「バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史」
バレエとダンスの歴史―欧米劇場舞踊史
編著: 鈴木晶
出版社/メーカー: 平凡社
発売日: 2012/03/16
第一部 バレエ
第一章 バレエの起源 市瀬陽子
第二章 バレエ・ダクシオンの誕生 森 立子
第三章 19世紀のバレエ 鈴木 晶
第四章 バレエ・リュス 鈴木 晶
第五章 20世紀ロシア・バレエ 赤尾雄人
第六章 現代のバレエ 海野 敏
第二部 ダンス
第一章 アメリカのモダンダンス 武藤大祐
第二章 ポストモダンダンス 外山紀久子
第三章 ドイツのダンス 副島博彦
第四章 フランスのダンス 安田 靜
第五章 コンテンポラリーダンス 貫成人
日本語での、バレエおよびダンス(劇場舞踊に限定し、エンターテインメントやショーダンスは除く)の歴史を網羅する本というのがあるようでないのが現状だった。本書は大学で舞踊史を学ぶ学生に向けての教科書的な位置づけの書籍であり、これ一冊を読めば、ルネッサンスから現代までのバレエ、および20世紀初頭から現代までのダンスの歴史の流れが一通りわかるようになっている。巻末の参考文献リストが大変便利であり、この本を読んで一連の歴史の流れをつかんだあと、参考文献で興味のある分野についてさらに理解を深めていくのが、本書の正しい使い方なのだと思う。
バレエについて興味を持った人なら、バレエを広めたのが太陽王ルイ14世であり、その後ロマンティック・バレエがフランスで勃興し、パリ・オペラ座が社交の場となってしまい衰退するとロシアへと主な舞台が移り、バレエ・リュスでバレエ界のみならず芸術全体に一大革命が起きてバレエがフランス、イギリス、そしてアメリカへと広がって現代に至る、という流れは把握しているのではないかと思う。
しかしながら、例えば実際にバレエらしきものが始まったのはルネッサンス、メディチ家での「詩、音楽、舞踊の調和」を目指したインテルメディオの舞踊において、最初の舞踊理論書が書かれたことは、知っている人はあまりいないのではないだろうか。第2章では、筋書きのある物語バレエとしての「バレエ・ダクシオン」について書かれていて、フランス古典悲劇の「三統一の規則(場所の統一、時の統一、筋の統一」にバレエがどこまで従うべきかの話が、ノヴェールの有名な「舞踊とバレエについての手紙」(1760)で書かれていることを知ることができる。バレエを観ている人なら、必ずしも古典バレエ作品がこの原則に縛られるものではないことは認識していると思うが、すでにこの段階で、柔軟な姿勢をノヴェールは示している。ただし、「構想の統一」は必要だと。
第3章では、バレエの商業化、大衆化、そしてポワント技法の登場、そしてスターバレリーナの誕生について書かれている。第4章「バレエ・リュス」では、バレエ・リュスの全作品リストがついているのがとても便利だ。第5章「20世紀ロシア・バレエ」では、ロシア革命前後から現在に至るまでのロシア・バレエの系譜。
そして第6章「現代のバレエ」では、バレエ振付家の系譜が大変わかりやすい。
1.バレエ・リュスの参加者(フォーキン、ニジンスキー、ニジンスカ、リファール、マシーン、バランシン、ランベール、ヴァロワ)
2.バレエ・リュスにつながる振付家(アシュトン、チューダー、プティ、ロビンス、マクミラン、クランコ、ビントレー)
3.クランコの僚友とその後継者(クランコ、ライト、マクミラン、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス、ハイデ、ドゥアト、マイヨー)
4.ドイツ表現主義舞踊とその後継者(ラバン、ヨース、クルベリ、ベジャール、エック、バウシュ、ドゥアト)
5.ソ連、ロシア圏の振付家(ゴルスキー、ロブホープ、ゴレイゾフスキー、ブルメイステル、ラヴロフスキー、セルゲエフ、グリゴローヴィチ、エイフマン)
この章では2~4まで解説されている。
一方、第二部、ダンスについては、特に第1章「アメリカのモダンダンス」第2章「ポストモダンダンス」と知らないことばかり書いてあり、頭をひねりながらも大変ワクワクしながら読み進めることができた。第1章はイザドラ・ダンカン、マーサ・グラハムを中心に、ペニントン舞踊学校の果たした役割など、そして第2章は1960年代~70年代のニューヨークを中心とするアヴァンギャルド舞踊としての「ポストモダンダンス」、カニンガム、ケージ、フォルティ、ハルプリンなど。新しく知ることばかりだったので大変面白い。
また、第3章「ドイツのダンス」は、リトミックに始まってラバン、ヴィクマン、シュレンマー、ヨース、そしてピナ・バウシュのタンツテアターへとたどる系譜について。特にダンスとナチズムの関係は大変興味深い。第4章のフランスのダンスは、いわゆるヌーヴェルダンス、そして国の文化制作により各地に設立された国立振付センター(CCN)の存在の大きさに学ぶところが大きい。第5章の「コンテンポラリーダンス」は、現在に至るまでの世界各地の状況と、グローバル化、ネットワーク化という現代の私たちにとって欠かせない視点で、ダンスを読み解いている。
巻末の参考文献、そして舞踊史年表は大変貴重な資料で、さらに知識を深めたい場合の大きな指針になる。
専門書ではあるが、コンパクトなボリュームで図版も多数、全体的には読みやすい文体となっているので、バレエ・ダンスの歴史を知るには、まずはこの一冊を手に取ることをおすすめしたい。
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