーズンプログラムをこちらで閲覧できます。
http://issuu.com/kglteater/docs/katalog2012

英語でこの2012/13シーズンについて解説した記事があるので、ご紹介します。
http://danceviewtimes.typepad.com/eva_kistrup/2012/04/the-royal-russian-ballet.html

世界初演としては、アレクセイ・ラトマンスキーの新作「金鶏」(Coq D'Or、バレエ・リュスで上演されたのはフォーキン版)、新制作としてはヒュッベとEva Draw再振付の「ラ・バヤデール」、そして大型作品としてはクリストファー・ウィールダンの「眠れる森の美女」(2010年初演)があります。大幅な予算削減に伴う人員削減を迫られたカンパニーとしては頑張っているラインアップです。今回の「ラ・バヤデール」では、英国のラジャが舞台でソロルは英国人の将校という設定だそうで、大変興味深いです。

他には、以下が予定されています。

ジョン・ノイマイヤー振付「ロミオとジュリエット」
オーギュスト・ブルノンヴィル振付「Kermes in Brügge」(ブリュージュの大市)、「La Ventana」(ラ・ヴェンタナ)」
トーマス・ルン(同バレエ団プリンシパル)振付「Teddy goes to dance」(子供向けのバレエ)
Dance2GO ウェイン・マクレガー振付「クローマ」、 Patrick Delcroix振付の新作、 ホセ・リモン振付 「Unsung」
レパートリー作品「ラ・シルフィード」「ナポリ3幕」
レパートリー作品「ザ・レッスン」「パ・ドカトル」「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」

また、NYCBが王立劇場で公演を行うほか(「セレナーデ」「シンフォニー・インC第四楽章」/「NYエクスポート・ジャズ」(ロビンス)、「回転木馬」「DSCH」(ウィールダン)、ラトマンスキー及びマーティンスの作品)、デンマーク・ダンス・シアターが「Love Songs」(ティム・ラッシュトン)、アクラム・カーンが「DESH」を上演します。

なお、今シーズン上演された「椿姫」が大変好評だったのですが、カンパニーの財政上の問題で今シーズンのみと上演とされていました。が、あまりにも好評だったため、なんとか2014年に上演できないかとスポンサーが交渉中であり、可能であればDVD化も行いたいとのことです。

2012/04/23

ABTのオープニング・ガラ American Ballet Theatre's Opening Night Gala

ABTのMETシーズンオープニングを飾るオープニング・ガラ(5月14日)の演目と出演者が発表されていました。

http://www.abt.org/performances/performance_display_1.asp?Event_ID=752

Thirteen Diversions (excerpts) Riccetto, Matthews, Seo, Davis, Abrera, Tamm, Messmer, Hammoudi
Le Corsaire (Odalisques) Lane, Copeland, Boylston
La Bayadère (Act II pas de deux) Semionova, Hallberg
Le Corsaire (Bedroom pas de deux) Herrera, TBA
TBA  Part, Stearns
Swan Lake (Act II pas de deux) Dvorovenko, Beloserkovsky

Students of the Jacqueline Kennedy Onassis School

Romeo and Juliet (Balcony pas de deux) Vishneva, Gomes
Swan Lake (Act III pas de deux) Murphy, Muntagirov
Manon (Act I pas de deux) Cojocaru, Corella
Don Quixote (Act III pas de deux) Reyes, Cornejo
Onegin (Act I pas de deux) Kent, Bolle
Flames of Paris (pas de deux) Osipova, Vasiliev
Thirteen Diversions (finale) Riccetto, Matthews ,Seo, Davis, Abrera, Tamm, Messmer, Hammoudi

この顔ぶれを見ると、セミオノワ、ムンタギロフ、コジョカル、ボッレ、オシポワ、ワシーリエフとゲストダンサーの名前が目につき、一体どこのガラかと思うほどですが、次々と主力だったダンサーが引退していく現状を見ると、致し方ないのかという気もします。その中で、今シーズン末でABTを去るアンヘル・コレーラがアリーナ・コジョカルと「マノン」を踊るのはちょっと嬉しい知らせです。(この二人が世界バレエフェスティバルで共演したのは2003年のことでしたね。懐かしいです。あの時も「マノン」の寝室のパ・ド・ドゥを踊ったのでした)

「サーティーン・ディヴァージョンズ」(ウィールダン振付)では、コール・ドのエリック・タム、グレイ・デイヴィス、アレクサンドル・ハムーディの名前もアップされているので、このうちの一人でもソリストに昇格して将来のABTをになって欲しいなと思うのでした。

なお、このオープニング・ガラには、名誉理事としてミシェル・オバマ大統領夫人も参加するとのことです。
http://www.abt.org/insideabt/news_display.asp?News_ID=396

また、終わったことですが、4月20日にヴァージニア州ノーフォークで行われた「ジゼル」公演は、当初予定されていたコリー・スターンズが怪我のため降板し、代役として、「オネーギン」のリハーサル中だったロベルト・ボッレが出演するという異例のキャスティングとなったようです。コリーの怪我が大きくないことを祈ります。(貴重なABTプリンシパルですから)

2012/04/21

ハンブルク・バレエ「ヴェニスに死す」DVD Tod in Venedig: By John Neumeier Hamburg Ballet

2003年に初演され、2004年にバーデンバーデン祝祭劇場で上演されarteで収録されて放映されたノイマイヤーの作品のDVD化。実は放映されたものは以前観ていたのだけど、それから実に8年後のDVD化となった。ハンブルク・バレエの映像作品は近年のものは珍しいので貴重。

トーマス・マンの原作「ヴェニスに死す」、その原作を映画化したヴィスコンティの「ヴェニスに死す」をベースにしながらも、主人公アッシェンバッハを振付家という設定に変更し自由な翻案を加えた作品となっている。DVDに封入された冊子によれば、振付家はセルジュ・リファールをイメージした人物設定となっているとのこと。

8年が経過してしまったということで、今は所属していなかったり、引退してしまった出演者も多い。アッシェンバッハのアシスタント、愛情あふれるアッシェンバッハの母、そしてグラマラスなタッジオの母を同一のバレリーナ、ラウラ・カッツァニガが好演しているが、残念ながら彼女は引退してしまっている。さらに移籍してしまったイリ・ブベニチェクが、双子の兄弟オットーと共に妖しげなキャラクターとして姿を変えながら登場して、アッシェンバッハを惑わす。ある時はヴェニスへのゴンドラの船頭として、ある時は同性愛的な雰囲気がむんむんするカップルとして、ある時にはジーン・シモンズを思わせるメイクを施したロックミュージシャンとして、さらにある時にはアッシェンバッハに化粧を施すふたりの美容師として、鮮烈な印象を残している。また、タッジオの友人たちの一人として服部有吉さんが素晴らしい身体能力を発揮。群舞の中にも、ティアゴ・ボァディン、カーステン・ユングなど主力のダンサーが出演していて、なんとも豪華なキャストで充実期にあったカンパニーの姿を見ることができる。コール・ドの使い方ひとつとっても、独特のパ・ド・トロワの組み方にしても、ノイマイヤーの振付家としての華麗な手腕を堪能できる。

なんといっても圧倒的だったのが、アッシェンバッハ役のロイド・リギンス。大振付家としての威厳を持った姿で登場し、ブルノンヴィル仕込みの足先の鮮やかな踊りと共にカリスマ性とエレガンスを持っていたのが、振付作品「フリードリッヒ大王」の作品創作に行き詰まり、作品から飛び出た登場人物たちに苛まれ、ヴェニスへと導かれる。光り輝く美しい少年タッジオ、そして周りの少年たちの眩しい姿に自らの老いを実感していたたまれなくなる。エロティックな宴に迷い込み、若作りのためにグロテスクな化粧を施してタッジオの前に現れるも、思いっきり引かれる姿の哀しいことよ。とても冒頭の堂々とした巨匠と同じ人とは思えない。抱いてしまった煩悩のために、自ら手がけていた「フリードリッヒ大王」の創作にもとうとう挫折する。手を伸ばしても届かないタッジオへの憧れ、それはとても純粋で性愛とは無縁のものだと思われるだけに、より一層悲哀を感じさせた。若さ、美しさの象徴を手に入れることなく死んでいった彼は、しかしながらそこで死を得られたことで幸せだったのかもしれない。(そういえば、ディアギレフもまたヴェニスで死んだのであった)リギンスは「人魚姫」でも詩人役で素晴らしい演技をしているけれども、このアッシェンバッハ役は一世一代の名演といってもいいだろう。

タッジオ役のエドヴィン・レヴァツォフは金髪の輝くような美青年で、無邪気な演技もよく似合っている。この役を演じるには少々大柄すぎて大人っぽすぎて、8年前のこの時点ですら、ちょっと不自然に思えるところもあったが、若さと生の輝きを体現することには成功している。28歳の今もまだこの役を演じているということなのだが、今だとどう演じているのだろう。アッシェンバッハが振りつけた美しい愛のパ・ド・ドゥを踊る「コンセプト」役のシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコは、いつもながらパートナーシップが見事で息を呑むほどの美を体現してくれる。またアッシェンバッハを精神的に追い込んでいくフリードリッヒ大王役のイヴァン・ウルバンもさすがの存在感。

ノイマイヤーの演出は、一つには通奏低音としてアッシェンバッハの振付作品にはバッハを用い、要所要所にはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」などのピアノ版を使っているところに大きな意味が感じられる。中でも、名ピアニスト、エリザベス・クーパーが舞台上で奏でるワーグナーが美しく、愛と死のドラマを静謐な中にも高らかに歌い上げている。原作者のトーマス・マン自身が、ヴェニス滞在中にリヒャルト・ワーグナーについてのエッセーを手がけていたという事実も興味深い。自らの創造した作品の登場人物が自分の意思を持って、創造主を追い込んでいくというコンセプトも、入れ子構造を好むノイマイヤーらしいものである。

その静謐で洗練された世界観を打ち破るのが、後半のデュオニッソスの夢のシーンと「死のダンス」のシーン。デュオニッソスに扮したイリとオットーが葡萄の房でアッシェンバッハを責め立て、そして「死のダンス」ではホテルのロビーに乱入したミュージシャン(ジーン・シモンズそっくりのメイクをしたイリとオットー)がイングヴェイ・マルムスティ-ンのハードロックを奏で、宿泊客の多くが熱に倒れて死んでしまうという場面だ。ヴェニスの上流社交界の裏面というか、猥雑でバッドテイストとも言える演出が大きなアクセントとなっている。そしてイリとオットーの妖しげな二人が繰り広げるめくるめく官能の世界。このシーンが、「ヴェニスに死す」という作品のただものではない部分を確立したといっていいだろう。

というわけで、大変面白く観ることができた作品だが、唯一残念なのが、8年前の収録ということもあり、最近発売された作品の割にはやや画質が悪いことである。悪いといっても、私の目がブルーレイのハイビジョン収録を大画面で観ることに慣れすぎたからなのかもしれず、これくらいの映像で観られることに感謝しなければならないのだが。

特典映像(英語、フランス語字幕付き)としてノイマイヤーのインタビューやリハーサルシーン60分がついている。リージョンオールなので普通のDVDプレイヤーで再生可能。

Tod in Venedig (Death in Venice) A Dance of Death by John Neumeier
based on the novella by Thomas Mann

Music
Johann Sebastian Bach
    Richard Wagner
Choreography
Staging
John Neumeier
Set
Peter Schmidt
Costumes
John Neumeier
    Peter Schmidt
Lighting Concept
John Neumeier

World Premiere
The Hamburg Ballet, Hamburg, December 7, 2003

Gustav von Aschenbach Lloyd Riggins
his assistant – his mother - Tadzio's mother Laura Cazzaniga
Tadzio Edvin Revazov
Frederick the Great Ivan Urban
La Barbarina Hélène Bouchet
Aschenbach's Concepts Silvia Azzoni Alexandre Riabko
The Wanderer the Gondolier a Dance Couple Dionysos the Hairdresser the Guitar Player
Jirí Bubenícek Otto Bubenícek
A young Aschenbach Konstantin Tselikov
Jaschu, Tadzio's friend Arsen Megrabian


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2012/04/20

ミラノ・スカラ座2012/13シーズン、2013年9月来日公演 Teatro Alla Scala 2012/13 Season

ミラノ・スカラ座の2012/13シーズンが発表されていました。2013年9月にはマクミラン版「ロミオとジュリエット」で来日公演も予定されています。

http://www.teatroallascala.org/en/new-season-2012-2013-teaser.html

「ロミオとジュリエット」サシャ・ヴァルツ振付(カンパニー初演)、12月19日~1月8日 出演 オーレリー・デュポン、ロベルト・ボッレほか

「ノートルダム・ド・パリ」ローラン・プティ振付、2月10日~3月5日 出演 ロベルト・ボッレ、ナタリア・オシポワ、イワン・ワシーリエフほか

「ジゼル」 4月24日~5月4日 出演 スヴェトラーナ・ザハロワ、ロベルト・ボッレほか

「白鳥の湖」 ルドルフ・ヌレエフ振付 7月17日~10月18日 出演 ナタリア・オシポワほか

「L'altra metà del cielo」 9月6日~13日

「マノン」 11月7日~15日 ケネス・マクミラン振付、出演 スヴェトラーナ・ザハロワ、ロベルト・ボッレ ナタリア・オシポワほか

マッシモ・ムッルが出演予定がなさそうなのが残念なところです。


ミラノ・スカラ座バレエ 来日公演
http://www.teatroallascala.org/it/stagione/tournee/2012-2013/giappone/giappone.html

「ロミオとジュリエット」ケネス・マクミラン振付

東京文化会館 2013年9月20・21・22・23日
大阪フェスティバルホール 2013年9月26日
愛知県立芸術劇場 2013年9月29日

ちょうどミラノ・スカラ座オペラも来日しますので、それに伴う来日公演となるものだと思われます。(オペラ公演の直後)


マリインスキー・バレエ、2012年の来日公演特設サイトが開設 Mariinsky Ballet's Japan Tour

マリインスキー・バレエ、2012年の来日公演特設サイトが開設されました。
http://www.japanarts.co.jp/html/2012/ballet/mariinsky/index.htm
(未定の部分は決まり次第お知らせするとのことです)

マリインスキー・バレエ 2012年来日公演

 [公演日程]
 《ラ・バヤデール》
  11月15日(木) 18:45 文京シビックホール 平日料金
  11月24日(土) 18:00 東京文化会館 休日料金
  11月25日(日) 14:00 東京文化会館 休日料金
  11月26日(月) 18:45 東京文化会館 平日料金
 《アンナ・カレニーナ》
  11月22日(木) 19:00 東京文化会館 平日料金
  11月23日(金・祝) 14:00 東京文化会館 休日料金
 《白鳥の湖》
  11月17日(土) 18:00 文京シビックホール 休日料金
  11月20日(火) 18:45 府中の森芸術劇場 平日料金
  11月27日(火) 18:45 東京文化会館 平日料金
  11月29日(木) 13:00 東京文化会館 平日料金
  11月29日(木) 18:45 東京文化会館 平日料金
 《オールスター・ガラ》
  12月2日(日) 18:00 東京文化会館 休日料金

未定の部分というのは、主にキャストと、「オールスター・ガラ」の演目に関わる部分です。
また、今回、平日と休日で料金を変えているのですね。(休日料金、高いですね~)
平日が18時45分始まりというのは、働く人に配慮していてとても良いことだと思います。

なお、主な出演者としては、ウリヤーナ・ロパートキナ、ディアナ・ヴィシニョーワ、ヴィクトリア・テリョーシキナ、アリーナ・ソーモワ、エカテリーナ・コンダウーロワ、エフゲニー・イワンチェンコ、イーゴリ・コールプ、ダニーラ・コルスンツェフ、ウラジーミル・シクリャーロフ、アレクサンドル・セルゲイエフほかだそうです。


平日(月~金)料金
S\21,000 A\18,000 B\15,000 C\13,000 D\9,000 E\5,000
ジャパン・アーツ夢倶楽部会員 S\20,000 A\17,000 B 14,000 C\12,000 D\8,100 E\4,500
※11/15, 20公演はS席~D席のみ

休日(土・日・祝)料金
S\22,000 A\19,000 B\15,000 C\13,000 D\9,000 E\5,000
ジャパン・アーツ夢倶楽部会員 S\21,000 A\18,000 B\14,000 C\12,000 D\8,100 E\4,500
※11/17公演:S席~D席のみ


≪3演目セット券(S・A・B席)≫※セット券は同一席種に限ります。※オールター・ガラは含まれません。
 3演目の通常価格より\3,000割引(夢倶楽部会員料金:通常価格より\4,500割引)

  ①ジャパン・アーツ夢倶楽部ネット会員 先行抽選販売
     申込み期間 4/27(金)10:00~4/30(月・祝)23:00
    受付:
     抽選期間:5/1(火)~5/7(月)午後 
     結果配信:5/7(月)夜

  ②ジャパン・アーツ夢倶楽部会員TEL
     5/12(土) 10:00~

  ③ジャパン・アーツぴあネット会 先行抽選販売 
     申込期間:5/14(月)10:00~5/16(水)23:00 
    受付:
     抽選期間:5/17(木)~5/22(火)午後
     結果配信:5/22(火)夜

  ④一 般 6/3(日)10:00~  

ジャパン・アーツぴあコールセンター (03)5774-3040

≪単券≫

  ①ジャパン・アーツ夢倶楽部ネット会員   5/11(金)10:00~
  ②ジャパン・アーツ夢倶楽部会員TEL   5/12(土) 10:00~
  ③ジャパン・アーツぴあネット会員   5/25(金)10:00~
  ④一 般 6/3(日)10:00~  

ジャパン・アーツぴあコールセンター (03)5774-3040

ちなみにセット券先行抽選販売は席が選べないようです。

2012/04/19

ローザンヌ国際バレエコンクールは5月13日放映

NHKクラシックのサイトで第40回 ローザンヌ国際バレエコンクールの放送予定が発表されていました。

http://www.nhk.or.jp/classic-blog/100/117741.html

「第40回 ローザンヌ国際バレエコンクール」
Eテレ 5月13日(日)午後3:00~5:00

菅井円加さんが1位を獲得したこのコンクールの決勝が全編放映されるとのことです。

*****
今日は「スタジオパーク」に吉田都さんが出演されましたね。座っている時もピンと伸びた美しい姿勢が印象的でした。一つ一つの舞台を最後の舞台だと思ってひたむきに踊られているとのことで、都さんの舞台は今後ひとつも見逃せないなと思った次第です。「NHKバレエの饗宴」での「真夏の夜の夢」の映像も少し流れ、6月の放映がますます楽しみになりました。

2012/04/17

黄金のマスク賞受賞者発表/ローレンス・オリヴィエ賞 Golden Mask Awards Announced/Olivier Awards

ロシアの舞台芸術でもっとも権威ある黄金のマスク賞が発表されました。

http://www.goldenmask.ru/news.php?id=1560
(ロシア語)

バレエ・ダンス関係のみお知らせします。

最優秀バレリーナ賞 アンナ・ハムジナAnna Khamzina モスクワ音楽劇場「人魚姫」(ジョン・ノイマイヤー振付)
最優秀バレエ・ダンサー賞 デニス・サヴィン ボリショイ劇場「ヘルマン・シュメルマン」(ウィリアム・フォーサイス振付)
最優秀振付家賞 マウロ・ビゴンゼッティ「Cinque」ボリショイ劇場
最優秀指揮者賞 Felix Korobov モスクワ音楽劇場「人魚姫」(ジョン・ノイマイヤー)
最優秀モダン・ダンス賞 PUNTO DI FUGA , the Company's "Dialogue Dance", Kostroma, and «Zerogrammi», Italy
最優秀バレエプロダクション賞「ポル・ヴォス・ムエロ」ミハイロフスキー劇場(ナチョ・ドゥアト振付)
作曲賞Leonid DESYATNIKOV 「ロスト・イリュージョン」ボリショイ劇場(アレクセイ・ラトマンスキー振付)
衣装賞Jerome Kaplan 「ロスト・イリュージョン」ボリショイ劇場
批評家賞 「クローマ」ボリショイ劇場(ウェイン・マクレガー振付)
審査員特別賞 「Seeing The Music」ペルミ劇場(ダグラス・リー振付)

ノミネートの段階ではマリインスキー劇場もあったのですが、結果を開けてみたらボリショイの圧勝でした。そして、一目でわかるように、すべて現代作品での受賞となっています。ロシアでも、今は現代作品が中心となってきているのを感じます。

ノミネートの一覧はこちら(英語)
http://eng.goldenmask.ru/gm.php?id=99


なお、ついでと言ってはなんですが、前日に発表された英国ローレンス・オリビエ賞の結果についても。(ダンス関係のみ)
http://www.olivierawards.com/nominations/list-of-winners/

最優秀ダンス・プロダクション アクラム・カーン「DESH」(サドラーズ・ウェルズ劇場)
http://www.olivierawards.com/news/view/item140094/desh-wins-best-new-dance-production/

最優秀ダンサー賞 エドワード・ワトソン「メタモルフォシス/変身」(リンバリー・スタジオ/ロイヤル・オペラハウス、アーサー・ピタ振付)
http://www.olivierawards.com/news/view/item140093/metamorphosis-earns-watson-outstanding-achievement-in-dance/

また特別賞は、今シーズン限りでロイヤル・バレエの芸術監督を退任するモニカ・メイソンが受賞しています。
http://www.olivierawards.com/nominations/monica-mason/

ピナ・バウシュ 夢の教室 Tanzträume - Jugendliche tanzen Kontakthof von Pina Bausch

2008年、ピナ・バウシュの下に、ダンス経験のない40人のティーンエイジャーが集結し、10ヵ月間のリハーサルを経て「コンタクトホーフ」を上演するまでを追ったドキュメンタリー映画。14歳から17歳までの少年少女は性格も家庭環境も様々だけど、みなダンスを経験したことがない。祖父をコソボ内戦で亡くしていたり、父親を不慮の事故で失っていたり、ボスニア難民のロマの少年だったりと様々な事情を抱えていて、一人一人が、そのことをカメラの前で語る。

http://www.pina-yume.com/

Intro_05

実はこのドキュメンタリー、ピナ・バウシュ本人が登場するシーンは決して多くない。しかしながら、その多くない登場場面でのピナの存在感は強烈で、リハーサルにもつきっきりというわけではないのに40人の少年少女全員の名前を覚えていたり、時には厳しく、時には温かい目で彼らを指導し見つめる。その一挙一動にカリスマ性があり腕の動きなどは実に優雅で、目は本当に優しげだ。そして二人の指導者、ジョー=アン・エンディコットとベネディクト・ビリエの限りない愛情と、粘り強さ、徹底的に細かい指導ぶりには心の底から感動した。

「コンタクトホーフ」は男女の関係とその痛み、その孤独を物理的に「触れ合うこと」によって描いた作品で、まだ人生経験の浅いティーンエイジャーにとっては決して演じやすい作品ではない。彼らの多くは、恋愛すら経験していないのだ。したがって、最初のうちは、お互いに触れ合うのも照れくさいく恥ずかしいし、動きの一つ一つがぎこちない。指導者たちも、このままでは間に合わないと焦り始める場面も出てくる。しかしながら、彼女たちの辛抱強い指導によって、次第に少年少女たちも心がほぐれてきて、週に一度の稽古を楽しみにするようになる。子供たちと向き合い、彼ら自身の心の声に耳を傾け、心を開放させることによって、作品にも血が通う。いつしか彼らが、未だ経験したことのない感情ですら表現できるようになってきて、舞台というもの、ダンスというものの持つ力の偉大さ、ピナ・バウシュの作品の素晴らしさを実感した。

印象的なのが、少女キムを多数の少年たちが慰めるように触っていくシーン。最初は愛情に満ちたものだったのが、いつしか暴力的になってエスカレートし恐怖を感じさせるようになり、最後に一人の少年が彼女のお尻を叩く。その時に「本当に君を傷つけたいわけではないよ」と少年が彼女に告げるところでは、なんとも言えない優しさとともに、現実と演技のオーバーラップを感じた。

冒頭と最後の本番のシーンでは、色鮮やかなドレスに身を包んだ少女たちがお尻を振る姿の大人っぽさに驚かされる。リハーサルでの子供っぽさが嘘のように堂々としている。歩いていく少女に追いつこうとしながらどうしても触れることのできない、譜面台を持った少年のシーンには男女の心のすれ違うさまが痛みを伴って伝わってくる。そしてラスト、ピナが一人一人の出演者たちとハグを交わすところの素敵なことといったら。

この上映、終演後に黒田育世さんと近藤良平さんのトークショーが行われた回を観に行った。ともに振付家であり、またピナ・バウシュの筋金入りのファンである二人のトークは大変面白いものであったのだが、その中での近藤良平さんの提言に賛意を示したい。今年からダンスが中学の授業で必修となったが、何よりもこの映画を授業で見せることが、一番の教育になるのではないかという提言である。舞台というもののもつきらめき、作品を作っていくプロセスの中で自分自身を抑圧していたものから解放される喜びを、実在の少年少女が見せてくれる映画なのだから。

(黒田育世さんと近藤良平さんのトークショーについては、こちらのレポートをお読みください)

ユーロスペースでは4/20、
ヒューマントラストシネマ有楽町では4/27までの上映。

2012/04/15

「ディアギレフ 芸術に捧げた人生」Diaghilev: A Life シェング・スヘイエン著、鈴木晶訳

以前、英語版を読んだときに書評を書いたのですが、改めて日本語訳を読んでみたため、もう一度ご紹介をします。

(以前の、英語版を読んだときの書評)
http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2010/05/diaghilev-a-lif.html

原著もオランダ語から英語に翻訳された書籍であったために、英語の伝記にしては非常に読みやすかったのだが、改めて日本語で読んでみると、訳文はさらに読みやすくなっており、かなり短期間で読むことができた。本文444ページ、注釈まで入れると552ページの大長編をわかりやすく翻訳した訳者の労作に拍手を贈りたい。

この伝記を読むと、バレエ・リュス生みの親にして稀代のインプレサリオ(興行師)であったディアギレフが、単なる興行師であっただけでなく、どれほど芸術そのものについてよく理解し、作品の制作のプロセスまで深入りして作り上げたアーティストであったかということがよくわかる。そして、その悪魔的なまでの人心掌握術も。

彼の周りには、ニジンスキー、マシン、リファールといった恋愛関係にあったダンサー、振付家たちをはじめ、ストラヴィンスキーやプロコフィエフ、ドビュッシーなどの作曲家、ブノワ、バクスト、ピカソ、コクトーなどの芸術家、さらにミシア・セールやココ・シャネルといったパトロンや興行師、側近まで膨大な人脈があったわけである。

だが、実際のところ、ディアギレフは不器用で頑固な人間であり、彼らとの人間関係は必ずにもスムーズではなく、幾度となく訣別を繰り返しているのである。また彼は貴族の出身であるにもかかわらず、無一文で生涯を過ごし無一文で死んだ。常にバレエ・リュスのキャッシュフローは火の車であり、詐欺ぎりぎりのところを渡り歩いてきたのである。しかしながら、独特の人間的な魅力で彼は人々を魅了し、バレエのみならず20世紀のあらゆる芸術をも変えてしまうほどの革命を起こしたのだった。

歴史に残るスキャンダルを引き起こした「牧神の午後」や「春の祭典」、今もなお上演されている「シェヘラザード」や「結婚」「三角帽子」「アポロ」といった名作がどのように生まれたのか、その作品の誕生の瞬間を体験できることに改めて興奮を覚えた。

自身の魅力を早くからわかっていた彼が、1895年(23歳の時)に義母宛の手紙に書いた有名な文章があり、彼の人となりをよく説明している。
「僕自身について、やはり冷静に観察すると、まず、僕は大ペテン師です。ただし天才的な。第二に、強力な誘惑者です。第三に、度胸があります。第四に、かなり理屈っぽいですが、主義主張はほとんどありません。第五に、才能はないみたいです。でも、僕は真の天職を見つけました。芸術家のパトロンになることです。いろいろ恵まれています。無いのは金だけです。Mais ca viendra (でもいずれ入ってくるでしょう)」

膨大なロシア語文献や書簡を読み解き、57年間というディアギレフの短い生涯が、いかに濃密で疾風怒濤のものであったかを詳述したこの伝記。バレエ・リュス関連の研究書は数多く出ているが、ディアギレフの生涯についてはこれ以上詳しい本は今後も出てこないと思われる。高価な本ではあるが、20世紀の芸術について関心がある方にとっては、必読。

ディアギレフ―― 芸術に捧げた生涯ディアギレフ―― 芸術に捧げた生涯
シェング・スヘイエン 鈴木 晶

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2012/04/13

タマラ・ロホがENB(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)の芸術監督に就任決定 Tamara Rojo becomes English National Ballet's director

コメント欄でも教えていただきましたが(ありがとうございます)、ロイヤル・バレエのプリンシパルであるタマラ・ロホがENB(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)の芸術監督に就任することが決まったというニュースが流れました。

http://www.theartsdesk.com/dance/tamara-rojo-prima-ballerina-becomes-english-national-ballets-director

ENBは、以前お知らせしたように2か月前に電撃的に芸術監督のウェイン・イーグリングが退任することが決定しており、後任に誰が就任するのかが注目されていました。イーグリングの退任は実質的な解任であり、それに反対する活動なども行われており、カンパニーは混乱に包まれていました。また、ENBの最近のプログラムの多くは高い評価を受けていましたが、チケットの売上は苦戦し、大幅な赤字を計上していました。その中で敢えて火中の栗を拾ったのがタマラ・ロホということになります。

タマラ・ロホは以前からバレエ・カンパニーの芸術監督に就任することが目標であると語っており、2009年には1ヶ月間、ナショナル・バレエ・オブ・カナダの芸術監督カレン・ケインのアシスタントとして研修をしたことがありました。また多忙なバレリーナとしての活動の傍ら、大学院で学位も修めています。スペイン出身の彼女は、ヴィクトル・ウリャテのカンパニーで活動した後、スコティッシュ・バレエ、ENBを経てロイヤル・バレエに移籍したため、ENBにはもともと縁があったというわけですね。

現在37歳のタマラは、まだバレリーナとして全盛であるため、ENBの芸術監督に就任しても、ENBのプリンシパルとして活動するとのことですが、ロイヤル・バレエで彼女を観られなくなるのはとても残念ですね。

追記:Guardianの記事
http://www.guardian.co.uk/stage/2012/apr/13/tamara-rojo-english-national-ballet?fb=native&CMP=FBCNETTXT9038
成功できるかどうかは誰も保証できないけれども、タマラは様々な困難な状況と戦う強さを持っているに違いない、と結んでいます。

このBallet Newsのインタビューも非常に興味深いです。
http://balletnews.co.uk/english-national-ballet-announces-tamara-rojo-as-its-new-artistic-director/

さらに追記:イングリッシュ・ナショナル・バレエからのプレスリリースです。
http://www.dancetabs.com/2012/04/tamara-rojo-is-the-new-english-national-ballet-artistic-director/
芸術監督への就任は2012年9月となるとのことで、バレエ団のダンサーとして踊り続けることも書かれています。

ロイヤル・オペラハウスからの、タマラ・ロホ退団についてのプレスリリース
http://www.roh.org.uk/news/tamara-rojo-to-leave-the-royal-ballet
今シーズン限りでのタマラ・ロホの退団を知らせています。今シーズン予定されている彼女の出演は予定通り行われるとのことです。モニカ・メイソン芸術監督のコメントもあり、12年間のタマラの功績を讃えています。

Dance Tabs(旧Ballet.co)のインタビュー
http://www.dancetabs.com/2012/04/tamara-rojo-artistic-director-designate-english-national-ballet/

タマラは、バレエ芸術によって与えられた贈り物、それは芸術監督、教師などの寛大な人々によって惜しみなく与えられた、長年の知恵を、他の人々にも返礼として贈りたいと思った、それは、バレエカンパニーの芸術監督となってダンサーの成長を助け、彼らの夢を実現する手助けをすることで実現できると思ったそうです。そしてこの芸術をより幅広い人々に手に入るようにして、芸術が人々に喜びをもたらす様を見たいと考えたとのことです。踊り続ける意欲は満々で、多くの時間をスタジオで過ごしたいと考えているそうです。新しい変化は怖いところもあるし、ロイヤルでの好待遇やキャリアを捨てることになるけれども、バレエにとってポジティブなことが本当にできると信じており、それができるということは、自分自身のことよりずっと大事なことだと信念を持っているとのこと。

信念を持って芸術監督業という未知の領域に挑む彼女の手腕に期待したいところですね。

さらに追記:このObserverのタマラ・ロホのインタビューが、大変興味深いです。
http://www.guardian.co.uk/theobserver/2012/apr/15/observer-profile-tamara-rojo-english-national-ballet
今までの人生でサインを求めたことは2回しかなくて、それは10歳の時に、舞台で全裸になったマッツ・エックと、13歳の時に、リハーサル中で怒っていたシルヴィ・ギエムにという逸話が面白いです。また、ロイヤル・バレエの芸術監督の募集に応募したもののケヴィン・オヘアに敗れたことも書いてあります。また、ミハイル・バリシニコフ、ルドルフ・ヌレエフ、ペーター・シャウフスなど、踊る芸術監督に多くのインスピレーションを得ていることも語り、芸術監督就任後に自らも踊り続けることに対する懸念を一蹴しています。

2012/04/12

アーセナルの選手がシトロエンのCMでENBのバレリーナとバレエを!Arsenal players perform ballet for New Citroën DS5

ちょっと前から話題になっていたこのシトロエンのCMですが、日本語の記事も出たのでご紹介します。

http://www.advertimes.com/adobata/article/6451/www.mif-design.com/blog/2012/04/11-081958.php/

サッカー、イングランドプレミアリーグのアーセナルに所属する4選手が、イングリッシュ・ナショナル・バレエのバレリーナたちとバレエを踊るという趣向のCMです。参加している選手は、アレクサンドル・ソング(Alex Song)選手、ヴォイチェフ・シュチェスニー(Wojciech Szczęsny)選手、アレックス・チェンバレン(Alex Oxlade-Chamberlain)選手、バカリ・サニャ(Bacary Sagna)選手。

最初のうちはぎこちない選手たちですが、持ち前の身体能力に加え(バーレッスンのリンバリングではさすがの柔軟性を発揮)、練習の成果があってか、白鳥の湖の群舞の衣装を着たバレリーナたちを軽々とリフトしたり、サポートできるようになっていて、ちゃんと王子らしい振る舞いもできるようになっているのはさすが。ここまで踊れるようになるのにどれくらい特訓したのかな、かなり真剣に取り組んだに違いないと思います。バレエダンサーが一流のアスリートと同じくらいの身体能力が必要であるということを示しているということで、なかなかこのCMは良いんじゃないかと思います。

アーセナルのオフィシャルサイトにもプレスリリースが出ていますね。
http://www.arsenal.com/usa/sh/news/news-archive/citroen-ballet?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+gunners-usa-news+(USA+News)

このリリースによれば、わずか半日の撮影だったそうで、それだけの短期間でこれくらいできるというのは、やっぱりアーセナルの選手ってすごいんだって思います。アーセナルのオフィシャルFacebookでは、後日メイキング映像も配信するそうなので、それもちょっと楽しみです。

ハンブルク・バレエの2012/13シーズン発表 Hamburg Ballet's 2012/13 Season Announced

ハンブルク・バレエの2012/13シーズンが発表されました。

http://www.hamburgballett.de/e/spielplan_12_13.htm

新レパートリーとしては、クランコ振付の「オネーギン」があります。なんだか「オネーギン」は名作とはいえ、世界中のカンパニーで上演されすぎですね・・・。


また、シーズンパンフレットのPDFを見ると、アリーナ・コジョカルがまたゲストプリンシパルとして出演するとのことで、「リリオム」はまた彼女が主演するものと思われます。
http://www.hamburgballett.de/form/vorschau_12_13.pdf

<カンパニー初演> 
「オネーギン」(ジョン・クランコ振付)12月2日~16日

<リバイバル上演>
「ニジンスキー・エピローグ」(「アルミードの館」「春の祭典(ノイマイヤー版)」)9月16日~、6月16日

「プレリュードCV」1月8日~、6月29日

「ロミオとジュリエット」4月11日~、6月14日

「Shakespeare Scenes」(「ハムレット」「オテロ」「ヴィヴァルディ」「お気に召すまま」などノイマイヤーのシェイクスピア作品の名場面集)6月9日、28日

<レパートリー上演>
「リリオム」9月26日~、12月31日~、6月25日

「椿姫」10月3日~、5月3日~、6月13日

「人魚姫」10月7日~、11月2日、6月27日~

「ショパン・ダンス」(ダンシズ・アット・ア・ギャザリング/コンサート ロビンス振付)11月12日、14日、16日

「幻想~白鳥の湖のように」12月20日、6月22日

「ヴェニスに死す」1月16日、18日、3月26日、28日、6月26日

「真夏の夜の夢」3月1日~、6月23日

「マーラー交響曲10番(Purgatorio)」3月16日~、4月5日、6月20日

「マタイ受難曲」3月29日、31日

「ニジンスキー」4月26日~、6月16日

「マーラー交響曲3番」5月20日~、6月15日

「Gala for Piano, Voice and Dance」(ヴァスラフ、 Kinderszenen、Rückert-Lieder) 6月22日

「ニジンスキー・ガラ」6月30日

<ゲストカンパニー>
ミュンヘン・バレエ(バイエルン州立バレエ)6月11日、12日
モンテカルロ・バレエ 6月18日、19日

<ツアー>
ブリスベン 8月26日~9月5日 「真夏の夜の夢」「ニジンスキー」
バーデンバーデン 10月12日~14日 「リリオム」(アリーナ・コジョカルが客演)
サンクトペテルブルク 11月6日、7日 「椿姫」
シカゴ 2月1日、2日 「ニジンスキー」
カリフォルニア州 コスタ・メサ 2月7日~9日 「人魚姫」
サンフランシスコ 2月13日~19日 「ニジンスキー」
エッセン 3月17日 「Gala for Piano, Voice and Dance」

予想されていたことですが、2013年は来日公演はなし、アメリカの3箇所で公演があります。こうやって書き出してみると、今シーズンはノイマイヤー振付による新作はないものの、上演演目の多さではこのカンパニー以上に多いところはないのではないかと思われます。


恒例の6月に開催されるバレエ週間は、日替わりで様々な演目が上演されますので、カレンダーを見たほうがわかりやすいかと思います。
http://www.hamburgballett.de/e/kalender_12_13.htm

9 Shakespeare Scenes
11-12 ゲストカンパニー ミュンヘン・バレエ
13 椿姫
14 ロミオとジュリエット
15 マーラー交響曲第三番
16 (マチネ)ニジンスキー/(ソワレ)Nijinsky Epilogue
17 マタイ受難曲
18 マタイ受難曲 (ミヒャエル教会にて)、
ゲストカンパニー モンテカルロ・バレエ
19 マタイ受難曲 (ミヒャエル教会にて)、
ゲストカンパニー モンテカルロ・バレエ
20 プルガトリオ (マーラー交響曲10番)
21 幻想-白鳥の湖のように
22 Gala for Piano, Voice and Dance
  (Vaslav/KinderScenes/Rückert Lieder)
23 真夏の夜の夢
24 ハンブルク・バレエ学校の公演
25 リリオム
26 ヴェニスに死す
27 人魚姫
28 Shakespeare Scenes
29 プレリュード CV
30 ニジンスキーガラ

ベルリン国立バレエの2012/13シーズン Staatsballetts Berlin's 2012/13 Season

ベルリン国立バレエの2012/13シーズンも発表されていましたので、ご紹介します。発表されているのはわかったのですが、非常にわかりづらい表記となっており、結局のところPDF形式のシーズンパンフレットを見るしかない、という感じです。

http://www.staatsballett-berlin.de/de_DE/service/publication
から、PDFダウンロードのリンクをクリック。
http://staatsballettberlin.files.wordpress.com/2012/04/sbb-jahresvorschau_2012-2013.pdf

「ラ・バヤデール」(マラーホフ振付) 10月26日~
「チャイコフスキー」(エイフマン振付) 1月27日~、4月24日~
「ニーベルングの指環」(ベジャール振付) 3月28日~
「オネーギン」(クランコ振付) 9月21日~、10月27日~
「The Open Square」(ガリリ振付)、9月29日~
「ペール・ギュント」(シュペルリ振付)、10月13日~、1月1日~、2月3日~
「ラ・ペリ」(マラーホフ振付)11月17日~、1月5日~、3月30日
「ロミオとジュリエット」(クランコ振付)11月24日~
「ARCANGELO」(デュアト振付)、「ヘルマン・シュメルマン」(フォーサイス振付)、未定(ゲッケ振付) 12月13日~、6月27日、29日
「オズの魔法使い」(Giorgio Madia振付)、1月15日~、2月15日、3月7日~、4月11日~、6月19日~
「白鳥の湖」(バール振付) 2月12日~、2月26日~
「カラヴァッジオ」(ビゴンゼッティ振付) 3月15日~
「(子供のための)眠れる森の美女」(Kathlyn Pope振付)9月1日~
「バレエ・リュスの夕べ」2月19日、21日

このシーズンにおける新上演はなく、最近ドイツの新聞でマラーホフの芸術監督としての資質に疑問を呈する記事がいくつか出ているのも納得できてしまうようなラインアップです。(曰く、新しい振付家を発掘できていない、ポリーナ・セミオノワに取って代わるスターがいない等等、カンパニーが危機を迎えているという記事です。http://www.berliner-zeitung.de/kultur/kulturpolitik-das-berliner-staatsballett-ist-ein-scherbenhaufen,10809150,11945808,item,0.html
また、シーズンダンサー一覧を見ていると、ポリーナ・セミオノワがゲストプリンシパルとしても名前が載っていません。


2012/04/10

サンフランシスコ・バレエの2013シーズン発表 San Francisco Ballet Announces 2013 Repertory Season

サンフランシスコ・バレエが2013シーズンを発表しました。

(まだオフィシャルには載っていませんが、ファンサイトにてプレスリリースが発表されています →追記:公式サイトにも載りました。http://www.sfballet.org/tickets/2013_season_announcement
http://odettesordeal.com/2012/04/09/san-francisco-ballet-announces-stunning-2013-repertory-season/

目玉としては、クリストファー・ウィールダンの新作「シンデレラ」(オランダ国立バレエとの共同制作、北米初演)、ジョン・ノイマイヤー「ニジンスキー」の北カリフォルニアでの初演(ハンブルク・バレエがゲストカンパニーとして上演)、セルジュ・リファールの「白の組曲」のサンフランシスコ・バレエでの初演、またウェイン・マクレガー、ユーリ・ポソホフ、アレクセイ・ラトマンスキーの世界初演新作と盛りだくさんです。

「くるみ割り人形」 12月7日~28日(2012)

オープニング・ガラ 1月24日(2013)

プログラム1 1月29日~
「白の組曲」(セルジュ・リファール)、「イン・ザ・ナイト」(ジェローム・ロビンス)、ウェイン・マクレガーの新作
Lifar’s Suite en Blanc, Robbins’ In the Night, and a new work by Wayne McGregor

プログラム2 2月13日~
ハンブルク・バレエ「ニジンスキー」(ジョン・ノイマイヤー)
Neumeier’s Nijinsky, performed by Hamburg Ballet

プログラム3 2月26日~
「Beaux」(マーク・モリス)、未定、「Guide to Strange Places」(アシュレー・ペイジ)
Morris’ Beaux, a work to be announced, and Page’s Guide to Strange Places

プログラム4 3月1日~
「スコッチ・シンフォニー」(ジョージ・バランシン)、アレクセイ・ラトマンスキーの新作、「Within the Golden Hour」(クリストファー・ウィールダン)
Balanchine’s Scotch Symphony, a new work by Ratmansky, and Wheeldon’s Within the Golden Hour.

プログラム5 3月21日~
「オネーギン」(ジョン・クランコ)
Cranko’s Onegin

プログラム6 4月9日~
「ライモンダ 第三幕」(ルドルフ・ヌレエフ)、ユーリ・ポソホフの新作、「Symphonic Dances」(エドワード・リアン)
Nureyev’s Raymonda Act III, a new work by Possokhov, and Liang’s Symphonic Dances

プログラム7 4月11日~
「Criss-Cross」(ヘルギ・トマソン)、「フランチェスカ・ダ・リミニ」(ユーリ・ポソホフ)、「シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ」(ジョージ・バランシン
Tomasson’s Criss-Cross, Possokhov’s Francesca da Rimini, and Balanchine’s Symphony in Three Movements.

プログラム8 5月3日~
「シンデレラ」(クリストファー・ウィールダンの新作)
Christopher Wheeldon’s Cinderella

いわゆる古典は「くるみ割り人形」と「ライモンダ 第三幕」しかありませんが、全幕物語バレエあり、バランシン作品、そしてウィールダン、ラトマンスキー、マクレガーなど現代作品の新作ありと充実したラインアップです。


ちなみに、ハンブルク・バレエは、2013年2月 8–10日には、オレンジ・カウンティのSegerstrom Center for the Artsにて「人魚姫」を上演します。
http://www.scfta.org/home/Content/ContentDisplay.aspx?NavID=993


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2012/04/08

SWAN MAGAZINE Vol.27 2012 春号

SWAN MAGAZINE 2012 春号が発売になりました。

巻頭の連載「エトワールに夢中!」は1月末~2月に「エトワール フランスバレエのエレガンス」で来日もしたイザベル・シアラヴォアラ。舞台写真で見せるクールビューティぶりとはうって変わった笑顔の写真からは、人柄の良さが伝わってきます。彼女は身長が166cmで、腸骨(腰の上)までで実際に測ってみて107cmと、本当に脚が長いんですね。ドラマティック・バレエでの表現力に定評のある彼女が楽しみにしているのは4月末から上演される「マノン」。そして20年以上のキャリアの中で、思い出深い作品としては、「ラ・シルフィード」、エルヴェ・モローと踊ったノイマイヤーの「マーラー第三交響曲」、そしてローラン・プティの作品を挙げています。「エルヴェの引退は本当に辛いわ」と語っています。「オネーギン」、「椿姫」そして「ジゼル」などの美しい舞台写真もたくさん載っています。

特集は「シンデレラ」で、K-Ballet Company、谷桃子バレエ団、パリ・オペラ座バレエ、そして新国立劇場バレエ団の「シンデレラ」が紹介されています。自ら新しい「シンデレラ」を振りつけた熊川哲也さんのスペシャルインタビューも載っており、K-Ballet Companyはさすがに衣装や舞台装置がゴージャスなのがよくわかりますね。「シンデレラ」というバレエ作品の歴史についても解説されています。プロコフィエフが曲を完成させたのが1944年、初演は1945年、ザハーロフの演出によるボリショイ劇場の上演で(主演ガリーナ・ウラーノワ)、日本での初演は1951年に貝谷バレエ団による貝谷八百子振付作品なのだそうです。

公演紹介は、レニングラード国立バレエ(ミハイロフスキーバレエ)の新春公演(吉田都さんのライモンダほか新春ガラ、「海賊」、「白鳥の湖」)。注目されるのは、2010年に入団したばかりのヴィクトル・レベデフで、私が観た新春ガラでも活躍していましたが、「白鳥の湖」の王子役や「海賊」のアリ役で頭角を現しているそうです。ワガノワ出身で卒業公演では、ボリショイに入団して注目されているオルガ・スミルノワと共演。なぜマリインスキーに入団しなかったのか、と思われるほどの期待の新星のようです。ルックスも甘くて人気が出るかもしれませんね。しかしながら、今年の夏も、そしておそらくは年末年始もミハイロフスキー・バレエは来日しなさそうなのが残念です。

また、「エトワール フランス・バレエのエレガンス」の公演レビュー、そしてパリ・オペラ座の「オネーギン」のレビューも写真入りで紹介。「エトワール」での「マノン」の写真では、マチュー・ガニオの美しいアラベスク、ドロテ・ジルベールとの甘い雰囲気がとても素敵です。また、「オネーギン」では、ダンスマガジンがジェラール・マノニのいい加減なレビューをそのまま転載して日本人レポーターによる取材がなかったのに、こちらではきちんとライターが公演を観て紹介しているのが好感が持てます。Michel Lidvac撮影によるイザベル・シアラヴォアラのタチヤーナがうっとりするほど美しいのと、オーレリー・デュポンとエヴァン・マッキー(シュツットガルト・バレエから客演)の舞台がちゃんとレビューされているのが嬉しいです。

ローザンヌ国際コンクールで1位を獲得した菅井円加さんのロングインタビューも読み応えがあります。

「SWAN―モスクワ編」では、リリアナの急逝を通して、真澄とレオンの心が寄り添ってきます。真澄がレオンの子供時代の話を初めて聞き、彼の心の痛みを感じてきます。しかしながら、「アグリー・ダック」の公演を控えてレオンが怪我をしていたことが発覚、真澄とレオンが果たして「アグリー・ダック」に出演するのができるのか、とスリリングにストーリーが展開していきます。次号は6月発売予定と、季刊誌なのですが少し早めに発行されるので、次の展開を待たされる期間がちょっとだけ短くなりますね。

SWAN MAGAZINE 2012春号SWAN MAGAZINE 2012春号
有吉 京子ほか

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2012/04/05

アンヘル・コレーラが今年のMETシーズンでABTを引退 Ángel Corella to Retire From American Ballet Theater

ABTのプリンシパルとして活躍してきたアンヘル・コレーラが、自ら率いるバルセロナ・バレエ(旧コレーラ・バレエ)での活動に専念するため、ABTを今年夏のMETシーズンを最後に引退することが発表されました。

http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2012/04/04/angel-corella-to-retire-from-american-ballet-theater/?src=tp

アンヘルのABTさよなら公演は、METで行われる6月28日の「白鳥の湖」で、パートナーはパロマ・ヘレーラが務める予定です。
ABTの出演予定
では、7月の「海賊」も含まれていますが、これは降板ということになるのでしょうか?
→追記:いましがた、キャスト変更があり、アンヘルが踊る予定だった「海賊」のアリはイワン・ワシーリエフが代役として入っていました。
http://www.abt.org/calendar.aspx?startdate=7/1/2012

アンヘル・コレーラは1995年にABTにソリストとして入団し、翌96年にはプリンシパルに昇格。2000年にはブノワ賞を受賞。2008年に故国スペインにてコレーラ・バレエを設立するまでは、ABTの看板ダンサーとして大活躍をしてきました。私もMETで、そして日本で彼の公演を何回も観ていて、その度にそのチャーミングな笑顔とテクニック、明るさとサービス精神に魅了されてきました。コレーラ・バレエの設立後はABTに出演する頻度は下がったものの、引き続き活躍を続けていたので、ABTを去ると聞いて寂しさを感じずにはいられません。本当に、今までありがとう。

なお、アンヘルは引き続きバレエ・バルセロナにて芸術監督業とともにダンサーとしても活動する予定です。バレエ・バルセロナは4月には、ニューヨークのシティセンターとデトロイトにて公演を行い、アンヘルも出演します。(ちなみに、バーミンガム・ロイヤル・バレエのソリストとして活躍してきた平田桃子さんが、現在バレエ・バルセロナのプリンシパルとして活躍中です)

それにしても、DVD「素顔のスターダンサーたち」に出演していたウラジーミル・マラーホフ、イーサン・スティーフェル、ホセ・カレーニョ、アンヘル・コレーラの4人のうち、すでにマラーホフとカレーニョが去り、さらに今年スティーフェルとアンヘル・コレーラが去ってしまうことになるとは、ABTの一つの時代が終わってしまったということを感じずにはいられません。綺羅星の如きスター軍団だったABTも、大きな曲がり角を迎えていますね。

4月17日~20日 ニューヨーク、シティセンター
Bruch Violin Concerto、For 4(ウィールダン振付)、Pálpito
http://www.nycitycenter.org/tickets/productionNew.aspx?performanceNumber=6429

4月27日~29日
Detroit Opera House
Swan Lake

バルセロナ・バレエのNY公演のプロモーション・ビデオ(アンヘルの解説つき)


アメリカン・バレエ・シアター「素顔のスターダンサーたち」Born To Be Wild [DVD]アメリカン・バレエ・シアター「素顔のスターダンサーたち」Born To Be Wild [DVD]

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