1/13,14 東京バレエ団&ウラジーミル・マラーホフ「ニジンスキー・ガラ」 Vladimir Malakhov & Tokyo Ballet "Nijinsky Gala"
東京バレエ団
<ニジンスキー・ガラ>
指揮:ワレリー・オフシャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ピアノ:尾崎有飛(「ペトルーシュカ」)
「ニジンスキー・ガラ」っていうと、バレエファンの一部には、ハンブルク・バレエが毎年開催している「バレエ週間」の最終日を飾る一大ガラのことだという理解があるので、今回のフォーキン作品を中心としたプログラムに、こういう題名を付けるのはいかがなものだろうかと思ってしまいます。しかし内容自体は大変充実していて、期待以上に楽しめました。ここんところかなり落ち込んでいたのですが、バレエに少し元気を分けてもらった気分です。
あと東京バレエ団に二つだけお願いがあるのですが、ひとつは「ペトルーシュカ」はもう少し細かいキャストまで発表して欲しいです。どの役を誰が演じているのか、思わず探してしまって本題から目が離れてしまったりするし、後で誰だったのか確認もできないのが残念です。それから、去年4月の「ラ・バヤデール」の時もそうだったのですが、パンフレットが途中で売り切れてしまって、買えませんでした。余らないように部数を調整しているのだと思いますが、売り切れることのないようにお願いしたいです。
「薔薇の精」
薔薇:ディヌ・タマズラカル
少女:高村順子(13日)吉川留衣(14日)
ディヌ・タマズラカルは肉肉しかった・・・。テクニックは素晴らしく回転が軸がまっすぐで綺麗で跳躍も軽やかで足先も美しい。でもマスキュリンな薔薇の精だった。薔薇の精って、私のイメージだと両性具有的というか、もっと妖精的で薔薇の香りでむせ返りそうな妖しさがあるべきだと考えてしまう。衣装が色が薄く透けていて、胸の開きも大きかったので筋肉質なのがよく見えちゃって男らしすぎた。ポールド・ブラにももう少ししなやかさが欲しいところ。踊り手としては容姿も良いし非常に優れているので、ほかの役でもっと観たい。少女は13日の高村さんの方がロリータな感じで愛らしかった。今回初役だという吉川さんは、その初々しさが役によく合っていた。
「牧神の午後」
牧神:後藤晴雄(13日)ウラジーミル・マラーホフ(14日)
ニンフ:井脇幸江(13日)上野水香(14日)
マラーホフの牧神は、動物的ではなく神に近く、演技は抑え目ゆえにミステリアスで魅惑的だった。一つ一つの動きやポーズが、ギリシャ神話から抜け出たかのような神秘性があり、そして過剰ではないセクシーさがあった。凛としていて様式美的な13日のニンフの井脇さんと踊って欲しかった。水香さんは、笑みを浮かべすぎた表情が全然ニンフではなくてギャルっぽく、役を全然理解してなかったようだった。後藤さんは振り付けをただこなしているだけで、見所なし。
「レ・シルフィード」
プレリュード:吉岡美佳(13日)小出領子(14日)
詩人:ウラジーミル・マラーホフ(13日)木村和夫(14日)
ワルツ:佐伯知香(13日)高木綾(14日)
マズルカ:奈良春夏(13日)田中結子(14日)
コリフェ:矢島まい-川島麻実子(13日)
乾友子-渡辺理恵(14日)
東京バレエ団の群舞は健闘。足音も小さく、よく揃えられていて風の精らしい詩情を漂わせていてショパンの音楽を見事に踊りに昇華させていた。プレリュードは14日の小出さんもなめらかで良かったけど、13日の吉岡さんの透明感に敵うものはない。ワルツは、佐伯さんがポワントの音が大きく響いてしまっていたが、14にりの高木さんが音感が良く、グランジュッテの連続も綺麗でなんとも美しい踊りを見せてくれた。マズルカの田中さんが表情が怖く、伸ばした腕先もミルタのようで違和感を感じた。
木村さんの詩人は、びっくりするほどよく踊れていてラインが正確で美しく、マラーホフのようなロマンティックさには欠けるものの、踊りとしての完成度の高さに目を見晴らされた。マラーホフの詩人は雰囲気がリリカルで、詩人そのものって感じで麗しかった。全盛期と比較すると少々衰えは感じられるものの、相変わらずの柔らかい消音ジャンプは見事で、歌うようだった。少しだけ太ったかもしれないけれども、まだまだ彼が踊る古典も観られたらいいと感じた。
「ペトルーシュカ」
ペトルーシュカ:ウラジーミル・マラーホフ
バレリーナ:小出領子(13日)佐伯知香(14日)
ムーア人:森川茉央(13日)後藤晴雄(14日)
シャルラタン:柄本弾
フォーキン版のペトルーシュカは東京バレエ団の個性にとても合っていて良い。祭りの喧騒、モブシーンの賑やかで猥雑な雰囲気、サンクトペテルブルクの冷たい空気感がよく出ていた。13日の悪魔役の小笠原さんがキレのある跳躍、しなやかさ、超高速シェネと鮮烈で凄かった。13日の女芸人の西村さんがとってもキュートで、伸びやかで優しげな乳母の高木さんも素敵。コサック軍団、特にリーダー格の二人、13日は宮本さんと松下さん、14日は長瀬さんと梅澤さんも溌剌と踊っていて、生き生きとした空気を伝えていた。バレリーナの二人はとても巧くて、特に小出さんは、バレリーナの愛らしさの裏にある中身のなさ、人形振りを伝えるのが巧みだった。
マラーホフのペトルーシュカは、メイクは元の顔立ちを比較的残していて、ちょっと可愛らしい感じなのが、さらに可哀想さを増していた。無表情の中でも、とても淋しく哀しげで、藁の人形が人間の感情を持ってしまった悲しみがじわじわと伝わって来た。本当の藁の人形にたまたま心が宿ってしまったかのようなブラブラぶり。亡霊となったペトルーシュカは、死んでやっと安らぎが得られたのかな、と思うと心が締め付けられるようであった。表現者としてのマラーホフにはますます磨きが掛かり、これから先、どうやってその表現力を表して行ってくれるのか、楽しみであった。
あと、難曲「ペトルーシュカ」のピアノの演奏(尾崎有飛さん)がとてもクリアで良かったことを付け加えたい。
« 韓国ユニバーサル・バレエのファンイベント開催 | トップページ | SWAN MAGAZINE Vol.26 2012 冬号 »
「バレエ公演感想」カテゴリの記事
- KARAS APPARATUS 勅使川原三郎x佐東利穂子「幻想交響曲」(2019.07.19)
- 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』(2018.01.21)
- 勅使川原三郎 KARAS「イリュミナシオン-ランボーの瞬き- 」(2017.12.09)
コメント
« 韓国ユニバーサル・バレエのファンイベント開催 | トップページ | SWAN MAGAZINE Vol.26 2012 冬号 »
こんにちは
そうですよね。ぺトルーシュカ、あそこまで大掛かりだと思わなかったので
楽しめました。
音も含め、踊りも13日の方が12日よりも良かったので、最終日はかなり安定していたのではないでしょうか?
薔薇の精など、あのために来日というのはすごくもったいない気がします。
しかし、初日こそ、休憩が多いなあ、と思っていたのですが
、リラックスできて、余韻の残る、粋な舞台だったと思います。この後、ボリショイのスパルタクスですから、音の大きさで体調が悪くならないか心配なので。。。
帰り、楽屋口かなり雰囲気があったので
なにかマラーホフのファンサービスがあったのかな?と思います。
投稿: zuikou | 2012/01/15 14:24
筆者様、横槍ですみません!!
NBS&東京バレエ団にもう一つお願い。
ワレリー・オブジャニコフじゃなくて、オフシャニコフだって!!どこをどうひっくり返ったら、オフシャニコフがオブジャニコフになるのか分からないです。
昔からリチャード・クラガンとか、デニス・ガニオとか、ガイジンサンのお名前むっちゃくちゃ誤りの目立つ東京バレエ団&NBSコンビですけど、困るんですよね~。
(中にいる人間の教養ないの丸出しです!!そりゃ、カタカナにしにくい名前はあるさ。スウェーデン語とかデンマーク語とか、オランダ語とか中国語とかの名前はカタカナにしにくいですよ。でもオフシャニコフの苗字なんか本人しょっちゅう来日してるんだから本人に聞けば分かるじゃん!!それとも東京バレエ団のスタッフは英語もロシア語も分からないってわけぇ~??ぷぷぷ。アホのかたまり=東京バレエ団)
投稿: KE | 2012/01/15 15:37
naomiさま
遅くなりましたが今年も宜しくお願いします。
私も今回のニジンスキーガラとても楽しみにしてたのですが、ちょいとがっかりでした。
配役にも問題がありましたね。
それで体調がすぐれなかったとのこと、無理をされずマイペースで過ごしてくださいね。
神経もマイペースが良いですが、そうもいきませんよね?
最近は会社のパソコンのネット使用も厳しく管理され、ブログを開けようとしたら「業務に関係ない・・・」
なんてメッセージが出てしまい、ご挨拶が遅れました。今年も素晴らしい舞台を期待しましょう!
投稿: 隣のハミー | 2012/01/16 21:56
zuikouさん、こんばんは。
ペトルーシュカは2006年と2007年の東京バレエ団のディアギレフ・プロで観ていたのですが、それ以来なので実はけっこう久しぶりだったのですね・・・。あの時も良かったですけど、今回もなかなかの上演でした。このように全幕ではなく1幕ものや短めの作品を組み合わせた上演だと、観る側もあまり疲れなくて良いですよね。ディヌくんも、薔薇の精一演目だけのために来てくれてありがたい限りです。私は次はエトワールですが、ボリショイのスパルタクスを2日連続で観るので、これは相当体力を使いそうです!
投稿: naomi | 2012/01/16 23:08
KEさん、こんばんは。
すみません、東京バレエ団のキャスト表からそのままコピペをしてしまったもので、ロシア語の読み方も当然分からず・・・そういう風に読むのですね。教えてくださってありがとうございます。
確かにクレイガンとか、ドゥニ・ガニオとか、実態と離れた読み方にしているのは困りますよね・・・。興行者だったら本人に聞くのが一番早いと思いますが。マライン・ラドマーカーとかはいつのまにかNBSでも修正していましたけれども。
投稿: naomi | 2012/01/16 23:19
隣のハミーさん、こんにちは。
今年もよろしくお願いいたします!
ニジンスキー・ガラは、主に牧神の午後のキャストに問題があったような・・・マラーホフ&井脇さんで観たかったですよね。2007年当時から随分と東京バレエ団の中堅メンバーも変化したような気がします。プリンシパル陣は変わっていませんけど。
今は世知辛い世の中で、私も会社からは業務に関係のないサイトは観ることができなくなっています・・・。今年は良い年になりますように!
投稿: naomi | 2012/01/16 23:55
すみません!
貴女様が悪いと思ってないですよ!!
書き方が悪かったです。
貴女様を批判するつもりは毛頭ありません。
批判したかったのは某呼び屋さんです。
ごめんなさい。
キャスト表にそう書かれたあったら、観衆は個人的に当人と知り合いでないかぎりそれを信じるしかないですもん。間違って書いて当たり前ですし、誰も責められないと考えます。
・・・しかし、シュツットガルトの以前のプリマ、Yseult Lendvaiは未だにどれが正しいのか分かりません。イズール・レンドヴァイ、イゾルテ・ランドヴェと、どちらも、苗字と名前で、ドイツ語風の読み方とフランス語風の読み方ごっちゃまぜで、正しいと思えないのです。自分の知識の範囲内ではイズールとランドヴェはフランス語の規則っぽい読み方、イゾルテとレンドヴァイはドイツ語風と考えられます。シュツットガルトのソリストさんのオランダ語のお名前もカタカナにしにくいものがありますが・・・。
投稿: KE | 2012/01/17 01:14
KEさん、こんにちは。
私もそのように理解しているので大丈夫です(^^)
呼び屋さんなら、広報やダンサー、アーティスト本人とも接触があるので正しい呼び名を理解してしかるべきでしょうね。
Yseult Lendvaiは、私はイズール・レンドヴァイと読んでいましたが、実際のところ正解はどうなのでしょうか?今はBallett Augsburgのミストレスを務められているようですが。マリア・アイシュヴァルトについても、アイヒヴァルトが正しいのかどうか、私には実際にはわかりません。(カザフスタン出身ですが、ロシア人とドイツ人のハーフだそうですから・・・)
投稿: naomi | 2012/01/17 01:51
naomi さん
こんばんは。お話したことで、多少お元気になったことがわかり、良かったです。といっても、これから公演ラッシュですから、大変ですよね。
充実した公演と言っていただけたのがとても嬉しかったです。見に行ってよかったと思われるのが
一番良いことだと思います。あのプログラムだと地味だよな、と心配していたのですが、蓋を
開けたら東京バレエ団のバレエブランも良かったし、ペトルーシュカは、東京バレエ団のパフォーマンスが
良くてマラーホフは助けてもらいましたね。楽しい公演になって本当に何よりでした。
投稿: ショコラ | 2012/01/17 20:46
ショコラさん、こんばんは。
私も、実は公演前は、ちょっと地味だしマラーホフとタマズラカルだけだしどうなんだろう・・・って思っていたのですが、いざ観てみたらとても楽しめたので良かったです。東京バレエ団のフォーキン版ペトルーシュカは良いですよね!それにやはりマラーホフが入ったことで締まったと思います。
投稿: naomi | 2012/01/18 02:23