NHKバレエの饗宴 2012
日本を代表するバレエ団やバレエダンサーが一堂に会する夢の饗宴という「NHKバレエの饗宴 2012」。これだけの多彩なバレエ団が集まってのガラというのは、本当に画期的なことだと思う。
ガラというと、通常はパ・ド・ドゥだけだったりするが、今回は各団体20分程度の持ち時間があって、1幕をまるごと群舞付きで見せてくれる趣向になっていた上、舞台装置もきちんと設置し、さらにはオーケストラや一流の演奏家、音楽家を集めての音楽面が素晴らしかったため、非常に満足度が高かった。大掛かりな舞台装置があるのにも関わらず、場面転換や進行がスムーズで時間通りにきちんと進められていたということにも感心した。さらに6月にはEテレ(教育テレビ)で放映してくれるというので、これも楽しみである。
2012年3月30日(金) NHKホール
http://www.nhk-p.co.jp/
[指揮]大井剛史 [管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団
【第1部】
新国立劇場バレエ団
『アラジン』から「財宝の洞窟」
[振付]デヴィッド・ビントレー [音楽]カール・デイヴィス
[舞台装置]ディック・バード [衣裳]スー・ブレイン [照明]マーク・ジョナサン
アラジン:八幡顕光
オニキスとパール:さいとう美帆、高橋有里、大和雅美、菅野英男、福田圭吾、原健太
ゴールドとシルバー:堀口純、米沢唯、小口邦明、清水裕三郎
サファイア:湯川麻美子
ルビー:長田佳世、厚地康雄
エメラルド:寺田亜沙子、細田千晶、古川和則
ダイヤモンド:川村真樹
大掛かりな舞台装置と華やかでめくるめく舞台展開は、オープニングにふさわしいもの。せっかくのテクニシャンの八幡さんが主役でありながら、見せ場が少ないのは少々残念だった。だが、新国立劇場バレエ団が国内団体の中でもさすがに頭一つ抜けた感じがある。(コンテンポラリーのNoismは別として)コールドの揃い方、ダンサーのプロポーションの美しさ、正確なテクニック、ソリストの存在感とレベル本当に高い。それだけに現状の公演数の少なさと、地方公演をほとんどしないことが残念だ。それぞれのソリストともみな良かったが、中でも圧倒的に魅せてくれたのがルビーの長田さんと厚地さん。特に大人の妖艶さとしっかりとした技術で魅力的だった長田さんにはブラボー。この二人の雰囲気作りがとても素敵で、厚地さんも辮髪姿であるにもかかわらずセクシーで、サポートも万全。ソリストの中でも最も拍手を浴びていたのがこの二人だった。
Noism1
『solo for 2』
[演出・振付]金森穣 [音楽]ヨハン・セバスティアン・バッハ
[照明デザイン]伊藤雅一(RYU)、金森穣 [椅子]須長檀
[衣装]山田志麻 [レオタード]金森愛 [演奏]渡辺玲子(ヴァイオリン)
※りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館と新国立劇場の共同制作による『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』(初演:2009年)より
井関佐和子、宮河愛一郎、藤井泉、櫛田祥光、中川賢、真下恵、青木枝美、藤澤拓也、宮原由紀夫、亀井彩加、角田レオナルド仁
小尻健太(ゲスト)
Noismは実は生で観るのは初めてなのだが、映像で観て上手いのは知っていたけど改めて舞台に接してみんな踊りの基礎体力が凄いと思った。金森さんの振付も、単なるキリアン・フォロワーにとどまらずにオリジナリティがあって面白いし、ただならぬ緊張感あった。「アラジン」のスペクタクルの後、脚が1本短くなっている椅子が配置されているだけのシンプルな舞台で、衣装にしても至って簡素。渡辺玲子さんによる素晴らしいヴァイオリン演奏のみとという中での研ぎ澄まされた舞台。ダンサー一人一人の空間の使い方が大きい。なかでも、井関さんと小尻さんのデュオは圧倒的な支配力だった。小尻さんのかっこいいことといったら。さいたまの公演のチケットを確保したので今から楽しみである。
谷桃子バレエ団
歌劇『イーゴリ公』から「ダッタン人の踊りと合唱」
[振付]望月則彦 [作曲]アレクサンドル・ボロディン [照明]足立恒
[バス(コンチャック汗)]妻屋秀和
[合唱]藤原歌劇団合唱部、二期会合唱団 [合唱指揮]長田雅人
イーゴリ公:赤城圭
隊長:齊藤拓
副隊長(騎馬隊):今井智也
副隊長(弓隊):三木雄馬
ダッタンの美女:永橋あゆみ
奴隷の姫:朝枝めぐみ
谷桃子バレエ団による「ダッタン人の踊り」は、以前にNHKの新春オペラガラで観たことがある。今回、見事なオーケストラと合唱、独唱つきで個性を出した演目選びが上手かった。跳躍に切れのある三木雄馬さん、ピルエット・ア・ラ・スゴンドが見事な今井智也さんが光っていた。あとはシンクの衣装がよく似合う、伸びやかで奔放な永橋あゆみさんが魅力的だった。ここでは何より音楽の魅力と力を再確認。NHKホールは若干音響が悪いのが惜しまれるところだ。
【第2部】
牧阿佐美バレヱ団
『ライモンダ』第3幕からグラン・パ・クラシック
[振付]マリウス・プティパ [改訂振付]テリー・ウエストモーランド
[作曲]アレクサンドル・グラズノフ [美術・衣装]ボブ・リングウッド
ライモンダ:伊藤友季子
ジャン・ド・ブリエンヌ:京當侑一籠
グラン・パ・クラシック:吉岡まな美、笠井裕子、日高有梨、坂本春香、茂田絵美子、米澤真弓、久保茉莉恵、中川郁、塚田渉、今勇也、菊地研、中島哲也、石田亮一、清瀧千晴、濱田雄冴、中家正博
ヴァリエーション:青山季可
パ・ド・カトル:細野生、上原大也、篠宮祐一、清瀧千晴
パ・ド・トロワ:吉岡まな美、茂田絵美子、久保茉莉恵
今回唯一の純クラシック演目だが、演目選びには失敗してしまったのが牧阿佐美バレエ団。パ・ド・カトルの男性陣は大変健闘しており、一人ずつトゥールザンレールするところもちゃんと5番に降りられていたし、連続アントルシャも揃っていた。また、グラン・パ・クラシックの女性ダンサーたちも美しかったのだが、踊りのスケールが小さいように思えた。パ・ド・トロワは音に合っていなかったが、ヴァリエーションの青山季可さんは素晴らしかった。問題なのが主役二人で、京當さんはとてもクラシックバレエの主役を努められるようなテクニックの持ち主ではなかった。伊藤さんは怪我からの復帰後初の舞台のようで、あまりにも細くて痛々しく、アンドゥオールも甘い上上半身が硬かった。カンパニー全体のレベルは低くないのに、主役の人選を完全に間違えたと感じた。もっとこのバレエ団らしい、ローラン・プティの作品などを上演したほうが良かったのではないかと思う。
東京バレエ団
『ザ・カブキ』から第八場「雪の別れ」第九場「討ち入り」
[振付]モーリス・ベジャール [作曲]黛敏郎
[美術・衣装]ヌーノ・コルテ・レアル [照明]高沢立生
[演奏]田中悠美子(三味線)、西川啓光(鳴り物)、藤舎理生(笛)
[合唱]藤原歌劇団合唱部、二期会合唱団
[合唱指揮]長田雅人 [副指揮]鈴木竜哉、松下京介
[演奏(録音)]豊竹呂太夫(浄瑠璃)、鶴澤清治(三味線)
由良之助:柄本弾
顔世御前:二階堂由依
ヴァリエーション1:松下裕次
ヴァリエーション2:長瀬直義
亡霊:高岸直樹
なんといっても、この演目上演史上初めての、生演奏による上演というのが偉業である。三味線、鳴り物、笛、合唱の演奏レベルが非常に高くて、音楽の持つ力に圧倒された。ベジャールの「ザ・カブキ」は私は苦手な作品で、その中でも女性ダンサーたちの衣装のセンス(光沢のあるユニタードの上にペラペラの打掛を羽織るのは品がない)には耐えられないのだが、この音楽の迫力と、討ち入りシーンから切腹までのたたみ掛けるような展開、47人の浪士たちが駆け抜ける舞台には引き込まれた。柄本弾さんは、踊りそのものは良いし雰囲気も出てきたのだが、脚に筋肉がつきすぎてせっかくの長身なのにバレエ的ではないのが惜しい。二階堂さんは170cm以上の身体の半分以上を長く美しい脚が占めており、その脚をきちんとコントロールして足先まで気持ちが行き届いていたのだが、あまりにも長細くてまるで宇宙人のようだった。ヴァリエーションの松下さん、長瀬さんは良いパフォーマンスを見せ、なかでも松下さんの高い跳躍は目を引いた。また脇では高橋竜太さんが光っていた。
吉田都&ジョセフ・ケイリー
『真夏の夜の夢』から「オベロンとタイターニアのパ・ド・ドゥ」
[振付]フレデリック・アシュトン [作曲]フェリックス・メンデルスゾーン
[編曲]ジョン・ランチベリー
タイターニア:吉田都
オベロン:ジョセフ・ケイリー(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
都さんの見事な音楽性と軽やかさ、無駄のない滑らかな上半身、アシュトン振りの完璧さに非の打ち所はなく、別格。バーミンガムロイヤルのジョセフ・ケイリーも美しく威厳を持つ容姿がオベロンにぴったりで、ピルエットが美しくテクニックがあってパートナーリングも良かった。ただあまりに上演時間が短かったことだけが残念である。ジョセフ・ケイリーには今度是非、新国立劇場バレエ団のゲストとして来日して欲しい。
フィナーレでは、上演順に全出演者が集結。NHKホールの舞台を埋め尽くしたダンサーの数は100人以上。これだけの豪華なガラを、素晴らしい音楽と舞台装置付きで観られた幸せに感謝。「バレエの饗宴2012」と題されているからには、当然「バレエの饗宴2013」も期待してしまう。
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