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2012/04/21

ハンブルク・バレエ「ヴェニスに死す」DVD Tod in Venedig: By John Neumeier Hamburg Ballet

2003年に初演され、2004年にバーデンバーデン祝祭劇場で上演されarteで収録されて放映されたノイマイヤーの作品のDVD化。実は放映されたものは以前観ていたのだけど、それから実に8年後のDVD化となった。ハンブルク・バレエの映像作品は近年のものは珍しいので貴重。

トーマス・マンの原作「ヴェニスに死す」、その原作を映画化したヴィスコンティの「ヴェニスに死す」をベースにしながらも、主人公アッシェンバッハを振付家という設定に変更し自由な翻案を加えた作品となっている。DVDに封入された冊子によれば、振付家はセルジュ・リファールをイメージした人物設定となっているとのこと。

8年が経過してしまったということで、今は所属していなかったり、引退してしまった出演者も多い。アッシェンバッハのアシスタント、愛情あふれるアッシェンバッハの母、そしてグラマラスなタッジオの母を同一のバレリーナ、ラウラ・カッツァニガが好演しているが、残念ながら彼女は引退してしまっている。さらに移籍してしまったイリ・ブベニチェクが、双子の兄弟オットーと共に妖しげなキャラクターとして姿を変えながら登場して、アッシェンバッハを惑わす。ある時はヴェニスへのゴンドラの船頭として、ある時は同性愛的な雰囲気がむんむんするカップルとして、ある時にはジーン・シモンズを思わせるメイクを施したロックミュージシャンとして、さらにある時にはアッシェンバッハに化粧を施すふたりの美容師として、鮮烈な印象を残している。また、タッジオの友人たちの一人として服部有吉さんが素晴らしい身体能力を発揮。群舞の中にも、ティアゴ・ボァディン、カーステン・ユングなど主力のダンサーが出演していて、なんとも豪華なキャストで充実期にあったカンパニーの姿を見ることができる。コール・ドの使い方ひとつとっても、独特のパ・ド・トロワの組み方にしても、ノイマイヤーの振付家としての華麗な手腕を堪能できる。

なんといっても圧倒的だったのが、アッシェンバッハ役のロイド・リギンス。大振付家としての威厳を持った姿で登場し、ブルノンヴィル仕込みの足先の鮮やかな踊りと共にカリスマ性とエレガンスを持っていたのが、振付作品「フリードリッヒ大王」の作品創作に行き詰まり、作品から飛び出た登場人物たちに苛まれ、ヴェニスへと導かれる。光り輝く美しい少年タッジオ、そして周りの少年たちの眩しい姿に自らの老いを実感していたたまれなくなる。エロティックな宴に迷い込み、若作りのためにグロテスクな化粧を施してタッジオの前に現れるも、思いっきり引かれる姿の哀しいことよ。とても冒頭の堂々とした巨匠と同じ人とは思えない。抱いてしまった煩悩のために、自ら手がけていた「フリードリッヒ大王」の創作にもとうとう挫折する。手を伸ばしても届かないタッジオへの憧れ、それはとても純粋で性愛とは無縁のものだと思われるだけに、より一層悲哀を感じさせた。若さ、美しさの象徴を手に入れることなく死んでいった彼は、しかしながらそこで死を得られたことで幸せだったのかもしれない。(そういえば、ディアギレフもまたヴェニスで死んだのであった)リギンスは「人魚姫」でも詩人役で素晴らしい演技をしているけれども、このアッシェンバッハ役は一世一代の名演といってもいいだろう。

タッジオ役のエドヴィン・レヴァツォフは金髪の輝くような美青年で、無邪気な演技もよく似合っている。この役を演じるには少々大柄すぎて大人っぽすぎて、8年前のこの時点ですら、ちょっと不自然に思えるところもあったが、若さと生の輝きを体現することには成功している。28歳の今もまだこの役を演じているということなのだが、今だとどう演じているのだろう。アッシェンバッハが振りつけた美しい愛のパ・ド・ドゥを踊る「コンセプト」役のシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコは、いつもながらパートナーシップが見事で息を呑むほどの美を体現してくれる。またアッシェンバッハを精神的に追い込んでいくフリードリッヒ大王役のイヴァン・ウルバンもさすがの存在感。

ノイマイヤーの演出は、一つには通奏低音としてアッシェンバッハの振付作品にはバッハを用い、要所要所にはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」などのピアノ版を使っているところに大きな意味が感じられる。中でも、名ピアニスト、エリザベス・クーパーが舞台上で奏でるワーグナーが美しく、愛と死のドラマを静謐な中にも高らかに歌い上げている。原作者のトーマス・マン自身が、ヴェニス滞在中にリヒャルト・ワーグナーについてのエッセーを手がけていたという事実も興味深い。自らの創造した作品の登場人物が自分の意思を持って、創造主を追い込んでいくというコンセプトも、入れ子構造を好むノイマイヤーらしいものである。

その静謐で洗練された世界観を打ち破るのが、後半のデュオニッソスの夢のシーンと「死のダンス」のシーン。デュオニッソスに扮したイリとオットーが葡萄の房でアッシェンバッハを責め立て、そして「死のダンス」ではホテルのロビーに乱入したミュージシャン(ジーン・シモンズそっくりのメイクをしたイリとオットー)がイングヴェイ・マルムスティ-ンのハードロックを奏で、宿泊客の多くが熱に倒れて死んでしまうという場面だ。ヴェニスの上流社交界の裏面というか、猥雑でバッドテイストとも言える演出が大きなアクセントとなっている。そしてイリとオットーの妖しげな二人が繰り広げるめくるめく官能の世界。このシーンが、「ヴェニスに死す」という作品のただものではない部分を確立したといっていいだろう。

というわけで、大変面白く観ることができた作品だが、唯一残念なのが、8年前の収録ということもあり、最近発売された作品の割にはやや画質が悪いことである。悪いといっても、私の目がブルーレイのハイビジョン収録を大画面で観ることに慣れすぎたからなのかもしれず、これくらいの映像で観られることに感謝しなければならないのだが。

特典映像(英語、フランス語字幕付き)としてノイマイヤーのインタビューやリハーサルシーン60分がついている。リージョンオールなので普通のDVDプレイヤーで再生可能。

Tod in Venedig (Death in Venice) A Dance of Death by John Neumeier
based on the novella by Thomas Mann

Music
Johann Sebastian Bach
    Richard Wagner
Choreography
Staging
John Neumeier
Set
Peter Schmidt
Costumes
John Neumeier
    Peter Schmidt
Lighting Concept
John Neumeier

World Premiere
The Hamburg Ballet, Hamburg, December 7, 2003

Gustav von Aschenbach Lloyd Riggins
his assistant – his mother - Tadzio's mother Laura Cazzaniga
Tadzio Edvin Revazov
Frederick the Great Ivan Urban
La Barbarina Hélène Bouchet
Aschenbach's Concepts Silvia Azzoni Alexandre Riabko
The Wanderer the Gondolier a Dance Couple Dionysos the Hairdresser the Guitar Player
Jirí Bubenícek Otto Bubenícek
A young Aschenbach Konstantin Tselikov
Jaschu, Tadzio's friend Arsen Megrabian


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