4/24 ウィーン国立バレエ団<ウィンナー・ガラ> Wiener Staatsoper "Wiener Gala"
ウィーン国立バレエ団 2012年日本公演
http://www.nbs.or.jp/stages/1205_wienerstaatsballett/index.html
終演が10時15分頃、フィーナーレとカーテンコールをいれると10時25分頃まで続いた、休憩込みで4時間近い長丁場。それも純クラシックの作品が「ライモンダ」のみで現代作品中心のガラであったが、現代作品も多彩な作品群で大変趣味が良く、ダンサーの平均レベルも高くて楽しめた。普通のガラの1.5倍くらいのお得感があったと思う。さらにルグリ自身の素晴らしい踊りまで楽しめたのだから、大満足であった。
< ウィンナー・ガラ >
「バッハ組曲第3番」Bach SuiteIII
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
マリア・ヤコヴレワ ‐ ロマン・ラツィク
橋本清香 ‐ ミハイル・ソスノフスキー
マルタ・ドラスティコワ ‐ アレクサンドル・トカチェンコ
アリーチェ・フィレンツェ ‐ ドゥミトル・タラン
澤井怜奈 ‐ ダヴィデ・ダト
ノイマイヤー振付(1981年作品)によるシンフォニック・バレエ。2組のペアを中心としたアブストラクトな作品であったが、音楽との親和性が高くて目に快い振付。中心ペアであるマリア・ヤコブレワとロマン・ラツィクはストーリーのないところにも叙情性と少しのドラマ性を持ち込んでとても素敵で、「G線上のアリア」に合わせた二人のパ・ド・ドゥは思わず息を詰めて見入ってしまった。第一のペアを踊った橋本清香さんも美しくて、やはり存在感の強いソスノフスキーと共に惹きつけられた。
「アンナ・カレーニナ」より パ・ド・ドゥ Pas de Duex from Anna Karenina
振付:ボリス・エイフマン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アンナ:イリーナ・ツィンバル カレーニン:エノ・ペシ
新国立劇場バレエ団でこの作品は観たばかり。カレーニンとアンナの1幕のパ・ド・ドゥ。カレーニン役のエノ・ペシがとても迫力のあってドラマを感じさせる、怒りのこもったソロを踊り、そこへ白いドレスを翻したアンナ役イリーナ・ツィンバルがやってくる。イリーナ・ツィンバルはそんなに大きなダンサーではないので、エイフマン・バレエのダンサーたちによるパ・ド・ドゥほどダイナミックさはなかったけど、それでも超絶技巧のリフトを多用した踊りは見ごたえたっぷりで、片手リフトもきれいに決まった。エイフマンの振付ってともすれば”やり過ぎ感”が強いのだが、彼らで観るとそのトゥーマッチな感じが少し中和されてちょうどいい感じ。ツィンバルはシュツットガルト・バレエの50周年記念ガラではロバート・テューズリーと「マイヤリング」を踊ったのを観たのだけど、あの時もドラマティックな役柄がとてもはまっていた。
「マリー・アントワネット」より Marie Antoinette
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:ジャン=フィリップ・ラモー、ルイ・ミゲル・コボ、アントニオ・ヴィヴァルディ
マリー・アントワネット:オルガ・エシナ
ルイ16世:ロマン・ラツィク
運命:キリル・クルラーエフ
冒頭に赤いコートを来た”運命”役のキリル・クルラーエフがソロを踊り、これがすごく悪魔的で妖しくカッコいい。このパ・ド・ドゥは前にもルグリ・ガラでルテステュとバナが踊っているのを観たけれども、やはり演じる人が違うとだいぶ違って見える。オルガ・エシナはルテステュよりもずっと繊細な感じだ。そしてラツィクも、ぼんぼんなイメージでルイ16世によく合っている。あまり評判は良くない作品だけど、ラモーのバロック音楽といい、雰囲気があって決して嫌いではない。ギロチンの音で終わるラストは少々ベタすぎるが。衣装は前回のシースルーの方が良かった。なんで変えてしまったのだろう。(そしてブノワ賞ノミネートおめでとうございます)
「スキュー ‐ ウィフ」 Skew-Whiff
振付・衣裳:ポール・ライトフット、ソル・レオン 音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ
イオアナ・アヴラム、ミハイル・ソスノフスキー、デニス・チェリェヴィチコ、マーチン・デンプス
これは最高に楽しかった!ロッシーニの「泥棒かささぎ」に乗せて、男性3人が登場。クネクネしたり痙攣するところも入れた動きなのだけど、お互いの身体とのタイミング合わせ方とアップテンポの音楽とのマッチの仕方が素晴らしくて、”間”の面白さを実感。みんな体がキレキレに動いている。振付のポール・ライトフットは現在NDTの芸術監督なので、ちょっとキリアンっぽさも感じさせる。途中で女性ダンサー、イオアナ・アヴラムが登場するけど彼女は身体能力が素晴らしい。そしてラスト近くの、デニス・チェリェヴィチコのグランジュッテの美しさに目を見張った。
(これはNDTIIで踊られたライトフット作品を含む3作品の映像。「スキューワイフ」は3分54秒から。
「グロウ ‐ ストップ」 GLOW-STOP
振付:ヨルマ・エロ 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト、フィリップ・グラス
オルガ・エシナ、イリーナ・ツィンバル、リュドミラ・コノヴァロワ、アリーチェ・フィレンツェ、仙頭由貴、アンドレア・ネメトワ、
キリル・クルラーエフ、リヒャルト・ザボ、ウラジーミル・シショフ、アッティラ・バコ、エノ・ペシ、イゴール・ミロシュ
実はこの作品、ABTでの世界初演を観ているのでちょっと懐かしかった。ヨルマ・エロの振付はやはりキリアンの影響を感じさせながらも、かなりクラシカルな感じ。前半がモーツァルトのシンフォニー28番で、後半がフィリップ・グラス。赤い衣装が綺麗で、とてもスピーディでキレのあるテクニックが要求されて、めくるめく感じは観ている間は楽しいのだけどあまり残らない作品ではある。(検索したら、自分の感想が出てきた)
「イン・ザ・ナイト」 In The Night
振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン
ナタリー・クッシュ ‐ 木本全優
アレーナ・クロシュコワ ‐ ロマン・ラツィク
ニーナ・ポラコワ ‐ マニュエル・ルグリ
イーゴリ・ザプラヴディン(ピアノ)
イーゴリ・ザプラヴディンの演奏が叙情的でクリアで素晴らしかった。NBSの公演での生ピアノ、全部この人にすればいいのにって思うほどだった。木本全優さんは頭が小さくて手脚が長くて本当にプロポーションに恵まれている。つま先がとても綺麗だしサポートも上手いけど、情感を出せるまでにはもう少し。ロビンスの振り付けは目新しさはないけれども、音楽が何しろ素晴らしいので聴き入ってしまう。2組目のロマン・ラツィクは軍服のような衣装が似合っていて、この人らしい真面目さを感じた。パートナーのアレーナ・クロシュコワも美しくてとても良かった(M's daily lifeさんによれば、元マールイのダンサーのようですね)。しかしなんといっても白眉はルグリで、この人が登場するともう別格なのがわかる。リフトを多用した振り付けを美しく見せるパートナーリングの巧みさとロマンティックな雰囲気、上半身から醸し出されるエレガンス、音楽性。そして途中で見せた超高速シェネでは、衰えないテクニックを見せてくれた。現在はあまり踊っていないということだけど、体型もキープされており、この年齢でこれだけ踊れるのは驚異的なことである。彼を観られただけでも、観に行った甲斐があったというものだ。
「精密の不安定なスリル」 The Vertiginous Thrill of Exactitude
振付・衣裳・照明:ウィリアム・フォーサイス 音楽:フランツ・シューベルト
リュドミラ・コノヴァロワ、玉井るい、橋本清香、木本全優、デニス・チェリェヴィチコ
5人のダンサーのうち3人が日本人だというのが凄い。しかも3人ともプロポーションの良さも現代性もあって素晴らしいダンサー。中でも、やはり木本さんがすごく良くて、この作品のスピーディさにぴったりと音を合わせることができていて切れ味抜群。デニス・チェレヴィチコも良かったけど、木本さんの前では霞んでしまうほどだった。このバレエ団は、こういったクラシックのテクニックをベースにした現代作品が得意だということを改めて示してくれたレベルの高い上演であった。
「ルートヴィヒ2世‐白鳥の王」 〈世界初演〉 Ludwig II - The Swan King
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:リヒャルト・ワーグナー
ルートヴィヒ2世:マニュエル・ルグリ
エリザベート皇后:マリア・ヤコヴレワ
湖の貴婦人:ニーナ・ポラコワ
主人公二人に、狂言回し的な役割を持つ第三のキャラクターが登場するという点では、「マリー・アントワネット」に似ているし、ルートヴィヒ2世といえばノイマイヤーの「幻想~白鳥の湖のように」でも”影”という狂言回しが出てくる点では少々既視感がある。しかしこの作品もオリジナリティがないわけではなく、ほっそりと美しい肢体を肌色の総タイツに身を包み死へと誘う”湖の貴婦人”の存在感が強烈であった。まるでルートヴィヒの分身のような、エリザベート皇后のマリア・ヤコヴレワも衣装共々美しかったけど、死に取り憑かれ湖の幻に取り憑かれたロマンティックな狂気を感じさせるマニュエル・ルグリの演技力はさすがで、彼の力でこの作品には乗り切れた。「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」を使った音楽の使い方も良かった。ただ、パトリック・ド・バナってオペラ曲を使いすぎる傾向にあるのが気になる。
「ライモンダ」よりグラン・パ Grand Pas de Duex from Raymonda
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパに基づく) 音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ライモンダ:オルガ・エシナ
ジャン・ド・ブリエン:ウラジーミル・シショフ
アンリエッテ:アレーナ・クロシュコワ
パ・ド・カトル:アッティラ・バコ、グレイグ・マチューズ、ドゥミトル・タラン、アレクサンドル・トカチェンコ
クレメンスとふたりの女性:マルタ・ドラスティコワ、マリア・アラーティ‐澤井怜奈
他、ウィーン国立バレエ団
唯一の純クラシック作品。悪くはないのだけど、現代作品の上演より少しレベルが落ちる印象を受けてしまった。群舞が少々苦しいところが感じられてしまった。ほかの作品でソロを踊っていたダンサーも、コール・ドの中に配置されていたから、長いガラで少々お疲れだったのかもしれない。主役ペアのオルガ・エシナとウラジーミル・シショフは、何年か前に彼らがまだマリインスキーに所属していた頃、ルジマトフのガラで観たことがあって、あの時も「ライモンダ」だったという記憶がある。オルカ・エシナは相変わらず輝くばかりの美しさだったが、シショフは少々お太りになってしまったようで、踊りにも精彩がなかった。ヌレエフ版の上演なので仕方ないのだが、マリインスキー出身のロシアン・バレリーナだったらソロでは音を出して手を叩かないで欲しいと細かい注文を出したくなる。そういう細かい点を別にすると、エシナはポールドブラも美しく、気品のあるライモンダで思わず見とれてしまうほど素晴らしかった。アンリエッテのアレーナ・クロシュコワもとても良かった。パ・ド・カトルの男性陣は健闘していた。パ・ド・カトルとクレメンスと二人の女性のパ・ド・トロワに、元シュツットガルト・バレエのアッティラ・バコとマリア・アラーティがいたのが嬉しく、二人ともほかのダンサーよりもレベルが高かった。
*****
長時間のガラであったが、プログラム選びに芸術監督ルグリのセンスの良さが発揮されており、個人的には現代作品も大いに楽しめた。クラシックのパ・ド・ドゥやソロでお茶を濁しておしまい、ではなく、一つ一つの作品をじっくりと見せてくれたことに好感を持った。ルグリが愛情と手間をかけて育てている、ウィーン国立バレエの現在の姿を知ることができた、良いガラだった。終演時刻が遅かったにも関わらず、カーテンコールも長く続き、最後にはスタンディングオベーションとなったのも納得であった。
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コメント
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ウィーン国立歌劇場バレエ学校のエリート生徒達を追ったドキュメンタリー、
『Just Ballet』が3satで放映されました。
3sat.de/page/?source=/musik/161583/index.html
冬編
xfs.jp/mkLx3
投稿: rednal | 2012/04/30 11:31
rednalさん、こんばんは。
いつも貴重な映像をありがとうございます!
投稿: naomi | 2012/05/02 00:11
初めまして。 大人になってからバレエを始めました。ルグリの演技やテクニックが素晴らしく、公演を是非観たいと思った時には引退してしまいました。 芸術監督に就任したのでもう生で観られないと思っていたのですが、『こうもり』で踊ったとの記事を見て、諦めていた夢が叶うかもと思ってしまいました。 次にルグリが日本で演技するのがいつとかわかりますか。
投稿: raipon | 2012/05/27 00:48
raiponさん、はじめまして。
私も(子供の時にちょこっと習っていたとはいえ)実質大人からのバレエです。
ルグリの「こうもり」ウルリックは本当にダンディでおちゃめで素敵でした。次に日本で彼が踊る予定は、今年8月の世界バレエフェスティバルです。チケット、おけぴなどで入手できると思いますので、ぜひ!
投稿: naomi | 2012/05/27 01:11