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« 吉田都さん講演会「夕学五十講 挑戦し続けるこころ」(その2) | トップページ | ボリショイ・バレエ来日記者会見速報 Bolshoi Ballet Japan Tour Press Conference »

2012/01/30

吉田都さん講演会「夕学五十講 挑戦し続けるこころ」(その3・完)

人との出会いとバレエの環境について

今までこのように活動することができたのは、人との出会いが大きかったと思う。いいタイミングで人と出会えている。バレエという仕事は、全ての時間とエネルギーをバレエに取られてしまうけれども、それではダメだと思う。できるだけ外の出会いを大切にしたほうがいいのではないかと思った。

古いものを大切にしながら新しいものも取り入れていることについては、イギリスは上手だと思う。日本に帰ってきたとき、バレエ界についてはその点では寂しいと思うことが多い。日本人ダンサーを取り巻くバレエの環境はなかなか難しい。踊りにプライドを持って集中できるようになるには、まだちょっと時間がかかると思う。ただ、新国立劇場ができたことはとても嬉しかった。

日本でバレエを学んでいた頃は、日本のバレエ界についてはよく知らなかった。今は、大人でバレエを始められた方がバレエ公演に足を運ぶようになり、それはとても良いことだと思う。韓国は国としてアート、スポーツに力を入れているのがすごくて、国でアスリートやアーティストを応援している。しかし日本でそれを求めるのは厳しいのが現状。

先日コンクールの審査員を務めた関係で中国国立バレエを見に行って、その環境がとても羨ましかった。日本でも同じようにアーティストが育つような環境ができると良いなと思う。今の方が情報がたくさんある。自分の頃は日本人の先輩がいればどんなによかったかと思うけど、基本的なことは変わらないのかと思う。今の若い人はすんなり馴染んで行けている気がして、見ていて羨ましいけど、実は本人たちは苦労しているので、ちょっとしたアドバイスができたら良いと思う。

国際的に活躍する資質とは?

自分がやりたいことへの情熱、芯があること、自分が何がしたいのかしたいことに向かって諦めない気持ちが大切。私は自分をアピールするのが苦手で、自分ではない自分を演じるのはクタクタになったので、本番の舞台に賭けようと思って雑念を振り払ってトレーニング、リハーサル、稽古だけに集中した。外国人でも意外と細かく見てくれているし、信念を持ってやるべきことをやることが大事だと思う。

何を求められているかという想像力がダンサーには必要。自分でどんどん動いていって、自分に何が必要なのか求めていくことが重要。先生が求めているものを拒否するのではなく、柔軟な心が必要なので、一度は受け入れてみることも必要だと思う。

本当に踊りだけで食べていくには海外に行くしかない。帰国して最初に苦労したのは、ドクターなどがイギリスではそろっていたけど日本で何かが起きた時にどうすれば良いのかわからなくて困ってしまったこと。新しいけがなどをした時にアドバイスしてくれる人を見つけるのが大変だった。バレエ専門のドクターがいなかったりした。ダンサーのケア、精神的なケア、食事、ダイエットが体にあっているのか相談できる人がイギリスでは劇場に所属していた。日本のバレエ団はダンサーだけなので、自分で探しに行かなくてはならない。イギリスでは一対一でやってくれる人がいたけれど、気持ちをサポートしてくれる先生というシステムが出来上がっていた。

日々の過ごし方

日曜日以外の毎日お稽古を1時間半行い、その時の作品のリハーサルをする。この年齢になると短時間で集中しておこない、その後ピラティスやジムに行き、マシンを使って鍛えたり、治療やマッサージを受けたりしている。朝のクラスの体調でその日ごとに行うことは変えており、体と相談をしている。

公演の当日は、その時によるけど、朝のクラスをして昼寝をして、夕方に劇場に入ってウォームアップを行う。当日舞台リハーサルが入ると違うことになる。緊張はするけれども、力が出るのはいい緊張をしているとき。集中力を高めるためには緊張しすぎてもダメなので、自分でコントロールしなければならない。終わったら元気でハイになっている。眠れずに公演を振り返って全幕のダメ出しをする。

一番好きな役

その時に踊っている役が一番好きなので、その時時にによって好きな役は変わっていく。中でも好きなのは「ロミオとジュリエット」。苦労した作品で演じがいのある役で好きだった。戸惑いがあったが、舞台上でジュリエットを生きるという経験ができた。年を重ねるごとにちがうジュリエットになっていった。「リーズの結婚」も、もう踊れないけれども、演技の部分が多くて、ほのぼのとして、お母さん役とのやり取りも楽しい。反応が演じる人によって違ってくると自分の演技も変わってきて面白い。役柄になりきっているとどうにでも返せるようになるから楽しかった。

バレエをやっていて楽しかったこと

いろいろな人と出会えた。バレエがあったからこその人生であり、バレエとの出会いが自分にとっては大きかったと思う。

今後の出演予定

3月にスターダンサーズバレエ団で「ワルギルプスの夜」というバランシンの作品を踊る。初めて踊る役であり、現在リハーサルを行なっている。ロイヤルスタイルを忘れるという踊りで新たな挑戦。3月30日の「バレエの饗宴」はまだ作品は未定。

頑張れた原動力は?

選ばれた人たちに負けるのがちょっと悔しかったので、それを克服するのに苦労したことが頑張れた原動力。彼らはひとつのポジションについても楽にできる人たちなので、負けるのが悔しかった。

日々のリラックス法

バレエの評価というのはクリアではない。競争は本当にすごく激しい。ロイヤル・バレエはいつもピリピリしているし、怪我をすると遅れを取るし、焦りがある。強くないと、鈍感でないとやっていけないし、切り替えることが大事。雑音に耳を傾けないようにするのと、バレエに関係ない友人と出かけたりして、気分転換をした。そういうことでなんとか続けられた。オンとオフの切り替え、割り切ること、吹っ切ることも大事だと感じている。

人とを育てることいついての考え方、ポリシー

今は教えるということを学んでいる最中。先ほども話に出たロシアの先生に非常に影響を受けた。学んだことをすべて伝えたいという気持ちがある。日本ではよく、盗めとか察すると言うけれど、そうではなくて細かいところまで伝えたいし、出来るだけ教えてあげたいし、時間がかかるので長い目で見てあげたいと思う。

今後チャレンジしたいこと

中国のバレエコンクールの審査に行き、世界中の先生方が集まっていて、日本のダンサーのレベルは高いけれどもバレエ環境が遅れていることを痛感した。同じレベルでほかの国の先生方と話せなかったことが寂しかった。自分が出来ることをコツコツとやっていきたい。ロイヤルみたいな環境が作れたらいい。国のサポートのないアメリカのバレエ団の方が、日本に似て良いモデルとして参考になるかもしれないと思った。踊りについては日々がチャレンジであり、先の方までは予定は建てられないので、今ある作品を大切に踊っていきたいと思う。

Q.日本に拠点を移すときのことをもう少し詳しく聞かせて欲しい

踊りを辞める前に日本で踊りたいという気持ちがあった。日本のファンの方々の前で踊りたかった。日本のファンはどんな時でも温かく迎えてくださったし、何気ない手紙の一言が次の舞台への力になった。こういう風に自分は成長したというのを日本のお客様に日本で見て欲しかった。体のケアをしながらも、できるだけ長く踊り続けたいと思う。指導については、NHKの「スーパーバレエレッスン」で、生徒たちが踊れるダンサーたちなのに、特別な何かを彼女たちから引き出すのにとても苦労したので、それができるようになりたい。


まとめ

講演会のタイトルが「挑戦し続けるこころ」であることが象徴的なのだけど、都さんは、これだけのキャリアと名声を築いた今でも、新しいことに挑戦し、例えばロシア人の先生についてロシア流の「ライモンダ」を一から学んだり、今まで踊ったことのない「ワルギルプスの夜」のような作品にも、ロイヤルのやり方を一旦捨てて取り組んだり、今でも挑戦するスピリットを忘れないでいるのが素晴らしいと感じた。また、日本のダンサーがプライドを持って良い環境で踊りを続けるようにしたいという気持ちを強く持っておられるのが伝わってきて、その都さんの願いがなんとか実現できるようになればいいと思った。指導についても長い目で細かいところまで教えてあげたい、自分の経験を伝えたいという気持ちがあるところに、人柄の温かさを感じた。


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コメント

ありがとうございました。

>国のサポートのないアメリカのバレエ団の方が、日本に似て良いモデルとして参考になるかもしれないと思った。

これについては、アメリカのバレエ事情を多少でも知っている者として、
「こんな厳しいバレエ環境の国をモデルにしなくてはならないほど、日本は劣悪な環境なのか。」と暗澹たる気持ちになります。


バレエの鑑賞者数や理解度は、日本のほうが圧倒的に上なのにそれが残念ですね。

いっこさん、こんばんは。

大変お返事が遅くなり申し訳ありません。
吉田都さんは、先日のローザンヌ国際コンクールの審査員も務められていて、その際のインタビューでも、「アメリカのカンパニーの在り方を少し見習って、国の援助がなくてもスポンサーや基金などでお金を集めて維持する方法があるのではと、現在模索しています。」とおっしゃっています。
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=32042314

私自身、素人ですのでアメリカのバレエ団は公的な援助がなくスポンサーで経営を維持しているということ位しか知らず、それ以上の内情はわからないのですが、いっこさんがおっしゃるように厳しいのですね・・・。友人の友人レベルで伝え聞いた話では、日本のトップバレエ団のソリストレベルでも生活を成り立たせるのが難しいとは聞いていますが、ますます暗澹たる気持ちになってしまいますよね。

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